アースラ内部ではクロノとシャマルが、無茶を敢行しようとするキリエを止めようとしていた。


 していたのだが説得は不可能。
 残る手段は実力行使しか残っていないという状況になってしまった…お互いに。

 「エイミィ!」

 『転送開始!訓練室に強制転送!!』

 とは言え、艦内でドンパチやるのも宜しくない。
 なのでクロノがエイミィに命じて、艦内の訓練室へと転送。
 此処ならば多少派手にやっても大丈夫だ。


 「あら〜ん…これはこれは…でも良いの?手加減できないわよ?」

 「僕達だって手加減はしないさ…本より加減して止められる相手でもないからな君は…」

 「其れにお医者さんとして、無茶する患者は放っておけないし、そんな子はお仕置きです!」

 転送された3人は矢張り変わらない。
 進みたい者と止めたい者――その闘いが…

 「まぁ、それならそれで切って払って先に進ませてもらうわ!」

 「そうはさせない!デュランダル!!」
 『OK Boss.』

 「クラールヴィント!」
 『Ja. 』


 始まった…












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス62
 『姉妹の絆は切れず』











 戦闘は本よりクロノとシャマルが優勢だった。



 当然だろう。
 管理局でも屈指の実力者であるクロノと、夜天の守護騎士が1人であり最強のバックスと名高いシャマルのタッグだ。
 完全回復に至っていないキリエ相手に遅れをとるはずもない。

 「スティンガー!」

 「風よ…お願い!」

 「!!…アクセラレイター!!」

 完全に動きを読まれている。
 クロノの攻撃を避ければ其処にシャマルの一撃が飛んでくる。
 かといってシャマルの攻撃を警戒するとクロノの攻撃を避けきれない。

 おまけにクロノは所々にバインドを設置しているし、シャマルは隙あらばクラールヴィントでの拘束を狙ってくる。

 分が悪いどころではない。
 完全に劣勢。

 勢いで押し切れると思っていたのは大きな勘違いだった。

 だがキリエとて只ではやられない。
 彼女もまた機会を伺っていた。


 ――まだよ…もう少し…もう少し2人が近寄ったら…


 稼動エネルギーは無駄に出来ない。
 ならば最小限の力で目の前の2人を『動けなく』しなければU-Dとの戦闘など行えない。
 対U-D用の切り札が、自爆覚悟の『オーバーブラスト』であってもだ。


 「其処だ…ストラグル!」

 「捕まえた!!」

 一瞬動きの止まったキリエの隙を逃さずに、クロノとシャマルはバインドを仕掛けてきた。




 が、これこそがキリエの狙い。
 クロノとシャマルは確実に自分を『捕らえよう』とすることは間違いなかった。
 ならば、其処にカウンターをかましてやれば良いと思っていたのだ。

 「ZSN!残念、それが狙いだったのよね〜!ロックオン!!」

 「なに!?…此れは!!」

 「カウンターのバインド!?」

 その狙いは見事に的中。
 2人のバインドが成立するよりも一瞬だけ早くキリエの拘束術式『ロックオン』が決まったのだ。

 無論此れで無効化とは行かないだろう。
 だがそれでもキリエが此処から離脱してU-Dの許に向かう時間を稼ぐだけならば充分。

 「ゴメンね〜?先に進ませてもらうから!?」

 拘束した2人を尻目に訓練室から離脱しようとするキリエだが、その動きが止まった。



 無理もない。
 入り口には彼女の良く知る人物が居たのだから。

 「お姉ちゃん!?」

 「イエス!アイアムお姉ちゃん!!」


 それはアミタ。
 未だ万全ではない故に安静を言い渡されていた彼女がこの場に来ていたのだ。

 「マッタク…只でさえ私達姉妹で皆様に多大な迷惑をかけているというのに、更に迷惑の上塗りをしてどうしますか!」

 「放っといてよ!私には私の考えが!其れに無茶したら躯体寿命が縮まるわよ!?」

 「無茶しようとしている妹を放っておく方が、よっぽど心の寿命が縮みます!」

 妹を止める為に。
 無論キリエがそれを受け入れよう筈もない。

 すぐさま反抗しザッパーを構える。
 『退かないなら力ずくでも退ける』の意思表示だ。

 「退いてよアミタ!」

 「嫌です!
彼方を行かせる訳にはいきません!」

 アミタもまたザッパーを構える。



 其れが合図だった。

 キリエがザッパーをヘヴィエッジ状態にして切りかかる。
 が、アミタは其れを難なく避け、逆にフェンサー状態のザッパーで反撃。

 「く…アクセラレイター!…ラピットトリガー!!」

 ギリギリでそれを回避し、今度は魔力弾の連射。

 「バルカンレイド、ファイヤー!!」

 其れも同等の技で相殺される。

 「「ファイネストカノン!!」」

 直射砲にしても同様。
 アミタは徹底してキリエの攻撃をつぶす事に専念していた。

 その代わりアミタからは殆ど攻撃は仕掛けていない。
 精々クロスレンジでのカウンターが良い所だ。


 「いい加減にしてよ!如何して行かせてくれないの!?それで…それで全部丸く収まるのに!!」

 あくまで止めるだけのアミタに対して、遂にキリエが痺れを切らしザッパーと叩きつける。
 余りにも大振りな其れは勿論止められるが、そんな事はお構い無しに何度も、何度も…

 「お姉ちゃんなんか嫌い、嫌い……大っ嫌い!!」

 懇親の力を篭めて放ったヘヴィエッジ状態の一撃も、アミタを崩す事はなかった。
 完全に防ぎきられたのだ。


 「…如何して本気で戦わないの?」

 だが、キリエにはそれでも分っていた――アミタが本気ではない事が。
 当然だ、カウンターと相殺のみの戦い方では本気とはいえないだろう。

 「決まってるじゃないですか…」

 アミタはザッパーを握るキリエの手に自分の手を重ね…そしてそのまま抱き締めた。
 優しく…優しく。

 「!!」

 「貴女が私の妹だからです。幾ら無茶を止める為とは言え、本気で妹を撃墜しようとする姉が居ますか。」

 「そんな…理由で?」

 「他に理由が必要ですか?」

 抱き締められた事に驚いたキリエだが…しかし抵抗はしなかった。
 口では言っても、ザッパーを持つ手もだらりと下がり力が入っているようには見えない。

 「そう言う所が嫌いなのよ――――大っ嫌い……!」

 「…例え貴女が私のことを嫌いでも、私は――貴女の事が大好きですよ。」

 「馬鹿…」

 そう言いながらも、矢張り抵抗はしない。
 それどころかザッパーを握っていた手から力が抜け、其れは床に落ちる。

 「余り無茶をしないで下さい…って、此れは私が言っても説得力ないですね?」

 「無いわよ…全然無い…!馬鹿なんだから…ほん…とに…アミタってば…馬鹿…!」

 抱き締められ事でキリエの中の何かが切れたのだろう。
 声は次第に涙声になり、ついには泣き出してしまった。

 アミタはそんなキリエの背を軽く叩いて落ち着かせてやる。
 母親が泣く子供をあやすように。

 その姿は『優しい姉』そのものだ。



 海鳴に降り立ってから…否、或いはエルトリアを飛び出してからすれ違い続けていた姉妹の心は此処に来て漸く元に戻ったのだ。

 「ゴメン…ごめんなさい、お姉ちゃん…!」

 「いいですよ…済んだ事です。あの子は、U-Dは皆で止めましょう…。
  遊星さんもなのはさんも……皆が力を貸してくれます…貴女は1人じゃないんですから。」

 もう、大丈夫だろう。
 『自分が何とかしなければ』と言う切迫した思いは、既にキリエにはなくなっているはずだから。

 クロノとシャマルも、この2人を見て一安心と言ったところだろう。


 「お姉ちゃんパワーって、凄いですね。」

 「あぁ、家族って言うのはいいものさ。」

 「本当ですね…」

 しばし、心が和む。
 が、和んでばかりも居られない。


 『クロノ、俺だ。』

 「遊星か。如何した?」

 『俺とはやて達で未来からの遡行者を確保した。これから全員でアースラに帰還する。

 「未来組を確保…良くやってくれた!了解だ、君達が戻り次第U-D戦の最終的なブリーフィングを行う。」

 『あぁ、分った。できるだけ早く戻るようにする……それじゃあ、又後でな。』

 「アースラで。」

 丁度タイミングよく遊星からの通信も入り、未来組の安否も確認できた。



 アミタとキリエの和解。
 そして未来組の確保。

 対U-D用の攻撃プログラムも完成しあとはU-Dを無力化して抑えるだけだ。



 只一つ気がかりなのはマテリアルの動向。
 レヴィ以外のマテリアルは未だ目覚めては居ない。

 念話通信は可能らしいがそれ以外はからっきし。
 残る3体が覚醒し、如何動くかもこれからの重要なファクターとなるだろう。








 ――――――








 「修復率…80%ってところか…」

 「如何ですか、王?」

 「うむ…力溢れるとは行かんが…此れならば充分に戦える。」

 そのマテリアルも海鳴の上空で復活をしていた。
 レヴィと違って完全回復ではないが戦闘を行うならば問題は無いレベルにまでの回復。
 此れならば或いはどうにかなるかもしれない。


 「あ、王様!シュテルん!ゲイルん!!おっかえり〜〜!!」

 その3人の復活を察知したレヴィもこの場に駆けつけ、復活を大喜び。
 何よりもこの3人の事が大好きなレヴィにとってこれ程嬉しい事はないだろう。

 「ご心配おかけしましたねレヴィ。」

 「ご覧の通りもう大丈夫だ。」

 「うむ、我等の修復中良くやってくれた。シュテルとゲイルが既に奴に対する有効打を考え出したわ。」

 3人もレヴィを向かえ、更にディアーチェは作戦も出来ているという。
 企画立案はシュテルとゲイルだが、それでもU-Dへの有効打が有るというのは心強い。


 「ホントに!?うわ〜ゲイルんとシュテルんすっご〜い!さっすがーー!!」

 「此れくらいはな。」

 「えっへん。なんならもっと褒めて下さっても宜しいですよ?」

 「凄いぞ、偉いぞ〜〜ぱちぱちぱち〜〜〜♪」

 「光栄です。」

 「…何を遊んで居るか、うぬ等は!」

 何故かコントになってしまうのはレヴィだからだろう。
 まぁ、シュテルも今はノリノリだったわけだが。


 「冗談ですよ王。」

 「ただ、冗談じゃ済まない奴が現れたみたいだが…」

 寸劇の合間に、何時の間にやら近づいていた闇の気配。

 其れは間違いなく『闇の欠片』だ。


 「おぉ!?え、こんなのアリ〜〜!?」

 「ふん…実に不愉快極まりないな…斯様な姿で我等の前に現れるとはな!!」

 現れた闇の欠片はあろう事か『マテリアルズ』の欠片。
 だが、その欠片は何も言わない。

 恐らくは欠片の中でも其れほど強くない『残骸』レベルだろう。


 「ふん…残滓にもならぬ塵芥の分際で我に、我等に盾突こうなどと片腹痛いわ!
  丁度いい、U-Dと一戦交える前の準備運動だ――闇の真髄を見せてくれる!」

 負ける相手ではないが、欠片は放っておくと面倒くさい。
 故に倒してしまってもまるで問題なし、寧ろ復活の肩ならしには丁度いい相手だろう。

 ディアーチェの一喝は、そのまま他の3人への戦闘開始命令ともなる。
 もとより、シュテル、レヴィ、ゲイルの3人もやるつもりだ。
 全員が夫々デバイスを起動している。

 「行くぞ!身の程をわきまえぬ雑魚に我等の力を味わわせてやれ!」

 「無論です。」

 「偽者なんかに負けないモンね!!」

 「欠片のフィールがどれほどのものか…見せてもらうぜ!」



 いざ、戦闘開始!!














   To Be Continued… 






 *登場カード補足