――麻帆良学園都市:地下水路
「こんな大きな地下水路があるとは、僕も知らなかったなぁ。」
稼津斗との試合の後、タカミチは刹那が偵察用に飛ばしていた式神、通称『ちびせつな』に案内されてこの場に居た。
「此処は会場横の塔にある、超さん達の部屋から直通で、この奥に格納庫のようなものが…」
「うん…何かの研究施設かな?」
薄暗い地下道は、得体の知れなさが半端ではない。
「やれやれ、こんなとこまで来てしまたカ……稼津斗老師に手痛くやられたようだが大丈夫かナ?」
背後から突然投げ掛けられた一言に、タカミチは鋭く反応する。
「…君は…如何言う事だい?」
行き成り背後から現われた人物――超鈴音に警戒しつつ、タカミチは戦闘体勢を取る。
「1回戦で、貴方と稼津斗老師をぶつけたのは正解だたナ。まだ相当にダメージが残って居るネ。」
的確に今の状態を言い当てられ、思わず顔が歪む。
持ち前のタフネスで、動いて簡単な戦闘が可能なレベルには回復したものの完全回復には至っていない。
「アノ組み合わせには、やっぱり意図が有ったと言う訳かい?」
「その通りだヨ。…さて、元担任に申し訳ないが、私には時間が無いネ。明日、学祭が終わるまでの少しの間、おとなしくしてもらうヨ♪」
にっこりと笑う超だが、百戦錬磨のタカミチでもその笑みには冷や汗が流れるのを止められなかった。
ネギま Story Of XX 30時間目
『何やら不穏な雰囲気』
――龍宮神社:まほら武道会特設会場
「…この大会、撮影禁止じゃなかったか?いや、大会側がハイライトとして流す分には良いのか。」
20分の休憩中、会場では1回戦の試合のハイライトがダイジェスト形式で映し出されていた。
稼津斗やネギ、出場組は一旦客席の観戦組と合流。
「あ、アレって良いのかな?」
「別に試合のハイライトくらいなら問題ないし、1回戦で異常な攻撃したのはロボットの田中位だ。
まぁ、後は少々強引だが『達人同士の超高度な戦い』で片付けられないことも無い。」
魔法バレを考えるネギだが、稼津斗は気にするなと言う。
「けどよ先生、このハイライトと同様の動画がネットにも上がってるぜ?しかも御丁寧に『魔法』の煽り文までつけて。」
その一方で、試合を見ながらも、この大会の詳細をネットで調べていた千雨は『妙』な感覚を覚えていた。
「…動画は大会側から流出したんじゃないのか?其れに煽り文だと?」
「ん~…まぁ、この手の動画に盛り上げる為の煽り文や、否定的なコメントは当たり前だけど妙なのは大会そのものの話題なんだ。
この大会の詳細がネットに上がり始めたのは1週間前くらいなんだけど…上がってから不自然なほどに出て来るんだよ『魔法』って言葉がさ。
まるで、誰か……いや、超の奴が魔法の存在を表に出そうとしてるみてーだぜ?」
「成程ね。だが、1回戦の動画に『魔法』は些か無理があるな。この動画だけじゃ『よく出来た合成画像』が良いとこだろう。
ネギやマクダウェル、佐倉が吹っ飛んだのだって『ワイヤーアクション』の方がずっと説得力がある。」
しかしながら稼津斗は冷静そのもの。
もっと言うなら、司会を引き受けた和美が何らかの情報をアーティファクトで得ているだろうとも考えていた。
『さぁ、20分間の休憩も終わり、リングも完璧に修繕されました!此れより2回戦を開始します!!』
「っと、2回戦開始か。まぁ、慌てるほどの事じゃない。お前達も『祭りの出し物』として大会を楽しめ。」
2回戦開始のアナウンスを聞き、稼津斗は選手席へと引き上げる。
「冷静だよな稼津斗先生…いや、800年も生きてっとあぁなるのか?起きてたのは300年らしーが…」
「どうっかな~?元々あんな性格だったらしいにゃ~。」
「ふ~ん…」
なんだかんだで、千雨も結構馴染んでいるようだった。
――――――
「楓姉ちゃんとたつみー隊長か…どっちが強いんや?」
既にリング上には2回戦の第1試合を行う楓と真名が上がっている。
その2人を見て、小太郎は単純な疑問を稼津斗にぶつけた。
「難しい質問だな。遠距離戦闘では真名に分があるが、近距離戦闘では楓に分が有る。
指弾を使った超高速連射攻撃があるものの、的を絞らせない影分身…総じて戦えば五分と五分ってところだ。
一概にどっちが強いとは……まぁ、どっちが勝つにせよ、お前にもネギにもこの戦いは得る物があると思うぞ?」
「う~ん…まぁ、よう分からんけど兄ちゃんがそう言うなら、そうなんやろな。」
『優勝候補の筆頭を倒した龍宮真名選手vs1回戦で相手を瞬殺した長瀬楓選手!
2回戦は1試合目から目が離せない戦いだ~~!2回戦第1試合、Ready……Fight!!!』
稼津斗ですら予想が付かない戦いが始まった。
「悪いが勝たせてもらうぞ楓!」
先に動いたのは真名だ。
指で何かを弾き、其れが一直線に楓に向かって行く。
「そのセリフはそのまま返すでござる!」
楓は楓で、その弾かれた物体の弾道を読み瞬動術で真名に肉薄…せずに通り過ぎるが…
――ガガガガガガ!
直後に衝撃波が真名を襲った。
「!!?此れは…まさか超高速移動で発生したソニックブームか!?」
「一撃で見破るとは流石でござるよ。如何にも今のはソニックブームにござる。
『遠距離攻撃封印』の枷を取り払った真名を相手にするならば此れくらいは必要にござるよ。」
「それは随分な高評価だな。」
可也高度な今の攻防は勿論解説席で説明がなされている。
「龍宮選手が使ったのは恐らく『羅漢銭』と思われます。」
「『羅漢銭』とは何でしょう?」
「コイン等を指で弾く等の方法で飛ばして攻撃する飛び道具の一種で、銭形平次の銭投げのもっと強力なやつです。」
「成程。そうなると長瀬選手の攻撃は一体なんでしょうか?」
「此れは又物凄いことなんですが、恐らく長瀬選手は、龍宮選手とすれ違う刹那の瞬間に音速を超えたのかと。
ありえないことですが、音速の壁を突破した時に発生した衝撃波を叩きつけたのでしょう。」
「つまり凄い事だと言うことですね。」
意外と解説2人は良いコンビのようである。
さて、意外な名コンビの解説が如何であろうとも試合は止まらない。
「これは避けられるかな?」
真名の羅漢銭が両手撃ちになり、更に攻撃が連射式になり、まるで機関銃のような攻撃が楓に襲い掛かる。
――此れを避けきるのは不可能…ならば!
「アデアット!…『天鎖嵐龍翔』!」
避けるのが不可能と判断した楓は、アーティファクト『八岐大蛇』を呼び出し、其れを自身の周りで高速回転させコインを弾き落とす。
見ているだけで凄まじい攻防だ。
『此れは凄い!マシンガンの如き羅漢銭の超高速連射を、何処から取り出したか鎖分銅で完全シャットアウト!
最初の攻防と言い、今の攻防と言い攻撃を見切られた龍宮選手は些か分が悪いか~!?』
「アレを叩き落すとはな…」
「イヤイヤ…流石に凄まじい物量でござる。右腕と左足に1発ずつ貰ってしまったでござる。
まったく恐ろしい射撃精度でござるよ。遠距離で真名に撃ち抜けぬ物はないのではござらぬか?」
「かも知れないな。」
激しい攻防だが、2人の顔には笑みが浮かんでいた。
戦うことを楽しむ…そんな笑みが。
「しかし如何する?このままではお互いに決定打が決まらないな?」
「でござるな。…ふむ、ならば此れで如何でござる?」
そんな中、何を思ったか、楓は左手の鎖分銅を真名に投げた。
「成程…そう言うことか。確かに此れならお互いに避けようも無いな?」
その真意を理解し、真名は鎖を自らの左腕に巻きつける。
『八岐大蛇』は元々篭手と一体になった物。
此れで楓と真名の左腕は鎖で繋がれた事になる。
「この距離ならお互い外しようも無いでござろう?」
「だな。…ならこの一撃で決着といかないか?」
返事はいらない。
楓は右手に気を、真名はコインに魔力を溜める。
『なんか凄い事になってるぞ、この戦い!
行き成りチェーンデスマッチかと思いきや、如何やらお互いに外しようが無い距離で必殺の一撃を使うつもりだ~!』
正にその通り。
和美の実況に呼応するように両者が動く。
…が、ちょっと考えて欲しい。
『八岐大蛇』は誰のアーティファクトであったかを。
「!!!」
「大会の雰囲気に油断したでござるな真名。」
突然、真名の左腕の鎖が伸び、コインを撃ち出そうとした右腕ごと身体を拘束した。
「く…やってくれるな楓…本当の狙いはこっちだったか?」
「真名が乗ってこなければ、削り倒されていたでござるよ。」
楓の狙いは最初から此れにあった。
真名の出方に全てが掛かっていた博打だったが、巧く行った。
稼津斗の手前、負けられないのはどちらも同じ。
しかし、『勝利を引き寄せる才能』では楓に少々分が有ったようだ。
「やれやれ…忍者は傭兵以上に手段は選ばない生き物か…」
「左様。忍者とは、闇に生き己が任を全うするものなり…でござるよ。」
してやったりと言った感じで楓が笑う。
真名もやられたと言った感じで苦笑い。
そして、
「和美、私の負けだ。この状態じゃ一方的に攻撃されるのは目に見えてる。」
あっさりと敗北宣言。
この辺りは傭兵で有るが故の選択だろう。
傭兵は、勝てない戦いはしない主義だ。
『何と~~!最大の一撃が炸裂するかと思いきや、長瀬選手のまさかの一手に、龍宮選手此処で降参~!』
最初の派手な攻防とは打って変わって、あっけない幕切れだが此れも一つの決着の形だ。
寧ろ、この2人の戦いの場合、これ以上やってたら会場そのものがやばい可能性だって有ったのだ。
「え~っと…カヅト?」
「兄ちゃん?」
「只攻撃するだけじゃないって事だ。『言葉も兵法』…覚えておいて損は無い。」
試合の結果に少々困惑するネギと小太郎に、稼津斗は此れも一つの戦い方だと教えていた。
――○長瀬楓(4分3秒、鎖で拘束→ギブアップ)龍宮真名●――
――――――
「うぅむ…中々思い通りには行かないネ。もう少し派手な技つかてくれた方がやりやすいんだけどネ。」
地下の一室で、モニターに映し出されている第2位試合、ネギvs高音を見ながら超は呟く。
そしてその傍らには、機械式の拘束具に捕らわれたタカミチとちびせつなが。
「超君、君の目的は何だ?返答次第では幾ら元教え子と言えども、見過ごすことは出来ないぞ?」
超の思惑が分からず、タカミチは思わず目付きと語気が鋭く厳しくなる。
だが、超はそんなもの何処吹く風。
「なに、大した事ではないネ……東京圏の約2倍という魔法使いの人数。これは全世界の華僑の人口よりも多い。
更に彼等は此処とは違う異界と呼ばれる場所に幾つかの『国』まで持っている…」
「……それで?……」
超の意図が掴めず、タカミチは聞き返す。
「総人口6千700万人にも上る彼等『魔法使い』。その存在を全世界に公表する、それだけネ。大した事ではないヨ♪」
とんでもない事をのたまってくれた。
「馬鹿な…そんな事をして、一体君に何のメリットがあるんだ?」
「フフ…食事はウチの美味しいのを届けるネ。不自由にさせてスマナイ。」
問には答えず、超は部屋から消えた。
「…ど、どうしましょう高畑先生…!」
「ん~…放っておく訳にも行かないね…。でも、安心してくれ。こう言うのには君達よりは慣れてるんだ。」
機械式の拘束具で身動きは取れない。
しかしタカミチは口の中で『何か』を動かし、笑って見せるのだった。
――――――
場所は再び武道会場。
2回戦第2試合のネギvs高音の試合は思った以上に白熱していた。
『攻めるネギ選手!防ぐ高音選手!鋭い攻めと、鉄壁の防御のぶつかり合い!勝つのは果たして矛か盾か~~!』
実況の言うように、試合は攻めのネギと、防御の高音と言った展開になっていた。
――く…なんて防御力なんだ…攻撃が通らない!!
1回戦では見ることが出来なかった高音の戦術に、ネギは少々焦っていた。
高音は魔力で編んだ『影』を自らの服に『飾り布』として付け、其れを防御に使っていた。
更にこの影、防御力もさることながら、攻撃を防ぐと直後に反撃してくるのだ。
ただ、如何言う訳か防御の堅さと比べると攻撃の鋭さは非常に低く、ネギも被弾はしていない。
――まったく無茶を言ってくれますわねエヴァンジェリンさんも…
一方で高音は高音で余裕と言うわけでもなかった。
実を言うと、魔力の影を攻撃に特化させればネギにダメージを与えることは可能。
だが、試合前にエヴァンジェリンに『頼み事』をされ、防御に徹しているのだ。
――全能力を防御に回して欲しいだなんて…まぁ、ネギ先生の修行の一環でしょうけどね。
以前の高音ならば、こんな頼み事など突っぱねていただろう。
だが、稼津斗との出会いで考え方が変わった今の高音は違う。
エヴァの過去を知り、少し見方を変えるだけでその実像は全く異なって見えた。
しかも、魔法使いとして見た場合、寧ろ尊敬に値するほどの実力者だ。
故に高音はエヴァの頼み事を受け入れた。
受け入れる事で、自分が成長できるような気がしたのだ。
――さぁ如何しますかネギ先生?絶対防御状態のこの影に生半可な攻撃は通用しませんよ?
そして、自身もネギがどうやってこの防御を超えてくるかが楽しみになっていた。
――やっぱり入らない。打撃は効果ないんだ…
そのネギだが、度重なる攻撃で影の特性は大体理解していた。
最大級の『雷華崩拳』でも破ることが出来なかった影の攻略法が、如何やら見つかったらしい。
――打撃が効かないなら…!
自身の周りに魔法の矢を展開し、瞬動で一気に近付く。
「!!!」
そのあまりの速さに、高音は一瞬反応が遅れるがすぐさま影で防御姿勢をとる。
が、少しばかり間に合わず、ネギの掌が高音に触れる。
――ドン!!
そして炸裂。
『き、決まった~~!?』
一瞬、会場が静まる。
――グラリ…
「あぁ、高音さん!?」
相当な威力だったのか、高音は意識を刈り取られて崩れ、ネギが慌ててそれを支える。
同時に飾り布だった部分は消失した。
『決まった~~!!鉄壁の防御を貫いて、ネギ選手準決勝に進出決定~~!!』
ネギの勝利が確定し、会場は打って変わって大歓声だ。
「ん…ネギ先生?……私は負けたのですね。」
その歓声に呼応する形で高音が目を覚ます。
意外と回復力は有る様だ。
「お見事です。私の完敗です。」
「そんな…僕も良い勉強になりました。ありがとうございます高音さん!」
この戦いで防御の堅い相手との戦い方を学ぶ事が出来たネギは素直に高音に礼を述べた。
高音もそれにニッコリ笑って立ち上がり、ネギの右腕を上げて勝利を称える。
この行動に会場は再び大きな歓声に包まれた。
――●高音・D・グッドマン(12分08秒、零距離サギタマギカ)ネギ・スプリングフィールド○――

「さてと…行くか。」
「お手合わせ願いますよ、稼津斗先生。」
2回戦第3試合、稼津斗と刹那は既に準備万端。
後は呼ばれるのを待つばかりだ。
――良い眼になったな。…最後の『枷』を外してやるか。
第3試合は何か起きる気配だった。
To Be Continued… 