地縛神事件から数日。
世間は年の瀬で慌しいが、基本的には平和そのもの。
この数日であった事と言えば、赤き竜に連れて来られた異世界の人物達と共に巨大な悪鬼を打ち倒したくらいだ。(キリ番参照、別窓開きます)
…十二分にとんでもない事態だが、それ以外は至って平和である。
だが、この戦闘で再度シンクロチューナーとなったことで、リインフォースも少しずつ力を取り戻し始めたのも事実。
そんな平和な八神家にて…
――ゴォォォォォォ!!
「え、あの、何で!?」
「シャマル…その、其れはとても個性的な調理方法だとは思うが…」
「ち、違うの!蓋、蓋何処!?」
「アカン、炊飯器も沸騰しとる〜〜!!」
「…シャマルの料理の腕は、なぜ上がらんのだろうな?」
「知らん。遊星、お前の修理技術で何とかならないか?」
「スマナイ、流石に無理だ。」
「やっぱオメーでも無理か…」
シャマルが科学実験を行っていた。
…平和……だと思いたい。
遊戯王×リリカルなのは 絆の決闘者と夜天の主 クロス30
『A's PORTABLE』
「アカンわシャマル、上手くなろうって言う向上心は認めるけど、やっぱ料理に関しては諦めた方がえぇと思うわ。」
「うぅ、シャマルさんしょんぼり…」
化学実験の末に生成された、謎の物体Xを前に、はやては遂にシャマルに料理に関しての引導を言い渡していた。
まぁ、この半年、幾ら教えようとも全く上達しなかったのだから仕方ないとも言える。
「遂に、引導を渡されたか…」
「仕方が無いんじゃ無いか?はやての家事の腕、取り分け料理に関しては既に主婦レベルすら超えてる。
はやて自身は『オレンジの謎ジャムつくる、アルティメット主婦が目標や』とか言っていたが…」
「…其れは誰だ?」
「いや、分らないが。」
その一方で、遊星は唯一化学反応を起こしていなかった炊飯器のコメを処理していた。
幸いにも芯だらけのボソボソ飯になっているだけで此れならば別の料理に出来なくも無い。
「で、如何するんだよ其れ?」
「炒飯でも作るか。逆にパラパラに炒めるのが楽そうだ。」
本日の八神家の昼食は遊星お手製のカレー炒飯に決定した。
因みに、米以外の『食材だったもの』は遊星が作った『有機肥料生成装置』行きとなった。
まぁ、肥料になるのだから無駄にはならないはずだ。
――――――
無事に昼食を終え、リインフォースとシグナムは庭でくつろいでいた。
同じく庭では、遊星が日課であるステラのメンテを行っている。
此処数日、晴れている日はこの光景が普通になっている。
「将よ、騎士達の中でも、お前とは一番古い付き合いになるが、こうして心穏やかに話をすることなどは今まで無かったな。」
「そうだな。だが、今は其れが出来る。傍から見れば取るに足らないことだろうが、其れが幸福でならない。」
何気ない日常の会話だが、此れもまた大事な時間。
今までは得ることも叶わなかった心穏やかにすごせる時間だ。
「しかし…毎日熱心だな。アレの手入れはそんなに頻繁にしなくてはならないものなのか?」
「騎士が剣の手入れを怠らないのと同じようなものだと思うが…」
視線の先では遊星のメンテナンスが続いている。
手入れ――整備をしているということは分るのだが、一体何処を如何して、何をしてるのか2人にはサッパリ。
一度聞いてみたことはあるのだが、余りの複雑さにリインフォースですら頭がオーバーヒートしたくらいだ。
「それと、この家にある殆どの物が遊星の手造りか改造品と主が仰っていたが…」
「本当だ。私のレヴァンティンを改造したのも遊星だ。」
「それは、凄いな…」
――ドルゥゥン!
「エンジンは此れで良いな。どうだ、他には?」
「特には。全システム極めて良好です。」
一通りの整備が終わったのだろう。
エンジンを一度噴かし、ステラ自身に他に気になるところが無いか聞く。
最早おなじみの光景だ。
「状態は良いみたいだな。と言っても良くは分らないが…」
「相変わらず、整備に余念の無いことだ。尤も、常に最上の状態で居ると言うのは当然の事か。」
「あぁ。自分の愛機は常に整備して最高の状態にしておいてやらないと。」
その言葉に2人は感心。
どんな時であろうとも油断はせず、しかし警戒しすぎる事も無い遊星の姿勢には見習うところもあるのだ。
「其れに、何時またこの間のようなことが起きるとも限らない。
…俺がまだこの世界に居ると言うことは、何かが起きる可能性は十分にあるからな。」
「?どう言う事だ?」
しかし、遊星の言ったことに疑問。
遊星が居るから『何か起きる可能性がある』と言うのは…?
「俺は赤き竜の力でこの世界に来た、俺の為すべき事を為すために。
地縛神を倒し、シグナーを覚醒させ、ナハトの呪いも砕いたが俺は未だ此処に居る。
つまり、この世界で俺が為すべき事は未だ有ると考えた方が良い。」
納得。
つまりは未だこの『海鳴』に居ると言うことが理由だったらしい。
言われてみれば然も有りなん。
役目が終わったのならばシティに戻っていてもなんら不思議は無いのだ。
「成程な。しかし、事を為した暁に、お前は帰ってしまうと言うのは、仕方ないとは言え少しばかり寂しいな。」
「大丈夫だ。例え離れても絆は繋がっている。絆が繋がっている限りまた会うことは出来る。必ずな。」
「お前が言うと妙な説得力が有るから不思議だ。」
此れもまた何気ない会話だが、大事な事。
いや、遊星は何れ自分の世界に帰る時が来るのだから余計に大事な時間と言えるだろう。
何れにせよ、平和で穏やかな時間であったのだが…
――ヴィン
「通信?」
『ごめんなさい、突然に。アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです。』
突然リンディから通信が入った。
声の調子からして特に危険な事態が発生したと言うわけではなさそうだが…?
「リンディ提督。何か?」
『いえ、今貴方達が居る近くで結界の発生を確認したの。術式が古代ベルカだったから何か知っているかと思って。』
「いえ、私達は全員家に居ますし、何も。」
古代ベルカ式の結界。
少なくともシグナム達ではない。
だが、そうなると一体誰が?
現状八神家以外に古代ベルカの術式が使える魔導師(或いは騎士)は居ないはずだ。
『そう…ごめんなさいね。じゃあ、こちらで調査するわ。何があるか判らないから貴方達も気をつけて。』
だが、聞いてしまった以上『はいそうですか』と言う事は出来ない。
特に、今通信に出たこの3人は!
「提督、よろしければ我々も協力を。」
シグナムが協力を申し出る。
口にこそ出さないが、遊星とリインフォースも同じ気持ちだろう。
否、話せばはやて達だってすぐさま協力を申し出ることは間違いない。
兎に角、こう言った事態を見て見ぬ振りは出来ない連中なのだ。
『其れは助かるけど…良いの?』
「古代ベルカならば私達の方が専門だ。力になれると思う。」
「其れにこの街で起きていることに、只傍観者で居ることはできないからな。」
聞けば、リインフォースと遊星も協力すると言う。
なら頼らない手は無いだろう。
『分ったわ。現時点での詳細データを送るわね。只くれぐれも無理だけはしないで。』
「分っています。………データ受信しました。」
『それじゃ、引き続きこちらでも調査を行うわ。後でクロノも派遣するわね。』
「あぁ、お前達も気を付けてくれ。」
『はい。それじゃあまた後で…』
――プッ
通信が終わり、3人は顔を見合わせる。
で、
「取り敢えずは私が向かおう。遊星とリインフォースは主はやてにこの事を。」
「1人で良いのか将?」
「俺も出ようかと思ったんだが…」
自分が出ると言うシグナムに、リインフォースと少し心配し、遊星は自分も出る気であった。
「何、結界の調査だけだ如何という事はない。其れに、並みの魔導師に遅れを取りはせん。」
「言われてみれば…」
「確かに、将がその辺の魔導師に負けるなど先ずありえないな。」
あっさり納得。
シグナムの実力は疑いようも無い。
遊星は一度全力でぶつかり合っているから勿論であるし、リインフォースの場合は古くからの仲故だ。
更に言うならば八神家全員が『信じる事も仲間として大切な事』と知っている。
ならば今はシグナムに任せ、自分達ははやて達にこの事を話して如何するかを決めた方が良い。
「分った。私達は主達に伝えておく。」
「頼む!」
すぐさま騎士服を纏いシグナムはリンディから受け取ったデータの示す場所へ。
残された遊星とリインフォースは事の次第を伝えるために家の中に入っていった。
――――――
「…成程、確かに此れはベルカ式の結界だな。」
データが示す場所に到着したシグナムはすぐさま結界を発見し内部に入り込んでいた。
外から見た限りでは術者は見当たらなかったので中に入ってみたのだが…
「誰も居ないか…?だが、結界が展開されている以上近くに術者が居るはずだが…ん?」
内部を調査するシグナムは視界の端に何かを捕らえた。
其れは余りにも見慣れた姿。
己の同胞にして、頼れる守護の騎士。
「…ザフィーラ?」
「む…騎士、か…」
家に居る筈の『盾の守護獣』ザフィーラの姿が其処にはあった…
To Be Continued… 
*登場カード補足