Side:アインス


周倉が新たな仲間となってくれた事で、環軍の戦力は更に強化されたんだが、其れとは別に私には少しばかりの不安要素がある。
其れは他でもないプラフタだ。

彼女の力は大したモノだが、如何せん記憶の大半を失ってしまっていると言うのは厄介なこと極まりない――オマケに聞くが戻る兆候
は全く無いのだろう?



「私は人形ですので、新たな錬金術のレシピが書き込まれない限りは記憶を取り戻す事は出来ません。
 ソフィーが積極的に私の記憶回復に繋がる何かを持って来てくれると助かるのですが……この世界では其れもまた難しいでしょう。」

「だろうな。」

とは言え、記憶が無いと言うのは色々と面倒だから、失われた記憶を探しに行ってみるか?



「どうやってですか?」

「失われた記憶と言うのは、ちょっとハードな事案で思い出す事も有るから、取り敢えず適当な戦場に向かって思い切り暴れてやれば
 良いんじゃないか?」

身体を動かした事で、失われた記憶を取り戻した事例は決して少ないくないからね――ならば、一丁やってみるか!



「取り敢えず。やってみましょう――効果のほどは、後で調べれば良いだけですからね。」

「ふふ、そう来なくては。」

其れじゃあ早速行ってみようか!











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務100
『記憶と真実~夜見と言う名の魔~』










で、やって来たのはソフィーと出会った緑の遺跡――此処でプラフタの記憶回復に繋がる何かが得られれば最高なんだが、奇襲の準
備をしている兵を見つけるとはな。
兵の毛の色から見てアレは志貴の軍勢か?……刹那と違って、積極的に動いて居なかったのは奇襲を仕掛けて確実に仕留める為だ
ったと言う事か。
これは、プラフタと2人で来たのは少し拙かったかな?



「貴女ならば、1人でも敵軍を壊滅できるのではないかと思うのですが……」

「まぁ、否定は出来んな。
 だが丁度良い、大暴れする序に連中を倒してしまおう――その中で記憶が戻るかも知れないしね。
 まぁ、もしも私が先に倒されてしまったら駆動機兵で運んでくれ。逆に……お前が先に倒れたら、私が必ず聖域まで連れて帰る。」

「まぁ、そんな事態は起きないと思いますがね……」



其れじゃあ行くとするか。
志貴軍の諸君……準備は良いか?Es ist der Beginn der Party!!(パーティの始まりだ!!)
先ずは手始めに、六爪流(峰打ち)とプラフタの駆動機兵爆裂パンチでご挨拶だ――さぁ、私とプラフタに叩きのめされたい奴は誰だ?
遠慮はしなくて良いぞ……可成り痛いだろうが命は取らないから。



「コイツは……せ、刹那様の軍の英雄を片っ端から血祭りに上げていると言う6本の刀を使う魔女!!」

「な、なんでコイツがこんな所に!!嫌だ、死にたくねぇ!!」



何だろう、戦わずに逃げられるととっても気分が落ち込むんだが……私ってそんなに怖いかプラフタ?
こう言っては何だが、結構容姿には自信があるんだぞ――製作者の多分な趣味が入ってる事は否めないが、そんなに怖がられると
流石に傷付くぞ……



「いえ、敵が恐れているのは貴女の容姿ではなく、その圧倒的な強さに対してでしょう――こんな事を言っては何ですが、私だって貴
 女が敵として現れたら、敵前逃亡します。
 何なんですか其の非常識な強さは……ドラゴンだって倒せてしまうのでは?」

「……多分、やろうと思えば出来るな。」

とは言え、敵が逃げてしまっては暴れようがないんだが……如何やら、英雄はそうではないみたいだな?



「奇襲の準備をしていたら奇襲されるとはね……ま、攻める手間が省けて好都合だわ。」

「あぁ、私としても好都合だ……奇襲を喰らう前にお前達を倒せるんだからな。」

しかしコイツはくノ一か?
刹那軍のかすみと同じ匂いを感じるが……若しかして妹とか?



「はぁ?アイツの妹だなんて冗談じゃないわ!――裏切り者の抜け忍は、いつか必ず息の根を止めてやるんだから。」

「其れは何とも穏やかじゃないが……取り敢えず倒させて貰うぞ?
 二刀小太刀は、装備としては悪くないが、私は刀の六爪流……リーチも攻撃力も此方が上なだけじゃなくて刃の数ならば3倍だ。
 加えて言うなら、小太刀の間合い内に入っても其れは其れで私の格闘の間合いでもあるからお前に勝ち目はないぞ!」

「舐めるんじゃないわよ!!」



舐めてはいないが、私とお前の実力差は埋めようがない――もっと言うのならば、お前よりもかすみの方が強いが、そのかすみですら
私の相手ではなかったからね。
お前は、私の敵ではない……と言うか、頭上注意だぞ?



「え?」

「終わりです。」



――ドッスーン!!



ふ、私に気を取られ過ぎたな?
まさか真上からプラフタの駆動機兵が襲ってくるとは思わなかっただろう?これぞ必殺『天空メガトンパンチ』!或は、『急降下爆撃パン
チ』だ!……って、聞こえてないだろうがな。
おーい、生きてるか?



「………」

「返事が無い。只の屍のようだ。」

「いえ、呼吸はしてるので生きてます。気を失っただけでしょう。」



だろうな。
だが、良い出だしだ――此のまま大暴れして、記憶を取り戻す序に志貴軍を倒すぞ!!



「えぇ、そうしましょう。」



其処からは何と言うか、私とプラフタによる無双の始まりだったな。
志貴軍の兵は当然として、英雄ですら私達の前には大した障害ではなかったからね……地下室の拠点を守っていた軍服の男は中々
のイケメンだったから、ちょっとだけ我が主の伴侶に良いかもと思ったのは秘密だ。

しかし、志貴軍は奇襲の準備をしてたのは間違いなさそうだが、環と戦うと言った感じではない――環よりももっと強大な何かと戦おう
としている感じだったが、誰と戦う心算だったんだ?



「……如何やら、私の記憶云々は切っ掛けに過ぎなかったようですね――偶然ではありますが、私の記憶とは全く別の意図に触れる
 事が出来るのかも知れません。」

「如何やらそう言う事になりそうだが……敵もそう簡単にやられてはくれないらしい――伝令を出したようだな?」

「その様ですね――後顧の憂いは断つべきでしょう……あの伝令、撃破しましょう。」



だな。
サーチャーを飛ばした結果、伝令は2人――南側のルートを通って行くのは私が引き受けるから、東側のルートの方は頼んで良いかプ
ラフタ?



「はい、任されました。」



頼んだぞ。
まぁ、伝令程度ならプラフタの相手ではないだろうね――そして、私の相手でもない……さぁて、覚悟は良いかな?



「んな、何処から現れたお前!!」

「空のタマフリの縮地を使っての短距離瞬間移動でな……取り敢えず、此処で大人しく倒されろ!必殺、淑女のフォークリフト!!」


――ドガァァァァァァァァァン!!


「ぺぎゃあ!?って言うか、淑女のフォークリフトって……」

「またの名をジャーマンスープレックスと言う。」

ベルカ語とドイツ語は似てるから、ドイツ人の偉大なレスラーが考案したこの技は、私が使うに相応しいと言えるな。――自慢じゃない
が、とっても美しいブリッジが出来る自信はあるからね。

で、そっちは終わったかプラフタ?



「瞬間移動で現れないで下さい、流石に驚きます。
 取り敢えず、見た通りです。」

「ひでぶ。」



……フルボッコだな。
うん、顔が腫れ上がって元がどんな顔だったのか想像も出来ん。顔面崩壊だな此れは――だが、伝令が倒されたとなっては如何しよ
うもないはずだ。――さて、如何来る?



「最早、敵陣に斬り込むほかない……直虎殿、残りの味方はお任せいたします。」

「よ、呼ばれて飛び出ました……何とか頑張ってみます。」



此処で出て来たのは真田幸村と井伊直虎――戦国の世に名を残す高名な武将だな?
相手にとって不足は無いが……オイこら直虎、何だその甲冑は!和風のビキニアーマーか?ハッキリ言って甲冑の役目果たしてない
だろ其れ!



「そう言われても、これは井伊家に代々伝わるもので……」

「そんな物が代々伝わってる時点で大分セクハラだ!!」

そもそもにして代々伝わってるとか絶対嘘だろ?
其れはどう見たって女性が装着する事を前提にデザインされてるじゃないか!――と言うか、野郎が其れを纏った姿など、気持ち悪く
くて吐くわ!



「そんな事言われてもーー!
 と、兎に角大人しくしてください……その間に魔物を倒す方法を探さなくちゃ!」

「魔物?……其れは一体どのような……?」

「あ……言っちゃいけなかったんだ……あの、忘れて下さい!!」

「直虎殿、其れは無理と言うモノ……これ以上の戦は無意味、此処は退きましょう!」

「あ、はい!それじゃあそう言う事で!!」



って、行っちゃったよ。
だがしかし魔物だと?……何とも穏やかな単語ではないが――一体それは何者なんだ?……この世界の事は、この世界の人間に聞
くのが一番だな。
戻って環に聞いてみよう。



「其れが得策ですね。
 記憶は戻りませんでしたが、それ以上の情報を得る事が出来ました――貴女は最初から此れを狙っていたのですねアインス?」

「いや、そうではないが……まぁ、結果としてはそうなったな。」

「偶然と言う訳ですか?……貴女に限っては、偶然もまた必然なのかも知れませんが。
 それはさておき、魔物の事を確認しなければなりませんね。」



だな。
なので、瞬間移動で聖域の環の場所まで速攻帰還だ!



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・・・



で、聖域に戻って環に魔物について尋ねたんだが……何か心当たりは有るか?



「魔物……ですか?
 心当たりがあるとすれば、伝説の魔物・夜見ぐらいですが……」

「成程……その夜見とやらについて、聞かせて貰えないか?」

「承知いたしました。
 夜見は、蒼い肌と、紅い瞳を持つ魔物です――初代の王が泉を創りだした時、突然現れたと言われています。
 夜見は人を憎んでいて、大地から力を奪い、世界を滅ぼそうとしました――王は其れを倒し、泉の底に封じたのです。
 ですが……此れはあくまでも伝説です。子供から大人まで知っている、古い御伽噺……夜見が実在するなんて、とても信じられませ
 ん。」



成程な。
だが、志貴達は、その魔物と戦う準備をしていたようだが――お前の占いで、夜見の事を占えないか小夜?



「そうね……やってみましょう。
 志貴が何を考えてるのかも気になるし……少しだけ時間を貰えるかしら?」

「分かった。結果がでたら声を掛けてくれ。」








――小夜占い中。私は腹ごしらえ中……やっぱりラーメンはアッサリの塩が美味しいな。








で、待つ事1時間。
結果が出た様だな小夜?



「夜見について占ってみたのだけれど……とんでもないことが分かったの。」

「とんでもないこと、ですか。其れは一体?」

「……待って、此処で話すのは危険だわ。
 もし真実を知りたいなら、私に付いて来て。――でも、きっと後悔する事になる……来るか来ないか、判断はお任せするわ。」



随分と意味深だな?まるで、二度と戻れないかのような……



「ただ、彼女が何かを知っているのは事実です。
 もし夜見が実在するのならば……此のままにしておくのも拙い気がしますね――如何しましょうか……?」

「……追うのは止めておこう。
 此処は見ず知らずの異世界……危険と分かって居て飛び込むのは無謀だ――君子危うきに近寄らずだよ。」

「確かにそうですね。
 真実とやらは、物凄く気になりますが……あの小夜が偽物と言う可能性もある訳ですし――本当に重大な事なら、きっといつか小夜
 も皆に話すでしょう。
 其れを待つのが一番かも知れませんね。」



其れが一番だよ。
機を見て、期を待ち、気を持って戦う――そうすれば負けは無いからね。

だが、如何やらこの世界の問題は単純な王位の争いでは無いのかも知れん――伝説の魔物である夜見、独自に調べる必要がある
かも知れないな此れは。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の浴場



さてと、一仕事終えた後は風呂だな矢張り。
今回は一緒に頑張ったと言う事で、背中を流してやろうプラフタ。



「人形である私には入浴は本来必要ありませんが……此処の温泉は心地よいと感じます。
 そして、その心遣い痛み入りますアインス――お返しと言っては何ですが、私が終わったらお返しに私が貴女の背中を流しましょう。」

「ふふ、其れは嬉しいね。」

背中の流しっこと言うのは、存外いい物だからね。
――お前達も一緒に如何だソフィー、ヴィヴィオ?



「気付いてたんですか?」

「流石はアインスさん……でも御一緒しても?」

「構わないよ。露天風呂の大浴場は、大勢の方が楽しめるからね。」

そんな訳で、後からやって来たソフィーとヴィヴィオも加えて露天風呂を楽しんだ――3人の目が私の胸に向けられていたのは、気の
せいだと思っておいた方が良いだろうな、うん。