なのはとクローゼがデュナンを討ち倒し、なのはの『勝利宣言』は、プレシアが広域魔法を使って王都全土に伝えた事で、それが同時に停戦の宣言にもなって、王国軍の兵士で、最後まで抵抗を続けていた者達は投降する事になった……軍の最高司令官でもあったデュナンが討ち倒されたのならば、もう戦闘行為を続ける理由は何処にも無いのである。
投降した兵士は捕らえられ、新たなリベールの王が決まるまでは牢に入れられ、新たなリベールの王が決まってから改めて沙汰が下される事になるだろう。

此度の戦闘で負傷した者達は、王国軍、反抗軍関係なく手当が行われ、フィリップも手当てを受け、命に別状はなかったのだが、帰天で植え付けられた悪魔の力を排除する事は出来なかった様だ。


「……閻魔刀があれば、帰天の力も切り離せたんだが、無いもの強請りをしても仕方ねぇか。」

「閻魔刀?」

「俺の兄貴が使ってた刀でな、人と魔を分かつ力を持ってるんだが……生憎と、兄貴が生死不明になってから行方知れずになっちまってな。バージルのアミュレットは回収出来たんだが、閻魔刀だけは未だな。」


ダンテは、兄のバージルが使っていた『閻魔刀』があれば、フィリップを普通の人間に戻す事が出来たらしいのだが、無い以上は其れは無理と言う事だ……フィリップには、帰天で得た悪魔の力を使い熟せるようになって貰う事を願うしかあるまいな。


それとは別に、戦闘が終わった市街地では復興作業も始まっていた。
王都の住人は、全てエルベ離宮に避難させたので人的被害はないが、物的被害は流石にゼロとは行かなかったのだ――人間同士の戦いでも物的被害は出ると言うのに、其処に魔獣やら悪魔と言った存在が戦闘行為に加わったら尚更である。
幸いな事に、物的被害は『壁や屋根の一部が崩れた』程度のモノであり、建物の倒壊や全壊は無かったので復興作業は其れほど大変ではないだろう。反抗軍のメンバーに加え、不動兄妹が精霊を召喚して復興作業に当たらせて居ると言うのも、作業が捗っている要因の一つだ。


「よいしょっと!此れは何処に運べば良いですか~?」

「おぉ、そいつはこっちに持って来てくれ。」


更に、ヴィヴィオも復興作業を手伝っている。
言い方は悪いかも知れないが、『生物兵器』として生み出されたヴィヴィオの身体能力は相当に高く、その見た目からは想像もつかない程の凄まじいパワーを持っているため、一人で成人男性五人分の働きをしている状態だ……もしも此の場に格闘技のスカウトが居たら、間違いなく声を掛けられていた事だろう。
瓦礫を運び終わったヴィヴィオは、新たな瓦礫を運ぼうとしたのだが……


『ワリィゴハ、イネガァァァァァァァァァァ!!』
ジャンク・バーサーカー(な  ま  は  げ):ATK2700


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


その前に巨大な瓦礫を持ち上げた、赤い鎧で全身を固めた大男が!
此れは遊星が復興の手伝いとして召喚した精霊、『ジャンク・バーサーカー』なのだが、如何せん見た目が厳つくてオッカない!見た目は殆ど『鬼』な精霊が、巨大な瓦礫を頭上に持ち上げた状態で、雄叫びを上げながら現れたら、ヴィヴィオでなくとも悲鳴を上げるだろう。
加えてヴィヴィオは、肉体的には十六~十八歳程なのだが、デュナンがヴィヴィオに求めたのは戦闘力であったため、精神面は未発達で精々十歳前後……此れは余計に恐ろしいだろう。

結果としてヴィヴィオはジャンク・バーサーカーの前から逃げ出したのだが、ジャンク・バーサーカーも其れを追う……否、ジャンク・バーサーカーは追い掛けている訳でなく、ヴィヴィオの逃げる方向が偶然瓦礫の運び先だったため、追いかける様な構図になってしまったのである。そうは言っても、ヴィヴィオが感じている恐怖は相当だと思われるが。
最終的には、ジャンク・バーサーカーが瓦礫を運び終えた事でヴィヴィオの逃走劇は終わりを告げたのが、ヴィヴィオにとってジャンク・バーサーカーがトラウマになってしまったのは間違い無いだろう。


「なのはママと、クローゼママと一緒に居れば良かったぁ……」

「災難だったな……まぁ、お前は良く働いてくれたから、一息吐いたらなんか旨いモン作ってやるから泣き止めや。」


そして、志緒がヴィヴィオを慰めると言う事で事態は終息したのだった。――そしてその裏では、遊星が遊里から『バーサーカーじゃなくて、デストロイヤーを召喚した方が良かったんじゃない?デストロイヤーは腕が四本あるから作業もより捗るだろうし。』と言われていたとか何とか。
取り敢えず、復興作業は順調に進んでいるようである。










黒き星と白き翼 Chapter25
『新生リベールの王、その名は高町なのは』










王都の復興作業が順調に進んでいるのは良い事だが、新生リベール王国には復興と同じ位、或は其れ以上に早急に行わなくてはならない事があった――そう、リベール王国の新たな王を決めねばならないのだ。
国王であったデュナンを反乱軍が討ち倒して、其れで終わりではないのだ革命と言うモノは。
早急に新たな王が即位し、国の立て直しに着手しなくてはならない――デュナンが王を務めていた時期に滅茶苦茶になって居た隣国との外交や、貿易・流通の改善と言うのはその最たるモノと言えよう。序に、デュナンと癒着して私腹を肥やしていた一部の富裕層にもメスを入れて行く必要があるだろう。
その新たな王を決める為に、グランセル城の玉座の間にはなのはとクローゼ、リシャールとユリアとクラリッサ、そしてカシウス、新王誕生の瞬間を取材する為にナイアルとドロシーが集まっていた。


「クローディア、遂にこの日がやって来ました……アリシア前女王の正統な後継者たる貴女がリベールの新たな王となる日が。」

「リベールの暗黒時代に終わりを告げ、生まれ変わったリベールの新たな王となるのは、殿下を置いて他には居りますまい……今この時を持って、リベールの新たな王に即位願いたい。」


ユリアとリシャールは、クローゼをリベールの新たな王にと考えているが、其れは当然だろう。
クローゼはデュナンと違い、アリシア前女王が正式に後継者として認め、そして次期女王の証である『皇女』にまでなって居たのだから、クローゼ以外にリベールの新たな王を務める人物は居ないと言っても良いだろう。


「……御免なさい、ユリアさん、リシャール大佐。私は、リベールの新たな王にはなりません。」

「「「「「え?」」」」」

「ふむ?」

「ふ、そう来たかクローゼ。」


だが、クローゼは特大の爆弾を投下した。
まさかの爆弾投下に、ユリアとリシャールとクラリッサ、ナイアルとドロシーは思わず間の抜けた声を出し、カシウスは訝し気な表情を浮かべ、なのははクローゼが何を言う心算なのかを察して、何処か楽しそうに笑みを浮かべた。


「何故ですクローディア!貴女は、正統な王位の継承者!貴女以外に、誰が此の国の新たな王になると言うのです!」

「ユリアさん……アリシア前女王が、後継者として指名したのは、クローディア・フォン・アウスレーゼであって、クローゼ・リンツではないからです。
 加えて、私はクローディアとして幽閉されていた期間、王族が参加する行事にも参加する事が無かった上に、皇女として国民の前で話をする機会すらありませんでした……子供の頃から、お祖母様の後姿は見ていましたが、私には『人の上に立つ』と言う経験が圧倒的に不足しています。それでは、一国の王を務める事が出来るとは思えないんです。」

「ですが……!」

「だから、私は私に変わってこの国を治める新たな王としてなのはさんを推薦します。
 リベールと比べれば遥かに規模が小さいとは言え、なのはさんには百人を超える組織のリーダーを長年務めて来た経験があるので、少なくとも私よりは王としてリベールを牽引して行く事が出来る筈です。」


クローゼは、暗に『クローディアに戻る心算はない』と言った上で、新たな王になのはを推薦したのだが、実は此れはクローゼとなってリベリオンで過ごす内に考えていた事でもあったのだ。
百人を超える組織を一枚岩に纏め上げる統率力、他者を引き付けるカリスマ性、自ら現場に出向く行動力、そのドレをとっても自分はなのはにとても敵わないとクローゼは思い、デュナンを倒した後はなのはがリベールの新たな王として相応しいと考えたのである。同時に、『アウスレーゼ以外の人物が新たな王になった方が、リベールが生まれ変わった事を内外にアピールしやすい』とも考えていたのだが。


「私が新たなリベールの王にか……お前は其れで良いのかクローゼ?」

「はい。私は、クローゼ・リンツとして貴女を支えて行こうと、そう思っているんです。だから、リベールの新たな王となって頂けませんか、なのはさん?」

「お前が其れで良いと言うのであれば、私は構わないが……リシャール達は納得しないんじゃないか?まぁ、王族でもなければリベールの出身者でもない私が新たな王になると言うのを、手放しで納得しろと言う方が無理があると思うがな。」


とは言え、クローゼが其れで良いと思ったとしても、リシャールやユリアが納得するかどうかはまた別問題だ。
リシャールもユリアもクラリッサも、なのはは信頼出来る相手だとは思っているし、実際問題としてなのは率いるリベリオンの存在無くして此度の革命の成功は無かった訳なのであるが、だからと言ってなのはが新たなリベールの王となる事に、諸手を挙げて賛成出来るかと言えばそれは否だろう。リシャールもユリアも、クローゼを正式な王とする為に水面下で準備を進めていたのだから。
だが、其れだけにクローゼの言った事に異を唱え辛いと言うのもまた事実だ……クローゼがなのはを新たな王として推薦した事が、其れがリベールに不利益を齎す事であれば即刻異を唱えるだろうが、現状ではなのはがリベールの新たな王になってもリベールが不利益を被る事は無いので、明確に反対する理由もないのである。


「とは言え、リシャール達の気持ちも分からんではない……だから、先ずはお前達のその眼で私がリベールの王として相応しいかどうかを見極めると良いだろう。
 その上で、私がリベールの王として相応しくないと判断したその時は、迷わずに私を斬ってクローゼを新たな王にすれば問題あるまい。」

「「「!!」」」

「お前さん、中々言うねぇ?しかも、伊達や酔狂じゃなく本気と来たか……大したモンだよマッタク。」

「なのはさん、なんか凄い事言ってますよナイアル先輩?」

「自分の命を軽く見てる……って訳じゃねぇな。あの目、相当な覚悟と見たぜ。俺のジャーナリストとしての勘が、そう言ってやがる。」

「先輩の勘って、ニアピンとか一部合ってたとかじゃなくて、バッチリ当たってたか、掠りもせずに外れてたかのどっちかですよねぇ?」

「こう言う大事な事に関しては、俺の勘は略100%当たってるんだよ!」

「ほへ~、そうだったんですか~~?」

「お前、何年俺とコンビ組んでんだよマッタクよぉ……」


そんなリシャール達に、なのはは『自分が王に相応しいかをその眼で見極め、相応しくないと思ったら迷わずに斬れ』と言い放った……其れは、なのはなりのリベールの王となる事に対しての覚悟だろう。
言い放ったなのはの瞳には、その覚悟を示すかのような力強さが宿っており、リシャール達は思わず気圧されてしまった位だ。カシウスは、なのはの覚悟に感心していたが。ドロシーとナイアルは、何時も通りだった。


「そう言う事でしたら……分かりました。」

「君が、此の国王として相応しいか、見極めさせて貰うとしよう。」

「命を賭してか……嫌いではないな。」


そのなのはの覚悟を聞いたユリアとリシャールとクラリッサは、此れ以上は特別反対する理由も無かったので、なのはを新たなリベールの王とする事を受け入れ、なのははリベールの新たな王として即位する事になった。
なのでなのはは、玉座に座す事で新たな王となるのだが、なのはは直ぐに玉座には座らずに、玉座の前に跪いて頭を垂れる――まるで、平民が女王陛下に謁見するかの如くに。


「アリシア女王陛下殿、新たなリベールの女王の座、謹んでお受けさせて頂きます。」


亡きアリシア前女王になのははそう告げる……なのはは、王位を継ぐにあたって通すべき義理を通した訳だが、その場にいた全員が、頭を垂れたなのはに頭に、女王の証であるティアラを乗せるアリシア前女王の姿を幻視していた。
或は其れは、幻視などではなく、アリシア前女王の魂が、なのはをリベールの新たな王と認めて現世に一時的に顕現したのかも知れない。真相は誰にも分からないだろうが。

だが、このなのはの行動を見て、リシャール、ユリア、クラリッサの三人は改めてなのはの人となりと言うモノを知った――もしも、其のまま玉座に座していたらなのはに対して少なからず良くない印象を抱いていただろう。一国の王の座を継ぐと言うのは、そんな簡単なモノではないのだから。
なのはの人柄も、実力も此度の戦いで信頼に足るモノだとは思っているが、リベールの新たな王になると言うのならば話は別だろう……が、なのはは玉座の前に跪いてアリシア前女王への敬意を払う事を忘れなかった。
更になのはは、跪いた際に右手を自分の左胸に当てていた……其れは、己の心臓を捧げると言う意味の忠誠の証であり、なのはは自分が新たな王となるリベールに対しての忠誠をも誓ったのである。此処までの事を見せられてしまっては、政治手腕は兎も角として、王として相応しい人柄であると言う事は認めるしかないだろう。


「なのはさん……」

「あぁ……」


跪くなのはにクローゼが声を掛けると、なのはは漸く顔を上げて玉座を見やり、立ち上がると一礼した後に玉座の前に立ち、そして其処に座し、玉座の横にはクローゼが立つ。
そして、其のまま背に黒と白の翼を展開すると力強く宣言する。


「高町なのはが、新たなリベールの女王となった事を、今此処に宣言する!
 デュナンによって齎された暗黒時代に終わりを告げ、リベールを本来の姿に戻し、そして私とクローゼの理想――人も魔族も神族も、種の違いなど関係なく、誰もが平和に暮らせる世界の始まりの地とする事を、我が魂と、リベールを見守る空の女神エイドスに誓う!」

「そして、私クローゼ・リンツは、なのはさんの事をパートナーとして支えて行く事を誓います。同時に、クローディア・フォン・アウスレーゼの名を、今この時を持って永遠に名乗らない事を宣言いたします。」


なのはに次いで、クローゼも『パートナーとしてなのはの事を支える』事を誓ったのだが、『クローディア・フォン・アウスレーゼの名を二度と名乗らない』と言う事には、なのは以外の全員が驚いた。
其れはつまり、王族としての名を捨て、残りの人生を『クローゼ・リンツ』と言う別人として生きると言う事なのだから――だが、此れもまたクローゼの覚悟だ。パートナーとしてなのはを支えると決めたその日から、クローゼはクローディア・フォン・アウスレーゼであった自分を殺し、クローゼ・リンツとして生きる事を決めたのである。
自分となのはの理想を現実にする為に必要なのは、クローディアではなくクローゼだと、そう思ったのだ。
デュナン亡き今、クローゼの宣言は『アウスレーゼ』の名を後世に残さずに断絶する事でもあるのだが、王族の名を途絶えさせてでも『全ての種が、種の違いなど関係なく平和に暮らせる世界』は実現すべきモノなのである。


「うん、見事な宣言だった。お前さん達なら、此の国を任せられるだろう。」


其れを聞いたカシウスは、誰よりも早く拍手をし、其れに続いてユリア、リシャール、クラリッサも拍手をして、リベールの新たな王の誕生を祝福し、ナイアルは興奮気味にペンを走らせ、ドロシーは指の残像が残るレベルでカメラのシャッターを切っていた。


「どもー!カツ丼九人前持って来ましたーーー!」


其処にお盆に九人前のカツ丼(志緒製)を乗せたヴィヴィオが参上!
志緒から、『どうせまだ飯食ってねぇだろうから、なのはさん達に持って行ってくれ。お前のもそっちに入れとくからよ』と言われて、全速力で持って来たのだが、このタイミングで到着するとは、タイミングが良いのか悪いのか若干判断に迷う部分が有ると言わざるを得まい。


「って、もしかして私タイミング悪かった?」

「いや、そんな事はないぞヴィヴィオ。丁度そろそろ良い時間だから昼食にしようと思っていた所だからな……しかも、持って来てくれたのはカツ丼か。子供の頃からの好物だ。」

「ですが、此処はご飯を食べる場所ではないので、晩餐室に移動しましょうかヴィヴィオ?」

「は~い!」


だが、其処はなのはとクローゼがバッチリフォローし、晩餐室でカツ丼でのランチタイムと相成ったのであった。そして、志緒特製のカツ丼は、衣のサクサク感を残しつつ卵のフワフワ感を演出し、サクサクとフワフワの二つの食感をダシ汁が見事に調和していると言う見事なモノだった。至高のカツ丼と言うのは、正にこれの事であると言っても過言ではあるまいな。

ランチタイム後は、なのはとクローゼがナイアルのインタビューに応じ、そのインタビュー記事は一切編集される事なく、『リベール通信特別号』に掲載され、なのはがリベールの新たな王となった事は、程なくしてリベール国内外に報じられる事になったのであった。








――――――








・魔界


魔族が暮らす、地下深くにある世界、『魔界』。
その魔界の中でも、特に強い力を持っている『魔王』の一人であるアーナスの屋敷には、同じく魔王であるルガール・バーンシュタインと悪魔将軍が招かれていた。


「ルガールさん、将軍さん、態々来て貰ってスマナイかったよ。」

「気にするなアーナス。
 私も将軍も少しばかり暇だったのでな、同じ魔王たる君から呼び出されたと言うのは、何か面白い事が起きたのではないかと期待していたからね。」

「態々、私とルガールを呼び出したと言う事は、相当な事があったのだな?」

「うん、相当な事があったよ……私の従魔がリベールから持ち帰って来た雑誌なんだけど、此れを見てよ。」


呼び出されたルガールと悪魔将軍は、『何事か?』と問い、アーナスは己の従魔がリベールから持ち帰って来た雑誌――『リベール通信・特別号』を見せたのだが、其れを見たルガールと悪魔将軍の表情が変わった。……悪魔将軍はマスクをしているので、実際の所は表情は分からないのだが、表情が変わったと思う位には驚いていた。


「此れは……」

「不破士郎の娘が、リベールの新たな王となったか。此れは確かに相当な事であると言えるな。まさか、生きていたとはな。」


その雑誌の表紙を飾っていたのは、十年前にこの世を去った、魔王の一人である不破士郎の双子の娘の片割れだったのだから、驚くなと言う方が無理と言うモノだろう。寧ろ、士郎が死んだその時に娘も死んだと思っていたのだから、そもそも生きていたと言う事が驚くべき事なのである。


「そう、生きてたんだよ。
 でもさ、生きたって言うなら、私達は士郎さんとの約束を果たさなきゃだよね?」

「うむ……確かにその通りだな。
 士郎殿は魔界を去る際に、『私にもしもの事があったその時は、娘の事を頼む』と言っていたからな……死んだと思っていた息女の内の一人が生きていたと言うのであれば、その約束は果たさねばなるまい。如何かな将軍?」

「異論はない。寧ろ、魔王同士の約束を反故にすると言う事の方が恥でしかない。――準備が出来次第、リベールに向かうとしようではないか。」

「そう来なくっちゃね!」


そう言う訳で、アーナス、ルガール、悪魔将軍の三人の魔王は、リベールの新たな王となったなのはに会うべく準備を進める事になった……リベールが、エレボニアとカルバートとの不戦条約の更新調印式を終えた後で、新たに同盟になるのは魔界の魔王達なのかも知れないな。








――――――








・リベール王国:王都グランセル-グランセル城


グランセル城の空中庭園にて、なのはは一人星を眺めていた。
ヴィヴィオは既にベッドで眠っているが、なのはは如何にも眠ると言う気分になれなかった……或いは、リベールの新たな王となった事で気分が昂っており、其れが眠気を吹き飛ばしてしまっているのかも知れないが。


「眠れないんですか、なのはさん?」

「クローゼか……少しばかり気持ちが昂ってな、如何にも寝ると言う気分ではない感じだ。」


其処に現れたのはクローゼだ。
其の手にはティーポットと二つのティーカップが……なのはと共に夜のお茶会と洒落込む心算なのだろう。――なのはも其れを察したのか、クローゼからティーカップを受け取ると、其処に注がれたハーブティの香りを堪能する。


「いい香りだな、此れはカモミールティーか?」

「はい。カモミールには、睡眠を促進して疲れを癒す効果がありますので、今のなのはさんにはピッタリかなと思いまして。」

「あぁ、最高だよクローゼ。気持ちが昂っていたが、カモミールの香りで大分落ち着いて来た……此れならば、今夜はぐっすりと眠る事が出来そうだ。お前の心遣いに感謝だな。」

「私は貴女のパートナーですから、此れ位の事は当然ですよなのはさん。」

「そう来たか、此れは一本取られたな。」

「ふふ、一本取っちゃいました♪」


なのはもクローゼも、自然と笑みが零れる……其れだけ、お互いに相手の事を思っているからこそ、己の想いを偽る事なく接している事の証でもあると言えるだろう。
作り物ではない自然で本物の笑顔と言うのは、己の想いを偽って浮かべられるモノではないのだから。


「私は、この地で私の理想を実現しようと思っている……だが、私一人で其れを成し遂げる事は到底不可能だ。だから、私の事を支えてくれるかクローゼ?」

「言われるまでもありません……何があろうとも、私だけは絶対に貴女の事を裏切らない事を誓いますよなのはさん。貴女は、私の魂の半身です。」

「そしてお前は、私の魂の半身と言う訳か……ならば誓おう。死が二人を分かつ其の時まで、私達は共に歩んで行くとな。」

「はい……!」


そしてなのはは黒と白の翼を出現させると、クローゼを抱き寄せて、翼で包み込み……唇を重ねた。触れるだけの優しいキスだが、其れでもなのはとクローゼは、改めて自分達の思いと理想は同じであると言う事をキスを通じて再認識した。
そんな二人を照らす月の光は、まるでリベールの未来を祝福しているかの如く、眩いモノであった。











 To Be Continued 







補足説明