Side:志貴


神器『月光玉』が反応している……この中に『黎明の碑文』が――ハヤブサ殿、お願いできるか?



「承知……ぜあぁ!!……志貴、お前が探していた物は此れか?」

「此れは……そんな……」

「どうした?」



『王』邪悪なる夜見を泉の底へ封じんとす――故に神器を……書かれているのは此処までだ。
此れは欠片でしかない……幾つあるかも分からぬ他の欠片を探す時間など、もうこの世界には残されてはいない……世界を救う術
など、無かったと言うのか……



「そのような事は有りませんわ、お兄様。」

「環……」

「此れで欠片は三つだ。
 ま、此れでも充分な情報じゃなさそうだが……皆で協力すれば、見つかる確率も上がるだろ?」

「……刹那。」

よもや、此の土壇場で反目し合っていた私達が集う事になるとはな……ふふ、マッタク持って愚かな事だ――世界を救う為の真の手
段は、私達が結束する事だったのかもしれん……世界を救う為の光明が、少しばかり見えて来たかもな。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務108
『碑文の欠片~蘇りし邪悪~』










Side:アインス


碑文の欠片と思しきものを手に入れたので、志貴の居る場所まで瞬間移動したんだが、まさかそこで碑文の欠片を手にした志貴と、
同じく碑文の欠片を手にした刹那&のぶニャがと会うとは思っても見なかったよ。
志貴が欠片を手にするのは見ていたが……刹那は、一体何処でその欠片を手に入れたんだ?



「貴女達と戦った後、撤退中に山賊が村を襲ってるのを見て、そいつ等を倒した時に山賊の頭領が落として行ったんだ。」

「だが、なぜそれが碑の欠片だと分かった刹那?
 アインス殿には碑文の存在を教えていたが、お前には教えていなかった筈だ。」

「ふ、お主の所の女忍者と大柄な女が教えてくれたわ。
 お主は、刹那が魔物に取り付かれている可能性を考えたようだが、刹那の熱さは真似事で出来るモノではニャい――故にワシが
 碑文の存在を刹那に教えてやったのよ。」



確かに、刹那の熱さや環を大事に思ってる気持ちと言うのは演技では到底出来ない事だからな――其れを見抜くとは、猫の姿であ
っても流石に天下人と言った所かなのぶニャがは。

「志貴、刹那、これを機に終わりにしないか?
 お前達は、目的は違えど環を救う為に行動していた――欠片ではあるが碑が見つかった今、やるべき事は争う事ではなく碑の欠
 片を全て集め、この世界を救う方法と、夜見を如何にかする方法を探す事だろう?」

「……アインス殿の言う通りだ。
 封印が弱まった事で、夜見は既に行動を開始している――父は今わの際に言った、『夜見はこの世界の誰かに取り付いて私達を
 監視している』と。
 恐らく父は、真実を知って殺されたのだろう……誰に夜見が取り憑いているかも分からぬままでは余りにも危険なので、英雄達以
 外には黙って来たが、碑の欠片を持って現れたお前達ならば夜見に取り付かれていると言う事も無いだろう。
 何より、時間がない。
 此のまま滅びを待つくらいなら、どんなに危険でも、一歩を踏み出さねば。環、刹那……今まで辛い思いをさせてすまなかった。」

「其れを言うなら、俺も同じだ。
 俺も護る為とは言え、環を王にしたくないあまり、突っ走ってお前達を傷つけた……」

「いいのです……志貴兄様、刹那兄様。
 其れも全て、この世界や互いの為ではありませんか――此れからは、力を合わせてまいりましょう。
 先ずは、互いの碑に書かれている内容を確認しなくては。」



……何と言うか、環は純粋と言うか心が広いと言うか。
如何に兄妹であっても、自分に刃を向けた相手をこうもアッサリ受け入れる事が出来るとは……本気で恨まれていた訳では無いと知
ったからかもだが、天下統一を目指す身としては環の事を如何思うのぶニャが?



「あの娘、中々見どころがあるニャ。
 天下人たる者に必要なものは何か?
 威厳か?武力か?其れとも財力か?――否!最も大事なのは人としての器の大きさよ。
 必要であるのならば己に刃を向けた相手であっても協力する事を厭わぬ度量の大きさこそが上に立つ者に求められるものニャ。
 そう言う意味では、あの環という娘、其れを自然と分かっている様じゃニャ。」

「確かに、アイツの魂には一片の闇も感じられぬ。
 人ならば誰しもが必ず持っている筈の最低限の邪悪な部分が全くないとはな……こんな奴に会ったのは、俺も初めてだ。」



のぶニャがもハヤブサも環の事を認めてくれるみたいだな。
因みだがハヤブサ、私からは何を感じる?



「お前からは、途轍もない闇の力を感じる。
 だが、邪悪なモノではないな?……言うなればお前は、闇でありながら闇を狩る者か――そうであるのならば、お前がこの世界に
 召喚されたのは必然だったのかも知れんな。」

「闇を狩る闇か……確かにそうかもな。」

数多の世界を滅ぼして来た破壊神が、今は其の力を人に仇なす『鬼』に向けているのだからね……マッタク持って世の中分からない
モノだよ。

取り敢えず、こんな所で読み合わせというのも何だから聖域に行こうか?
瞬間移動を使えば聖域まで一瞬で移動出来るし、志貴と刹那が仲間にした英雄達もあっという間に集める事が出来るからな。



「流石は英雄さん、便利な技を持ってるんだな。
 でも其れなら、俺と志貴の陣営に居る英雄を集めてから聖域に向かった方が良くないか?」

「……確かに、そうだな。」

と、言う訳で志貴の陣営と刹那の陣営に瞬間移動して、双方の英雄全員と合流してから聖域に瞬間移動!!――此れだけの大人
数で移動するのは初めてだったが、問題なかったな。
自分で言うのも何だが、なんだかドンドン全盛期よりも強くなっている気がする……此れもまた、梓と魂が融合し、数多のミタマをこの
身に宿しているからかも知れないな。



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で、聖域に戻って来て、環と志貴と刹那の三人は泉の広場で碑の欠片の読み合わせをするようだな?
何か不測の事態が起きた時の為に、環サイドからは私となのはと趙雲、刹那サイドからはかすみとアーナス、志貴サイドからは幸村
とハヤブサが読み合わせに同席して居るんだが……



「時になのは殿、この間の戦の際の助太刀、感謝する。
 貴女の助太刀が無かったら、私はあの攻撃で倒されていたかもしれないからな。」

「そんな、お礼なんて良いですよ趙雲さん。
 仲間を助けるのは当然の事ですし、趙雲さんにはヴィヴィオのパパになって貰う役目がありますから、無事でいて貰わないと困りま
 すから♪」

「ふむ……『パパ』と言うのが何かは分からないが、私がヴィヴィオ殿に何かできると言うのならば全力でさせて頂こう。」



なのはが、趙雲の外堀を埋めてましたとさ。
お前、本気で趙雲を旦那として自分の世界に連れ帰る気じゃないだろうな?……そんな事は絶対に不可能な筈なのに、闇の書の闇
を砕いたお前が言うと出来てしまいそうな気がするから怖いよ……我が主よ、彼女の上司とはさぞかし苦労しているのでしょうね。



『あはは……胃とお肌に毎日大ダメージやでぇ。』



……幻聴だと思うが何か聞こえた。取り敢えず頑張って下さい主。
さてと、そろそろ読み合わせが始まるみたいだな……果たして碑の欠片には何が記されていたんだか……



「偉大なる王、泉を創り大地を祝福せし時、悪しき魔物・夜見、闇より出で大地を喰らう。」

「王、清らなる泉の力にて、大地を蘇らさんとするも、夜見、其の力をも喰らい、世に滅びをもたらさんとす。」

「王、邪悪なる夜見を泉の底へ封じんとす、故に神器を――くっ、この先を知らねばならぬのに。」



如何やら、欠片に記されていたのは夜見の封印に至る経緯のようだが、肝心の封じ方が書いていなかったと言う所のようだな?
欠片が三つ手に入ったのは幸運だったが、肝心の夜見の封印方法については知る事は出来なかった訳か……となると、残る碑の
欠片を早急に探し出さねばだ。

志貴、碑の欠片を見つけるには具体的に如何すればいいんだ?



「碑の欠片は、私と環と刹那の持つ神器と共鳴する――故に、神器が共鳴する場所を手当たり次第に探っていけば見つかる筈だ。」

「……気の遠くなる作業だな。
 だが、そんな事は言ってられん――私の力で神器の波動を世界中に拡散して、ある程度の当たりを付けてしまうのが良いだろう。」

ミタマのスキルである『○○強化・周囲』を使えばやって出来ない事は無いだろうからな。



「あら……夜見の封じ方を知りたいの?」

「お母様……」

「知っているのか……?」



っと、小夜か。
だが何だ?この小夜からは、途轍もない闇の力を感じる――確かに初めて会った時にも闇の力を感じたが、此処まで強くはなかった
筈だ……此れは一体?



「教えてくれ、叔母上!」

「出来ないわ。」

「……何故?」

「理由はとっても簡単。」

「お母様?」

「誰だって、自分を封じたくはないでしょう?」



――ゴォォォォォォォォォォ!!



「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「環!!」」




此れは……!!
小夜が夜見だったのか……と言う事は、私とプラフタを誘いだそうとしたのは、偽物ではなく小夜自身だったと言う事か!!



「母上、貴女が……!」

「ふふ……御馳走様。お蔭で封印が解けたわ。」



小夜の後に現れた邪悪なる女神とも言うべき風貌の女性……貴様が夜見か!!
……成程、漸く分かったよ――貴様が小夜に取り付き、環と志貴と刹那に夫々異なる情報を教えて3人が争うように仕向けていたん
だな?
あわよくば3人が共倒れになって己の都合のいい状況になるように。

だが、この世界に私達を呼びよせたのは間違いだったな?――特に私を召喚したのは最大の過ちだ……私の力を持ってすれば、貴
様を破壊する事位は雑作もない事だからな!!

「覇ぁぁぁぁぁぁぁ!!」



――ガキィィィィン!!



んな、馬鹿な――私の六爪流が防がれただと!?
いや、私の六爪流だけじゃない……なのはの砲撃も、趙雲と幸村の槍撃も、ハヤブサとアーナスの斬撃も、かすみの体術も不可視の
バリアで防がれるとは!!
ゴウエンマですら一刀両断するこの刃が貫けないとは……


――バァァァァァァァン!!



「うわぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁ!!」

「く……ぬわぁぁぁ!!」

「よもや、これ程とは……」

「夜の王に匹敵するかそれ以上だって?……此れは、少し拙いかもしれないな……」

「此れは……簡単に行く相手じゃない。」



あぁ、一筋縄でいく相手じゃないだろう――7人もの英雄の攻撃を完全に防御して、その上で吹き飛ばしてくれたんだからな。
ダメージは皆無とは言え、夜見の力のハンパのなさは良く分かった……英雄7人が相手であっても、マッタク持って問題ではなかった
のだからね。



「直ぐに皆消してあげるから……」



言うだけ言って消えてしまったか……良いだろう、お前がその気ならば受けてやる。
よもやこんな展開になるとは思ってなかったが、夜見の封印が解かれて復活したと言うのならば、今度は封印ではなく完全に滅ぼし
てやれば良いだけの事だ。
志貴、夜見は何処に行ったか分かるか?



「此処ではない、どこか遠い場所に行ったのであろう――いずれにせよ放っておけば大変な事になる。
 私達の手で止めねばならない――夜見も……そして母上も。」

「そう……ですね。
 夜見に操られ、ずっと私達を監視していたのはお母様だった……」

「今にして思えば……叔母上は、俺や環に違う情報を吹き込んで仲違いさせていたんだな。――俺達が、決して真実に辿り着けない
 ように……」

「お前達のいずれかが王になり、力を奪えば、夜見は封印を解く事が出来るからな。
 英雄を呼ぶように勧めたのも、その為だろう。
 直ぐに皆消してあげる、か……
 あの言葉も気になる。兎に角、皆で協力して夜見を倒さねば。」



言われるまでもない事だ。
アイツは自身の封印を解くためにお前達を争わせ、小夜を乗っ取っていた……倒すだけでは飽き足らん――二度と復活出来ぬように
完全に滅してやるだけだ!!

マッタク馬鹿なモノをしたモノだな夜見?
大人しくこそこそと準備をしていればよかったのに、派手にやった事でこうして最大の敵を作ってしまったのだからな。
『藪をつついて蛇を出す』ではないが、お前は余計な事をした――だから精々覚悟しておけ、私を含めた英雄が、貴様の首を掻っ切っ
てやるからな!!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の浴場



だがしかし、世界が危機的状況に陥ってるにも拘らず、誘惑に抗う事が出来ない位の温泉ってのは如何なんだ?



「いやぁ、此れは仕方ないんじゃないかな?
 刹那さんの所では水浴びしか出来なかったから、この温泉って言うのは有り難いし気持ちが良いね……リュリュにも教えてあげたい
 位だよ。」

「なら、元の世界に戻ったら温泉を掘ってみるかアーナス?」

「……アインスさん、其れも良いかもね?
 ナイトメアフォームを使えば100mくらいは余裕で掘れると思うし、ルースワークで温泉を掘り当てる事が出来たら、ホテルの支配人
 も喜ぶだろうからね。」

「そうか、頑張れアーナス。」

「あぁ、やってみるよ。
 でも男湯と女湯は分けた方が良いかな?――混浴だと、ロイドと教授がどんな理由をくっつけて入って来るか分からないからね。」



うん、其れは分けた方が良いと思うぞ?
しかし、話を聞くだけでロイドと教授と言うのは碌なモンじゃない感じだ……アーナスの世界では、碌な男はいないのかもな。



「支配人は割と真面だよ?」

「その支配人がプラス10だとして、ロイドと教授とやらは?」

「合計でマイナス400だね。」

「プラマイがマイナス390か……そのロイドと教授は抹殺した方が良いじゃないか?」

「其れは無理だね――ロイドも教授も殺しても死なない感じだから。」



成程、その二人は黒光りするG級の生命力だと言う事か……其れは確かに、適当にあしらって放置するのが一番かも知れないな。