Side:アインス


レンを保護した翌日の朝、ティータとレンにカフェオレを振る舞ったのだが……思ったよりも感触が良くないな?何か不満があったかレン?



「アインスお姉さん、此れ何?」

「カフェオレだが?」

「カフェオレって何?」



おうふ、まさかそう来るとは思わなかったな……此の世界では、カフェオレはポピュラーなモノではないのかもな。――では改めて説明すると、カフェオレと言うのは、コーヒーに砂糖とミルクを加えて飲み易くしたモノだ。
コーヒー版のミルクティーと考えてくれると分かり易いかも知れん。



「ミルクティーのコーヒー版……確かに見た目は似てるかもしれないけど、味は如何なのかしら?……此れは此れで美味しいわね?
 レン、苦いのが苦手だからコーヒーは飲まなかったんだけど、カフェオレなら砂糖とミルクで苦みがマイルドになってるから飲めるわ……でも、どうして紅茶じゃなくてカフェオレだったのかしら?」

「紅茶は茶葉によって湯の温度やら蒸らす時間やらが細かくて面倒でな……コーヒーも、豆によって違いはあるんだが、紅茶ほど細かくないし、カフェオレなら元のコーヒーを少し失敗しても、砂糖とミルクで誤魔化せるからな。」

「練乳があれば、其れも入れてマックスコーヒーを再現したかったですね。あの甘さは凄まじい物がありますが。」

「リンディ茶に比べれば全然マシだぞ。」

「アインスお姉さん、リンディ茶って?」

「私の知り合いなんだがな、マグカップ一杯のお茶に、角砂糖を八個、そしてミルクを入れて飲む奴が居てな……ソイツの名が『リンディ・ハラオウン』なのでリンディ茶と言う訳だ。」

「その人、味覚がオカシイんじゃないかしら?」

「其れに関しては同感だ。」

その後、レンが『自分は正しい紅茶の淹れ方を知っている』と言い、ティータが其れに飛びつき、レンも『新しい茶葉とお菓子も欲しい所よね』と乗り気だったから、近い内にギルドでプチお茶会が開催されるかもしれないな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡101
『脅迫事件の調査、本格開始だ!』









ティータとレンがプチお茶会の話題で盛り上がってる所で、私はバゲットに生ハムとクリームチーズを挟んだサンドイッチで朝食だ……今日から本格的に脅迫状の調査になるから、朝食はキッチリ摂って力を蓄えておかねばな。



《野菜は?》

《朝はビタミンよりもたんぱく質を摂った方が身体のエンジンがかかりやすいんだ。早朝の仕事なんて事もあるだろうし、覚えておくと良い。》

《あ、だから目玉焼きは朝ごはんなんだ!》

《その為かどうかは分からないが、結果として一役買っては居るだろうな。》

朝食を摂ってる所にクローゼ達が合流して、そして昨日はあれから何か成果があったのかを聞いたのだが、クローゼは昨晩はアリシア女王が公務で忙しかった為に会う事が出来なかったらしい。
が、今日は午後から時間があるとの事で面会の約束をしたらしい……アリシア女王との面会が出来れば、今回の脅迫状の件も少し進展するかも知れないな。ありがとう、クローゼ。



「いえ、大した事ではありませんよアインスさん。ですが、お祖母様との面会まではまだ時間がありますが……」

「なら、其れまでに大使館あたりの聞き込みを済ませておこうや。」

「帝国大使館への取り次ぎなら、僕に任せてくれたまえ。」



そうだな、アリシア女王との面会は午後からだから、先ずは午前中の内に大使館での聞き込みを済ませてしまおうか?共和国と帝国、夫々の大使館が今回の脅迫状の一件を如何考えているのかと言うのも知っておきたい所だし、話を聞く事で見えなかったモノが見えてくるかもしれないからね。



「アインスお姉さん……何処かに出掛けるの?」

「スマナイ、やらなければならない仕事があってな……今日は此処で、留守番をしていてくれるか?」

「…………」



……無言の圧力は止めてくれ。物凄く罪悪感を感じてしまうから。
だが、此処でティータがレンに『今日は私と一緒に遊ばない?』と提案してくれた――だけでなく、『もっとお話ししてみたいし、さっき言ってた紅茶やお菓子を一緒に買いに行ってみようよ!』と畳み掛け、レンも其れに押し切られる形で『別にいいけど……』とティータの提案を受け入れたか……少々強引だったかも知れないがナイスだティータ。



「裏の無い純真さ故に、レンも断ると言う選択肢は無かったのでしょう……では、私も彼女達と一緒に居る事にします。彼女達が買い物先で危険な目に遭った場合、私が一緒ならば対処出来ますので。」

「お前がティータ達と一緒と言うのならば不安はないが……もしも何かあった場合はティータとレンの安全を最優先にする事。其れが人為的なモノであった場合、犯人を倒す事よりも先にな?」

「あの可憐な少女達に何かをするような不埒な輩には、情けも容赦も不要だと思いますが、その辺は如何お考えでしょう?」

「その意見には同意だが、お前の場合そう言う輩だけを排除するに止まらないだろう?お前が本気を出したら、冗談抜きで王都の一角が焦土と化すからな……取り敢えず、攻撃は禁止の方向で頼む。」

「分かりました。使う魔法はパイロシューターに止めておきましょう。」



誘導弾ならば、早々被害は大きくならないからギリギリセーフか。
其れでは、行って来るよシュテル、ティータ、レン。夕方には戻るからな。



「行ってらっしゃーい!」

「またね♪」

「行ってらっしゃいませ。」

『『『『『『『『『『ニャーン♪』』』』』』』』』』



シュテル、ティータ、レン、そして大量のネコに見送られて、いざ脅迫状の調査開始だ。
先ずは、大使館への調査なのだが、此れはジンとオリビエが居てくれて良かったと言う他はないな……大使館と言うのは、外国に滞在する派遣元の国民の為にある施設で、リベールに在っても、リベールの人間は無闇に立ち入る事が出来ない特殊な場所だからな。



《そうなんだ……なんか、国って色々大変なのね?
 でも、そう言う事ならジンさんもオリビエも、話を聞いておいてくれれば良かったのに。》

《ふ、其れは違うぞエステル……ジンとオリビエは、敢えて聞かなかったんだよ。私達とクローゼが、直接他国の人間の意見を聞く機会を得る為にな。
 こんな機会は滅多にない事だから、其れを逃す手はないだろう?》

《確かに、此れは見聞を広げる良い機会ね!》



だろう?さて、先ずはカルバードの大使館からだな。



「カルバード大使館へようこそ。」



大使館で私達に対応してくれたのは、共和国大使のエルザ・コクラン女史だった……逆三角のアンダーリムの眼鏡が、やり手の才女と言うイメージだが、実際に頭が切れるのは間違いないだろうな。
『脅迫状なんて珍しくもないから、さして気にも留めてなかったんだけどね……私に何を聞きたいの?』と聞いて来たので、此処はダイレクトに『その脅迫状に心当たりはないか』と聞いてみた。

「若しかして共和国には、条約締結の反対勢力が存在するとか……」

「勿論いるわよ……例えば、私とかね。」

「「え゛?」」


そしたらまさかの答えが返ってきましたとさ……私もクローゼも、女性として如何なんだと思う声を出してしまったのは仕方あるまい。私の中では、エステルが『あんですってー!?』と絶叫していたがな。



「正直まっぴらごめんだわよ、あんな……性根の腐った帝国貴族が治める、侵略国家エレボニアと仲良くしましょう♡……だなんて。」

「大使さん……」

「でもジンさん、私と同じ考えの共和国民も少なくないでしょう?」

「まー、そーですがね……」



此処までハッキリ言われるといっそ清々しいが、エルザ女史は『ただね』と前置きした上で、『今回の不戦条約は、共同宣言の様なモノで、その気になれば何時でも破れる口約束に過ぎず、そんな程度の話を、態々事を荒立てて阻止するようなお馬鹿さんは、共和国には居ないと思う』と言った。まぁ、確かに阻止しようとする方がリスクが高いからな。

「だが、共和国の関係者が脅迫犯でないとするならば、貴女は誰が怪しいと思うエルザ女史?」

「勿論、個人的には帝国の連中と言いたい所なんだけど、その可能性も低いでしょうね。どうしてそう思うか……分かる?」



《分かるか、エステル?》

《え?え~~っと……帝国の人はオリビエみたいのが多いから、そんな脅迫染みた事をする人は居ない、とか?》

《国民総オリビエとか、其れは其れで恐ろしいがな。》

そして其れは不正解だ。正解は……



「高速巡洋艦アルセイユの、新型エンジン……ですか?」

「恐らくそれで間違いないと思うぞクローゼ。」

条約を締結させてさえてしまえば、リベールが誇る次世代の飛行船舶技術が手に入るんだ。如何に主戦派であっても、このチャンスに水を差す理由はないからな。
……尤も、ラッセル博士と中央工房の精鋭達によって作られた新型エンジンを、果たして共和国や帝国で量産体制に漕ぎつける事が出来るかどうかは些か謎だ。技術者は兎も角として、ラッセル博士ほどの天才は、早々居るモノではないからね。

若しかしたら、アリシア女王は帝国と共和国では、新型エンジンの量産化には時間が掛かると見越して、新型エンジンと言う特大のプレゼントを用意したのかも知れないな?
平和的な解決を提案しつつ、自国の優位性は失わない立ち回り……一国の主には、時にはこう言ったしたたかさも必要なのかも知れんな。
まぁ、何にしても共和国や帝国には不戦条約を妨害する理由はないと、そう考えているんだろう貴女も?エルザ女史。



「其の通りよ。
 珍しいのよ、此処まで隙のない国際条約と言うのも。
 ただでさえめんどくさい共和国と帝国の双方を、こんな平和的なやり方でまんまと手玉にしまうだなんて……悔しいけれど、本当たいしたお方だわリベール王国のアリシア女王は。
 ……あまりお役に立てなくてごめんなさいね。こんな感じで良いかしら。」

「あぁ、充分だ。協力、感謝するよ。」

取り敢えず、共和国の方は脅迫犯ではなさそうだ。
大使館を出る前に、一応レンの両親の事も聞いてみたのだが、共和国の大使館には其れらしい情報は入って来ていないとの事……あんな幼い子供を一人残して、一体何処に行ってしまったのか……だが、レンの為にも何かしらの情報を掴まねばだ。

だが、どうしてもレンの両親を見付ける事が出来なかった場合には、さて如何したモノか……



《其の時は……アタシの妹にしちゃうとか如何よ?五年前に、父さんがヨシュアを連れて来た時みたいに。》

《今この瞬間、お前とカシウスは間違いなく親子なのだと改めて思ったよエステル……なんで、如何してそう言う思考になるのか理解出来ん――ってそう言えば、我が主も魔導書から現れた、普通に考えれば怪しさしかない守護騎士達を家族として扱っていた!!》

《アインスの元主さんとは、何だか仲良くなれる気がするわ♪》



あ~~……確かに我が主とエステルは、何処か馬が合うかもしれんな?
我が主とエスエルのタッグ、何となく最強な感じがしなくもない――主に漫才コンビとしてな。

さてと、次は帝国の大使館か。
帝国の関係者が脅迫犯と言う線も薄いのだろうが、だからと言って行かないと言う理由にはならないからな……帝国の大使の見解も聞いて、そしてアリシア女王の面会もして、全ての判断は其れからすべき事だな。








――――――








Side:シュテル


さて、ティータとレンに付き合って、グランセルのマーケットまでやって来た訳ですが……店舗の大きさにまず驚かされました。そして、豊富な品揃えにもです。この様なマーケットがあれば、エルトリアももう少し発展できるかもしれません。
環境整備が大分整って来たので、農業生産力も上がって来たのですが、如何せん其れを販売する場所がまだ確立されていませんからね……エルトリア発展の為にも、確りと覚えておく事にしましょう。

取り敢えず、目的の物は買えたので、最後に今日の記念として、ティータはクマのストラップ、レンは大きな兎のヌイグルミ、私は手の平サイズのネコのヌイグルミを購入し、今は屋台のソフトクリームを購入してまったりしているのですが……



『『『『『『『『『『にゃ~ん♪』』』』』』』』』』

「何故かこうしてネコまみれです。何故でしょう?」

「えっと……なんでだろう?レンちゃんは分かる?」

「レンにも分からないわ……其れと、アレもネコなのかしら?」



『グオォォォォォォ!!』



相変わらずのネコまみれでした。
そして、レンが指差した先には、黄色い身体に黒い縞模様の入った大きな動物が……此れは、可なり大きい気がしますがネコです。ちょっと育ち過ぎちゃったトラネコです。タマと名付けましょう。

ですが、このままでは大き過ぎるので、魔法で小さくしてしまうのが上策ですね……此れをエルトリアに持ち帰ったら、王がどんな反応をするか楽しみです。











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