Side:アインス


ありったけの麻酔弾を撃ち込んだ事で、竜は沈黙してヴァレリア湖に墜落した訳だが……改めて間近で見るとその巨躯に圧倒されてしまうな?よもや此処まで大きいとは思っていなかったよ。



「ふわぁ~、大きいですねぇ?しかもスッゴイハンサム!!早く目を覚まさないかなぁ?」

「ば、ばっかやろう!起きられたらヤバいつーの!!」



其れはまぁ、確かにその通りだなナイアル。
今は眠っているが、コイツが目を覚まして再び暴れ始めたら、一体どれだけの被害がリベールに齎されるのかは正直見当が付かないからね……某怪獣映画に出て来る超兵器でもあれば竜を相手に出来るかも知れないが、此の世界にそんなモノは無いからな。
エステルは、竜が微動だにしない事に『本当に眠っているの?』と尋ねたが、ユリアが言うには『心音は確認できている。尤も、あれだけの麻酔を撃ち込まれては、そう簡単に目覚める事もないだろう。』との事だった……あの麻酔の量、並の生き物だったら致死量だからな。



「取り敢えず、竜はレイストン要塞まで曳航させる。後の事はカシウスや陛下と相談して決めるとしよう。」

「まぁ、其れが妥当か……此れだけの相手を、現場の独断で如何するか決めるのは難しいだろうし、目が覚めた際に再び暴れ出さないように処置をしなくてはならないだろうからね。」

「そう言えば、あのレーヴェって男は如何しちゃったのかしら!?」

「む……確かに剣帝の姿が見えんな?」

てっきり一緒に居るモノだと思っていたのだが……ユリアによると、『哨戒艇の話では人の姿は確認できなかった。最初から竜には乗っていなかった可能性が高い』と言う話だったが、妙だな?
剣帝は竜を使った実験の最中だった筈なのに竜と一緒ではないとは……実験に必要なゴスペルは奴が持っている筈だ。まさか実験を放棄したと言う訳でもないだろうしな?

「って、如何したドロシー?何やら不満そうだが……」

「もったいないなー。せっかくのハンサムなお顔がー……この子、おでこに変なモノがくっ付いちゃってるような。」

「おでこに変なモノ?」

「どれどれ?……確かに、な~んか見えるぞ?」

竜の額にホクロのように黒いモノが……ってアレは、まさかゴスペル!!竜の身体に直接ゴスペルを埋め込んだと言うのか!!……だから、剣帝は竜と一緒では無かったと言う事か!
竜に直接ゴスペルを埋め込んでしまえば、自分が近くでゴスペルを使う必要はマッタク無いのだからな……!!










夜天宿した太陽の娘 軌跡114
『竜との攻防!そして舞台は霧の中に……!』









ゴスペル特有の『黒い光』が溢れ出すと同時に、竜が目を覚ましたか!……今更だが、黒はあらゆる光を吸収する色だから、物理的に『黒い光』と言うモノは存在しない筈なんだが、何故ゴスペルからは『黒い光』が?そもそもにしてこれは本当に光であるのかすら謎だがな。

そんな事よりも、目を覚ました竜は湖面から飛び立ち、私達もアルセイユで即時追跡開始!
竜の飛行速度は相当なモノだが、ユリアによれば『新型エンジンを搭載したアルセイユならば、スピードは竜を上回る筈。』と言う事で、一気に最大船速まで加速!
その急加速によって、身体に掛かるGも大きくなるが、今はそんなモノを気にしている場合ではない。
アルセイユは徐々に竜との距離を詰め、あと僅かで追い付ける!!追い付いたら、私のチェーンバインドとシュテルのルベライトで拘束して――



――バフ!



と思っていたら、竜が突如高度を下げて雲の中に逃げ込んだ!
アルセイユもすぐさま高度を下げて雲の中に突入したのだが……うん、モノの見事に視界は真っ白。吹雪でもないのにホワイトアウト、と言った感じだな此れは。



《全く視界が利かないわね此れ……雲の中に逃げ込むなんて、頭良いのね竜って?》

《竜は数ある伝説の生き物の中でも、特に知能が高いと言われているんだ……人語を解し、操る者まで居るとされているからね。まぁ、半ば暴走していると思われる今の状態では、頭で考えたと言うよりも、追跡を振り切る手段として本能的に選んだのだろうけどな。》

《本能的に逃げる方法を選んだって事は、アタシ達は竜にとって脅威だったって事?》

《アレだけの麻酔を撃ち込まれて強制的に眠らされたんだ、脅威と判断するには充分だろうさ――尤も、一時的に覚醒したとは言え麻酔の効果はマダマダ残っているだろうから、何処かで眠っているかも知れないがな。
 ……眠っている間に、悪夢を見せてじわじわと体力を削ってやるべきだったかも知れん。》

《それって、竜にも効果あるの?って言うか、其れは体力よりも精神力が削られるんじゃない?》

《まぁ、確かにな。》

其れを踏まえると、ポケモンの『あくむ』は、『ねむり』状態の相手の技全てのPP値を削る技でも良かったかも知れん……いや、其れだと流石に強過ぎるかうん。
それにしても、本当に真っ白だな?積乱雲に突入して、暴風と電気の地獄を進むよりは遥かにマシだが。



「此れだけ降下したと言うのに、まだ雲は切れないのか?」

「……若しかしたら、此処はもう雲の中じゃないんじゃない?」

「ひょっとして、雲じゃなくて、霧!?」

「そ、そうか!此処は……霧降り渓谷か!!」



だが、此処は雲の中ではなく霧の中でしたとさ。
雲の中ならばまだ探索する事も出来ただろうが、視界が効かない位の深い霧の谷間を飛行船で捜索すると言うのは自殺行為だ……私が本気でエアリアルを使えば、一時的に渓谷の霧を吹き飛ばす事も出来るだろうが、年中深い霧に覆われている渓谷の霧を晴らしてしまったら生態系に影響を与えかねないからこの方法は使えないな。



「デーモンの召喚を呼び出して、無差別破壊しますか?」

「魔霧雨じゃないから。」

「そうですか。電気伝導率がアップし、デーモンの攻撃力が上昇するかと思ったのですが残念です。」



要らんところで真顔でボケるなシュテルは。
其れは兎も角、モルガンも此れ以上の探索は不可能と考え、飛行艦隊による竜捕獲作戦は終了となった――眠らせる所までは巧く行ってただけに、この結果は残念だが、目標を見失った以上は仕方ないか。
流石は竜、一筋縄で行く相手ではないな。



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その後はレイストン要塞に戻り、今後どうするかの会議が行われ、先ずは『竜が逃げ込んだ先は、霧降り渓谷の北西部であり、渓谷内でも最も霧が深い場所とされる難所で、飛行船での捜索は事実上不可能なので、此処から先の捜索には地上部隊を派遣するしかない』との報告が上がり、其処から部隊の再編制の話になったのだが、其れ等が全て完了するのは明後日か……そんな悠長な事をしている暇はないぞモルガンよ。



「む?」

「アインスの言う通りよ将軍さん!そんな悠長な事をしてたら、また竜に逃げられちゃうわ!時間が経てば経つほど、麻酔の効果も切れちゃうし!」

「其れに、大部隊を差し向けて刺激するより、少人数で竜の隙を突いた方が良いと思うけど?」

「つまり……この先は、お主等遊撃士の出番だと、そう言う事か?」

「う、うん!難所の探索は遊撃士の十八番だもの!きっとお役に立って見せるわ!」

「私もありったけのサーチャーを飛ばして探索に当たりましょう……尤も、あの霧深い渓谷の中では、サーチャーを飛ばしても探索は困難であるかも知れませんが。……可成り難易度の高いミッションになりそうですね。」



此処からは私達遊撃士の出番だが、視界が殆ど利かない霧深い渓谷での捜索と言うのは、サーチャーを飛ばしても困難極まりないだろう。だが、軍の部隊の再編成を待つよりかは早く動ける。問題は、如何すればより早く竜を見付ける事が出来るかと言う事なのだが……



「ソイツは任せとけ。」

「アガット!?如何して此処に……って、もう動いても大丈夫なの!?」

「大丈夫、だから此処に居るのだろうな……半殺しにされたのに等しい状態だったにも拘らず、たった一晩で回復するとは呆れた頑丈さ……いや、呆れた回復力と言うべきか?」

「回復力がサイヤ人並みですね。怒りが限界を突破したら髪が金色になるのでしょうか?既に髪型は、若干逆立っている様ですが。」

「シュテル、何の事かさっぱり分からねぇがそんな事にゃならねぇからな?
 それより、ルグラン爺さんから大まかな事は聞いて来た。竜は霧降り渓谷の北西部に消えたそうだな?
 渓谷の奥にウェムラーって奴が住んでる。ソイツに頼めば、竜が隠れた場所に渡れる筈だ。」

「ば、馬鹿な!あんな所に住んでる人間なんて……」

「居るんだよ。遊撃士の情報収集能力舐めんな。」



そう、遊撃士は其の仕事上情報収集能力の高さも求められる上に、遊撃士協会と言う組織は存在するが、遊撃士の仕事は基本的にワンマンの場合が多いから、軍では掴む事が出来ないような情報を個人で得る事も少なくないからな。
何にしても、あの霧深い渓谷の案内人が居ると言うのは嬉しい事だ……此れならば、軍が準備を整えている間に、私達が竜の居場所を突き止める事も出来るからな。



「し、しかし……」

「竜の捕獲作戦は失敗に終わったが、逆に言えば捕獲こそ出来なかったが、霧降り渓谷まで追い詰める事は出来たとも言える……そして竜はゴスペルの力で一時的に目を覚ましたとは言え、恐らくまだ麻酔の効果は残っているから、渓谷の何処かで眠っている筈だ。
 この好機を逃す手は無いだろう?何より、私達は軍の健闘を無駄にはしたくない。」

「そう言う事!だからモルガン将軍!!」

「……兎も角、一刻も早く地上部隊の編成を終わらせろ。
 念の為、飛行部隊は渓谷周辺に展開させておく。竜が渓谷から逃げ出した時に、即座に対応出来るようにな。
 もう二度とリベールの民を傷付けさせるような事はさせぬ……だから、お主達もやってみるがいい!失敗を恐れずに、出来る限りの事をな!!」

「はい!!」

「言われるまでもねぇ!!」



モルガン……何と言うか本当に別人のようだが、今のモルガンならば将軍と言う地位に居ても良いのではないかと思ってしまうな?……以前のモルガンは、ドルンやダルモアのように《結社》の誰かから何らかの暗示を掛けられていたと言われても信じてしまいそうだよ。
その後、連絡役にはジークを使う事をユリアと確認してから霧降り渓谷へと向かい、アガットの案内でウェムラーと会って、竜が居るであろう岩山まで案内して貰った。
ウェムラー曰く、『霧降り渓谷で、巨大な生物が隠れられる場所は此処しかないだろう』との事だが、ウェムラーを見た時のシュテルが少し残念そうだったのだが、お前若しかして『ウェムラー』の名前の語感から、キックポケモンが出て来ると思ったんじゃないだろうな?



「首のない身体に、ばねの様な手足の存在が出て来るかと期待したのですが……」

「其れは『ウェムラー』ではなく『サワムラー』だ。」

「彼の力を最大限に発揮出来る、格闘タイプのキック技が少ないのが少し悲しいです。」

「アインスとシュテルは、何の話をしてやがんだ?」

「何でもない、気にしないでくれアガット。」

「それじゃあジーク、アルセイユへの連絡をお願いできるかな?」

『ピューイ!』



私達が目的の場所まで着いた事をジークにアルセイユに伝えて貰って……後は軍の地上部隊が到着するまで如何するかだが、到着するまで待っていると言う事はないよな?



「ったりめーだ。俺らは竜のもとに進むぞ。」

「けど、アインスとシュテルも居るとは言え、アタシ達だけで太刀打ち出来るかしら?竜の額には《ゴスペル》も付いてるのよ?」

「だったら、ソイツはコイツでぶっ壊してやりゃいい。」



ゴスペルを破壊するだと?
アレはガソリンエンジンを用いた金属切断用のカッターでも傷一つ付かなった筈だが、そんなモノを破壊する事が出来るのか?二重の極みでも使う心算か?



「今までは傷一つ付ける事が出来なかったんだけど、でも、お爺ちゃんが新たに発明した、此の特製振動ユニットなら!」

「特製ユニット……?」

「ラッセル博士の新発明なの?」

「はい!
 この振動ユニットは、お爺ちゃんが開発したアガットさん専用、超ウルトラDX重剣に組み込めるオプションの一つで、此れがあれば《ゴスペル》のフレーム素材のみに影響を及ぼす波長の短い振動を剣のブレード部分に与える事が出来ます!
 高振動を帯びた刀身を、巧くフレームに食い込ませさえすれば、理論上は《ゴスペル》を破壊する事が可能なんです!!」

「ティータ、めっちゃ生き生きしてる……そして、何を言ってるのかさっぱり分からないわ。」

「まぁ、己の得意分野だから仕方あるまい。」

詰まるところ、ゴスペルのフレームが持っている絶対振動数と合致する振動をアガットの重剣は出せると言う事か……絶対振動数さえ合致してしまえばダイヤモンドですら粉砕する事は可能だから、確かに理論上はゴスペルを破壊する事は可能な訳か。
だが、確かにゴスペルのせいで竜が暴れた可能性は充分にあるからな、ゴスペルを無力化出来れば竜の暴走を止められると言う訳か。



「大丈夫だ、《ゴスペル》は俺が必ず破壊して見せる!
 上空には軍の艦隊も控えてる!今度こそ……絶対に巧く行くさ!」

「アガット……そうよね!って言うか、今度こそ絶対に巧く行かさないとだわ!!それじゃあ皆、気合入れて行くわよ!!」

「「「「「おーーーー!!!」」」」」

「おーーー。」



シュテル、こう言う時位、少しは感情を表に出してくれ頼むから。
まぁ、其れは其れとして気合は充分だから、竜との決着を付けに行こうか!ボースでは私達の判定負け、先程の戦いは私達の優勢勝ちと言えなくもないから、一勝一敗の第三戦だ!
そして、此の戦いで必ずお前を無力化してやる……待っていろ、竜よ!!











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