箒を襲撃した織斑――一春は敢え無く返り討ちにされ、トドメを刺されるすんでのところで他の織斑に回収されて何とか死なずに済んでいた。


「おい、何時まで死んだふりしてる心算だ?もう充分距離は離れたぞ……と言うかもうすぐ拠点に着く。」

「もうそこまで来てたのか……ったく、あの程度じゃ死なないとは言え流石に痛かった……負けた罰ゲームだから仕方ないとは言っても、まさか篠ノ之箒がアレだけのパワーを持っているとは予想外だった。
 恐らくだが、夏月組と秋五組の連中は最低でも篠ノ之箒レベルの力を持っていると考えた方が良いだろうな……だからこそ壊し甲斐があるけどよ。」


其の一春は箒の攻撃を喰らってダウンしたのだが、其れは所謂『死んだふり』であり、一春がその気になれば箒との戦闘を継続する事は可能だったのだが、其れをしなかったのは今回はあくまでも箒の力を計り、其れを元に夏月組と秋五組の戦力が如何程であるのかを予測する事が一番の目的だったからである。


「そんで、そっちの方は如何よ?
 沖縄に旅行に行った一冬と千夏が何やらバカでかいモノを持ち帰って来てたみたいだけど、アレって結局なんだったんだ?」

「其れは……まぁ、拠点に戻ってからのお楽しみでな。」


新たな織斑達は嘗て絶対天敵の親玉であるキメラが住処としていた海底洞窟を研究所から持ち出したISを使って整備して自分達の拠点としていた。
束であっても中々見つける事が出来なかった此の海底洞窟を作り直して拠点として使用して居れば暫くは居場所が特定される事はないだけでなく、沖縄に旅行に行っていた一冬と千夏が何やら巨大なモノを持ち帰っていたらしい。
一春は其れの大きさを見ただけで中を見る前に箒の方に向かったので詳細は知らなかったのだが、一冬と千夏が持ち帰ったのは業務用冷蔵庫よりも巨大なモノであり、拠点まで運んで来れたのはISの拡張機能に収容する事が出来たからだった。


「其れで、結局これって何だったんだ?バカでかい冷蔵庫みたいだけど……」

「バカでかい冷蔵庫か……まぁ、間違いではない。
 此れはコールドスリープ装置だ……一冬と私のISが首里城近くで妙な反応を示したので人気が無くなった夜中に其の周辺を調査して、最も反応が強かった場所を掘ってみたら此れが出て来た。
 300mは掘り進んだから、恐らくは最低でも恐竜時代の地層からこれを発掘した訳だが……そんな古代にコールドスリープ装置が存在していたと言うのは最早オーパーツでは済まないだろうな。」

「更に驚くべきは、此の装置は未だ機能している事とコールドスリープになっている奴だ……何故こうなったのかは知らんが、コイツを引き当てる事が出来たと言うのはこの上ない幸運だとは思わないか?」

「……確かに、此の人を仲間に出来たら怖いモノなしだな。」


其れはコールドスリープの装置だったのだが、驚くべきは恐らくは恐竜時代の地層から此れを発掘したと言う事だ。
恐竜時代となれば最低でも六千五百万年前であり、現在の定説ではその時代に人間は存在していないとされているのだが、その地層から発掘されたコールドスリープ装置は其の定説を覆すモノだと言えるだろう。
そして其れだけではなく、コールドスリープ装置の中で眠りに就いていたのは其れこそ誰も予想していない人物だったのである。













夏の月が進む世界  Episode94
『新たな脅威の胎動~Revival Crisis~』










学園島に戻って来た箒から話を聞いた夏月組と秋五組は、箒が簡単に退けたと言う事を聞いても油断はしなかった。
箒の実力はISありだと夏月組と秋五組の両方では下から数えた方が早いのだが、生身での戦闘となれば中堅の上位レベルであり、其の箒ならば生身のバトルで織斑を退ける事が出来たのも納得と言えるだろう。


「篠ノ之は確かに強いが、だからと言って最強じゃねぇ。
 其れを踏まえると、相手はわざと負けた可能性が高いな……篠ノ之の強さをベースに、こっちの戦力がどれくらいか計ろうとした、大体そんなところだろうな。」

「恐らくはそうなんだろうね。
 だけど悪い判断じゃないと思うよ?先の絶対天敵との戦いで、僕達も人型の相手の命を奪う事に対しての忌避感は大分薄れたけど、だからと言って生身の人間を相手にした場合は無意識の内に躊躇って僅かばかり攻撃の手が鈍ると思うから。
 其れこそ会長さんを襲撃したら間違いなく其の織斑は殺されてたと思うからね……僕の婚約者だったから僅かな隙が生まれて回収する事が出来たんだろうから。」

「だな。
 もしも楯無を襲ったら其の時点で人生のエンディングだからな……其の場で殺されずとも意識刈り取られて更識家の拷問室で簡単に死ねない地獄の拷問を受けた末に閻魔宛のクロネコヤマトだからな。
 まぁ、そっちはまた何かして来たら対処すりゃ良いし、篠ノ之に手を出された事で束さんが盛大にブチキレちまったから連中に未来はねぇよ……狙うなら篠ノ之以外を狙うべきだったかもだ。
 さてと、この話は此処までにしてそろそろ始めようぜ秋五……模擬戦だが手加減はなしだぜ、何時も通りな。」

「君相手に手加減なんて出来る筈ないだろう……手加減どころか、出せる力を120%出して更に限界突破しないと君には勝てないと思うからね。
 僕が引き分けた伊織さんに君は勝ってる事を考えても未だ実力差はある訳だし……だけど、何時までも君に負けっぱなしってのも如何かと思うからね?
 今日こそ勝たせて貰うよ。」

「そう来なくちゃな。」


それはさて置き、アリーナでは夏月と秋五が此れから模擬戦を行おうとしていた。
男性IS操縦者の出現から一年が経とうとしているが、其の一年の間、秋五は模擬戦で只の一度も夏月に勝った事はなく現在の成績は0勝50敗となっているのだ。
勿論秋五も日々レベルアップしているのだが、夏月も同様にレベルアップしているので其の差は中々埋まらなかったのである。
しかし追い付こうとする秋五と追い付かせまいとする夏月が夫々レベルアップして行った事で彼等の婚約者達もレベルアップし、更に競技科に進んだ生徒達が『トレーニングのコーチをして欲しい』と言って来たので其の指導をし、結果としてIS学園の生徒のISパイロットとしての腕前は大きく底上げされたのだった。

それはさて置き、夏月と秋五の模擬戦は、先ずは気組みから始まった。
秋五が正眼に構えているのに対し、夏月はスタンスを少し広めに取った無形の位で対峙する……構える事は対峙した相手に情報アドバンテージを与える事になるので、更識の仕事を熟す中で、夏月は自然と無形の位を会得していたのだ。

構えない無形の位を相手にした場合、何が来るか分からないので攻撃の手が鈍る事が多いのだが、秋五は迷う事無く夏月に斬りかかった。
太刀筋すら見えない超速の踏み込みの払い切りだったが、夏月は其れを鞘を上げる事でガードし、更に鞘を跳ね上げて秋五の刀を大きく弾く。
其れにより、秋五は大きな隙を晒す事になり、其処に夏月が必殺の居合を放つ。
決まれば試合終了となる居合だが、此処で秋五は全身の力を抜いてアリーナに倒れ込む事で其の攻撃を回避し、更には倒れた状態から腕の力だけで倒立状態となると強烈な蹴り上げを放って来たのだ。


「うおっと……!」

「避けたか……でも貰ったよ!」


其れをギリギリで回避した夏月だったが、近距離での蹴り上げに虚を突かれて一瞬だが動きが止まってしまったのだ。
時間にしたら一秒程度だろうが、一流同士の戦いでは一秒相手の動きが止まれば充分とも言えるモノであり、秋五はガラ空きになった夏月に踵落としを振り下ろして来た。
人体で最も硬い部分である踵による攻撃は生身でも一撃必殺の破壊力があるのだが、其の一撃をISを纏った状態で放てば威力は更に底上げされ、当たれば一撃KOもあるだろう。


「狙いは悪くなかったが……俺もそう簡単には負けられないんでな。」


だが夏月は其の踵落としをギリギリでガードした事でダメージを最小限に止めたのだが、夏月は只ガードするだけでなく肘を立てた『エルボーガード』を行って秋五にカウンターのダメージを叩き込んでいたのだった。
踵落としへのエルボーガードは下手をすれば攻撃側のアキレス腱を切ってしまう危険性があるのだが、ISバトルでは機体のパイロット保護機能が働くのでそんな事が起きる事自体がそもそも滅多にある事ではないからこその攻撃的防御な訳であるが。


「エルボーガード……踵と肘、生身の試合だったらお互いに大怪我してるところだけど、ISバトルならその心配はないか……だけど、此れは如何かな!」

「むっ……?」


エルボーガードのカウンターでシールドエネルギーを削られた秋五だが、夏月の肘を踏み台にして大きくジャンプすると其処からイグニッションブーストを使っての兜割りを繰り出して来た。
兜割りは落下速度と使用者の体重が振り下ろし斬撃にプラスされる一撃必殺の大技なのだが、秋五は其処にISバトルならではの超跳躍による高高度からのイグニッションブーストの加速も追加したのだ。
更に秋五はリボルバーイグニッションブーストも使用して加速に加速を重ねて威力を底上げしているので当たれば正に一撃必殺だろう。


「上等だオラァ!!」


其れに対し夏月もリボルバーイグニッションブーストを使ってのジャンプ斬り上げを放ち、空中で二振りの刀がぶつかり激しくスパークする。
両手持ちで斬り下ろして来た秋五に対し、夏月は左手で刀身を押し上げる形で対応――点の秋五に対して夏月は面で受けて衝撃を分散させた感じなのだが、力量に大きな差がない場合は下から押し上げるよりも上から押し潰す方が状況は有利なので、秋五は更にイグニッションブーストを重ねる力技で強引に押し切り夏月をアリーナの床に叩き落す。

だが押し切られた夏月はアリーナの床に叩き付けられる直前で態勢を立て直して見せた――押し切られると思った刹那に自ら下に落ちる事で衝撃を軽減していたのだ。


「今のは良い一撃だったが惜しかったな?
 だが、今ので決められなかったのはヤバいんじゃないか?……同じ手は俺には二度は通じないぜ?」

「だろうね。
 だけど同じ手が二度通じないのなら新たな一手を常に繰り出せば良いだけの事……そして其れ等を組み合わせれば攻撃手段は無限に存在する事になるからね……同じ手が二度通じない事は諦める理由にならないよ。」

「流石は天才、そう来たか……だが、勝つのは俺だ!」


其処から互いにイグニッションブーストで肉薄すると近距離での斬り合いとなった。
剣道で鍛え上げた正統派の剣である秋五と、道を度外視して実戦の中で鍛え上げた夏月では其の剣技には大きな差があり、其れにより少しずつだが確実に夏月の方が秋五を圧し始めていた。


「俺が思ってた以上に強くなったな秋五……正直、俺と此処まで遣り合えるようになってるとは思わなかった。
 お前が裏の仕事の経験が有ったら俺は勝てなかったかもだ……だがな、裏の社会ってモノを知らないお前に負ける事は出来ねぇんだよ俺は――楯無の筆頭護衛が負けたとなったら、更識の面目は丸潰れだからな!!」


斬り合いは更に加速し遂に夏月は得意の居合いを連続で繰り出す『逆手居合い』を繰り出して来た。
手数が増える分だけ通常の居合いと比べると一発の威力が下がるとは言え、夏月は初撃のみをフルパワーで繰り出し、二撃目以降は心月を振り切った後の反動を使って左右の往復斬撃を放っており最小限の力で高速の斬撃を連続で繰り出しているのである。
しかも其の攻撃はドンドン攻撃速度が上がり、攻撃速度の上昇に比例して威力も高くなっていくと言うトンデモ仕様だ――恐らく現在のIS学園で此の攻撃に対処出来るのは生徒では楯無とダリル、生徒以外では教師の真耶とスコール、警備員のオータム位のモノだろう。
当然秋五も普通ならば対処は出来ないのだが……


「く……どんどん速く、重くなるとか流石に反則だよ其の逆手居合いは……居合い後の隙にカウンターを狙ったら逆に返す刀でカウンターを喰らってしまう訳だからね……!」

「だが対処してるじゃねぇか?……明鏡止水、大分使いこなせるようになったみたいだな?」

「使いこなす為には身体を鍛えないとだから、結構ギリギリのトレーニングをしたよ……ラウラの軍隊式トレーニングはとっても効果があったよ。」


秋五は雪桜のワン・オフ・アビリティである『明鏡止水』を発動して連続逆手居合いに対処していた。
明鏡止水は秋五が考えるよりも先に機体が自動で防御と回避を行い、攻撃する際も相手の急所を狙うようになるモノなのだが、其れは時に無茶な動きになる事もあるので、其の力を十全に発揮するにはどんな動きにも対応出来るようにパイロットの身体を鍛えておく必要があるのだ。
其処で秋五はラウラに頼んでラウラがドイツ軍の黒兎隊で行っているトレーニングを秋五に教えたのだが、此のトレーニングはアニオタの副隊長であるクラリッサと、そのクラリッサから間違いまくったアニメや漫画の知識を教えられたラウラが考えたモノなので普通の人間では確実に身体がぶっ壊れてしまうのだが、黒兎隊の隊員も秋五も人工的に生み出された強化人間なので其れを熟す事が可能であり、結果として秋五は明鏡止水の力をほぼ完全に引き出す事が出来るようになっていた。
更に秋五は追加装備として搭載されたナックルガード付きのコンバットナイフを抜くとコンバットナイフで居合を捌きながら晩秋で夏月に斬りかかる。
変則の二刀流で対処して来た秋五に対し、夏月はイグニッションブーストで一度距離を開けると心月を納刀し、今度は最速最強の居合いの構えを取る。
夏月の居合いは生身の状態で放っても剣閃を目で追う事は難しく、あまりの斬撃の速さに斬られた藁束が夏月が納刀してから真っ二つに割れる位なのである。
其の居合いがISを纏った状態で放たれればイグニッションブーストと合わせる事で最早防御も回避も不可能な攻撃になるのは既に分かっている事なのだが、其れを見た秋五は晩秋とコンバットナイフを逆手に持った変則の二刀流の構えを取ってみせた。
逆手の二刀流は順手の二刀流に比べて攻撃力は下がるモノの攻防の速度は上がるので、速い相手や攻撃に対しては此方の方が有効なのである。


「……行くぜ!」

「受けて立つ……来い!」


次の刹那、夏月の姿が消え、秋五を凄まじい空間斬撃と超速居合いの嵐が襲った。
夏月が羅雪のワン・オフ・アビリティの『空烈断』とイグニッションブーストを発動しての連続居合の複合技を放って来たのだ――プロ選手の伊織ですら対処出来なかった此の攻撃に、秋五は明鏡止水でなんとか対処するも、如何に自動的に防御と回避を行うと言っても上下左右周囲360度から、しかも何処から飛んでくるか分からない攻撃に完全に対処する事は出来ず、秋五は少しずつだが確実にシールドエネルギーが削られて行き……


「此れで終いだ!」

「しまっ……!」


僅かにガードが上がったところに夏月が心月での柄打ちを喰らわせて体勢を崩し其処から逆袈裟に斬り上げ、更に心月にビームエッジを纏わせて巨大化させると其れを両手持ちの唐竹割りで振り下ろした。
カウンター気味の柄打ちと追撃の逆袈裟で体勢を崩された秋五に其れを避ける術はない――明鏡止水をもってしても対応し切れずに其の攻撃を喰らってしまい、雪桜のシールドエネルギーがエンプティになって勝負ありだ。


「く……僕の負けか……此れでも勝てないとは僕と君の間にある壁を感じてしまうけど、超えるべき壁は大きければ大きいほど良い――此れまで僕は大きな壁にぶち当たった事が無かったからね。
 簡単に超えられない壁、挑み甲斐があるよ……君が居なかったら、僕はきっとここまで成長出来ていなかったと思う。」

「なら俺はお前が俺に勝つまで負ける事は出来ねぇな……お前が越えるべき壁は最強でなきゃ意味がねぇからな……だが、今回の模擬戦は過去一楽しめたぜ秋五。
 何時でも挑んで来い、お前との模擬戦は毎回お前の成長を感じる事が出来るから楽しくて仕方ないんでな……だが、簡単には追い付かせねぇぞ?
 お前が10レベルアップしたなら俺は30レベルアップしてやるからな……!」

「だったら僕は君の四倍の鍛錬を行って追い付いてやる、其れだけだ。」


此れで模擬戦の成績は夏月の51勝0敗となったのだが、羅雪のシールドエネルギー残量は50%を切っており、此れは此れまでで最も秋五が夏月に与えたダメージが大きかった事を示していた。
其の後は箒の紅雷のワン・オフ・アビリティでシールドエネルギーを回復してからのチーム戦となったのだが、夏月組と秋五組の両チーム全員が入り乱れる事になったチーム戦は、どこぞの大乱闘なゲームの如くの大乱闘となり、最終的には楯無がリミッター解除の『クリアパッション』を発動して両軍とも全員がシールドエネルギーがエンプティなっての引き分けと言う壮絶な幕引きとなったのだった。


尚、本年度からIS学園は男子に対しても門戸を開いており、新入生の中には十人ほどの男子が存在していた。
無論ISを扱える訳ではないのだが、整備や開発に於いては男性の存在も無視出来ないので、学園は整備や開発に限定して男子生徒の受け入れも開始したのであった。


「さてと……其れじゃあ漫研にカチコミ掛けんぞ秋五。」

「だね。」


更に序に言うと、IS学園には『漫画研究会』なる部活も存在しているのだが、本年度の新入部員に所謂『腐女子』が多かった事で、夏月と秋五をモデルにした『BLの薄い本』も制作されており、其の存在を知った夏月と秋五は直々にカチコミを行い、漫研部員に分からせるのだった。








――――――








夏月と秋五が学園生活を送る中で、新織斑達はコールドスリープ装置を操作してコールドスリープになっていた人物を蘇生する事に成功していた。
コールドスリープから目覚めた人物は身体が冷え切っていたので拠点内にある温泉で身体を温めた後に、バスローブを纏って新織斑達の前に姿を現していた。


「目覚めた気分は如何だ?」

「いやぁ、流石に億単位の年月コールドスリープ状態だったから身体がバキバキ言ってるけど、取り敢えず通常の生活を送る事に支障はねぇかな?
 並行世界の太古の地球に転送された時には人生のエンディングかとも思ったけど、悪あがきの心算で作ったコールドスリープ装置がこんな役に立つとは思わなかった……なんにしても億年ぶりの娑婆の空気は旨いね。」


その人物は半目の垂れ目と紫の髪が特徴的なグラマラスな美女であり、バスローブ姿がセクシーさを演出していた。
だが、その目は濁っており奥が見えない……だけでなく、奥底には狂気が宿っており、少なくとも真面な思考回路を持っていない人間であるのは火を見るよりも明らかだった。


「其れで、なんでアンタはこんな事になってたんだ?
 と言うか、アンタは彼女なのか?」

「実に忌々しい事なんだけど、私の前に現れた並行世界の私が更に並行世界の太古の地球に私を送ってくれやがったのさ。
 恐竜すら居ない時代に送られた時には流石にヤバいと思ったんだけど、死んで堪るかと思ったからコールドスリープ装置を作って眠りに就いたんだけどまさかこうして目覚める日が来るとは思わなかったよ。
 しかも私を起こしたのが織斑とは、つくづく私は織斑と縁があるみたいだね。」


その人物はバスローブを纏った状態でソファーに腰掛けると足を組んでタバコを一服した――そして、其れを行った人物は、束と瓜二つの容姿であったのだった。











 To Be Continued