絶対天敵との戦いが終結してから少し経った頃にIS学園に対して行われた攻撃によって、夏月組はほぼ全てのメンバーが電脳世界に囚われてしまい、其処に現実世界ではIS学園を襲撃しようとしている輩の存在も明らかになった。
其の輩は、嘗て夏月達に粛清された『絶対天敵を兵器として利用しようとした集団』の残党であり、彼等は愚かにも箒を捕らえて人質として束を意のままにしようと考えていたのだ。
だが、其の思惑は皮肉にも束によって看破され、IS学園は鉄壁の防御の布陣を敷く事になったのだ。
秋五組の総戦闘力の高さは夏月組と比べれば劣るが、其れでも十二分な戦闘力を有しており、真耶率いる教師部隊の戦闘力も充分な上に、亡国機業でも指折りの実力者であるスコール、オータム、マドカ、ナツキも居るので負ける要素は皆無であると言えるだろう。
「何処の馬の骨とも知れん奴等が私の弟達と、其の嫁達に手を出そうとするとは身の程知らずも甚だしい……と同時に、私の逆鱗に触れた事を後悔させてやる……!
弟に手を出されて怒らぬ姉は存在しない……楽には殺さん、ダルマにして傷口を焼き固めて苦痛の生を送らせてやるから覚悟するんだな。」
「……スコール、マドカがおっかねぇ。つーか、ヤバくねぇか?
コイツが凄まじいブラコンだってのは知ってたけどよぉ、最近は其れが悪化してんじゃねぇか?……正直な話、ブラコンパワーが全開になったマドカにはオレでも勝てる気がしねぇんだけど。」
「貴女が勝てないなら、IS学園を襲撃しようと考えている連中は誰一人としてマドカに勝つ事は出来ないでしょうね……そうだとすると、今回は私達は出撃しなくてもマドカ一人でなんとかなるんじゃないかしら?
……外見は子供のマドカが大人相手に無双すると言うのは、一部から凄い需要がありそうだわ。」
「OK、お前もマドカのブラコンパワーに当てられてんなスコール。」
学園防衛に当たっているマドカからは『ブラコンの瘴気』とも言うべき謎のオーラが立ち上っており、更に目の色が反転すると言う謎現象が起きていたのだが、其れはマドカが夏月と秋五、そして彼等の嫁ズの事を大切に思って愛している事の証でもあると言えるだろう。
夏月組も秋五組もマドカにとっては大切な弟と義妹なので、其れを害する相手に対しては一切の容赦はなく、しかし簡単には殺さずに生き地獄を命尽きるまで送らせる心算であるようだ。
「だけどまぁ、連中も馬鹿な選択をしたもんだぜマッタクよぉ?
箒を束の弱点だって考えたのは悪くねぇんだが、世界のお偉いさんはそんな事はとっくに分かってんだぜ?……なのに如何して今の今まで誰も箒に手を出さなかったのか、その理由を全く考えてねぇんだからよ。」
「篠ノ之箒は篠ノ之束の弱点ではあるが、其の弱点を突いたら百倍の報復を受ける……故に誰も篠ノ之箒には手を出さなかった……其れを理解していないのが連中の敗因となるのだろうな。
まぁ、如何なる理由があるにしてもIS学園に手を出そうとした、其れがそもそもの間違いだったと言う事を教えてやらねばなるまい――同時に、二度と同じような輩が現れないように見せしめとしてやらねばだろう?」
「オウよ、徹底的にやってやるぜナツキ!」
IS学園の防衛には一分の隙もないので、此度の一件を起こした一団が其の目的を達成する可能性は極めて低いと言えるだろう――仮に、よしんば箒を捕らえる事に成功したとて、その先に待っているのは束からのしっぺ返しでは済まない痛手を通り越した激痛の報復と反撃でカウンターが確定しているので、IS学園を襲撃しようと考えた時点で詰んでいたと言っても良いだろう。
「私が姉さんの弱点か……確かに私は姉さんと比べれば凡人に過ぎないのだろうが、だからと言って下賤な賊に負けてやるほど弱くはない……この様な事が起きた時の為に、己を鍛えていたのだからな。」
「貴女がストイックに己を鍛えていた事は知っているわ……其れを知らないお馬鹿さん達を盛大に後悔させてあげましょう♪」
「IS学園は僕達が守る……絶対にね!」
秋五組も闘気を極限まで高めており、IS学園の防衛力は通常時と比較して十倍以上のモノとなっており、夏月達が電脳世界から帰還すれば、其の時点でミッションコンプリートの状況となっていたのだった。
夏の月が進む世界 Episode89
『電脳世界の激闘と現実世界の開戦~Double Wars~』
現実世界ではIS学園の防衛力がダイヤモンド級に堅牢になっていたのだが、楯無達の意識が囚われている電脳世界では、夏月が楯無達と共に『フェイルプレイヤー』をはじめとした敵対勢力との戦いを続けていた。
そんな中で此の電脳世界がゲームのような世界である事を理解した夏月だったが、戦闘を重ねるうちに自分を含めた楯無達には夫々固有のスキルが備わっている事が分かって来ていた。
夏月自身は通常攻撃が『鞘当て→鞘打ち→居合』の三回攻撃であり、其れ以外に『敵全体を三回攻撃』、『敵一体に防御力無視の攻撃』、『敵ランダムに十五回攻撃。20%の確率で即死』のスキルを有していたのだった。
夏月以外のメンバーのスキルはと言うと、楯無が『通常攻撃が四回』、『敵一体を攻撃後に全体攻撃』、『敵一体を攻撃し50%の確率で何らかのデバフ効果二つ発生』、簪は通常攻撃は単体攻撃で他のスキルとして『敵全体を二回攻撃』、『敵全体を攻撃し100%で毒状態』、『味方のHPを最大値の30%回復』を持っており、ロランは通常攻撃が防御力無視で他にスキルとして『敵全体に防御力無視のダメージ』、『ランダムに選択された仲間一人と一緒に敵一体を攻撃』、『味方の攻撃力40%アップ+クリティカル率30%アップ』、グリフィンが通常攻撃が二回で他のスキルで『敵一体に防御力無視のダメージを与え味方のスピードを50%アップ』、『自身のHPを50%消費して味方全員の攻撃力とクリティカル率を80%アップ』、『敵全体のHPを半分にする(相手がボスの場合はクリティカル100%の攻撃)』、ヴィシュヌは通常攻撃が敵をランダムに四回攻撃、他のスキルで『敵全体を攻撃&50%の確率で防御力30%ダウン』、『敵単体に五回攻撃&与えた総ダメージの30%分だけ自分を含めた味方のHP回復』、鈴と乱は共通で通常攻撃が三回攻撃で他のスキルとして『敵全体に火傷の状態異常』、『敵全体に毒の状態異常』、『敵全体にダメージを与えて防御力20%ダウン』なのだが、乱は同じチームに鈴が、鈴は同じチームに乱が居る場合に火傷と毒で与えるダメージが倍になり、防御力ダウン効果は50%となっていた。
ファニールは通常攻撃が全体攻撃で、他のスキルとして『敵一体に防御力無視のダメージ&即死効果(即死効果はボスには無効)』、『自分が攻撃された場合、受けたダメージの50%を相手にカウンターダメージで与える(全体攻撃を受けた場合は、チーム全体で受けたダメージの50%でカウンターする)』、『戦闘不能になった味方を蘇生して即時ターンを取得させる』モノで、ダリルは通常攻撃が敵防御力を無視したランダムの二回攻撃で、他のスキルとして『敵全体にダメージ。50%の確率で即死』、『敵全体を攻撃し、50%の確率で敵のスキルを封印』、フォルテは通常攻撃が『クリティカルヒットした場合に限り追撃が発生する』と言う特殊なモノだったが、他のスキルは『味方一人と一緒に相手をランダムに四回攻撃』、『敵全体を攻撃し凍結50%』、『敵全体を攻撃(ダリルが同チームの場合、防御力を無視してダメージを与える』と言うモノだった。
「オォォラァァァ!消えろ雑魚共!!」
「ふむ、相変わらず見事な腕前だ。」
そんな世界で、夏月はフェイルプレイヤーのアンデッドを斬り捨てただけでなく、ドラゴン、デーモン、スパイダーと言った敵に対しても圧倒的な力を発揮して撃破していた。
夏月の圧倒的な実力はあっと言う間に砦内に広まり、最高ランクの『レジェンダリー』として召喚された英雄と言う事もあってインフィニットストライカーズの砦内では夏月を最早英雄を通り越して神のように崇める者まで現れており、此れには夏月だけでなく楯無達も少しばかり顔が引き攣ってはいたが。
此の世界は現実世界と遜色ないモノであり、夏月も此の世界に嵌り掛けたのが、此の世界はあくまでも仮想現実であり、楯無達の記憶を取り戻して現実世界に戻らなければならないので、ファンタジーな世界で戦いながら楯無達の記憶を取り戻す方法を模索していたのだが現状では其の方法は皆目見当も付いていない状態だった。
『大きなショックを喰らえば衝撃で記憶が戻るか?』とも考え、敵の強力スキルを楯無達が喰らうように立ち回ろうともした事もあったのだが、仮想現実とは言え楯無達を傷付ける事は出来ず、結局は夏月が強力スキルにカウンターを入れる形で敵を倒してしまいショック療法は上手く行かず、ならば自分が態と攻撃を喰らってフッ飛ばされて楯無達にぶつかってショックを与えると言う方法ならばと其方を試してみたがそっちも全く効果はなく、所謂『叩いて直す』と言った方法はダメだったのだ。
「子蜘蛛でも中型犬レベルのデカさって流石にあり得ねぇだろ……倒しといて言うのもなんだが、あんな子蜘蛛を無限に生む恐竜級のデカさの蜘蛛とか冗談抜きに反則だろ?
アレが大挙して押し寄せて来たら砦は簡単にぶっ壊れるんじゃないのか?
あの化け物蜘蛛だけじゃなく、ドラゴンやバカでかいデーモンも居るんだし……其れに加えてフェイルプレイヤーとか言う闇の軍団との戦いもあるとなると戦力がドレだけあっても足りないんじゃないのか?」
「えぇ、実際に足りていなかったのよ。
此のまま行けばジリ貧になって三勢力全てが滅びてしまうのは目に見えていたわ……でも、そんなときに『バルバトス』のシャーマンが古来に失われてしまった英雄の召喚術の術式を解読して、三勢力に其の術式を伝授したの。」
「その召喚術によって各勢力は異世界からの英雄を召喚して新たな戦力とする事で此の難局を乗り切ったと言う訳さ――尤も、召喚される英雄の強さは召喚術に使用された希少な『召喚石』のランクと、召喚術を行った者の力に大きく左右されるのだけれどね。
私達は運良く最高クラスの召喚石である『神魔石』を入手して、更に此のメンバーの力を召喚術式に注ぎ込んだ事で君と言う最高クラスの英雄を召喚する事が出来たのだよ。」
「成程……中々にハードモードな世界だが、お前達は此の世界が現実じゃないと言われたらどうする?」
戦闘を終え、砦内の酒場で一休みしている中で夏月は思い切って核心に斬り込んでみた。
何者かによって楯無達の意識が電脳世界に囚われてしまったと言う事は既に束によって明らかにされているのだが、なんの為にそんな事を行ったのかと言うのは束に聞かずとも夏月は予測出来ていた――その理由は至極簡単な事で、現在のIS学園における最強クラスの戦力を封じる為であり、其れが意味している事は、IS学園に物理的な攻撃が行われると言う事だった。
夏月組の戦闘力は専用機の『騎龍シリーズ』の機体性能と搭乗者の能力の高さ、連携のレベルの高さ、一撃必殺の対消滅攻撃もある事でIS学園最強のチームであるので、IS学園を攻撃しようと考えている連中からすれば真っ先に無効化したい相手だと言えるのだ――尤も、夏月組を封じたところでIS学園には真耶率いる教師部隊、秋五組、亡国機業組と言った強力戦力が存在しているので、IS学園が外部戦力によって壊滅させられる可能性はドレだけ高く見積もっても1%未満であるのだが、だとしてもIS学園が攻撃されると言うのであれば黙っている事は出来ない。
だから夏月は、強引とも言える一手を切ったのだ。
「此の世界が現実じゃないだって?……異世界から召喚された君にとっては現実じゃないのかもしれないが、私達にとっては此の世界は現実なのだけれどね……?」
「その認識其の物が後付けのモノだとしたら如何よ?
試しに聞くが、お前達が此の世界で生まれたのは何時だ?インフィニットストライカーズ以外の二つの勢力を構成しているのはどんな連中だ?フェイルプレイヤーやドデカいモンスター達が現れたのは二カ月前って言ってたが、そいつ等は何故いきなり現れた?
そもそもにして、アレだけの化け物が一匹だけじゃなく存在してるってのに如何して未だに三つの勢力は一つも欠けずに存続出来ている?如何に召喚術で異世界の英雄を召喚できるとは言っても、召喚される英雄の強さはピンキリで必ず強い奴が召喚されるとは限らないならハズレ英雄を引いちまった場合はジリ貧確定なのにだ。」
勿論イキナリそんな事を言われても楯無達には意味不明なので、ロランも夏月の言った事に対して逆に疑問を投げかけたのだが、夏月は其れにカウンターをかますかの如く凄まじく捲し立てて反論を封じた。
だが、夏月に言われた事を楯無達は考えると、確かに少しおかしな点がある事に気付いていた――インフィニットストライカーズの砦で暮らし、フェイルプレイヤーや巨大なモンスター達との戦いを続ける日々を送っていた記憶はあるのだが、自分達が生まれたのはそもそも何時なのか、フェイルプレイヤーや巨大なモンスター達は何故突如現れて攻撃を行って来たのか、改めてそれらを問われると明確な答えを出す事が出来なかったのだ。
自分の生まれに関しては自分の年齢から『何年前』と言う事は出来ても、『何年の何月何日』までは明確に分からず、其れ以前に此の世界で現在使われている年号も分からなかった。
「今まではあまり気にしていなかったけれど、こうして指摘されると確かにおかしな点があるのは否めないわね……確かにフェイルプレイヤーや巨大モンスターとの戦いは二カ月前から始まったのだけど、彼等が何故現れたのか、其れを考えた事すらなかったわ――だけど改めて指摘されると、彼等が何を目的に現れたのか、其れはマッタク謎で其の謎を解明する事すらしていなかったわ。
其れだけなら未だしも、自分が生まれたのが何時なのかが明確に分からない上に年号すら分からない……あまりにも記憶がチグハグ過ぎるけど、此の記憶が本物でなく、誰かによって植え付けられたモノだと考えれば納得出来なくはないわね……」
「ですが、貴方の言うように私達の記憶が偽りのモノで、此の世界が偽物であると言うのであれば私達は一体何者で、貴方は誰なのです?」
「俺も、お前達も、IS学園って言うちょいと特殊な学校に通う生徒で、お前等は其のだな……なんつーかあれだ、フォルテ以外は全員俺の婚約者なんだ。」
「え?フォルテ以外全員アンタの婚約者なの?……ハーレムってやつよね其れ?……英雄色を好むって本当だったのね!!」
「鈴、お前そりゃちょっと違う……とも言い切れねぇのか?確かに夏月は英雄な訳だからな……つか、フォルテ以外全員って、幾らなんでも凄過ぎんだろ流石によぉ!?」
「更に加えて更に三人居るんだけどな。」
「其れは凄過ぎるのではないか!?
いや、だが君ほどの男性ならば女性が魅かれると言うのも納得出来ると言うモノだ……だが、君の言う事が本当だとして、何故私達が君と婚約関係になったのか、其れを知りたいモノだね。」
夏月が直球で真実を話すと、楯無達も自分達の記憶にチグハグな部分がある事に気付き、初めてこの世界に疑問を持った様だった――とは言っても其れだけでは本来の記憶を取り戻すには至らなかったのだが、其処で夏月も諦めずに『自分と楯無達が婚約関係になった経緯』を含め、現実世界で起きた事を、特に大きな事柄を伝えた。
中でも先の『絶対天敵との戦い』は、此の世界の現状と重なる部分もあったので楯無達も聞き入っていた。
「ISに絶対天敵、そして此の世界は仮想現実で、私達の意識は本来の記憶を封じられた状態で此の世界に閉じ込められている、か……俄かには信じられないけれど、貴方が嘘を言っているようにも思えないし、言われてみると此の世界の異常さと言うモノを実感してしまうわね。」
「俺は、お前達の意識を仮想現実から連れ戻すためにやって来たんだ……つっても、今のところお前達の本来の記憶が戻る気配は一向にないし、如何したら記憶が戻るのか皆目見当が付かねぇんだけどな。
記憶さえ取り戻しちまえば後は束さんが此処から引っ張り出してくれるとは思うんだが。」
とは言え現状では楯無達の記憶を取り戻す術はなく、切っ掛けすら掴めていないのが現状だ。
夏月の感覚では此の世界にやって来て数日と言ったところだが、現実世界では未だ一時間と経っていないだろう――本当に数日経っているのならば束がとっくに楯無達の記憶を取り戻させて強制的に現実世界に戻しているだろうから。
――カンカン!カンカン!!
そんな中で砦内に鳴り響いた鐘の音。
其れは砦近くに敵対勢力が現れた合図であり、ゲーム的な言い方をするならば『回避出来ない強制バトル』と言ったところだろう――其の警鐘を聞いた夏月達は敵を迎撃すべく砦の外に出たのだが、其処にはポイズンスパイダーとロックゴーレム、そしてフェイルプレイヤーの軍勢が存在していた。
其れだけならば夏月を有するインフィニットストライカーズならば退ける事は可能なのだが、フェイルプレイヤーの軍勢の中にはアンデッド化した楯無達の姿があったのだ。
フェイルプレイヤーの構成部族の一つであるアンデッドロードは不死者の集団であり、その多くは朽ちた肉体の所謂『ゾンビ』なのだが、アンデッド化した楯無達は髪と肌の色が緑色になり、目から光が無くなっている事以外は同じでありゾンビ化はしていなかった――此のアンデッド化した楯無達は、此の世界における『可能性の一つ』が形になったモノなのだろう。
アンデッドは生物にとって避ける事の出来ない『死』をも超越した存在であるので、現実には存在しない『もしもの存在』すら腐肉から作り上げてしまうのかもしれない。
「アンデットと化した私達が現れるとはね……戦場で命を落とした私達がアンデッド化すると言う未来もあるのかも知れないが、だからと言って其れが眼前にあると言うのはあまり良い気分ではないな?
私達に揺さぶりを掛ける心算だったのかも知れないが、其れは逆効果だと思い知ると良い……己の負の未来など、此の手で消し去ってくれる!」
「取り敢えず、全員滅殺ね♪」
其の戦いは此れまでよりも苛烈なモノとなったのだが、実は酒場で夏月達が飲んでいた飲み物はキャラクターをレベルアップさせるアイテムで、食べ物はキャラクターをランクアップさせるモノであり、夏月も楯無達もランクとレベルが大幅に上昇していた――此れにより、ロックゴーレム、ポイズンスパイダー、フェイルプレイヤーの連合軍が相手でも負ける事はなかった。
『ふぅ、やっとここまで来れたか……夏月よ、此処からは私もサポートするぞ。』
「羅雪……来てくれたのか!コイツは頼もしいぜ!」
更に此処で夏月にサポート精霊的な存在として羅雪が加入した――騎龍・羅雪もシミュレーターにセットされていたのだが、羅雪のコア人格は夏月の意識と一緒に此の世界には来ずに、外部からアクセスしてやっとこの世界にやって来たのだ。
とは言っても羅雪は束のような頭脳派ではないので此の状況を解決出来る術は持っていなかったので此のプログラムにセットされていた『人間の意識以外は排除する機能』を有するファイヤーフォールを殴って壊すと言う力技でもってして介入して来た訳だが、方法は如何あれ、羅雪が此の世界に顕現出来るようになった事で夏月は此の世界でも羅雪の力を使う事が可能となっていた。
超高速移動であるイグニッションブーストと、其の上位スキルに加えて羅雪は空間斬撃も可能であり、その二つを組み合わせたモノが夏月の最強奥義である『見えない空間斬撃と居合』なのだ。
羅雪の実機がなくともコア人格が此の世界に存在しているのであれば其れ等の力を発動する事は可能であり、其の技を発動した夏月の姿を目で捉える事は出来ず、初撃が何処に放たれるか分からないだけでなく、見えない初撃から間髪入れずに無数の空間斬撃と夏月の神速の居合が襲って来るので防御も回避も不可能であり、フェイルプレイヤーは此の一撃でほぼ壊滅し、ポイズンスパイダーも生み出した子蜘蛛が全て全滅して本体にも大ダメージが入ったのだが、ロックゴーレムは攻撃された際に50%確率で発生する『カウンター攻撃』を発動し、其の巨大な拳でヴィシュヌを殴りつけて来た。
其のカウンターに対し、ヴィシュヌは自ら後ろに飛ぶ事でダメージを軽減したのだが、自分の身長と同じ大きさの拳のダメージを完全にいなす事は出来なかったので、大きく吹き飛ばされたてしまったのだ。
「ダイビングキャーッチ!!」
だがヴィシュヌが吹き飛ばされた先には夏月が突撃しており、ヴィシュヌが地面に激突する寸前でキャッチする事に成功していた――のだが、勢い余って其のまま夏月とヴィシュヌは転がってしまい、止まった時には全く偶然ではあるが唇が重なっていた。
「「!!?」」
やる事やってるとは言え、突然のキスにはヴィシュヌだけでなく夏月も驚き、慌てて唇を離したのだが――
「……!……?
夏月?……私はタテナシ達とシミュレーターでの模擬戦を行おうとしていた筈なのですが……此処は何処なのでしょうか?と言うか、なんで私はこんな格好をしているのですか!?」
「え?……ヴィシュヌ、お前記憶が戻ったのか!?」
「あの、如何やらそのようです……よもや貴方のキスで記憶を取り戻すとは思いませんでした……此の世界での偽物の記憶も覚えていますが、此の展開はロランならば『乙女を目覚めさせるのは矢張り王子様のキス以外には有り得ない』とか言いそうですね。」
「あぁ、言うだろうな……てかマジで記憶が戻ったのか……キスで記憶を取り戻しますって、此の世界を作った奴は相当にベタな展開が好きだったのか?
つか、其れ以前に何で記憶を取り戻す一手を残しておいたし……記憶を取り戻す事が出来なければ俺も此の世界に留まり続ける事になるってのに。
……いや、俺が電脳ダイブを行う事までは想定しなかったって事かもな。」
まさかのキスでヴィシュヌは本来の記憶を取り戻す事になった。
マッタクもって予想外の事ではあったが、記憶を取り戻す方法が分かったのは僥倖と言えるだろう――とは言っても、本来の記憶を失っている楯無達にキスをすると言うのは中々に難易度が高いかも知れないが。
「ヴィシュヌちゃん……偶然とは言え夏月とキスしちゃうとは羨ましいわね……って、なんで私は羨ましいと思ったのかしら?」
「私も君と同じ事を感じたが、確かに何故羨ましいと感じたのだろうか?……私達は夏月に対して英雄に対する敬意以上の感情を有しているのか?」
だが、その光景を見た楯無達はホンの少しだけ本来の記憶を封じ込めている後付けの記憶が綻び始めているようだった。
それはさて置き、戦闘はまだ続いているのでフェイルプレイヤーの残りとポイズンスパイダー、ロックゴーレムとの戦いに集中する事になったのだが、ヴィシュヌが記憶を取り戻した事で其の戦闘力は大きく上昇し、本来の戦闘スタイルであるムエタイで敵を次々と叩きのめして行き、更には此の世界の特徴とも言える『人外の技』を利用して両手に力を集中すると……
「タイガァァァァァ……キャノォォォォン!!」
ストリートファイターのサガットのスーパーコンボである『タイガーキャノン』を放って敵を一掃して見せた――本家が巨大な気弾であるのに対し、ヴィシュヌが放ったのは某地球育ちのサイヤ人や某全力全壊の魔法少女の必殺技の如き砲撃だったが。
『グオォォォォォォォォォォォォ!!!』
だが、其れで戦闘終了とはならず、大地を震わせる地鳴りの如き咆哮と共にポイズンスパイダーやロックゴーレムをも上回る巨大な存在が地面を割って現れた。
ロックゴーレムやスカルデーモンの倍はあるであろう其の巨躯の放つ威圧感は圧倒的であり、普通ならば委縮してしまうだろう――実際に記憶を取り戻していない楯無達は少し怯んでしまったのだから。
「ただデカいだけの化け物に今更ビビるかっての……こちとらもっとバカでかくてグロテスクな敵と戦ってるんだからな?……ボスキャラって奴なのかもだけど、速攻退場願うぜ?
悪いが雑魚ボスに割いてる時間はねぇんでな。」
「此処は力尽くでも押し通らせて頂きます!」
しかし夏月と、記憶を取り戻したヴィシュヌは怯む事なく巨大な敵、『ゴーレム・ドラゴン』と対峙し、其の討伐に乗り出したのだった。
――――――
夏月が電脳世界で奮闘している頃、IS学園には箒を狙う一団が上陸しようとしていた。
ISを使えば水中移動も容易であり、重い酸素ボンベもウェットスーツも必要なく、上陸後は即戦闘可能と言うのは大きな利点であり、並の軍隊が相手であったのならば此の襲撃は成功していただろう。
実際に部隊はIS学園への上陸を成功させていたので、後は箒を攫うだけだったのだが――
「よく来たなクズ未満の鼻糞にも劣る生ごみが……いや、生ごみは肥料として使えるから、貴様等は生ごみにすらならんか……ただ邪魔なだけの粗大ごみと言うのが妥当かもしれんな!」
部隊の小隊長と思われる人物は、突如現れたマドカの夏月直伝の居合で機体のシールドエネルギーをあっと言う間にエンプティ―にされて機体が解除されたのだが、其れで止まるマドカではなく、機体が解除された生身に助走付きの強烈な飛び蹴りを喰らわせて小隊長の意識を刈り取って見せた。
上陸直後に小隊長が倒されるとは夢にも思っていなかった隊員達はまさかの事態に怯んでしまったのだが、小隊長が倒されてしまった事よりもマドカの纏う雰囲気にプロであるにも関わらず恐怖を感じていた。
今のマドカからは強烈なまでの『怒りのオーラ』が発せられており、専用機である黒騎士の外見と相まって『地獄から現れた死の使い』の如き――其れほどまでに此度の所業はマドカにとっては許し難いモノなのである。
夏月の嫁ズは静寐、神楽、ナギを除いて全員が電脳世界に意識を囚われ、夏月も楯無達の意識を取り戻すべく電脳世界に意識をダイブさせる事になっただけでなく、秋五の嫁ズの一人である箒を狙って今回の事を起こしたのだ……大切な二人の弟を危険に晒しただけでなく、その弟の嫁ズ、将来は義妹になる存在にまで手を出されたのだからマドカの怒りは『怒髪天を突く』では済まないレベルなのだ。
「ISを纏っていれば死にはしないだろうが、生憎と今日の私は貴様等の機体が解除されたからと言って攻撃を止めるのは難しそうだ……やり過ぎて殺してしまうかもしれんが、殺されてしまったその時は己の無力さと馬鹿さ加減を恨んで地獄に堕ちろ。
兎に角今の私は間違いなく此れまで生きて来た中で最高にブチキレているのでな……仮に命は助かっても五体満足で居られると思うなよ?」
「……傍から見たらどっちが悪役か分からねぇなオイ……だがまぁ、マドカを本気でブチキレさせちまったのは悪手も悪手、最悪の一手だったな?
本気でブチキレたマドカを相手にしたらオレも勝てる気がしねぇし、そもそも戦いたくねぇからよ……『藪をつついて蛇を出す』って言葉があるが、藪をつついて出て来たのが蛇は蛇でも八岐大蛇か或いはヒュドラでしたってか?
ま、オレも可愛い弟分に手を出されてヘソで茶を沸かせる位にはキレてんでな……悪いが手加減は出来そうにねぇ……怒りの阿修羅から逃げる事は出来ねぇからな!」
「うふふ……私の大事な息子とそのお嫁さん達に手を出したのだから、最大限減刑しても腕や足の一本位は折っておかないとなのよねぇ……IS学園に亡霊の使者が居るとは思わなかったのでしょうけれど、亡霊の使者を怒らせた事が最大の間違いね。
其れ以前に、私達が居なくともIS学園の精鋭達は貴女達で如何にか出来るレベルではないわ――真耶を筆頭にした教師部隊の実力は並の軍隊と同レベルか、或いは其れ以上なのだから。」
そしてブチキレているのはマドカだけでなくスコールとオータムも同様であり、別の場所で襲撃者を迎え撃っている秋五達も襲撃者に対して最上級クラスの怒りを覚えている事だろう。
特に箒を狙われた秋五は、束から『束さんが直々に処刑しても良いんだけど、それじゃあつまらないから束さんの怒りをしゅー君に預けるよ♪』とも言われていたので気合はメガマックス状態となっており、上陸して来た部隊の一人を一瞬で戦闘不能にしてしまっていた。
「此処から先には行かせないし箒も渡さない……大切な人を失うのは一度で充分だからね……!」
夏月が電脳世界で戦っているのと時を同じくして、現実世界でも激しい戦いが幕を開け、その様子を光学迷彩ステルスを搭載したドローンカメラが撮影していたのだった……
To Be Continued 
|