Side:アインス


闇の書事件からそろそろ半年か……思えばこの半年間は色々有ったな。
闇の欠片事件に端を発した、闇の書の置き土産とも言うべき事件は、下手をしたらこの星を滅ぼしかねないモノだったからね……私に全盛期の力が
あったのならばユーリを単身で止める事が出来たのだろうが、力の大半を失った私では無理だった。
最後はあの小さき勇者の必殺技でユーリを止めるに至ったのだ……本当にあの子のポテンシャルには驚かされる。
出来ればあの子の成長をもっと見たい所だが……如何やらタイムリミットのようだ。



――シュゥゥゥン……



身体がだんだんと薄くなってくているからね。
我が主が学校に行っている間にタイムリミットが来たのはある意味では幸運であるのかも知れん……こうして消えてしまえば、私も我が主も悲しさを
感じる事もないだろうからね。

勝手に冥界へ旅立つ事は、最大の無礼と存じておりますが……全ては貴女の為です、ご容赦下さい。
私にこんな事を言う資格があるかは分かりせんが……我が主、如何か幸せになって下さい――私は、只それだけを祈っています。

我が主よ、どうぞお幸せに。










夜天宿した太陽の娘 軌跡1
終焉の先での出会い、太陽と夜天』










あふ……ふあぁ~~あ、よく寝た。良い気分で目が覚めた――って、目が覚めたらダメだよな?だって私は消えた筈なんだから。目が覚めるなんて
のはありない事だよな?



「ふえ!?誰、誰かいるの?」



ん?女の子の声?……誰かいるのか?と言うかそもそもここは何処だ?
見る限り家の中なのだろうが……如何してさっきから首を動かしても居ないのに、視界があちこち動くのか……此れはちょっとしたホラーだな。



「また聞こえた!ちょっとお化け、嘘でしょ?」

「おい、エステル。お前誰に言ってるんだ?お化けなんている筈ないだろ。」

「お父さんには聞こえないの!?私の頭の中に、知らない……多分女の人の声が聞こえるのよ!!」

「知らない女って……レナがお前を心配になって会いに来てくれたんじゃないのか?全然聞いた事もない声なのか?」

「知らないもん、こんな人の声なんて!」



多分女の人ね……まぁ、私が女性体である事は否定しないがな。
ふむ、状況を考えるに、私の声は『エステル』と呼ばれた存在にしか聞こえていないようだ……で、私の視界に映っているこのちょび髭ダンディズム
が『エステルの父親』だと考えて間違いないだろう。
そして、此の二人の言動から考えると、私の姿は見えていないと言う事か。

あ~~……聞こえるかいエステル?



「ひっ!ま、また聞こえた!!」



驚かせてしまってスマナイ……私の名は――


さて、如何な乗ったモノだろうか?
我が主より賜った名は私にとって大切なモノだが、その名はもうじき生まれるであろう二代目が継ぐモノであり、消えた私が名乗るべきではないか。
ならば、私が名乗るべき名は。


私の名は、アインスだ。



「あ、アインス?」



あぁ、そうだ。君の名はエステルで間違い無いのだな?



「うん、アタシはエステル……エステル・ブライト。」



エステル・ブライトか、いい名だな。
ではエステル、少しばかり私の言う通りにしてくれないだろうか?そうすれば、私が何者で、何故君にだけ声が聞こえるのかを、説明出来るかも知れ
ないからね。
君からしたら突然の事で驚いているかもしれないが、私も突然の事で驚いているんだ……協力して貰えないだろうか?



「うん、少し怖いけど分かったわ。其れで何をすればいいの?」

「……おい、エステル。お前本当に大丈夫か?」

「お父さん、ちょっと大事な事だから少し黙ってて!!」

「あ、はい。」



……実の父親を一撃で黙らせる。娘は父親に対して最強であるとは我が主が言っていた事だが本当だったようだな。

ではエステル、鏡の前まで移動してくれるか?



「うん、分かった。」



エステルが移動を開始すると、私の視界も移動する……此れは略間違いないかな。……だとしたら、何だってこんな事になってしまったのやらだ。
マッタク持って理解出来ん。



「鏡の前まで来たわよ?」



そうだな。私にも鏡に映った君の姿が見えているよ――君と同じ目線の高さでね。歳の頃は6歳程度か。
エステル、如何か驚かないで欲しいが、如何やら私は君の身体に憑依してしまったようだ……其れも、只憑依しただけは無く、君の二つ目の人格と
してね。
憑依しただけならば、何とか出て行って成仏しようと思ったのだが、君の身体から離れようとしても離れる事が出来ない……私と言う人格は存在して
いるが、私と君の身体は同化してしまったらしい。



「えぇぇぇ!?何それ、そんな……私どうなっちゃうの!?」



いや、どうにもならないだろう。
私と言う存在が居るだけだからね……今だって別に身体が変とか、そう言う感じはしないだろう?



「うん、其れは感じないけど……えっと、つまり貴女は突如現れたもう一人のアタシって認識で良いのかしら?」



まぁ、大体その認識で間違ってはいない……私が何者であるのかは、何れちゃんと話す必要があるだろうが、今はそう思ってくれた方が面倒ではな
いな。



「おい、エステル。まだ、謎の声と話してるのか?一体誰なんだそいつは?」

「アインスって、言ってた。」

「……マジで誰だ其れは?」

「アインス。」



いや、そう言う事じゃないと思うぞエステルよ……と言うか、私がお前の中にいる事は如何でも良いのか?



「そりゃ驚いたけど、正体が分かれば怖くないわ……其れに害は無さそうだし。アタシの中で良ければ居れば良いんじゃない?」

「エステル、ソロソロ置いてけぼりは父さん悲しいぞ?」



何ともまぁ、サッパリした性格だなエステルは。
だが其れは其れとして、彼女の父は相変わらず困惑顔か……当然だがな。
彼女の父親には私の声も姿も分からないのだから、端から見れば娘が独り言を言って居るようにしか見えないのだから仕方ないか……すまないが
エステル、少し体を借りるぞ?
今から私が表の人格として出る。



「え?其れって如何言う事?」

「こう言う事だ。」



――シュゥゥゥゥン……



ふ、私がエステルの第二人格として存在すると言うのならば人格交代が出来るのは道理だ……今から、お前の父と話を付けるから、少し待っていて
くれるかエステル?



《分かったわ……頑張って。》



了解だ、任せておけ。



「エステルが銀髪になっただと!?……どういう事だこれは!?」

「失礼、驚かせてしまったかな?ならばまずは、非礼を詫びよう。」

「!?……お前さん、誰だ?エステルじゃないな?」

「察しがいいな。確かに私はエステル・ブライトではない。
 何がどうなってこんな事になったのかはマッタク分からないが、貴方の娘の身体に第二の人格として憑依融合してしまったらしい……私の名は、ア
 インスだ。
 行き成りの事で驚いているかもしれないが、私も驚いているんだ……何故ならば、私は既に死んだ存在であり、己の死を実感したのに、魂だけが
 彼女の身体に憑依してしまったから。
 父親である貴方からしたら、娘に何をと思うかも知れないが……私が望んでこうなった訳では無いんだ。
 だからと言って、如何すれば良いかも分からないのが現状でな……何時何がどうなるかは分からないが、暫しこの身体に滞在する事を許して貰え
 ないだろうか?」

「別に構わんぞ♪」



――必殺!親父フェニックス!!



そ、そう来たか。思わずずっこけたぞ。



《お父さん、適当過ぎ。》

「おい、実の娘が適当過ぎだと申しているぞ?」

「気にするな気にするな!
 エステルが銀髪になって話し方が変わったのには驚いたが、まさか二つ目の人格が現れたとはな……少しだけ話しただけだが、お前さんが悪人じ
 ゃない事は分かる。
 お前さんが居れば、エステルの良い話し相手にもなるだろう……俺は昼間は仕事があるし、レナ……妻は半年前に死んでしまったからな。」

「……そう、だったのか。」

《……お母さん……》



エステル……そんな悲しそうな声を出すな。
身体を共有しているせいか、お前が悲しいと私も悲しい……母親と言う大切な存在を喪った事がドレだけの喪失感であったのか、私には分からない
が、私の存在がその傷を癒す事が出来れば幸いだと思うよ。



「其れに、お前さんがエステルの相手をしてくれれば、俺への小言も減るだろうからな。」

「其れが本音か!!」

《お父さん、其れ最低!!》



エステルが、最低だと言っているぞ!!



「グハァ!!……そう言うなって、父親のちょっとしたジョークだろうに……
 まぁ、其れは其れとして、俺はお前さんがエステルの中に存在してるのを否定する気はない……どんなモノにだって、存在する理由ってモノが必ず
 あると、俺は信じてるからな。
 何、エステルに姉が出来たと思えば如何と言う事はない。」

《ちょっと、アタシが妹なの!?アインスの方が後からやって来たのに!!》



そう思うだろうが、事情は後で説明してやるが、私は彼是1000年は生きてる存在だから、お前よりも遥かに年上だ。だから、如何足掻いても私が
妹になるのはあり得ん。
お前だって990歳以上年上の相手を妹とは言いたくないだろう。



《アインスが姉で良いです。》



賢明な判断だな……そろそろ、身体の所有権をお前に戻すぞエステル。



――シュン



「あ、戻って来た。」

「おぉ、エステルに戻ったか。」



……お気楽と言うか何と言うか、この親子の対応能力の高さには驚かされる……まさか、私の事を受け入れて貰えるとは思わなかったよ。
最悪の場合は悪魔払いでもされるのではないかと思っていたからね。

マッタク予想外にエステルの第二人格として彼女に憑依してしまったが、如何やら此の世界は、此れまで私が渡り歩いて来たどの世界とも異なるみ
たいだから、先ずはこの世界の事を知らねばなるまい。

私の身体は消えたが、魂と夜天の魔導書の本来の機能である『無限に転生し、あらゆる世界の技術と知識を蓄積する』は消えずに、転生してエステ
ルの一部になったのかも知れないな。
マッタク持って予想外だったが、私がこの世界に来たのにはきっと意味がある筈だ……なれば、エステルの第二人格として役目を果たさねばだな。










 To Be Continued… 





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