――デュエル・アカデミアSal研究所
通常、進入不可能な場所に佇む仮面をつけた男。
「見つけたぞ…此れで、私の大いなる計画は遂行される。」
男は心底愉快そうに呟くと、3枚のカードを手に文字通りその場から消えた…
『Fight The Future』〜前編〜
「カードの盗難?」
遊星よりもたらされた情報に遊哉は料理の手を止め思わず眉をひそめる。
デュエリストにとって命とも言えるカードの盗難など聞くだけで不快な物だからしょうがないが。
「あぁ。昨日行ったショップも被害にあっていたんだが…妙なんだ。」
「妙というと?」
「外部から侵入された形跡が全く無かった。それだけじゃない盗まれたのは何もレアカードって訳じゃない。
レア、ノーマル問わず高レベルの上級モンスターばかりが盗まれているんだ。」
「…解せないな。融合、儀式、シンクロ、アドバンス問わず上級モンスターは召喚に手間がかかる。
上級モンスターばかりデッキに投入したら、デッキのバランスが崩れてとても使えないモンになっちまうのに…」
料理の手を再開させながら率直な意見を伸べる。
こと、速攻を得意とする遊哉には犯人の考えが分からないようだ。
「其れに進入の形跡が無いって…犯人は幽霊か?気味の悪い…」
「さぁな、だが用心しておくに越した事は無い。」
「だな。時に霧恵と十六夜は如何した?」
「2人とも走りに行った。」
「成程…ほい。」
出来上がったパンケーキを遊星に差し出す。
フライパンのまま出すのは些か危険だと思うのだが…
「…意外だな。」
「アメリカでは自炊してたからな…」
――――――
童美野町を走るライディング・デュエル専用高速道路を疾走する2台のD・ホイール。
1人は迦神霧恵、もう1人は十六夜アキ。
つい先程までデュエルを行い、今は単純に走行を楽しんでいる。
因みに本日は霧恵の勝利。
「アキ、そろそろ戻ろうか?」
通信を使って会話をする霧恵とアキ。
「そうね、大分走ったもの。」
「じゃ、次のジャンクションで降りよう。」
「了解。」
2人とも次のジャンクションで高速を降りる事を考えていた。
更に通信で会話をしていた為、些か注意が散漫になっていた。
だからこそ気が付かなかった、背後に迫る存在に。
――キィィィィィィィ…
「?何。」
「誰か後ろから…此れは、D・ホイール!?」
霧恵と秋の後ろに迫ってきたのは、巨大な白の3輪型D・ホイール。
そして、其れを操るのは白と黒2色の仮面をつけた男。
そのスピードは唯走っている訳ではない。
明らかに2人に対してデュエルを挑もうという姿勢。
其れも1対1ではない。
1人で霧恵とアキの2人を相手にしようという構えだった。
「…ナンか、あからさまに挑発されてるよね?」
「引き下がる?」
「まさか…次のジャンクションで降りるつもりだったけど、良いわ!相手になってあげる!!」
「私もやるわ。其れが希望みたいだし。」
売られたデュエルは買うのが礼儀。
2人の顔もデュエリストの其れへと変る。
「「フィールド魔法『スピード・ワールド2』セットオン!!」」
――デュエルモード・オン
――レーンをセントラルに申請
D・ホイールの機械音声が準備完了を告げる。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
霧恵&アキ:LP4000
仮面の男:LP4000
変則タッグ・ライディング。
霧恵とアキは2人で4000ポイントのライフを共有する。
ただ、共有するのはライフのみでフィールドと墓地は別。
更に、パートナーのターンでも自由に伏せカードの使用が可能となる。
もっとも、流石にターンは交代制となるが。
「アキ、何か嫌な予感がする…気を引き締めてかかった方が良さそう。」
「霧恵…貴女がそう言うならきっと正しいのね。元より全力で行くつもり!」
ライディングデュエルの先攻・後攻はコースのファーストコーナーを制したものに決定権が有る。
故にライディングの技術とマシーンの性能も重要になってくる。
霧恵、アキ共にD・ホイールは遊哉と遊星が組み上げたもので性能はトップクラス。
だが、仮面の男のD・ホイールはそれ以上の性能を見せた。
全く減速することなくファーストコーナーを制して見せたのだ。
「!早い!!」
「何て性能なの。」
「フフフ…先攻は私から、ドロー。私はエクストラデッキより『青眼の究極竜』を墓地へ送り『Sin青眼の究極竜』を特殊召喚!」
「キョァァァァァァ!!」
Sin青眼の究極竜:ATK4500
「青眼の究極竜!?」
「海馬瀬人の最強モンスターが何で…」
いきなりの究極竜の登場に2人は驚きを隠せない。
ましてや其れが伝説のデュエリストの最強モンスターともなれば尚更だろう。
「私は此れでターンエンドだ。」
異様な雰囲気が辺りを包む。
「霧恵、私から先に行かせて貰って良い?」
「OK、任せるわアキ!」
「私のターン!」
霧恵&アキ:SC(スピードカウンター)1
仮面の男:SC1
「チューナーモンスター『夜薔薇の騎士』を召喚!」
「はぁ!!」
夜薔薇の騎士:ATK1000
「夜薔薇の騎士の召喚に成功した事により手札のレベル4以下の植物族モンスターを特殊召喚する。来なさい『ローズ・ウィッチ』!」
「うふふ…」
ローズ・ウィッチ:ATK1600
「レベル4のローズ・ウィッチにレベル3の夜薔薇の騎士をチューニング。
冷たい炎が世界の全てを包み込む…漆黒の華よ開け、シンクロ召喚!現れよ『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!」
「ショォォォォォ!」
ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400
1ターン目より現れしアキのエースモンスター。
当然その強大な力が猛威を振るう。
「ブラック・ローズ・ドラゴンの効果発動。ブラック・ローズ・ドラゴンのシンクロ召喚に成功したときフィールド上の全てのカードを破壊する『ブラック・ローズ・ガイル』!!」
吹き荒れる薔薇の嵐。
ライディング・デュエルにおいては破壊不可能なフィールド魔法を除き全てが無に帰す。
「カードを2枚伏せてターンエンド。」
相手の超強力モンスターを葬っての1ターン。
悪くない滑り出しといえる。
「私のターン。」
霧恵&アキ:SC1→2
仮面の男:SC1→2
「この瞬間、罠発動『リターン・オブ・ブラックローズ』。私の墓地からブラック・ローズ・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚する。」
「キェェェェェ!」
ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400
「ふ、無駄な事を…私はエクストラデッキより『鎧黒竜−サイバー・ダーク・ドラゴン』を墓地へ送り『Sinサイバー・ダーク・ドラゴン』を特殊召喚!」
「ギョシャァァァァ!!」
Sinサイバー・ダーク・ドラゴン:ATK1000
「今度はサイバー流の強力モンスター…」
此処に来て霧恵の疑心は確信へと変る。
このサイバー・ダークにしろ先刻の究極竜にしろ、有る特定の人物しか所持していない特別なカード。
本来の持ち主でないこの男が持っているという事は…考えるまでもなかった。
「成程…あんたが最近頻繁に起きてるカードの盗難事件の犯人ってことね!」
「コイツが!」
霧恵の指摘に男は何も言わない。
其れは肯定に他ならない。
一気に霧恵とアキの怒りが沸点に達する。
「くくく…盗難とは人聞きの悪い。私はこのカード達を正しく使っているに過ぎない。Sinサイバーダーク・ドラゴンの効果発動!
このカードの特殊召喚に成功したとき、自分の墓地の『Sin』と名の付くモンスターをこのカードに装備する。
そして装備したモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力を上昇させる!私は墓地の『Sin青眼の究極竜』を装備!」
Sinサイバー・ダーク・ドラゴン:ATK1000→5500
「Sinサイバー・ダークの効果はまだある。私の墓地のモンスター1体につき攻撃力が100ポイントアップする。
私の墓地のモンスター2体、よって攻撃力は5700!!」
「ゴォォォォォ!」
Sinサイバー・ダーク・ドラゴン:ATK5500→5700
「バトル、Sinサイバー・ダーク・ドラゴンでブラック・ローズ・ドラゴンを攻撃!『フル・ダークネス・バースト』!!」
強力な攻撃だが、其れを易々と通すようなアキではない。
「伏せカードオープン。罠カード『薔薇の防壁』。私のフィールドに植物族モンスター、
或いはブラック・ローズ・ドラゴンが存在する場合相手モンスターの攻撃を無効にしデッキからカードを1枚ドローする。」
簡単にライフは削らせない。
黒薔薇の魔女の名は伊達ではないのだ。
「ふ…ターンを終了する。」
「私のターン!」
霧恵&アキ:SC2→3
仮面の男:SC2→3
「手札よりスピード・スペル『ヴィジョンサモン』を発動。SCが3つ以上あるとき相手フィールド上のモンスター1体と同じレベルのモンスターをデッキから特殊召喚する。
彼方のフィールド上にはレベル8のSinサイバー・ダーク・ドラゴンのみよってデッキからレベル8のモンスターを特殊召喚する。
来なさい、『光霊魔導師−ライナ』!」
「えへへ〜。」
光霊魔導師−ライナ:ATK2500
「チューナーモンスター『マジキャット・タマ』を召喚。」
「にゃ〜ご。」
マジキャット・タマ:ATK300
「レベル8光霊魔導師−ライナに、レベル2マジキャット・タマをチューニング。
大いなる魔導師の魂よ、古の力を我が前に示せ。シンクロ召喚…裁け『聖霊魔導師−アリオス』!!」
「ふぅん…とんでもない化け物が居るみたいね…」
聖霊魔導師−アリオス:ATK3000
霧恵もまた強力なシンクロモンスターを召喚してきた。
しかもその攻撃力は3000!
「アリオスの効果発動。1ターンに1度相手モンスターの効果を無効にする!」
「!!」
「グルル…」
Sinサイバー・ダーク・ドラゴン:ATK5700→1000
効果を無効にされてしまうとサイバー・ダークは唯の弱小モンスターに他ならない。
「バトル!アリオスでSinサイバー・ダーク・ドラゴンに攻撃!『エレメント・ストリーム』!!」
「消え去れ!!」
――ガァァン!!
「フン…流石は歴戦のデュエリストといったところか…」
仮面の男:LP4000→2000
「カードを4枚伏せてターンエンド。」
「私のターン…」
霧恵&アキ:SC3→4
仮面の男:SC3→4
ライフは開いたが男に焦りなど無い。
そう、さもこの展開は自分の予想通りと言わんばかりに…
「デッキより光と闇の竜を墓地へ送り『Sin光と闇の竜』を特殊召喚!」
「グォォォォォ!」
Sin光と闇の竜:ATK2800
「今度は光と闇の竜…」
「一体どれだけのカードを盗んだと言うの!?」
次々と召喚される「Sin」モンスター。
そのコストとなっているのは対になる上級モンスター。
どれ程のカードがこの男の手に堕ちたのかは想像もつかない。
「バトルだ!Sin光と闇の竜で聖霊魔導師−アリオスを攻撃!『ダーク・バブディスム』!!」
「そんな、自滅!?」
「…違う…もしSin化しても元の効果を備えてるんだとしたらその狙いは…!」
「その通りだ…この玉砕によって私のライフは200ポイント減るが…」
仮面の男:LP2000→1800
「Sin光と闇の竜の効果発動。このカードが破壊されたとき、私のフィールド上のカードを全て破壊し、
墓地のSinモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する!現れろ『Sin青眼の究極竜』!!」
「シャァァァァ!!」
Sin青眼の究極竜:ATK4500
再び現れし最強の竜。
この竜の攻撃の権利はまだ残されている。
「Sin青眼の究極竜でブラック・ローズ・ドラゴンを攻撃!『アルティメット・バースト』!!」
――ゴバァァァァ!
「させない!罠カード『シフト・チェンジ』!Sin青眼の究極竜の攻撃対象をアリオスに移し変える!!」
「ほう…」
――バァァァン!!
「やぁぁぁぁ!!…なに?ダメージが現実のモノに…此れはアキと同じ力?」
霧恵&アキ:LP4000→2500
「(コイツ一体…)アリオスが破壊された事で効果発動!アリオスが破壊されたときデッキから『霊魔導師』を特殊召喚できる!
来なさい『水霊魔導師−エリア』!!」
「出番だね!」
水霊魔導師−エリア:ATK2500
「更に罠発動『奇跡の残照』!このターン戦闘で破壊されたモンスターを特殊召喚する!蘇れ『聖霊魔導師−アリオス』!!」
「…痛かった。」
聖霊魔導師−アリオス:ATK3000
「まだまだ!墓地の光霊魔導師−ライナの効果発動!『霊魔導師』がシンクロ召喚以外で特殊召喚されたとき墓地のこのカードを特殊召喚できる!」
「ふっかーつ!」
光霊魔導師−ライナ:ATK2500
現実となるダメージに戸惑いつつも、この戦術。
1500のライフダメージもこの状況とならお釣りがくるだろう。
「私はカードを2枚伏せてターンを終了する。」
「私のターン!」
霧恵&アキ:SC4→5
仮面の男:SC4→5
「私はフィールド魔法『スピード・ワールド2』の効果発動。スピードカウンターを4つ取り除き、手札のスピード・スペル1枚につき800ポイントのダメージを与える!
私の手札のスピード・スペルは2枚、1600のダメージを受けてもらうわ!!」
――ババババ!
「ぐぅ…」
仮面の男:LP1800→200
霧恵&アキ:SC5→1
スピードカウンターの減少により霧恵とアキのD・ホイールは減速を余儀なくされる。
だが其れでも相手のライフは残り200。
絶対的有利と言えるだろう。
「ブラック・ローズ・ドラゴンを守備表示にしてターンエンド。(私に出来るのはここまで。霧恵後は頼むわ!)」
ブラック・ローズ・ドラゴン:攻撃→守備 ATK2400→DEF1800
「私のターン…お遊びはここまでだ。このターンで終わりにしよう!」
霧恵&アキ:SC1→2
仮面の男:SC5→6
「伏せカードオープン『断罪の雷』!私のフィールド上のSinモンスター1体をゲームから除外し相手モンスターを全て破壊する!!」
「!!」
「そんな!」
「消え去れ!」
――ガァァァン!!
――シュゥゥゥ…
一瞬で葬られた4体のモンスター。
此れはきついが…
「伏せカード発動『デッドライン・セイブ』!このターン効果で破壊されたモンスター1体につきライフを500回復する!
破壊されたモンスターは4体、よって2000のライフを回復する。」
霧恵&アキ:LP2500→4500
転んでも唯では起きないのが霧恵である。
「(此れでライフはあたし達が大幅に有利。例え究極竜クラスのモンスターが出てきてもあたしの場には『魔法の筒』が有る。あたしとアキに負けは無い…!)」
「無駄な事を…『断罪の使者』を召喚!」
「グググ…」
断罪の使者:ATK1400
「更にデッキから幻魔皇ラビエルを墓地へ送り、『Sin幻魔皇ラビエル』を特殊召喚!!」
「グガァァァァ!!」
Sin幻魔皇ラビエル:ATK4000
「此れは!!」
「アカデミアに封印されていた『三幻魔』の1体!?」
此処まで来ると最早驚く以外に無い。
厳重なセキュリティが施されている三幻魔のカードまでこの男の手に渡っているのだ。
「フィナーレだ。ラビエルの効果発動。自分フィールド上のモンスターをリリースしそのモンスターの攻撃力を吸収する!
断罪の使者の力を吸収しろSin幻魔皇ラビエルよ!!」
「ウオォォォォォ!!」
Sin幻魔皇−ラビエル:ATK4000→5400
「バトル!Sin幻魔皇ラビエルで直接攻撃!『天界蹂躙拳』!!」
「フィナーレはこっちのセリフ!罠発動『魔法の筒』!!
相手モンス多1体の攻撃を無効にしその数値分のダメージを相手に与える!自ら5400のダメージを喰らうと良いわ!!」
「霧恵!流石だわ!!」
アキも勝ちを確信したのだろう、笑顔がこぼれる。
だが!!
「その戦術は読めていたよ…カウンター罠『罪の代価』!
私のフィールドにSinモンスターが存在する場合、相手の効果ダメージを無効にしその倍のダメージを与える!
10800のダメージを喰らうが良い!そして消え去れ!!」
このカウンターへの対抗手段は無い。
デュエル決着…
――ズガァァァン!!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」
10800もの現実のダメージは余りにも凄すぎる。
霧恵とアキのD・ホイールは強制停止では済まず、衝撃に吹き飛ばされ大破。
それだけでは無く霧恵とアキの2人は道路に投げ出されフェンスに激突。
2人とも最低でも骨へのヒビは免れないだろう…
「く…」
「まだ意識があるか大したものだ…ふ、貴様のアリオスと十六夜アキのブラック・ローズ・ドラゴンは頂いていく。」
そう言いながら大破したD・ホイールのディスクから2人のエースカードを抜き取ってしまう。
本来なら殴ってでも阻止するのだろうが、霧恵は自身のダメージから動く事ができない。
アキに至っては衝撃で完全に気を失っている。
「…ま、ちなさい…、あんたは一体何者なの…?」
「ふ…我が名は『パラドックス』。絶望の未来を変える者。」
「パラドックス…」
「さらばだ、この時代と共に滅びるが良い…!」
仮面の男―パラドックスはそれだけ言い残し文字通りその場から『消えた』。
自らのD・ホイールと共に跡形も無く。
其れと共に霧恵も意識を手放した。
後には大破したD・ホイールが2体と重傷の少女が2人…其れだけである。
レスキューが到着し2人が病院に搬送されたのはそれから30分後の事である。
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