リベール王国から遠く離れたドミノ国のとあるカフェテラスにて、高町なたねは本日発行されたばかりの『リベール通信』に目を通していた――リベール通信の最新号の表紙を飾っているのは、自身の双子の姉である高町なのはであり、雑誌の内容もリベールで起きた革命の詳細と、リベールの新たな女王となったなのはと、そのパートナーであるクローゼへの独占インタビューだったので、なたね的には見逃せないモノだったのだろう。


「お前の姉貴、リベールを取ったみたいだな?自分の姉貴が、一国の王になったってのは、どんな気分だ?」

「そうですね、とても誇らしいと思います――同時に、私の復讐を漸く始める事が出来ると言った所でしょうか?なのはがリベールを掌握したのであれば、リベールが持つ戦力は、なのはの手中にあると言っても過言ではありません。
 其れだけの戦力があれば、復讐すべき相手を滅ぼす事も可能な筈ですので。」

「まぁ、少なくともライトロードの連中を根絶やしにする事位は簡単に出来るだろうな……なら、早速リベールに向かうか?車を置いて行く事は出来ねぇから、海路になっちまうけど。」

「此処から海路でリベールに向かうとなると……大体十日と言った所でしょうか?早いに越した事はありませんので、リベール行きの一番近い船に乗るとしましょう。」

「了解だ。」


なのはがリベールの新たな女王となった事を知ったなたねは、早速リベールへ向かおうとしていた。己の復讐を始める為に。
だが、なたねはリベール通信に掲載されていたインタビューの内容は、『表向きの当たり障りのない事を話している』と考え、なのはが本心を語っているとは微塵も考えていなかった――寧ろ、なのはも自分と同様に怒りと憎しみを糧に燃える、復讐の炎を宿していると信じて疑わなかった。
母が死ぬ原因となる、母の天界追放を行った神族。母を殺した魔族。父と家族を殺したライトロードと、あの村の住人……其の全てを滅ぼして、己の復讐を完遂する事がなたねの目的だった。

そして、その復讐に染まり切った状態だからこそ、なのはの真意を見通す事が出来ないでいた――なのはの目的は、自分の目的とは真逆のモノであり、多くの人々が賛同するであろう壮大な理想を実現させようとしている事に。


「十年振りの再会ですか……姉とは言え、一国の王なのですから何か貢物でも持って行くべきでしょうか?」

「其れは、多分持って行かなくても大丈夫じゃねぇかな?
 其れよりも問題は、城に行った所でお前の姉貴に会わせて貰えるかどうかだと思うぜ?流石に十年も会ってないんだ、行き成り『妹です』って言っても、すんなり中に入れて貰えるとは思えねぇけど?」

「其の時は、門番を討ち倒して強引に入るまでです。そうすれば、なのはも出て来るでしょうし。」

「やり方がバイオレンスです事……ま、お前らしいけどな。」


同じ存在でありながら二つに分かれ、互いに互いが半身とも言えるなのはとなたねは、今や完全に歩む道は分かれてしまった――『復讐は復讐として、其れとは別に全ての種が、種の違いで争ったり、種の違いによる差別される事が無く平和に暮らせる世界を世界の実現』を目指しているなのはと、『神族も魔族も、そして人間も、全ての種に復讐の刃を無差別に振り下ろして根絶やしにする』のが目的のなたね、その二つの道が交わる事はないだろう。


「さぁ、共に復讐の覇道を歩みましょうなのは……」


なたねは愛機『ルシフェリオン』を握り締め、なのはとの再会に思いを馳せる……全くの偶然だが、なたねもなのはのレイジングハートと同形のアーティファクト『ルシフェリオン』を手に入れていたのだ。
だが、なのはのレイジングハートが未来への希望を感じさせる金色であるのに対し、なたねのルシフェリオンはなたねの復讐心を現したかのような闇色……獲物の色までもが真逆のモノであった。

十年振りとなる姉妹の再会まで後十日……果たして全く異なる考えを持つに至った双子の姉妹は、この再会で何をする事になるのだろうか……










黒き星と白き翼 Chapter26
『The new king is good at hard work!!』










リベールの新たな女王となったなのはは、『戴冠式』や『即位の義』と言ったモノは後回しにして、先ずはリベール王国の立て直しに着手し、真っ先にデュナン時代に更新が行われていなかったリベール王国、カルバート共和国、エレボニア帝国の三国の間で締結していた不戦条約の更新調印式だった。
デュナンは『更新調印式など行わずとも、自動更新で良かろう』と言っていたのだが、アリシア女王時代に『三年に一度、条約の更新手続きとして調印式を行う』と定めていた以上は、調印式を最低でも一度は行わねばならなかった。
『自動更新にする』と言うのならば、一度は其の文言を盛り込んだ新たな不戦条約を作り、更新調印式の場で其れを認めさせなくてはならなかったのだから。

なのははカルバートとエレボニア、両国の大使館から大使を城に招き、デュナンが王になってから途絶えていた不戦条約の更新調印式を行い、実に六年振りに不戦条約は正式に更新されたのだった。
其の調印式にて、なのはは『前王の職務怠慢で、多大なる迷惑を掛けた事を心より謝罪する。』と言って、女王と言う立場でありながらエレボニアとカルバートの大使に対して頭を下げたのだが、其れが逆に大使達に対しての印象が良かったのか、カルバートのエルザ大使もエレボニアのダヴィル大使も、『前王の怠慢は貴女の責任ではない』と言って、この六年間の条約更新調印式が行われなかった事に関してはアッサリと水に流してくれた……更新調印式が二度も行われなかったのであれば、其の間にデュナンによって荒れていたリベールに攻め込む事も出来たかもしれないが、エレボニアもカルバートも其れを行わなかったのは、アリシア前女王と締結した不戦条約と言うモノが如何に大きなモノであるかを理解し、更新がされなかったからと言って、其れを一方的に破ると言うのは今は亡きアリシア女王に対して顔向け出来ない、国としての信用と信頼を失うと言う所があったからだろう。
一部からは『何の拘束力もない形だけの条約』とも言われた三国の不戦条約だが、その効力は確りとあったようである。


条約更新調印式が終わった後は、直ぐに国内の経済の立て直しに着手した。
リベール一の巨大マーケットを持ち、『商業都市』の異名を持つボース市長のメイベルと連絡を取り、国内のありとあらゆる品物の流通をアリシア女王時代に戻すように命じ、メイベルも其れを快諾。
デュナンが王になってから、貿易其の物は大きく変わらなかったが、リベール国内の物品の流通は、一流品をデュナンや一部の富裕層が独占し、一般市民には良くて一流半の品しか流通しなくなっていたのだ。
其れでは国内の経済は回らない。一般市民には、少し高いと思える一流品を、一般市民に提供してこそ意味がある……分かり易く言うならば、一般市民が早々簡単に買う事が出来ないからこそ高級品としての価値があり、特別な日に買おうと思えるのだ。
同時に、高級品も市場に流通するようになれば、高級でありながらも一般市民も無理せずに買う事が出来る値にはなって来るので、『ちょっとした贅沢』をする人々が増えて、結果として国内の経済は潤う事になると言う訳だ。
同時にデュナンと癒着して甘い汁を吸っていた資産家は、その資産を凍結・押収し、『贈賄』の罪で逮捕、拘束される事となり、捜査が済み次第裁判が予定されているのだが、その裁判は有罪判決を言い渡すだけのモノとなるだろう。明確な捜査をした訳ではないにも関わらず、デュナンとの癒着、デュナンへの贈賄の証拠となり得る物が城でデュナンが使っていた部屋から大量に見つかったのだから、此れだけでも言い訳は出来ないだろう。中には直筆のサインまで入っている物も存在していたのだから。

となると今度は、国内の流通を円滑にする必要があるので、なのははデュナン時代に契約を打ち切ってしまった『カプア運送会社』に連絡を取って、新たに国内での専属契約を結んだ。
カプア運送会社の、ジョゼット、キール、ドルンは最初は『一方的に契約を打ち切っておきながら今更』と思ったのだが、デュナンが討たれてリベールには新たな王が即位した事を知ると、その新王の顔を拝んでやろうと城にやって来て、そしてなのはと対峙した時に、『此の女王様なら、また契約しても良い』と思って、改めて契約をしたのだ。――其れだけ、なのはの纏う『王』としてのオーラが凄かったと言う事なのだろう。……新たな契約内容が、アリシア女王時代よりも更に優遇されていたと言うのもあるかも知れないが。

その次に行ったのは軍の再編と、デュナン側の兵として戦った王国軍の兵士の処分だ。
此度の戦いでデュナン側に付いた王国軍の兵士は、『今回の戦い、王都に攻め入ったのは私達であり、彼等は王都防衛の為に戦ったに過ぎない』と言うなのはの温情により、死罪にはならず、王国軍を懲戒解雇と言う形を取った上での禁固刑になったのだが、そうなると今度は王国軍の人員が足りなくなった。
リシャール率いる情報部と、ユリアを始めとした元王室親衛隊の隊員を集めても、国防の為の戦力としては圧倒的に不足していたので、なのははリベリオンの武闘派を軍に組み込む事でその問題を解決した。
解体されていた王室親衛隊は嘗ての隊員に、一夏達鬼の子供達とレオナとアルーシェを加えて再編し、王国軍はクリザリッド、シェン、サイファーと言ったなのはの最側近だったメンバーが配属される事になった。
クリザリッドは『何故私が親衛隊では無いのですか!』と言っていたのだが、『お前のその高い戦闘力は私ではなく、このリベールの民を守る為に使って欲しい』となのはに言われては其れ以上は何も言えないだろう。クリザリッドにとって、なのはは絶対の存在なのだから。
因みに、京のクローン三人は草薙家に引き取られた。同じ顔が四つも並ぶと言うのは、中々に判別に困るのだが、クローン京は全員が肌が褐色で、京-1は無表情、京-2は比較的表情豊か、KUSANAGIに至っては目が赤くて性格も声も別人なので、よく見れば判別は容易だろう。

これ等の事を、新たに王になってから僅か三日と言う超スピードで行ったのだが……


「めっちゃ疲れたの……まさか王様がこんなに大変だとは思わなかったの……此れ等を熟していたアリシア女王には頭が上がらねーの。アリシア女王凄過ぎなの。」


結果、なのははオーバーヒートしていた。
神族と魔族の血を引くなのはは、普通の人間と比べたら無尽蔵とも言えるスタミナを供えているのだが、其れを持ってしても僅か三日で此れだけの事をすると言うのは中々に堪える様だ……疲労のせいで、キャラが思い切りぶっ壊れているみたいだしな。下手すりゃ、口から魂が抜け掛けてるわ。


「お疲れ様ですなのはさん。漸く一息と言った所ですね。」

「なのはママ、お疲れ様~~!」


そんななのはに、クローゼは疲労回復の効果があるハーブティと、エネルギー回復に繋がる甘いお菓子を持って来て、ヴィヴィオはなのはの肩をマッサージ。クローゼはなのはのパートナーとして、ヴィヴィオは娘としてなのはを支えるようである。


「ふぅ、まさか女王としてやるべき事が此処まで大変だとは思わなかった……此れ等を完璧に熟していたアリシア女王には本気で頭が上がらんよ。アリシア女王は、真に偉大な王であったのだと、其れを身をもって実感している。」

「お祖母様も、此処までの強行軍を行った事は無かったのですけれど……私としては、僅か三日で此れだけの事をしてしてしまったなのはさんに驚きです。普通だったらこんなスピード対応は出来ないと思いますよ。」

「先ずはリベールの立て直し無くして、理想の実現など出来る筈もないからな。
 私の……私達の理想の始まりとなるのはこのリベールだ。ならば、そのリベールが健全な状態でなくてはどうしようもないだろう?なれば、多少無理をしてでもリベールを最低でもアリシア女王時代に戻さねばなるまい。
 その為ならば、多少の無理も致し方あるまい。ある意味での必要経費と言う訳だ。」

「其れはそうかも知れませんが、だからと言ってなのはさんが倒れてしまっては本末転倒ですよ?
 リベールの立て直しは急務の事ではありますが、我武者羅に働いて身体を壊しては意味が無いので、王国軍と王室親衛隊の再編が出来た此処いらで息抜きをしましょう?良ければ、エルモ村の温泉に行きませんか?」

「温泉……確かに良いかも知れん。」


短期間での激務に、流石のなのはも参っていたのだが、此処でクローゼが温泉旅行を提案してくれた。
エルモ村はリベールが世界に誇る温泉地であり、その温泉を目当てに国内外から訪れる者が多い場所でもある……デュナンは、その温泉を一人占めしようとしたのだが、エルモ村のマオ婆さんに其れを拒否されたという過去があったりする。其れでも、エルモ村がデュナンによって潰されなかったのは、其れだけエルモ村の温泉は潰すには惜しいだけの素晴らしいモノだったからだろう。


「では行くとするか。」

「其れではエルモ村に向けて……」

「レッツゴー!!」


なのははヴァリアスを、クローゼはアシェルをフルサイズに戻すと、グランセル城の空中庭園からエルモ村に向かって飛び立って行った……ヴィヴィオはなのはと一緒にヴァリアスの背に乗っていた。
帰りは、クローゼと一緒にアシェルの背に乗るのだろうな。








――――――








「ふぅ、本当に最高だなこの温泉は。疲れが一気に吹き飛ぶ感じだ……名湯とは、正にこの事だな。」

「身体に染み渡りますね。」

「おっきーお風呂、気持ち良い~~~!」


エルモ村に到着したなのは達だったが、エルモ村の住人はリベールの新たな女王がやって来た事に少しばかり驚いてはいたが、其れが騒ぎに発展する等と言う事にはならず、温泉宿『紅葉亭』にて温泉を堪能する事が出来ていた。
此の紅葉亭、宿泊は勿論だが日帰りでの温泉も楽しめると言う事で、旅行客のみならず、近隣のツァイスから温泉目当てでやって来る人も多い、知る人ぞ知る温泉宿だったりする。実は不動兄妹はお得意様。


「いや、実に素晴らしい場所を教えてくれたモノだクローゼ。
 此れからは疲れを感じたら、此処の温泉で疲れを癒すとしよう。程よい湯加減で身体が芯まで温まって、疲労が回復して行くのを実感出来るよ……一度此の温泉を知ってしまったら、其れは虜になるだろうね。」

「エルモ村の温泉には、疲労回復以外にも、美肌や外傷の回復促進と言った効能があると聞いています。温泉は、宿で出す料理にも使われているらしいですよ?」

「温泉を料理に……例えばどんな物に使うのだろうか?」

「温泉でお米を炊いたり、温泉を使った汁物、最近では温泉で生地を練ったパンなんかもあるみたいです。実際に食べた事はありませんけど。」

「ドレも美味しそうだね!」

「そうだな。風呂から上がったら、軽く何か食べてから城に戻るとしよう。」

「やったー!」

「城に戻ったら、まだやるべき事は残っているから其れに手を付けねばならないがな……とは言え、早急にやるべき事と言えば、後は子供達への教育を如何充実させていくかと言う事なのだがな。」


温泉でゆっくりしながらも、なのはは次にやるべき事について考えていた。其れは子供達の教育だ。
現在のリベールの公的教育機関は、満十五歳で一学年時に満十六歳になる者が入学する事が出来る『ジェニス王立学園』のみであり、十五歳未満の者は毎週日曜に各都市の協会で行われている『日曜学校』を利用していると言う状況で、子供達への教育が充実しているとは言い難い状態なのである。
日曜学校の質は良いが、週一回で、六歳~十五歳までと言う幅広い年齢層夫々に必要な教育がなされてるとは言えないのだ……かと言って七耀協会に子供達の教育まで全部任せると言うのは酷な事なので、なのははジェニス王立学園とまでは行かずとも、各都市に規模は小さくとも年代別の教育が出来る本格的な学校を作る必要があると考えていたのだ。


「各都市に小規模でも学校を建てると言うのは名案だと思いますが、設立の為の資金、教員の確保と言ったクリアしなければならないモノも多いですからねぇ……其方はそう簡単には行かないと思います。」

「資金は、汚職塗れの資産家から押収したモノを当てれば良い。決して綺麗な金とは言えないが、ならばせめて綺麗に使ってやった方が金の方も喜ぶだろう。
 教員に関しても、リベリオンの中には不当な理由で解雇された元教師も少なくないから、そう言った者達に任せればいい……其れでも流石に全然足りんから、国民に募集を掛ける事になるだろうがな。
 其れから、各都市の学校を纏め上げる為の機関を政府内に新たに設立して、其れのリーダーを務められる者も探さねばだ……正直やる事は沢山あるが、子供への教育と言うのは国の未来にとって大切なモノだから、確りとやっておかねばな。」

「そうですね……子供への教育に関しては、お祖母様も色々と考えていたようなのですが、志半ばで逝去されてしまい、お祖母様の計画は叔父様が全て白紙にしてしまったらしいので。」

「あのタヌキめ、碌な事をせんなマッタク。」


アリシア前女王も、子供の教育に関しては色々と考えていたようだが、其れを実現する前に亡くなってしまった上に、其れ等の計画はデュナンが全て白紙に戻し、其の為に積み立てていた資金も、全て私欲を満たす為に使ったと言うのだから笑えないだろう。デュナン――と言うかデュナンを乗っ取った悪魔は、何処までも愚劣極まりない者だったと言う訳だ。


「そう言えばクローゼ、五つに分けられたお前の中に居る精霊のパーツの一つはグランセル城の地下に封印されたと言っていたが、この間のデュナンとの戦いで地下に行った時、其れらしきモノは見なかったが……何処にあるんだ?」

「其れは分かりませんが、通常の方法では行き着く事の出来ない、最深部の更に奥とも言うべき場所に封印されて居るのかもしれません……私が封印を解くまで、封印の石板が此の世に姿を現す事はないのかもしれません。」

「それ程までの厳重な封印とは、お前の中に眠っていた精霊は如何程の力を持っていたのだろうな?」

「お祖母様が言うには、『制御不能に陥って暴走したら、間違いなくこの世の全てを灰燼に帰すだけの力がある』との事でした……今の私なら制御する事は出来ると思いますが、出来ればその封印を解く日が来ない事を願っています。
 私の精霊の封印を解くと言うのは、其の力に頼らねばならない位の事態が起きたと言う事ですから。」


話は変わってクローゼが生まれながらに宿していたが、余りに強大であった為に、アリシアによって五つに分解された上で、グランセル城の地下と、四輪の塔に封印された精霊についてとなった。
デュナンとの最終決戦はグランセル城の地下の最深部だったのだが、其処に至るまでの道則にも、最深部にもクローゼの精霊の一部を封印した石板らしき物は何処にも見当たらなかったのだ……が、逆に言えば其れだけ厳重な封印を施したのだと言えるだろう。
そして、クローゼの言う事もまた然り。其れだけの強大な力の封印を解くと言うのは、其れに頼らざるを得ない事態が発生したと言う事なのだから、封印を解く日は来ないに越した事はないのだ――もっと言えば、其れだけの強大な力を使える事が分かったら、様々な国によるクローゼ争奪戦が始まるのは確実と言えるしね。


「世界を滅ぼす事が出来る力、か。」

「クローゼママって、凄い精霊を宿してるんだ!」

「お祖母様は、私の精霊のあまりに大きな力に畏敬の念を込め、太古の神話に登場する圧倒的な力を持つ幻の召喚神に擬えて、『エクゾディア』と命名していました。」

「エクゾディア……太古の神話に登場する、一撃で千の死霊の兵を葬ったとされる魔神だったか?……かの魔神の名を関するとは、益々其の精霊には興味が湧いて来た。封印が解かれる事があった暁には、手合わせしてみたいモノだ。」

「私の精霊となのはさんが本気で戦ったら、其れだけでリベール全土が更地になると思います。」

「其れは困るな……では、プレシアの時の庭園でやるとしよう。あそこは外界と遮断された特殊空間だから、現実世界に影響を与える事もないからな。」

「時の庭園ごと破壊されて、時空の狭間に放り出されませんか其れ?」

「あぁ、其れは困るな……となると、お前の精霊とのバトルは出来ないと言う訳か、残念だ。」


『エクゾディア』……其れがクローゼに宿っている精霊の名前らしい。
其れは太古の神話に登場する、圧倒的な力を持った魔神の名であり、同時にクローゼに宿っている精霊は其れだけの力を持ったヤベー奴だと言う事なのだろう。其れと戦ってみたいと言ってしまうなのはも大分ヤバい奴なのかも知れないが。
まぁ、其れはちょっとした冗談なのだろうけれどね。

温泉を堪能したなのは達は、湯上りに紅葉亭名物の『フルーツ牛乳』を飲んだ後に、食堂で『温泉炊き込みご飯』、『温泉を使ったカニ汁』、『紅葉亭特製鯉の洗い』を堪能した。
旬の山の幸をふんだんに使った炊き込みご飯と、川ガニを使ったカニ汁も絶品だったが、鯉の洗いは其れ以上だった。
温泉と同じ成分の水で育てられた養殖の鯉は天然モノと比べて臭みが圧倒的に少なく、氷点下まで冷やされた温泉水で洗われた身は引き締まって何とも言えない食感を生み出していたのだ。洗いに添えられた、湧き水で育てられたと言うワサビがその美味しさを更に引き立てていたと言えるだろう。良質のワサビは独特の辛味は抑えられている反面、独特の香りはより強く出るので、魚料理との相性は抜群なのである。紅葉亭で使っている醤油が、加熱処理をしていない生醤油と言うのも拘りを感じると言うモノだ。


「なのはママ、クローゼママ、温泉饅頭だって!皮に温泉が使われてるだけじゃなくて、温泉の蒸気で蒸し上げてるみたいだよ!」

「温泉饅頭……名物の様だし、土産に買って行くか。
 グランセル城のスタッフと、軍と遊撃士協会にとなると……結構な数になるから、グランセル城以外には宅配でだな。……此れは、早速カプア一家に頑張って貰う事になるかも知れないな。」

「ですね。」


エルモ村を出る前に、名物の温泉饅頭を購入し、軍と遊撃士協会には宅配で届けて貰う事にした……自らが癒しの為に訪れた地の名物を部下に普通に分け与えるとは、中々の配慮と言えるだろう。少なくともデュナンはこんな事は絶対にしなかっただろうからね。
そして、後はグランセル城に戻るだけだったのだが、此処でヴィヴィオが『私も私のドラゴンが欲しい』と言って来た……なのはとクローゼがドラゴンを従えているのを見て自分も欲しくなったのだろう。まぁ、確かに自分だけのドラゴンが居るって言うのは何だか特別な感じがするので欲しくなるのも分からなくはないが。
なのはとクローゼも、如何しようかと迷ったのだが、ヴィヴィオの願いは特別反対する理由も無かったので、ドラゴンを呼ぶ笛を吹かせてみたのだが、その結果――


『グオォォォォォォォォ!!』
混沌帝龍:ATK3000


なんだかとってもヤバいドラゴンが降臨した!
アナライズで解析した結果は、クローゼのアシェルと同等のステータスなのだが、ヴィヴィオが呼び出したドラゴンはステータス以上の能力が備わっているらしい……生体兵器として生み出されたヴィヴィオの魔力はマジでトンデモナイので、此れだけのドラゴンを呼ぶ事になったのだろう。
此れにはなのはもクローゼも驚いたが、此れだけの力を持ったドラゴンがいれば、リベールの国防にはプラスになるので何も言わずに受け入れ、そしてヴィヴィオのドラゴンは『バハムート』と名付けられた。
太古の神話に登場する竜王の名を与えらえれたと言うのは、それに見合うだけの力があったと言う事だろう。

そして、夫々の龍の背に乗り王都に向かっていたのだが、その最中、レイジングハートに通信が入った。


「ユリアか、如何した?」

『陛下、現在リベール上空に正体不明の飛行船が現れ、着艦許可を求めているのですが、この船は所属不明なので発着場に下ろす事は出来ません……如何したモノでしょうか?』


如何やら、リベールの、より詳しく言うのであれば、グランセルの上空に正体不明の飛行船が現れ、着艦許可を求めて来たのだが、その船は所属不明なので下す事が出来ないと言う事らしい。
其れを聞いたなのはは、早速グランセルに直行し、その飛行船を目にしたのだが……


「此れはスカイノア……と言う事はルガールか。
 まさか其方から出向いて来るとは思わなかったが、態々来てくれたと言うのであれば、無碍に追い返す事は出来まい……其れに、態々此処まで来たと言う事は、私の生存を知り、私がリベールを取ったからだろうからな。――着艦許可を出せ。但し発着場でなく、レイストン要塞にな。」

『レイストン要塞……了解いたしました陛下。』


その大きさから発着場に着陸するのは無理と考えて、レイストン要塞に着陸するようにユリアに指示を出した。――そして、程なくして飛行船はレイストン要塞に着陸し、なのはにとっては十年振りとなる魔王との再会を果たす事になるのだった。











 To Be Continued 







補足説明