Side:アインス


共和国の大使館では有益な情報は得られなかったのだが、少なくとも脅迫状を送り付けた犯人が共和国の人間ではないと言う事が略確定しただけでも収穫と言えるだろうな。少なくとも現時点では、共和国はリベールに敵対の意思はないと言う事を確認出来た訳だからな。
そして、続いて帝国の大使館にやって来たのだが……



「オリビエ、貴様と言う奴は!!」

「おぉ、ミュラー!親愛なる我が友よ!!元気にして……」

「スマナイな、君はアインス君だったか?前にあった時とはずいぶんと雰囲気が変わったようだが、此のお調子者が随分と迷惑を掛けたのだろう?」



早速オリビエがミュラーにシバかれていた……片手でオリビエを倒して、其処からストンピングの連発と、実に流れるように見事な連携だったな。
……そう言えば、この姿で私がアインスだと見破ったのはミュラーが初めてではなかろうか?……オリビエのストッパーだと思っていたが、彼は中々に慧眼の様だな。



《キリカさんなら、アインスが表に出てても初見で誰か見破る気がする。》

《……それどころか、キリカだったら私達の切り札であるユニゾンの事も知って居るような気がしてならない。流石に最終切り札の、人格の完全融合だけは知らないと信じたいが。》

《キリカさんだと、グランセル城の地下での戦いの事も詳細に知ってそうで怖いわ。》

《ホント其れな。》

その後ミュラーの案内で、帝国の大使であるダヴィルと面会したのだが、ダヴィルもまた例の脅迫状に関しては『帝国内に条約に反対する勢力は居ないぞ』と否定して来た。
『条約締結には、皇帝陛下も乗り気でいらっしゃる。陛下のご意思に異を唱える不届き者などいる筈が無かろう』とも言っていた……その不届き者が極めて身近に居る気もするのだが、仮にそうだとしてもオリビエのような奴が脅迫状を出したりはしないか。コイツはお調子者ではあるが、脅迫状などと言う無粋な真似をする位なら、自ら直接乗り込んで、そして自爆する奴だからな。



「あの……ダヴィル大使。オズボーン宰相閣下は、不戦条約についてどのように受け止めていらっしゃるのですか?」

「なに!?な、何故リベールの一学生がその名前を……?」



だが、クローゼが『オズボーン』なる名を出した途端に、ダヴィルの様子が明らかに変わった……と言う事は、帝国でも相当な重要人物だと推測出来る訳なのだが、一体何者だオズボーンと言うのは……?









夜天宿した太陽の娘 軌跡102
『不戦条約の真の意味とは』









オリビエによると、オズボーンと言うのは帝国政府の代表者の一人で、《鉄血宰相オズボーン》とも呼ばれ、現在の帝国では皇帝をもしのぐ実質的な支配者とされている政治家との事。
更にオリビエは『帝国全土に導力鉄道を張り巡らせて自分の勢力を広げたり、幾つもの自治州を武力で無理矢理併合したり……』と中々にヤバそうな事を暴露してくれた……其れが全て真実であったとしたら、オズボーンと言うのは可成り要注意人物な訳だな。

だが、ダヴィルによれば、そのオズボーンも不戦条約締結には極めて好意的で、寧ろオズボーンの方から皇帝に進言したとの事だった……其れは、矢張り新型エンジンが手に入るからだろうか?



「いや、宰相はエンジンの話が出る前から条約に賛同の意を示されていたようだ。
 まぁ、あの方にしては少々意外な気がしなくもないが……お陰で妙な圧力もかからずに正直ホッとしている。兎に角……皇帝と宰相を敵に回せる輩が帝国に居るとは考えられんのだ。
 脅迫状の犯人を捜すなら、他を当たった方がいいと思うぞ?」



此方でも目ぼしい収穫はなしか……だが、共和国も帝国もシロとなると、残るはリベール内に居る不届き者になる訳だが、其れ以外にもう一つだけこの脅迫状の容疑者居る訳だが、其れが誰か分かるかエステル?



《えぇっと……行方知れずになってる元情報部の人達とか?カノーネさんとかとってもやりそうな気がする。》

《確かに、彼女達もアリだが……結社だよ。
 リシャールのクーデター事件の時も、その裏には結社が居たし、既にルーアンとツァイスで結社の執行者が動きを見せている……其れを考えると、この王都で結社が何も起こさないとは思えない。
 この脅迫状は、結社の執行者が己の真の目的を果たす為のカムフラージュ、隠れ蓑とした可能性も捨てきれないと思う――其れ位、疑って掛からないとならん相手だ、結社と言うのはな。》

《結社が……!》

《あくまでも可能性の話だが、可能性の一つと考えておいても良いと思う。》

半実体化した私の圧倒的なアドバンテージが、結社には通じない以上、警戒をしてし過ぎると言う事はないからな――まぁ、如何してもヤバくなったその時は、超広域魔法で執行者諸共吹き飛ばしてやるだけだがな。

取り敢えずレンの事をミュラーに伝えて、帝国大使館を後に……その際にオリビエがまた調子に乗って、ミュラーに『冗談ぬかすと、簀巻きにして窓からぶら下げるぞ』と凄まれてた。……窓からぶら下げられたオリビエミノムシと言うのは、其れは其れで面白そうだな。



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共和国と帝国、双方の大使館で大使との面会を終えた後は、グランセル城でアリシア女王陛下との面会だ――アリシア女王もまた、私を見て『貴女はアインスさんですね?』と私の正体を見破りましたとさ。
矢張り上に立つ者の眼力と言うのはすさまじい物があると言わざるを得ないな。
先ずは、脅迫状の件について報告したのだが……



「そうですか……まさか、大使館にまで脅迫状が……」

「そして、その犯人には共和国も帝国も心当たりはないと来ている……アリシア女王陛下は、脅迫犯に心当たりはないだろうか?どんな些細な事でも構わない。」

「そうですね……クローディア、貴女は如何思いますか?」

「私、ですか?」

「貴女も、日頃から国内情勢には考えを巡らせている筈ですね――王位継承権を持つ者として……意見を聞かせて下さい。」

「は、はい。」



まさかのクローゼに飛び火だ。
いや、ある意味で此れは当然の流れかも知れんな?アリシア女王としては、自分の後にリベールの舵取りを担う事になるであろうクローゼが、今回の事について如何考えているのかと言うのは、是非とも聞いておきたい事だろうからね。

それに対しクローゼは、『この不戦条約は、国民に比較的好感を持って受け入れらているように感じます……ですが、王国内の極右勢力が追い詰められていると言う話を耳にした事があります。行き場を失った彼等の主張が、不戦を謳う条約に対して脅迫状と言う形で現れた可能性は、あるかも知れません』との見解を示した。



《えっと、つまり如何言う事?》

《リシャールの起こしたクーデター事件を思い出せ。
 リシャールは軍事力を強化する事で王国を守ろうとし、そして情報部を率いてクーデターを起こした……其れは裏を返せば、リシャールの考えに賛同した者が少なからず存在した事の証でもある。
 だが、リシャールが逮捕され、クーデターも失敗に終わった今は、そう言った意見は完全に封じられた形になっている……リベールは言論の自由が認められているのに、自分達の主張は聞き入れられないと言うのは、相当に不満を募らせている筈だ。
 その理論で行くと、さっきお前が言った脅迫犯はカノーネ説も、的外れとは言えん訳だな。》

《……こんな時、ヨシュアが居たら如何したかな?》

《アイツなら、私が言った事と同じ事を考えるだろう……そして最適解が何なのかを弾き出して、スマートに犯人を割り出してしまうんじゃないか?レンの事も、もっと上手くやるかも知れんな。》

《そう……だよね。》

《だが、其れはあくまでもヨシュアならばの話だ。
 私達は私達のやり方でやれば良いだけの事だろう?私とお前は、二人で一人、お互いに最高のパートナーだろう?ならば、その私達に出来ない事など何もないさ。
 全てを包み込む宵闇の夜である私と、全てを照らす太陽のお前……闇と光のタッグは最強だと相場が決まってるんだ。》

《そうね、私達は私達のやり方でよね!》



で、アリシア女王も私と略同じ事を言ってくれたのだが、ジンが『其れが脅迫状の原因だとしたら、もはや駄々っ子の嫌がらせと同じで、女王陛下が気に病む事ではない』と言った。
確かにその通りかもしれないが、アリシア女王は首を振ってそれを否定すると『軍拡論や大佐の行動も、元々は愛国の精神から来ている事は間違いないのです。そうしたモノを全て検討しつつ国の舵取りをして行く事……其れが国家元首の担う責務なのですから』と言ってくれた……其処には欠片ほどの迷いも何もなかった。矢張り、アリシア女王は人としての器が違うな。



「アリシア女王、一つお聞きしてよろしいか?」



此処でオリビエが、『何故今この時期に、今回の不戦条約を提唱されたのですか?』と聞いて来た。『クーデターの混乱も完全に収まり切って居ない状況なのだから、国外にかまけるよりも国内に目を向ける方がリベールの為になるのでは?』と続けたが、アリシア女王はその笑みを崩さず……



「仰る通りかもしれませんね……ですが、以前から両国の政府に打診していた不戦条約を遅らせたとあっては、国家の威信に関わりますし、エレボニア帝国とカルバード共和国……其れに、その周辺の諸国にも、何らかの影響が出るかも知れませんからね。」



そんな事を言ってくれた。
だけでなく、この不戦条約には、帝国と共和国の丁度中央に位置している『クロスベル自治州』の帰属をめぐる帝国と共和国の対立、所謂『クロスベル問題』をも視野に入れている事が明らかになった。
確かに、不戦条約が締結されたとなれば、帝国と共和国に挟まれているクロスベルも全く影響がないとは言えないからな。

此れにはジンとオリビエも驚いていた。



「共和国と帝国ののどに刺さった魚の骨みたいなもんだ……もはやこじれ過ぎて、如何すりゃ取れるのかお手上げ状態だったんだがな……」

「その魚の骨を、不戦条約を利用して引っこ抜く……そんな事まで狙っていらっしゃったのですか?」

「……切っ掛けを提供出来ればとは思っていますよ。
 クロスベルの問題が解消すれば、其れは大陸西部に安定をもたらす事になりますし、同時にリベールの発言権を高める事にも繋がる筈ですしね。」

「はは……いやはや、御見それしました。どうやら十年前のリベール侵攻は、思った以上の愚行だったらしい。」

「これは……何としても条約締結を成功させねばなりませんな。」



理想論だけでなく、リベールの利益も確りと考えている訳か……綺麗事だけでなく、時には狡猾に自国の利となる事を選択するのもまた国を治める者には必要なものだからな。
……その辺は、クローゼにはまだ難しいかも知れないが、彼女も何れそれを理解する時が来るだろうさ。

その後はアリシア女王に『脅迫状の件、どうぞよろしくお願いします』と言われ、其れに『任せておいてくれ』と言ってから城を出た……本来ならばもっと聞き込みをしたい所なのだが、日も暮れて来たので今日は此処までだな。

ジンとオリビエは酒場に直行しそうな勢いだったので、『楽しく食事をするのは構わんが、朝まで飲み明かしたり、酒の臭いをぷんぷんさせながらギルドに来るのは止めてくれよ?まぁ、仕事に影響がなければ別に構わないが』と釘を指したら、二人とも今夜は夫々の大使館に泊まる事にしたらしい。



「あの、アインスさんは如何されますか?宜しければ、王宮に部屋を用意して貰いますが……」

「其れはとても魅力的なのだが、今夜はエルナンがレンやティータの分までホテルを予約してくれてるみたいだから……って、其れならお前も一緒にホテルに泊まれば良いんじゃないかクローゼ?
 三人部屋だが、ティータとレンはまだ子供だから同じベッドでも全然余裕があるだろうからな……うん、一緒にホテルに泊まろうそうしよう。」

「えっと、大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だ問題ない。一人分宿泊費が膨れ上がった所で、其れは必要経費で落とせるからね……だから今夜は、一緒に過ごさないかクローゼ?」

「そう言う事でしたら是非。」



そして、今晩の宿にクローゼがログインしたとさ。
ティータもクローゼの事は知って居るし、レンも賑やかな方が喜ぶかもしれんし、何よりも私が満足だからな。クローゼと同じ部屋で一晩を過ごすと言うのは、学園祭の準備の時以来だな。
では、早速ホテルに向かうと――



「お、おお……そなた達は!クローディアと……誰だ?」



しようとした所で、何やら聞いた事のある声が聞こえたので、声の方に顔を向けると、其処には王族の一員でありながらクーデターに加担した、デュナンの姿があった……まさか、お前とこんな所で再会するとは、思っても居なかったよ……!!








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Side:???


ふぅん……此れは思った以上に面白いわね?
ティータはとっても良い子で、シュテルは不思議な子……一緒に居るととても楽しいし、ずっと一緒に居たいと思ってしまう位だけど、其れ以上にエステルとアインスには興味が尽きないわ。

今回の一件の真実を知ったら、果たしてどんな顔をするのかしら……ふふ、とても楽しみだわ♪











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