Side:リインフォース


『闇の欠片』そして『砕け得ぬ闇』……それらが全て解決し、闇の書に纏わる彼是は、すべて無事に解決したと言っていいだろうな。
砕け得ぬ闇として危惧して居た存在も、ディアーチェの力を持ってして、『ユーリ・エーベルヴァイン』として新たに生まれ変わった訳だからな……ま
ったくもって、とても濃い時間だったよあの時は。

忘れたい事ではあるが、私が呪いから解放されたあの日から、ソロソロ半年が経とうとしている……タイムリミットは、或はもうすぐかも知れない。



「リインフォース、ちょう手伝ってんか?
 今日のお昼は、海鮮天丼にしようと思っとるんやけど、魚屋のおっちゃんお勧めのエビは、活きが良すぎて殻剥くのも容易じゃないんや此れ。
 なんぼ主婦力高い言うても、元気バリバリのエビを簡単に〆る事が出来るかい!!」

「エビは跳ねますからね……ですが心配ご無用です我が主!!
 でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!――と言う感じで、全てのエビを確保しました。」

「おうふ、流石やぁなぁリイン?
 でも此れで、私お手製の海鮮天丼が作れるわ~~~♪腕によりをかけて作るさかい、リインフォースも楽しみにしとってな?」



はい!……と言いたい所なのですが、如何やらタイムリミットの様です。



――シュゥゥゥン



「リ、リインフォース?」

「どうやら、此処でお別れの様です、我が主。――我が命は半年と予測していたのですが、其れは間違いでなかった……私は此処で退場です。」

「そんな!!……嫌や、そんなの嫌や!!消えんといて、リインフォース!!」



……私だって消えたくはありませんが、此れは運命なのです我が主。
ですが、共に歩む事は出来ずとも、この半年で私は貴女に伝えるべき事を全て伝えることが出来た――力の使い方に戦い方、そして貴女以外に
最後の夜天の主になれる者は居ないという事もね。

だから、笑ってください我が主――貴女の笑顔が有れば、私は其れだけで満足なのですから――



「うん……ばいばい、リインフォース!」

「いつかまた、どこかで会いましょう、我が主。」

呪われた魔導書と呼ばれてきたが……此れは私にとって、最上の終わりであったのかもしれないね……












討鬼伝×リリカルなのは 鬼討つ夜天 プロローグ
『祝福の風、鬼討ちの地に立つ』











と、そう思って涅槃に渡っていたのだが……



『グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



一体何なんだ此れは!?
私によく似た誰かが、巨大な化け物と戦っている……?
しかもこの化け物は、主はやてが聞かせてくれた御伽噺に登場する『赤鬼』その物なのだが……何故私は、こんな光景を見ているのだろうか?
私は、己の役目を全うして消えた筈なのに――



『この者か?』


――へ?


『あぁ、此の者だ。』

『良いな?』

『あぁ、良いな……此の者こそ、我等の担い手。』

『遠き地にて汝を待とうぞ。』

『遠き、戦いの地にて、我等は待つ……汝の事を。』




なんだ、この声は?
其れ以前に、この声から感じる凄まじい力は一体………ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



――バシュン!!



……ぐ……ここは一体?
竹林のようだが、主の魔力は感じない……否、主どころか、騎士達にあの幼き勇者達の魔力すら感じ取る事が出来ん――此処は何処なんだ?
可成り荒廃してしまった土地の感じからして、恐らくは別の世界なのだろうとは思うのだけれど……



『ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



な、何だ今のは!?
只の野生生物の咆哮ではない……もっと強力な何かの雄叫びだと思うのだが――此れは一体、どんな悪い冗談なのだろうな?いっその事、冗
談で済ませられたら、ドレだけ楽だったのか……

辿り着いた先に居たのは、分かり易く言うなら『大蜘蛛の化け物』と言うべき――と言うよりも、それ以外には言い様がない異形の化け物が居た
訳だ……やれやれ、生き長らえたと思ったら行きなり此れか。

しかも、そのスグ傍には、此れに襲われたと思われる女性の姿が……まだ息はあるようだが、あの傷は致命傷だろう。
シャマルが居たのであれば助けてやる事も出来たが、生憎と私は治癒魔法は使えないからな……マッタク、戦う力しか持って居ないと言う事実
が、こう言う場面で嫌になるな。

とは言え、この化け物の糧になるのを見過ごすと言うのも良い気分ではないから、先ずは貴様を討たせて貰うぞ大蜘蛛の化け物!!
如何言うカラクリかは分からないが、この身体には本来の力が戻ってきている。
魔法は使う事が出来ないようだが、身体機能の方は全盛期と同等――魔法が使えずとも、全盛期の状態であれば、私はこの身体其の物が武器
となる!!

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


――バキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!



『グギャァァァァァァァァァァァァァァ!?』


「ふむ……図体だけでなく、実際に可也頑丈なようだね?
 私の蹴りは、一撃で要塞の装甲を蹴破る位の破壊力がある筈なのだけれど……人知を超えた化け物の頑丈さは、それ以上だという事か。
 さて、お前が何者で、なぜ彼女を襲ったのかは知らないが、お前のような化け物が人を喰らおうとしているのを見過ごす事も出来なくてね?
 お前にとっては食事を邪魔された事になるのだろうが……悪いが排除させて貰うよ?」

如何に頑丈なモノであっても、『絶対に壊れないモノ』などこの世には存在しない。
まして、私は何かを壊す事に関しては、誰よりも長けているのだからね……あまり誇れた事ではないけれど、私に壊せない物は存在しないさ。
さぁ、来い化け物!



『キシャァァァァァァァァァァァ!!!』

「ふん!」

ふむ、図体が大きいだけあって、力は相当なものだな?
しかもこの巨大な爪……確かに此れを、この力で叩きつけられたら一溜まりもないだろう。相当に鍛えていたとしても、最低でも骨折は免れない。
おまけに、外殻は私の攻撃に耐える程の強度があるとなると、簡単な相手ではないが――

「せいや!!」



――ボキィ!!!



骨のない外骨格生物であるのならば、外殻を割らずとも、梃子の原理を応用して関節を攻めれば面白いように簡単に折れてしまう……此れだけ
の巨体が相手では、攻撃する側の力も必要にはなるけれどね。
とりあえずこの調子で、壊していけば何れは……



――シュゥゥゥゥゥン……



って、再生しただと!?
コイツ、壊れた体を自己再生する事が出来るのか!?しかも、爪を一本折られたと言うのに大したダメージを受けた様子もない……考えたくない
事だが、まさかコイツは不死身なのか?



「ち、違う……そいつは…不死……身……では……ない――!」

「!!……驚いたな、まだ話す力が残っていたのか?」

「大型…の、鬼……を、蹴り飛ば…し……素手で、部位を……折るとは……信じ、られないが……如何に……おまえ、が…強くとも……アレを…
 『鬼』を、素手で倒す事は……出来ない。
 鬼を、倒す……には……鬼と、戦うため、に……作られた、武器で……攻撃…しなくては……ならない。」



鬼って……此れが鬼!?
この地に降り立つ前に見た、泡沫の夢のような光景に出て来たのは正に鬼だったが、この大蜘蛛もまた鬼だと言うのか!?……いや、見様によ
っては、『牛鬼』に見えなくもないか?
コイツの頭は牛ではないが……って、そんな事は如何でも良いんだ。
鬼を倒すには、鬼と戦う為に作られた武器で攻撃しろと言われても、生憎と私はそんな物はもって居ないぞ?



「其処の……刀を……。
 其れは……私の、武器だ……鬼と、戦う為、のモノだ……其れ、を使ってくれ。
 お前……程の力、が……あるの、ならば……アイツを……ミフチを、討つ事…が、出来る……筈……だ。」



刀……此れか?
……手にしてみれば、確かにこの刀は不思議な力を宿しているようだね?魔力とも違う、今まで出会った事のない力だが、同時に此れならば、コ
イツを倒せるという事も分かる。

剣術の心得はないが、将の戦い方を真似る位の事は出来る。
夜天の魔導書の管制人格だった故に、騎士達の戦い方は、本人達以上に知っているのだからね――さて、本番は此処からだ!!








――――――








No Side


有効打を与える事の出来る武器を手にしてからは、今度こそリインフォースの独壇場だった。
大蜘蛛の化け物――ミフチの攻撃を紙一重で躱し、或は鞘で受け止めながら、手にした刀で的確に身体を斬り裂いてダメージを与えて行く。
しかも、ただ斬り裂くのではなく、的確に関節を攻撃して、爪やら足やらを斬り飛ばしていく!!――とは言え、ミフチは身体のパーツを幾ら失った
所で、鬼の特性で動く事が出来るのだが。

鬼は、例え四肢が失われたように見えても、其れはあくまで表層生命力が剥がれた状態であり、本体である内部生命力は生きている故に、見た
目には四肢がなくとも、動く事が出来るのである。

だが、同時にそれは表層生命力と言う『鎧』を失ったと同義であり、内部生命力が剥き出しになった部位を攻撃されると途轍もないダメージを受け
てしまうのだ、鬼と言う存在は。


「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


無論、リインフォースとて無傷ではない。
ミフチの大爪による攻撃が何度も掠り、白い肌には幾つもの赤い筋が浮かんでいる。――が、そんな事は意に介さずに、リインフォースはミフチの
事を、一気呵成に攻め立てる!

鞘当て、鞘打ち、抜刀斬り上げからの斬り下ろし……大凡『真似事』とは思えない、流れるような見事な剣術でミフチを追い詰めていく。


「此れで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


――キィィィン……ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!


『グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』




そして、この戦いに終止符を打ったのは、リインフォースの渾身の力を込めた抜刀居合。
目視も難しい位の速さで放たれた其れは、ミフチの身体を斬り裂き、内部生命力をも削り取って、完全に生きる力を奪い去ったのだった。
リインフォースは知る由ももないが、この一撃は、この世界で『鬼千切り』と呼ばれる、対鬼用の奥義。――リインフォースは、無意識のうちに其れ
を使って、見事ミフチを討伐したのだった。








――――――








Side:リインフォース


ふぅ……何とかなったか。
負ける気はしなかったが、この刀がなかったらもっと苦戦して居ただろうね……だが此の刀の持ち主は、そろそろ限界だろう。

「こうして死を看取るのも何かの縁だ……涅槃に渡る前に、何か言い残す事はあるか?或は、何か望みは?」

「私……は、霊山…から、派遣された、モノノフ……新たな、任地に…向かう……途中だったが……アレに、襲われ、て……この様、だ。
 もう、私は……助からない、だろう……だから、お前に……頼み、たい。
 此処から……南東に、向かった先…に……『ウタカタの里』と……いう……場所が、有る………其処に、行って…私の、代わりに、鬼を……!
 お前…程、の……力が有れば……きっと……頼む――鬼を倒し、人々に……平和を…齎してやって……くれ…………」



お、オイ!確りしろ!!オイ!!………息絶えたか。
いや、腹をこれだけ派手に貫かれておきながら、よく此処まで持ったと言うべきか……マッタク持って、人の精神力と言うのは計り知れないな。

だが、お前の遺言、確かに聞き入れた。だから、安心して眠ると良い。



――キィィィィン……バシュゥン!!



「!?」

何だ、今のは?コイツの身体から光の玉が現れたと思ったら、私と融合した?――いや此れは!!

「お前の魂が、私の魂と融合したという事か……」

光の玉が、私の中に入ってきた瞬間に、私の物ではない記憶が流れ込んで来たからね……此れは彼女の記憶なのだろう。
彼女の名は『梓』……霊山と言う場所から、今日付けで『ウタカタの里』に配属された、新米の『モノノフ』――訓練生一の使い手だったのか。

「此れは……魂が融合した結果かな?」

とは言えふと見た、刀に移り込んだ自分の姿には、少し驚いたかな?
髪と目の色が薄茶に変わり、戦闘装備の色も変わっていたのだからね?――恐らくは、彼女と私の魂が融合した故に起こった事なのだろうな。

「私は君で、君は私という事か。」

ならば、我が主が下さった名と、君の名を合わせて、私の新たな名としよう。
安直ではあるが、今日より私は『リインフォース梓』だ――なぜこうなったのかは分からないが、まだ生きる事が許されるのならば、トコトンまで生
き抜いてやろうじゃないか、彼女の分までな。

取り敢えず、先ずは彼女の言っていた『ウタカタの里』を目指すとするか。
恐らくだが、全ては其処に辿り着いてからが、本当の意味での『始まり』であるのかもしれないからね……今は、前に進むだけだ。

我が主、如何やら私は、制限時間が0になったからと言って、ゲームオーバーになる存在ではなかった様です――まさか、こんな世界に降り立つ
事になるとは、夢にも思っていませんでしたからね。










To Be Continued… 



武器解説

リインフォースが使った『打ち刀』は、原作ゲームには登場しない武器なので、原作ゲームに存在して居たらどんな操作になるのか補足をば。


武器名:打ち刀
通常攻撃:□□□□(鞘当て→鞘打ち→抜刀斬り上げ→斬り下ろし)
疾走居合:△(相手との間合いを一気に詰めて居合で攻撃。)
天翔居合:△長押し(相手との間合いを一気に詰めて居合で攻撃し、その後空中に飛びあがる)
逆手居合連斬:○~○連打(逆手の居合で連続攻撃、気力消費。ボタン連打で、気力がある限り攻撃を続ける。空中可)
空連斬:空中で□□□(空中で抜刀切り→逆袈裟切り→斬り下ろし)
回転斬り:空中で△(上方向に向かって斬りあげる。ヒットした場合は、自身が更に浮く)
兜割り:空中で△長押し(真下に向かって一気に斬り下ろす。)
○+×:鬼千切り(抜刀居合)

武器特性:攻撃後の納刀モーションをキャンセルせずに見ると、武器ゲージが増加する。
       武器ゲージが半分以上溜まっている状態では、全ての攻撃が大型鬼の複数の部位にヒットするようになる。(鬼千切りは除く)