『ハイパーモード』なる機能が発動した新織斑達に対し、何も出来ずに敗北し、重傷を負ったロラン達は学園島内の病院へと運ばれ、ICU(集中治療室)で処置された事で数時間後には意識を取り戻す事が出来た。
内臓へのダメージこそなかったが、骨折や筋肉断裂などの重傷を負っていたので暫くは動く事は出来ないだろう。


「目が覚めたか……まさかお前達がやられるとはな……正直、此の展開は予想してなかったぜ。」

「一体、何があったのかしら?」

「やぁ……夏月とタテナシか……目覚めて出会ったのが天使や鬼でないと言う事は、如何やら私は生きているようだね……マッタクもって情けない結果になってしまったよ。
 何があったのか……正直私にも分からない――いや、私だけでなくあの場に居た誰も何が起きたのか分からなかったんじゃないのかな?
 一つだけ分かっている事は、彼等の機体が『ハイパーモード起動』と発した直後、私達は意識が狩り取られるほどの攻撃を喰らったであろうと言う事だけなんだ……だが、其の一瞬で私達は此れほどの重傷を負う結果になった。
 ハイパーモードとやらが相当に危険な代物であるのは間違いないと思うよ。」

「本当に一瞬でした……痛みを感じる暇が無かったくらいに……」

「ハイパーモード起動直後の連中の獣染みた咆哮を考えると理性は吹き飛んでいたのかもしれんな……」


意識を取り戻したロラン達から話を聞いたモノの、一体何が起きたのかは結局は分からず仕舞いであり、ハイパーモードとやらが極端な強化状態であろう事しか分からなかった。
裏の世界でもトップクラスの実力を持つロラン達が其れまでの優位を覆されて敗北する等と言う事は、新織斑達が其れこそ超サイヤ人状態で更に界王拳でのバフを行わなければ不可能な事なのだから。


「其処までか……まぁ、お前達の機体のログは束さんと簪が修理ついでに解析するだろうから詳細は明らかになるだろうが、アイツ等は一番やっちゃならねぇ事をしやがった。
 俺の大切な人達を此処まで傷付けやがったんだ……連中は細胞の欠片も残さずに此の世から消滅させてやるさ。」

「彼等が幸運だったのは簪ちゃんが前線に出ていなかった事ね。
 ロランちゃん達がやられた事にも相当に怒ってるのだけど、簪ちゃんが同じ状態にされていたら私は間違いなく殺意の波動に目覚めてオロチの血が覚醒して『神・楯無』になっていたと思うわ。」

「……おやおや、私達を戦闘不能にしたのは兎も角として、如何やら彼等は学園最強の二人を強化してしまったらしいね?」


だが、ロラン達の機体に戦闘のログは残されているので、束と簪が機体を修理する中でログを解析して何が起きたのか、其の詳細を明らかにしてくれるのは間違いないだろう。
ロラン達は最低でも一週間の入院生活を余儀なくされ、教師部隊の面々は更に長い入院生活を課せられる事になったのだが、その間の学園島の防衛には楯無が更識の部隊を充てる事で補完していた。


「えっとね……『期間限定筑波山豚丼』を特盛でお肉二倍。
 其れがご飯で、おかずはメンチカツと厚切り牛タン塩焼きとレバニラと油淋鶏とサーロインステーキの500gをレアで!!」


一方別のICUで目を覚ましたグリフィンは、目を覚ますなり『お腹減った、血が足りない』と言って自分で点滴やら何やらを抜いて食堂に向かい、其処で毎度お馴染みの『肉MAX』なメニューを爆食していた。
そして驚くべきは、其れ等を完食したグリフィンはすっかり怪我が完治していたと言う事だろう――骨折も筋肉断裂も、内臓には達していなかったとは言え腹に空いた穴ですら食事で完全に治ってしまうとは、そのメカニズムは現代の最先端科学をもってしても解明するのは不可能であるのかもしれない。
だが、逆に言えば此のグリフィンの超回復は有り難い事だった――最強クラスの一人が、即座に戦線に復帰出来たと言う事なのだから。










夏の月が進む世界  Episode100
『回復・訓練・夫々の役目――そして無限の悪意』











「向こうが零落白夜の装甲を搭載してるなら、こっちは炸裂装甲(リアクティブアーマー)を搭載するのは如何かな束さん?」

「其れも良いけど、シールドエネルギーを回復させる『ドレインシールド』も捨てがたいよね……ま、一番搭載したいのは『ミラーフォース』か『魔法の筒』なんだけどね♪」

「其れは流石に極悪。」


IS学園の整備室では束と簪が中破したロラン達の機体と大破した教師部隊の機体の修理を行っていた。
教師部隊の機体は打鉄とラファール・リヴァイブであり、教師部隊の隊長である真耶の専用機もラファール・リヴァイブを真耶用に改造したモノだったので修理はISに関する知識があれば難しくはないのだが、ロラン達の『龍騎シリーズ』は束が夏月達に合うように作っていたので修理は簡単ではなく、学園の整備士ではお手上げ状態だった。
だが、ISの生みの親である束と、プログラム開発とハッキングに関しては束をも上回っている簪のコンビならば龍騎を修理し、更に龍騎に記録されている映像を解析するのは簡単な事だった。


「其れは冗談としても、相手が使ったこのハイパーモードって……」

「うん、かんちゃんが考えてる通りだよ。私の解析でも同じ結果が出たと思うからね。
 安直なネーミングだけど、ハイパーモード起動後にアイツ等の機体の基本性能は一時的にだけど、現行のISで言うなら第五十世代相当にまで引き上げられてる。
 更に其れに加えてパイロットも強化と言うか、普段は身体が自己防衛の為にかけているリミッターが解除されて肉体が100%の力を解放出来るようになってる……強制的に火事場の馬鹿力を発動したって事だね。
 機体性能と身体能力の強制強化なんてのは普通ならパイロットが廃人になっちゃうモノだけど、織斑に関しては其の限りじゃないからこんなモノを搭載出来たんだよ。」

「織斑は兵器として生み出された存在だから、身体のダメージは直ぐに回復出来るし、大きなダメージを受ければその分だけ強くなれる……何度も地獄を見た夏月が其れを証明してるから。」


其の解析で明らかになった新織斑達の機体が発動した『ハイパーモード』は其の名の通り一時的な機体性能の大幅強化とパイロットのリミッターを解除するモノだった。
無論其れだけでなくデメリットも存在しており、束と簪の解析ではハイパーモードは発動後十分弱でシールドエネルギーがゼロになってしまい、パイロットも反動で最低でも二日は動けなくなるであろうと試算されていた。
ロラン達を戦闘不能にしながらもトドメを刺さなかったのは機体の活動限界があり、アジトに戻る為にはトドメを刺している時間がなかったと言う事なのだろう――強化率は凄まじいが、此れではあまりにもお粗末なモノとしか言えないだろう。


「だけど問題は此れが完成形なのか、其れとも試作品なのかって事だね。
 完成形だってんなら実に有り難いよ――ハイパーモードとやらに対応出来るようにこっちの機体を強化してやれば良いだけだから。
 問題は試作品だった場合さね……今回の戦闘が試作品のデータ採りが目的だったってんなら、多分だけどローちゃん達を一撃でKOした事で十二分なデータを得る事が出来た筈だから、更なる強化機構を入れて来るだろうからね。
 正直な話、このハイパーモードをパイロットが理性ある状態で使う事が出来るようになったら厄介な事この上ないよ――其れこそ、カッ君とたっちゃんでも簡単に勝つ事は出来ないと思う。」

「勝てないとは言わないんだ?」

「カッ君とたっちゃんは頭一つ抜きん出てるとは言わないけど、やっぱり実力的にはローちゃん達よりも一枚上手だからね。
 勿論ローちゃん達だって滅茶苦茶強いんだけど、裏の仕事の経験の差は大きいよ――カッ君とたっちゃんが年単位なのに対し、ローちゃん達は未だ一年にも満たないからね……奪った命の数が強さに直結する裏の世界の強さでは、カッ君とたっちゃんがレベル百億だとしたらローちゃん達はレベル七十億ってところだからね。
 命の遣り取りじゃない試合なら互角なんだけどね。」

「亡国のエージェントのマドカとダリルは?」

「マーちゃんとダーちゃんはレベル九十億ってところだね。」

「亡国のエージェント超えてるお姉ちゃんと夏月凄すぎる。」


試作品であったのならば更なる強化機構が開発される可能性があるのだが、試作品だったとしても厄介だと言いつつも、束は夏月と楯無が負ける事は無いと思っていた。
さらに突っ込んだ事を言うのであれば今は戦闘不能になっているロラン達も次は負けないと確信していた。
機体は束と簪が修理・改修を行うので強化されるのだが、ロラン達もマドカ以外は全員が夏月と交わっており、『織斑の遺伝子』を其の身に送り込まれているので身体能力が底上げされ、更に今回の大怪我が完治した際には大幅にパワーアップする事が約束されているからだ。


「同じように生まれながら人として生きる道を選んだ者と、兵器として生きる道を選んだ者……何方が正しいかを私が決める事は出来ないけど、その答えは此の戦いの末に出るさ。
 今回に限っては勝った方が正しかったって事になるだろうからね……だけど、束さんを怒らせたのは間違いだったかな?
 カッ君の嫁ちゃん達は私のお気に入りでもあるから、其れを傷付けられて束さんは激おこぷんぷん丸のカムチャッカファイヤーだからね……ハイパーモードとやらを無意味とするモノを開発してやるさ。」

「私のお義姉ちゃん達を傷付けたのは許さない。
 ディアボロモンとミレニアモンがジョグレスしたレベルのウィルスを作って連中の本拠地のコンピューターに送り込んで機能を停止させる……本拠地、まだ分かってないけど。」

「かんちゃんや、其のウィルスは使っても良いけど絶対にバックアップ残さないでね?何らかの原因で流出したらヤバい事になるから。」

「其れは大丈夫。万が一流出したら流出先のコンピューターを破壊した上で消滅するようになってるから。勿論消滅時に自己データも抹消する事も忘れてないよ。」

「おうふ、其処までとは……コンピューターウィルスの開発に関してはかんちゃんは束さんを遥かに凌駕してる事を改めて実感したよ。」


兵器として生み出されながら人として生きる事を選んだ夏月と秋五とマドカ、そして兵器として生きる事を選んだ新織斑達――何方の生き方が正しいのかは誰にも決める事は出来ないだろう。
其れこそ世界情勢によって其れは変わって来るモノなのだが……絶対天敵を退けた今の世界に於いて、兵器として生きる道を選んだ者が必要とされているかと言われれば、其れはYesでありNoだろう。
テロリストの類は欲しがるだろうが、そうでなければ倫理的にNGであり、其れを使っている事が露呈したら非常に宜しくないので欲しがる国は無いだろう。
だが其れも、世界大戦の様な大規模戦争が起こった世界であればそうとも言えないのだが、逆に言えば過ぎた力を持った兵器は平穏な世界に於いては不必要な代物であると言えるのかも知れない。








――――――








IS学園の武道場。
其処は本来柔道部、剣道部、空手部、合気道部と言った武術系の部活が使用するモノであり、剣道用の板の間、柔道・空手・合気道用の畳の間で構成されているのだが、武道場の四分の三を占める畳の間では夏月と楯無とグリフィンが禅を組んで瞑想していた。
夏月は赤いジャージに黒のTシャツ、楯無は上は蒼で下は黒の袴、グリフィンは黒のスパッツに黒のタンクトップ、そして青い柔道着の上半身と言う出で立ちだ。
武道場に来てから彼是一時間以上経っているのだが、夏月と楯無とグリフィンは其の一時間の間微動だにしなかった――そんな状態が続く中、夏月と楯無とグリフィンはゆっくりと目を開け――


「準備は良いか?俺は出来てる。」

「えぇ、準備万端よ……始めましょうか?」

「手加減不要。スパーリングでも全力だよ!」


然る後に闘気爆発!
IS学園の武道場だから耐える事が出来たが、此れが一般的な高校の武道場だったら闘気爆発の瞬間に其の圧倒的な波動で崩れ去っていた事だろう。
此れから始まるのはスパーリングだが只のスパーリングではなく、所謂『バトルロイヤル』形式のスパーリングだ。
バトルロイヤルは自分以外の全員が敵で味方の試合形式であり、試合の状況を読んで誰に味方するのかが重要な要素になって来るのだが、一度共闘したとしても次の瞬間には敵になる可能性があるのでその見極めも重要なのである。


「行くわよ!」


最初に仕掛けたのは楯無だ。
楯無の生身での戦闘スタイルは『天神真楊流柔術』であり、柔術と言うと相手の力を利用した後の先のイメージがあるだろうが天神真楊流柔術は打撃も投げも関節技も備えた武術であり、自ら攻める技も豊富なのだ。
楯無が仕掛けたのは夏月で、大きく踏み込んでからの後ろ回し蹴りを放つ。
本来後ろ回し蹴りは其のモーションの大きさから単発で放つとガードされてからの反撃確定なのだが、袴姿で放たれると袴の布部分の大きさが相手の視界を遮る効果がありガードされても反撃されにくいのだ。
当然夏月はガードしたのだが、其のガードに続いて放たれたのは両手での掌打。
掌打は拳打と比べると表面のダメージが低い代わりに内部に与えるダメージが大きく、達人が使えばボディへの掌打で内臓に致命的なダメージを与える事も可能なのである。
そんな掌打が両手で繰り出された事でガードした夏月も少しだけ後退してしまった。


「どっせぇぇいい!!」


更に其処にグリフィンがブラジリアン柔術の高速タックルを叩き込む。
此のままテイクダウンを奪ってマウントポジションに持ち込むのがブラジリアン柔術の得意な戦術なのだが――


「驚きの回復力だったが、まだ本調子じゃねぇなグリフィン……!」


夏月は其のタックルを受け止めるとパワーボムで切り返し、グリフィンを道場の畳に叩き付ける。
此れが普通のパワーボムならグリフィンも受け身を取って、下からの三角締めに持って行けたのだが、夏月が使ったのは投げっ放しのパワーボムだったので其のカウンターは叶わなかった。
とは言えグリフィンは受け身を取っていたのでKOはされず、すぐに立ち上がった。


「今度は……こっちだぁ!!」

「あら~?今度は私なの?」


そして今度は楯無に高速タックル!
其れを楯無は何とか受け止めたのだが……


「二人纏めてどりゃっせい!!」


其処で夏月が楯無の腰をホールドして、楯無とグリフィンを纏めてジャーマンスープレックスで投げ飛ばす――だけでなく、一発目で楯無から剥がれてしまったグリフィンは兎も角として、楯無には更にローリングジャーマンで再度投げ、最後はぶっこ抜き式の投げっ放しの逆一本背負い!
しかも其れは畳に叩き付けるのではなく、グリフィンめがけて投げ飛ばされていたのだ――婚約者に対して中々にハードな攻撃だが、夏月も楯無達だからこそ遠慮せずにこんな攻撃が出来るのだ……『此れ位なら大丈夫』と信頼しているからとも言えるかもしれない。
投げ飛ばされた楯無はグリフィンがギリギリでキャッチした事でKOは免れた。


「セックス以外で初めて役に立った私の胸。」

「まさかのクッションが其処に有ったわ。」


キャッチのタイミングが絶妙だったのは言うまでもないが。其れに加えてグリフィンの豊満な胸がクッションとなった事でKOは免れスパーリングは続行。
其処からは三者入り乱れての息つく暇もない瞬き厳禁のスパーリングが続き、しかし三人とも決定打を与える事が出来ない状態となり、其のままタイムアップとなってスパーリングは終了した。
決着がつかなかった泥試合と言えば其れまでだが、敵と味方が目まぐるしく入れ替わるバトルロイヤル形式だったが故の結果とも言えるだろう。


「君達はやっぱり凄いな……」

「秋五、見てたのか。」

「途中からだけどね。」


其のスパーリングを途中からとは言え観戦していた秋五は夏月達の戦闘力のレベルの高さに改めて驚かされていた。


「其れよりも夏月、今回IS学園を襲撃したのは新たな『織斑』なんだよね?……だったら、僕も――僕達も戦いに加わらせてくれないかな?」


そして、秋五は新織斑達との戦いに参戦の意思を示したのだが――


「……悪いが其れは出来ねぇ。」


夏月の答えは否だった。


「如何して?
 僕や箒達だって絶対天敵との戦いで実戦経験を積んだ。少なくとも君達の足手纏いにはならないさ!」

「いいや、今回に限ってはお前達は足手纏いだ。
 確かにお前達は強くなったし、絶対天敵との戦いでも大きな戦果を挙げてくれたが、今度の戦いは怪物相手じゃなく人間が相手だ――人間を相手にしてお前達は其れを殺せるのか?」

「……殺す事は出来ないけど、戦闘不能には出来ると思うよ?」

「其れじゃダメなんだよ。
 新織斑達は人を殺す事に躊躇いはないだろうからな……相手が殺しに来てるならこっちも殺す気で行かなかったら死んじまうだけだ――人を殺した経験のないお前達じゃアイツ等を倒す事は出来ても其処で終わりだ。
 トドメを刺す事が出来なかったら、逆に自分に死が返って来るし、何よりも俺はお前達の手を汚させたくねぇ……本来なら人を殺す経験なんてのはしない方が良いからな……一人でも殺したら、もう後戻りは出来ねぇんだ。」

「餅は餅屋よ織斑君。
 絶対天敵は人類共通の敵で、正体は地球外生命体だったけれど今度の相手は生身の人間……倒すだけでなく殺すとなれば、其れは更識と亡国機業の仕事なのよ……君達はこちら側に来てはダメなのよ。」


その理由は新織斑達との戦いは相手を倒して終わりではなく、確実に息の根を止める必要があったからだ。
秋五組の総合戦闘力は夏月組は大きく劣るとは言え、IS学園全体で見れば夫々が専用機を持っている事を加味すれば教師部隊をも上回る戦闘力を持っているのだが、如何せん秋五組のメンバーは人を殺した経験がない――現役軍人であるラウラであってもテロリストを制圧した経験はあっても実際に人を殺した経験はないのだ。
人を殺した経験の有無は、命の遣り取りとなる戦場では大きな差となり、殺しの経験がない者はどうしても躊躇ってしまい、其れが致命的な隙となって逆に命を落としてしまう結果になってしまう――だからこそ、秋五達を今回の戦闘に参加させる事は容認出来ないのである。


「そんな……君達は死地に向かうのに、僕達には其れを黙って見てろって言うのか……僕達じゃ、君達の役には立てないのか……!」

「連中との戦闘に関しては役に立たないが……そう言ってもお前は理解はしても納得しないだろ?
 だからさ……俺達が奴等との戦いに出撃したら、俺達が帰って来るのを待っていてくれ――帰りを待ってる奴が居るってのは、俺達が生きて帰る最大の理由になるからな……其れだけで、お前達は充分に役に立ってくれるってモンさ。」


其れでも秋五は納得出来ないのだが、夏月は此処で落としどころを提示して来た。
帰る場所があるからこそ、生きて帰ると言う目標が成り立つ訳であり、夏月は秋五にある意味では最大クラスの使命を与えたのだった――『信じて待つ』と言うのは共に戦場で戦うよりも簡単で難しい事なのだから。


「君の言う事は分かるけど……待つ事しか出来ないって言うのはやっぱり歯痒いな……だけど、僕達が居る事で君達が本気を出す事が出来ない状況ってのは良くないか。
 なら約束してくれ、必ず生きて帰って来ると。」

「当然生きて帰るさ……経験豊富な旧式が、ロールアウトしたばかりの新式に負けるかよ。
 俺を殺そうってんなら……最低でも三桁は綺麗なお花畑がある川のほとりで見知らぬお爺ちゃんと話した経験がないと無理ってモンだ……いやホントにあのお爺ちゃんは誰だったのかねぇ……?」

「オホホ……ついつい訓練に熱が入っちゃったのも今となっては良い思い出ね♪」

「夏月の生命力と、何度も死に掛けても折れない精神力凄い。」


秋五も其れを聞いて自分の役目を受け入れた――同時に自分達に人殺しをさせたくないと言う夏月の思いも理解出来たからだ。
恐らく秋五組の面々も、命の危機が迫れば新織斑達を殺す事は出来るだろうが、『人を殺した』と言う事実に精神が耐えられるかと問われればそれは否だろう――最悪の場合は罪の意識に苛まれ、精神的に壊れてしまう可能性すらあるのだ。


「とは言え、連中が俺達を誘い出してこっちに攻撃してくるなんて事もあるかもしれねぇ……もしもそうなった時は、俺達が戻るまで学園を頼むぜ秋五。
 殺す事は出来なくても、殺させずに護る事は出来るだろ?」

「其れは、勿論さ。」


当然夏月達を誘い出した上でIS学園を襲撃してくる可能性もあるのだが、其の場合には夏月達が戻るまで秋五達がIS学園を護る事にもなるので、秋五達には二つの仕事が任された事になるのだ。

其の後夏月と楯無とグリフィンは、今度は夏月対楯無、夏月対グリフィン、グリフィン対楯無のローテーションをワンセットで一試合三分のスパーリングを5セット行い、此の日のスパーリングは終了となり、シャワーで汗を流した後に夕食タイムに。
其の夕食でもグリフィンは『ワンポンドステーキ』を十枚(約4.2㎏)をペロリと平らげて身体の方も完全回復したのであった。

また、ロラン達も脅威の回復力を見せ、三日後には全員日常生活に支障がないレベルにまで回復し、一週間が経った頃には全員が戦闘可能となるのだった――夏月と交わった事で、ロラン達もまた超人に近付いているのだろう。
ともあれ、此れで夏月組の戦力は回復し、何時でも新織斑達との戦いが起きても大丈夫な状態となったのだった。








――――――








時は少し遡り、ハイパーモードでロラン達を退けた新織斑達は海底のアジトに戻ったのだが――ハイパーモードを使った新織斑達はタバネが開発した回復カプセルにて体力の回復と身体の調整を行われていた。
ハイパーモードは束が予想した通り、機体能力だけでなくパイロットの能力も強制的に引き上げるモノであり、現在の能力を超える力を引き出されたパイロットは普通であれば身体がボロボロになって廃人まっしぐらなのだが、新織斑達は兵器として開発されたが故に身体が頑丈だったので廃人コースは免れていたのだ。
加えて、此れによりハイパーモードを使った新織斑達は強化されるのだ――身体が大ダメージを受けるほどに、織斑は強化されるのだから。


「アハハ……大ダメージから回復すると強くなるってサイヤ人かよ?
 ハイパーモードを発動しても身体が平気なレベルになったら、一体ドンだけの力を発揮してくれんのかね君達は……ククク……其れを想像しただけでゾクゾクするね?」


新織斑達の調整を行いながら、タバネは笑みを浮かべていた。
其の笑みは蟻を笑顔で踏み潰す子供の笑みと同じであり、もっとも純粋で残酷な笑みであり、タバネは大人でありながら子供の残酷さを持ち合わせている最狂にして最悪の存在だったのだ。
そして此の日を境に新織斑達はISを使った模擬戦でハイパーモードを発動させて限界まで身体を酷使し、そして回復すると言う事を繰り返してレベルアップを行い、地力を高めて行った。

同時に其れは、決戦の時が近付いている事の証でもあった――











 To Be Continued