ある日の放課後、学園のカフェテラスには一夏とロランの姿があった。
一夏は放課後の訓練を行いたかったのだが、ロランが一組の教室前で一夏を待っており、『君にしか頼めないお願いがあるんだ』と言われ、そう言われては天羽組で任侠と人情を学んだ一夏に断ると言う選択肢は無く、こうしてロランとカフェテラスに居るのだ。
『私が頼んで君に来てもらったのだから此処は私が奢るよ』との事でカフェの支払いはロラン持ちとなっており、一夏はエスプレッソとバスク風チーズケーキを、ロランはブラックコーヒーとガトーショコラをオーダーしていた。
「そんで、俺にしか頼めない事ってなんだロラン?」
「其れに答える前に確認しておきたいのだが君は箒の幼馴染なのだろう、一夏?」
「まぁ、幼馴染っちゃ幼馴染だな。」
「なれば教えて欲しい……どうすれば箒の気を引く事が出来るのかを!!」
「気を引くって……箒を恋人にするって本気だったのかお前?
……てか、99人の恋人がいるとか抜かしてなかったかお前?だとするなら、箒がお前にとって都合のいい女の一人になる事を其れこそ幼馴染として是とする事は出来ねぇんだがな?」
「あぁ、その事か。
私は舞台女優もやっていてね、男役をやる事が圧倒的に多くて女性ファンが多いんだよ……99人の恋人とは其の中でも特に熱烈な99人のファンの事で恋人関係にある訳じゃないんだ。
つまり箒は私にとって唯一無二の真の恋人になってほしいのさ!」
「女性ファンをはべらせてたお前が初めて本気でときめいた相手が箒だったって事か。
まぁ、俺は同性愛を否定する気はないし、互いにそれで納得してるんなら外野がごちゃごちゃ言う事でもないと思ってるんだが……箒は俺が知ってる限りではノーマルだから、お前になびく可能性は極めて低いと思うんだがな。」
「だが可能性はゼロじゃない……ゼロじゃないのならば挑む価値はあるだろう?」
「それに関しては否定しねぇけどよ……まぁなんだ、箒は大和撫子だが勝ち気で竹を割ったような性格で曲がった事が大嫌いだから、遠回しな言い方はしないでドストレートに言った方が良いと思うぜ?
ただ、あんまり箒を困らせると束さんが動いてお前を物理的にも社会的にも抹殺しかねないから其処だけは注意しろよ。」
「……天災兎さんに敵認識されないように注意は必要だね。」
ロランは箒にハートブレイクされたらしく、如何すれば箒の気を引く事が出来るのかを幼馴染である一夏に尋ねて来ており、ロランの話を聞いた一夏は最低限の情報を与えつつ、『やり過ぎたら束さんに消されるからな』との釘を刺していた。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode19
『タッグトーナメントに向けて~My older sister and younger sister~』
GW後のある日の放課後。
第3アリーナではISを使った実戦的な訓練が行われていた。
訓練を行っているのは一夏とヴィシュヌと円夏とラウラ、鈴と乱、そして箒だ――箒は専用機を持っていないので学園配備の訓練機である打鉄を使っているが、その訓練でラウラは箒に注目していた。
「(操縦技術は未熟で拙いが、それを補う何かを修めているな彼女は。
其れに一般生徒ならば付いてくる事すら困難な兄上達の訓練に息が上がっていても付いてくるとはタダモノではないな……流石は篠ノ之博士の妹と言ったところ――否、彼女自身の努力の結果か。)」
嘗て自らも経験したからこそ(当時は一夏がISを使わなかったので生身での訓練ではあるが。)一夏の訓練の厳しさをラウラは知っており、一般生徒は勿論のこと下手をしたら代表候補生でも白旗を上げかねないモノなのだが、箒は息を切らしながらもその訓練に付いて来ているのだ。
箒が一夏達の訓練に付いて行けているのは偏に彼女が剣士として、武人としての鍛錬を怠っていなかった事が大きい――箒は姉である束が世界的に知られている事もあって自分の事を過小評価する傾向にあり、『自分はまだ足りていない』と思って同世代と比べたら明らかに過剰とも言える鍛錬を行って来たのだ。
普通ならば身体が壊れてもおかしくないレベルの鍛錬内容だったのだが、実は箒も束には劣るモノの一般人と比べれば可成りバグった身体構造をしていたらしく、過剰鍛錬で身体を壊すどころか逆に強くなっていたのだ――だからこそ一夏達の訓練に付いていく事が出来ているのだ……その訓練を涼しい顔で行っている織斑兄妹とヴィシュヌ、鈴と乱も相当にバグってると言わざるを得ないのだが。
「アタシの視線から龍砲の狙いがバレるのは一夏と戦った時に分かったけど、見えない弾丸を何でアンタは蹴り返せるのよヴィシュヌ!視線とは違う位置に撃ってるってのに!」
「フェイントが分かり易いんですよ鈴は。
其れと龍砲は確かに砲身も弾丸も見えませんが、発射前に空気を圧縮する為に空間が僅かに歪むので来るのも分かってしまうのです……尤も、其れもハイパーセンサーがあればこそ分かると言えますが。」
「うっわ~~……前に中国に帰った時に向こうの代表候補生に喧嘩売られたから買ってやったら誰も龍砲見切れなかったってのに、アンタも一夏も見切っちゃうのよねぇ。
……大丈夫か中国の代表候補生!?」
「各国の代表候補生ランキングだとトップがヴィシュヌで次が私、次いでラウラ、鈴、乱と続くな……中国の代表候補生は最高位が五十位だな。」
「全然ダメだった~~!!」
一方の模擬戦ではヴィシュヌが鈴の龍砲を蹴り返してダメージを与えており、其処から副効果的に中国の代表候補生のレベルの低さが露呈する事になったが其れは特に問題ではないだろう。
「(クク……矢張り兄上の周りには面白い奴が集まってくるようだ――クラリッサが『一夏の周りにはきっと個性的で愉快な人達が集まるでしょう』と言っていたがその通りだったな。)」
此の訓練に参加し、そして実際に見たラウラは無意識に笑みを浮かべていたのだった。
――――――
放課後、楯無から呼び出された一夏とヴィシュヌは、今度の『学年別トーナメント』が今年から『学年別タッグトーナメント』になった事を告げられた。
これは先の『クラス対抗戦』の際に学園に正体不明の無人機が向かって来ていた事が関係している。
あの時は楯無とオータムが無人機を破壊した事で学園側に被害はなかったが、もしも楯無とオータムが倒されないにしても抜かれていたら学園はシャレにならない被害を被っていただろう。
その可能性を考慮し、最大四人で現場に対処出来るようにタッグトーナメントに変えたのだ……専用機を持たない一般生徒同士の試合に何かが起きる可能性もなくはないが其れも考慮して何重にも対策は立てている……その最悪の事態に遭遇する事で覚醒する生徒も居ればドロップアウトしてしまう生徒がもいるだろうが。
「という訳で、今度の学年別トーナメントはタッグマッチになったので、タッグパートナーを見つけておくように。」
「ふむ、唐突だが兄さんは矢張りヴィー姉さんと組むのか?」
「いや、今回はヴィシュヌとは組まない……俺とヴィシュヌが組んじまったら絶対に優勝しちまうからな。」
「普通なら傲慢だと言う所だが、兄さんとヴィー姉さんが組んだら確かに今年の一年は誰も勝てないから何も言えんが……だがヴィー姉さんと組まないのならば誰とタッグを組むんだ兄さんは?」
「そんなの決まってんだろ円夏……俺のパートナーは鈴だ!!」
「あら、アタシを指名とは嬉しい事言ってくれるじゃない……中学以来の最強最悪のコンビ再誕ね♪」
自室に戻った一夏は円夏、箒、鈴と乱とラウラを呼び出して学年別トーナメントがタッグマッチになった事を告げ、パートナーを見つけておくように言っていた――此処で円夏は一夏はヴィシュヌと組むと思っていたのだが、一夏がパートナーに選んだのは鈴だった。
其れを聞いた箒とラウラ以外のメンバーは『最強最悪のコンビが再誕してしまった』と言う表情を浮かべていた……と言うのも、中学時代の一夏と鈴は『最凶コンビ』としてその名を馳せていたのだ。
特に問題児と言う訳ではなかったのだが、陰湿なイジメをしている生徒に対しては時には徹底した鉄拳制裁、時には精神的に追い詰めるイタズラを敢行してイジメを止めさせ、女尊男卑思考の教師に対しては『黒板消しの罠』、『ブーブークッション』、『間違いの徹底的な指摘』、『SNSの裏垢を特定してその内容を晒す』と言った事を行って教師人生にピリオドを打たせていたのでそう呼ばれていたのだ――そして、其れを知っている円夏と乱、そしてヴィシュヌはなんとも言えない表情を浮かべていたのである。
「まったく……此処で最強最悪タッグの再誕とは笑えないが……ならば私と組んでくれないかヴィー姉さん?」
「円夏?……良いでしょう。貴女とのタッグならば一夏に勝てるかもしれませんしね。」
「むぅ、姉上は取られてしまったか。
だがそうであるのならば……篠ノ之箒、私とタッグを組め!」
「ボーデヴィッヒ!?なぜ私なのだ!?
私よりも乱の方が実力的には上だろう!?」
「確かに私の方が箒より強いわよね……何でよ?」
「乱の実力に疑いはないが、其れ以上の可能性をお前に感じたからだ篠ノ之箒よ!
お前は息が上がりながらも兄さん達の訓練に喰らい付いている……其れこそ一般生徒ならばギブアップするレベルの訓練にだ――だから私はお前は経験さえ積めば大成すると確信したのだ。
そしてこうも思ったのだ、お前を開花させるのは兄さんではなく私だ、とな。」
「よもやドイツの現役軍人に其処まで買われていたとは思わなんだが、そこまで買って私とのタッグを決めたのであればそれを断るのは武士道に反すると言うモノだ……私で良ければ喜んでお前と組もうボーデヴィッヒ。」
「ラウラで良い。」
「あぁ、分かったよラウラ。」
次いでヴィシュヌと円夏のタッグが完成し、箒とラウラのタッグも完成していた――専用機持ち同士のタッグはシールドエネルギー50%から、タッグの片方が専用機持ちだった場合、専用機のシールドエネルギーは70%からのハンデもあるので、箒とラウラのタッグが上位に喰いつく事も夢ではないのだ。
唯一残った乱は、同じく一年生でアメリカの代表候補生である『ティナ・ハミルトン』とのタッグを組んで大会参加する事になったのだった。
――――――
放課後の整備室。
ただ一人を除いて滅多に人が来る場所ではないのだが、今日は珍しく此処に来客があった――外跳ねの水色の髪と赤い目が特徴的な少女、IS学園の生徒会長でもある『更識楯無』が其処に来ていたのだ。
「久しぶりね簪ちゃん……専用機の開発は進んでいるかしら?」
「お姉ちゃん……心配されなくても進んでる。」
「そうね、見たところ装甲も武装も大体出来上がっている感じがするけれど、最後の一手で行き詰っていると言ったところじゃないかしら?……そして其れはその機体、『打鉄弐式』の切り札とも言えるマイクロミサイルランチャー用のマルチロックオンシステムね。」
「……!!」
「どうして分かったのって言いたそうね?
私はこの学園の生徒会長で更識楯無よ?やろうと思えば貴女の専用機に何が足りていないのか位は簡単に分かるわ……そしてこのUSBメモリーにはマルチロックオンシステムを完成させる為のプログラムが入っている。」
「それを渡しに来たのなら帰って。
この子は私の力だけで完成させる。お姉ちゃんの手は借りないから!」
「うん、其れは分かってるけどそうも言ってられない状況になってるのよ此れが。
このまま貴女一人で開発を続けても次の学年別タッグトーナメントまでにはどうやっても完成には至らない……そして専用機が完成しなかったら貴女はトーナメントに参加しないのでしょう?
だけどそうなったらその時は、貴女は専用機も、日本の代表候補生の座の両方を失う事になるわよ?」
無論作業中だった簪は楯無に対して刺々しい態度を取るが、楯無から『専用機も代表候補生の座も失う事になる』と言われて驚き、思わず言葉を失ってしまった。
何故そんな事になるのか理解が出来なかったのだ。
「どうして?」
「IS委員会日本支部からの通達よ。
今度の学年別タッグトーナメントに出場しなかった場合、貴女は日本の代表候補生の資格を剥奪されるわ……でもそれは当然と言えば当然よね?
同じ日本代表候補生である鈴ちゃんは二組のクラス代表になって、クラス対抗戦で一夏君とバチバチにやりあってワンオフアビリティーを使用させているし、もう一人の代表候補生である円夏ちゃんは副代表でこそないけれど兄である一夏君のサポートを熟しているし代表候補生の合宿における模擬戦では無敗――其れに比べて貴女はどうかしら?合宿での模擬戦の結果は悪くはなかったけれど専用機の開発を始めてからは其れを理由に合宿に参加しなくなって、同じく専用機の未完成を理由に四組のクラス代表にならず、結果としてクラス対抗戦にも出場しなかった。
そして此の上今回のタッグトーナメントにまで不参加となればとても代表候補生としての務めを果たして居るとは言えないのだからこれは当然の通告よね?……そして貴女が代表候補生でなくなれば倉持も未完成の機体を貴女の手元に置かせておく理由もなくなるから専用機も失う事になるのよ。」
「……」
「いい加減意固地になるのは止めたら如何?
代表候補生の座も専用機も失ったら私に勝つ事は永遠に出来ないわよ、少なくともISの世界では――其れにこのプログラムは私が作ったモノじゃなくてある筋から入手したモノだから私の手を借りた事にはならないと思うのだけどね?」
だが楯無からその理由を聞いた簪は悩んだ末に楯無が持って来たUSBメモリーを受け取る事にした……もう他に選択肢は存在していなかった。
楯無の力を借りる事だけは絶対にしたくなかった簪だが、此処で意地を張ってUSBメモリーを受け取らなかったら代表候補生の座も専用機も失うとなっては元も子もないのだ――だからこれは借り1として専用機が完成したら勝負を挑み、其れに勝って借りを返せばいいと考えたのだろう。
「……此れは借りにしておくから。貴女に勝って借りは返す。」
「素直に『ありがとう』って言えないモノかしらねぇ?」
「代表候補生の座とこの子が失われるなんて事にならなかったら貴女が持って来たプログラムなんて絶対に受け取らなかった……ずっと貴女と比較されてきた私にとって、これを受け取るのはこの上ない屈辱なんだから……お礼なんて言える筈ないでしょう?
用が済んだのならもう出ていってよ!」
「そう、それが貴女の本音なのね……ま、精々頑張りなさいな。」
凡そ姉妹とは思えない遣り取りを終え、楯無は整備室から出ていった。
「……どうだった楯無?」
「お姉ちゃんとしては最後まで付き合ってあげたいけれど、楯無としてはダメね……今のあの子にはまるで現実が見えていないわ。
一夏君に相談して作って貰った束博士お手製のマルチロックオンプログラムもあの子一人では十全に専用機に生かす事が出来ないわよ……何よりもショックだったのは久しぶりに会ったあの子の目には私に対する怒りと嫉妬しか宿っていなかった事……其処まで嫌われているのならもうお姉ちゃんで居る必要はないわよね。」
「その判断は間違ってないさ。」
「あの子にはタッグトーナメントに参加しなかったらとは言ったけれど、本当はタッグトーナメントで初戦敗退したらなのよね。
だけどその場合は私と模擬戦を行って引き分け以上の結果を残せば代表候補生に残留する事は可能になっている……でも、そうなった時には悪いけど一切の手加減はしないわ。
簪ちゃん……我が妹ながら愚か者が……誰に牙を剥いていたのか、そして自分が嫌っている姉にドレだけ護られていたのかを知るが良い。」
そして、夫々の思いが交錯する中で、遂に学年別タッグトーナメントの日を迎えるのであった。
To Be Continued 
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