「ぐ…オノレ…緋渡遊哉、不動遊星…」

 遊哉と遊星の渾身の一撃の前に敗れたパラドックス。
 だが、彼は生きていた。
 6万以上ものダメージを受けながら、生き延びていた。

 悔しさを隠しきれないパラドックに影が落ちる。
 其処で漸く、自分の前に誰か居るのだと言う事に気が付く。


 「お前の心の闇…確かに見せてもらった。」

 「…?お前は?」

 「我が名はダーツ。貴様は?」

 「私はパラドックス…絶望の未来を変える者。」

 その答えにダーツはニヤリと笑う。

 「絶望の未来を変える、か…素晴らしい。私と手を組めパラドックス。私と共に居ればお前の願望もかなう。」

 「……………よかろう。お前と手を組んでやる。」


 こうして手を組んだ最凶の2人。
 人々のあずかり知らぬところで、滅亡へのカウントダウンは開始された。











 を越えた遭遇(であい)と絆』〜前編〜











 ダーツとの戦いに勝利した武藤遊戯は自宅のベッドで睡眠中。
 ずっと気を張ったデュエルを続けていた為心身ともに疲れているのだ。

 その夢の中にて…



 「此処は…?」

 「どうやら、あの神殿みたいだぜ相棒。」

 「もう1人の僕…」

 もう1人の自分…闇遊戯と共に居る場所は、かつて訪れた名も無き竜が封印されていた神殿。
 其処には封印されていた3体の竜は居ない。
 代わりに新たに封印を施されている竜が2体…

 「此れは一体…?」


 ――キィィィン…


 突如遊戯の右手が光を放つ。

 「な、何?…此れはカード?」

 「相棒そいつは…」

 右手に出現したのは3枚のカード。
 恐る恐る確認する。
 そして2人は驚愕する。
 何故なら其れは…

 「ティマイオス、クリティウス、ヘルモス!!」

 「3体の名もなき竜が何故又!!」

 失われた筈の3体の竜のカード。
 其れが再び、しかも3枚揃って遊戯の元に出現したのだ。

 「ダーツは…倒したはずだ…」

 カードは応えない。
 代わりに再び輝き始める…

 「な、何!?」

 「相棒!!」

 その光は次第に大きくなり2人を包み込む。
 そして光が収まったとき、其処には新たに封印された2体の竜以外何もなくなっていた…








 ――――――








 ――童美野中央病院




 パラドックスとのデュエルから1週間。
 アキは既に退院し、通常の生活へと戻っている。(ただし脱臼した腕だけは未だに三角巾で吊ってあるが)

 だが霧恵は未だに入院生活。
 あの怪我なら仕方ないとは思うのだが…



 「遊哉、暇〜〜〜〜!!」

 相当にストレスが溜まっている様子…

 「重傷なんだから仕方ないだろ!だからこうやって見舞いに来てるじゃねぇか!!」

 遊哉のみならず、遊星、アキ、3人娘、皆で見舞いに来たりしてるのだが…

 「暇なのよ!いい加減デュエルした〜い!!」

 絶対安静でデュエルなど勿論禁止。
 デュエリストにとって此れは確かにキツイ…

 「治るまでは我慢するしかないだろうが…ホレ。」

 こんな会話をしつつナイフで巧みに林檎を剥いていた遊哉の器用さは賞賛に値する。
 だが…

 「…普通ナイフに刺したまま出す?」

 「要らないのか?」

 「いや、貰うけどさ…」

 そう言いながらナイフに刺さった半身の林檎を身だけ貰う霧恵。
 尚、遊哉がやっていた事は非常に危険なのでくれぐれも真似しないで頂きたい。

 「それにしても迦神、そんなに酷いのか?」

 「ん〜腕の方はそうでもないんだけどね。肋骨の方が結構ダメージ大きかったみたい。ちゃんとくっつくまでは絶対安静だって。
  ところであたしとアキのD・ホイールは?」

 「安心しろ。遊星と既に直してある。」

 「良かった。」

 ホッと安堵の溜息を漏らす。
 アレだけの大クラッシュだったのだから機体の方はほぼ壊滅状態。
 だが、遊哉と遊星は直してくれたのだ、其れは素直にありがたい。

 「ま、早く良くなれよ。」

 そう言って霧恵の髪を撫でる。
 極自然とこういうことが出来るのは有る意味凄い。(本人無自覚だが。)

 「もう、子供じゃないよ!」

 霧恵が頬を膨らました瞬間、病室が光に包まれ…



 「うわぁぁぁ!!」



 ――ドスン!



 「ぐえっ!!」
 遊哉:LP4000→0


 何かが光の中から落下し遊哉を押しつぶした。
 つまり、轢き殺されたガマガエルのような声は遊哉のものだという事になる。


 「たた…此処は?」

 突如降ってきた人物は現状を確認しようとするが…

 「…取り合えず人の上からどいてくれ…」

 「うわっ!ゴメン!」

 遊哉に言われてようやく自分が人を下敷きにした事に気付き、慌てて遊哉の上からどく。

 「たく…ナンなんだよイキナリ…」

 起き上がって自分を押し潰した人物を認識し遊哉は何かに気付く。

 「…武藤…遊戯さん?」

 「えっ?僕を知ってるの?」

 其れが何よりの答え。
 目の前の人物が伝説のデュエル・キング『武藤遊戯』だと自ら認めたことに他ならない。

 「彼方を知らない人なんて居ません。特に俺達デュエリストなら尚更です。」

 遊星も気付き答える。
 そんな2人に女子5人は目を丸くする。
 無論5人だって遊戯の事は知っている。
 知っているのだが…

 「ねぇ…遊戯さんて一体歳幾つなの?」

 「「「えっ?」」」

 揃って振り返る遊戯、遊哉、遊星のトリプル主人公(笑)

 「だって、遊戯さんが現役だったのって20年近く前でしょ?30越えてる筈なのに、如何見ても…ねぇ?」

 「成程、三十路を過ぎたおっさんには見えないと。」

 「…緋渡、流石に失礼だと思うぞ?」

 確実に無礼である。
 だが、遊戯は別のことに反応する。

 「20年前?…今は何時なの?」

 そう、目の前の彼等の話からすると、少なくとも自分が居た時代から20年程経っている事が伺えるのだ。
 となれば考えられる事は一つ。

 「20XX年。多分時を越えたんじゃないですかね?」

 「さも普通に言わないでよ…そんな非日常な事をさ…」

 「と言っても、俺と緋渡は1週間前に時を越えてるからな…」

 「…時を越えたんだ…」

 流石に遊戯は複雑そう。
 何で自分が飛ばされたのかまったく検討が付かないのだから当たり前だが。

 「でも、何で飛ばされてしまったんですか?」

 「分からないんだ。」

 其処まで言って遊戯は気付く。
 不可解な夢の事に。

 「そう言えば…」















 ――遊戯、説明中














 「そんな夢を…」

 「確かに不可解ですね。」

 事の次第を聞いた皆が思う。

 「だが、そうなると何で遊戯さんはこの時代に?」

 「…アレが原因じゃねぇの?」

 遊哉が病室の外を指差す。
 其処からは何時の間に現れたのか、遺跡の様な、祭壇の様な建造物が!

 「つーか、何で誰も気付かなかったんだ?」

 「遊戯さんが現れたことに気を取られてたからじゃないのか?」

 「遊星…ファイナル・アンサー?」

 「ファイナル・アンサー…」

 「……正解!ってそんな場合じゃねぇ!!遊星!」

 「あぁ!!」

 調べに行くつもりなんだろう。
 2人とも病室を出ようとする。

 「待って、緋渡君、遊星君、僕も行く。」

 「「遊戯さん?」」

 「アレはさっき話したダーツの神殿にそっくりだ。だとしたら僕は行かなきゃならないんだ。」

 「分かった。一緒に行こう遊戯さん!」

 「あたしも行く〜〜!!」

 「怪我人は寝てろ、霧恵!!」

 「え〜〜〜!?」

 「十六夜&三人娘、霧恵を抑えといてくれ!!」

 「「「「了解!!」」」」

 「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 「…緋渡君、良いの?」

 「肋骨折れてんだから大人しくしてろって話ですよ…」

 「無理は禁物だな。」


 などと言ってるうちにあっという間に病院の外。
 遊哉と遊星は素早くD・ホイールのエンジンを掛ける。


 「遊戯さん、どっちでも良いから乗ってくれ。」

 「此れは?」

 「D・ホイール。この時代のデュエル・ディスクの一種です。」

 「こんなに進化するんだ…じゃあお願いするよ遊星君。」

 そう言って、遊戯は遊星のD・ホイールに乗り込む。

 「しっかり捕まっていて下さい。」

 「分かった。」

 「準備は良いか?行くぜ、遊星、遊戯さん!!」

 遊哉の掛け声と共に一気に飛び出す2台。
 疾駆する漆黒と真紅、2台のD・ホイール。
 その先に佇む巨大な建造物。



 人々の未来を左右するデュエルが始まろうとしていた…









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