Side:アインス


態々、来てもらって悪いな千歳……出来れば、もっとゆっくりと話をしたい所だが、状況が状況だけに、あまりゆっくりはしてられない
ので、少々荒っぽくなってしまったね。



「構わぬ……それにしても、私に用とは、おんしも物好きだな、アインス。
 して何用だ?北の女狼に連れて来られたのだが――わざわざ人払いしてまで、私に聞きたい事とはなんだ?」

「単刀直入に聞く……お前の本当の目的は一体何だ?」

「ほう……?流石に良い勘をしている………だが、其れを知ってどうする?今更どうしようもあるまい。」



どうしようもないかどうかは私が決める。――否、ウタカタのモノノフ達が決める。
どうしようもない状況であっても、足掻けば道は開けると言う事を、私自身が体験しているからね……必ずやイズチカナタを倒して、
全てを終わらせる。



「……まあ良い。話した所で困る事でもないしな。――私も丁度、ホロウに聞きたい事があったからな。」



なら、利害は一致してる……話して貰うぞお前の知って居る事を!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務79
『半人半鬼の真なる目的』











「其れも良いが、だがその前に……外野の連中を呼んでは如何だ?」

「……矢張り気付いてたか……」


「(ちょっと、押さないでよね!)」

「(静かにしろ、会話が聞こえないぞ!)」

「(うお!何処触ってやがる!)」

「(お前こそ、その手をどかせ!)」

「(きゃ!は、破廉恥でございます!)」

「(ま、窓際に密集し過ぎだ、離れて欲しい。)」

「(俺が入る隙間がねぇじゃねぇか……!)」

「(……くっ……此れも天狐に会う為……)」



……桜花を始め、ウタカタのモノノフ大集合だな此れは!?
ハァ、覗く位なら入って来い……お前達が増えた所で、私の家のキャパシティはオーバーしないからね……尤も、オーバーしないだ
けで、結構ギリギリだがな。



「アインス、失礼するぞ。」

「まぁ、入ってくれ。」

「狭い所にぞろぞろと……他人の家だぞ、少しは遠慮せよ。」

「此れが音に聞こえた、『すし詰め』というものですね?」

「此れがすし詰めだと?……本当のすし詰めと言うのは身動きが取れなくなる位に人が詰まってる状態だぞホロウ?」

「成程、そうでしたか。」

「……ゴホン。すまないな、アインス。
 いや何。私達も、気になってな……千歳の真の目的とやらが。」

「やれやれ……騒々しい連中よな。」



これもまたウタカタの個性だと思ってくれ。――其れに、少し騒がしいかも知れないが、この賑やかさは結構好きなんだ私は。
こう言うのを見ると、『ウタカタに居る』と言う事を実感できるからね……さて、其れじゃあ改めて聞かせて貰えるな千歳?真の目的
とやらを。



「良かろう。アインスとホロウだけでなく、おんしらにも聞いて貰おう。
 私の真の目的を……」

「……何を企んでいるんだ?」

「私の目的は……『実験』だ。」



『実験』だと……?



「この世界を滅ぼし、その流れ行く先を見定める。」

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


世界を滅ぼす、だと?何を言ってるか分かってるのかお前!!



「分かっているとも。
 おんしらは疑問に思った事は無いのか?――この世界が、一体どうなってしまったのか……時を越えて現れる数多の遺物。
 流されてくる人、物、ミタマ……その全ては、一体何処から来た。
 過去からか?或は未来からか?――其れとも、全く異なる世界からか?
 その流れを知る事が出来れば、全てをあるべき場所に還せるやもしれぬ……あるべき時代、あるべき世界へと……
 全ての解かれた糸を、元に戻せるやも知れぬ。懐かしい故郷へ、戻れるやも知れぬ……」

「……」



初穂には、痛いほどよく分かる話だろうな此れは……初穂もまた、流されて来た人だからね。
つまり何か?お前は意図的にこの世界を滅ぼし、その流れでもって時間の糸を結び直すと、そう言う事か?



「……その時初めて、私達は真に『鬼』に勝つ事が出来る。
 ……だから私は決めた。この世界を虚無に戻し、時の流れを探る『実験』をやると。
 そして見つけた。『蝕鬼』を生み出す核、『鬼』の力の一滴を。
 『蝕鬼』を使い、この世界の全てを虚無に還す――私は半人半鬼の身。『鬼』が住まう虚無でも生きていられる。
 時の流れを辿り、その内奥を知る――そして、この狂った世界の全てを元に戻すのだ!」

「……其れで死ぬ奴の事は、考えなかったのか?」

「其れは聞くだけ無駄だ富嶽……コイツはもう、命を数で数えるようになっている……九葉とは違い、本当の意味で犠牲を払う事に
 完全に慣れている。
 己の『実験』とやらで、ドレだけが犠牲になろうとも関係ないだろうさ……」

「その通りだアインス……犠牲を恐れては何も出来んだろう?
 其れに……時の真実さえ分かれば、全ては元に戻せる。」

「壊れてもリセットボタンで元通りと言う訳か……富嶽、何か一言。」

「……ダメだなこりゃ。完全にイカレテやがる。」

「フフフ……かもしれぬ。
 その過程で、あわよくば、ホロウが現れないかと思っていたが…………唯一の望みも無駄だったようだ。
 ……ホロウ……せめて教えてくれ。おんしは何処から来た?『鬼』とは何だ?我々は何処へ行く?私は何故流された?
 この世界とは……」

「……私にも、分かりません。
 私の故郷が滅びた時、私は一人暗い穴へと放り出されました。『鬼』と戦う方法を、この手に握ったまま。
 そして、気付けばこの中つ国に居ました。
 私が知っているのは、『鬼』と戦う術と、時を前に進む幾つかの手段だけ――それ以上の事は、私にも分かりません。
 ですが……一つ言える事があります。時間は二度と、元には戻せない。前に進む事は出来ても、後に戻る事は不可能です。
 だから……起きた全てを受け止めて、前進するしかありません。」



時は巻き戻せない……実は巻き戻す技術はあるんだがな。
マテリアルの子達が再び現れたあの事件の際に、未来からやって来たという者達が居たからね……名前も顔も思い出す事は出来
ないが。
だが、ホロウの言う事もまた真理だ――過去を取り戻す事は出来ない。ならば、過去を受け止め、まだ見ぬ未来に向かって進むし
かないし、其れが人の生き方だろう。



「千歳。私と来てください。一緒にイヅチカナタと戦って下さい!」

「…………残念だが、もう私には時間が無い。おんしと共に戦う事は、出来ぬ。」

「時間……だと?」

「……話は此れで全てだ。
 所詮は化け物の戯言……もう、私に用はあるまい――この先生き延びるか、滅びるか、其れはおんしらの好きにせよ。
 ……ではな。おんしらの武運長久を祈る。」

「おい、千歳!!」

……行ってしまったか。
まぁ、アイツの目的が何であるのかが分かっただけでも良しとすべきだろうが……しかし、この世界を滅ぼすとはな……



「……分からん話でもないな。」

「……正気か、相馬?」

「そう睨むなアインス。
 世界を滅ぼすのは勘弁して欲しいが、『鬼』の真実を探る必要はある――そう言う意味では、あながち間違った考えではない。」

「時の流れの真実でございますか……」

「……そんなの考えて、意味あるのかしら?
 全てはあるようにしてある。只それだけかも知れないわよ。」

「お、初穂にしちゃ大人びた発言だな。」



息吹……お前、この空気の中でからかうか普通?
場の空気を和ませようとしたのかも知れないが、ぶっちゃけて言うなら空気嫁、もとい空気読め。このKYが!!



「……君は如何思う、アインス?」

「どうもこうも、考えるだけ仕方ないだろう?
 幾ら考えた所で答えが出るとは思えんし、考えたからって流れて来たモノが元に戻れる訳でもない――ウダウダ考えてる暇があ
 るのなら、『鬼』を倒した方が建設的さ。」

「先輩の言う通りだな――って、あぁ!……しまった、またお礼を言いそびれてしまった。」



暦……まぁ、次の機会に取っておけばいい。
兎に角今は、任務に戻るとしよう――イヅチカナタを討たなければ、何も始まらないからな。



「りょーかい。ってことで……帰るぜ速鳥。」

「…………」

「……ダメだ、なはととりひとに夢中になっている。」

「……次からは速鳥は連れてくるな。いいな。」

「りょ、了解……」



マッタク持って、本当に天狐が絡むとダメダメだな速鳥は?最近はハネキツネにもだが。
……速鳥に天狐をプレゼントしたら、少しは改善……しないな絶対に。寧ろ悪化して、任務に支障をきたすかもしれんから止めてお
くか。

取り敢えず一度本部に行ってみるか――千歳の事も話さないといけないからね。
と言う訳で、今回はお前の目の前に現れてみたぞ凛音?



「……近いわよアインス。其れで、何か分かったかしら?」

「端的に言えば、千歳の目的は世界の滅亡によるリセットと言った所だな……アイツは世界を滅ぼす心算でいる。」

「世界を滅ぼす……?
 ……大馬鹿者ね、まったく――ありがとう、アインス。ひとまず助かったわ。
 取り敢えず、今すぐ危険があるって訳じゃ無さそうね――虚海の処遇は、イヅチカナタを討ってから決めましょ。
 其れと、悪い知らせだけど……ここに来て、また『鬼』が増え始めたわ。」

「ほう?『鬼』が?」

恐らくはイヅチカナタの影響が強まって来たと言う事なのだろうが、今更大型の『鬼』が何体増えようと大した問題ではない……全
て、滅すれば良いだけの事だからな。
私の前に現れた『鬼』は、一匹残らず狩りつくしてやる。



「頼もしいわね。
 捜索は他の者にやらせるから、貴女は討伐に集中してちょうだい――やれやれ……当分シラヌイには帰れそうにないわね。
 もう暫く世話になるわ、ウタカタの隊長さん。」

「其れは此方もだ、シラヌイのお頭殿。」

其れじゃ早速任務に……の前に、オヤッさんに刀を鍛えて貰うか。
手入れはしていたが、この所の任務で少し切れ味に鋭さがなくなって来ていたからな……そう言う訳で、頼めるかオヤッさん?



「行き成り目の前に現れるんじゃねぇ驚くじゃねぇか!
 まぁいい、刀を鍛えて欲しいってんなら任せな……と言いてぇ所だが、オメエ新しい素材を持ってんだろ?そいつを持って来な。
 コイツ等を究極の刀に鍛え直してやる。」

「本当か!直ぐに持って来る!!」

ミタマの力を宿した刀は、今でも最高性能だというのに、此れが更に強くなるだと?……願ってもない事だ!!

と言う事で速攻で家から素材を持って来て、オヤッさんに刀と一緒に渡して、待つ事およそ1時間……



「ほらよ、出来たぜ?」



・聖刀・オリヴィエが、『聖王刀・オリヴィエ』になった。
・落花流水が、『斬刀-遮那王』になった。
・風の刀が、『翠刃-小松姫』になった。
・秘剣・燕返しが、『絶剣・巌流』になった。
・大蛇薙が、『決戦刀・十束』になった。
・独眼竜が、『奥州筆頭』になった。




強化された刀は、此れまでよりも更に凄い!!
正に刀の力が極限まで引き出されたと言っても過言じゃない位だ……!!

「ありがとうオヤッさん!
 この刀があれば、どんな『鬼』でも、其れこそイヅチカナタであっても負けはしない!!」

「当たりめぇだ。
 ワシの作った武器を使って無様に負けてみろ?その時は、その頭カチ割ってやるぜ?――だから、絶対に死ぬんじゃねぇぞ?」

「うん、約束するよオヤッさん!」

其れじゃあ、早速新たな刀の威力を試すとするか!



――『雅』の侵域


『雅』の侵域に現れたのはゴウエンマ……指揮官級の『鬼』だが、今となっては大した敵ではないので速攻で葬ってやったのだが、
その直後にイミハヤヒが現れるは思わなかった。
恐らくは野生の天狐が、『蝕鬼』の核に触れしまったのだろうが……だからと言って、脅威かと言われたら、其れは否だ。

「深き闇に沈め……!!」

「花と散れ!!」



最強の刀を手にした私と、ウタカタ一の太刀使いである桜花が組んでいる以上、敗北は有り得ん。
タマハミで空に逃げるのは厄介だったが、空に逃げたらその時は、私が飛んで脳天に踵落としを喰らわせてやれば簡単にスタン状
態になったからね。
後は、私と桜花のダブル鬼千切りでフィニッシュ!!

オヤッさんが作り直してくれた刀の力もあって、至極簡単に任務を達成する事が出来た。


そして、その後も着実に任務を熟して行った訳なんだが……



「件の風景は、見つからないか……」



その中でも、未だ件の景色は見つかって居なかった。
異界は広いからな、人の足じゃ限界があるし、手掛かりがあの風景だけと言うのもな……もっと手掛かりが多ければよかったのだ
ろうが、無い物ねだりは出来ないからな。



「テメェの言う通りかも知れねぇが、だからって他に良い手もねぇだろ?」

「それは、そうだけど……」

「……友の遺骸を見つけるのに八年かかった……このまま行けば、恐らく間に合わんぞ。」

「残された時間は、あとドレくらいなのか……」



……何か良い手はないモノかホロウ?此のままでは、只滅びを待っているのと同じだ――何か手があるなら、その一手を打ってお
きたいんだが、何かないか?



「…………考えてみれば、千歳は何処で『蝕鬼』の核を手に入れたのでしょうか?」

「?其れが何か重要なのか、ホロウ。」

「『蝕鬼』はイヅチカナタの前触れ――であれば、其れが生まれた場所は、イヅチカナタと同じ場所の筈。」

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


其れは……盲点だったな。
確かに『蝕鬼』が、イヅチカナタの前触れだというのならば、其れが生まれた場所はイヅチカナタと同じと言うのが道理だ……何度も
連れまわして悪いと思うが、これはまた千歳に聞くしかないだろうな?

『蝕鬼』の生まれ出でた場所と言うモノを。

だから今一度、話を聞かせてもらうぞ千歳……この世界を救うためにもな。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場