激戦……と言って良いのか悩む所ではあるが、此の戦いはリベールが終始優勢となっていた。


「闇に墜ちた嘗ての同朋達を私の手で引導を渡してやる心算だったのだが私の出番は無いかも知れないな……彼女は些か強過ぎるのではないかと思うのだが、貴方は如何思うシェン?ユーリの実力は相当だと思うのだが。」

「アイツはマジで強いぜルミナス。今はまだなのはには及ばないだろうが、潜在能力で言えばなのはに匹敵するレベルだからな……攻撃方法のえげつなさだけならなのはを超えてるかもしれねぇけどよ。」


グランセルの郊外ではユーリが拍翼でトワイライトロードの隊員を捉えると、其れを何度も地面に叩き付けた上で地面にグリグリして巨木にスタンプすると言うえげつなさ極まりない攻撃を行っており、ルミナスもシェンも若干引いていた。
ユーリ自身の戦闘力其の物は決して高くないのだが、闇の書を其の身に宿した事で現れた拍翼を使った攻撃と解放された魔力による魔法攻撃は一騎当千レベルであると言えるだろう。
其れだけでも充分に戦力になるユーリなのだが、最近はルミナスから召喚魔法も習っていたので、其の力は更に増しているのだ。


「ル……ミ……ナ……ス……何故……貴女が……裏切った……のですか……」

「ライラ……僅かばかりの記憶は残っているようだが最早自我其のモノは無いに等しいか……嘗ての同朋がこのような姿で生かされていると言うのは不遇極まりないのでね、せめて私が葬ってやる。
 我が魔力を糧とし、精霊界よりその姿を人間界に現出せよ!これが私の究極召喚!来い『ホーリー・ナイト・ドラゴン』『アークブレイブドラゴン』『巨神竜フェルグラント』!!」


『ショォォォォォォォォォォ!』
ホーリー・ナイト・ドラゴン:ATK2500

『ゴガァァァァァァァァァァァァ!!』
アークブレイブドラゴン:ATK2500

『グオォォォォォォォォォォォォ!!』
巨神竜フェルグラント:ATK2800



更に此処でルミナスが自身の究極召喚術を持ってして三体の光属性のドラゴンを呼び出して来た。
ライトロードの切り札であった『裁きの龍』と比べるとやや劣るが、其れでも此の三体のドラゴンは上級のドラゴンであり、巨神竜フェルグラントはクローゼが従えているアシェルに肉薄する力を備えているのだ。


「へっ、こりゃまたスゲェのを出して来たじゃねぇか?だったら俺も気張らねぇとなぁ!!」


このドラゴンの召喚を見たシェンはテンションが爆上がりして、一気に気を高めるとその高めた気を集中させた拳を地面に叩き付けて凄まじい衝撃波&砕けた石畳の礫でトワイライトロードにダメージを与え、更には単騎で切り込んでぶん殴るのも忘れない。
正統的な格闘技の経験はないシェンだが、士郎に師事してその教えを守りながら実戦で磨き上げた『喧嘩殺法』は格闘技のセオリーがないだけに実戦では相当に強力であったらしく、次々とトワイライトロードをKOして行くのだった。









黒き星と白き翼 Chapter77
『悪意の片鱗~仮面の女剣士の正体~』










リベール優勢の戦局ながら、なのはと一夏の前に現れた『仮面の女剣士』はなのはと一夏の心を揺さぶっていた。
なのはの前に現れた女剣士は、なのはの父である不破士郎が編み出した『神鳴流』を使い、一夏の前に現れた女剣士は一夏の姉の『織斑千冬』が習っていた剣術を自分で昇華させた独自の剣を揮って来たのだから、心が揺さぶられるのも当然と言えるだろう。


「私から家族を奪っただけでは飽き足らず、更には父の剣をも穢すか?
 ……ククク……ハハハ……ハァ~ッハッハッハッ!!悪辣さも此処まで来ると笑えて来る……だが、生憎と父の剣を穢そうとする輩に手加減をしてやれるほど私は優しくないのでな?精々猿真似の剣で生き延びて見せろ!」


だが心が揺さぶられながらもなのはは偽悪的な笑みを浮かべると三つ編みの仮面の女剣士に、レイジングハートでの突き攻撃を繰り出し、三つ編みの仮面の女剣士は其れを受け流してカウンターを放とうとしたのだが……


「スマッシャー!」


其処にカウンターのカウンターとなるなのはの近距離魔法砲撃『クロススマッシャー』が叩き込まれ、三つ編みの仮面の女剣士は吹き飛ばされた。


「テメェ……千冬姉の剣を穢すって事は其れなりの覚悟が出来てんだろうな?……テメェはぶっ殺す!」


一方で黒髪の仮面の女剣士と対峙した一夏はなのはとは異なり、怒りをあらわにしていた。
未だ怒りの感情を完全にコントロールする事が出来ない一夏だが、コントロールできない怒りがあればこそ其の身に宿している『殺意の波動』を目覚めさせるトリガーとしては此の上なく、一夏の怒りによって覚醒した殺意の波動によって一夏の肌は浅黒くなり、髪と目は赤く染まっていた。
其れでも殺意の波動に飲まれなかった一夏は阿修羅閃空で間合いを詰めてから必殺の居合いを放つが、黒髪の仮面の女戦士は其れを受け止め、そして捌いた後に強烈な斬り下ろしを放って来たが、一夏はそれを斬り上げで弾くとがら空きになったボディにミドルキックを叩き込む。
此の一撃で黒髪の仮面の女剣士は体勢を崩し、一夏はこの好機を逃がさずにアッパーカットから蹴り上げ、踵落としのコンボを叩き込むと、其処から更に鋭い肘打ちからなる『真・昇龍拳』を叩き込む。
完璧に顎を打ち抜いた一撃は普通ならば一撃で戦闘不能になるのだが、黒髪の仮面の女剣士はアッサリと起き上がって戦闘態勢を取って来た。


「頑丈さだけは大したモンだぜ。」

「マッタクだな。」


なのはの方も強力な魔法攻撃をどれだけ叩き込んでも三つ編みの仮面の女剣士はへこたれる事無く攻撃を行って来たのだ――其の姿は死をも超越したアンデッドの其れなのだが、身体が生身のままである事が不気味極まりなかった。
だが、だからと言ってなのはも一夏も諦める事はない……簡単に死なない相手であるのならば、耐久力を遥かに上回る攻撃を叩き込む、其れだけなのだから。








――――――









同じ頃、リベールの魔窟と言われているロレントでは……


「レン、エネミー・コントローラーのカードあるか?」

「レーシャに頼んで借りて来てるわよ京。」

「ならソイツを八神を対象に発動して、←→←→←→+ACで入力してくれ。」

「は~い、ポチッとな♪」

「ぐ……グぉオォォォォぉ……キョォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


京の依頼を受けたレンがエネミー・コントローラーで庵を暴走状態にし、そして暴走状態となった庵はエサーガ王国の戦力を手当たり次第に次から次へと撃滅しまくっていた……理性の利かない暴走状態はともすれば諸刃の剣なのだが、庵は暴走状態にあっても敵味方の判別が付くので、其れを巧く使えば最高レベルの戦力と言えるだろう。


「ヨシュア、行ける?」

「任せて、エステル!」


其れに加えてエステルとヨシュアの『史上最年少A級遊撃士コンビ』の力もまた凄まじく、パワーのエステルとスピードのヨシュアが敵部隊を殲滅していた。
自警団『BLAZE』は洸と璃音、祐騎と空がコンビで戦い、明日香と美月が其れをサポートする感じで、リーダーである志緒は重戦車の如き勢いで戦闘機人やらトワイライトロードやら人造悪魔を撃滅していた。
元々パワーだけならばロレントで間違いなくトップ(カシウスですら『パワーだけなら俺より上だ』と言った程。)である為、手にした重剣の一撃は振るうだけで衝撃波が発生し、地面に斬撃が叩き付けられれば衝撃波が地面を割って進み、衝撃によって割れた地面の欠片が吹っ飛んで行くと言う、『重剣ぶん回してるだけで人間凶器完成』状態であるのだ。
更にパワーだけでなくタフネスも凄まじく、戦闘スタイル的に如何しても被弾はしてしまうモノの、被弾したからと言ってダメージを受けている様には全く見えないのである……果たして彼は本当に純然たる人間であるのか些か謎である。
京とアインスのコンビ、レンとパテル=マテルとキリュウ、八神姉妹と暴走庵、シェラザードにオリビエ、京の弟子の一人であるノーヴェ、京のクローン三人、京、アインス、エステル、ヨシュアのドラゴン達、そしてまだ戦場に現れていないリベール最強と名高いカシウス、如何足掻いてもロレント地方が落とされる事はないのだが、実は意外な活躍を見せていたのが『自称草薙京の一番弟子』である矢吹真吾だ。
京への憧れから半ば押し掛け弟子となり、京からは技を見せて貰うだけで其れ以外の指導をされた事は無かったのだが、其れでも努力一筋トレーニングを続け、更にKOFで京と戦ってからは一皮剝け、憧れからのファッション格闘家から本物の格闘家に覚醒し、京の父である柴舟に鍛えられた結果炎が無くても放てる草薙流の技はほぼマスターしていたのだ。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁ……喰らいやがれぇぇぇぇ!!」


そんな真吾が最近開発したのが、京の大蛇薙のモーションを真似して放つ打ち下ろしから薙ぎ払うようにして拳を放つ力任せの裏拳『真吾謹製・俺式大蛇打』である。
大蛇薙を真似した力任せの裏拳と侮るなかれ……裏拳とは言いながらも腕を大きく振る為腕全体が武器となっており、其れは最早裏拳と言うよりも変則的なラリアートと言うべき技であり、二~三人を巻き込むほどの攻撃範囲がある上にパワーに関しては京が『純粋なパワー勝負の腕相撲なら、草薙流の呼吸を使わないと真吾に勝つのは難しい』と過去に言っていた事があるのでパワーだけなら京よりも上なのだろう。

意外な人物の意外な活躍もあり、ロレント地方は安泰のようだ。


其の一方でボース地方の悪魔将軍、ロレント地方のルガール、ツァイス地方のアーナスは漠然と嫌な予感を感じていた……此の戦いで、大切な何かを奪われてしまうのではないか、そんな予感を感じていたのだった。








――――――








場所は移って再びグランセル周辺。
三つ編みの仮面の女剣士と戦っているなのはは相手が使っている剣術が只の模倣ではなく、『神鳴流』を習得した上で自分流にアレンジしたモノだと気付いていた。
只の猿真似の模倣であれば対処も容易なので、そうであるならば『父の剣を穢した愚物』として処理したのだが、父の剣を習得した上で自己流にアレンジして自分のモノとしていると言うのならば話は別だ。
自己流のアレンジを加えるには模倣ではなく完璧に源流を習得する必要があるので、目の前の女剣士は決して軽くない鍛錬を積んで来たのは間違いない……故になのははその剣を知りたくなった。


「猿真似の模倣であったのならば即葬ってやる心算だったのだが気が変わった……貴様の剣に興味が湧いたのでな、少しばかり付き合って貰うぞ!」

「…………」


掠めた一撃で頬を斬ったなのはは、頬から流れて来た血を指で拭って舐め取ると、レイジングハートを向けて女剣士に言い放ち、其処から凄まじい近距離での攻防が開始された……単騎で戦える砲撃魔導師が近距離戦で剣士と互角以上に戦うとか、もう意味が分からないが、其れほどまでになのはは自分の得意分野を伸ばしながらも近距離戦も鍛えて来たと言う事なのだろう。


其の一方で黒髪の仮面の女剣士の相手をしていた一夏は、なのはとは逆に心が穏やかではなかった――と言うのも黒髪の仮面の女剣士が使って来た剣術は一夏の姉である『織斑千冬』が使っていた剣術の丸写しだったのだ。
千冬の剣は、色々な流派を習った上で、其れを千冬が独自にアレンジした千冬だけの剣であり、一夏の剣術とて其れを見様見真似した上で自己流にアレンジしたモノであり千冬の剣とは異なる……だからこそ一夏には黒髪の仮面の女剣士の剣は許せるモノではなかった。
模倣から生まれるモノがあるのは事実だが、一夏にとって千冬の剣の模倣は、ライトロードによって殺された尊敬する姉を愚弄する行為に他ならないのである――だからこそその怒りはマキシマムだ。


「猿真似で千冬姉の剣を振るうんじゃねぇ!その剣は、テメェ如きが軽々しく振るって良いモンじゃねぇんだよ!」

「中々に鋭い攻めだが……父と比べればマダマダ温いな。」


一夏は女剣士の横薙ぎをジャンプで躱すと其処から全体重を乗せた兜割りを繰り出し、なのはも交戦中の女剣士にカウンターのクロススマッシャーを叩き込む!
此れでKOとは行かなかったが、強烈な一撃を喰らった女剣士達の仮面には罅が入り……そして遂にそれは砕け散り、素顔が明らかになったのだが、その明らかになった素顔になのはと一夏は驚愕する事になった。


「そんな、お前は……否、貴女は……美由希姉さん……!」

「嘘だろ……何で、如何してアンタが其処に居るんだよ、千冬姉!!」


仮面の下から現れた素顔は、嘗てライトロードによって殺された筈のなのはの姉である『不破美由希』と、一夏とマドカの姉である『織斑千冬』だったのだから……!!










 To Be Continued 







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