Side:フェイト


まさか、自らを戦闘機人に改造して、更に他の戦闘機人の事を吸収する能力を持ち合わせているとは、完全に予想外だった……少しだけ
貴方の頭脳を甘く見ていたよ、ジェイル・スカリエッティ。
貴方の頭脳は、正に悪魔と称しても良いだけの物だろと思うよ……だからこそ、其の力を『悪』に向けてしまったのが悲しいかな?……其
の力を人々のために使えば、大きな功績を残せたはずだからね。


「功績……其れは然る後に、残される事だろう。私達が勝つ事によって。
 だが、功績などと言う物は、私にとっては何の価値もない物に過ぎない……私は私の欲望を忠実に形にするだけであり、その為ならば
 何が犠牲になろうと知った事ではないのだよ。
 この姿も、トーレとセッテを吸収した力も、思い付いて、其れを実現したに過ぎない。
 私はこの戦いを制し、そしてその後に世界は、私の欲望を満たすための道具となり果てるのだよ!」


「其れは夢想に過ぎない……貴方では、私とフェイトを倒す事は出来ない……だから、貴方の狂気の研究も此処で終わりにする……」

「ほう、やってみたまえ!!」



覚醒スカリエッティに呼応するように、レオナは気を高め、同時に私は魔力を練り上げる――戦闘機人2体を吸収して得られた戦闘力は相
当に高いだろうから、こっちも最初から全力で行かないとだらね。

なんにしても、黒幕である貴方の討伐は必須……覚悟して貰うよ、ジェイル・スカリエッティ!!













リリカルなのは×THE KING OF FIGHTERS~紅蓮の炎~ Round43
『Rumbling-on-the-City』











No Side


スカリエッティが、トーレとセッテを吸収して戦闘力を増したのだが、そうであっても、六課の最速コンビの動きに付いて行く事が出来るかと
言われれば、そうではない。
雷撃の如きフェイトの斬撃が、スカリエッティを袈裟懸けに斬り付けたかと思えば、其れに遅れる事無く、レオナがハイデルン流暗殺術でも
って見事な追撃を加えている。

トーレとセッテの力を吸収したスカリエッティの力は、服を破る程に肥大化した筋肉から推して知るべしだが、同時にこの姿は、攻撃力と耐
久力で勝る反面、肥大化した筋肉の重さで、スピードがガタ落ちするという弱点がある。

分かり易く言うのならば、ソコソコの相手ならば、そのパワーで叩き潰す事が出来るだろうが、本物の一流の前では、速さに欠けた攻撃力
頼みの攻撃など通用しないのが世の常だ。
此れならば、如何にスカリエッティの耐久力が高くなっていようとも、雷速のヒット&アウェイを繰り返す事で削り倒す事は出来るだろうが…


「ふむ、見事なスピードだが、攻撃力が足りないのではないかね?君達の攻撃など、蚊が止まった程にも感じないが?」

「……まるでノーダメージ。呆れた頑丈さ……」

「頑丈さもさる事ながら、多分あの状態では、痛覚が可也鈍化してるんじゃないかな?
 幾ら頑丈な身体であっても、傷が付かないだけで痛みって言うのは感じるモノだから、耐えられる攻撃であっても、本能的に頭やお腹を
 守る為の防御姿勢を取る物だけど、スカリエッティは其れすらしてないからね。」


スカリエッティの巨大化した体は、最速コンビのヒット&アウェイを駆使した波状攻撃を受けても全くの無傷!フェイトは非殺傷設定をオフに
し、レオナもKOFの舞台では使わないガチの暗殺術を使っているのにだ。
確かにスピードこそないが、肥大化したスカリエッティの筋肉は、一流魔導師と一流の暗殺術の使い手の攻撃でも傷付かない程の強固な
物であるらしい。


「しかし、此れは予想以上の結果だね?……或は、トーレとセッテと言う、戦闘能力に秀でた戦闘機人を吸収したからか……何れにせよ、
 この身体がオーバーSの魔導師の攻撃でも傷付かないという事は貴重な情報だ。
 ふむ、この身体の耐久力は分かったから、今度は攻撃力の方を計ってみるとしようか?」


この頑丈さは、スカリエッティ自身も予想していなかった様だが、予想外の結果に満足したらしく、拳を振り上げ……其れを一気に床に叩き
付けた。
同時に床が砕け、それによって生じた石飛礫がフェイトとレオナに襲い掛かる。
無論誘導性のない石飛礫など、フェイトとレオナからしたら避けるのに難はない。推定時速100㎞を越えているであろう石飛礫も、雷速移
動が出来る2人にとっては、見てからでも避けるのが間に合うのだ。


「ふむ、流石に速いね?」

「!?」


レオナが避けた先にはスカリエッティが先回りしていた。
そして、驚くレオナに対して、その剛腕を叩きつけて壁際まで吹っ飛ばす!型も何もない力任せのラリアットだが、それだけに破壊力は可
成りの物だろう。


「レオナ!」

「……人の心配をしている暇があるのかね?」

「なに!?」


レオナをラリアットで殴り飛ばしたスカリエッティは、今度はフェイトの背後に現れ、頭を鷲掴みにすると力任せに放り投げ、更に其処に強烈
なパンチを打ち込んで吹っ飛ばす!


「……く……凄まじい力……でも、何故私達の動きについて来れたの……?」

「スピードなら、私達の方が絶対に上なのに……」


流石に、此れでやられるフェイトとレオナではないが、自分達の動きを上回ったスカリエッティが疑問だった。
肥大化した筋肉の重さで、素早い動きが出来ないのは証明されていた筈なのに、スカリエッティは自分達を越えたスピードを持ってして攻
撃して来た……それが解せなかった。


「確かに、スピードは君達の方が上だろう……終始動いている中で、あのスピードを維持できるというのは大した物であり、私には出来な
 い芸当だよ。
 だが、長時間高速で動く事は出来なくても、一瞬だけならば如何かな?……筋肉が肥大化し、凄まじい力を秘めている此の足ならば一
 瞬のスピードで上回る事は可能なのだよ。
 此の足で、地面を思い切り蹴って飛び出せば、其れはカタパルトで射出されたかの如き推進力を得る事が出来るのだからね。」


その答えも、スカリエッティの身体が関係していた。
身体が肥大化して重くなったことで、素早い動きは出来なくなったが、逆に超強化された脚力を使えば、ほんの一瞬ではあるがフェイトや
レオナを越えるスピードを得る事が出来る。
強靭な足の筋肉を使って地面を蹴って飛び出せば、凄まじい勢いで飛び出す事が出来る――其れを利用して、レオナにラリアットを喰らわ
せ、フェイトに拳打を叩き込んだのだ。


「一瞬とは言え、其れだけの巨体で其処までのスピードが出せるのは驚異……加えてパワーも物凄い。
 今のスカリエッティのパワーは、私が元いた世界のチャン・コーハンにも勝るとも劣らないかもしれない……」

「そんなに凄いの其の人?」

「身長227cm、体重303kgの超巨漢で、鎖に繋いだ巨大な鉄球を軽々と振り回す程の腕力を持っている上に、その巨体で最大3m近い
 大ジャンプもこなす。」

「何それ凄い。」


加えて、スカリエッティのパワーは凄まじく、たった一撃喰らっただけであるにも関わらず、フェイトもレオナも結構良いダメージを貰ってしま
った――特に、攻撃力と機動力重視で、防御力が笊なフェイトにとっては結構痛いダメージだ。
戦闘不能にならなかったのは、拳打が当たる直前に、自ら後ろに飛んでダメージを逃がしたからである。

とは言え状況はフェイトとレオナにとって可成り不利だと言えるだろう。
此方の攻撃は決定打にならず、逆に相手の攻撃は一撃必殺レベルで、一瞬だけとは言え速さをも上回られてしまう……動き回って居れ
ば良いとは言え、そんな事をしていてはスタミナが持たないだろう。


「因みに、もっと良い事を教えておいてあげよう。
 私は、吸収した戦闘機人のISと、特殊技能も使う事が出来る……ふむ、其れを考えると、此処にはセインを配置すべきだったかな?
 彼女のディープダイバーを使えるようになれば、この圧倒的な力を持ってしての不意打ちが可能になるのだからね……まぁ良い、君達2
 人を始末してから吸収しに行くとしよう。」


更に、スカリエッティは吸収した戦闘機人の力をも己の物と出来るという。
だとしたら最悪極まりないだろう――もしも、フェイトとレオナが此処で倒されたら、スカリエッティは市街地へと出向き、ロックとティアナによ
って倒されたウェンディ達を吸収し、やろうと思えばナカジマ姉妹すら吸収するだろう。
そうなれば、正に手の付けられない化け物が誕生する事になるのだから、其れだけは絶対に阻止せねばならないだろう……六課には高
町なのはと、八神庵と言う天然の化け物が居たとしてもだ。

とは言え、フェイトもレオナも其れをさせる心算はない。
状況は不利でも、その闘志はまだ尽きていないのだ……その闘志が消えない限り、此の2人は倒れないだろう。


「そんな事はさせないよスカリエッティ……貴方は此処で止める!」

「狂った力の末路は滅び……そう決まっているから。」

「ふむ、不利な状況でも挑もうとする、その姿勢には敬意を表そう。だが、君達には1%の勝利も無いと知り給え。」


フェイトはバルディッシュをライオットの二刀流に換装して手数を増やす事を選択し、レオナもMAXモードを発動して地力を底上げする。
そして、そのまま雷速で飛び出し、二刀流での激しく鋭い斬撃と、鋭い手刀と蹴りによる攻撃がスカリエッティに矢継ぎ早に叩き込まれてく
が、スカリエッティは小動もせずに無傷!


「手ぬるい……!」

「「!?」」


それどころか、何度目かの攻撃の時に、フェイトのライオットとレオナの手刀を掴むと、腕力に物を言わせて2人の頭をぶつけ合わせ、其処
からレオナを力任せにぶん投げると、追撃に口からビーム発射!……自らを戦闘機人と化したとは言え、此れはやり過ぎだろう。
とは言えこの攻撃を喰らったレオナは壁まで吹っ飛ばされ、更にビームによって破壊された壁の瓦礫の下敷きに。

そして、フェイトの事は頭を掴み直すと、そのまま何度も床にたたきつけ、トドメにゼロ距離での魔力砲を叩き込む!!
六課で最も防御力の低いフェイトが此の攻撃を喰らったら堪ったモノではない……攻撃が終わるとそこには、頭から血を流しながら倒れて
いるフェイトの姿があった。


「ふひ……ふひはははははははははははは!此れは、予想以上の結果だったよ!!
 この姿であっても、もう少し苦戦すると思っていたが、こうも簡単に勝つ事が出来るとはね……此れで、六課の三本柱の1本は崩れた!
 後は、高町なのはを倒せば事実上の勝利だが……彼女を倒すには、全ての戦闘機人を吸収する必要があるかな?……まぁ良い、それ
 も、大して苦労はないだろうからね。」


其れを見て、スカリエッティは勝利を確信していた。
仮に生きていたとしても、瓦礫の下敷きになれば大怪我は免れないし、床に血だまりが出来る程の大量出血をしていれば動くだけでも相
当にキツイだろう。
そう判断し、スカリエッティは勝利を確信していたのだ。


――バガァァァァァァァァン!!


が、レオナを埋め尽くしていた瓦礫の山が爆発!
何事かと、スカリエッティが目を向けた先には――


「私達は負けない……」


髪と目を赤く染めたレオナが、凄まじいまでの闘気を纏って佇んでいた。――瓦礫に押し潰されるその瞬間にオロチの力を覚醒させ、その
力を持ってして、瓦礫を吹き飛ばしたのだ。
勿論無傷ではなく、身体中に擦り傷切り傷が点在し、タンクトップも右肩の部分が破損しているが、それでもレオナは無事だったのだ。


「貴女も、こんな所で立ち止まって入られないでしょう?」

「……其れは、その通りだね。」


更に、レオナの問いかけに応える様に、フェイトも身体を起き上がらせる。――と同時に、真ソニックを発動する。
頭からの流血は凄まじく、顔と金髪の一部を真っ赤に染め上げているが、しかしフェイトの瞳からは闘志の炎が消えてはいない……レオナ
もフェイトも、まだまだ戦えるのだ。


だがしかし、スカリエッティからしたら、此れは面白くない。
倒したと思った相手が、まだ健在――とは行かなくとも戦闘可能で、しかもまだ戦う気でいるのだ。力の差を見せた形となったスカリエッテ
ィからしたら、苦虫を噛み潰した思いだろう。


「ならば、もう一度叩き潰してあげよう!」


だが、ならな何度でも叩き潰せば良いだけの事と考え、スカリエッティはパワーを利用したロケットダッシュで2人に近付くが……


――フッ……


2人に触れる直前で、その姿が消え……


――ドス!!


「がっ!?」


直後に、背中に何かが突き刺さる感覚が!
何事かと思い、首を後ろに回すと、其処には背中に手刀を突き刺したレオナと、そのレオナの左手を握っているフェイトの姿があった。
オロチの力を解放したレオナと、真ソニックを解放したフェイトのスピードは目で追える所か、ハイスピードカメラですら残像を残しての姿を
捕らえるのが精一杯であり、肉眼で捕らえられるモノではない。
故に、スカリエッティは背後を取られてしまったのだ。

更に、レオナがオロチの力を解放した事で、攻撃力が上がって、鋼の肉体に手刀を突き刺す事が可能となっていた。
となれば、手刀で切り裂く事も出来るだろう。手刀が突き刺さるのならば、手刀で切り裂く事が出来るのは道理なのだから――が、レオナ
の本当の目的は此処からだ。


ストームブリンガー。


突き刺した右手から、スカリエッティのエネルギーを吸収し、己の体力回復とダメージ回復を行うと共に、手を繋いだフェイトにも吸収したエ
ネルギーを譲渡してフェイトの体力とダメージを回復していく。
最もハイデルンに近かったレオナだからこそ習得できた、ハイデルン流暗殺術の奥義を持ってして、レオナはこの逆境からの逆転の一撃
を放ったのだ。

だが、レオナのストームブリンガーが齎したのは、体力回復とダメージ回復だけではなかった。


「ば、馬鹿な……身体が萎んで行く……!」


エネルギーを吸収されたスカリエッティは、ドンドン身体が萎んで行き、最終的にはトーレとセッテを吸収する前の状態まで戻ってしまった
のだ。

スカリエッティは、レオナのストームブリンガーによって、吸収したトーレとセッテの能力までも吸い取られてしまったのだ。
無論レオナは、この結果を考えずに、純粋に自分とフェイトの回復を考えていた故に、この効果は正に嬉しい誤算と言った所だろう――戦
闘機人の能力がなくなったスカリエッティなど、恐るるに足りないのだから。


「形勢逆転……かな?」

「貴方には、最早成す術はない……精々祈って。」


そして、言うが早いか、フェイトはバルディッシュをザンバーフォームに換装して、その大剣の腹でもってスカリエッティを思い切り殴り飛ばし
てホームランし、吹き飛ばされたスカリエッティをレオナが追撃してVスラッシャーを叩き込んで爆殺!

一応一命は取り止めたスカリエッティだが、その姿は無残な物だった。
身体中に火傷を負い、胸と腹には巨大なVの字が刻み込まれた上での完全失神……真の力を解放したフェイトとレオナの勝利であった。


「……任務完了。」

「貴方の敗因は、私とレオナの力を見誤った事だね。」


レオナは手刀を振り払い、フェイトはザンバーを床に突き刺しての勝利宣言――其れは、敵対勢力の頭を討ったと言う事でもあったのだ。
こうして、黒幕であるスカリエッティは六課に捕縛されたのだった。








――――――








Side:レオナ


スカリエッティは取り敢えずワイヤーでぐるぐる巻きにした上で、本部に引き渡しておいた――聞いた話だと、ロックとティアナがギースを倒
し、スバルとノーヴェもギンガを倒して取り戻したと聞いた。

……となると残るは、ミッドの上空に浮かんでいる古代兵器『ゆりかご』のみ。

私達は外から入る事が出来ないから、援軍に向かう事は出来ないけれど、彼方達ならばきっと大丈夫だと思うわ、京、シグナム――テリ
ーとヴィータもね。

だから頑張って――ゆりかごを落とす事が出来るのは、彼方達だけなのだから……












 To Be Continued…