Side:アインス


一風呂浴びてサッパリした所で、環と話してみるか――環、大切な話があるんだが、聞いて貰えるか?



「勿論です皆様。
 ……あの、如何かなさったんですか?」

「さぞ驚くだろうと思うが……如何か落ち着いて聞いてくれ。――人に知られてはまずい内容なんだ。」

「は、はい……承知しました。」

「実はな……」






――環に彼是説明中だ、畳の目でも数えて待っていてくれ。






「夜見は、実在していたのですね……
 そして、志貴兄様は、私や世界を守る為に戦っていたと……」

「そう言う事だ――私達は『黎明の碑』を探す為に全力を尽くす……だからもう、お前がもう王を目指す必要はないぞ環。」

「いいえ、アインス様そういう訳には行きません。
 泉の恵みを失い、この世界は限界に近付いています――きっと、長くはもたないでしょう……もう少しだけ碑を探してみて、其れでも
 ダメなら……その時は、私が王にならねば。
 この世界と、此処で生きる人々を守る為に。――大丈夫です、
 志貴兄様なら、きっと碑を見つけてくださいます……私が消えてしまう前に。」

「環ちゃん……」



悲しむのはまだ早いぞソフィー。――私達には、まだできる事が残っている。
碑を見つければ環を救えるんだ。
それに……刹那とは、此れからも戦い続ける必要があるかも知れないからな――万一、環が即位する事になったとして……彼が大人
しく引き下がるとは思えん……必ず環の道を阻んで来る筈だ。



「そっか……そうですよね。
 情報集めて、戦って……やる事は、まだ沢山ありますよね――よーし!
 環ちゃん、安心して!アタシ達が、絶対助けて見せるから!!」

「ソフィー様、アインス様、桜花様、元姫様……ありがとうございます。」



此れも私達の使命だからね。――お前を死なせはしないぞ、環。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務103
『夫々の事情と、新たな英雄の影』










取り敢えず、環と共に居る事に決めたから刹那の方には断りを入れておかないとな――志貴の方は、黎明の碑を見つけたら連絡をす
れば良いからね。

「と言う訳で、私達は環の許に居る事にした。
 お前や志貴と戦っている今、私達まで居なくなってしまったら環を支える者達が居なくなってしまうし、矢張り仲間を裏切ると言うのは
 良い気分ではないからね。」

「そうか……残念だ。
 確かに、俺と志貴が環と対立している以上、アイツの心の支えになってやる人が必要だ――叔母上だけでは、少し心許ないしな。
 分かった、俺達の仲間にならない代わりに、環の心の支えになってやってくれ英雄さん。」

「あぁ、その心算だ。」

「そう言えば、今日はこの前一緒だった英雄さん達は……」

「今日は聖域で待機だ。
 お前に断りを入れるなら私一人でも充分だし、断ったからと言って行き成り殺しに来るわけでもないだろう?――まぁ、そうなった所
 で、私なら全部返り討ちに出来るけどね。」

「……貴女だと、其れが冗談に聞こえないから怖いな。」

「冗談じゃないしね。」

では、私は此れで失礼させて貰う。
戦場で会ったその時は、また戦う事になるだろうが、その時は遠慮なく全力で掛かって来い――若しもお前が王になった時に、力が
無くて悔しい思いをしない様に鍛えてやる。



「……貴女と戦えば、確かに強くなれるかも知れないな。」

「アインスよ、手加減はしてやれ――ウヌが本気を出したら、刹那が木っ端微塵になってしまう故な……」



うん、言われなくても手加減する。
まさか環の前で刹那を『汚い花火』にする訳にも行かないしね――だがな刹那、事態は少しずつ変わってきている……環が新たな王
になっても、死なずに済む道があるかもな。



「え?其れは一体!!」

「さてな。それにまだそれは、可能性でしかないからね――ではな。」

とは言え、黎明の碑の事を刹那サイドの誰かに伝えておきたい所だが……



「残念、ヤッパリ仲間にはなってくれなかったんだね。
 君の事はちょっと気に入ってたから残念だよ、アインスさん。」

「アーナスか。」

陣の外で待っていてくれたのか?……まぁ何だ、仲間にはならなかったよ――今更環を裏切る事は出来ないし、何よりも環の許を去
ってしまったら、あの最高の温泉と、湯上りの牛乳が味わえなくなってしまうからね。



「前半の理由は兎も角、後半は冗談だよね?」

「………うん、冗談だよ?」

「その微妙な間はなんなのさ……」



御免なさい、ちょっぴり嘘つきました。
後半の理由も半分くらいはマジです。宿舎には露天風呂とマッサージチェアと筐体型ゲームがあって凄く快適なんだ――因みに三国
志の英雄達にゲームの操作方法教えてみた所、趙雲が行き成り全クリして驚きましたとさ。

「とまぁ、そんな事は今は置いといてだ……アーナス、お前口は堅い方か?」

「そうだね、軽口は叩くけど、人の秘密とかをペラペラしゃべる趣味はないよ……でも、其れが如何したの?」

「大事な話がある――この三つ巴の戦いの根幹に係わる事だ。
 そしてこの話は、出来るだけ刹那には聞かせないで欲しいんだ。」

「……何やら、訳ありみたいだね?一体何なの――大丈夫、刹那さんには絶対に言わないから。」

「誓えるか?」

「教皇庁の聖騎士の名に懸けて、何よりも私自身に懸けて。」



ならば話そう。
刹那は環が王になると死ぬと言っているが、其れはまぁ間違いではない――が、何故王になると環は死んでしまうのか……刹那は泉
を操る為の代償と思っているのだがそれは違う。
本当は、泉の底に封じられた魔物に力を吸い取られてしまうからなんだ。



「なっ!!」

「し~!」

「……ゴメン。其れ、本当なの?」

「志貴が調べ上げた結果だ。
 だが、その存在に行きつく中で、志貴は魔物の封印方法が記された『黎明の碑』と言うモノの存在を知った……私達も志貴から聞い
 た事だ。」

その碑は、この世界のどこかにあるらしくてね?私達も志貴とは別に、戦いながら碑を探す事にしたんだ――だからもし、お前達が其
れらしき物を見つけたら、それとなく刹那に見せて志貴を訪ねるように誘導して欲しいんだ。



「其れは構わないけど、何故それを刹那さんに言っちゃいけないの?」

「……魔物は、元々この世界に居た誰かの目を通して世界を見ているらしい。
 若しも刹那が魔物の影響下にあるとしたら、己を封印しようとしている者達を放ってはおかない――だとすれば、碑を探している事が
 バレたら、最悪妨害してくるかもしれないだろ?
 だから、見つけるまでは絶対に知られてはならない――逆に見つけてしまえば話しても構わない。」

「そっか、其れを見つければ魔物の封印方法が分かるから、其れが分かっちゃえば魔物だって殆どチェックメイトな訳か。
 分かった、そう言う事ならこの話は私の中で留めておく――この広い世界で、黎明の碑ってのを探すのは難しいかも知れないけど、
 其れが見つかれば、この戦いを終わりにする事が出来るかも知れないから、頑張ってみるよ。」



そうしてくれ。
其れじゃあなアーナス――次に戦場で会ったその時は、私を楽しませてくれよ?……お前が本当の力を解放すれば、私と互角に戦う
事が出来る筈だからな。



「考えとく……じゃあね、アインスさん。」

「あぁ、またな。」



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と言う訳で、戻ってきました聖域に。
だが、何やら騒がしいみたいだな?……環、何かあったのか?



「アインス様、お戻りになられたのですね!――刹那兄さまはなんと?」

「……気は変わらない、お前が王になるのを全力で阻止するんだそうだ。」

「……そう、ですか。」



はぁ、仕方ないとは言え、嘘をつくと言うのは良い気分ではないね。


其れで環、一体何があった?――まさかとは思うが、新たな英雄が見つかったとか、そんな事じゃないよな?



「正解でございますアインス様。
 族が暴れているとの話を聞いたので、詳細を調べさせたところ、何やら英雄様と思わしき方が、賊を相手にたった一人で戦ってらっし
 ゃるとの事……如何に英雄様とは言え、たった一人では多勢に無勢にございます。
 なので、その英雄様を助太刀しようと思うのです。」

「適当に言ってみたら大当たりだったか。」

しかし大軍を相手に一人で戦うとは、中々の傑者だなその英雄は――外見的な特徴なんかは分からないかな?



「確か、亜麻色の髪を頭の左側で一つに纏め、白い服を纏い、金色の杖とも槍とも取れる武器から桜色の光線を放っていたとか……」

「……何だろう、髪型以外は全ての特徴が私の知ってる奴に酷似している……」

「その特徴……まさかとは思うけど、ママ?」



ハハハ……お前もそう思うかヴィヴィオ?
其方の世界では14年が経過し、彼女も大人になっているんだろうが――齢9歳で、私に決定打こそ与えられなかったモノの、略互角
に戦えていた彼女が大人になったら、もしかして私より強くなってるんじゃないだろうか?

なんだろう、その英雄が『彼女』であるのなら、態々助けに行かなくても何とかなるような気がする。



「奇遇ですねアインスさん、私も同じ事を思ってました。」

「だが、仮に彼女であったとしても万が一と言う事があるから、矢張り助けに行くか――私を救ってくれた礼を、改めて言っておきたい
 しね。」

「君を救った小さな勇者か?
 件の英雄が其の子だと言うのなら、私もぜひ会ってみたいよアインス。」



多分会えると思うぞ桜花。



「Then, let's suppose you are going to go early?(なら、早いところ行くとしようぜ?)
 How is it that you guys sway the tribe and I slap into it?(お前達が賊を陽動して、俺が斬り込むってのは如何だ?)」



ふむ、悪くないな。
だが、誰だお前――新たな英雄か?



「Well, that's it.(まぁ、そんな所だ。)
  I am William.nice to meet you.(俺はウィリアム。宜しくな。)」

「ウィリアム様には、以前からお力を貸していただいているのですが……その、中々お姿を見せて下さらず……」

「I also have plenty of other heroes that I can trust.(他にも頼もしい英雄は沢山いたからな。)
 I was letting you like it properly.(適当に好きにさせて貰ってたんだ。)
 But……interested in other heroes just a little more.(だが……少しばかり他の英雄にも興味が出て来てな。)
 This time, I will also fight.(今回は、俺も戦わせて貰うぞ。)」



何とまぁ、そんな奴が居たのか。
適当に好き勝手させて貰ったと言うのは如何かと思うが、この男の実力は生半可な物では無いのが良く分かる――如何やら、期せず
して頼もしい英雄が加わってくれたみたいだ。

そして、それ以上に頼りになる英雄が、この世界に来ているかもしれないと来たか――若しもお前が来ているのだとしたら、頼もしい事
この上にないぞ?……私を救ってくれた、小さき勇者よ。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の浴場