夏月がDIO様もビックリな回避不能なビームダガーの投擲を行い、氷雨と黒羽にビームダガーの雨霰が降り注ぎ、其の結果としてビームダガーの大量投擲による大爆発が発生。
其の爆発は凄まじい威力で、アリーナの不可視の障壁に少しばかりヒビを入れていた。
ISの攻撃にも耐えられるアリーナの不可視の障壁にヒビを入れたとなれば其れは相当な威力であり、ISのシールドエネルギーもゴッソリ削って、ともすれば此の攻撃でシールドエネルギーがエンプティになっても不思議はないだろう。
「……居ねぇ、何処に行きやがった?」
しかし、其の爆発を喰らった氷雨と黒羽の姿は既に其処には無かった。
「自力で離脱したとは思えないわ……もしかしたら、彼女達の機体には『シールドエネルギーがエンプティになったら拠点に瞬間移動する機能』の様なモノが搭載されているのか、或いは爆発の煙に紛れて何者かが連れ去ったかね?
マッタク、束さんに匹敵するほどの人間は相手に回すと厄介な事この上ないわ。」
「確かに厄介だが、こっちには束さんだけじゃなく、一部の能力に限定すれば束さんを超えてる簪も居るんだ、不安はねぇ。そうだろ?」
「……そうね、簪ちゃんと束さんがバックスとしてサポートしてくれるなら欠片ほどの不安もないわ……特にコンピューターウィルスの生成に関しては簪ちゃんは束さんが『私がヤベーと思ったウィルスを作ったのは私以外では君が初めてだよ』って言う位ですもの♪」
「そりゃトンデモねぇんだが……其れよりも、俺達と戦った氷雨さんと黒羽さんが本物だってんなら、プロリーグで戦ってる二人は何者なんだ?」
機体の能力か或いは何者かが連れ出したのか。
羅雪と蒼雷のハイパーセンサーが何も捉えなかった事を考えれば前者の可能性が高い――束と比べれば人間的にも能力的にも劣るタバネだが、其れでも腐っても鯛ではないが、可成り厄介な能力を持った機体を開発したようである。
其れに加えて学園を襲撃した氷雨と黒羽が本物だと言うのならば、現在プロリーグで戦っている氷雨と黒羽は一体何者であると言うのか?
『らりほ~!カッ君、たっちゃん!』
「開口一番眠らせようとするなよ束さん。」
『カッ君達は『状態異常無効』のスキル搭載してるから大丈夫っしょ♪
そんな事より、プロリーグで戦ってる二人なんだけど……容姿は本人其の物ズバリなんだけど、DNAが少し違う。
束さんの手に掛かれば検体がなくてもDNA鑑定をする事位は朝飯前なんだけど、其の結果DNAの一致率は99%……DNA一致率が100%になるのは一卵性の双子に限られるんだけど、99%一致って言うのは言うなれば親子の関係なんだよね。』
「親子の?
でも氷雨さんも黒羽さんも独身の筈だし、子供にしては大き過ぎるんじゃないかしら?」
『其れが最悪の答えを導き出すんだよたっちゃん。
敵さんはあの二人を新織斑の男達と交わらせて妊娠させて、受精卵を取り出して急速に成長させたんだよ……そうじゃなければ、此のDNA一致率は有り得ないんだ。
そうして作り上げた二人の子供の容姿を弄って、更に洗脳して操り人形にしてプロリーグで戦わせてるのさ。』
「なんだと?……だとしたらいくらなんでも外道過ぎんだろ……命をなんだと思ってやがる!
其処までして俺達と敵対したいってんなら上等だ、徹底的にやってやろうじゃねぇか……織斑計画で生み出された者同士なんて情は最早完全に消え去ったぜ――歪んだ自我を持った生体兵器なんぞ此の世に必要ねぇからな?
一人残らずぶち殺してやるよ!!」
「勿論、其の裏に居るバックス諸共ね。」
その答えは束によって齎されたのだが、其れは最悪極まりないモノだった。
氷雨と黒羽は完全に戦力増強の道具兼兵士として使われており、氷雨と黒羽は新織斑達とタバネを滅さない限りその役目から解放される事は無いのだから。
外道にも程がある所業なのだが、其れが逆に夏月と楯無から情け容赦を完全に排除させた――更識の人間として、更生の余地のない外道畜生には絶対的にして絶望の『死』を与えるだけなのだから。
夏の月が進む世界 Episode99
『IS学園夏の陣・弐~Overwhelming and unexpected~』
夏月達がアリーナで戦っていた頃、ロラン達の前には新織斑達が現れていた――氷雨と黒羽の襲撃は陽動で、IS学園の現最強戦力である夏月と楯無をアリーナに釘付けにするのが目的だったのだ。
夏月と楯無を抑えてしまえば後は如何にでもなると考えたのだろうが、其れは大きな間違いだった。
「如何した?夏月とタテナシが居なければ勝てるのではなかったのかい?
マドカとフォルテが参戦してくれたから数の上では私達の方が有利なのは否めないが、夏月とタテナシならば数の不利などひっくり返してしまうのだけれどね……強化人間が普通の人間に負ける筈がないと高を括っていたかな?
そうだとしたら愚かの極みであると言わざるを得ないね……相手の力量を見極める事すら出来ないのでは夏月やタテナシどころか私達すら倒す事は出来ないさ。
其れ以前に君達に私達を倒す事は出来ないよ。」
「なん、だと?」
「君達は愛と言うモノを知らないからね。
私達は夏月から無限の愛を受けているからこそ何処までも強くなる事が出来る……愛を知らない人間では愛を知る人間に勝つ事は出来ないのさ。
そう、愛に勝るバフ効果は存在し得ないのさ!
嗚呼、その愛を無限に与えてくれる夏月……君が愛が深くなるだけ私達の君への愛も深くなる……此れは永遠に終わりが来ない無限ループであるのかも知れないが……其れはつまり、私達の成長に限界はないと言う事になる。
ふ、まさに愛の力は偉大だね。」
「マドカッチ、ロランが何言ってるか分かっるすか?」
「分かるような分からんような……取り敢えず、夏月兄さんの嫁ズに負けがないと言う事だけは分かった。」
ロランとダリル、マドカ、フォルテの前に現れた新織斑の二人はシールドエネルギーの自動回復もあって戦闘不能にはなっていなかったが、戦闘其の物は数の差があるとは言えロラン達が圧倒していた。
夏月と楯無が居なければと考えていた新織斑達だったのだが、其れがそもそもの間違いだった。
夏月組では確かに夏月と楯無が頭一つ抜きん出ているが、他のメンバーも更識のトップエージェントと互角か或いは其れ以上の実力を備えているので実戦経験が殆どない新織斑達には少し荷が重かったようだ。
加えてロランが言ったように新織斑達は『愛』と言うモノを知らないので其れが完全にマイナス面となっていた。
『恋は盲目』、『愛は真実』と言うが、愛を知るからこそ人は強くなれる部分があるのは確かなのだ……新織斑達は其れが理解出来ていないのである。
「攻撃の鋭さだけなら夏月に負けず劣らずだがよ、攻撃の鋭さ以外は及第点にもなりゃしねぇなオイ?
鋭さはあっても攻撃方法は割と単純で読みやすいし、フェイントは嘘くせぇ。一応考えて戦ってはいるみてぇだが、戦術も幼稚で俺達には到底通じるモンじゃねぇ。
そもそもにして、フォルテが俺と合流した時点で本来ならお前等は終わってんだぜ?」
「そっすね。アタシとフォルテのイージスが炸裂したら、氷と炎の対消滅攻撃でシールドエネルギーの自動回復を貫通するどころか機体ごと消滅っすからねぇ……其れをしなかったのは、アンタ達のデータを採る必要があったからっすね。
アンタ達の機体に瞬間移動染みた能力が備わってるであろう事はカンザシからの秘匿回線で知ってるっすけど、其れってつまりはヤバくなったら尻尾撒いて逃げるって事っすよね?
逃げるなら逃げるで深追いはしねっすけど、次来た時にキッチリ仕留める為にデータをバッチリとる必要があったんすよ。」
「そしてそのデータももう充分に採れた……だからここからは手加減抜きだ――マドカ義姉さん、良ければ私と一曲踊ってもらえないかな?」
「マッタク、トコトン気障な奴だなお前はロランよ?
だがまぁ、お前のそう言う所は若干理解が追い付かない部分もあるが嫌いではない……なればその提案乗らせて貰おう!
尤も、私は社交ダンスなんぞとても出来ないので、もっとアグレッシブなブレイクダンスになってしまうがな!!」
更に言えば此れまでの戦いは新織斑達の機体その他のデータを採る為のモノであり、ロラン達は本気ではあっても全力を出していない状態だった。
其れは他の場所で戦っている夏月組も同様であり、簪から秘匿回線で『データは充分に採れた』との連絡を受け、此処からは本気で全力タイムとなったのである。
ロランとマドカのタッグが新織斑の一人である一秋に向かい、ダリルとフォルテは一冬に向かう。
「此処からが本番だ……重量武器が織りなす戦いの二重奏、受け切れるかな?」
「突っ切る!斬り込む!たたっKill!!」
「此の先に待ってるのは絶対零度の地獄か……」
「灼熱の地獄か、或いは絶対零度と炎獄が作り出す消滅か……どの道テメェ等に勝ち目はねぇ!逃げるなら、致命的なダメージを受ける前に逃げる事をお勧めするぜ!」
其の戦いは正に圧倒的と言う他にはないモノだった。
ダリルとフォルテのタッグは嘗ては学園最強タッグとも言われた其の実力を如何なく発揮し、炎と氷の攻撃で一冬を翻弄していた――氷と炎の対消滅攻撃に目が行きがちだが、氷と炎の合わせ技は其れだけでなく氷のミサイルに火を点けて高速射出させたり、巨大な氷の塊の内部で炎を爆発させて氷の刃を降らせたり、火球に氷球をぶつけて爆発させる小型爆弾など攻撃方法は多彩なのである。
此れにより一冬は瞬間移動で其の場から離脱する事を余儀なくされ、戦場から去った。
そして其れ以上に凄まじかったのがロランとマドカだ。
ロランのメイン武装はビームハルバート『轟龍』で、マドカのメイン武装は身の丈以上の大型ブレード『クリスタルソード』であり、大型武器のタッグでは攻撃モーションが大きくなり隙が生まれると思うだろうが、ロランとマドカにはその理論は通じなかった。
「何処を見ているんだい?私は此処に居る。
其れとも、速過ぎて見えなかったのかな?……見えなかったのならば少し失礼な事を言ってしまった事をお詫びするよ。」
「謝罪していると見せかけて実は盛大に煽ってると来たか……流石、トップ女優は違うなロラン!!」
マドカのクリスタルソードだけならば見切るのは容易かっただろうが、ロランの轟龍を見切るのは容易ではない事がその一因だろう。
ロランの轟龍――ハルバートは槍と斧の複合武器であり、突くと斬ると打つが行える槍に『叩き潰す』と言う攻撃性能を追加した近接戦闘に於いては最強とも言って良いレベルの武器なのだ。
重量武器でありながら円運動が可能で、四種の攻撃属性を使い分ける事が出来るのだから。
ロランが轟龍で一冬の攻撃を円運動で弾き、其れによって生じた隙にマドカが斬り込みシールドエネルギーの自動回復を上回るダメージを与える事出来ていたのだ。
「自動回復を上回るダメージを与える事は出来たがシールドエネルギーを削りきるには至らなかったか……では、其の身を拘束させて貰うとしようか!」
其の結果、一春と一冬は大ダメージを受けてシールドエネルギーを残り5%まで減らす事になった。
シールドエネルギーが0.01%でも残っていれば自動回復が出来る新織斑達の機体だが、其れは逆に言えばシールドエネルギーが完全にゼロになったら回復が出来ないと言う事でもあるので、本来ならば此処で一気に攻めるのが正解なのだが、シールドエネルギーは回復出来てもパイロットの体力は回復出来ず、新織斑達の体力の方が先に限界を迎えていた。
兵器として生み出された事で普通の人間よりは遥かに体力はある新織斑達だが、ロラン達は更識と亡国機業での鍛錬でハーフマラソン位ならばほぼ息切れせずに完走できる体力があり、更に夏月と何度も交わった事で身体能力全てが大幅に上昇しているので新織斑達と比べれば遥かに体力面でアドバンテージがあった訳だ。
「シールドエネルギーの自動回復は厄介だが、パイロットが先にガス欠を起こすようでは話にならないね……其れでも、並の国家代表候補と比べれば遥かに体力はある方だとは思うけれど、其の程度では私達には勝てないさ。」
「基本性能では遥かに上回る筈の新型が、旧式の、其れもプロトタイプのスペアに過ぎなかった存在に屈すると言うのはなんとも滑稽だな?
どうした愚弟、姉はマダマダ元気だぞ?」
経験の差と言ってしまえば其れまでかも知れないが、新織斑達とロラン達とではIS学園の一般生徒と代表候補生以上の力の差があった。
ロランとマドカ、ダリルとフォルテが一春と一冬を圧倒したのと同様に、学園島の他の場所でも夏月組が新織斑達を圧倒していた――ファニールが『ソング・オブ・ウラヌス』でバフを行っていた事も更に状況を後押ししていただろう。
鈴と乱のコンビは乱が鈴のワン・オフ・アビリティを自身のワン・オフ・アビリティでコピーして二重の『龍の結界』で封殺し、静寐とナギと神楽のチームは近接型の静寐と神楽を射撃・砲撃型のナギがサポートするオーソドックスな前衛・後衛の布陣で圧倒。
ヴィシュヌとグリフィンのコンビに至っては、ヴィシュヌが得意のムエタイで一気呵成に攻めれば、グリフィンはダイヤモンドナックルと本体で『オラオララッシュ』もビックリな連続パンチでダメージを与え、千春と千秋を背中合わせにぶつけるとサンドイッチラッシュでフルボッコにし――
「これで……」
「お終いです!!」
グリフィンがアッパーで千春を殴り上げ、ヴィシュヌがサマーソルトキックで千秋を蹴り上げると、グリフィンは千春にキン肉バスターを仕掛け、グリフィンは千秋にマッスルリベンジャーを仕掛け、其れを空中でドッキングさせそのまま地面にメテオストライク!
この変形式マッスルドッキングによって千春と千夏も戦闘不能になってしまった。
だが――
『ダメージレベルS……ハイパーモード、承認。』
機体からそんな電子音声が流れたかと思った次の瞬間だった。
「「「「「ガァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」」」」
「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」
新織斑達が野獣の如き咆哮を上げたかと思った瞬間、新織斑達の機体が黄金に輝き、そして雷のようなオーラを纏った。
其れと同時に真耶率いる教師部隊も参戦して来たのだが、黄金の輝きを放つ新織斑達の機体がゆらりと動いた次の瞬間には決着がつき、新織斑達は其の場から去って行った。
そして氷雨と黒羽を退けて現場にやって来た夏月と楯無が目にしたのは機体が強制的に解除され、傷だらけで横たわるロラン達と教師部隊だった。
唯一学園島の上空中央でソング・オブ・ウラヌスで支援を行っていたファニールは無傷だったが、其れでも此の惨状に驚き、声も出せずにいた。
「そんな……嘘だろ?
実力的には負ける筈がないのにどうしてこんな……一体何があったってんだよ……!!」
「わ、分からない……なんだか凄い力を感じたかと思ったら、こんな事に……!!」
「ファニールちゃん……此れは、少しばかり敵を甘く見過ぎていたかも知れないわね……ロランちゃん達なら負ける事は無いと思っていたけれどまさかこんな事になってしまうとは――敵の力量を見極めきれなかった私のせいね此れは。」
「楯無のせいじゃねぇよ……俺も此れは予想してなかったからな。
まさかこうなるとは思ってなかったが、ロラン達は重傷でも命に別状はないが、教師部隊の中には心停止を起こしてる奴も居るからAEDで蘇生措置を行わないとだ。」
「そうね……先ずは其れよね。」
ロラン達は重傷でも命に別状はない状況だったが、教師部隊の中には心停止に至った者も居たので、夏月と楯無は学園に備えられているAEDで心肺蘇生措置を行い、何とかギリギリで心停止した教師部隊の教員を蘇生する事が出来ていた。
だが、被害状況を考えれば此度の襲撃は新織斑達に軍配が上がったとと言えるだろう。
夏月組と教師部隊に致命的なダメージを与える事が出来たのだから。
「どんなカラクリを使ったかは分からねぇが、俺の嫁達を半殺しにしてくれたんだ……ロラン達が受けたダメージを五千万倍にして返してやる――覚悟しとけよクソッタレ共が!!」
「私と夏月君を戦闘不能に出来なかったのが最大の過ちだった事を知りなさい……楯無と、楯無の右腕の怒りに火を点けた事を盛大に後悔させてあげるわ――精々、祈ると良いわ……存在し得ない神とやらにね。」
しかし、その惨状を見た夏月と楯無は冷静な思考を保ちながらも怒り爆発状態となり、新織斑達と其のバックに居る存在を必ず滅すると心に誓うのであった――尚、怒り爆発状態になった夏月と楯無だが、髪が金髪になって逆立ち、瞳が碧色になった訳ではないので誤解無きよう。
其れは其れとして、此度の襲撃では勝利した新織斑達だったが、その勝利と引き換えにIS学園最強タッグの怒りを限界突破させ、夏月と楯無は更なる力を其の身に宿したのだった。
To Be Continued 
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