Side:アインス


ロレント地方を覆っていた霧は晴れ、昏睡状態だった人々も目を覚ましたか……今回の一件は、大きな人的被害を出さずに解決する事が出来たけれど、しかし諸手を上げて喜んでいられる状況でもないな。
事件を解決出来たとは言え、結局今回も《結社》の『執行者』は取り逃がしてしまったからな。



「確かにアインスの言う通りだけど、《結社》の勢力も大分見えて来たわよね!」

「ルーアンで相見えた我が強敵、《怪盗紳士》ブルブランだね?」

「そしてツァイスに居た《痩せ狼》ヴァルターと。」

「王都では、《殲滅天使》のレンちゃん…が、新型ゴスペルの実験をしていたんだよね?」

「加えて今回ロレントに現れた《幻惑の鈴》ルシオラ……あと、特務兵のアジトで会った《道化師》カンパネルラは、自らを『見届け役』と言っていたわ。」

「其れから未確認だが、痩せ狼が言っていたレーヴェと……」

「レンが言っていた教授……」



恐らくはその何方かがロランスなのだろうが……私もエステルも、妙に『教授』の事が気になるな?……準遊撃士としてリベール全土修業の旅をしていた時に、事ある毎に私達の前に現れていたある男の事が如何しても思い出せないのが原因だろう。
名前も顔も思い出せないが、今にして思えば彼もまた《結社》の一員だったと言う事か……そして、最後に会った時に、エステルと、エステル越しに私にまで暗示のようなモノを掛けて自身の事を思い出せないようにした、そんな所だろうな。
エステルのみならず、私の記憶まで弄ってしまうとは、矢張り《結社》は一筋縄で行く相手ではなさそうだ。
ともあれ、結社による『実験』が行われていないのは、残すところボース地方だけになった訳だ。



「そうね。今度こそ、絶対に食い止めて見せるわ。」

「だな。何度も後手に回る訳には行かないからね。」

では、行くとしようか。商業都市、ボースへ!









夜天宿した太陽の娘 軌跡110
『商業都市にて行き成り事件発生!?』









Side:オリビエ


空賊艇奪還事件の現場にはミュラーも居たのに、まんまと空賊風情に出し抜かれるとは解せないと思っていたが、ミュラーから直接話を聞いて、成程合点が行ったよ。
まさか行方知れずのヨシュア君が空賊一派と行動を共にしていたとはね。
ミュラーの話では、どうやら彼は僕の正体に気付いたようだが、ヨシュア君の正体も僕が予想した通りだったらしい……取り敢えず、エステル君とアインス君は、ヨシュア君の現状を知っているのか否か。
まぁ、何方であっても僕は僕のすべき事をするだけさ……それにしても、僕があんな事をする事になろうとは……出来ればその時は来ないに越した事は無いのだけれど、彼が言うのであればきっと訪れる未来なのだろうね。
ヤレヤレ、マッタク持って彼はドレだけ先を見越しているのか見当も付かないよ……本当に、帝国がリベールに喧嘩を吹っかけたのは、帝国始まって以来の愚策だったとしか言いようがないかも知れないな。

さてと……あんまり姿を見せて居ないと怪しまれるから、そろそろエステル君達のところに戻るとするか。








――――――








Side:アインス


無事にボースに到着。
ティータが、ボースマーケットの大きさに驚いていたが、其れがマーケットだと教えてやると更に驚いていた……如何やらティータはボースに来るのは初めてらしい。
こんな時でなければ、先ずはボースマーケットに行く所なのだが、今は先ずはギルドに行かないとだな。



「うん、そうだよね。」

「では、用事が済んだら是非一度お立ち寄りくださいね?ボースマーケットは、此処商業都市ボースが誇る、リベール最大の屋内市場なのですから。」

「あ、はい!えっと、貴女は……」

「申し遅れましたわ。私は此のボースで市長を務めております、メイベルと申します。」

「市長さん!?」



そんな私達の前に現れたのはメイベル。ティータは驚いていたが、こんなに若い市長と言うのは他の都市ではあまりない事だから驚くのも止む無しと言えるだろう。
如何やら今回の一件は、メイベルにも伝わっているらしく、『ボース市は可能な限りの協力をさせてもらう』と言ってくれた……のは良いが、其れを口実にして公務に戻り、教会での礼拝を回避すると言うのは、メイドのリラに色々論破されて失敗に終わってしまったな。



《メイベル市長の気持ち、ちょっと分かるわ。》

《お前も、教会での礼拝はあまり得意ではなかったからな……とは言え、私が表に出てお祈りをしたらしたでトンでもない事になってしまう訳だがね。》

《まさかのオベリスク。》

《今の私なら、ホルアクティ呼べるかも知れない。》

《いっそ呼び出して、結社滅ぼせないかしら?》

《ホルアクティの効果で勝つ事は出来ても、滅ぼす事は出来ないと思うな。》

其れは其れとして、街ぐるみで《結社》に備えてくれると言うのは正直心強いな。

その後ギルドに行って、ルグラン爺さんに今のボースの状況を聞いた所、ボース市街に限っては飛行船の事件――空賊事件以降は目立った騒ぎもなく平穏な毎日との事。
この辺は、メイベルの手腕によるところが大きいらしい。
郊外に関しても、空賊艇奪還事件で王国軍の警戒が厳しくなっているから、《結社》と言えども今のボース地方で事を起こすのは一筋縄では行かない、か。……確かに、相手が並の組織ならばそうだろうが、結社は此れまでも想像もつかないような方法で攻めて来たのだから、油断は出来まい。



「うむ、その通りじゃな。
 だが、今のところは本当に何もない……敢えて言うなら、ちと魔獣が増えて居る位か?」

「「魔獣が?」」

エステルとハモッてしまったが、魔獣が増えていると言うのは気になるな?
ボース地方は元々魔獣が多い地域ではあるが、ここ数日は凶暴な魔獣の出現報告が多数寄せられていると言うのも見過ごす事が出来ない……魔獣の凶暴化は、何か大きな事が起こる前兆であると言えるからね。



「じゃが、その件に付いても心配は無用じゃよ。一足先にツァイスから駆け付けてくれた《重剣》が、魔獣退治にあたってくれてるでな。」

「《重剣》って。」

「アガットさんが!?」

「アガット……ツァイスで一緒だった、あの赤毛の重剣士ですね?確かに彼ならば、狂暴化していようとも魔獣如きに遅れは取らないでしょう。不良系の重剣使いは強いと相場が決まっていますから。」



確かに、アガットが事に対処してくれているのであれば安心だな。ルグラン翁さんも、『真新しい武器で張り切って居るわい』と言っているしね。
そろそろ一段落して戻ってくるだろうとの事だったが、其れとは別に『もう一つ朗報じゃ』と前置きしてから、クルツとカルナ、グラッツ、アネラスの探索チームの方が、如何やらもう少しで《結社》の拠点を突き止める事が出来るらしいと言う事を教えてくれた。
此れは確かに朗報だな?拠点を、本拠地を押さえる事が出来れば、戦局は一気に変えられるだろうからね。



「うむ、そう言う事じゃよアインス。」

「そう言えば、貴方はこの姿の私を見てもあまり驚かないのだな?」

「見た目通りの爺じゃからな。此れだけ長く生きとると、並大抵の事では驚かなくなるもんじゃ……其れに、ツァイスのキリカから話は聞いておるでな。ワシが予想した以上の美人さんじゃったがの。」

「そんな事が言えるなら、貴方は未だ後三十年は余裕で生きるな。」

「因みに三十年経ったら、ルグラン爺さん何歳になるの?」

「そろそろ百になるってところかのう?取り敢えず、死ぬ前の日までこの仕事を続けたいもんじゃな……とまぁ、其れは良いとして、探索チームは最高の成果を出そうとしておる。
 彼等の索敵を成功させる為にも……」

「アタシ達がこの地での実験を、確実に止めなければならないのね。」

「《結社》がどう出るか分からんが、今出来る限りの対策は講じた心算じゃ……後はお前さん達に託す。頼んだぞ!!」

「任せてルグラン爺さん!今度こそ!!」

「あぁ……後手に回るのは、もう沢山だからな。執行者の一人でも生け捕りに……」





――ドォォォォォォォォォォォォォン!!!





って、何だ今の地鳴りは!?外からか!!
慌ててエステルと外に出てみるが、特に変わった所は見当たらないが……だが嫌な予感がする。何だ?一体何があったと言うんだ?



「アインス、エステル!!アレ!!」

「え?」

「何だ?」

シェラザードが指を指した方向に顔を向けると……



『ギャアアアアアアアア!!』



なんだかとってもデッカイ奴がいた!
魔獣にしては大き過ぎるし、そもそもにして魔獣とは生き物としての格がまるで違う……いっそ神聖なモノすら感じるが、奴が居るのはボースマーケットがある所じゃないか!?
不味いぞ、あそこは多くの人が集まる場所だ!そんな所で、アイツが暴れたら一体どれだけの犠牲者が出るか分からん!

「行くぞエステル!」

「言われなくとも!」



『任せておけ』とルグラン爺さんに言った矢先に此れとは、何とも笑い話にもならん。
全速力でボースマーケットにやって来たが……時既に遅しだったか。ボースマーケットの屋根は崩れて半壊状態に……逃げおおせた人も居る様だが、まだ中には人が居ると見た方が良いだろうね。

しかしコイツは、間近で見ると更に大きいな?其れに此の威圧感……コイツは若しかして――



「何なのよ此れ!こんな大きい魔獣、見た事がないわ!!」

「いいや、魔獣などではない!恐らくコイツは、竜じゃ!」

「竜!?」



矢張り竜だったか。……千年の間の刹那の覚醒の際に、何度か遣り合った事があったな。
ルグラン爺さんの話によれば、昔からリベールに棲息していると言われていた伝説の生き物――古代竜と言う奴らしいが、だがどうしてそんな存在が人の街を襲うんだろうか?
考えられる可能性としては――



「まさかこれも、《結社》の仕業……?」

「充分に有り得る事だろうな……では、採点をして貰おうか?其処に居るんだろう?」




「ほう、気配は消していた筈だが俺の存在に気付くとは流石だと褒めておこうアインス・ブライト。グランセル城で俺と遣り合っただけの事はある。
 そしてお前達の予想、まぁ、否定はすまい。」



竜の陰から現れたのは、矢張りお前だったか。気配は確かに消えていたが、少しばかり巧く消しすぎたな?巧く消しすぎたせいで、竜の覇気に不自然な穴が出来てしまっていたよ――尤もそれは、私やカシウスレベルでなければ気付かないだろうがね。



「その顔!アンタ……情報部のロランス少尉!」

「フフ……其れは只の偽名だ。執行者№Ⅱ《剣帝》レオンハルト。以後そう呼ぶが良い。」

「「《剣帝》レオンハルト……!」」


其れが、お前の本当の名か……!!










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