Side:アインス


タップリと寝た翌日は、先ずはホテルの朝食で英気を養ってだな……因みに本日の朝食は、パンと目玉焼きとソーセージだったのだが、エステルはパンを半分に割ると、断面にバターを塗って、其処に目玉焼きとソーセージを豪快にサンドして食した。
その豪快さには、クローゼとレンも驚いていたな……目玉焼き入りホットドッグを二口で食したと言うのは、驚くなと言うのが無理な話だとは思うけれどね。……其れを見たシュテルが、まさか同じ事をするとは思わなかったが。

そして、朝食を済ませたエステルはクローゼと共にリベール通信社に――エステルがレン、クローゼがティータの手を引いていると言う状況なのだけれど、此れもまた有りかもな。
私はこの状態では、手を繋ぐ事が出来ないので、シュテルは私の隣を歩いている訳だが。

ほどなくして、リベール通信社に到着し、一階の受付で『ナイアル・バーンズは、今居ますか?』と聞くと、『最上階の資料室に居る』と教えてくれたので、その資料室に。
ナイアルは私達が王都に来ていた事を知らなかったらしく、少し驚いていたな。



「そんで、如何したんだ?」

「実は、少しナイアルに聞きたい事があるんだけど……あれ、ドロシーは一緒じゃないの?」

「アイツなら、取材でボース地方に行ってるよ……」

「お前が一緒じゃなくて大丈夫なのかナイアル?お前が一緒じゃないと、ドロシーが色々やらかした後始末が出来んだろうに。」

「お前等、俺をアイツの保護者か何かと勘違いしてないか?」



実際そうだと思うのだが、其れを言ったら『そう言うお前等は如何なんだよ?』と言われてしまった……まぁ、確かに今の私達も子供を三人連れている状態だからなぁ?
『リベール通信社は託児所じゃねぇんだぞ?神聖な職場にガキンチョなんか連れて来るな!』とナイアルが言うと、レンが『失礼なおじさんね?言葉遣いが下品だわ。』とまさかのカウンターを返し、其処からはなんやかんやと話が進み、ティータが『レンちゃんてば、如何してエステルお姉ちゃんとアインスお姉ちゃんの事を呼び捨てにしてるの?いつの間にそんな仲良しにーっ。』と言って、レンが『あらあらあら、今頃気付いたの?ティータは仲間外れなんだから。』と返し、シュテルが『私もアインスとエステルの事は呼び捨てにしている件について。』と、若干収拾が付かなくなってしまった。
最終的にはナイアルが『ちびっこは、ちぃと向こうに行ってろ』と一喝した事で、ティータとレンは階段付近に……シュテルは『こんな姿ですが、年齢はアインスと大差ありませんので』と留まっていたがな。
確かにお前は闇の書の構成素体の一体だったのだから、年齢は私と略同じな訳だが……まあ、間違ってはいないから問題は無いか。









夜天宿した太陽の娘 軌跡104
『一通の手紙から事態は動く』









改めて、礼の脅迫状の事をナイアルに聞いてみると、同じ物がリベール通信社にも送られてきていたらしく、此れで脅迫状が送られて来た場所は九ヶ所になった訳か。
公にはされていない、条約関係施設を調べて、其処に脅迫状を送り付けると言うのは、いたずらの範疇を超えている気がするんだが、お前は如何思うナイアル?こう言った事件は、此れまでにも扱った事はあるんだろう?



「まぁな……その上で、記者としての経験から言わせて貰うとだな、俺は今回の犯人は愉快犯だと睨んでる。」

「「「愉快犯?」」」

「して、その根拠は?」

「その脅迫状にはリアリティってモンがまるでねぇんだよ。
 例えばの話として、『○月○日の何時何分にグランセルの発着場を爆破する。爆破されたくなければウン万ミラを○○迄持って来い』とか、具体的かつある程度現実的な要求を掲げて初めて意味があるってもんだ。
 ぶっちゃけ『災いが起きるぞー』だけじゃ、こっちも対応のしようがねぇし、当の俺等に危機感が伝わらなきゃ脅迫にはならねぇだろ?」

「言われてみれば、確かにその通りですね。」



だから、犯人が本気で条約を妨害したいようには思えないか……仮に結社が係わっているにしても、今ナイアルが言った事を考えると、脅迫文の内容があまりにも稚拙すぎる。
クーデター事件に、ルーアンとツァイスの一件の様に、周到に準備をして来た結社にしては、陽動だとしてもやり方が些か雑と言う他にはないか。



「ただまぁ、時期が時期だけに、警戒しておくに越した事はないだろう。
 実際問題、不戦条約を良く思わない輩も居るだろうし……その筆頭だったリシャール大佐は逮捕されたとは言え、彼の部下のカノーネ大尉や、ロランス少尉は未だ何処かに逃走中なんだしな。」



確かにな。
カノーネは兎も角、ロランスは私と互角以上に渡り合う奴だから野放しにしておくのは危険過ぎるからな――とは言え、ロランスの真の目的は別に有ったみたいだから、不戦条約の妨害をするとは思えんが。
その後はナイアルが『新生王国軍と遊撃士協会のタッグには期待してるぜ?早く良い記事書かせてくれよ』と言って来て、エステルも『任せといて!』とやる気満々だった。
そして、レンの両親の事をナイアルに聞こうとしたら……レンが居なくなっていましたとさ!
私達が話しをしている間に、外に出てしまったのか!!



「レンってば、勝手に外に出ちゃうなんて!」

「探してくるから、ティータとクローゼはギルドで待っていてくれ。ジン達が戻って来たら、此の事を伝えておいてくれ。」

「分かりました。如何かお気を付けて。」

「あぁ、分かっている。シュテル、お前は一緒に来てくれ。」

「了解です。序にサーチャー飛ばしておきましょう、そうしましょう。高町なのはのサーチャーは高性能ですから。」



と言う訳で、クローゼとティータはギルドに戻って貰い、私とエステルとシュテルでレンを捜索する事に……シュテルがサーチャーを飛ばしてくれたが、この広いグランセルの街中からレン一人を探し出すと言うのは、正に『九牛の一毛』と言う奴だな。
中々レンは見つからなかったのだが、エステルが飛行船を見た事で、エルナンが『其れらしき夫婦がクロスベル自治州で……』と言っていた事を思い出して発着場に。こう言う時の勘の良さは、私よりもずっと上だなエステルは。

そして、その予感は大当たりで、レンは発着場に居た。
エステルは、『行き成り居なくなったら駄目じゃない』と叱ったが、レンは『オジサンに帰れって言われたから……でも、レンの帰る所は此処にはないから』と返して来た……そうか、そうだったな。
其れを聞いてエステルは、いや私もレンを抱きしめてやった。



「そっか……一人にしちゃってごめんね。」

「此処にお前の帰る場所がないと言うのならば、私とエステルがお前の帰る場所になってやるさ……なんならいっその事、私達の妹になるか?カシウスも五年前にヨシュアを連れて来て息子にした訳だから、私達がレンを連れ帰って妹にしても何ら問題ない気がするからな。」

「ちょっと待ってアインス。レンを妹にって言うのはとっても魅力的な提案だけど、レンの両親は如何なるのよ!」

「勿論探すが、どうしても見つからなかった場合の最終手段としてはアリかなと。其れと、カシウスに『妹を連れて来たぞ』と言って少し驚かせたいってのもある。私がお前に宿っても碌に驚かなかったカシウスが、果たしてレンを連れ帰った程度で驚くかどうかは極めて微妙であると言わざるを得ないがな。……と言うか、カシウスは目の前で妖怪大戦争が勃発しても驚かない気がする。」

「驚かないどころか、父さんだったら妖怪大戦争を鎮圧しちゃいそうよねぇ……マジで、何者なのよあの親父……」

「そしてお前には、半分は其の血が流れてる訳で、鍛えればカシウスを超えるかも知れんぞ?サイヤ人と地球人の混血は、純血のサイヤ人よりも強いのと同じように、カシウスと純血な人間のハーフであるお前は、カシウスをも越える潜在能力がある筈だ。」

「あんですってー!?」



あくまでも可能性の話だがな。
其れから、レンに『ギルドに戻ろうか』と言ったのだが、レンは『実はエステルに預かり物があるの』と言って、一通の手紙を差し出して来た。
待合室で、『エステルに渡してほしい』って頼まれたとの事で、その手紙を渡して来たのは、『エステルと同じ位の歳で、黒髪と琥珀色の瞳のハンサムなお兄さんだった』って、其れはまさかヨシュアか!?



「!!」



エステルも手紙の主がヨシュアだと思ったらしく、即内容を確認すると、其処には『エステルへ。散々迷ったけど、如何しても君には伝えなくてはならない用事が出来てしまった。あんな別れ方をして虫の良い話だとは思うけど、アインスを含めた三人で会えないだろうか?今日の夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上で待ってる』と書いてあった。



「ヨシュア……!」

「そう言えば、何処かで見た事があると思ったら、ヨシュアだったのね?空賊事件の時に見た事があったのに、気付かないだなんてレンもマダマダかしら?」

「空賊事件の時に、遠目に見ただけでは気付かないのも仕方ないさ。」

お前が会ったのがヨシュアだとは言い切れないが、少なくとも特徴は一致しているからな……そして手紙の筆跡もヨシュアの筆跡と極めて酷似しているから、此れは本当にヨシュアからの手紙なのかも知れない。さて、如何するエステル?



「如何しようアインス、ヨシュアがアタシに会いたいって……」

「お前は如何したいんだエステル?如何するかではなく、お前が如何したいか、今大切なのは其処だろう?」

「グリューネ門って所は、此処から遠いの?もうすぐ夕方になっちゃうけど、ギルドへならレン一人でも帰れるわ。ティータ達には、レンがちゃんと伝えておいてあげるわよ♪」

「ありがとう!ありがとう、レン!!」



此処でレンがナイスアシストをしてくれた。
何故ヨシュアがレンに手紙を託したのか、其れは分からないが、この手紙はエステルにとっては何よりも嬉しいモノだっただろう――誰よりも愛しているヨシュアからのモノだったのだからな。
なので、少しでも早く目的に着くために、エステルに加速魔法を使ってグリューネ門に一直線だ!!……いやぁ、妙な気分だな、超高速で引っ張られると言うのもな。

「で、お前も一緒に来るのかシュテル?」

「レヴィが、『よしゅあは、とってもイケメンだぞーー!』と言っていたので、果たしてどれだけのレベルのイケメンなのか、実物を拝んでおこうかと。
 参考までに、如何程のイケメンか、芸能人やアニメキャラに例えて欲しいのですが。」

「不動遊星と余裕でタメ張れるレベルだ。」

「成程、其れは極上のイケメンですね。」

「アインスもシュテルも一体何の話をしてるのよ?」



いやぁ、ヨシュアがドレだけのイケメンかと言う話をしていたんだが、この近距離で会話の内容を把握出来ていないとは、完全に意識はヨシュアだけに向いている訳か。
もしも、ヨシュアが居れば其れで良いし、ヨシュアが居なくともあの手紙を寄こしたのが本当にヨシュアであるのならば、刻限に間に合わなければ何かしらのメッセージを残して行くだろう、本当にエステルに伝えなくてはならない用事が出来たのならばな。


そうして、何とか夕方にはアーネンベルクのグリューネ門側に到着だ。
指定して来た場所には、人影が……私もエステルもヨシュアかと思ったのだが――



「なんや?エステルちゃんと、アインスちゃんか……?」

「ケビンさん……?」

「ケビン・グラハム?何故此処に?」

「彼がヨシュア……ではありませんか。」



其処に居たのはケビンだった。
まさかの人物が居た訳だが、エステルが『誰か他の人に会わなかった?』と聞くと、『誰かって、エステルちゃん達も此処で待ち合わせしてんのか?』と言って来た……『も』と言う事は若しかして此れは……やられたか!

『如何言う事?』と戸惑うエステルに、ケビンは『こう言う事みたいやな!』と言ってボウガンを放ち、私も同時に魔円斬を放つと、其れは空飛ぶロボットに直撃して爆発四散。
驚くエステルを尻目に、更に同じ物が二機現われ、一機はシュテルが焼滅し、もう一機はケビンが結界の様なモノで弾いて撤退させた……しかしロボットとは、グランセル城の地下に居た奴を思い出してしまうな。尤も、今のはアレを現代版にアップデートしたモノだろうが。
しかし、ケビンが弾いた奴は王都の方向に飛んで行ったような気がしたが……如何やら、私達は完全に出し抜かれたらしい!
エステル、直ぐに王都に戻るぞ!



「で、でもアインス、ヨシュアは?ヨシュアは手紙で……」

「なんや、エステルちゃん達も手紙で呼び出されたクチか?俺もや。俺もこの手紙で此処に呼び出されたんや。」



ケビンも手紙で呼び出されたと言う訳か……此れは確定だな。
如何やら私達もケビンも、手紙で呼び出されたが、手紙の差出人本人は姿を現さずに、代わりにロボットが襲って来た……要するに、私達とケビンを王都から引き剥がして、あわよくば亡き者にしようとした奴にハメられたと言う訳だ。
よくよく考えれば、オカシイ点は有った……レンに手紙を渡したのは、あくまでもヨシュアと同じ特徴を持った人物であって、ヨシュア本人であると言う確証はないし、筆跡に関してもそう言った事に精通している人物ならば本人に限りなく近い筆跡で字を書く事も出来るだろうしな。――こんな事にも気付けないとは、私もヨシュアからのコンタクトがあったと言う事に浮足立ってしまったのかも知れん。



「ふ、ふっざけんじゃな「落ち着き、エステルちゃん!」



当然、エステルは噴火し掛けたのだが、其処はケビンが『此処で熱くなったら相手の思うつぼや。自分を見失ったら、もっと大切なモンまで失ってしまうで?』と言って、エステルを落ち着かせてくれた。
まぁ、私としてはエステルの噴火よりも、シュテルが『人の思いに付け込んだ唾棄すべき犯行……犯人は丸焼きにしましょう』と言ってる事の方が気になったのだがな。
其処にアーネンベルクに詰めている兵士がやって来て、『何事か?』と聞いて来たのだが、其処はケビンが実に見事に切り抜けてくれた。
私とエステルが遊撃士である事を明かした上で、『極秘の任務である連中の調査をしてた所なんですわ』と言い、更に《結社》の事まで言ってくれただけでなく、『そいつ等の手掛かりを追ってここに来てみたら、けったいな奴に襲われてしまいましてん』と、巧い具合に話しを繋げてくれた。

そして、《結社》の名を出したのが良かったのか、兵士から『警備本部を襲ったのも結社の者達なのか?』と聞かれ、何があったのか逆に聞いてみると、何とエルベ離宮が武装した集団の襲撃を受けたとの事だった。
シードによって離宮は守られたらしいが、現在も逃走中の集団を追跡しているらしいとの事……此れは、思っている以上に事は大きくなっているみたいだな?
王都に居る皆の事が心配だ。私達もいったんギルドに戻った方が良いかも知れん。



「ああ、そうするが良い!この付近の警戒は我々に任せてくれ!」

「おおきに、頼みますわ!……ほな行こか、エステルちゃん、アインスちゃん。それから……えーと自分名前は何て言うん?俺はケビン・グラハムって言うねんけど。」

「お初にお目に掛かります。シュテル・ザ・デストラクターと申します。以後お見知りおきを。」

「こらどうもご丁寧に。」



って、やってる場合か二人とも!兎に角全速力で王都に戻るぞ!

クソッ、何だかとても嫌な予感がするぞ此れは……まるで死神の大鎌を首筋に突き付けられているような、そんな感覚だ。仮にギルドが襲撃されたとしても、ジンが居れば大丈夫だと思うが、其れなのにこの胸騒ぎは一体何なんだ?

この嫌な予感も胸騒ぎも、全て私の思い過ごしであってくれ――如何か無事でいてくれよ、クローゼ、ティータ……そして、レン――!!










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