Side:アインス


王都に戻って来た時には、すっかり日が暮れていて、先ずはギルドに向かおうと思って居た所で、デュナンの執事であるフィリップから声を掛けられ、『デュナンを何処かで見掛けなかったか』と問われたのだが、生憎と見ていないが、だからと言って見過ごす事は出来ないので、フィリップも一緒にギルドに入って貰ったのだが、其処にはまさかの光景が広がっていた。
受付のエルナンを始め、クローゼやティータ、果てはジンまでもが眠らされていたのだからな……此れは、一足遅かったか。



「うそ、なんで……何がどうなってるの?」

「全員見事に眠っていますね……ふむ、状況的にお茶に睡眠薬が仕込まれていたと言った所でしょうか?……では、ブラストファイヤーを叩き込んで強制的に目覚めさせるとしましょう。」

「其れは止めろシュテル、更に深い眠りについてしまう可能性がある。」

しかし、お茶に睡眠薬を仕込むとは、一体誰がどうやって……或は、お茶の睡眠薬は偽装かもしれんな?建物の外からアーツで眠らせた上で、ギルドに侵入して、お茶に睡眠薬を仕込めば、犯人は実は内部犯だったのかと、仲間に疑いの目を向けさせる事も出来るからな。……ん?

「エステル、その紙は?」

「え?……此れは、犯人からの置手紙!!」



置手紙とは、随分と洒落た真似をしてくれるじゃないか?
しかもその手紙には『娘と公爵は預かった。返してほしくば『お茶会』に参加せよ。』と書いてあった……よくよく部屋を見渡してみれば、レンが居ないじゃないか!犯人は、デュナンとレンを連れ去ったと言う訳か。



「そんな、ふざけるんじゃないわよ!レンは只の迷子で、王都の事件とは何の関係もないのに!」

「まぁ、ちょっと落ち着こか?流石に同じ手ぇに引っ掛かるほどアホな真似は……」



ケビン、其れは言うだけ無駄だ……こうなったエステルはヨシュアでも止める事は出来んからな。
だが、猪武者ではなく、エステルは自分がすべき事をちゃんと理解して行動している――偽のヨシュアの手紙に踊らされた時とは全く違うから安心すると良い。『お茶会』参加させて貰おうじゃないか!









夜天宿した太陽の娘 軌跡105
『お茶会と、真実と、執行者と』









ギルドの皆をフィリップに頼み、移動しながら、エステルがケビンに『お茶会って何処でやると思う?』と聞くと、ケビンは此れまでの一連の出来事を考慮して『グランセル城ちゃうん?』と言い、エスエルも『分かったわ!』と返したのだが、そう言いつつも城とは逆方向に!



「……て!分かったのに、何でお城と逆方向に行くんーー!?」

「グランセル城なら、王国軍の兵士さんがしっかり守ってくれてるもの!今のお城は、悪い輩に簡単に制圧されるような場所じゃないわ!
 其れでもお城を押さえる心算なら、犯人だって絶対に切り札を用意してる筈……其れを探し出して、始まる前にぶっ飛ばす!!」

「お茶会其の物を開催せずに、人質を救い出すと言う事ですか……成程、貴女もレヴィと同様に頭で考えるよりも先に身体が動くタイプだと思って居ましたが、考えるのは苦手でも、勘は恐ろしく鋭いようですね。」



ヨシュアは理論派で、エステルは感性派だからな。
だが、『最高の理論と、最高の感性が導き出す最高の答えは合致する』と言うから、エステルの最高の勘が何かを察したのならば、其れは限りなく正解に近いと言っても過言ではあるまい。



「せやけど王都はだだっ広いで?何処をどうやって探すん……」

「ん~~~っ、こ……根性で探す!」

「いや、幾ら何でも其れは無理があるぞエステルよ。――シュテル、サーチャーを飛ばせるか?」

「其れは可能ですが、どうやらその必要はなさそうですよアインス。」

『ピューイ!!』



と、此処でジークの御登場か!
ケビンは『なんなん、あの鳥?』と驚いていたが、ジークはクローゼの友達だからな、きっとクローゼ達を襲った犯人の事を追跡してくれていたのだろうな……と言う事はつまり、ジークについて行けば犯人に大当たりと言う訳だ!



「マジで!?」

「ジークはとっても頼もしい助っ人なの!」

「自分等凄いな!!」



そしてジークの知能は、鳥類で最も知能が発達していると言われているカラスを遥かに上回っていると言わざるを得ないからな……人の言葉を完全に理解してるからなジークは。
ハヤブサは声帯が其れほど発達してないからアレだが、声帯が発達していたら、ジークは間違いなく人語でクローゼやユリアと意思の疎通が出来ていた筈だ。

で、そのジークについて行って辿り着いたのは、港の倉庫街で、其処にある一際大きな倉庫の前には、情報部の連中の姿が……そうか、此度の一件はお前達の仕業だった訳か。
何が目的は知らんが、デュナンとレンは返してもらうぞ!



「はは、侯爵閣下は此の中だ!」

「出来る物ならば取り返してみると良い!さぁ、お出ましだ!!」



此の状況でも余裕があると思って居たら、倉庫の扉が吹き飛び、中から戦車が現れた――だけでなく、その戦車の中からはカノーネがその姿を現せて。
お前、リシャールが逮捕されてから行方知れずになっていたみたいだが、よもやテロリストにその身を落としているとは思わなかったぞ?

「お前の目的は……何て言うのは聞くだけ野暮か。
 お前の目的は只一つ、グランセル城を占拠してアリシア女王を拘束し……そして、リベールをリシャールのモノにする。デュナンは、傀儡の王として即位させる、大体そんな所か?」

「ふふ、中々勘が良いわね?」

「そんな、そんな事の為に不戦条約を妨害したり、関係ない子を攫ったり、ヨシュアの名を騙ったりしたって言うの……ふっざけんじゃないわよ!!」



まぁ、此れはブチ切れて当然の案件だな。
だが、カノーネが持ち出した戦車『オルグイユ』にはアルセイユの新型エンジンが搭載されているらしく、現行の戦車とは比べ物にならない性能を備えている居るみたいだな。
此れは、絶対に止めなければなるまい――ジーク、誰でも良い!誰かに此の事を伝えてくれ!



『ピューイ!』

「私達も行くぞエステル!」

「うん!ユニゾンするわよアインス!」

「ふ、私もそう思って居た。行くぞ、ユニゾン・イン!」



――シャキィィン!



融合完了!太陽の祝福、今此処に!



「アインスちゃんが消えて、エステルちゃんが金髪になったやて!?なんなん其れ!?」

「アタシとアインスの切り札、ユニゾンよケビンさん!アインスがアタシと融合して、アタシの能力を爆発的に高めてくれるのよ。今のアタシは、結社の執行者とだって互角に戦えるわ!!」

「ホンマかい!本当に何でもありやな君達!?」



私達は少しばかり非常識な存在なのでね――まぁ、ユニゾンして戦闘力が十倍以上に跳ね上がった状態で、やっと執行者とは互角になるのを考えると、本当に執行者と言うのはトンデモナイ連中だよ。
そして、ロランスに至っては私と互角に戦った痩せ狼ですら軽く凌駕するだろうしな……ロランスに勝つには、完全融合状態を完成させねばならないだろうね。

さて、全速力でオルグイユを追っているのだが、カノーネの奴、手当たり次第に港を荒らしまわっているな……強力な力を手に入れた事で理性のタガが外れたか?
戦車が相手では、アーツもエスエルの棒術もあまり効果はないし、私やシュテルの魔法では逆に強過ぎて乗員ごと殺してしまう可能性があるから使う事が出来んしな……と思って居たら、オルグイユの動きが止まった?



「如何やら、間に合った様だな。」



オルグイユの行く手を阻んだのは、ユリア率いる王族親衛隊だった。
まさかお前達が来てくれるとは思わなかったぞ?カノーネも驚いていたからな……だが、王都で変事が起こる事を読んだシードからの応援要請があったと言うのでれば納得だ。その要請を受けたユリア達に、ジークがオルグイユの事を知らせてくれたと言う訳か。
リシャールと比べると、些か見劣りしてしまう印象を持たれがちなシードだが、彼もまたカシウスの部下だった人物だからな――リシャールと共に『剣聖を継ぐ者』だと言う訳だ。
カノーネも『あの昼行燈が』と毒づいた所を、ユリアに『そんな風に侮ったお前のミスだ』と言われていたからね……クーデター事件の時のツァイスでの一件では一緒だったと言うのに、其の能力を見抜く事が出来なかったのは、確かにカノーネのミスだな。まぁ、シードが『能ある鷹は爪を隠す』かの如く、昼行燈を演じていた可能性が無きにしも非ずだがね。

其れは兎も角、其のシードも直に此方に到着するとユリアは言っているし、王族親衛隊が用意したのはアルセイユに搭載されている大口径のグレネードキャノンだ……如何にオルグイユが高性能と言えども、戦車単機で勝てる戦力ではないだろう。
ユリアも『大人しく投降しろ』と言ったのだが、カノーネは其れを拒否してオルグイユを強引に進軍させようとし、ユリアも『やむを得ん……!』と砲撃を行おうとした所で異変が起きた。
オルグイユから黒い光が溢れ出したと思ったら、ユリア達が用意した導力灯が消え、更にはグレネードキャノンも操作不能に……此れは、ゴスペルの導力停止現象!!



「ちょっと、何でアンタがゴスペルを!……アンタまさか、《結社》と結託してる訳!?」

「其れに関してはノーコメントよ。でも、其方のオーブメントはちゃんと停止した様ね?」

「其の答えは、エステルの問いを肯定しているのと同じだと思いますが……ですが、導力が停止したのであれば、その戦車も動かなくなるのでは?」

「そう、思うかしら?」



って、導力が停止してるのに、オルグイユは動く事が出来るだと!?
カノーネが言うには、オルグイユには『周囲のオーブメントは停止させつつ、接続された機体は動かし続けるユニット』が搭載されているとの事で、だからゴスペルの影響下であっても動けると言う訳か。
ふむ、中々に反則な能力だが……ゴスペルが停止できるのは、あくまでもオーブメントを始めとした導力エネルギーであって、其れとは異なる力を停止する事は出来ないんだよな。

と言う訳で、やるぞエステル。必殺技の準備だ。



「分かったわアインス!行くわよ……」

「ちょい待ちエステルちゃん。その必殺技は、戦車ぶっ倒すのにとっときや。アレは、コイツでぶっ壊したるわ!」

「其れってダルモア市長の……でも、其れってゴスペルには無力だったはずだけど?」

「普通の使い方してたらな!正直この手のアーティファクトは管理や保管も色々と面倒なんよ……出来れば無くなってくれた方が都合が良いねん。でもって今は緊急事態やから仕方あらへんよな。」



色々と問題になりそうな事を聞いた気がするが……私は何も聞かなかった事にしておこう。勿論エステルとシュテルだって何も聞いていない。私達はこの瞬間だけちょっと難聴になってしまったみたいだ。
で、ケビンはダルモアのアーティファクトを、オルグイユのゴスペル搭載ユニットに思い切り叩きつけると、アーティファクトは砕けてしまったが、ゴスペルもショートしたのか、導力停止現象が治まった……ならば、此処が好機!エステル、改めて一発かますぞ!世界一有名な必殺技を!



「改めて行くわよ!か~め~は~め~……波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



これぞ世界一有名な必殺技『かめはめ波』!……とは言っても、その実態はエステルの両手に魔力を集中させてから放つ直射魔力砲であって、オリジナルとは掛け離れた技だがな。
だが、其れだけでなくシュテルの直射炎熱砲と、王族親衛隊のグレネードキャノンが炸裂してオルグイユは大破した……のだが、カノーネは無傷だと言うのに驚きだ。オルグイユには、特殊なカーボンが搭載されていると言うのだろうか?真相は分からんがな。
と言うか、お前は戦車の中に居たのかデュナン……と言う事は、レンも戦車の中に居るのか?



「カノーネ中尉、レンは何処?戦車の中に居るんでしょ!」

「レン?」

「アンタ達がギルドから攫った白いドレスの女の子よ!」

「ギルドから……う、ふふ……そう言う事だったの……閣下の為にあらゆる謀略を成し遂げて来たこの私が、あんな小娘如きに、まんまと利用されていたなんて――」



え?利用されていた……ちょっと待て、まさかそれは!!



「くすくす……小娘だなんて失礼ね?」



ユニゾンアウト!……お前だったのか、レン!



「行き成りユニゾンを解いて如何したのアインス?其れに、お前だったのかって如何言う事?」

「お前には信じられないかも知れないが、今回の一件の黒幕はレンだったんだよ……犯人に攫われた筈の彼女が、今こうして自由にしている事が何よりの証拠だ。
 全てはレンの掌での事だったんだ……エルベ離宮で、私達が彼女を保護する事すら、レンの筋書きだったのだろうな、今にして思えば。」

「エステルは気付いてなかったみたいだけど、此の土壇場で正解に辿り着くとは流石ねアインス。
 執行者№ⅩⅤ《殲滅天使》レン。レンが今宵のお茶会の主催者よ。」

「矢張りか……となると、エステルとケビンを偽の手紙で呼び出したのも、お前だな?」

「えぇ、レンよ。だって、『ゴスペル』の実験をするだけじゃちっとも面白くないんだもの――だから、お客様を招待して賑やかな《お茶会》を催してみたの。楽しんで頂けたかしら?」



成程、実験だけでは面白くないから、此のお茶会を企画した訳か……確かに予想外の事があったし、其れなりに刺激があったが、敢えて言おう!この程度じゃ満足出来ない、と!
お前が結社の執行者であると言うのなら、お前の両親は本物でなく、限りなく人間に近いアンドロイドと言った所か?若しかして、其れを私達の前で壊して見せる心算だったのかな?



「そうやってネタバレするのは、感心しないわよアインス?」

「其れは失礼をした……時にレン、お前其処からどうやって降りる心算だ?見た所、ハシゴやら踏み台は無い様に見えるが?」

「其れはね、こうするのよ……来て、パテル=マテル。」



レンがそう言うと、上空から巨大なロボットが降り立った……此れはまた何とも、レヴィが喜びそうなモノが出て来たな?



「迂闊でした。この様なモノが出て来るのであれば、私も紫天ロボを持って来るべきでした。不覚ですね。」



紫天ロボとやらがどんな物かは分からないが、其れがあったら間違いなくこの場で『第四次スーパーロボット大戦』が勃発していたのは間違いあるまいな……まさか、全高が10mを超す巨大ロボットをこの目で見る事になるとは思わなかったよ。



「レン……如何して、どうしてこんな事を!」

「本当はね、エステルとアインスの事を殺しちゃおうかなって思ってたの――だって教授が、ヨシュアが結社に帰ってこないのはエステルとアインスのせいだって言ってたから。」

「其れは実に迷惑な言い掛かりだな……」

と言っても、其れがレンに伝わる事はなく、レンは『今回は楽しかったから許してあげる』とだけ言うと、パテル=マテルを飛翔させて、何処かへと飛び去ってしまった。



「レン!待って……レーーーーン!!」



エステルの叫びも虚しく、レンは夜の闇に消え去ってしまったか。
だが、今回は見逃された形になったが、次にあったその時は、間違いなく殺しに来るだろうから、私達も覚悟をしておくべきだろうな……殲滅天使・レン……何となくだが、お前とは長い付き合いになる気がするな。










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