KOFのチーム戦は激闘の末に京率いる『ロレントチーム』が初代王者となったのだが、その直後に乱入して来たのは、個人戦で乱入して来た『火引弾』とは比べ物にならないほどの存在だった。
赤い軍服の様な衣を身に纏い、更には闇色のオーラを醸し出している……只者でないのは間違いないだろう。
この突然の乱入者に対し、京とリュウ、そしてエステルもやる気は満々なのだが、ダメージエミュレートが解除されれば試合のダメージは無くなるとは言え、疲労まで消す事は出来ないので、可成り不利な戦いになるのは間違いないだろう。


「此処で乱入者とは……リシャール大佐達を呼びますかなのはさん?」

「其れには及ばんよクローゼ……こんな事もあろうかと、私はアイツが個人戦にエントリーする事を認めたのだからな。」


この事態に、クローゼはリシャールを呼ぶかと言ったが、なのはは其れには及ばないと答え、更にはこのような事も考えて、個人戦にある者をエントリーする事を認めたと言って来たのだ。
KOFの個人戦にも相当な実力者がエントリーしていたのだが、その中でなのはが直々にエントリーを許可したと言うのは……


「決勝戦後に現れるとは、些か無粋ではないかな?
 見事な戦いを披露してくれた彼等に対して申し訳ないとは思わないのかね?……否、無粋な乱入者に其れを聞くと言うのは愚問だったか……だが、君の相手に彼等は勿体ないと言うモノだ。」

「きぃすわまぁ、ぬぁにモノだぁ?」

「魔王が一人、ルガール・バーンシュタイン。以後お見知りおきを。」


魔王の一人であるルガールだった。
嘗ては悪魔将軍に次ぐ戦闘力の高さだったが、オロチの力を手に入れてからは悪魔将軍に匹敵する力を得て、更に殺意の波動をも宿したルガールの戦闘力は、殺意の波動を解放すれば悪魔将軍をも上回るだろう。
其れだけの力を持ったルガールがKOFに参加したら確実にバランスブレイカーになるのだが、其れでもなのはがエントリーを許可したのは万が一の事態に備えての事だったのだ。


「オイオイ、イキナリ現れて主役掻っ攫う気かよアンタ?あんな奴、魔王であるアンタが出るまでもないだろ?」

「いやいや、栄えあるKOFの初代王者チームに無粋な乱入者の相手はさせられまい?
 それにだ……私はこのような事態が起きた時に真っ先に対処する事を条件になのは君に大会へのエントリーを認めて貰ったのでね……その約束を果たさぬ、と言う訳にも行くまい?――魔族にとって約束を違えるのは万死に値する事だからね。」

「そう言われたら何も言えねぇんだけどよ……まぁ、アンタなら大丈夫だろうから心配はしてねぇけどな。」

「だが、奴の纏っている力は殺意の波動に匹敵する闇の力だ……くれぐれも油断するなよ!」

「ご忠告痛み入るリュウ君。……ふむ、ならば其の力も私が取り込んでくれよう!」


京としては少しばかり不満があった様だが、こう言われてしまっては引き下がるしかなく、京もリュウもこの場はルガールに任せる事にした――エステルとケンとジンは京とリュウ以上に疲労レベルが高く、炎殺黒龍波後の強制睡眠に陥ったアインスはそもそもこれ以上の戦闘は不可能だったのだが。


「キヒヒヒヒ……まさか地下から此処に潜り込む事が出来るとは思わなかったぜ……あの親父には邪魔されちまったが、こうして暴れる機会が来るとはツイてるぜ!」


だが、此処で更なる乱入者が現れた。
其れは決勝戦後の乱入を目論見たモノの、柴舟と京のクローンズによって其れを阻まれて逃走した筈の山崎竜二が、狂気の笑みを浮かべてグランアリーナのフィールドに現れたのだった。











黒き星と白き翼 Chapter62
『Destroy the innocent intruders』










ベガに続いて山崎のまさかの乱入。
如何にルガールと言えども二人を同時に相手するのは厳しいモノがあるのだが、なのはが特別にエントリーを許可したのはルガールだけではない――もう一人、直々にエントリーを許可した者が居るのだ。


「外道の気配を感じたと思ったが、まさかこれ程の外道が現れるとはな……貴様、己の享楽の為に人の命を奪う事を厭わないな?」


其れは『鬼』である稼津斗だ。
稼津斗もまたルガール同様、KOFに参加したら完全なバランスブレイカーになるのだが、これまたルガールと同じ理由で大会へのエントリーを許可されていた……此の特別エントリーの魔王と戦ったレーシャと、鬼と戦った空は夫々己の殻を破って成長したので、緊急時の対応以外にも稼津斗とルガールがKOF個人戦にエントリーした意味は大きかったのかもしれないが。


「アンタが、鬼か……」

「お前達の技、恐らくは『俺は教えん、見ていたければ見ていろ』と言って実際に俺の側で見ていた連中の一人が武術として昇華させた物だろうが、其れだけに少し綺麗に纏まり過ぎてるな?
 武に携わった時間の差で一夏と刀奈には勝てたようだが、真の鬼の技には程遠い……真なる鬼の技を其の目に焼き付けておけ。」

「真の鬼の技……あぁ、この目に焼き付けさせて貰おう!」


山崎には稼津斗が対処する事になり、フィールドは決勝戦後のエクストラマッチとなった。


「お手並み拝見と行こうか?」

「此のベェガ様にすわぁからおうと言うのか……ムゥッハァーー、かぁた腹痛いわぁ!!」

「ハンデだ、使えよ!」

「我、拳武器故刃物不要!」


戦いが始まると同時にルガールは殺意の波動を発動して『ゴッド・ルガール』となり、稼津斗もオロチの力を全開にして『神・豪鬼』となり、稼津斗は山崎が投げ寄こした匕首を拳で叩き折ると言う事までやってのけた。
数ある刀剣類の中でも無類の強さを誇る『刀』と同じ製法で作られた匕首を叩き折るとは、稼津斗の拳の強さはハンパなモノではないだろう。

そうして始まった戦い、先ずはルガールvsベガ。
互いに身長が190cmを超える巨体であるのだが、ベガはその巨体からは想像も出来ないような身軽さで動き回り、ルガールを翻弄しようとしたのだが、『ゴッド・ルガール』となったルガールもまた、ルガール版阿修羅閃空の『ゴッドレーン』があるので地上での機動力は互角だった。
だがベガはルガールよりも跳躍力があり、遥か上空から高速ダイブで突進するサマーソルトスカルダイバーを仕掛ける。


「其れは読めていた……ジェノサイドカッター!ワッハッハ!!」


其れに対しルガールはジェノサイドカッターで迎撃し、更にグラヴィティスマッシュを叩き込み、着地と同時にゴッドプレスでアリーナのフェンスにベガを叩き付ける!並の相手ならば此れでKOされていただろう。


「すわぁすがは魔王……くおぉれくらいの実力がなくては興醒めと言うもぬぉ!!」

「口は達者なようだが、君の弱さは失礼だと思うのだがね?」

「ほざけぇい!」


ダウンから復帰したベガは、ベガワープで一瞬にして距離を詰めると、其処からボディブロー→ダブルニープレス→サイコブロー→サイコクラッシャーの連続技をルガールに喰らわせる。
其れを喰らってもルガールはダウンしなかったのだが、其れをベガは強引につかむとデッドリースルーで投げ飛ばす。――が、投げられたルガールは空中で受け身を取るとゴッドレーンで間合いを詰め、肘打ち→裏拳→ダブルトマホーク→ビースデストラクションと繋ぎ……


「君の死に場所は此処だ!はっはっはっはっは!!」


ベガを片手で持ち上げるとオロチの力と殺意の波動を複合した闇の力による気の柱での攻撃を喰らわせる!その気の柱には髑髏の紋様が浮かび上がっているのが何とも印象的だ。
プロフェッサーとドクターが作り上げた身体は最高クラスの物だったのだろうが、其れでもオロチの力と殺意の波動を宿した魔王の前では脅威になるモノではなかったようだ。


「くぅらえぇい!サイコクラァァァァァァァァァ!!」


此処でベガは、ベガワープからサイコパワーを全身に纏って突撃する『ファイナルサイコクラッシャー』を放って来たのだが、ルガールはゴッドレーンで其れを余裕で回避し、攻撃後にベガワープで現れたベガに音もなく近付き……


「ルガールさん、やっちゃえーー!!」

「此の声援を受けてはやらずには居れないな?逃がさん……ハッハッハァ!!」


レーシャの声援を受けて、ルガール版瞬獄殺、『ラスト・ジャッジメント』をブチかましてターンエンド!
『死者の魂すら殺す』殺意の波動の最終奥義である瞬獄殺を喰らったベガは其のままゲームエンドになったのだが、サイコパワーによって精神体として生きているベガにとっては身体の崩壊は大した問題ではなく、同時にプロフェッサーとドクターにとっても、今回の戦いのデータはベガの新たな身体を作る上での重要なモノとなったので此度の敗北は其れほど痛手ではないのかもしれない。


同じ頃行われていた稼津斗と山崎の戦いはと言うと――


「ちぃ、動きが掴めねぇ!何処に居やがる!」


阿修羅閃空で滑るようにフィールドを移動する稼津斗の事を山崎は捉え切れずにいた。
元々阿修羅閃空は残像を残す程の高速移動をしながらも一切音を立てずに滑るように移動する移動術なのだが、オロチの力を得た稼津斗の阿修羅閃空は更に洗練され、移動時の残像の数が増えて幻惑の効果が高まり、更に移動速度も増した事でより捉える事が困難になっていたのだ。

その阿修羅閃空で山崎を翻弄した稼津斗は、鋭いジャンプから二連発の斬空波動を放つと同時に天魔空刃脚で山崎を強襲し、着地と同時に下段の足刀蹴りを放って山崎の体勢を崩すと、其処に竜巻斬空脚を叩き込み……


「滅殺……剛斬空!」


追撃に天魔剛斬空・吽形をぶちかます!
無数の斬空波動を放つ天魔剛斬空とは異なり、天魔剛斬空・吽形は極大の気功波を放つ技であり、単体の相手には此方の方が強い――気功波なので攻撃範囲は気弾の拡散には劣るが、その分一点の破壊力は大きく上回るのだ。


「しゃらくせぇ!返すぜオラァ!!」


しかし山崎は腕を振り払うようにしてその気功波を打ち返して来た――『倍返し』と言う、相手の気弾や気功波を倍の威力にして打ち返すと言う、覇王流の旋衝破の上位互換版の様な技だ。
自分の放った気功波が倍の威力になって戻って来たとなれば相当に脅威だろうが、稼津斗は焦る事なく滅殺剛螺旋で更に上昇して打ち返された天魔剛斬空・吽形をやり過ごし、其処から殺意の波動を込めた手刀、『禊』で山崎を強襲!

其れに対して山崎は蛇使い・上段で応戦するが、全体重と落下速度が乗った手刀と関節を外してリーチを稼いだパンチでは重さが違い、蛇使いを弾かれる形で山崎が押し負け、稼津斗は着地と同時に足刀蹴りの様な足払いで山崎の体制を崩し、同時に気を解放する。
気を解放すると稼津斗の分身が三体現れ、稼津斗の行動を一体目、二体目、三体目と夫々少しだけ遅れてトレースし、結果として本来ならば単発の攻撃が連続攻撃となり、多段ヒットする技は更にヒット数が増え、特に『神・豪鬼』となった事で二発発射になった斬空波動は凶悪極まりない……タイミングを微妙にずらして降り注ぐ八発の気弾は相当なプレッシャーになるのだから。


「畜生が……此れが鬼って奴か……!」

「そう言うこった……そんでテメェはオロチだな?
 大蛇でも鬼には勝てねぇって事なんだが……テメェがオロチってんなら俺が出張らねぇ理由はねぇ――オロチを見過ごしたとなったら、草薙の名が廃るからな!」

「俺が暴走したのは貴様が原因だったと言う訳か……京との戦いに水を注した報い、受けて貰うぞ!」

「テメェ等は!」


更には此処で京と、何処からやって来たのか庵が参戦。
ベガの方は兎も角、山崎の戦いを見て『オロチ』だと気付いた京と庵は其れを見過ごす事は出来なかった――庵にとってはオロチは八神の力の一端なのだが、其れでも忌々しい存在であり、滅してしまいたい相手でもあるのだ。


「リュウとの試合で疲れちゃいるが、テメェ一人をぶっ倒す一撃を放つ位ならまだ出来るぜ!ブチかますぞ八神!」

「ふん、偶には貴様に合わせてやる!おぉぉぉぉ……楽には死ねんぞぉ!!」

「おぉぉぉぉぉぉ……此れで終わりだぁ!!」


庵が八酒杯を放って山崎の動きを止め、其処に京が大蛇薙を叩き込んで山崎は其の身を派手に燃やされ……そして何者かが発動した転移魔法によって其の場から消えた――山崎は八傑集の中でも末端ではあるが、『オロチは八尺瓊の炎で動きを封じられ、草薙によって薙ぎ払われた』と言う伝承を再現した形になったのだった。


「ほら、大丈夫だっただろ?」

「稼津斗さんとルガールさん、あの二人が出て来たらもう何が出て来ても大丈夫な気がしてきました。」

「仮にあの二人の手に余る相手が現れたとしても、其の時はお前がエクゾディアを召喚すれば大概何とかなるだろうからな……今更だが、最早今のリベールには敵はいないのではないかと思って来た。」

「魔王と鬼……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、五分だけで良いから戦わせてくれないか!?」

「兄さん……ダメです!国賓が大会に乱入ってどんな不祥事ですか其れは!」

「……まぁ、お前の気持ちも分からんでもないから覇王、KOFの後夜祭が終わったらグランアリーナを訪れると良い――お前の為に『裏KOF』を開催し、私が考え得る最強の軍団を用意してやる。」

「其れは期待しているぞ!」


ともあれ、無粋な乱入者は見事に撃退され、其の後は恙無く表彰式と閉会式が行われ、表彰式ではKOFチーム戦の初代王者に輝いたロレントチームの面々が、京が右の拳を高々と突き上げ、アインスは背を向けた状態で後ろを振り返りながらサムズアップし、エステルは棒術具を小脇に抱えてウィンクしながらピースと異なるポーズを決めて会場を沸かせ、その光景をドロシーが秒間十五連射の超高速連写を行い、ナイアルはメモ帳にペンを走らせていく――明日、リベール通信の特別号が出るのは確実なのだが、其れに先立った号外の発行もあるので必要な事を兎に角メモしているのだ。


「ふむ、山崎君だけでなくベガもやられてしまったか……此れは少しばかり計画の修正が必要かも知れないが、まさか手慰みに作った彼女が魔界の炎を修得していたと言うのは嬉しい誤算だった――とは言え、今回は此処までとしておこうかドクター?
 此れ以上は流石に過干渉となり、私達の存在が露呈しかねないからね……彼女達を迎えに行くのはまたの機会にしよう。」

「実に残念だが、そうするしかないようだ……だが、良いデータは取れた……これ等のデータをジェインの剣に流し込んだら、とても面白い事になるとは思わないかプロフェッサー?」

「ククク……其れは私も同じ事を考えていたよ。」


其の裏でプロフェッサーとドクターは、『此れ以上の介入は得策ではない』と考えて、転移魔法でグランアリーナから去って行った……ドクターの手には、ライトロードの聖騎士であるジェインの剣が握られており、其れを使って何かをする心算なのだろうが、其れが何であるのかは彼等にしか分からないだろう。

ともあれ、KOF第一回大会は終了し、個人戦では空が、チーム戦では京、アインス、エステルのロレントチームが初代王者に輝いたのだった。


そしてその夜、王城前広場と空中庭園では国民参加OKの無礼講の『KOF後夜祭』が行われ、王城前広場では屋台にて王宮料理が振る舞われ、空中庭園ではビュッフェ形式の立食パーティが行われ――


「「イェーイ!!」」

「ハァハッハッハァ!!」


豚の骨付きもも肉のローストを手にした庵とエステルとグリフィンが盛大に乾杯して豪快に巨大な骨付き肉を平らげていた……普通ならドン引きする光景なのだが、此処まで来るといっそ感動すら覚えると言うモノだろう。


「エステルさん、相変わらず豪快っすねヨシュアさん?」

「其れとタメ張れるグリフィンも大概だと思うよ一夏?」

「楽しそうだな八神……まぁ、お前の場合宿命とか色々あったからなぁ……精々祭りを楽しめや。」


取り敢えずこの宴は夫々が楽しんでいるようであり、ナイアルとドロシーが空やロレントチームの面々にインタビューする姿も見受けれたが、其れすらこの宴をより良いモノとしているくらいだった。


「KOF第一回大会は大成功、ですね?」

「あぁ、そうだな。」


なのはとクローゼもワインの入ったグラスで軽く乾杯すると、この宴を楽しんだのだった。












そして、その宴が終わった後のグランアリーナでは……


「滅殺……!」

「お手並み拝見と行こう!」

「イカレタパーティの始まりだ!」

「見せて貰うぞ、お前の力を。」

「遠慮はいらん……来るが良い。」

「此れは、楽しめそうだな……」


グランアリーナを訪れたクラウスの前には稼津斗、ルガール、ダンテ、レーヴェ、悪魔将軍というトンデモナイ面々が現れていた――此れこそなのはが言った『裏KOF』であり、正に最強の一団がクラウスの前に現れたのだ。
其処からは激しい試合が行われたのだが、此れだけの相手を一人で相手するのは無理ゲーであり、クラウスは悪魔将軍の地獄の断頭台で完全KOされてしまった。
だが、その顔には『満足出来たので悔いなし』との笑みが浮かんでいたので、取り敢えずは満足出来たのだろう。

こうしてKOFの第一回大会は幕を閉じたのだった。









 To Be Continued 







補足説明