瀕死の重傷を負い、悪魔の右腕も失ったネロは右腕の傷を焼き固めた上でルーアンの病院に搬送されて緊急手術が行われたのだが――


――ピン


手術室の『手術中』のランプが消え、中からは執刀医が出て来た。
手術室の外で待っていたなたねとダンテは居ても経っても居られず執刀医にネロの容態を尋ねたのだが、執刀医はネロは瀕死の重傷を負ってはいたモノの驚異の生命力で手術中にも恐るべき回復を見せていたと言い、切断された右腕に関しては切断された部分が無い状況だったので『機械義手手術』を行ったとの事で、機械義手を装着すれば腕を切断される前とほぼ変わらない生活をする事は可能だと説明した。
此れにはなたねとダンテも右腕に関しては仕方ないとも思っていた――斬り落とされた部分が残っていれば繋げる事が出来たかも知れないが、無いのでは其れも無理な上、回復系の魔法やアーツも基本的には『自然治癒力を超強化して回復する』モノなので四肢の再生は出来ないのだ。
ならば右腕がないままで生活するよりも機械義手を装着した方が不便はないのは明白であり、機械義手を装着する部分は生体部分と神経を繋げてあるので装着した機械義手は自分の意思で自在に動かす事が出来るので執刀医の選択は悪くはなかったとも言えるのだ。


「しかし、坊主があそこまでやられただけじゃなく悪魔の右腕まで斬り落とすとは相手は一体何モンだ?
 恐らくだが、俺のリベリオンでもあの悪魔の右腕を斬り落とす事は出来ねぇ……もしあれを斬り落とせるとしたら、『人と魔を分かつ』力を持つ閻魔刀くらいのモンだが、その閻魔刀は今は俺が持ってる訳だしな?
 或は魔界や天界に存在してる伝説級の武器なら可能かもしれないが……」

「其れもですが、ネロが斬り落とされた右腕を持っていなかった事も問題です。
 右腕を持っていなかったと言う事はつまり、悪魔の右腕は斬り落とされた上で持ち去られた可能性が高いとも言えます……悪魔の右腕には『負の遺産』、『ルサルカの亡骸』、『セフィロトの実』、『アイギスの盾』と言った古代遺産や悪魔の一部が取り込まれているのです。
 右腕を持ち去った者が、其の力を悪用しないとも言い切れません。」

「成程な……となると、右腕に収納されてた閻魔刀を俺が預かったのは正解だった訳か。」


ネロを襲った相手は不明だが、少なくとも相当な実力を持っているのは間違いないだろう。
クォーターとは言え伝説の魔剣士であるスパーダの血族であり、まだまだ粗削りな部分はあるとは言っても其の実力はダンテが認めるほどであり、一撃の破壊力に限ればダンテすら凌駕するのだから、そのネロを傷だらけにした上、悪魔の右腕まで切り落としたとなれば、其れはもう魔王クラスの実力者と言っても過言ではないのである。

其れから数時間後、麻酔が切れて目を覚ましたネロから話を聞いたダンテとなたねだったが、ネロが言うには『何か気配を感じたと思った次の瞬間には右腕が切断されて、全身を斬られていた』との事で、血で霞んだ目で見た相手は、『フード付きのコートを纏って、フードを目深に被り、ライトロードが使っていた剣を持っていた』との事だった。
因みに右腕が機械義手を装着する為の措置がされていた事に関しては、ネロは『右腕が無い方が不便だから、機械義手だろうがあれば良い。』と割とアッサリと受け入れていて特に問題は無かった。


「ライトロードの剣か……コイツは少しクサいな?」

「ライトロードは先日の戦いの時、なのはがエクゾディアの魔力までも吸収した集束砲でルミナスを残し全滅させたと思っていましたが、如何やら生き延びた存在が居ると見て間違い無さそうですね?……此れは、なのはに伝えておいた方が良いでしょう。」

「だな。
 つー訳で俺となたね嬢ちゃんはグランセル城に行って来るわ坊主……美人のナースが居たからってちょっかい出すんじゃねぇぞ?」

「アンタと一緒にすんなオッサン!……右腕が出来たら思いっ切りぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけよこの野郎……!」


去り際にダンテが余計な事を言っており、ネロは揶揄われた事にムカついていたが、ダンテは直後になたねに頭を掴まれて『お別れです。』とこんがりと焼かれたのだった……其れでも秒で着ていたもの諸共復活してしまう辺り、ダンテはルガールとタメを張る生命力を有しているのかも知れない。
因みに王都へは車で向かったのだが、その道中に現れた魔獣は絶賛轢き殺しアタックをブチかましてセピスに換え、そしてグランセル城に行く前に王都のセピス交換屋で現金に換えるのだった。











黒き星と白き翼 Chapter70
『悪魔の右腕の代替品と、蠢く暗き陰謀』










ユリアからダンテとなたねがグランセル城にやって来て、なのはと会いたいと言っていると言う事を聞いたなのはは、ユリアに二人を謁見の間に案内するように伝え、クローゼとヴィヴィオと共に謁見の間にて二人を待っていた。
其れから程なくダンテとなたねが謁見の間に現れ、なのはが用件を尋ねると二人はネロに起きた事を説明した――ネロを襲った相手の正体は不明だが、ライトロードの剣を使っていたと言う事も含めてだ。


「ネロが重傷を負った上に悪魔の右腕も失うとは……しかも其れを行ったのはライトロードの剣を持つモノだったと来たか。
 ライトロードはあの時、エクゾディアの魔力を吸収したスターライト・ブレイカーで滅殺したと思っていたがルミナス以外にも生き延びた者が居たのか……」

「或は、教授とドクターが私達の知らぬ間にライトロードの剣を回収して、其処からライトロードを再生した可能性も十分にありますね。」

「って事は、悪魔の右腕もドクターと教授の手に渡った可能性は大きいよね。」


そして其処からなのは達は、ネロを襲った相手はエステル達から聞いた教授とドクターの一派ではないかと考えていた。
十年前に稼津斗によって壊滅状態にあったライトロードを再生して殺意の波動を植え付けたのは教授とドクターであり、其の二人ならば残されたライトロードの剣からライトロードを再生してしまう位は出来るだろうと推測したのである。


「なたね、ネロの右腕には古代の遺物や悪魔の一部が取り込まれているのだったな?」

「えぇ、其の通りですなのは。」

「其れが連中の手に渡ったとなると少しばかり拙いかも知れんな……其の力を基にどんなトンデモ無いモノを開発するか分かったモノではない――とは言え、其れが分かっていれば対策は出来るか。
 よく知らせてくれたなたね、ダンテ。」

「いえ、此れ位は妹として当然の事ですよなのは。」

「なたね嬢ちゃん其れ先に言っちゃうかね?其れ言われたら、報酬請求し辛いじゃないのよ?」

「……案ずるなダンテ。
 私は価値ある情報には相応の対価を払う事は厭わん……取り敢えず報酬は五万ミラで良いか?」

「毎度ありーー!!」


状況提供にしては破格の報酬だったが、逆に言えば其れだけの価値がある情報だったと言えるだろう。
もしも教授とドクターが悪魔の右腕を手に入れたら、其処から一体何が生み出されるのかは想像も出来ないのだ――ロレントの極悪チートキャラであるアインスは教授が作ったとなれば尚更だ。

そして其の後、ネロの右腕について話が変わったのだが、なのははネロの右腕は不動兄妹に作って貰う事を提案した。
ラッセル博士に師事して化学力と技術力を学んだ遊星と遊里は、今やラッセル博士をも超える科学者であり技術者なので、此の二人に任せれば其れこそ失った『悪魔の右腕』を完全再現した機械義手が作られると言っても過言ではないのである。
なたねも其れを了承し、なのはは早速ツァイスの『不動工房』に連絡を入れてネロの機械義手の制作を依頼し、連絡を受けた遊星も其れを二つ返事で了承したのだった――報酬額三十万ミラと言うのも、何かと物入りが多い不動工房には有り難いモノだったのも事実だが。


そして其れから数日後――


「なのはから依頼を受けて、出来るだけお前の悪魔の右腕を再現してみたんだが、如何だネロ?」

「悪くないな。
 スナッチ用に伸びるサブアームを搭載して、腕の本体には鋭い爪が搭載されて、計算上はバスターを本気でブチかましても壊れない強度があると来た……コイツは、可成り調子がいいぜ。つか、元の腕よりも良いかもな此れは。」

「其れは何より。アタシも兄さんも気合入れまくって作ったからね其れは。」


ルーアンの『Devil May Cly』を訪れた遊星と遊里は、ネロの悪魔の右腕を可能な限り再現した機械義手『アームズ・エイド』を持って来ており、其れを装着したネロから感想を聞いていたのだが、ネロは悪魔の右腕よりも馴染む事に驚きながら、更に調子が良いとまで言ったのでその性能は悪魔の右腕を超えていると言っても過言ではないだろう。


「其れと、悪魔の右腕には古代の遺物や悪魔の一部が取り込まれていると聞いたから、其れを再現するために腕の中に何枚かカードを仕込んでおいた。
 何のカードが仕込まれているかは……使ってみてのお楽しみだな。」

「其処は説明してくれるモンじゃないのか?」

「次に引くカードは分からない方が面白いモノよ、違う?」

「ソイツは、確かにそうだ。」


更にカードも仕込まれていると言う事で、ネロは早速アームズ・エイドの力を確かめるためにルーアン近郊の浜辺に出向いて浜辺をうろついている魔獣を相手に性能テストを開始したのだが、その性能は凄まじいモノだった。
スナッチではアームズ・エイドからロケットアンカーのサブアームが魔獣を掴んで引き寄せ、バスターも投げ系の場合は鋭い爪が魔獣をガッチリとホールドし、打撃系の場合はインパクトの瞬間に五指と手首の関節が完全に固定されて打撃の威力を増すようになっていた。
この時点で既に悪魔の右腕を凌駕する力があるのだが――


「岩みたいに堅い殻を貫通しただと?悪魔の右腕でも罅を入れるのが精一杯だったってのに……若しかして、此れがカードの力なのか?」

「あぁ、其の通りだ。其れは仕込んだカードの一枚、『メテオ・ストライク』の効果だな。
 本来は召喚した精霊に使う事で、精霊に敵の鎧や堅い外骨格を貫通する『アーマーブレイク』の効果を与えるモノだが、アームズ・エイドでもその効果は問題なく発揮してくれたみたいだな。」


此処で更に仕込まれたカードの力が発動した。
敵の鎧や強固な外骨格を破壊出来ると言うだけでも相当に強力なのだが、ネロがその後色々と試してみたところ、アームズ・エイドは巨大な火の玉を発射したり、敵の攻撃を跳ね返したり、超絶強力な雷を発生させたり、魔力の鎖で拘束したりする事が出来たので、少なくとも『メテオ・ストライク』の他に、『デス・メテオ』、『聖なるバリア-ミラー・フォース』、『サンダーボルト』、『闇の呪縛』のカードが仕込まれているのは間違い無さそうだった……そして此れを仕込んだ不動兄妹は中々に容赦がないと言えるだろう。


「右腕が無くなっちまった時には如何しようと思ったが、より高性能な右腕が手に入ったってんなら寧ろ右腕を斬り落としてくれた事に感謝だな……此れがあれば、俺はまた戦えるぜ。
 サンキュー、遊星、遊里。」

「礼には及ばないさ。俺達も良い経験をさせて貰ったからな。」

「カード仕込むのも楽しかったからね♪……因みに仕込んだカードはまだあるから、色々試してね?魔法や罠だけじゃなく、モンスターカードも仕込んであるから。」

「ソイツは楽しみだが、ゲテモノモンスターが仕込まれてない事を祈ってるよ。」


こうしてネロは新たな右腕を得たのだが、海岸でその性能を確かめた後は、Devil May Clyに戻って宣言したとおりに病院で揶揄って来たダンテにスナッチをかまして引き寄せると、バスターで頭を掴んで持ち上げてから軽く放り投げてローキックで強制ダウンさせ、其処からアームズ・エイドで持ち上げて右に左に連続で叩き付けた後に放り投げてからサンダーボルトをブチかましてターンエンド。


「いやぁ、中々に刺激的な攻撃だったぜ坊主!」

「此れを喰らって全然平気とか、マジで不死身だなオッサン!?」


其れを喰らっても平然としていたダンテはマジで不死身なのかも知れないが、何にしてもネロの右腕が不動兄妹によってより高性能になって戻って来たと言うのはリベールにとっても大きな事だっただろう。








――――――








一方でエサーガ皇国ではワイスマンとスカリエッティが国王と謁見の機会を得ていた。
良心やら常識やらが宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばされているワイスマンとスカリエッティだが、その化学力によってエサーガ皇国の発展に一役買っているので国王からは絶大な信頼を得ていたのである。


「ワイスマン教授にドクター・スカリエッティ、余に話があるとの事だったが……」

「実は少々気になる話を聞きましてね……海の向こうにあるリベール王国は御存じでしょう?
 そのリベール王国では最近革命が起きて、前王であるデュナン王が倒され、新たな国王が誕生したのですが、その国王がかの魔王であった『不破士郎』と熾天使だった『高町桃子』の娘だと言うのです。」

「なんと、あの武人としても名高い魔王と、慈愛の熾天使の娘が新たな王に?……して、其れが何か問題があるのか?」

「新王の名は高町なのはなのだが……なんと彼女はデュナン王の姪であるクローディア姫を城から誘拐して自分が組織した『リベリオン』なる武装集団の一員としてしまったんだそうだ。
 更に、高町なのはは『鬼』や『魔女』、果てはリベール最強とまで言われているカシウス・ブライトまでをも己の味方にしてデュナンに戦いを挑み、そして勝利した。此れだけならば実に爽快な革命物語で済ませる事も可能なのだが、新王となった彼女はデュナン時代には行われていなかったカルバートとエレボニアとの不戦協定の調印式を再開させ、そして己の組織の人間を軍部や親衛隊に配置し、更にはベルカ皇国とも国交を結んでその勢力を拡大させているのだよ国王。
 その勢いは正に破竹の勢いであり、『魔族の抹殺』を掲げたライトロードからの攻撃を受けても其れを簡単に退けてしまったとの事――しかも、なのは王のパートナーとなったクローディア姫改めクローゼ妃はその戦いで其の身に宿した精霊を解放したらしい。
 そして其の精霊は『千の敵を一撃で葬った』との伝説がある『エクゾディア』との話でね……その話が本当であるのであれば、今のリベールは正に無敵と言える。
 だが、其れだけの力を持った国が此れから先、果たして力による支配を行わないと思うかね国王?――其れは断じて否!力を持った者が其の力を使わないと言う事は有り得ない!
 故に、リベールが武力を持ってエサーガに侵攻してくる可能性はゼロではない――否、ライトロードは此のエサーガに拠点を置いていた事を考えると、ライトロードに攻撃された事の報復としてリベールが攻めて来る可能性は高いと言える。」


そして謁見したエサーガ国王に、ワイスマンとスカリエッティは虚実を織り交ぜた話をした――現在のリベールが本気でトンデモナイ戦力を有しているのは確かだが、なのは武力による侵攻で国土を広げる心算は毛頭ないのだが、エサーガ国王はそんな事は知る由もないので、ワイスマンとスカリエッティの話に恐怖を感じてしまっていたのだ。
エサーガ国は決して小さい国ではなく、むしろこの大陸では最大の国でありその軍事力も絶大だと言う自負があるモノの、ワイスマンとスカリエッティから聞かされたリベールの戦力と比べると些か劣る部分があるのは否定出来ないので、リベールが侵攻して来たその時は国を守り切れる自身が無かったのである。


「そんな、余は如何すべきだ教授、ドクター!?」

「ククク、其れは実に簡単な事ですよ国王……リベールが攻めてくる前に、此方からリベールに攻め入ってリベールを滅ぼしてしまえば良いのです。その為の戦力が必要であるならば、其れは私達で用意しましょう。」

「そうか、そうだな……攻められる前に攻める、其れは真理だ!
 ならば余はリベールに攻め入る準備をしなくてはだ――いやぁ、実に良い話を聞かせて貰った!」


だが、エサーガ国王はワイスマンに言われた事でリベールに攻め入る事を決めた――そして、この時のエサーガ国王の目からは光が消え、正気を失った目をしていたのだった。


「ククク……よもや国王をも暗示に掛けるとは、君の精神操作術は見事だな教授?」

「平和ボケした国王を操るなど、私には朝飯前だよドクター……そして、コソコソと後を付けずに現れたら如何かね?コソコソと付け回るのは、騎士の名が泣くのではないかね『アルテナ・ウィクトーリア』君?」

「気付いていたんですね……」


如何やらエサーガ国王はワイスマンに精神操作されてしまったらしい。
そして、城を出たワイスマンとスカリエッティの前に姿を現したのは、リベールで開催された『KOF』にのチーム戦に参加した『サイコソルジャーチーム』の『麻宮アテナ』にそっくりな女騎士『アルテナ・ウィクトーリア』だった。
エサーガ国屈指の騎士である彼女はワイスマンとスカリエッティの事を怪しいと感じて独自に調査しており、今回の事で疑惑が確信に変わったので、隙を見て捕縛する心算だったのだが、その直前で気付かれてしまったのだった。


「ですが、気付かれても貴方達は捕えさせて頂きます!そして国王に掛けた暗示も解いて貰います!」

「ふむ……やってみたまえ。目出度く私達を捕らえる事が出来たその時は、大人しく君に従うと誓おうじゃないか。」

「君に其れが出来るとは思わんがね。」

「吐いた唾、飲み込まないで下さいよ!」


挑発とも取れる事を言ったワイスマンとスカリエッティにアルテナは剣を抜刀して斬りかかったが――数分後、アルテナはボロボロの状態で地に伏せており、その身体はワイスマンとスカリエッティのアジトへと連れて行かれたのだった。











 To Be Continued 







補足説明