ホテル嵐山の稼津斗とネギの部屋。
 其処に居るのはネギと稼津斗、其の従者。
 エヴァと茶々丸と刹那。
 そして…


 「…一体何なんですの?」


 昨晩のゲームの勝者の1人である雪広あやかが居た。(もう1人の勝者はクスハ)









 ネギま Story Of XX 13時間目
 『大乱闘ス…シネマ村!』









 あやかが居る理由については至極簡単。
 昨晩の件でネギの従者と成ってしまったあやかだが、当然魔法等とは縁が有る筈も無い。
 ネギ自身如何すべきか悩んでいたのだが、『従者にするつもりが無いなら契約を破棄しろ。そうでないなら全てを話し責任を持て…男としてな。』
 稼津斗の言った此の一言が決め手となり、ネギはあやかを自らの従者とすることを決めた。

 で、魔法その他を只今説明中。
 足りない部分は其のつど稼津斗とエヴァから補足説明が入るので非常に分りやすい。
 結果(元々あやかの頭が良いせいもあるが)15分足らずで殆どの説明が終了した。


 「つまり此のカードは私がネギ先生の従者である事の証と言うわけですわね?」
 「はい。そしてもう1人、明日菜さんもそうなります。」

 魔法使いの従者とカードの説明までを終え一息つく。
 とは言え恐らく大した問題は無いだろう。
 ネギは責任を持ってあやかを従者とするとしているし、あやかは…言わずともね…

 それに明日菜とあやかは元々『喧嘩するほど仲が良い』の見本みたいな関係なのだ、
 本気で協力した場合これほど強いコンビは他に無いだろう。(無論稼津斗の従者達は除くが…)

 「では、これからも改めてお願いしますわネギ先生。そして明日菜さんも。」
 「こちらこそよろしくお願いしますいいんちょさん。」
 「よろしくねいんちょ!」

 がっちりと握手を交わし、ネギパーティに新たな仲間が加わった。

 「さて、説明は以上だが、ネギお前は今日は親書を届けに行くんだろう?自由行動が班別だと些か動き辛くないか?」

 「それは…うん。」

 確かにそうである。
 ネギが親書を届けに行けば、確実に途中で西からの刺客が襲ってくるだろう。
 其れを踏まえた場合、最低でも明日菜は一緒に行った方が良い。
 更に護衛の面で言うならこのか&刹那とは別行動の方が相手戦力の分断にもなり何かと動きやすいのだ。

 「其処でだ、雪広、皆に今日の自由行動に限っては班別でなくとも構わない旨を伝えてくれないか?」

 「…!そう言うことですか。了解いたしましたわ。」

 一瞬驚くものの即座に其の意を汲み取り了解する。
 まぁ例によってネギと明日菜は頭に『?』を浮かべているのだが…エヴァが説明しているから大丈夫だろう。


 「そうなるとネギの方は神楽坂は確定だが他は如何する?」

 「私と茶々丸が一緒に行こう。弟子と友にだけ頑張らせて高みの見物と言うのも少々飽きたしな。雪広あやか、貴様も来たければ好きにしろ。」
 「当然ご一緒しますわ!」

 此れで親書チームはメンバー確定。
 関わったばかりのあやかが少々不安材料だが、エヴァが居る以上は大凡問題は無いだろう。

 「と成ると近衛嬢の護衛だな。俺と桜咲は確定とすると…」

 従者7人を見まわし、戦力のバランスを考える。



 ――恐らくは今日中に何か仕掛けてくるだろうな。そうなると…
 「のどか、裕奈、楓の3人は俺と一緒に近衛嬢の護衛。
  真名、亜子、和美、クスハは別働隊としてもし一般生徒が襲われる様な事が有った場合に対処。
  和美は可能なら敵さんの情報収集をしておいてくれると助かる。」

 「分りました!」
 「了解っす!」
 「承知にござる。」

 「了解だ稼津斗にぃ。」
 「任せといてや!」
 「情報収集ね…麻帆良のパパラッチの力をお見せましょうかね〜」
 「3−Aの皆に手出しはさせないよ!」

 「良い返事だ。連中が仕掛けてくるなら間違いなく今日だろう。皆、頼むぞ!」

 「「「「「「「「「「了解!(でござる)」」」」」」」」」」
 「ふん、任せておけ!」















 と言うのが今朝の出来事。




 …何故こうなった?」

 稼津斗は現状に頭を抱えたくなった。
 何故なら今朝編成した護衛メンバーで京都を回るはずが、何故か夕映とハルナの2名が一緒に来ているから。

 護衛メンバーの誰かが漏らしたわけではないし、特に誘いをかけた訳でもないのに何故居るのか?
 つまりは…

「ふっふっふ、のどかのみならず、ゆーなと楓ちんからも強烈なラブ臭を感じるわ!」

 と言うことらしい。
 早い話全く勘だけで付いて来たのだ……正直に言うと邪魔な事この上ない。
 更に、

 「何で京都まで来てゲーセンなのよ?」
「風情も何も無いでござるな…」
「パルの馬鹿…」

 そう、場所は如何してかゲームセンター。
 関西限定のカードが如何たら言っていた気がするが如何でもいい。
 何気にのどかが容赦ない。

 「頃合を見て抜け出すのが上策だろうな…其れまでは俺達も楽しむか。」

 視線の先には刹那をプリクラの機械に引っ張っていく木之香の姿。

 「だね。私達も撮ろうか、稼津君と1人1枚ずつね。」

 此れに反応した者が居る…のどかだ。

「…裕奈さん、何時から『稼津君』と?」

 其の疑問は尤も。
 少なくとも昨日までは『カヅ先生』と呼んできた筈。

 「特殊空間での修行中に。何時までも『先生』じゃ他人行儀だもんね〜。」

 此れには流石に慌てる。
 考えてみれば従者の中で稼津斗を『先生』付きで呼ぶのは自分と亜子のみ。

「そ、そんな!だったら私も『稼津斗さん』て呼んで良いですか!?」

 恋する乙女は時に無敵の力を発揮する。
 此ののどかの気迫を感じたのかどうかは不明だが、別行動の亜子からも念話が入る。


 ――ウチも『稼津さん』て呼んで良え!?


 「別に構わないぞ?好きに呼べば良い。」

 あっさり承諾。
 稼津斗自身あまり『先生』と呼ばれるのに慣れていない為、基本的には呼び捨てか名前+敬称を好む。
 そう言った意味ではのどかと亜子の申し出は嬉しい事と言える。

 「それじゃあ1人1回ずつ撮るでござるかな。折角なので京都限定ふれーむで。」
 「そうするか。」

 夕映とハルナに隙が出来るまでは取り合えずゲーセンを楽しむ事にした。








 ――――――








 一方其の頃、親書を届けに行ったネギ一行は予想道理刺客からの襲撃を受けていた。
 仕掛けて来たのは黒目黒髪に獣耳が生え、学ランに身を包んだネギと同い年と思われる少年――犬上小太郎。

 其れが作り出した無間方処の千本鳥居にて戦闘を余儀なくされていた。

 無論エヴァは気付いていたが修行の一環として敢えてこの結界に捕らわれた。
 そして必要に挑発を繰り返す小太郎に『ぼーや1人で貴様の相手をする』と言ってのけたのだ。
 此れは勿論、挑発を逆手に取ったエヴァの作戦。
 こう言えば間違い無く小太郎はネギのみに集中すると考えた。
 そして、この相手ならネギが負ける事は無いとも考えており…其の考えは正しかった事に成る。

 「ラス・テル マ・スキル マギステル、闇夜切り裂く一条の光(ウーヌス・フルゴル コンデンキ・ノクテム)我が手に宿りて敵を喰らえ(イン・メア・マヌー・エンス イニミークム・エダット)白き雷(フルグラテイオー・アルビンカンス)!!」

 自身に契約を執行したネギが小太郎の攻撃をカウンターし、吹き飛んだところに『白き雷』が炸裂する。
 一見すれば防戦一方に見えたであろう戦いは、実は全てネギの計算の上だった。

 小太郎は確かに強い。
 が、今のネギには互角かそれ以下の相手でしかない。
 修学旅行前の修行の大詰時には明日菜、エヴァ、茶々丸の3人を同時に相手にするという無茶苦茶な事をやっていたのだから。

 更に小太郎が西洋魔術師に偏見を持ち舐めていた事も大きい。
 『接近戦に持ち込んで詠唱さえさせなければ…』その先入観がこの結果になった。


 「フン…敢えて『受け』に回り、相手が大振りの1発を出してきた所にカウンターを合わせ、吹き飛んだところに『白き雷』か。
  中々やるじゃないかぼーや。力押しでもいけたろうが、其れをせず最小の力で最大の結果を出すとは…尤も私の弟子ならばそれくらいは出来なくては困るが。
  …おっと敗者は大人しく地面に這いつくばっていろ!」

 今のネギに出来る最大の一撃を喰らって尚立ち上がろうとする小太郎の手足を氷で拘束し動けなくする。

 「ぐ、畜生…!」

 「獣化するつもりだったんだろうがそうはさせん。時に雪広あやか、この結界からの脱出方法は分ったか?」

 「ふ、勿論ですわ!私のアーティファクト『賢者の単眼鏡』にかかればこの程度の結界の出口を見つけるなど朝飯前ですわ!」

 高らかに言うあやかには単眼鏡と鉄扇…恐らくは此れが彼女のアーティファクトなのだろう。

 「この広場から東へ6番目の鳥居の上と左右3箇所の印を壊せば其れで脱出ですわ。」

 脱出口が分れば後は簡単だ。
 エヴァが魔法の矢を放つと同時に、茶々丸があやかを抱きかかえ出口に向かって疾走。
 ネギと明日菜も其れに続く。

 小太郎は追いたくても強烈な氷に拘束され身動き出来ない。

 「光って見えるのが空間の亀裂だ、ヤレ明日菜!」
 「了解よキティ!」
 ――咸卦法!!

 明日菜の拳に気と魔力が集中する。

「明日菜必殺障壁貫通拳!!」

 其の拳で空間の亀裂を粉砕し見事脱出成功!
 更に…

 「自分の仕掛けた結界に暫し捕らわれていろ!」

 エヴァが其の空間を閉じ小太郎を内部に閉じ込める。
 尤も拘束が解ければ即座に脱出できるレベルでの封印ではあるが…

 兎も角、親書組を襲撃した相手の無力化には成功した一行は取り合えず安全な場所まで移動し一息を付く事にするのだった。








 ――――――








 親書組が小太郎を退けたのと略同時刻、護衛組は京都の街をひた走っていた。


 ――く、白昼堂々街中で仕掛けてくるとは!

 ――いよいよ形振り構ってられないという所だな…


 ハルナと夕映の隙を突いてゲームセンターから出た途端に浴びせられた純粋な殺気。
 其れと同時に飛んできた何本もの鉄針。

 「楓これって普通に刺さるんじゃないの!?」
 「いやはや、街中でこんな物騒な物を使うとは…時に此処はもしや…?」

 鉄針を処理していた楓が何かに気付く。
 目の前には何やら大きな施設が…

 「シネマ村です…そっか!稼津斗さん!刹那さん!」

 何かを思いついたのどかが2人に呼びかけ目で合図する。
 それだけで察し、内部へ向かおうとするが…


 居たーーーーー!!!」
 「放置は酷いです。」


 ゲーセンに置き去りにしてきた2人が何故か先回り

 「其の強烈なラブ臭は…「悪いが今は相手にしてやれない。」…え?」

 2人を一瞥すると、跳躍一発!
 外壁を飛び越えシネマ村内部へ。

 「すみません、綾瀬さん、早乙女さん!」
 「ひゃっ、せっちゃん!?」

 刹那も木乃香を抱きかかえ稼津斗に続き、

 「悪いね2人とも!」
 「さらばでござる!」
 「御免ねハルナ〜、ゆえ〜。」

 裕奈、楓、のどかも其のまま中へ。


「はぁ〜!?何あいつ等!?何でのどかまであんな事できんの!?」
 「あの破滅的運痴ののどかが…てか全員金払えです。」

 2人は又しても放置プレイ。
 そしてこの光景を別の場所から見ているものが居た。


 「シネマ村…面白いところに逃げ込みましたなぁ。」

 濁った殺気を隠そうともせず、狂気を帯びた瞳で稼津斗達を見ていた。

 「うふふ…刹那先輩だけかと思たら、あのお兄さんに、他にも『美味しそう』な子がおりますなぁ…楽しみやわぁ…」

 不気味な雰囲気を漂わせ、この者もまたシネマ村内部へと消えた。








 ――――――








 「わぁ、せっちゃんもカッちゃんもよう似合っとるで〜。」

 シネマ村に突入した一行は木乃香の勧めで(半ば強制的に)貸衣装に着替えさせられていた。
 軽く説明すると、木之香はお姫様、のどかと裕奈は町娘、楓はくの一(楓は最早そのまま)、刹那は素浪人で稼津斗は修行僧と言った出で立ち。

 「やっぱりカッちゃんはお侍さんより力持ちのお坊さんて感じやわ♪」

 「そうか?まぁ侍の装束よりも動き易いのは確かだけどな。」

 編み笠を被って黒い袈裟を纏い、遊環付きの錫杖を手にした姿は確かに様になっている。
 其の身に纏った『武道家』の雰囲気が更に『修行僧』の感じを高めている。


 更にまったくの偶然なのだが、


 「稼津さん達もシネマ村に来とったん?」


 別行動の亜子達が合流。
 此方は亜子が町娘、和美は素浪人、真名は巫女でクスハがくの一である。
 皆一様に似合っている。

 「此れは奇遇だな。皆良く似合ってるじゃないか。」
 「ありがと。丁度良かったよ。」


 それだけ言うと和美は念話で稼津斗に集めた情報を伝える。


 ――やっぱり相手の狙いはこのかだね。如何やらこのかに眠る莫大な魔力で何かしようとしてるみたいだよ。

 ――矢張りな。他には?

 ――ネギ君達の方が襲撃されたみたい。尤も問題無く切り抜けて今は休息中。

 ――成程…ご苦労だったな。

 ――いやいや、此れくらい朝飯前さね。


 「ん?マナ、アレ何?」
 「?…馬車か?」
 「明らかにスピード違反やで!?」


 其処へ1台の馬車が猛スピードで突っ込んでくる。


 「「お前は…!!」」

 「どうも〜神鳴流です〜…じゃなかったです。其処の東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます〜。」

 現れたのは初日に出てきた護衛剣士・月詠。
 矢張り貸衣装に着替えての登場である。

 「其処な素浪人はんとお坊はん、今日こそ借金のカタにお姫様を貰い受けに来ましたえ〜〜〜。」

 何処か芝居がかった言い方に稼津斗はすぐさまに其の考えを読む。


 ――成程…劇に見せかけて堂々と近衛嬢を攫おうって腹か。だが、そう上手く行くかな?
 「借金のカタにこの可憐な姫を連れ去ろうとは聞き捨てならぬな…良かろうお主の相手は拙僧がしてくれよう。」

 稼津斗もまた芝居がかったセリフで返す。
 それに周囲のギャラリーは大盛り上がり。

 「いいぞ〜!やれやれー!」
 「あのお坊さんの人結構格好良い!」
 「周りの女の子たちも可愛いぜ!」

 誰もがシネマ村特有のイベントと思い込んでいるようだ。

 「お兄さんが相手おすか…なら其のお姫様をかけて決闘を申し込ませて頂きます〜。
  30分後場所はシネマ村正門横『日本橋』にて…刹那先輩が来ると思たらまさかお兄さんとは…逃げたらあきまへんえ〜…氷薙稼津斗はん。」

 それだけ言うと狂気に染まった笑みを浮かべ猛スピードでその場を後にする。
 周囲は盛り上がっているが、慌てたのは刹那だ。


 「正気ですか先生!」

 「至って正気だ。あの手の相手は俺の方が向いている。」

 「如何言う事だい稼津斗にぃ?」

 意味が分ってないメンバーに説明する。
 話が『そっち系統』なので木之香の事はのどか、裕奈、亜子が話題を振り、此方の話を聞かせないようにしている。

 「あいつは恐らくは戦闘狂…否『快楽殺人者』と言った輩だ。其れこそ相手を絶命させた瞬間に絶頂するほどのな。
  そう言った手合いはルールー無用のストリートファイトや『裏』の格闘大会には良く出きたからな、俺の方が戦いなれてる。」

 「そうは言っても先生は徒手空拳が得意なのではないですか?真剣相手では…」

 「凶器を持った相手と素手でやりあった事も多い。それに、此れを気で強化して使えば真剣とも渡り合えるだろ?」

 錫杖の遊環をシャランと鳴らし、不適に笑ってみせる。

 「そう言えば棒術も出来たでござるな。いやはや、稼津斗殿に怖いものは無いでござるな。」
 「少なくとも殴って倒れるモノなら何一つ怖くは無いな。」

 あくまでも余裕の有る自然体。
 月詠の殺気と狂気を受けて尚ここまでの余裕を保てているのだ心配は無用だろう。

 「だから奴との戦いは俺に任せておけ。お前は近衛嬢を守る事に専念しろ。」

 「はい!分りました!!」

 「其れで良い。よし、行くぞ!!」








 そして30分後




 「ほな始めましょうか〜…稼津斗はん。」

 橋の上には既に月詠が。

 「このか様は必ずウチのモノにしてみせますえ…うふふふふ…」

 発せられる狂気は更に強くなっている。

 「せ、せっちゃん…あの人なんか怖い。カッちゃん大丈夫やろうか?」

 其の狂気におびえ、木之香は刹那にすがりつくが、刹那は安心させるように言う。

 「稼津斗先生ならば大丈夫でしょう。それに何があろうと私がお嬢様をお守りします。」
 「…せ、せっちゃん…」

 「其の意気だ桜咲。大切な者を守ろうという意志は何よりも強い。」

 そう言って頭を一撫でし、稼津斗は橋の上へ。
 其の身に高められた純粋な闘気を纏って。

 「うふふ、やる気満々ですか?良いですわ〜。」

 「余り時間を費やすつもりは無いんでな、悪いが少し本気を出す。」

 瞬間纏っていた闘気が銀色になり一般人でも目視が可能になる。
 だが髪と目は黒いまま…『銀閃華』を発動したのだ。

 「うぉぉすげぇ!」
 「CGか?流石はシネマ村!!」
 「イケメンのお坊さん頑張って〜♪」


 この場所ならではの反応。
 多少の無茶も此処でなら演出の一環としてある程度誤魔化しが効く。
 其れを見越してこの場所を選んだのだ…此れはのどかの功績が大きい。

 月詠の方はと言うと、此れだけの闘気を受けて僅かに気圧されたものの、スグに狂気の笑みを浮かべる。
 まるで『切り殺し甲斐がある』と言わんばかりに…


 「此れは楽しめそうや…いきますえ、にとーれんげきざんてつせーん!」

 大凡やる気があるとは思えない技の言い方だが、兎も角月詠の先手で戦いが開始された。

 気を込めた二刀を使った斬撃を見舞うが、

 「遅い。俺に一撃当てたいなら楓位のスピードを身に付けて来い。」

 手にした錫杖であっさりと防ぐ。
 元々の身体能力に大きな差が有る上に、『銀閃華』の効果で稼津斗の力は5〜6倍になっている。
 如何あがいたところで月詠の力では一撃当てる事すら難しいだろう。

 「セイァ!」
 「あれ〜?」

 そして其れが『筋力』とも成ると最早其の差は『月とスッポン』処ではない。
 少し押し返しただけで簡単に月詠の身体は橋の反対側まで吹き飛ばされる。

 「思った以上にやりますなぁ〜ほなら此れは如何です〜?ひゃっきやこう〜〜♪」

 それでもすぐさま体勢を立て直し、大量の符をばら撒き大量の魑魅魍魎を召喚する。
 百鬼夜行と言いつつその数は倍以上の220!

 「小賢しい。」

 それでも錫杖一振りで50以上を還し月詠に迫る。

 「放っておいていいんおすか?あの子達はこのか様をねらいますえ〜?」
 「俺の従者7人と桜咲を、余り舐めるなよ?あの程度の有象無象相手にもならん。」

 残った妖怪は勿論木之香を攫うため橋の向こうへ。
 だが、其処には退魔師である刹那と、真名達が待ち構えている。
 と成れば当然…


 「烏合の衆では私たちには敵わないぞ?」
 「この程度では経験値の足しにも成らんでござる。」

 アーティファクトを展開した真名と楓が魔力弾と鎖分銅で応戦し、

 「ライ・オット スペル・ブックス ライブラリ 示せこの星の命の鼓動、我が意志に応えて敵を切り裂け、宇宙魔法太陽系惑星十字(グランド・クロス)!」
 「イル・ライフ セイブ・アライブ フルレイズ 風炎合成オリジナル魔法業火の大竜巻(インフェルノ・サイクロン)!」
 「妖怪の出番は真夜中さ、和美謹製参拾六式・月下雷鳴!

 派手な魔法を使うのどかと亜子に、これまた派手な気功波で戦う和美。

 「召喚された妖怪程度が八尾妖狐である私に敵うと思ってるの?」
 「おぉ、見える!私にも敵の動きが見える!!」

 アクション映画化顔負けの大立ち回りを展開する裕奈とクスハ、

 「お嬢様、私から離れないで下さい!」

 木之香を守りながらよってくる妖怪を切り伏せて行く刹那。
 可憐な少女達によるこの大乱闘に野次馬観客は大喜びなので問題は無い。
 が、面白くないものも当然居る。



 「おんのれぇ、氷薙稼津斗とひよっこ神鳴流だけでも邪魔やと言うのになんなんやあの餓鬼共は!!」

 天守閣の上より見下ろしている、刺客の黒幕と思われる女だ。
 本来ならば月詠が戦っている間に妖魔を用いて木乃香をこちら側に誘導し捕らえるはずだった。
 が、又しても予想外の戦力に誘導要員である妖魔達は木之香に指1本触れられない状況。

 「これじゃあお嬢様は手に入れられん、何とかならんのかい新入り。」

 「此れはどうしようもないね。既に彼は僕達が此処に居る事に気付いてるみたいだ。仕掛けた瞬間やられるのか此方だよ。」

 そして昨晩裕奈を攫った白髪の少年も其処に。

 「だがチャンスはある。月詠さんが倒され召喚妖魔が消えた瞬間が狙い目だね…」

 当初の目論見が外れたならば次の手を。
 戦闘終了の僅かな隙を突くつもりらしい。
 そして其の戦闘は間も無く終わろうとしていた。





 「限界か?息が上がっているぞ。」

 「はぁ、はぁ…此処までとは思いませんでしたわ〜。」

 既に誰の目にも勝負は明らかだった。
 月詠は二刀のうち1本を根元から叩き折られ、更に攻撃を仕掛ける度に的確に入れられたカウンターで満身創痍の状況。
 対する稼津斗は被っていた傘が攻撃の余波で飛ばされたのみ。
 服に傷一つ付いていない。

 更に、月詠が呼び出した妖魔は既に残すところ20を切っている。
 如何あがいても終局。


 「此れで終わりだ。」

 終幕を宣言した瞬間、其の姿が月詠の眼前から消える。

 「何処を見ている?」

 略真上から脳天に強烈な一撃が炸裂!
 其の威力で月詠の身体は首から上が橋に突き刺さった状態となり、敢無く完全KO。
 召喚された妖魔達も…


 「此れで終わりだ…受けてみろ、最大魔力集中砲(ハイパー・バースト)!」

 真名のアーティファクトから最大チャージの一撃が炸裂し全てが還る。
 其れと同時に、木之香の足元に水溜りが出現するも、

 「そうはさせないでござる。」
 「甘いよね。」

 即座に楓とクスハが刹那と木之香を水溜りから引き剥がす。
 白髪の少年の目論見までこのチート集団の前では見切られていた。


 「さてと…」

 既に索敵から相手が何処に居るのかは分っている。
 城の屋上に向かって左手を向ける。
 其処には既に気が集中し、軽く火花放電が起きている。



 「昨日のお返しだ!」
 裕奈もまた自身のアーティファクトに魔力を集中させている。

 「此れで決まりだ…虚空穿!
 「リミット・ブレイク フル・スロットル ハイテンション!雷魔砲超電磁砲(レール・ガン)!」


 放たれた気功波と魔力砲撃。
 寸分違わず、其れは天守閣の一番上の部分を吹き飛ばし粉砕する。
 その威力は余りにも凄まじい。


 「やった!?」
 「…否、寸でで逃げられた…逃げ足の早い奴だな。」


 確かに。
 直後にここを訪れた警備員が見たのはこんな快晴の日に有る筈の無い水溜りの痕のような物だけだった。


 「稼津斗先生。」

 黒幕にはまんまと逃げられたものの、木之香は守り通せた。
 ならば次はと考えたところで刹那からの提案。

 「このままお嬢様の御実家へといこうと思います。こうなった以上御実家に居る方が恐らくは安全ですので。」

 「そうしよう。案内は任せる。」

 こうして一行は木乃香の実家へ。








 そしてその頃…



 「はぁ〜茶々丸さんの入れたお茶は美味しいわ〜」
 「素晴らしいお味ですわ。」
 「美味しいです!」
 「今日は一段とだな。誉めてやるぞ茶々丸。」

 「ありがとうございます。」

 『一休み』がすっかり寛ぎタイムになっていた。








 更に…



 「クッソー!メッチャ悔しいわ!覚え取れネギ、次は負けへんからな!!」


 閉じ込められた結界内部で小太郎はネギへのリベンジを誓っていた。








 ついでに…



 「うお〜い…おれっちは何時になったら自由になれるんでい!」


 芋虫状態にされて天井から吊るされているオコジョの叫びは誰に耳にも届いては居なかった。

















  To Be Continued…