Side:アインス


ラヴェンヌ村からボースに戻って来たのだが、改めて見ると竜による被害は甚大だな?街の象徴とも言えるボースマーケットは半壊し、私がタングステンカーバイトの盾で防いだとは言え、街路樹の数本は燃えてしまっており、竜の羽ばたきで起きた風圧で屋根が飛ばされた家も少なくないか……巨竜の前では人の力も文明も矮小なモノだと突き付けられた気分だ。



「『巨竜の羽ばたき』でフィールド上の魔法と罠を一掃出来ると言う効果は、あながち間違いでもないと言う事でしょうか?」

「……まぁ、間違いではないだろうな。」

其れは兎も角、今回の一件で王国全土で竜への不安が広がっているみたいだ……此れ以上の被害が出る前に、何とかしたい所だが、其れは軍と協力出来るかどうかだろうな。
ルグラン爺さんが言うには、国民の不安を和らげる意味で、昨夜アリシア女王が『近々、王国軍が大規模な竜捕獲作戦を決行する』との声明を出したらしい……竜捕獲作戦とは、流石に協会とは規模が違うな。

「兎に角、今回の竜の襲撃も、結社の執行者によるゴスペルの実験の可能性は極めて高い訳だが……さて、現状で何をすべきか。」

「そうね……アタシ達は、再びボース地方に現れる可能性に賭けてみる……?」

「でも……今回の実験はボース地方だけで終わるモノじゃない気がするの。」

「確かに、竜の機動力を持ってすれば、リベールの何処にでも飛んで行けるだろうしね。」

「再びボース地方に現れたとして、私のルベライトでも拘束出来るのはホンの僅かでしょう……脅威の存在があると分かっているのに、何も出来ないと言うのは何とも歯痒いモノですね。」

「竜の居場所さえ分かれば対策も取れるんじゃが……其れまでは各支部で警戒するしかないかのう?
 マッタク、モルガン将軍にも困ったもんじゃ……如何して其処まで遊撃士を目の敵にするんじゃか……」



其れは、十年前の戦争終結後にカシウスが軍を去って遊撃士になってしまったからだろうな……遊撃士になったのはカシウスの意思だが、モルガンからしたら優秀な人材を遊撃士協会に持って行かれたと感じても仕方ないか。……だからと言って、遊撃士を毛嫌いすると言うのはお門違いな気もするがな?……尤も、私とエステルの言った事を聞いたモルガンは、今回の件で『遊撃士排斥』なんて事はしないと思うけれどね。



――ジリリリリリリ!



と、此処でギルドの通信機に着信が。



「はい、はい。此方は遊撃士協会ボース支部じゃが……ふむふむ……ほうほう……なんと!……あい分かった!!」



通信に出たルグラン爺さんは、何やら驚いた様子だったが、此れは若しかすると若しかしたのかも知れないな?










夜天宿した太陽の娘 軌跡113
『遊撃士と軍の共闘~竜捕獲作戦~!!』









ルグラン爺さんから、『発着場に行くんじゃ』と言われたので、発着場に行ってみると、其処には王国軍の武装警備艇が!……まさか、お前が私達を竜の捕獲作戦に参加させてくれるとは、モルガン?若しかしてとは思ったが、本当にこうなるとは思っていなかったよ。



「ありがとうモルガン将軍!アタシ達も、この軍の船に乗せてくれるのね?」

「馬鹿モン、勘違いするでない!
 言ったであろう?軍人以外の人間を軍用艦に乗せる訳には行かぬ、と。……だから、お主達には……」



軍人以外の人間を軍用艦に乗せる事は出来ないか……ならば、私達は如何しろと言う話なのだが、なるほどこう来たか。
私達の頭上に現れたのは、王室親衛隊の保有飛行船にして、現行の飛行船では最高性能のエンジンを搭載したアルセイユだった――軍用艦に乗せる事は出来ないが、女王陛下直属の王室親衛隊は軍ではないから、王室親衛隊が有する飛行船は軍用艦ではないと言う事か……中々の力技と言った感じだが、確かに此れならば軍規の穴を抜ける事が出来ると言う訳だな。



「まさか、アタシ達女王様の船に乗るの……?」

「私達も乗ってるよ~~♪」

「え?……ドロシー?其れにナイアルも?」

「如何してお前達までアルセイユに乗っているんだ?」

「勿論、飛行艦隊と古代竜の対決を密着取材する為さ♡」

「えええ!?」



マジか?……いや、こうして乗っているからマジなのだろうな。
今回の作戦は可成り危険なのだが、その危険を顧みずにこうして己の仕事を全うしようとするナイアルとドロシーの事を尊敬したとて誰も文句は言うまいな?……こう言っては何だが、この二人は取材中に何らかの事件に巻き込まれて命を落としたとしても、其れはジャーナリストとして本望と、自らの死を受け入れてしまうのではないかと思うよ。



「これより、王国軍による《竜捕獲作戦》を開始する!!」

「《アルセイユ》発進!!」



さて、いよいよ作戦開始か。
恐らくは王国軍の戦力を注ぎ込んだ作戦になると思うのだが、相手は圧倒的な力を持った竜だから、決して安心出来ないと言うのがネックだが、最悪の場合は最後の切り札である、『完全人格融合』を使う事も視野に入れておいた方が良いかも知れないな。



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アルセイユのブリーフィングルームにて、モルガンから本作戦の概要が説明された。
今回の作戦は飛行部隊を中心に遂行するモノで、地上の部隊は竜の追跡を行わず襲撃に備えて警備と防衛に徹するか……此れは、竜の飛行能力から、ボース地方だけでなくリベール各地に人員を割く必要があるからとの事だが、此れは確かに理に適っているな。何処に竜が現れるか分からない以上、警備と防衛の手を厚くしておくに越した事はないからね。
飛行部隊は、アルセイユを中心に警備艇十二隻を投入して、先ずは竜の索敵を行うか。
現在は、広域レーダーを搭載した警備艇がリベール全域をくまなく哨戒していて、竜が現れたら確実に捕捉出来る……そして、竜を発見したら全警備艇を急行させ、ガトリング砲で牽制しながらヴァレリア湖に誘導し、追い立てられた竜を、麻酔弾を搭載した警備艇が迎撃。ありったけの弾を打ち込んで目標を沈黙させるか……まぁ、現状では此れが最も最良の作戦だろうな。
あの竜には、其れこそ小さき勇者の最強奥義ですら効かない可能性があるから、ならば何とか眠らせて捕獲する以外の方法はないと言っても過言ではないからな。

「だが、麻酔弾が効かないと言う可能性もある。その時は如何する心算だ?」

「その時は、捕獲から退治に切り替え、集中砲火を持って撃破する。……伝承の古代竜を駆除するのは忍びないと仰る女王陛下の意向に反する事になるが、致し方あるまい。」

「アレが暴れまくってリベールが滅茶苦茶になっちゃったら本末転倒だから仕方ないか。
 そ、そうだモルガン将軍!竜にはレーヴェって男が乗ってるかもしれないの!そいつは《結社》の執行者なんだけど……」

「うむ、ゴスペルによる導力停止現象の危険……だな?ラッセル博士によれば、現象の連鎖範囲は5アージュだと言う。
 故に、各艦には10アージュ以上竜に近付かぬよう徹底してある。ならば問題ない筈だ。」



其方の方も抜かりなしか。
とは言え、竜が見つかるまでは私達は待つしかない訳だ……モルガンも『事が動き次第アナウンスで知らせよう。其れまでは艦内でゆっくりくつろいでいると良い』と言ってくれた事だし、そうさせて貰うとしよう。……しかし、初めて会った時とはまるで別人のような対応だなモルガンは?
クーデター事件では何も出来なかった事と、カシウスが軍に復帰した事で何かが変わったのかも知れんな。

万全の対策を聞いたエステルが『将軍にとってアタシ達はお呼びでないって感じかも……』と言ったが、其れを聞いたユリアは其れをきっぱりと否定し、モルガンが軍内部の反対を振り切ってまでアルセイユを駆り出して私達を同乗させたと言う事を教えてくれた……遊撃士を毛嫌いしていた奴と同じ人物とは思えん行動だが、しかし逆に言うなら今回の事は万全の計画が有るにしても万が一が起こり得る事態であり、その万が一の為に私達遊撃士が居ると、そう言う事か。

《あの遊撃士嫌いのモルガンが、此処までの決断をしたんだ……万が一の時には、最悪の場合切り札を使う事も考えておいた方が良いかも知れん。》

《人格の完全融合ね……竜を相手にするなら、確かに其れ位の事を考えておいた方が良さそうだわ。》



その後、甲板に出てナイアルとドロシーと話をしたのだが、エステルが『どうやって潜り込んだの?』との問いへの答えは、まさかの『今回同行取材を依頼して来たのは軍の方からなんだぜ?』との事だった。



「えぇ~~~~~?うそだぁー。」

「お前も相変わらず失礼な奴だな?
 まぁ、今回の竜はインパクトが大きすぎるからな……ウチの報道を通じて国民の動揺を防ぎたい、って事らしいぜ。
 今作戦で、わざわざアルセイユを持って来たのも、竜に怯える人々に対する女王陛下のご配慮も含まれてるんだろうし、そう言った意味でも作戦に参加出来た事は、ちょいと誇らしいってな。」

「ふ、お前は本当にペンを武器に戦う奴だなナイアル?この作戦、一歩間違えば命の危険もあると言うのに、其れに怯む事無くアルセイユに乗り込むとは……ジャーナリストの鑑だよ、お前とドロシーは。」

「お、嬉しいこと言ってくれんじゃねぇのアインス?
 けどな、テメェの危険なんぞ度外視してこそ本当に良い記事ってのは書けるもんだ……今回ウチが指名されたのは、そうやって書いて来た過去の記事が評価されての事だからな。
 過去の実績があって、其れが全部今に繋がってる訳だ。」

「過去があって、今がある、か……」



実に深い言葉だな。過去をやり直す事は出来ないが、やり直せない過去があったからこそ今がある……そう考えると、ヨシュアが私達の前から居なくなってしまった『過去』は、未来にあるであろう最上の『今』を手にする為に必要であった事なのかも知れんな。
その後、ナイアルが『例の写真は……』と言った所で警報が鳴り響き、艦内アナウンスで『竜を発見した』との連絡が入ったので、全速力でブリッジに向かい、ブリッジで状況を聞くと、竜はマルガ鉱山上空を飛行中との事……ロレントに現れたのか!



「良し!このまま竜を湖に誘導する!」

「アイサー!
 作戦行動中の全艦隊に告げる!迎撃地点はレナート川河口付近に設定!!全哨戒機は、フォーメーションBで竜を川沿いに誘導!!全迎撃艇は迎撃地点へ急行せよ!!」



其処からは、電光石火で作戦が展開され、あっと言う間に迎撃地点に部隊が集結したか……此の足並みの良さは、遊撃士には無い軍の強みと言えるだろうな。代わりに、遊撃士の強みは軍にはないフットワークの軽さなのだけれどね。



「全攻撃艇、所定の配置に付きました!麻酔弾の装填も完了です!」

「全攻撃艇、砲撃用意!竜の出現と共に攻撃を開始する!!」

「ッ!来た……竜だわ!!」

「撃ていっ!!」



そして、哨戒艇に誘導された竜が現れ、攻撃艇が一斉に攻撃を開始!
一艇一艇の攻撃は、竜には豆鉄砲かも知れないが、其処は物量で押し切ると言った所だな……一発一発は豆鉄砲でも、塵も積もれば山となり、山が積もればもうお終いだからな。
そして、此の麻酔弾は恐らく、身体に撃ち込まれているのは着弾と同時に麻酔針が刺さるタイプで、頭の付近に撃ち込まれているのは着弾と同時に弾丸が割れて睡眠ガスが散布されるタイプだろう。
即効性は薄いが長く効く麻酔針と、効果持続時間は短いが即効性のあるガスの合わせ技と言うのは、中々に合理的だ……とは言え、あの巨体だから即効性のあるガスも普通よりは効きが鈍いだろうがな。

攻撃開始から約十分、攻撃艇が略全ての麻酔弾を打ち尽くしたと言う所で、遂に竜に麻酔が効いたのか、突如動きを止めてヴァレリア湖に真っ逆さまだ……此れは、作戦は成功だな!



「……ヴァレリア湖上に竜が墜落したのを確認!竜を捕獲します!!」

「竜の捕獲……ハイパーボールの貯蔵は充分でしょうか?」

「シュテル、ポケモンじゃないからな?」

「レックウザを捕獲するのに、ハイパーボールを十二個消費したのに、ノーマルのモンスターボールの消費が八個だったのが納得いきません。」

「其れはまぁ、ポケモンあるあるだ。」

ともあれ、竜は撃墜したんだ、後は捕獲し、結社によって操られているのであればその洗脳的な何かを解除してやれば良い。……略全盛期の力を取り戻した今の私ならば、其れ位は出来るだろうからね。












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