学年別タッグトーナメントの二日目で行われた『学年無制限ロイヤルランブル』は、バトルロイヤルならではの展開を見せて大盛り上がりとなり、一回戦の最終試合となる一夏&グリフィン、楯無&ロラン、フォルテ&ベルベット、セシリア&サラと言う決勝戦クラスの組み合わせだったのだが、其処にやって来たのは無粋な乱入者だった。
そして其れは只の乱入者ではなく、プロリーグで現在二位の氷雨と現三位の黒羽だったのだ。


「プロリーグの二位と三位が如何して……てか、コイツ等は本物か?確かこの二人は今日試合があった筈なんだが……」

『うむ、コアネットワークでアクセスしてみたら、確かに此の二人はプロリーグで現在進行形で試合の真っ最中だ――其れを踏まえると普通に考えればコイツ等は偽物と言う事になるのだが、だとしたらプロリーグでの試合がある日にぶつけて来る意味が理解出来ん。
 普通はプロリーグで戦っている方が本物だと思うからな。』


「羅雪……だよな。」


加えて本日は氷雨も黒羽もプロリーグでの試合を行っており、IS学園のイベントに乱入する事は物理的に不可能な状況だったのだ。
となれば乱入して来た氷雨と黒羽、プロリーグで戦っている氷雨と黒羽、果たして何方が本物なのかと言う話になるのだが、ラセツがコアネットワークから二人の専用機にアクセスしても、其れは分からなかった。


「氷雨、黒羽……何してるんだお前等!!」


そんな中でアリーナの観客席から襲撃者に対して怒号が飛んで来た。
其れを発したのはプロリーグの現一位である八神伊織――IS学園のイベントには各国のIS関連企業のお偉いさんや国家代表なども訪れており、現プロリーグ一位の伊織も招待されて未来のライバルとなる者達の激闘を観戦していたのだ。

其処で起きたまさかの学園襲撃――しかもそれを行ったのがライバルである氷雨と黒羽だったと言うのは黙って見てられるモノではなかったのだ。


「伊織さん、来てたのか……てか、アイツ等って本物なのか?」

「本物だよ一夜君……氷雨と黒羽とは合計で100回以上戦ってるから分かるんだ――コイツ等は本物だ……そして今プロリーグで戦ってる奴が偽物だ。
 戦い方が変わった事に違和感を感じてたんだけど、アイツ等がガワだけを真似た偽物なら納得だ……氷雨も黒羽も、一体何があったんだよ……こんな事をして、お前達はアタシと鎬を削って強くなるんじゃなかったのかよ……なんて言っても多分聞こえてないんだろうけどさ。
 一夜君、氷雨と黒羽を倒してくれ……今のコイツ等には正気も自我も多分ない――だから、君の、君達の圧倒的な力で捻じ伏せて目を覚ましてやってくれ……その対価と言ってはなんだが、観客の避難誘導は引き受けるさ。」

「了解、そっちは任せたぜ。
 だが、お前等が本物で操られてるだけだってんなら、そいつを解除してやれば其れで事足りるって事だよな……相手にとって不足はねぇ思い切り暴れさせて貰うぜ!!」


氷雨と黒羽に言いたい事を言った伊織は観客の避難誘導を行い、更に観客席で観戦中だった専用機持ちと教師の迅速な対応があった事でアリーナから逃げ遅れた者はゼロだった。


「悪いが少しだけ痛い思いをして貰うぜ?
 十中八九愚弟と愚妹の差し金だと思うが、あの馬鹿共に良いように使われちまってるってのはアンタ達にとっても望むモノじゃねぇだろうからな……力技で目を覚まさせて貰うぜ!」

「正気も自我もない、其れはつまり操られているって事だけど……此れは少しばかり外的ショックを与えて目を覚まさせる以外に方法はなさそうね?
 悪いけれど、ちょ~っとだけ痛いの我慢してね?」


同時に夏月と楯無の闘気が爆発して、その余波でアリーナの床にクレーターが生成されてしまった。
無論他のメンバーもやる気十分で闘気も充実しているのだが、現時点で学園トップ2である楯無と夏月の其れは頭一つ抜きん出ており、タバネによって洗脳された氷雨と黒羽も其の闘気に少し怯んだくらいだったのだ。










夏の月が進む世界  Episode98
『IS学園夏の陣・壱~The beginning of the true battle~』











アリーナに現れた氷雨と黒羽に対峙するのは夏月と楯無。
ロイヤルランブルの試合開始前だったのでアリーナには計八人の人間が居り、全員で対処する心算だったのだが、楯無が『此処は私と夏月君で抑えるから、皆は学園島の防衛に回って追加の戦力が来た場合には其れを狩ってくれないかしら?』と頼み、ダリルが『そっちの方が確かに良さそうだな』と言った事で、ダリル達は第二波以降に備えて学園島の防衛に回ったのだった。


「一筋縄で行く相手じゃねぇってのは百も承知だが、だからと言って負ける心算もねぇ……楯無、やるぞ!!」

「えぇ、学園最強タッグの力を見せて上げましょう!」


其処から始まったISバトル。
氷雨と黒羽はプロリーグの最上級ランカーで専用機も持っており、其の専用機もタバネによって魔改造されており、並のISでは凡そ対抗する事が出来ない性能となっている。
更に氷雨と黒羽其の物にも強化が施され、身体能力は常人の限界を超えるレベルになっているのである――なので、並のIS操縦者では相手にすらならないだろう。

だが、此度の相手は更識の現党首である楯無と、その楯無の右腕で、更識の現エージェントの中では最強と名高い夏月のタッグならば其の限りではないだろう。
何よりも、夏月と楯無は数え切れないほどの模擬戦を行っている上に、更識の仕事では常に最前線を切って戦って来たので互いに長所短所をバッチリ分かっているおり短所をフォローしあう事が出来るだけでなく長所を生かしたコンビネーション攻撃だって出来るのだから、氷雨と黒羽を相手に回しても後れを取る事は無いだろう。


「っしゃあ!!!」

「其処よ!!」


実際に夏月の剣術と楯無の槍術は相性が良く、夏月の逆手連続居合と楯無の高速連続突きのコンビネーションは正に斬撃と突きの暴風雨。
槍の長いリーチによる連続突きは横移動でしか避ける事は出来ないのだが横幅の攻撃範囲が広い逆手連続居合はバックステップなどで後ろに移動して距離を取らなければ回避は出来ない――つまり逆手連続居合の回避は槍の連続突きが潰し、槍の連続突きの回避は逆手連続居合が潰すと言う回避不能のコンビネーションなのだ。

其れがモノの見事に決まり、氷雨と黒羽は派手に吹き飛ばされてアリーナのフェンスに大激突!
此れだけでISバトルの試合ならば試合終了なのだが――


「派手に吹っ飛ばしたが……楯無……」

「えぇ、分かってるわ夏月君……なんなの、此の異様なまでの手応えの無さは?……攻撃は確かに当たったのだけれど、あまり効果があった様には感じなかったわ。」

「やっぱりか……まるでクラゲを棒で殴ったような感じだった……派手に吹き飛ばしたが、こりゃダメージは期待出来ねぇかもな。」

「「…………」」

「……どうやらそうみたいね。」


氷雨と黒羽は何事もなかったかのように立ち上がり再び戦闘状態に。
今度は夏月は氷雨に対し、鞘当て→鞘打ち→抜刀斬り上げのコンボで打ち上げると、抜刀斬り上げと同時に自らも飛び上がって袈裟斬り→払い切り→逆袈裟斬り→大回転斬り→兜割りのコンボで氷雨をアリーナの地面に叩き付け、楯無は黒羽に対し槍の切っ先と柄を使った円運動の連続攻撃を喰らわせると、円運動攻撃で発生した遠心力を全て乗せた回転突きを炸裂させて黒羽を再び吹き飛ばす。

何方の攻撃もISバトルなら相手のシールドエネルギーをエンプティにしてしまうレベルに強力な連続技なのだが、其れを喰らっても氷雨と黒羽は健在だった――シールドエネルギーも殆ど減っていないのである。
負ける事は無いが倒す事が難しい相手と言うのは厄介なモノであっり、夏月と楯無も少し顔を歪めたのだが――


『夏月、お姉ちゃん、其の二機の解析が済んだ。』

「簪!」

「簪ちゃん!」


此処で簪が氷雨と黒羽の機体の解析が完了した事を伝えて来た。
夏月組では唯一競技科に進まなかった簪なのだが、彼女は整備・開発科に進んで得意のバックスとしての能力を伸ばしており、其の能力は束が『かんちゃんは私の後継者になれるかもね』と称したくらいなので、相手の機体の解析を行う位は朝飯前の夜食なのである。


『その二人の機体には機体周辺に不可視のエネルギーフィールドが発生してて、其れが物理攻撃のダメージを吸収してる。
 ダメージを100%吸収出来る訳じゃないけど、ダメージを最低でも80%吸収した上で、シールドエネルギーが毎秒自動で50%回復してるから厄介な事此の上ないんだけど、此の不可視のエネルギーフィールドは言うなれば分厚いウレタンのクッションみたいなもので、其のクッションを一撃で貫通出来ればシールドエネルギーを減らす事は可能だと思う。』


「そいつはなんともチートレベルな防御フィールドだが、攻略法が分かっちまえば後は楽だぜ!!」

「何時もながら、ナイスアシストよ簪ちゃん!!」


簪によって謎の打たれ強さのカラクリが判明してからは真の意味での夏月と楯無の独壇場だった。
物理攻撃がほぼ無効になってしまうのであれば物理攻撃以外の攻撃をするだけであり、夏月はビームアサルトライフル『龍哭』を超連射し、楯無もビームマシンガン『葉桜』をオート連射してビームの雨荒らしを氷雨と黒羽に喰らわせる――物理攻撃に対しては強い不可視のエネルギーフィールドもビーム攻撃に対しては無力でありエネルギーフィールドを貫通した攻撃が氷雨と黒羽を襲い、シールドエネルギーの減少を不可視のエネルギーフィールドが肩代わりした結果、不可視のエネルギーフィールドは解除され、同時に氷雨と黒羽の周囲には、夏月が龍哭を連射しながら放った無数の『龍尖』が設置されていた……二百本ではきかないレベルのビームダガーによって作られた結界から逃れる事は出来ないだろう。


「逃げ場はないぜ、クソが……其の身で喰らいな!!」


其の無数のビームダガーは氷雨と黒羽に炸裂し、アリーナには凄まじいまでの爆炎が上がったのだった。








――――――








一方で、学園の防衛を任された楯無と簪以外の夏月組は学園島の周囲に散らばって何処から敵が攻めて来ても対応出来る布陣を展開していた――だけでなく、学園島の中心部にファニールが待機し、氷雷のソング・オブ・ウラヌスの効果のバフ効果を全員に与えられるような陣形となっていた。


「さてと、何も起こらなければ其れで良いのだが、もしも新型の織斑達が現れたら少々厄介だね?
 実力的には負ける事は無いだろうが、彼等の機体には零落白夜を応用した装甲が使われていると来た――夏月が居れば無効に出来る其の装甲も私達だけでは無効に出来ない。
 攻撃する側が不利になる装甲を相手に、さてどうやって戦ったモノか……?」

『案ずるなローランディフィルネィ。』

「おや、お義姉さん?何故ここに?と言うか貴女は羅雪のコア人格だろう?どうやって此処にやって来たのかな?」

『今の私は情報生命体だ、電脳世界を自由に渡り歩く事が出来るし、ISのコアネットワークを通じて他の機体に移る事など造作もない――そして、夏月が居なくとも零落白夜を無効にする事は可能だ。
 私は全てのISの祖である白騎士のコア人格なのでな、零落白夜を無効にする無上極夜の力を夏月と離れて戦う者に付与する程度の事など朝飯前の夜食だ。
 愚弟と愚妹の後ろに居るのが誰かは知らんが、私と言う存在は間違いなく誤算だろうさ……何れはバレるだろうがな。』


「ふむ、中々にチートだね其れは……だが、貴女の存在が知られてしまったら相手は貴女を消そうとするのではないだろうか?」

『かもしれんがコンピューターウィルス如きでは私は消せんよ。逆にウィルス如きは殴って倒す。
 そもそもにしてISのコアネットワークの中ならば割と私の好きなように出来るのでな?なんなら時を止めた上でウィルスをタコ殴りにしてやるさ。』


「成程、ISのコアネットワークの中なら無敵か……」

「時止めてフルボッコって、アンタ何処のDIO様だってんだよ……いや、アンタの性格的にはDIO様よりも承太郎の方が合ってっかもな。」


懸念事項は新織斑達の機体に搭載されている零落白夜装甲だが、其れもラセツが完全に無効に出来る事が分かり一切の不安は無くなった。


そして――


「へぇ、俺達が来る事を予想して迎撃態勢を整えてるとは中々優秀だが……兄さん達は居ないし、学園最強の更識楯無も居ないのか――此れは学園に突入するのは簡単かもしれないな。」

「大人しく道を開けるのならば痛い思いをしなくて済むが、さて如何する?」


現れたのは新織斑達計六人。
タバネによって更に改造が施された専用機は禍々しさを増しており、束が開発した『龍騎』が『機械仕掛けの龍人』ならば、タバネが魔改造した新織斑達の機体は『機械仕掛けの悪魔』と言った出で立ちだった。
其の性能は言うまでもなく高く、現行の第三世代機ではマッタクもって相手にならないだろう――加えて、新織斑達も先の夏月達との戦いとシミュレーターでの訓練で経験を積んだ事で一気にレベルアップし、己の力に絶対的な自信を持っているかのような事まで言って来たのだ。


「おやおや、夏月とタテナシが居なければ勝てると思ったのかい?
 ゴールデンウィークに敗走した記憶はキレイサッパリ消えているのかな?……だとしたらおめでたい脳味噌をしていると称賛するより他にない――己の敗北を忘れた人間に成長は望めないと言うからね。
 其れと君達は一つ勘違いをしている――確かに夏月とタテナシは私達の中では頭一つ抜きん出ているが、私達とて更識のエージェントの一員であり亡国機業の実働部隊の隊員なのでね、其れなりに修羅場は潜り抜けているんだ。
 自ら進んで人を殺そうとは思わないけれど、だからと言って外道を葬る事に躊躇はない――私達は全員、人を殺す事が出来る取り返しの付かない強さと言うモノを身に付けてしまっているのさ……だから、開幕と行こうか?邪神の舞台監督と悪魔の脚本家によって演出された地獄の英雄譚を!!」

「オレ達を舐めんなよ?……地獄の業火で焼き尽くしてやるから覚悟しな……!!」

「アタシも参加させてもうっすよ!」

「愚弟と愚妹が……歯向かった相手が誰であったのかを其の身をもって知れ。」


其れに対してロランがお得意の芝居がかった仕草で盛大に煽り返すとダリルが其れに続き、地上で警戒していたフォルテとマドカも参戦して来た。
他のメンバーの所にも新織斑達は現れたのだが、新織斑達が六人なのに対してIS学園防衛部隊は十二人と倍な上に教師部隊も参戦してくる事を考えれば普通ならば負ける事は無いだろう――何よりも、新織斑達が急激なレベルアップをしていたとしても、ロラン達も日々の鍛錬でレベル限界を突破しまくっているので其の差は早々埋まらないだろう。


「経験に裏打ちされたその自信を慢心と言う心算はないが、だが敢えて言おう――お前達じゃ俺達に勝つ事は出来ないってな。」


だが新織斑達は退く気は無く、臨戦態勢となり、ロラン達と対峙した一春は其の口角を釣り上げていた。
そして此の戦いは予想外の結末を迎える事になるのだった……!!










 To Be Continued