学年別タッグトーナメントが迫っていたある日の午後、箒は三組のクラス代表であるロランから、『下駄箱にラブレター』と言う古式ゆかしい方法で呼び出されていた。
「ふむ、手紙には十三時と記載したのだが、今は指定時間の五分前……日本人は時間に厳しいと聞いていたが、其れは間違いではなかった。」
「五分前行動は日本人の基本だ、小学生の時から叩き込まれるからな……して何用だローランディフィルネィ?」
「ロランで良い。自分で言うのもなんだが、私の名前は長いからね。
一夏に聞いたら君には遠回しに伝えるよりもストレートに伝えた方が良いとの事だったのでね……篠ノ之箒、私は君に心を奪われてしまったんだ。
舞台女優として多くの女性を魅了してきた私だが、よもやその私がたった一人の女性に心を奪われる事があるとは思わなかった……嗚呼、これは神に感謝すべきだろう。
こうして君のような素敵な女性と出会えたのだからね。」
其処でロランは箒に真っ向からの告白をして見せた。
箒には一夏が言っていたように下手に匂わせるような事を言うよりもドストレートの直球でぶつけた方が良いので、ロランもそれに従ったのである。
「成程な……ふむ……此処で私がお前との交際を是とすれば其れこそ新聞部の良いネタになるだろうが、悪いが私は現状でお前と交際する気はマッタク無い。
そもそもにして私は同性愛者ではなく至ってノーマルだと思っているからな。」
「そう来ると思った
だから本命は此処だ――もしも私達が学年別タッグトーナメントで君達に勝つ、或いは優勝したら私の言う事を一つだけ聞いてもらうというのはどうだろうか?――そうだね、デート一回で如何かな?」
「そう来たか……私達に勝つか或いは優勝した事が条件であるのならばまぁ、妥当かもしれん。
ならば私達が勝ったか優勝したその時は料理を教えてくれ……和食は得意だし、中華に関しても最近は鈴に習っているので大分出来るようになって来たのだが、洋食だけは教えてくれる師が居なかったのでね。」
「うむ、了解したよ。本場のオランダ料理を君に伝授しようじゃないか。」
こうして箒とロランの会話は終了し――遂にタッグトーナメント当日を迎えるのであった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode21
『大会開始~Grade-based tag tournament~』
タッグトーナメント当日、開会式後に一夏達は試合会場となる第一アリーナへと向かっていた――第二アリーナは二年生、第三アリーナは三年生の会場となっており、一番大きい第一アリーナで一年生の試合が行われるのは全生徒が参加するのが一年生だけだからである。
二年生以上は基本的に『競技科』に進んだ生徒のみが出場するので規模が小さい第二、第三アリーナでも充分なのだ――尚、競技科に進んだ楯無は本来ならば出場する訳なのだが、去年の学年別トーナメントで全試合一分以内で決着、決勝戦終了までに減少したシールドエネルギー0&と言うトンデモナイ無双っぷりを発揮した事で学園側から『出場禁止』を言い渡されていたりする。
「君の晴れ舞台を見に来たぞ一夏君。」
「一夏君、全力でやって来い。」
「一夏、お前の全開を見せてくれよ。」
「矢部は最高の舞台を期待してる、そして俺も俺の中の矢部もお前なら其れが出来ると信じてるぜ。」
「天羽のおやっさんに小峠のアニキ、青山のアニキに矢部のアニキ!何してんすかこんなところで……てか、なんで居るんですか此処に?」
「楯無君に招待されたんじゃよ。」
「会長さん……まぁ、裏社会と繋がってる楯無さんなら天羽組とも繋がりがあっても不思議じゃないか……でも、おやっさん達が来てくれたってのは俺にとっては嬉しい誤算でした。
おやっさん達の前で無様は晒せねっすからね。」
その道中で楯無が招待した天羽組の面々と会った一夏は気合を入れ直していた――特に小峠が来ているとなれば尚更だろう。
一夏が一番懐いていた天羽組の組員は小峠であり、小峠から『絶対に諦めずに折れない気合と根性』を学んでいる上に、何度も一緒に訓練を行い、時には街に繰り出して一緒にラーメンを食ったりした仲なので、一夏にしたら小峠は本当の兄のような存在なのである。
そんなこんなで始まった学年別タッグトーナメントなのだが、組み合わせは当日にルーレットで決定され、今しがた組み合わせが決まったのだが、専用機持ちは見事にばらける形となった――ただ一組を除いては。
一夏とヴィシュヌは互いにトーナメントの右端と左端になった事で決勝戦までは絶対に当たらない構成となっていた。
一夏は同じ組に箒とラウラのペアが居たが、其れも準決勝までは当たらないようになっていた。
だが、一回戦の相手を見て一夏と鈴は不敵な笑みを浮かべていた。
「一回戦からか……上等だ。」
「イキナリ簪とか……一発かましてやろうじゃない!!」
一夏と鈴の一回戦の相手は簪&本音ペアだったのだ――一夏と鈴の実力をもってすれば苦戦する相手ではないのだが、慢心は敗北に直結する事を知っている一夏と鈴は改めて気を引き締めるのだった。
――――――
毎年学年別トーナメントの一年生の部と三年生の部にはIS企業から多くの観戦者がやって来ている――三年生の場合はスカウト目的で、一年生は所謂青田買いが目的なのだが、今年は一年生の部に企業観戦者が例年より多かった。
今年の一年生はIS学園始まって以来の粒揃いとなっており、国家代表や代表候補生のみならず、一般生徒の中で代表候補生トライアルに参加した生徒の人数が最大で、つまりは代表候補生クラスの実力を持った生徒も多いので、金の卵候補を早い内に確保しておきたいと考えたのだろう。
そんな中で行われる一年生の部、主なペアの試合を見て行くとしよう。
・ヴィシュヌ&円夏ペア
ヴィシュヌと円夏のペアは第一試合での登場となり、イキナリの優勝候補の登場にアリーナは大盛り上がりとなっていた。
対する相手は三組の一般生徒のペアで、打鉄とラファールリヴァイブを使用しているバランスを重視した感じになっているのだが……其の程度では一年生の中でも五指の指に入るヴィシュヌと円夏の敵ではなかった。
「ふっ!」
「は、速い!!」
試合開始と同時にイグニッションブーストでヴィシュヌが相手ペアの一人に肉薄すると鋭いミドルキックを繰り出し、パートナーに向けて蹴り飛ばす。
パートナーは其れを受け止めようとしたのだが、其処に円夏が黒騎士のBT兵装を展開して容赦ない多角的攻撃を行ってそれを阻み、蹴り飛ばされた生徒にはヴィシュヌが再度イグニッションブーストで肉薄すると首と足をホールドした上で背中に膝蹴りを叩き込むバックブリーカーを喰らわせ、更にダメ押しとなるエルボーを腹部に叩き込み、そのままアリーナの床にダイブ!
此の一撃でこの生徒のシールドエネルギーはエンプティとなって戦線離脱……となればもう相手に勝機はない――あっと言う間にヴィシュヌと円夏の波状攻撃によってシールドエネルギーがエンプティとなり、ヴィシュヌ&円夏のペアは危なげなく一回戦を突破したのだった。
乱とティナのペアも問題なく勝ち進み、前半戦最後の試合は一般生徒最強タッグと言われている一組の静寐&清香ペアが四組の一般生徒タッグを圧倒して二回戦へと駒を進めていた。
因みに一年生の部では解説に二年生の部に出場禁止が言い渡された楯無が回っており、試合ごとに試合の考察を行い、勝者の勝因と敗者の敗因を明らかにしていた。
特に勝因に関してはペアの特徴を言い表すと共に暗に攻略法を伝えており、二回戦以降の試合の難易度を引き上げる事にもなっていたのだった。
そして後半戦の第一試合に登場したのはラウラと箒のペアで、相手は三組の一般生徒のペアだ。
「箒、この試合はお前は下がっていろ……この試合は私一人でカタを付ける――お前の力を一回戦で、其れも一般生徒のペア相手に披露するのは勿体ないのでな。」
「……普通ならば傲慢だという所なのだろうが、お前にはそれ相応の実力があるからこれ以上は何も言わん……勝てよラウラ。」
「無論だ。」
此処でラウラは箒を後方に下がらせて自分一人で戦うと言って来た。
「一人で相手するって……いくら何でも私達を舐め過ぎじゃない?」
「ドイツの国家代表だからって傲慢じゃないの其れ?」
「傲慢かどうかかは其の身をもって確かめると良い……あぁ、はじめに言っておくが箒を狙っても無駄だぞ?
アイツは此の試合には参加しないが、其れでも自分を狙って来た相手に関しては手痛いカウンターをブチかますように言ってあるのでな……箒のカウンターは一度喰らった事があるが、現役軍人である私が意識を飛ばされかけたからな……貴様ら一般生徒が喰らったら一撃KO間違いなしだ。」
あからさまな舐めプに激高して突っ込んできた三組のペアだが、其の攻撃がラウラに炸裂する直前で其の動きが止まった。
「この程度の挑発に乗って、その挙句に私の世界に囚われてしまうとは情けないな……まぁ、所詮は一組に入れなかった者なのだから、私に近付けただけでも及第点としてやるべきかもしれんな。
だがそこまでだ。」
相手ペアが動きを止めたのは、ラウラがワンオフアビリティである『AIC』――停止結界を使ったからだった。
停止結界の使用には膨大な集中力が必要になるので、普通ならば二人以上の相手に対しては使用できないのだが、ラウラは『回数を熟せば慣れるだろう』との脳筋理論の下に自身のAICの機能を高め、複数を相手に停止結界を発動出来るようになっていた。
「一組に入れなかったって、それってどういう……」
「なんだ、知らなかったのか?
一組の生徒は中々見どころのある奴ばかっりだったので少し調べてみたのだが、一年一組の生徒は一般受験を突破した生徒のうち上位三十位に入った生徒で構成されているのだ。
そして一組の生徒数は代表や代表候補生枠を入れても三十五人だが、二組以降は特別枠を入れて五十人と差がある……つまり一組は所謂エリート組であると言えるだろう。
担任が織斑先生で、副担任が山田先生である事も其れを示している!
だが、貴様等とて狭き門を通って来たのは間違いない……この敗北を糧にして這い上がるが良い……ベルリンの赤い雨!!」
一年一組のまさかの秘密を聞いて動揺した相手に対し、ラウラはプラズマ手刀を展開して連続チョップを叩き込んでシールドエネルギーを削り切って文字通りのパーフェクト勝利を決めてみせた。
『これは見事なパーフェクト勝利ですが、ラウラ選手は一回戦からAICという切り札を切ってしまいましたが二回戦以降は対策がされてしまうのではないでしょうか?』
『確かにそうかもしれないけれど、切り札には二つの使い方があるのよ。
一つは其の存在を匂わせつつギリギリまで見せない事で警戒させる方法と、敢えて先に見せる事で其の存在を警戒させて他への警戒を薄れさせると言った具合にね。
そしてラウラちゃんはこの二つをこの試合で使って見せたのよ――AICと言う自身の切り札を見せつつ、箒ちゃんは一切戦わせなかった事で見せる切り札と見せない切り札の両方を備えたのよ。
ラウラちゃんと箒ちゃんのペアは今大会の台風の目になるのは間違いなさそうだわ♪』
『な、成程!』
楯無の解説もあって、見せる切り札と見せない切り札を備えた箒&ラウラペアは今大会のダークホース的な存在になるかもしれない。
――――――
ロラン&櫛音のペアも無事に一回戦を突破し、他の試合も基本的には一組の生徒同士で組んだペアが一回戦を突破していた。
そして一回戦の最終試合――一夏&鈴ペアvs簪&本音ペアの試合となった。
「一夏ぁ、全力でブチかませ!!」
「俺はお前の勝利を信じてるが、矢部は最高の勝利を信じてるぜ。」
「一夏君、君の全てをぶつけてやれ!」
観客席からは天羽組のアニキ達から檄が飛び、一夏は其れにサムズアップして応えると蒼龍皇を展開――蒼龍皇と甲龍のタッグは、『ダブルドラゴンタッグ』と言えるだろう。
「鈴、お前はのほほんさんを頼む。
会長の妹さんは如何にも俺を直々にブッ飛ばさないと気が済まないらしいからな……精々付き合ってやるとするよ。」
「あ~~……ありゃ回りが全く見えてない狂戦士の目だわ……パートナーの子倒したら加勢に入った方が良いかしら?」
「いんや、どんな形であってもアイツはタイマンで叩きのめさないと意味がない……二人で倒したら『二対一だったから負けた』とか言いかねんからな。」
「成程ねぇ……ま、アタシの力が必要になったら遠慮なく言いなさいよ?」
「その時は頼りにさせて貰うさ。」
そうして始まった一回戦の最終試合。
試合開始と同時に簪は打鉄・弐式の近接用武器である薙刀を展開して一夏に斬りかかって来たのだが、一夏は其れを難なく回避して登龍剣で薙刀を弾いて鋭い横蹴りを簪の横っ腹に叩き込む。
だが簪も咄嗟に薙刀の柄を差し込む事で直撃を回避しカウンターの横薙ぎを放つ……が、一夏は其れをもジャンプで回避し薙刀の切っ先に着地するという魅せプレを披露。
「俺のカウンターに反応するとは中々にやるじゃないか?……流石は会長さんの妹って所か?」
「あの人は関係ない!!」
「おぉっと、優秀な姉と比較されるってのは辛いと知ってる筈なのに酷い事を言っちまった、謝るよ。
だが……誰よりもお前を姉と比較してたのは他ならぬお前自身なんじゃないのか?」
「如何言う事?」
「さてな、答えは自分で見つけろよ!」
其処から激しい剣戟が始まるが、近接戦闘に関しては一夏は一年最強クラスであるので簪では分が悪く、少しずつ簪の被弾が多くなりシールドエネルギーも削られて行った。
「(此のまま戦ってもじり貧……だったら!!)」
此処で簪はダメージ覚悟で一夏の波状攻撃を受けるとカウンターで煙幕を張って一夏と距離を離し、其処からマルチロックオンを起動して一夏を多重ロックオンした上でマイクロミサイルを一斉掃射!
計五十発以上のミサイルを全回避するのは難しいのだが――
「そんな子供だましが通じると思ってんのか?」
一夏は迫りくる無数のマイクロミサイルを回避するとイグニッションブーストで距離を離し、其処から登龍剣を使って斬撃を飛ばして弾幕の先頭のマイクロミサイルを破壊し、他のミサイルは誘爆されて役立たずとなっていた。
さらにこの瞬間に鈴が本音の機体をシールドエネルギーエンプティにして戦線離脱させていたのだ。
「山嵐も通じないの……?」
「……目が曇り切ってちゃ所詮は此の程度か――興が削がれた。あとはお前に任せるぞ鈴……手加減不要、徹底的にやれ――日本の代表候補生二位の座を渡すなよ?」
「アタシは二番か~い!つっても一位が円夏だから仕方ないけどね……まぁ、何時か絶対にぶっ倒してアタシが一位になってやるけどね!」
「其の意気や良し!」
これにより一夏と鈴のペアが一気に有利になったのだが、一夏は此処で鈴に簪の相手を任せて自分は休憩に入った。
そして任された鈴は簪の攻撃を尽く見切った上で、最後は近距離で最大チャージの龍砲を喰らわせた後に双天月牙を簪に突き立ててターンエンドだ。
『打鉄・弐式シールドエネルギーエンプティ!勝者、一夏&鈴ペア!!』
試合に勝った一夏と鈴はハイタッチを躱し、二回戦以降に備えるのだった。
そして今回の試合を考察すると、鈴も簪も日本の代表候補生であり、其の実力は高いのだが、今回の大会では簪は冷静さを完全に失っていた事で一夏に見限られた挙句にパーフェクト負けを晒すという屈辱に塗れた敗北を味わうのであった。
To Be Continued 
|