殺意の波動によって暴走した裁きの龍の最大の一撃によって王都防衛部隊は壊滅的な打撃を受けたのだが、此の土壇場でクローゼがアリシアによって五つに分割された上で王城の地下と四輪の塔に封印された自身の精霊を開放。


『グオォォォォォォォ……!』


そして現れたのは、グランセル城をも凌駕する巨躯を持った魔神――『千の敵を一撃で葬り去った』との伝説を持つ幻の召喚神『エクゾディア』だった。


「これがクローゼの精霊……成程、伝説に違わぬ迫力だな?アリシア前女王が、エクゾディアと名付けたのも頷ける。」

「これがクローゼさんの……スゲェなマジで。」

「俺の相手として申し分なし!」


その迫力はなのは達が戦慄し、稼津斗が己の相手として申し分ないと言う程のモノだった――稼津斗は、『鬼』として強者との『死合い』を望んでいるので、エクゾディアの強さの基準としては少しばかり当てにならないモノがあるが。
だがそれでも、エクゾディアの放つオーラには殺意の波動によって理性を失ったライトロードですら本能で恐怖を感じ取ったのか、身体が硬直して動く事すら儘ならなくなってしまっていた。
もしもライトロードに理性が残っていたら、本能で感じ取った恐怖から『天地がひっくり返っても勝てない』と悟り撤退の道を選んだかもしれないが、理性が吹き飛び、殺意の波動によって半ば殺戮マシーンと化したライトロードは撤退と言う選択をせず、己の脅威となり得る存在を排除せんとエクゾディアへ攻撃を開始する。

だが、其れらの攻撃に対しエクゾディアは微動だにしない……ライトロードの最大戦力である裁きの龍のブレスですら片手で振り払ってしまう位だ。


『クローゼさんの精霊……戦闘力測定不能!?完成版の戦闘力測定装置は、那由他まで計測出来るようにしたって遊星さんが言ってたのに……!』

「遊星が何を考えてその桁まで測定出来るようにしたのかは分からんが……此れだけの圧倒的な力、アリシア前女王が危惧し、五つに分けてリベールの各地に封印したのも頷けるな。」


エクゾディアの戦闘力は、不動兄妹作の完成版戦闘力測定装置でも計測出来ない程に高く、其の力は無限大であると言っても過言ではないだろう。


「これが王国の守護神エクゾディア……此れ以上、貴方達の蛮行を許す訳には行きません!
 エクゾディア、何の罪もなく平和に暮らしている者達を身勝手な正義を騙ってその命を奪い、そしてリベールにも仇なす者達に裁きを与えよ!怒りの業火エクゾード・フレイム!!」

『オォォォォォ……ガァァァァァァァァァァ!!』


そして、クローゼの命を受けたエクゾディアは両手に力を溜めると、なのはのスターライト・ブレイカーをも遥かに凌駕する強烈無比の火炎砲を発射ライトロードに向けて発射する!
炎属性の攻撃ではあるが、其の攻撃は本来相性の悪い水属性であっても蒸発させて焼滅させるほどのモノであり、クローゼがライトロードの軍勢だけの狙っていなかったら射線上にある全てのモノが焼き尽くされて焦土となっていただろう。
其れだけの破壊力のある攻撃が、ライトロードの部隊を呑み込んだのだった。













黒き星と白き翼 Chapter41
『エクゾディア降臨~戦いの終息~』










エクゾディアの攻撃を喰らったライトロードの部隊は壊滅状態に陥っていた。
ライトロードの象徴である純白に金の装飾が施された鎧や衣装は焼き崩れ、裁きの龍も略丸焦げになって戦闘不能になり、使役していたドラゴンに至っては跡形もなく焼滅してしまっていたのだ。
辛うじてライトロードの軍勢は消し飛ばずに済んだが、其れでもこの状態では戦闘不能だろう。


『ウグ……あ……アガァァァァァァァァァッァ!!』

『グオォォォォォォォォォ!!!』



「この状態で立ち上がるだと!?そんな馬鹿な……!」


だが、ライトロードの軍勢はそんな状態でも立ち上がって見せ、まさかの事態になのはを始めとした王都防衛部隊も戦慄する……其れほどまでにライトロードの軍勢は戦う事など不可能なほどのダメージを負っていたのだ。寧ろ生きている事が奇跡と言えるだろう。


「……殺意の波動を宿した者の宿業か……憐れなモノよ。」

「稼津斗?殺意の波動を宿した者の宿業とは、其れは一体なんだ?」

「殺意の波動は只の力に非ず、殺意の波動其の物が何らかの意思を持っている。
 そして殺意の波動は戦いを、死合う事を求めて強者との戦いを常に求める……故に、殺意の波動を身に宿した者は、その肉体がこの世に存在する限り死ぬ事も許されん……仮に肉体が生命活動を停止しても、殺意の波動が無理矢理に生命活動を継続させるのだ。
 俺自身、封印されるまでの五百年間に遠方から心臓を撃ち抜かれた事が何度かあるが、其れでも死ぬ事はなく殺意の波動によって生かされて来た……『鬼』を殺すには、最早その肉体をこの世から完全に消し去るか、同じく殺意の波動を宿した者の瞬獄殺で魂をも葬り去る以外に方法はない!」


だが、其れはライトロードが殺意の波動を宿した故の事だった。
殺意の波動は宿主が死ぬ事を許さずに、永遠の戦いを強いる……稼津斗が『鬼』となり、五百年も生きて来たのも、殺意の波動によって寿命すら超越したからなのである。
故に、殺意の波動を宿した者は不死とも言える存在になる訳だが、稼津斗の様に自我を保つ事が出来なければ其の身は完全に殺意の波動に呑まれ、存在する限り無限の殺戮を行う殺人マシーンに成り果てるのだ。
事実、殺意の波動によって強制的に生かされる事になったライトロード達は最早『正義の一団』とは程遠い醜悪な存在となり、裁きの龍もまた純白だった身体は形を潜めて漆黒の朽ちた肉体となっているのだ。
其れでも、不死と言うのは厄介だろう……仮に腕や足が吹き飛んだとしても、その身体がこの世に存在している限りは殺意の波動が失った部分を補って戦わせると言う事なのだから。
加えて、王都防衛部隊は裁きの龍の一撃で大打撃を受けた状態だ……クローゼが『リヒトクライス』を使える状態ならば回復も出来たが、クローゼはエクゾディアの召喚に多くの力を使ってしまったのでリヒトクライスを使うのは無理なのだ。
このままではジリ貧だが……


「助けに来たぜなのは嬢ちゃん!どきやがれ雑魚共!ハリケーンミキサー!!」


突如、2mを遥かに越えた巨躯に、頭から鋭い角を生やしたパンチパーマの大男が猛牛の如き突進でライトロードを吹き飛ばした!……だけでなく、三面六腕の男が六本の腕から超高速のパンチラッシュをライトロードに喰らわせ、3mはあろうかと言う砂の大男がライトロードを圧殺!


「同盟を結んだ相手の危機、救うこそが義!」

「助けに来たよなのは!」

「将軍……アーナス!」


其れは魔界に居た悪魔将軍とアーナスによる援軍だった。
リベールで暮らしていたルガールから『リベールがライトロードの襲撃を受けた』との連絡を受けた悪魔将軍とアーナスは、ルガールから『好きに使ってくれたまえ』と言われていた移動要塞『スカイ・ノア』でリベールへと赴き、なのは達に加勢したのだ――アーナスはセルヴァンを、悪魔将軍は配下の中でも特に強い力を持つ『バッファローマン』、『アシュラマン』、『サンシャイン』を引き連れてだ。
因みにアーナスの戦闘力は通常状態で五十万、ナイトメア開放で六百万、バッファローマンとアシュラマンは一千万、サンシャインは七百万、悪魔将軍に至っては千五百万である。


「ラウネー、皆を回復させて!」


アーナスはセルヴァンの一体であるラウネーになのは達の回復を命じ、ラウネーは得意の回復魔法でなのは達の傷を癒し体力を完全回復させるだけでなく、破損した衣装をも見事に修復して見せたのだが、ラウネーの回復魔法は思わぬ副作用を生む結果となった。
其れは回復魔法を受けたヴァリアス、アシェル、バハムートの三体のドラゴンの身体が光を放ち、其の身を進化させたのだ。

その光が治まると、三体のドラゴンはその姿を大きく変えていた。
ヴァリアスは全身が鋼鉄の様になり、アシェルは額にクリスタル状のモノが現れ、翼は巨大化して金色に輝き、尾の先は三又の鉾の様になり、バハムートは首が五つになってその身体は一回り大きくなっているのだ。


『グオォォォォォォォォ!』
真紅眼の鋼炎竜:ATK2800


『ガァァァァァァァ!!』
ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン:ATK3400


『ゴガァァァァァァァァ!!』
F・G・D:ATK5000



三体のドラゴンの進化後の力は正に圧倒的と言えるだろう。そして、其れだけではなく――


「稼津斗君、此の力受け取れぇぇぇ!!」

「ぐぬ!?」


ルーアン地方から飛んで来たルガールが稼津斗に手刀を突き刺して、オロチの暗黒パワーを注入し、『鬼』に更なる力を与える……やり方が大分ぶっ飛んでいると言えるが、リベール最強戦力である稼津斗にオロチの暗黒パワーがプラスされたら、其れは冗談抜きでトンデモナイ事になるだろう。


「真之力、刮目賢覧!」


オロチの暗黒パワーを注入された稼津斗は、肌が赤黒くなり髪も銀色に変わり、その姿は『真・豪鬼』すら凌駕した『神・豪鬼』と言えるモノだった――そしてその戦闘力は凄まじく、全ての攻撃が一撃必殺の威力なのだ。
気弾技である波動拳系は、剛波動拳、灼熱波動拳、斬空波動全てで気弾が巨大化し、斬空波動は二連射に変化。剛昇龍拳は拳に闇色の炎を宿すようになり、竜巻斬空脚は足に闇色の稲妻が走るようになっているのだ。


「我、拳極超越!敵者滅殺!崩山裂海!!」


話す言葉が全て漢字オンリーと言う謎な状態となってしまったが、この稼津斗を殺意の波動の傀儡となったライトロードに止める事が出来る筈もなく、次から次へと文字通り『滅殺』され、其の身を塵へと変えて行く。
其れに加えて同様の力を得たルガール、更には魔界の魔王軍団まで駆け付けたのだからライトロードにとっては堪ったモノでは無い。
更にはアーナスの従魔によってなのは達王都防衛部隊の傷は完治し、体力も回復しているのでフルパワーでの戦闘が可能になっており、エクゾディアと進化した三体のドラゴンの戦闘力は言わずもがなだ。

嬉しい誤算としては、殺意の波動に生かされた事で、裁きの龍は漆黒の屍竜になり下がり、攻撃を行うたびに其の力を減少させるようになった事が挙げられるだろう。
裁きの龍の最大の攻撃は王都防衛部隊を壊滅状態にするほど強力なモノではあったが、其れが使えなくなり、更には攻撃の度に弱体化して行くと言うのであれば全く脅威にはなり得ず、アシェルの『滅びのタイラントバースト』、ヴァリアスの『黒焔弾(ダーク・ギガ・フレア)』、バハムートの『ファイブ・ゴッド・ストリーム』で跡形もなく吹き飛ばされてしまった……肉体が消滅してしまえば、もう殺意の波動でも復活させる事は出来ない。

そして、其処からは一方的な展開だった。
ドレだけ新たな戦力が召喚されようとも、其れ等は出て来た瞬間に略倒され、一気に集団で召喚したとしてもエクゾディアによって灰へと変えられてしまうのだ……しかし、此処でなのはがある事に気付いた。


「まだ新たな戦力が召喚されてはいるが、純粋なライトロードは召喚されていないんじゃないか?
 王都を攻める部隊が壊滅状態になってから召喚されているのは、全て純粋なライトロードではなく、ライトロードが後天的に使役しているドラゴンばかりだ……若しかして、純粋なライトロードは全てリベールに召喚してしまったと、そう言う事なのか?」


そう、新たに召喚される存在は純粋なライトロードではなく、ライトロードがドラゴンを呼ぶ笛で使役しているドラゴンばかりだったのである。
ライトロードからしたら、戦力を出し渋っている状況ではないので、戦力を温存しているとは考え辛い……となると、なのはの言うように純粋なライトロードのメンバーは全て召喚し切ってしまったと言う事になるのだろう。


「だが、其れならば最早此の戦いを終わらせる事が出来る!簪、リベール全土に広域通信を!」

『はい!……広域通信準備完了。何時でも行けますなのはさん!』

「相変わらず惚れ惚れする仕事の早さだ。
 リベール全土で戦う防衛隊に告ぐ!私は王都防衛隊隊長の高町なのは。敵は如何やら正規軍の戦力を出し尽くした模様。よって、戦闘は継続しつつもライトロードの召喚士を探し出し、其れを捕らえよ。
 だが、召喚士は殺すな。召喚士は殺意の波動を宿していないとの事なので、殺意の波動を宿していないのならば話も出来るだろう……私としても、ライトロードには色々と聞きたい事があるのでな。」


なのはは簪に広域通信の用意をさせると、その広域通信でリベール全土に『戦闘は継続しつつ、ライトロードの召喚士を見つけ出して生きて捕らえろ』との命令を下して戦いを終結へと向かわせる。
その命を受けたリベール各地では戦闘に影響が出ない範囲で召喚士の捜索に人員を割く事になったのだが、ロレントでは戦闘員の略全員を召喚士の捜索に当てる事が出来そうになっていた。
ロレントは田舎町とは思えないほどの強力無比な戦力が揃って居る、と言うか魔王であった士郎と互角に戦ったカシウスが居る時点で大分ぶっ飛んではいるのだが、兎に角戦力が潤沢であり、京によって暴走させられた庵が手当たり次第にライトロードを八つ裂きにしているのだが、一番の要因は……


「お願いね、パテル=マテル♪」

『ゴォォォォォォォォン!!』


レンが遊星に作って貰った『秘密兵器』の存在が大きかった。
遊星が作ったレンの秘密兵器は、全高ゆうに10mは下らない巨大ロボット『パテル=マテル』!全身を覆う装甲はミサイルにも耐え、最大飛行速度はマッハ2.5、全身に多数の火器が搭載され、挙げ句の果てにはエネルギーが尽きない『核融合エンジン』を搭載していると言うバケモノロボットなのだ。
そして、そんなパテル=マテルに搭載された火器を全開にした超極太の直線攻撃は射線上に居たライトロードの軍勢を一瞬で蒸発させてしまったのである……遊星と遊里が研究に研究を重ねた末に開発されたパテル=マテルのメイン火器の『プラズマ集束ビームキャノン』の破壊力はなのはのスターライトブレイカーに匹敵するだろう多分。
これによりロレントを攻めていたライトロードの軍勢は全滅し、ロレントの防衛メンバーはライトロードの召喚士の捜索に当たる事が出来るようになったと言う訳だ。
尚、暴走した庵には京が脳天に外式・轟斧 陽を叩き込む事で正気を取り戻させていた。
それと同時に、各地の戦いも終息に向かっていた。
如何に殺意の波動が肉体が存在する限り無理矢理に戦わせるとは言っても、其れには限度があり、無理矢理生かされた身体は再生されるたびに限界を超える為に徐々に朽ちてやがて崩壊して行くのである。


「此れで終わらせる!十秒時間を稼いでくれ!」

「なのはさん……エクゾディア、なのはさんに力を!」

『グオォォォォォォォォォ……!』


そしてエルベ離宮周辺ではなのはが最大の一撃の準備をし、クローゼがエクゾディアになのはに力を貸すように命じる。
その結果、なのははエクゾディアの膨大な魔力をも吸収する事となり、最大最強不敗の奥義である集束砲の破壊力は此れまでの比ではないレベルのモノとなり、集束した魔力で形成された魔力球は最早衛星レベルにまで巨大化しているのだ。


「塵に帰れライトロード!スターライト・エクゾード・ブレイカァァァァァァ!!」


放たれた一撃は、ライトロードの正規部隊だけでなく、使役していたドラゴンをも一瞬で呑み込んでこの世から完全に消し去る……其れこそ、この世に影すら残さないレベルでだ。
各地でもライトロードは略自壊して壊滅し、残るは召喚士のみだ。


「王様の命令で探してみりゃ、まさかこんなとこに居やがったとはな。
 旧校舎の地下、此処なら確かに見つからねぇ訳だ……ここの存在を知ってるのは、学園長以外だとアタシを含めた一部の生徒だけだからな。
 そんで、如何するアンタ?あくまで足掻くってんなら相手にはなってやるぜ?」

「ソイツは止めといた方が良いだろうな。
 雪女嬢ちゃんだけなら未だしも、俺が此処に来ちまった……悪魔と雪女が相手じゃ、流石に分が悪いだろ?」

「オイコラオッサン、何処から湧いた?」

「なのは嬢ちゃんからの通信を受けた瞬間に、俺の勘がピンッと来てな……その勘に従って来てみれば大当たりだったって訳だ。」


その召喚士――ルミナスも、ジェニス王立学園の旧校舎の地下に居たのを学園きっての札付きの不良少女である通称雪女と最強の便利屋であるダンテに追い詰められてしまっては大人しく投降する以外の道は残されていなかった。
こうしてルミナスが投降した事で此れ以上の軍勢がリベールに押し寄せる事はなくなり、ライトロードによるリベールの襲撃は終幕となったのだった――だが、だからこそ誰も気付いて居なかった。
リーダー格であるジェインの使っていた剣が其の場から消え去っていた事に……








――――――








「クククク……結果はライトロードの敗北だったが、此度の実験では中々に良いデータが採れたと思わないかね教授?」

「うむ、良いデータが採れたと思っているよドクター……そして其れ以上に貴重な事を知る事が出来た――まさか、君と私が手慰みに作り上げた人造人間がこうして生きているとは、何とも感慨深いとは思わないかね?」

「其れに関しては同意だ……しかも二人とも草薙との繋がりがあるとはな。」


何処かにある施設では教授とドクターが、ライトロードのリベール襲撃の成果を解析していたが、取り敢えず良いデータが採れたと言う事で納得していたが、其れ以上の収穫があったようだ。
そんなドクターと教授の背後にある巨大なモニターには京の彼女であるアインスと、京の弟子であるノーヴェの姿が映し出されていた……












 To Be Continued 







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