・ツァイス地方:レイストン要塞


カシウスからの通信を受け、そしてなのはとも会話をしたリシャールは指令室にてソファに身を預けていた……リシャールも、何れリベールの未来の為に水面下での準備はしていたのが、まさか一気にそれを行動に移す時が来るとは思っても居なかっただろう。
魔王と熾天使の血を受け継いだなのはと、正統な王族であるクローディアが一緒に居ると言うのは、リベール通信のあの記事を読んだとしても、早々辿り着く事が出来るモノではないから。
まして、クローディアをグランセル城から連れ出した、黒衣の女性が高町なのはであったなど、其れこそ連れ出した本人と、連れ出して貰ったクローディア、或はなのはの家族でもなければ分からない事なのだから。


「クラリッサ君、此れから少しばかり忙しくなるかも知れない。」

「其れは少しばかり嬉しくない事態ですね?軍人と遊撃士と医者が廃業する位の方が、世界は平和であると言われていますので……近い内に、始めるのですね?アリシア前女王陛下が急逝し、クローディア殿下が幽閉されてから進めて来た計画を。」

「早急にではあったが、機は熟した。
 しかも、カシウスさん関連以外の戦力が加わったと言うのは嬉しい誤算だよ……稀代の武人としても名を馳せた魔王・不破士郎と、慈愛の熾天使として名を馳せた高町桃子、その娘の高町なのは率いる一団の加入と言うのはね。」

「魔王と熾天使の混血……其れだけでも私にとってはとても魅力的です。右目が騒ぎます。」

「クラリッサ君……まぁ、良い。
 通信機越しではあるが、高町なのはと言う人物の人となりはある程度分かったし、殿下が無事で一緒に居ると言うのならば一先ず信頼には値するからね……あとは実際に会って細かい所を詰めるとするさ。」


水面下で行っていたデュナンを国王の座から引き摺り下ろす為の作戦を、実際に行うとなれば協力関係にある勢力と、デュナンに感付かれないように細かい作戦等を詰めて行かねばならないので、リシャールの言うように此れから忙しくなるのは間違いないだろう。
尤も、其の忙しさもリベールの為と思えば何ら苦ではないのがリシャールと言う男だ。リシャールこそ、真に国を思う軍人の鑑だと言えるだろう。


「し、失礼しますリシャール大佐!」

「む、何事かね?」


其処に駆け込んで来たのは、情報部の部下の一人……情報部の人間と言うのは、総じて冷静で取り乱す事はあまりないのだが、その情報部の人間が目に見えて慌てていると言うのは、只事ではないだろう。


「は、ハーケン門のモルガン将軍が、ロレントに向けて進軍を開始したとの報告が、ハーケン門に潜り込んでいた諜報隊員から入りました!
 しかも、只兵を派遣するだけでなく、導力砲を始めとした、複数の兵器が搭載された移動要塞を三台も出撃させたとの事!あんなモノが三台も出たら、ロレントは一瞬で焦土と化してしまいます!」

「何!?(まさか……彼も殿下がロレントに居ると言う情報を得たと言うのか?……そして殿下を亡き者にする為に、ロレントごと消し飛ばそうと、そう言う事か!)
 ……クラリッサ君、大至急特務隊をロレントに!レイストン要塞にある、高速航空輸送艇を全て使ってだ!私もカシウスさんに事の次第を知らせる!」

「了解!同時に、高速航空輸送艇の一機をエア=レッテンに向かわせ、其処に居るユリア中尉を始めとした元親衛隊の隊員も回収してロレントに。」

「頼む。」


そして、その隊員が告げたのは、『モルガンがロレントに向け兵を出した』と言う事だった――其れも、移動要塞と言う超兵器を三台も伴ってだ。
その報告を聞いたリシャールは、クラリッサに指示を出すと、自分もカシウスに『緊急事態』を告げるべく連絡を入れる……なのは達によって倒された警備兵が、絶命する前に発見されてしまったのは、デュナンにとっては幸運で、なのは達にとっては不運だったとしか言い様がないだろう。











黒き星と白き翼 Chapter14
『戦闘開始のオープンコンバットである!』









――時は少しだけ遡り……


・ロレント市:遊撃士協会ロレント支部


カシウスの口添えもあり、BLAZEとギルドの協力を取り付けたなのは達は、BLAZEとシェラザードと談笑していた。カシウスはやる事が終わると家に帰って行った。
掲示板に来ていた依頼を確認していたが、受けた訳ではないのは、エステルとヨシュアに受けさせる心算なのかも知れない。カシウスはカシウスで、『この辺で世代交代だ』と考えているのかも知れないな。


「改めて礼を言わせてくれなのはさん。玖我山を助けてくれて、ありがとよ。」

「例を言われる程の事ではないよ志緒。其れに、純粋な慈悲の心で彼女を下衆な男達に渡さなかった訳ではないからな……私は、彼女が戦力になると考えて買ったに過ぎないからな。
 彼女を己の目的の為に利用すると言う点では、下衆な男共と大差ないかも知れん。」

「大差ねぇって、そんな事はねぇだろ?確かにアンタも、自分の目的の為に玖我山を買ったのかも知れないが、其れは己の欲望を満たす為じゃなかった……何より、アンタは、カシウスさんのとこに行く時に、玖我山をロレントに向かわせてくれたんだろ?
 アンタが下衆共と同じだったら、玖我山は無事に俺達の所には戻って来てねぇよ。」

「……ふ、自警団のリーダーは流石の慧眼と言った所だな。魔族は嘘は吐けないが、悪ぶる事は出来る。尤も、私程度の猿芝居では、直ぐに分かってしまうかもしれないがな。」

「あぁ、バレバレだ。俺はプロの不良だから、本物のワルかワルぶってるだけかなんぞ直ぐ分かるぜ。」

「プロの不良って……不良にプロとかアマチュアがあるのか?」


リベリオンのリーダーのなのはと、BLAZEのリーダーである志緒はリーダー同士で話をしており、一夏達はBLAZEの他のメンバーと話をしている様だ……鬼の子供達とBLAZEのメンバーは歳も近いので、話が合うのだろう。


「それでね、刀奈ちゃんと簪ちゃんとヴィシュヌちゃんとロランちゃんとグリフィンは一夏君の彼女なんだよ!」

「はぁぁ!?彼女五人とか、マジかお前!!?」

「大マジだけど、何か問題あるか洸?夏姫姉は言いました『たった一人の女性だけを愛してはいけないと、一体誰が決めた?』と。……この言葉は、五人から告白された俺にとっては天啓だったぜ……そうだよな、一人だけじゃなくても良いんだよな。
 でもって、よくよく考えてみると、自然界に目を向ければ、一匹の雄が複数の雌を囲ってるってのは珍しくもないって事に気が付いた!ライオンは四~五匹だけど、アザラシやセイウチに至っては数十頭の雌が一頭の雄を囲ってるんだぜ?
 種の保存って言う観点から考えたら、一夫一妻の方が異常なんじゃねぇかな?ぶっちゃけて言うなら、種の保存の為には、一匹の雄に対して百匹の雌が居れば充分であって、雌が優秀な雄を欲するのは自然な事だと思う訳だけど、その辺は如何よ?」

「……言わんとする事は分かるけれど、幾ら何でも表現が生々し過ぎるわよ織斑君。」


……その中で、璃音が投下した核爆弾により、一夏と洸の恋愛観の違いが明らかになった――璃音一筋の洸と、五人の恋人がいる一夏……純愛と一夫多妻と言うモノは、本来相容れないモノなのだが、一夏は『一夫多妻でも、全員と純愛を貫く』と言う、本来ならば不可能なんじゃないかと言う事を実現しているので、言う事に妙な説得力があるのだ。――明日香の言うように、少しばかり表現が生々しいが……一夏は童貞を卒業しているので、致し方あるまい。


「はい、チェックメイト♪」

「そ、そんな……僕がチェスで負けるだなんて……!!」


その一方では、刀奈が祐騎をチェスで圧倒していた。BLAZEの頭脳とも言われている祐騎は、『ロレント始まって以来の天才』とも言われており、頭脳だけならばカシウスにも匹敵するとまで言われて居るだが、刀奈はその上を行っていたようだ。
単純な知能指数で言えば祐騎の方が上なのだが、刀奈は兎に角己の頭脳を100%使う事に長けており、知能指数では負ける相手であっても、潜在知能指数で勝る事が出来るのだ……なのはとクローゼですら、チェスで刀奈には大幅に負け越している訳だからね。


『Master,Communication.(マスター、通信です。)』

「繋いでくれ。……カシウスからか。」


穏やかな時間を過ごしていた所に、カシウスからの通信が入り、なのははレイジングハートの通信機能を起動してそれに対応する――そのスピードは、僅か0.3秒!!
通信に対して迅速に対応すると言うのは大事である。


「如何したカシウス?」

『なのは、慌てずに聞けよ?
 先程、リシャールから通信が来てな……ハーケン門のモルガン将軍が、ロレントに向けて兵を派遣したらしい――其れも、移動要塞を三台も持ってしてだ。俺もエステル達と共に急いでロレントに向かうが――』


「移動要塞三台とは穏やかではないな?
 私とクローゼを排除する為にしては些か過剰戦力な気がするが……其処まで私はデュナンに恐れられていると言うのか?」

『真に恐れてるのは殿下の方だろうが、お前さんの事も見過ごせない相手と見ているのは間違いなかろうな。
 何せ、たった一人で城に侵入し、警備兵を倒して殿下を城から連れ出してしまったのだからな……しかも、お前さんは士郎殿の、魔王の娘と来ている。彼が己に対する脅威として認定するには充分だろう?』


「それにしても移動要塞三台とは……私は何か?太古の時代に暴れ回ったと言う怪獣か、其れとも遥か昔に滅んだと言われている、月を見ると大猿に変身すると言う戦闘民族か何かか?」

「なのはさんの場合、そう言った存在ですら一撃で倒してしまいそうですけれどね……必殺技は一つの街を消し去る破壊力があるそうですので。」

『……其れが本当で、デュナンが其れを知って居るなら、移動要塞三台も納得出来るか。……お前さんは何か、歩く大量破壊兵器か?』

「其れは、若干傷付くぞカシウス……取り敢えず状況は理解した。此方もすぐに動けるようにしておく。」


カシウスから、『ハーケン門からロレントに向けて兵が出された』と言う事を聞き、更には移動要塞が三台も出て来ていると言う事に、些か過剰戦力ではないかと思うなのはだったが、カシウスの言う事を聞いて一応納得は出来ていた。
確かに普通に考えれば、たった一人でグランセル城に乗り込み、警備兵を無力化してクローゼを城から連れ出すなど到底無理な話なのだから、其れをやってのけたなのはの事を脅威と認定するには充分だろう――加えてなのはは、クローゼを連れ去る際に、デュナンに宣戦布告とも言えるセリフを残しているのだから。



――バガァァァァァァァァァン!!



「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」


なのはが遊撃士協会の外に出ようとした瞬間、轟音と共にロレントを三つの閃光が襲い、教会と時計塔、そしてホテルを一瞬で瓦礫と化した。
時計塔は普段は無人なので瓦礫になっただけだが、教会とホテルは常時誰かしら人がいる場所だ……其処が瓦礫と化したと言う事は、其処に居た人達は一瞬で生き埋めになったと言う事だ。――そして、その生存は絶望的だろう。
教会とホテルの瓦礫は数mに達しているから、生存者が居たとしても、瓦礫に埋もれた被災者の生命のリミットである七十二時間以内に救出する事は極めて困難であると言わざるを得ないのだから。


「そんな、ロレントが!!」

「デュナン……何処までも下衆なようだな貴様は!!」


まさかの事態に困惑するクローゼだったが、その隣では、なのはが怒りを爆発させ、同時に魔族と熾天使の血の両方が解放され、右目は赤く、左目は金色に変わっていた……十年前のライトロードへの怒り以上の怒りによって神魔の力が覚醒したのだ。
デュナンからしたら、目の上のたん瘤であるクローゼを排除しようと言うのは当然の流れなのかも知れないが、そのやり方が気に喰わなかった。
デュナンは、クローゼと真っ向から勝負しないで、ロレント諸共クローゼの抹殺に舵を切った訳だから……実力ありきの魔界であっても、全く無関係の第三者を殺してしまう事は滅多にないと言うのに、デュナンはアッサリとその方法を選択した。其れが何よりもなのはの怒りを燃え上がらせた。
そして、デュナンが行った事は、『魔族が居る』と言う、其れだけの理由で村を一つ滅ぼすライトロードの所業と何ら変わりはない――なのはの怒りの針が振り切れる理由には充分だったのだ。


「私やクローゼだけを狙って攻撃してくるのならば未だしも、無関係の人間まで巻き込むと言うのであれば、此方とて相応の対応をさせてもらうだけだ……デュナン、矢張り貴様にこの国を治める資格はない!ヴァリアス!!」

『ガァァァァァァァ!!』

「叔父様……私だけならばいざ知らず、民の命を犠牲にすると言うのならば、私も容赦はしません!!其の力を存分に発揮して下さい、アシェル!!」

『ゴアァァァァァァ!!』


此処でなのははヴァリアスの、クローゼはアシェルの縮小魔法を解除し、本来の姿の青眼の白龍と真紅眼の黒竜が降臨する――その迫力はハンパなモノではなく、ドラゴン特有の威圧感を発していた。

なのはとヴァリアスは飛翔し、クローゼもアシェルの背に乗って飛翔すると、移動要塞に向かって行く。
突然の事に困惑するロレントの市民達は、鬼の子供達とBLAZE、シェラザードが地下水路に避難させているので二次被害は防ぐ事が出来るだろう。


「プレシア、ロレントが王国軍に攻撃された!
 至急、クリザリッド、サイファー、アルーシェ、レオナと兄さんをロレントに転送してくれ!そして可能ならば、瓦礫が撤去出来る者と、治癒魔法を使える者も!少なくない市民が瓦礫の下敷きになっている!」

『分かったわ……フェイトとレヴィとリニス、そして私が造った魔導人形も送りましょう。魔導人形のパワーならば瓦礫の撤去も直ぐに出来るでしょうから。』

「其れは心強いな!」


移動要塞に向かう間に、なのははプレシアに通信を入れて増援を要求。
プレシアは其れを快諾しただけでなく、フェイトとレヴィとリニス、更には瓦礫撤去に力を発揮してくれるであろう魔導人形まで転送してくれると来た……レヴィが若干の不安要素ではあるが、アホの子は敵と見なした相手は全力でぶっ倒してくれるので多分大丈夫だろう。


「ちぃ、しゃらくさい!!アクセルシューター……アラウンドシフト!!」

「行きます……全ての不浄を洗い流せ!アラウンド・ノア!!」

『ゴォォォォ……ガァ!!』

『グゴォォォ……ゴガァァ!!』



要塞に向かうなのは達には、容赦ない攻撃が浴びせられるが、その攻撃は全てなのはの射撃魔法、クローゼのアーツ、ヴァリアスの黒炎、アシェルのブレスで相殺されてなのは達には届かない……光属性と闇属性の最上級ドラゴンに加えて、魔王と熾天使の血を引くなのは、『先祖返りか?』と疑ってしまう位に高い魔力を有している上に、アリシア前女王が其の力の強大さを危惧して、五つに分けた上で封印した精霊を宿しているクローゼの前では、移動要塞の攻撃も決定打にはなって居なかった……なのはとクローゼで、世界を手中にすると言うのはやって出来ない事ではないのかも知れないな。

程なくして、なのはとクローゼは移動要塞の前に到着した。


「矢張り、いらっしゃいましたかクローディア殿下……御無事なようで何よりですな。」

「……大凡、殺そうとしていた相手に向ける言葉とは思えませんね、モルガン将軍?
 まして、私一人の命を奪う為に全く無関係なロレントの市民まで巻き込むとは……軍人の本分は、民の命を守る事の筈!であるにも拘らず、民の命を奪うとは、貴方には王国軍人としての誇りは無いのですかモルガン将軍!!」

「言うだけ無駄だクローゼ……コイツの目は濁って腐り切っている……アリシア前女王が健在だった時には、軍人としてその本分を果たしていたのかも知れないが、デュナンが王になった事で、甘美なる蜜の味を知ってしまったのだろう――デュナンの言う通りにすれば、金と権力を手に出来ると言う美蜜の味をな。」


其処で、この部隊の指揮官であるモルガンと対峙したなのはとクローゼだったが、慇懃無礼なモルガンに対して、なのはとクローゼは容赦ないカウンターを秒でブチかます!
なのはもクローゼも、無関係な人間が巻き込まれて命を落としたと言うのは、大凡無視出来る事ではないのだ。


「貴様、私を愚弄する気か!!」

「愚弄だと?事実を言って何が悪い。
 アリシア前女王の時代ならばいざ知らず、今の貴様はデュナンの言いなりになっている老害以外の何者でもない――何よりも、何の疑問も感じずにクローゼの命を奪おうとしている時点で、貴様は無能でしかない。
 だが、貴様の首はデュナンにとっての最高の土産になるかもしれんからな……リベールを本来の姿に戻す為の一手として、先ずは貴様の首を狩らせて貰うとしようかモルガン?」


そんでもって、なのははモルガンを煽る!煽って煽って煽りまくる!
『貴様等等瞬殺出来るぞ』と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべて、手招きをするなのはは、究極至極のダークヒーローと言っても過言ではあるまい……その隣ではアシェルの背に乗ったクローゼが、手招きをした後にサムズダウンをして兵を煽っていた。
クローゼも、大分アウトローな世界に染まって来ているようだ。


「だが、貴様等の目的は私とクローゼだろう?
 ならばロレントには兵を向かわせるな。ロレントの民は、無関係の筈だ。」

「其れは出来ん相談だな……確かに殿下とお前は、こうして私の前に現れたが、ロレントにはお前達の仲間も居るのだろう?ならば、其れを根絶やしにせねばならんからな――抵抗する者は皆殺しだ!
 貴様の仲間達も、まとめて葬り去ってくれる!!」

「まぁ、そう来ると思っていたよ……だが、貴様の部下程度でリベリオンの戦力を如何にか出来ると思って居るのならば、貴様は私達を舐め過ぎだ。リベリオンの戦闘要員の実力は、A級の遊撃士以上だから、ヘタレの軍人程度では相手にならん。
 まして、カシウスはお前達の動向を把握していた……其れはつまり、カシウスと関係のある遊撃士もまた私達の味方だと言う事だ。――否、遊撃士だけではない。
 アインスとレン、草薙京に八神庵とその妹達も我等の戦力となっている……数では劣るが、質では勝る。」

「何だと?」

「百聞は一見に如かずだ。」


そう言ってなのはが指を鳴らした瞬間、移動要塞の主砲が吹き飛んだ!


「!?」


突然の事に驚くモルガンだったが、主砲を破壊した相手は直ぐに分かった。


「任務完了。」

「恥と知れ!」

「アンタじゃ燃えねぇな?」


主砲を破壊したのは、時の庭園から転移して来たレオナと、カシウスと共にロレントに向かっていた稼津斗と京だった。
レオナはVスラッシャー、稼津斗は禊、京は大蛇薙で移動要塞の主砲を破壊したのだ……レオナと稼津斗は主砲を切り落としたのだが、京は大蛇薙で主砲を焼き溶かしたと言うのだからトンデモナイ。草薙の炎の前では、鋼ですら紙と同じであるらしい。


「私とクローゼが目的ならば、ロレントの市民には手を出すなと言いたい所だが、貴様は既にロレントの市民の命を多く奪ったので言うだけ無駄だが……その罪は、その身を持って償って貰うぞモルガン!」

「貴方に軍を率いる資格はありませんモルガン将軍……お祖母様が買っていただけに残念ですが、貴方には此処で散って頂きます!何よりも、民の命を守る事を優先すべき軍人が、迷わずに民の命を犠牲にすると言うのを黙って見過ごす事は出来ません!」

「貴様等……如何やら余程死にたいようだな!
 ロレントに兵を向け、住民を残らず抹殺しろ!クローディア殿下を城から連れ出した奴の仲間が居るだろうからな!ロレントの住民を全て抹殺してしまえば、デュナン陛下の脅威は何一つとして無くなる!全てはリベールの未来の為に!!」

「リベールの未来の為とは、聞いて呆れるな?
 無関係の民を殺しておきながら、其れもリベールの未来の為だと言うのか?……だとしたら、実に唾棄すべき事だな。民の犠牲の上に成り立った未来など、そう遠からず瓦解するのは目に見えている――私は、人を犠牲にする未来など認めない!
 だから、其れを当たり前のように選択する貴様等は今此処で滅する……覚悟は良いなモルガン?民に命を捨てろと言うのであれば、先ずは貴様自信が己の命を賭けた戦いに臨め!」


そして、なのははレイジングハートの切っ先をモルガンに向けて殺気を放つ!――此の殺気を、素人が喰らったら一撃で意識が飛んで失禁する事間違いないだろう。
それ程までに、なのはの殺気は強くて濃密なのだ……齢十九にして、此れだけの殺気を放てると言うのもまた恐ろしい事ではあるのだが、逆に言うとその殺気を若くして会得してしまう程に、なのはのライトロードへの殺意は強かったと言う事なのだろうな。


「前々からアンタの事はなんか気に入らなかったが、ロレントを攻撃してくれた以上、アンタは俺の敵だぜ将軍様よ?デュナンの前に、先ずはアンタを丸焼きにするってのも良いかもな?
 ……尤も、アンタの丸焼きなんぞは不味過ぎて、八神でも食わねぇかもしれないけどな……何にしても、アンタ達はやり過ぎたぜ?俺の炎で焼き尽くしてやるから覚悟するんだな。」

「貴方では勝てない……」

「我こそ拳を極めし者……うぬらが無力、その身を持って知るが良い!」


京も闘気を爆発させ、レオナはオロチの血を開放し、稼津斗は殺意の波動を覚醒させる……なのはとクローゼ、ヴァリアスとアシェルに加えて、伝説にその名を残す草薙と、オロチの正統な血を引くレオナ、殺意の波動をその身に宿しながらも其の力を使い熟している稼津斗ならば戦力として申し分ないだろう。
移動要塞からは、武装した兵がロレントに向かっているが、ロレントにはリベリオンの戦闘メンバー、BLAZE、ブライト一家、カシウスの息が掛かった遊撃士、八神一家と戦力が揃っているので、王国軍の兵程度では揺るがないだろう。


「そんじゃなのは、戦闘開始のゴングを高らかに宣言してくれよ。」

「私がか?」

「アンタほどの美人さんに命令されれば、やる気も出るってもんだ……アインスが居れば頼んだんだけど、アインスはロレントの方に対応してるからさ――なら、アンタに頼んでも罰は当たらないだろ?アインスも、『高町なのはならば、信頼に値する』って言ってたからな。」

「そう来たか……だが、そうであるのならば、其れに応えようじゃないか。
 全員遠慮は要らないから、思い切りやってしまえ――だが、殺すなよ?コイツ等、特に将軍様には聞きたい事がまだあるのでね。」

「へへ、了解だ!」

「任務確認、遂行します。」

「死合うに値する相手か、其れを見極めさせて貰う!」


そして、なのはが右腕を大きく掲げ、手首だけを動かすゴングサインを出すと同時に、戦闘再開!
その戦闘は、移動要塞の周辺のみならず、ロレントにまで波及していたのだが、ロレントに入り込んだ軍人は、ブライト三姉妹とヨシュアによって無力化されていた……あらゆる面で隙が無く、全てのステータスが高いアインス、物理攻撃に限定すればアインスを上回るエステル、魔法攻撃に限定すればアインスを上回るレン。
此れだけでも充分に強力なのだが、其処に神速の双剣士であるヨシュアが加わったのであればより強力になった事だろう。


「貴様の首をデュナンに送り付けて、宣戦を布告する……そしてデュナンに教えてやるとしよう、貴様は王の器ではないとな!」


此処でなのははレイジングハートの切っ先を、モルガンに向けて殺気を放ったのだ……此れで気絶しなかったのは、腐っても軍人と言う所だろう。


「貴様……!」

「精々、貴様が信じる神に祈れ。」


なのはは、レイジングハートを構え直し、モルガンもまたハルバートを握り締めて臨戦態勢を取ると同時に、空中戦用の小型飛行デバイスに乗って浮遊し、空中戦に備える。


「そんな玩具で私と空中戦を行う心算か?舐められたモノだな……」

「何処までその余裕を貫けるか……戦いにおける年季の違いと言うモノをその身に叩き込んでくれるわ小娘が!」


そして、デュナンとの全面対決の前哨戦となる戦いが、本格的に開始されたのだった……









 To Be Continued 







補足説明