大阪会場での夏月vs伊織のISバトルは会場が超満員札止めの満員御礼となっていた。
世界初の男性IS操縦者である夏月と、現在の日本ランキング三位の伊織の試合となれば注目されるのは当然と言えば当然なのだが、加えて伊織の実力の高さも其れに拍車を掛けていただろう。
伊織は現在日本ランキングの三位だが、其れは機体性能が自分のバトルスタイルに合っていなかったからであり、完全な専用機を持っていたのならば間違いなく日本ランキング一位になっていた猛者なので、其れが男性初のIS操縦者にて、先の絶対天敵との戦いで大きな戦果を挙げた夏月と戦うとなれば注目度は凄まじく、観客動員数は夏月と秋五のデビュー戦を上回っていた。
当然各種メディアも此の試合に注目しており、NHKと民放五局は当然としてBSの各種有料チャンネルや海外メディアも駆けつけて生中継を行い、スポーツ関係の雑誌記者もカメラマンと共に多数集まっていたのだ。
「すっごい熱気っすけど、ぶっちゃけ此れって試合になるんすかダリル?
夏月の実力はアタシ等の中でも飛び抜けてるじゃないっすか?如何に相手が日本ランキング三位と言っても、マジの戦場を経験しまくってる夏月には敵わねぇと思うんすけどねぇ?」
「まぁ、何でもアリの戦場で戦えば夏月が間違いなく勝つだろうな。
だが夏月は何でもありの戦場は数え切れない位経験してるが、逆にルールが有る試合の経験はクラス代表決定戦とクラス対抗戦、タッグトーナメントとデビュー戦位で極端に少ねぇんだ。
戦場では使える手段は無限にあるが、ルールが定められた試合だとルールで認められてる事しか出来ないある意味での縛りプレイな上に、龍騎には競技用リミッターが掛かってるから機動力と防御力は其のままに、攻撃力はリミッターなしの時の一割にまで落ちてんだ……其れを考えると流石に瞬殺は無いだろうな。
相手の方もまさかの試合当日に新型持ち出して来たしな。」
「あ……成程。」
「ルールと言う名の制限……此れは意外と大きいのよね実は。」
そんな中、フォルテは夏月の実力を知る者として『試合が成立するのか?』と疑問を持ったのだが、其れはダリルの説明で納得し、楯無も『ルールの在る試合』とルール無しの戦場の差は意外と大きいと言っていた。
事実、『何でもありのバーリトゥード』で名を挙げた選手がプロレスに転向すると、バーリトゥードではOKだった攻撃がプロレスでは反則カウントを取られてしまって本来の力を出す事が出来ず、鳴かず飛ばずになってしまったと言う例は少なくないのだ。
「まぁ、夏月ならば其れでも勝ってくれる筈さ。
試合に向けてやるべき事は全てやったんだ……なれば、私達がすべき事は彼の勝利を信じて全力で応援する、其れに尽きるだろう?……彼を全力で応援して勝利に導き、勝利の女神となろうじゃないか。」
「と言う訳で、応援グッズ作って来たから使って。」
「簪、アンタいつの間にこんなモノ作ってたのよ?
てかメガホンや夏月の名前入りのタオルは兎も角として、団扇やペンライトは応援グッズじゃなくてアイドルのライブ用グッズじゃない?……まさかとは思うけどチアガール衣装とか作ってないわよね?」
「作ろうと思ったけど私と鈴が惨めになるからやめた。」
「アンタねぇ、アタシと比べりゃ十分あるでしょうが!
そもそもにして楯姐さんをはじめとして比較対象が間違ってんのよ!アンタが貧乳ならアタシはなによ!無乳か?其れとも盆地胸か!まな板か!!」
「鈴、少し落ち着きなさいよ……胸の大きさなんてそれほど重要じゃないでしょ?」
「ファニール、アンタが其れを言うなぁ!短期間で急成長してからにぃ!ガチで呪殺するわよ、此の即席ホルスタインがぁ!!」
観客席では簪がオタクスキルを全開にした応援グッズを披露したり鈴が暴走し掛けたりしたのだが、試合が始まると其れも落ち着いて視線はバトルフィールドに注がれていた。
試合開始が告げられても夏月と伊織は動かず、先ずは気組みの状態になった後に激しい空中戦が展開される事となり、一般人には目で追えない戦いが行われ、各種メディアは急遽ハイスピード撮影も同時に行う事になり、雑誌カメラマンはデジタル一眼をオートシャッターにして撮影する事になったのであった――逆に言えば、其れだけ夏月と伊織の戦いがハイレベルである事の証明だった。
夏の月が進む世界 Episode92
『プロ世界でのタイマンバトルⅡ~Limit Off~』
超ハイレベルな空中戦を行っている夏月と伊織の両者は、攻撃の夏月と防御の伊織と言う展開……にはならず、両者とも互いに近距離で打ち合うバッチバチのインファイトとなっていた。
夏月も伊織もメイン武装は日本刀型の近接ブレードでありインファイトでこそ其の力を十二分に発揮出来るのでクロスレンジでの戦いになるのは夏月も伊織も織り込み済みだったが、夏月は伊織が真っ向から打ち合って来た事に驚いていた。
此れまでの伊織の試合映像を見る限りでは、伊織は序盤はガードを固めて相手の攻撃を見極め、中盤以降にカウンターを叩き込むスロースターだったのだが、此の試合ではガードを固めずに真っ向から攻めて来たのだから驚くのも止む無しだろう。
「せりゃぁぁぁぁぁ!!」
「どっそぉぉぉい!!」
何度か切り結んだ後に、夏月の抜刀切り上げと伊織の斬り下ろしが交差して火花を散らし、エネルギーが飽和状態となって爆発した事で否応なしに互いに間合いを離す事となった。
「(彼女がカウンター型だってのはあの映像を見る限りじゃ間違ってなかったが、本当の意味での専用機を手にした彼女には間違いだったみたいだな?
今ので確信したが、彼女は本来はクロスレンジでガンガン攻めるタイプだったんだろうが、プロになって与えられた専用機じゃ其れが出来なかった。
機体が彼女の反応速度に付いて行けなかったから真っ向から攻める事が出来なくなって、最小限の動きで最大のダメージを叩き出せるカウンターを使うようになったって訳か……だが、コイツは思った以上に厄介な相手だぜ。
真っ向勝負も出来るだけじゃなく、カウンターも使えるとなると俺も必殺技を切るタイミングを間違えたらジリ貧間違いなしだ……だが、プロの世界にこんなに強い人が居たってのは嬉しい事だぜ……!)」
「(強い……実力的には今の日本ランキング一位と二位を遥かに凌駕している……此れまでに私が出会ったどんな相手よりも強いのは間違いない。
流石は絶対天敵との戦いに終止符を打っただけの事はある……だけど、負ける気はない……勝ちに行くよ!)」
伊織は此れまでの戦い方から『カウンター型』だと夏月達は考えていたのだが、完全専用機を手にした伊織はカウンター型ではなく、バリバリの近接戦闘ファイターだったのだ……更には其のカウンターも己の力を十二分に発揮出来ない機体に乗ってからこそ磨かれたモノなので、完全な専用機を使えばカウンターの威力と精度も大きく上がり、其れ故に今の伊織は『攻撃型のカウンター』と言う一見すると矛盾した戦闘スタイルを使っているのである。
「此の試合で全く新しい専用機を持ち出して来るとは、狙った訳でなく偶然なのだろうけれど夏月にとっては最悪のタイミングとなってしまったね?
私達は彼女の過去の試合映像から対策を練った訳だが、その対策が今の彼女の戦い方には全くと言って良いほど役に立たなくなってしまった……だからと言って夏月が負けるとは思わないが、其れでも難しい戦いになるのは間違いないだろうね。」
「確かに事前の対策はほぼ無意味になってしまったけれど、だからと言って全く無意味と言う訳でないわよロランちゃん。
夏月君は私が知る限りでは間違いなく更識のエージェント最強と言えるわ……そんな彼が此の程度の予想外で焦る事はないわ――寧ろ、真の力を出せるようになった彼女に闘気が燃え上がっているんじゃないかしら。」
「アイツ、昔から相手が強ければ強いほど燃えるタイプだったからねぇ……此処に来て新しい専用機ってのは予想外だったけど、夏月的には此の展開は寧ろ美味しいモノだったと言えるかもしれないわね。」
楯無達は夏月と伊織の戦いを最初から肉眼で追う事が出来ていたのだが、人間の身体とは中々に高い適応力があるらしく、試合開始から五分が経つ頃には一般の観客も夏月と伊織のハイスピードバトルに目が慣れて肉眼で其の戦いを追う事が出来るようになっていた。
互いにクリーンヒットを許さないシールドエネルギーの削り合いになっている試合は、其れこそ一瞬の判断ミスが敗北に直結すると言っても過言ではないだろう。
「(彼の攻撃は袈裟斬り、払い斬り、斬り下ろしを基本とした剣技のバリエーション……デビュー戦では居合を使っていたけれど、其れを使ってこないのは其の余裕がないのか――だけど居合以外の攻撃のタイミングは全て覚えた。
次に振りの大きな攻撃が来たらカウンターを叩き込む……!)」
そん中で伊織は居合以外の夏月の攻撃を見切り、カウンターのタイミングを計っていた。
ガンガンとクロスレンジで打ち合う中で夏月に対しての完璧なカウンターを叩き込む事が出来るのは何処かを理解し、そして最大のカウンターを叩き込む機会を待っていた。
だが此処で夏月は納刀した……其れを見た伊織は『遂に居合が来るのか』と身構えたのだが、その伊織に炸裂したのは居合ではなく鞘打ちだった。
鞘打ちではシールドエネルギーは其処まで削る事は出来ないが、伊織の態勢を崩す事は出来ており、鞘打ちを喰らわせた夏月は其処から身体を一回転させてから遠心力が加わった居合を伊織に叩き込んだ。
此れが楯無達と考えた事前策――『敢えてカウンターし易い大振りな攻撃を何度か見せ、カウンターを誘ったところに更なるカウンターを叩き込む』と言うモノだった。
本来ならば伊織がカウンターを使い始める試合中盤後に使う筈だったが、機体が変わり攻めるカウンターファイターに変貌した事で早い段階で此の一手を切る事にしたのだ。
そうして決められた鞘打ちによってカウンターのタイミングを崩されて無防備になったところに叩き込まれた遠心力が加わった居合のダブルカウンターとも言うべき一撃は強烈無比であり伊織も派手に吹き飛んだので、此れで試合が決まったと思った観客も居た程だった。
「……咄嗟に後ろに飛んでダメージを逃がしたか……あの状況で其の判断をする事が出来るとは、アンタマジで強いな?
……デビュー戦は正直な事を言うと少し拍子抜けだったんだが、此れほど強い人がプロの世界に居たとはな……最高だぜマジで……!」
「私も君みたいな強い人がプロの世界に現れたと言うのは嬉しい事この上ない……絶対天敵を退けたと言う事で強いとは思っていたけれど、其れでも私の予想を遥かに上回る強さだ。
君とはトコトン遣り合いたくなったよ!」
「其れは俺も同じだぜ!!」
其の一撃を伊織は自ら後ろに飛ぶ事でダメージを最小限に止めたのだが、夏月も伊織もその顔には強者と出会う事が出来た事に対しての笑みが浮かんでいた。
夏月はプロの世界で初めて会った本当の強者が伊織であり、伊織にとっては夏月は久しぶりに現れたランキング戦の強敵であり、世界初の男性IS操縦者と言う事を抜きにして久しぶりに心が昂っていた。
此処で伊織はスサノオに搭載されているもう一本の近接ブレードを抜刀した――今まで使っていた近接ブレードと比べると長さは三分の二程度だが、長さの異なる二刀を装備した事で、伊織は長短二つの間合いを使い分ける事が出来るようになったのだ。
「長さの異なるブレードでの二刀流、其れがアンタの真髄かい?」
「今までの機体では使う事が出来なかったけれどね。
だけど此のスサノオなら私の本当の力を出す事が出来るから使わせて貰うわ……君も近接ブレードを二振り装備しているんだ、遠慮なく二本目を抜くと良いわ。」
「普通に考えりゃそうなんだろうが、俺の二本目は二刀流用ってよりは予備の意味合いの方が強い。
二刀流も出来るっちゃ出来るんだが俺は一刀流の方が強い……一刀流なら鞘を使っての疑似二刀流との切り替えも出来て便利だし、二刀流じゃ居合は使えないからな――師匠から教わった事を馬鹿みたいに繰り返し、テメェの一番の得意技を徹底的に鍛えたのが俺の剣だ。
刀一本でも、二刀流にも三刀流にも六爪流にも負ける気はないぜ!」
「一刀流、そして居合こそが君の真髄と言う訳ね……そして君は其れに絶対の自信を持っている、か。
プロの世界では誰しもが自分に自信を持って居るモノだけれど、その自信が過信や慢心である事も少なくないわ……だけど君の自信は実力に裏打ちされている――此処最近では久しく目にしなかった相手だけに嬉しくなるわね。
勝っても負けても恨みっこなし!出し惜しみなしで行くわよ一夜夏月君!」
「全力全開もとい、全力全壊上等だぜ!!」
互いにイグニッションブーストを使って間合いを詰めると、其処から激しいクロスレンジの斬り合いが展開される。
二刀の伊織に対し、一刀の夏月は分が悪いように見えるが、羅雪のメイン武装である近接ブレード『心月』は日本刀と小太刀の中間の長さであり、其れによって日本刀より近く脇差よりも遠い間合いで戦う事が可能となっているのだ。
そして其の絶妙な間合いは伊織にとってはやり辛いモノだった――日本刀型の近接ブレードでは近過ぎるが、脇差型の近接ブレードでは遠いと言う間合いだったからだ。
完全に間合いを潰されたとなったら普通は其処でゲームオーバーだが、伊織はデータ収集用の機体を使いながらも日本ランキング三位に上り詰めた猛者なので此の程度では諦めない。
「疾っ!!」
「っとぉ!!」
何度目かの斬り合いで放たれた夏月の逆袈裟斬り上げをダッキングで躱した伊織は、其処から下半身のバネを最大限に発揮して夏月に渾身のアッパーヘッドバットを叩き込んだ。
近接ブレードでの斬り合いの最中に放たれたカチ上げ式のヘッドバットには夏月も対応し切れず、其れを真面に喰らってしまった上に、完全に下顎にヒットしてしまったのだ。
完璧に顎に喰らってしまったら其の衝撃で脳が揺れて立っている事すら困難になり、そうなれば多くの格闘技ではゲームセットになるモノで、ISバトルに於いても絶対防御が発動し、其れでも脳への衝撃はゼロにはならないので絶対的な隙が生まれてしまうのだ。
其の隙は時間にすれば長くて三秒程度なのだが、戦いの中で相手の動きが確実に三秒止まれば致命傷を与える事が出来ると言われているので、伊織にとっては絶対的な好機だったのだが――
「!!」
伊織は追撃せずにバックステップで距離を取った。
其れに観客の多くは疑問を持つ事になったのだが、絶対的な好機を自ら手放したのだから其れも当然だろうが、伊織が夏月から距離を取った理由は楯無達には分かっていた。
「彼女、ギリギリで留まったわね……あのまま攻め込んでいたら、其処で試合は終わっていたわ。」
「夏月は更識の仕事を熟す中で、何時の頃からか意識が飛ばされても反撃出来るレベルの反射神経を身に付けたからね……更に意識が飛んだ夏月はリミッター解除状態だから、ある意味ではさっきよりも強いかも知れないよ。」
「バーサーカーを目覚めさせちまったか……つってもバーサーカーモードは夏月が意識を取り戻すまでの繋ぎに過ぎねぇんだけどな。」
夏月は更識の仕事を熟して行く中で、無意識下でも攻撃出来る状態になっていたので、少しばかり意識が飛んだくらいでは大して問題ではなかったのである――逆に、意識が飛んだ事で防衛本能が刺激され、攻撃して来た相手には問答無用でカウンターを叩きこむくらいの事は普通に出来るのである。
「久しぶりに良い一撃貰っちまった感じだが……今の一撃は申し分なかったぜ伊織さん……だけど、今ので俺を倒す事が出来なかったってのはアンタにとってはアンラッキーだったな?
今の攻撃はもう見切ったから間違っても二度目は俺には入らない……仕切り直しと行こうぜ伊織さん!」
「……あそこから戻って来るとは……本当に君は強いね一夜君……!」
激しい打ち合いの中で夏月が意識を取り戻し、闘争本能全開の野獣の如き苛烈な攻撃は形を潜めたが、闘争本能全開の闘気は其のままに理性を保っている矛盾した状態となっており、此の試合に於いて更にもう一段階上の強さを手に入れたのだった。
「(試合の中でもドンドン成長して行くか……でも、其れはきっと相手が強い場合に限られる……なら、私との試合中に成長してくれたってのは喜ぶべき事なのかもしれないけれど、だけど負けたくなく……勝ちたい!
勝ってプロの世界の奥深さを彼に知ってもらいたい……プロの世界で競い合いたい……!!)」
「(ガチでつえぇな此の人……ルールのある試合は学園でも何度か経験してるが、学園の生徒とプロだとやっぱり差があるな?
国家代表や代表候補生とはまた違った強さがある……プロの世界では魅せる戦いも必要だって聞いてたけど、此の人はエンターテイメントを意識してないのに魅せる戦いが出来てる――本物のプロって奴か。
ルールのある戦いなんてのは少しばかり温いと思ってたんだが、其れは間違いだった……ルールの中で出来る事を最大限に使える人との戦いは気が抜けねぇ……俺は此の人に勝ってプロの世界でも更に上に行く!)」
其処から再開された近距離での激しい攻防は其れだけで観客の目を引き付けていた。
一応羅雪にもスサノオにも射撃武器は搭載されているのだが、夏月も伊織も近距離でバリバリ戦っている中で射撃武器を使うのは野暮だと考えて使用すると言う選択肢を頭の中から排除していたのだ。
ガッチガチの近接戦闘でブレードが火花を散らし、時には蹴りや拳も混じり、しかしながら互いにクリーンヒットは許さずシールドエネルギーの削り合いとなっており、其れが観客の目を惹きつけていたのだった。
「ルールが有る試合とは言え、夏月と互角にやり合うとは、彼女の実力は相当なモノだね?……完全に拮抗している此の戦い、果たして勝つのは何方だろうね?」
「完全に拮抗しているからこそ、一瞬で拮抗は崩れる事になる――其の時、天秤が何方に傾くかが勝負の分かれ目となるわ。」
「夏月、負けんじゃねぇ……オレの旦那ならプロの世界の強者にも勝って見せやがれぇ!!」
其の打ち合いの中で先に仕掛けたのは伊織の方だった。
間合いを詰めてから脇差型の近接ブレードを逆手で斬り上げた――其れを夏月はギリギリで躱したのだが、近距離での斬り上げに一瞬虚を突かれて無防備になってしまったのだ。
其処に斬り上げた脇差型近接ブレードを振り下ろし、更に日本刀型の近接ブレードを斬り上げる変則的な十字斬りを炸裂させる――其れは決まれば大ダメージとなるだろう。
伊織も此れで決まると思ったのだが
――フッ……
「え……?」
決まると思った其の瞬間に夏月の姿が消え、次の瞬間に無数の斬撃が伊織を襲った。
此の土壇場で夏月は羅雪のワンオフアビリティをイグニッションブーストともに発動し、必殺の『見えない空間斬撃と居合』を放ったのだった――防御も回避も初見では不可能な攻撃だけに、伊織は得意のカウンターを使う事も出来ずに全ての攻撃を喰らってしまい、シールドエネルギーがエンプティになって試合終了!
『けっちゃーく!!Wiener、一夜夏月!!』
そして試合終了を告げる場内アナウンスに会場は一気に沸き大阪会場は最大級の熱気に包まれた。
「まさかあのタイミングで見えない攻撃を仕掛けて来るとはね……完敗だわ一夜君。」
「いや、あそこでアレを使わなかったら俺は負けてた……其れこそ、発動が刹那遅かったらな……本当にギリギリの勝利だったぜ――だけど、本当に強かったぜ伊織さん。
俺のシングルデビュー戦の相手が貴女だった事に感謝だな……ありがとうございました!」
「私も、君と戦えて良かった……だけど、負けっぱなしって言うのは好きじゃないから、此れから私は年間試合可能回数の全てを君との試合に注ぎ込むから其の心算でいてね?」
「上等……貴女となら何度でも戦いたいぜ!」
何方が勝ってもおかしくなかった試合は、夏月がギリギリで勝利したが、此の試合で夏月と伊織は互いをプロの世界でのライバルと認め、そして此の試合を皮切りに『一夜夏月vs八神伊織』の試合は日本国内のISバトルのプロリーグに於けるドル箱カードとなるのだった。
そして夏月のシングル戦デビューから一週間遅れて秋五もプロの世界でシングル戦でデビューし、ランキング五位を圧倒して勝利を収めたのだった。
「……華々しい世界でお前達は生きるのか……其れは俺達には出来ない生き方だ……だが、其れももうすぐ終わる……お前達の持つモノを全て壊してやる……そして知れ、兵器には平穏な幸せなどありえないと言う事をな。」
そして、此の試合を観戦していた新たな『織斑』達は、夏月に対して呪詛と言っても過言ではない感情を込めた視線を向けた後に大阪会場から去って行ったのであった……
To Be Continued 
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