学年別タッグトーナメントに向けて各生徒は日々鍛錬を行い地力を高めていた。
尚、タッグ申請書を学園に提出したタッグに関しては余程の事がない限りはタッグを組む事が認められるのだが、申請が無かった生徒に関してはトーナメント三日前に抽選によってタッグが決定される事になっていた。
大会の三日前にタッグが決まったとなれば練習もへったくれも無いのだが、これは逆に言うと一年生限定の『積極性に欠ける生徒のふるい落とし』の意味もあった。
一年生の中には『IS学園に合格した事で満足した生徒』が居るのは事実であり、そんな気持ちの生徒はIS学園の生徒である事に胡坐を掻いて自己研鑽を怠る傾向にある――故に、タッグ申請をしなかった生徒は『向上心無し』とみなされ、厳しい条件を付き付けられる事になったのだ。
それはさりとて学園の道場では箒とラウラがジャージにTシャツ姿でスパーリングを行っていた。
『目潰しと首絞め以外は何でもあり』のルールで打撃も投げも関節技も全て使えるモノだ――剣道や剣術だけでなく合気道も修めている箒と、軍隊式の格闘術を修めているラウラは夫々の得意分野を全開にして戦えば総じて互角であり、ラウラの打撃を箒が受け流せばラウラの追撃が即飛んで来て、しかし箒は其れを合気投げでのカウンター。
其れを受けたラウラは空中で受け身を取ると一足飛びで箒に肉薄しての鋭い横蹴りを一閃!
普通ならばあまりの速さに反応すら出来ないところだが、箒はラウラの蹴り足を合気道の技術で取るとラウラの足を払って倒して寝技に持ち込もうとするも、ラウラは土壇場で下からの三角締めを仕掛け、箒は極めさせまいと自身の両手をクラッチさせる。
こうなっては完全な膠着状態なのだが、此処でスパーリング終了を告げるスマホのアラームが鳴り響き、ラウラも箒も力を抜いて離れた。
「生身の戦闘力が如何程かと思ってスパーリングをしてみたが、正直予想以上だったぞ箒。まさか生身の戦闘で私と互角以上に戦える人間が織斑先生や兄上と姉上以外に居るとは思わなかった。」
「いや、単純な戦闘能力ならばお前の方が上だよラウラ。
だがお前の戦い方は日本古来の武術とは壊滅的に相性が悪過ぎるから私でも何とか戦えたに過ぎん……日本の古武術の本髄は、相手の力を利用する事だからな――直線的な西洋式の打撃は読みやすいんだ。」
「柔よく剛を制す、と言う奴か……」
「いかにも。
それでそろそろ教えて貰って良いかラウラ……お前は何故私をタッグパートナーに選んだのだ?
自分で言うのもなんだが、私の実力は一年生の中でも最下位とは言わないが精々中堅が良い所だろう?……正直な話、IS乗りとしてはマッタクもって腕前を誇る事は出来ん――現役軍人のお前のパートナーとしては役者不足だと思うのだが……」
「どうにもお前は自己評価が低いな箒よ……まぁ、姉が束博士なのだから致し方ないかもしれないが。
お前は嘗ての私なんだよ……思うように成長出来ずに伸び悩んでいた頃の私とな――加えてお前は自己評価が低すぎる事で自ら成長に蓋をしてしまっている。
私の伸び悩みは織斑先生と兄上達によって解決されたのだが、ならば同じように伸び悩んでいるモノを何とかしてやるのが私の役目と思ってな。
トーナメントの組み合わせ次第にはなるが、決勝戦まで勝ち進む事が出来たらお前も自信が持てるだろう?……相手によっては専用機持ちにすら勝てるかもしれからなお前は。」
「優勝したらとは言わないのだな?」
「組み合わせによっては決勝前に兄上や姉上と当たる可能性があるし、よしんばくじ運に恵まれたとて決勝戦で兄上や姉上と当たるのは間違いないのでな……負ける気はないが、勝てる気がマッタクしないのも事実だ。矛盾していると思うだろうが此の気持ちは事実だ。」
「其れはまぁ、分からん事もないかな……」
取り敢えず、このタッグは中々に相性が良いらしく、大会でも台風の目になる事は間違いないだろう。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode20
『大会前のなんやかんや~He is very busy~』
一年生でタッグ申請を行い、申請が通ったタッグは日々鍛錬を行って地力を底上げして大会に備えていた――簪は専用機の開発に躍起になっていたのだが、其れを見た親友の本音が自分をパートナーにして申請を行った事で抽選をギリギリで回避していた。
それでも楯無から受け取ったマルチロックオンシステムのデータを基にマルチロックオンシステムを一人で開発するのは難航を極め、結局マルチロックオンシステムが完成したのはタッグトーナメントの五日前であり、本音との訓練も碌に出来ていなかったのだが。
「出来た……此れで弐式は完成した。
マルチロックオンによるミサイルの飽和攻撃……此れなら勝てる。織斑一夏……貴方のせいでこの子は完成させて貰えなかった……貴方だけは私の手で倒さないと気が済まない……」
「かんちゃん、其れ完全に逆恨み……」
「何か言った本音?」
「なんでもないよ~~。(これは一回戦突破も難しいかなぁ~~?)」
そんな状況で本音は一回戦突破も難しいと考えているのだった。
其れは其れとして、一夏達はタッグトーナメントに向けて夫々訓練を行い、『優勝』を目指していた――と同時にクラス対抗戦の時のように『学食無料券』を賞品とした優勝予想が行われていた。
一番人気は一夏と鈴のタッグで次点がヴィシュヌと円夏、次いで乱とティナ、ラウラと箒、ロランと四組クラス代表の『黒髪櫛音』のタッグとなり、大穴が簪と本音のタッグとなっていた……代表候補生でありながら大穴になっている辺り、簪の校内での評価は推して知るべきなのかもしれない。
そんな中、一夏とヴィシュヌは生徒会室にやって来ていた――校内放送ではなく、スマホのメールにて楯無から『生徒会室に来て』と伝えられたのだ。
「んで、俺とヴィシュヌと呼び出して何の用だ会長さん?」
「態々呼び出したというのは只事ではないと思うのですが……」
「校内放送で呼び出すと室外に外野が集まりそうだったし、君達以外の誰にも聞かせたくなかったからね。
単刀直入に言えば、今度のタッグトーナメントで簪ちゃんと戦う事になった其の時は、一切の手加減をしないで真っ向から叩きのめしてくれるかしら?」
「「!!!」」
そこで楯無から告げられた事に、一夏とヴィシュヌは驚きを隠せなかった――楯無と簪の間に確執があるのは知っていたが、それでも楯無は簪の為に身を削っていた事も知っているから尚更だろう。
「まさかの事に驚いたが、マジでやって良いんだな?俺やヴィシュヌが本気を出したら、妹さんなんぞ秒殺だぜ?」
「下手すれば秒殺どころか瞬殺ですよ……」
「それで良いのよ……徹底的に己の力を分からせた上で、最後のトドメは私が刺す。
簪ちゃんは自分の得意分野なら誰にも負けないでしょうし、其れこそ自分の土俵で戦えば私にも勝てただろうけど、あの子は私の土俵に上って来て私と戦おうとした……そうならないように、其れで簪ちゃんが傷付かないように遠回しに『ISには関わるな』と言って来たんだけど、あの子には通じなかったみたいだわ……だから、もう現実を強制的に見せるしかないのよ。
あの子が壊れてしまわないようにするには、ね。」
「……俺や円夏と違って偉大な姉はコンプレックスでしかなかったって訳ね……まぁ、やれと言うならやりますよ。」
「やる以上は徹底的にですね。」
だがその理由を聞いて一夏とヴィシュヌは納得してしまった。
早い話、簪は最初から選択肢を間違っていたのだ――自分の長所が生かせる道を選択すれば、其れこそ楯無ですら及ばない領域に到達できたのだろうが、よりにもよって簪は楯無を同じ道を選んでしまった、同じ土俵で競う事を選んでしまったのである。
次代の楯無となるべく幼い頃よりあらゆる格闘術や隠密術に学問を叩き込まれた楯無と比肩する人間など、其れこそ数えるほどしか存在せず、天羽組の最高戦力である和中をして『更識の楯無嬢と本気で遣り合ったら俺とてタダでは済まないだろう。』と言うレベルであり、普通の女の子として育てられた簪では到底勝てる筈がないのである。
無論、両親は簪の長所を褒めて伸ばしていたのだが、楯無は常に簪の遥か上を行き、十五歳で楯無を襲名しただけでなく自由国籍を取得してロシアの国家代表になり、更にはロシアの最新鋭機を受領してそれを自分用にカスタマイズしてのけると言うトンデモナイ事までやってのけた事で、偉大過ぎる姉にコンプレックスを抱き、其れが何時しか羨望から変異した憎悪になってしまったのだ。
そして先日の一件で楯無は簪の事を『此れ以上護っても簪の為にならない』と判断し、ISの世界に於いて完全に叩きのめす事を決めたのである。
「だけど、辛くないのか会長さん?自分の妹が徹底的にやられるってのは……」
「楯無は時と場合によっては親ですら其の命を奪う選択をしなくてはならないのよ一夏君……其れと比べたら此の程度は無改造のエアガンで至近距離から撃たれたようなモノよ。」
「……其れ滅茶苦茶痛いですよね……ですが、姉に其れを選択させたと言うのは見過ごせませんね……」
こうして本人の知らないところで簪をISから離れさせる算段が着々と進んで行くのであった。
――――――
IS学園の学年別タッグトーナメントが三日後に迫った頃、天羽組には更識楯無名義で一通の封書が届いていた――其の中身は、『学年別タッグトーナメント』の観戦招待状だった。
毎年学年別トーナメントにはIS関連の企業やISバトルの実業団体などからスカウトが観戦に訪れており、IS学園からも一部の企業や実業団体に観戦招待状を送っているのだが、今年に限ってはある意味で学園長以上の権限を持つ楯無の一任で天羽組に招待状が送られていたのだ――まぁ、天羽組も自分のシマ内で多数のバーやらキャバクラを経営し、天羽組経営でない店の守を引き受けて中々の利益を上げ、一夏が社長を務める『ラビット・カンパニー』にも高額の出資をしているので招待客としては間違っていないだろう。
「それでおやっさんは確定として、他には誰が行くんですか?」
「青山と矢部、そしてお前だ小峠。」
「俺ですか?青山のアニキと矢部のアニキが一緒なら俺は必要ないと思いますが……」
「ワシの護衛ならば青山と矢部で充分過ぎるが……一夏君の晴れ舞台をお前が見ないで如何する。一夏君の兄貴分として、彼の晴れ舞台を目に焼き付けてやれ。」
「一夏君の……そう言う事ならご一緒させて頂きますおやっさん。」
「うむ、それで良い。」
取り敢えず学年別タッグトーナメントには日本でも最強クラスの極道から観客が来る事が確定したのである。
――――――
「(ったく、オータムさんに見つからないようにとか叔母さんも無茶言ってくれるぜ……幸いな事に、あのエロガキと話し込んでくれた事でチャンスが到来したけどよ。
……ドイツの眼帯にゃ悪いが、お前さんには踊って貰うぜ……亡国の目的を達成するためにな。)」
学年別タッグトーナメントを翌日に控えた日の深夜、一人の生徒が整備室のカギをピッキングして抉じ開け、ラウラの専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』にケーブルを繋いでシステムハッキングを行い、セキュリティを一時的に無効にしてからあるプログラムをインストールしていた。
そしてこのプログラムが、学年別タッグトーナメントに於いて誰もが予想していなかった斜め上の事態を引き起こす事になるのであった――
To Be Continued 
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