絶対的防御力を有した繭を秋五組は破壊する事が出来なかったので、繭の破壊を断念して情報を持ち帰る事を優先して、絶対天敵の本拠地である海底洞窟から帰還し、その情報を夏月組に渡したのだが、其の直後に絶対天敵の本拠地である海底洞窟からエネルギーの柱が発生し、其れが収まった所に存在していたのは六枚の翼と六本の腕を有し、髪と眉と瞳が銀色になった『織斑千冬』の姿をした絶対天敵の親玉である『キメラ』だった。
ISコアの反応を遮断する水晶に覆われた海底洞窟で自身を絶対天敵の屍で作られた繭に取り込ませ、其の中で生きながらに細胞レベルで身体を分解されると言う地獄を経験した後に時間を掛けて身体を再構築・強化して進化し、其の進化が今こうして終了して繭から羽化して其の姿を現したのである。
更にキメラの進化が完了した事により、世界各国に現れていた絶対天敵にも変化があり、キメラの進化完了に呼応するかのように其の場で姿を変えてより強力な力を得るに至ったのだが、其れによりベースとしている生物が何なのか分からない状態となってしまい、例えば昆虫型であればカマキリの大鎌とクワガタの大あごとカブトムシの角、スズメバチの毒針、トンボの羽を併せ持ったような姿をしているのだ……其れは取り込んだ地球生物の利点のみを現在ベースとしている生物で可能な限り再現したと言ったところだろう。
完全なる異形と化した絶対天敵は各国の『地球防衛軍』と此れまで以上に激しい戦闘を行い、地球人類と絶対天敵との戦いは最終決戦とも言える状況に突入していたのだ。
「人間だった頃と比べると相当に強くなってるみたいだなアレは……正に『ラスボス』ってところなんだが、こう言うのもアレだが全然怖くねぇんだよなぁ?
てか、アレがラスボスって事はアレを倒せば絶対天敵は全部纏めて倒す事にもなる訳だから、アレとの戦いがガチで最終決戦なんだが、楯無を始めとしたラスボスよりも遥かに強いゲーム中最強の敵クラスと散々模擬戦やってる身としてはぶっちゃけヌルゲーだぜマジで。
加えて俺達はステータスがカンスト突破して若干バグってる感があるからなぁ……マジで負ける気がしねぇ。」
「瀕死のブリュンヒルデが何とか命を繋いで神となったと言うのは、フィクションの世界であれば最強の存在であるのかも知れないけれど、DQNヒルデが邪神になったところで龍に勝つ事は出来ないわ……何よりも、繭に包まれたままで居れば生きている事が出来たのに、繭から出て来て私達の前に現れたのだからキッチリと倒してあげるの礼儀よね?」
「降誕した邪神に戦いを挑むのは超人が率いる龍の騎士団とは実にドラマティックでファンタスティックではないかな?
嗚呼、此の最高の舞台を最高の仲間達と演じられると言う事に私の心は歓喜しているよ……尤も、此れがフィナーレとなる舞台だけれどね!」
其れでも夏月組は緊張し過ぎる事はなく、適度な緊張感とリラックス感が融合した絶妙な精神状態となっていた。
進化したキメラの力は怪獣型の絶対天敵の比ではなく、『地球防衛軍』では凡そ対抗出来るモノではなく、『騎龍』ではない『龍の騎士団』も勝つのは難しい相手なのだが、『騎龍』を擁し、更に『裏社会の力』を身に付けている夏月組にとっては脅威の存在ではなかったのだ。
亡国機業の実働部隊として、更識のエージェントとして裏の仕事に携わって来た夏月組は幾度となく生身で剣林弾雨を潜り抜けて来た事で『命懸けの戦い』と言うモノを何度も経験している上に、『殺し』の経験もしているので今更どんな存在が相手だろうと怯む事はなかったのだ。
そして其れは夏月組と行動を共にするスコールとオータムも同様だ――特にスコールは嘗ては更識のエージェントとして、現在は亡国機業の実働部隊隊長として数多の死線を越えて来た事で、大抵の事では恐怖を感じる事はなくなっていた。
「ぷっはぁ……出撃前の一杯はやっぱりうめぇ!」
「秋姉、今飲んだのってポケット瓶のウィスキーだよな?出撃前に酒は如何なんだ?」
「ポケット瓶一本空けたくらいは如何って事ねぇ……寧ろ良い感じにほろ酔い状態の方がオレは強いんだよ――ベロンベロンに酔っぱらったら其れは其れで強いのかも知れないけどよ。」
「秋姉、酔拳極めてたのか……?」
「中国拳法を学んだ者の意見として言わせて貰うけど、酔拳はあくまでも『酔っぱらいの動きを模した拳法』であって、『酔えば酔うほど強くなる拳法』じゃないからね?其処は誤解するんじゃないわよ!」
「中国拳法は奥が深いのですね……では、武術の修行をしていた武闘家がカマキリが小鳥を狩ったのを見て螳螂拳を編み出したと言うのは?」
「其れは、此れまでは逸話に過ぎなかったんだけど、最近の研究でガチでカマキリが小鳥を狩る事があるってのが判明したから実は逸話じゃなくて実話なのかもしれないわね。」
そんな中でオータムはポケット瓶のウィスキーを飲み干し、夏月も其れに突っ込みつつ『モンスターエナジー・パイプラインパンチ』を一気飲みしてエネルギーをチャージすると『騎龍・羅雪』を展開してキメラへと向かい、他の夏月組も夫々が『騎龍』を展開して夏月に続き、スコールとオータムとフォルテも専用機を展開して其れに続き、絶対天敵との最終決戦に向かうのだった。
因みに秋五組は夏月から『絶対天敵の本拠地に行って一戦交えた事で疲れてるだろうから休んどけ』と言われて、『メディカルマシーン』で回復中だったので、回復し次第参戦と言う事になるのだろう。
夏の月が進む世界 Episode85
『Absoluter Kampf zwischen Superman und Gott』
出撃した夏月組とスコールとオータムとフォルテだったが、キメラの周囲には進化した絶対天敵が集まっていた――其れは数えるのが面倒になるレベルであり、ドレだけ少なく見積もっても五~七百体は下らないだろう。
圧倒的すら超えた数の差と言うのは絶望でしかないのだが、其れはあくまでも基本的な能力が同等であればの話だ。
「随分と数だけは揃えたみたいだが、雑魚を何匹揃えたところで俺達に勝つ事は出来ねぇよ……其れとも、此れだけの雑魚を従えないと俺達と戦う事は出来ねぇって考えたのか?だとしたら何とも慎重な事で……いや、臆病って言うべきかコイツは?
まぁ、どっちにしても俺達のやる事は変わらないけどな!」
「そうね、やる事はただ一つ、敵を殲滅して此の戦いを終わらせる事よ。雑兵は私達が引き受けるわ……夏月君は親玉をお願い。」
「ラスボスにトドメを刺すのは主人公の役目。此れはどんなアニメやゲームでも絶対の法則。」
「OK!任されたぜ楯無!簪!!」
進化した絶対天敵は『地球防衛軍』でも簡単に勝てる相手ではないのだが、『騎龍』にとっては脅威足りえなかった――そもそもにして『騎龍』は束が此の未来を見越して作った機体であり、其のパイロット達は全員が『ISパイロットの国家代表』を凌駕しているのだから。
「よう、随分と大胆なイメチェンをしたもんだなDQNヒルデさんよぉ?
六対の翼に六本の腕、そんでもって純白の天使装束ってのは悪くない組み合わせだと思うんだが……銀髪、銀眉、銀眼ってのは幾らなんでも厨二過ぎるんじゃねぇのか?炎殺黒龍波並に属性てんこ盛り過ぎんだろ?」
「一夜か……パートナー達に私の子供達を任せてお前は私と直接戦いに来たか……まぁ、お前との直接対決は私も望むところであり、此れは予想していた事だ――寧ろお前とサシで戦う為に子供達を集めたのだからな。
此れまでの経験から、お前が敵の親玉と直接対決をして、パートナー達は其の露払いをする事が多いのは理解していたからな……だが其れは、逆に言えばお前が倒されたらチームは瓦解すると言う事を示している。
精神的支柱でありチームの要であるお前がいなくなれば、奴等も戦意を喪失するだろうからな。」
「楯無達は其処まで弱くねぇんだが……だからと言って俺は負ける心算は毛頭ねぇ。
臨海学校の時には死に掛けちまって皆を悲しませちまったからな……テメェの大事な人達を悲しませる事なんざ二度と御免だ――其れに同じ事はテメェにも言えんだろ?
テメェが絶対天敵の親玉だってんなら、テメェをぶち殺せばそれでゲームセットだからな。」
楯無達は無数の絶対天敵に向かい、夏月はキメラと対峙する。
夏月は夏月組のリーダーであり、キメラは絶対天敵の親玉と言う、『トップ戦力の直接対決』であり、此の戦いの結果が地球人類と絶対天敵の戦いの結果を決定付けると言っても良いだろう。
夏月は日本刀型の近接ブレード『心月』に左手を添えると少し前傾姿勢となって右手で心月を何時でも抜刀出来る構えを取り、キメラは六本の腕に刀を展開する。
「脇差型の追加装備があったと思うのだが、其れは如何した?よもや六刀に一刀で挑む心算か?……此方の手数はお前の六倍なのだぞ?」
「俺は二刀流も出来るんだが、二刀流はあくまでも『出来る』レベルでな、真骨頂は一刀流だ。
其れに剣術ってのは手数が多けりゃ良いってもんじゃねぇ……手数よりも大事なのは一太刀の質だ――手数で圧倒出来ると思ってんなら、お前は俺の敵じゃないぜDQNヒルデ。」
一刀の夏月と六刀のキメラでは、側から見ると腕が六本あるキメラの方が手数の面で有利に見えるのだが、剣術は手数では決まらないモノであり、劉韻から実戦剣術を学び、更識の仕事で其の剣術を実戦で昇華させてきた夏月ならば尚の事だ。
更識の仕事は少数精鋭で其れなりの規模の組織にカチコミを掛ける事も其れなりに多く、夏月は刀一本で複数の敵と戦う機会も少なくなかった事で一刀流のキレが増しており、一刀であっても複数の攻撃に対処する事が出来るようになっていたのだ。
「吠えるか……ならば超えて見せろ、神速の六刀流をな!」
「六刀流と六本腕の剣技は全く別だって事を教えてやるぜ……来いよ、人間を辞めちまったDQNヒルデさんよ!」
そして夏月が吼えると同時にオープンコンバットとなり、イグニッションブーストを発動して夏月が間合いを詰めて居合を繰り出すと、キメラは其れをギリギリで回避してカウンターの袈裟切りを繰り出すが、夏月は返す刀で其れを受け止め、逆手に持った鞘でカウンターのカウンターを繰り出す。
其の攻撃はキメラの六本もある腕によって対処されてしまったのだが、キメラにとっては鞘でのカウンターよりも夏月が居合を放った右腕でカウンター攻撃を受け止めた事に驚いていた。
居合は一撃必殺の剣技だが、其の一撃が外れた際には逆に放った側が一撃必殺の状況になり、其の隙をカバーする為の鞘での二撃目は予想出来るのだが、居合を放った右腕でカウンターに対処するのは不可能に近いからだ。
だが、夏月が放ったのは只の居合ではなく、逆手の居合だったのだ。
順手の居合ならば外した場合は大きな隙が生まれてしまうのだが、逆手の居合であれば即座に二撃目を放つ事が可能であり、更に其処から神速の逆手連続居合を放つ事も可能であり、夏月は其の逆手居合でキメラのカウンターを潰したのだ。
其処からは近距離での斬り合いとなったのだが、手数では圧倒的に劣っているにも関わらず、夏月は殆ど被弾する事なくキメラとの斬り合いを行っていたのだった。
「手数では私の方が圧倒的に有利な筈……其れなのになぜ押し切る事が出来ん……!」
「確かにテメェは腕が六本あるんだが、同時に動かす事が出来るのは二本だけなんだよ……だから俺としては二刀流を三人相手にしてるのと同じだ。
腕が六本あっても、テメェは人間だった頃の感覚が抜けてねぇから、六本の腕全てを同時に動かす事が出来てねぇ……マッタク六本腕を活かす事が出来てねぇんだよ。
所詮変則的な二刀流に過ぎないんじゃ俺には通じないぜ?俺は、秋姉との模擬戦で本物の六刀流を経験してるから尚の事な。」
キメラは六本の腕を有しているモノの、人間だった頃の感覚が抜け切っておらず、同時に動かす事が出来る腕は二本だけであり、変則的な二刀流程度では夏月の敵ではなく、アッサリと其れを見極められてしまっていた。
其の斬り合いの中で夏月がキメラの一刀を弾き飛ばし、キメラは其れをキャッチする為に僅かに仰け反る姿勢になったのだが、其れは夏月にとって好機だった。
「ベストポジション……シャイニングウィザードだぁぁぁぁぁ!!」
「ガバァァァァァァ!?」
僅かに仰け反ったキメラに膝蹴りを顔面に叩き込むプロレスの大技『シャイニングウィザード』をぶちかましてコメカミを蹴り抜くと、逆手の斬り下ろしでキメラの右腕を、そして逆手の斬り上げでキメラの左腕を全て斬り落とす。
六本腕全てが斬り落とされたとなればキメラとて窮地なのだが……
「腕を斬り落とされた程度、私には大した損害ではない……寧ろ斬り落とされた事で、同じ攻撃では斬り落とされない強さをもって再生するのだからな!」
斬り落とされた六本腕はすぐさま再生し、ただ再生するだけではなく金属質な外見となり防御力を強化した状態で再生された――此の事を踏まえるとキメラの身体に『致死のダメージ』にならない攻撃を喰らわせるのは悪手と言えるだろう。
キメラは生きている限り、ダメージを受ける事すら自己進化を行う事に繋がるのだから。
「なら本体をぶっ壊すだけだ。
腕や足は吹き飛んでも再生出来るとして、本体が消滅しちまったら流石に再生は出来ないだろうからな……精々足掻いて見せろよDQNヒルデ――足掻いたところでテメェの未来は変わらないけどよ。」
「私には死の概念が存在しない……真の不死……其れこそ細胞が一つでも残っていれば再生する事が出来るのだ――故に私を倒す事は出来ん!絶対にな!!」
「アホンダラ、勝負に『絶対』は存在しねぇんだよ……いや、此の戦いに関しては唯一の『絶対』が存在してるか……此の戦いの結果によって地球人類とお前達の未来が決まる、其れだけは絶対だぜ。」
そうして再度近距離での斬り合いが始まったのだが、腕を再生した際にキメラは六本腕が持つ武器を腕が斬り落とされる前とは変えて来ていた。
先程は六腕全てが日本刀を持っていたのだが、現在は日本刀、西洋剣、アックスソード、蛇腹剣、連刃刀、トンファーブレードの六種類の刀剣類を装備していた――武器の間合いは全て異なるので、手数の多さに間合いの多様性を組み込んで来たのだ。
日本刀の間合い、其れよりも狭い間合いと逆に広い間合い、あらゆる間合いに対応出来ると言うのは近距離戦では相当なアドバンテージになるのは間違いなく、此れも六本腕だから出来る事だと言えるだろう。
だが、夏月の武器は心月だけではない。
「近距離戦でも突然の射撃にはご注意下さいってな!」
右肩に搭載された電磁レールガン『龍鳴』を発射してキメラの動きを一瞬止めると、蹴りを放って強引に間合いを離してからビームアサルトライフル『龍哭』を超連射してキメラにビームの嵐を喰らわせる。
夏月は射撃が得意ではなく、細かい狙いを付けて正確に撃つ事は出来ないのだが、代わりに『連射力』に関しては凄まじいモノがあり、普通のハンドガンでマシンガン並みの連射が出来るのだ――無論、普通のハンドガンでそんな事をすればすぐに動作不良を起こしてしまい使い物にならなくなるので、此の『龍哭』も完成までには何度もトリガー回りの改修と強化が行われたのだが、其の度に束が『カッ君もう勘弁してよぉ』と泣きを入れた程に夏月の連射力は凄いのである。
細かい狙いを付けていないので致命的なダメージを与える事は難しいのだが、細かい狙いを付けずに連射している事から防御と回避は極めて困難となる一種の弾幕攻撃なのだ夏月の超連射は。
キメラからすれば近距離戦を行っていた中で突如の射撃だったので完全に虚を突かれ数発被弾してしまったのだが、すぐさま六腕にシールドを展開して全身を覆い、ダメージを最小限に止めていたのだった。
「この場合、『卑怯だ』と罵るのが正解なのか、それとも瞬時の戦術の変化を賞賛すべきなのか迷うが、此処は敢えて言わせて貰おう、『銃を持ち出すとは卑怯だ』とな。」
「敢えてって事は、其れが何の意味もない事は理解してんのなお前は……まぁ、ルールの定められた試合ならギリギリのグレーゾーンを『卑怯』と言うのもアリなんだが、ルール無用の戦場には卑怯なんて言葉は存在しねぇ。
戦場で生き残る事が出来るのは圧倒的な力を持った強者か、卑怯で狡猾な奴の二つに一つ……其れは即ち、強くて搦め手も使えるならそいつは戦場に於ける最強の存在だって事だ!」
しかし夏月の攻撃は龍哭の超連射だけでなく、右手で龍哭を超連射しながら左手でビームダガー『龍尖』を物凄い数投擲してキメラの周囲に配置して停滞させて『ダガーの結界』を完成させていた。
上下左右三六〇度に配置された無数の龍哭は其れこそ防御も回避も不能であり、キメラの実体シールドでは全ての龍尖のビームエッジを防御する事は不可能だろう――零落白夜をシールドに使ったとしても、零落白夜の発動にはキメラ自身の活動エネルギーを消費してしまうので、物量相手に使う事は出来ないのだ。
「見えてる事が逆に恐怖だろ?ってな!全身串刺しになっちまいな!!」
「防御も回避も不可能であると言うのならば叩き落すだけの事……むおぉぉぉぉぉぉ……だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだぁ!!!」
全ての龍尖を防ぎ切る事は出来ないと判断したキメラは六腕からシールドを消して六種類の刀剣類を装備すると其れ等の武器を使って龍尖を落として行ったのだが、圧倒的な物量の前には全てを叩き落す事は出来ず、叩き落せなかった龍尖は身体に突き刺さりビームエッジが肉を焼く……喰らうと同時に傷口を焼き固めてしまうビームエッジの攻撃は生身には脅威であり、傷口が焼き固められてしまったら再生は出来ないと言う事は以前に中国に現れた怪獣型の絶対天敵で明らかになっているので、龍尖をキメラの身体に突き刺す事が出来たのは戦果としては悪くないだろう。
「く……物量の前に少しばかり不覚を取ったが、此の程度は無駄無駄無駄ぁ!効かん!
傷口を焼き固められてしまっては再生出来ないのはあくまでも私の子供達、其れも巨大な怪獣型に限ってのモノ……私ならば、傷口を焼き固められようと、こうして再生する事は可能なのだ!」
だが、キメラは身体に突き刺さった龍尖を引っこ抜いて捨てると、龍尖が刺さった場所が瞬時に再生しより防御力が高い形状となっていた――のだが、単純に強化再生を行うだけでなく、龍尖を引き抜いた場所の一部では再生と同時に昆虫の足のようなモノや、甲殻類のハサミのようなモノと言った器官も体表に現れており、『神の如き姿』で現れたキメラは少しずつその鍍金が剥がれ始めていたのだった。
――――――
一方で強化された絶対天敵達と交戦状態となった楯無達は、苦戦とまでは行かずとも、『負けないが簡単に勝つ事は出来ない戦い』と言う状況となっていたのである。
戦力比で言えば絶対天敵の方が圧倒的に有利なのだが、質は楯無達の方が上なので数の差は然程問題にならないと考えていたのだが、戦いが始まってすぐに絶対天敵達は楯無とダリルを攻撃して二人を分断して来たのだ。
絶対天敵は高い学習能力を持っているだけでなく、仲間との記憶の共有も出来るので、絶対天敵達は夏月組を相手にする場合、最も警戒すべきは楯無とダリルによる氷と炎の対消滅攻撃である事を理解していた。
夏月の『次元斬』や鈴の『龍の結界』も脅威ではあるのだが、この二つは防御は可能なのだ――だがしかし、対消滅攻撃に関しては防御はおろか軽減する事すら不可能であり、放たれたら最後、回避出来なければ強制的にあの世行きと言う正真正銘の一撃必殺攻撃であるため、絶対天敵達は其れを封じる事を最優先にしたと言う訳だ。
「成程、オレと楯無を分断すれば確かにメドローアを使う事は出来ねぇから、こっちの最強攻撃を封じるって意味では悪くねぇ戦術だが……オレと楯無のメドローアを封じた程度で勝てると思ってんなら少しオレ達を甘く見過ぎだぜ?
なぁ、フォルテ!!」
「そうっすよダリル!氷と炎の属性攻撃は、元々アタシ等の『イージス』がISバトルじゃ本家本元なんすから!」
しかし楯無とダリルを分断した程度では止められないのが夏月組だ。
楯無との対消滅攻撃が出来ないと判断したダリルは恋人であるフォルテに声を掛け、嘗ては『学園最強コンビ』と謡われた『イージス』による氷と炎の対消滅攻撃を繰り出して絶対天敵を複数消し去って見せた。
ダリルの専用機が騎龍化した事で出力に大きな差が生まれてしまったので最近はコンビネーション攻撃を行っていなかったモノの、フォルテがギリシャ政府に対して『絶対天敵との戦いに必要になる』との理由で専用機『コールド・ブラッド』の出力アップを申請し、更に自身も鍛え直した事で楯無程でないが強力な氷属性の攻撃が行えるようになっていたのだ。
あまりにも出力に差がある場合、低い方の出力に合わせてしまうと威力其の物の低下に繋がるのだが、出力に差があれども其の差が小さければ低い方に合わせても其れなりの威力が期待出来るのだ。
「ナギ、合わせて。」
「了解!任せて簪!」
更に簪がグレネードで氷結弾を、ナギが同じくグレネードで此方は火炎弾を発射して軌道上で其れをぶつける事で中規模の対消滅攻撃を行っていた。
メドローアやイージスに比べれば威力は劣るのだが、その二つがマニュアル操作で夫々の属性攻撃の威力を合わせなければならないのに対し、グレネード弾ならば製造過程で全く同じ威力で作ってしまえば簡単に対消滅攻撃が可能なのである。
そして絶対天敵達にとって最も予想外だったのが――
「では、参りましょうか刀奈お嬢様……いえ、楯無様?」
「そんな堅苦しい言い方は止めて欲しいわ時雨さん……いえ、もう『お義母さん』でも良いのよね?間違ってはいないわよね?」
「其れはまぁ、間違ってはいませんが……」
楯無とスコールのコンビだった。
『学園最強』の楯無と、『亡国機業実働部隊モノクロームアバター隊長』のスコールのコンビは抜きん出た強さがあり、またスコールは『時雨』と名乗っていた更識のエージェントだった時代に幼い楯無に稽古をつけた事もあったので楯無の動きに完璧について行く事も出来ていたのだ。
そしてスコールはダリルの伯母であり、炎を操る力を持った『ミューゼル家』の一員であるので、楯無との対消滅攻撃『メドローア』を放つ事も可能となっていたのだ――尤も操れる炎の出力はスコールの方がダリルよりも上であり、最大火力では蒼い炎となるのだから相当だろう。
其の超高温の炎に対して、楯無も負けじと『絶対零度』に迫る冷気を発生させて其れを融合させたのだから其の破壊力は凄まじいの一言に尽き、此の一撃で三百体ほどの絶対天敵が文字通り『消滅』してしまった。
再生の力を持っている絶対天敵だが、存在其の物が跡形もなく消滅してしまったら流石に復活は出来ないだろう。
そして対消滅攻撃だけでなく、ヴィシュヌはムエタイでの近距離戦で戦いながらクラスター・ボウでの広域射撃を放ち、ロランはビームハルバート『轟龍』を振り回して荒々しく戦い、鈴と乱は龍砲からプラズマ弾を放って絶対天敵を焼き殺す。
ファニールは歌によるサポートを行いながらメテオクラッシャーで絶対天敵を叩き切り、静寐はトンファーブレードで、神楽はビーム薙刀で絶対天敵を斬り裂いて行き、グリフィンとオータムは……
「とっておきだよ!
オ~……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!徹底的にタコ殴り!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!殴る、殴れば、殴る時!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、ブラジル女はパンチが命!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、トドメの一発もう一丁!!ダッシャァァアァァァァ!!」
「オレのアシュラ六刀流を甘く見るんじゃないぜ……オレの六刀流を見極める事は出来ねぇよ、お前等みたいな下手物じゃな!!」
グリフィンはダイヤモンドナックルと本体の拳で絶対天敵をタコ殴りにしており、少し謎な事も言っていたが圧倒的なパンチラッシュで絶対天敵を粉砕し、オータムは六刀流剣技で絶対天敵を圧倒していた。
正に夏月組とフォルテ、スコール、オータムのチームは『無敵にして最強』のチームと言えるだろう――だがしかし、絶対天敵側もやられているだけではなく、戦闘不能となった個体が何カ所かに集まると、集まった絶対天敵が融合して巨大な『怪獣型』へと其の姿を変貌させて来たのだった。
巨大な怪獣型は其の巨体から放たれる攻撃が強力無比で一撃で高層ビルをも粉砕してしまうのだが、恐れるべきは其の圧倒的な攻撃よりも巨体に見合ったフィジカルを持っていると言う事だろう。
金属化した表皮にはミサイルすら効果がなく、更には活動エネルギーも充分に有しているので持久戦も効果がない難敵なのだが其れが合計で五体と言うのは些か厳しいモノがあるだろう――尤も、難敵であるだけで決して倒す事の出来ない相手ではないのだが。
「巨大合体はロマンだけれど、安易な巨大合体は危険よ?」
――【死亡フラグ】
其れを見た楯無は口元に怪しい笑みを浮かべると、其の笑みを毎度お馴染みの『謎扇子』で隠すと、同時に怪獣型の周囲には同じポーズの楯無が無数に姿を現していた。
突如として現れた無数の楯無に怪獣型が混乱した様子を見せたが其れも致し方ない事だろう――楯無の『騎龍・蒼空』の能力の一つである『ナノマシンで作り出した分身』は、『クリアパッション』、『沈む大地』と並ぶ、蒼空の三大初見殺しであり、初見で見破る事はほぼ不可能なのだ。
加えて此の分身、全てが異なる動きが出来る上に別々に言葉を発する事が出来るので大量展開されるとどれが本物の楯無なのかを見極めるのは初見でなくとも難しく、また分身全てが本物の楯無同様の戦いが出来るので、ドレが本物なのかを見極めようとしている間に圧倒的な力量差と物量に押し潰されてしまうのである。
其れだけでも可成り脅威なのだが、更に恐ろしいのは此の分身は武器に触れる分には問題ないのだが身体の何処かに触れた瞬間に自爆する『爆弾人形』としての機能も備えているので、此の分身が現れた時点でチェックメイトと言えるのだ――あまりにも極悪な能力なので、楯無も試合では封印、または自爆機能をオミットして使っているのだが。
「それじゃあ、全軍突撃ぃ♪」
「「「「「「「「「「逝ってきま~す♪」」」」」」」」」」(カギカッコ省略)
「『いってきますの字がオカシイ』と言うのは言うだけ野暮と言う奴かなこれは?」
そして無数の分身楯無は、楯無本人の号令で怪獣型に突撃すると触れると同時に大爆発!
分身楯無の爆発の威力は一体でも石油コンビナートの巨大な石油タンクが爆発したのと同等なのだが、其れが凄まじい数で発生したとなれば怪獣型の絶対天敵がドレだけ頑丈であってもタダでは済まないだろう――分身の自爆特攻は一体だけでも強力なのだが、其れが複数となったら分身全てが爆破消滅するまで連鎖爆発が続き、怪獣型に与えるダメージも飛躍的に大きくなるのである。
「た~まや~~……って言ってる場合じゃないけど、相変わらずすっごいわねぇ楯姐さんの『超極悪スーパーゴーストカミカゼアタック』……単発威力はドンだけあるのよアレ?」
「自爆系の技だからポケモンだったら200は下らないと思うよお姉ちゃん……威力上限が三桁なら999でカンストしてるかも知れないけど。」
「……キタねぇ花火だぜ。
敵を爆殺したら此のセリフは絶対に外せないと思う……王子は素晴らしいセリフを残してくれた……」
其の爆発は規模も凄まじく、此れが海上でなく地上で行われていたら其の場所は爆発の余波でありとあらゆる物が吹き飛んで更地となっていた事だろう。
そして其の様を見ながら怪しい笑みを浮かべている楯無は完全に悪役であった。
此の究極の自爆特攻攻撃を喰らった五体の怪獣型は文字通り木っ端微塵になり、辛うじて残った肉片も表面が完全に丸焦げのウェルダンになってしまっているので此れでは小型の絶対天敵として再生する事も出来ないだろう。
其れ等の肉片は全て海へと落ちたのだが、此処で絶対天敵にとっては嬉しい誤算が発生した――表面が焼け焦げていようとも肉片は肉片である事に変わりはないのだが、其れでも光の届く水深の生物は見向きもせずに深海まで沈んだ事が幸運だった。
食べ物の乏しい深海に於いては表面が焼け焦げていようとも此の肉片が貴重な食糧である事に変わりはなく、ダイオウグソクムシやクサウオ等の深海生物が其れに群がり、更に其れを食料とする大型の深海生物が肉片を食したダイオウグソクムシやクサウオを捕食し、そして其れを今度は最大の深海生物であるダイオウイカが捕食するだけでなく、更には絶滅したとされる生物まで現れて手当たり次第に獲物を食い散らかしたのだ――此れにより食された肉片は其の捕食者の身体を乗っ取って新たな絶対天敵となったのだ。
――ザバァァァァァァァ!!!
水柱と共に海上に現れた新たな絶対天敵は硬い殻に覆われたダイオウグソクムシ型、ゼラチン質の身体で物理攻撃のダメージを無効にしてしまうブロブフィッシュ型、超巨大なダイオウイカ型、そして其れよりも更に巨大な太古の肉食ザメを模したメガロドン型だった――全てエラ呼吸の水棲生物だが、其処は此れまで絶対天敵が取り込んだ生物の肺呼吸機能が備わっている事で海の外でも活動が可能なのだ。
「此処で新型が登場するとは、進化と言う一点に於いては絶対天敵は現存する地球の生物を遥かに凌駕しているのは間違いないだろうね……地球上のあらゆる種が何万年、何億年とかけて行って来た進化を此の短時間で行ってしまうのだから。
だがしかし、其の進化はその場しのぎのモノでしかない……そんな単純な進化では私達を倒す事は出来ないと知ると良いさ!」
だとしても恐れる事はない……新たな敵と言うモノは其れだけで厄介で脅威なのだが、そもそもにして絶対天敵と言う存在自体が謎に満ちた未知数の存在であるので、新たな進化に驚くと言う事も無かった。
物理攻撃に対して高い防御力を有する硬い外殻を持ったダイオウグソクムシ型と、物理的衝撃を全て吸収してしまうゼリーボディ持ちのブロブフィッシュ型は厄介ではあるが、物理攻撃がダメならエネルギー攻撃で突破するだけなので問題はないだろう。
警戒すべきはダイオウイカ型とメガロドン型だ。
ダイオウイカ型の十本の足と、其の中でも特に伸びる二本の触腕は脅威であり、捉えられたら足の吸盤が吸着する事で逃れるのは略不可能な上、ダイオウイカの脚の締め付ける力は鉄製のドラム缶を一発でスクラップにしてしまうのでISを纏っていたとしても絶対防御が発動してシールドエネルギーがガリガリ削られる事になり、メガロドン型に関しては単純に喰われたらゲームオーバー――メガロドンが目一杯口を開いた場合、身長170㎝の人間を縦にした状態で丸呑みに出来るので、其の大口に呑み込まれたらほぼ即死だ……丸呑みにされたなら胃袋内で暴れまわる事も出来るだろうが、メガロドンは肉食のサメなので獲物はノコギリのような細かいギザギザが付いた鋭い牙で何度も噛みつかれたら此方もあっと言う間にシールドエネルギーが尽きていまうだろう。
だがしかし、そうであるならばそもそも攻撃を喰らわなければ良いだけの話であり、百戦錬磨の夏月組とスコールとオータムとフォルテにとっては然程脅威ではなかった。
「回復したから来てみたら、なんか新型が出て来たみたいだね……此れは、若しかして結構いいタイミングで僕達ってやってきた感じだったりしますか会長さん?」
「最高のタイミングよ織斑君……中々美味しいタイミングで来てくれたじゃない……其れじゃあ役者も揃った事だし、露払いの最終章を始めましょうか!」
更に此のタイミングでメディカルマシーンでの回復を終えた秋五組とマドカ、ナツキが合流して最終決戦の舞台に遂に全戦力が集ったのだった。
そして秋五組+αが合流した事で使える手札が大幅に増えた事で戦局は新型の絶対天敵を相手にしても不利にはならず、寧ろ指揮官たる楯無が自らも戦いながら仲間達に的確な指示を飛ばして状況を有利に動かしていた。
だが、絶対天敵側も世界中に散らばっている仲間達に絶対天敵同士でしか分からない信号で援軍を要請し、次から次へと此の戦場に新たな絶対天敵が現れて来ていた――其の影響で、世界各国での絶対天敵の攻撃の手は少しだけ緩む事になったのだが。
「次から次へとキリがないわ……だったら!!」
数を増やした絶対天敵に対してセシリアはBT兵装の十字砲布陣を一時的に解除すると、自身の周囲にBT兵装を配置すると、其れを見た簪とナギとナツキもマルチロックオンを使って複数の絶対天敵をロックオンし、次の瞬間に三人の専用機に搭載されている遠距離武器全てが解放された『フルバースト』が放たれ絶対天敵を葬って行く。
其の中でも簪の『絶対殺す弾幕フルバースト』は無数の小型ミサイルに高出力ビーム、グレネードの特殊弾乱射と言うモノであり、特にグレネードの特殊弾乱射は、『氷結弾』、『火炎弾』、『硫酸弾』と言った実用的なモノから、『対B・O・Wガス弾』、『超粘着トリモチ弾』、『ぬるぬるスライム弾』と言ったネタ的なモノまで揃っており、其れ等が絶妙にかみ合って高い効果を発揮していた――中でもスライムを凍結させるのは抜群の効果があり、絶対天敵の動きを完全に止めてしまう事に成功していたのだ。
完全に動きが止まってしまえば其れは只の的でしかなく、他のメンバーによって即座に塵と化されたのだから。
「さてと、其れじゃあそろそろフィニッシュと行きましょうかダリルちゃん?」
「おうよ!ぶちかましてやろうぜ楯無!」
「其れでは、お二人と比べれば至らぬ身ではありますが全力の支援をさせて頂きます。」
状況は圧倒的に自分達に優位と見た楯無は、『此処が決め所』と判断してダリルと共に最強の対消滅攻撃の準備に入ったのだが、今回は其処に箒が加わり、赤龍の『絢爛武闘・静』によるシールドエネルギー回復能力を使って二人の機体エネルギーを増幅させて氷と炎の威力を底上げしていた。
単発の威力ならばスコールとの対消滅攻撃の方が上なのだが、ダリルとの方が使用回数が多く慣れている上に合わせやすいので今回楯無はダリルをフィニッシュパートナーに選んだのである。
「「Woo~~……Ah~~~~~~!!!」」
だけでなく、コメット姉妹が『ソング・オブ・ウラヌス』で攻撃力の底上げを行っていた――単体でも十分な効果があるのだが、コメット姉妹が揃って使用した際には効果は加算ではなく乗算されるので、其の上昇値は計り知れないだろう……其の証拠に、限界まで高められた対消滅攻撃のエネルギーの周囲には飽和状態となったエネルギーが火花放電を放っていたのだから。
「一撃必殺……!」
「全力全壊……!」
「「ファイナル・メドローア!!」」
極限まで威力を高めた上で放たれた究極の対消滅攻撃は射線上に存在しているモノだけではなく、その周囲十数メートル内に存在しているモノも巻き込んで消滅させて行く。
対消滅攻撃は威力に比例して攻撃範囲が大きくなるので、其れだけでも充分過ぎるほどに脅威ではあるのだが、最も恐るべきは防御不能、無傷での回避不能、対消滅攻撃によるダメージは完全回復不能と言う事だろう。
対消滅の力は仮にダイヤモンドやオリハルコンのシールドや鎧であっても問答無用で消滅させてしまうので防御は意味がなく、回避した場合でも対消滅攻撃はその余波にも充分な威力がある上に、対消滅攻撃から完全に逃れるには一瞬で100m以上を移動する必要があるので無傷回避は略不可能であり、対消滅攻撃をダメージを受けながらも何とか直撃を回避したとしてもダメージを受けた場所は対消滅の力で抉られてしまった事で細胞が再生能力を失ってしまい抉られた状態のままで其処にギリギリで皮膚が再生されるにとどまるのだ――直撃すれば消滅、直撃せずとも戦闘不能は免れないのだ対消滅攻撃は。
そして此の極大の対消滅が放たれるより少し前、夏月とキメラの戦いはと言うと――
「如何したDQNヒルデ?
パワーアップして現れたと思ったんだが、外見だけは強くなったように見えて中身は其処まででもなかったってか?
……お前は神になった心算だったのかも知れないが、神になろうとした奴の末路ってのは大概の場合人間に倒されるって相場が決まってんだ、神を気取った時点でお前の負けだったんだよ。」
「果たしてそうかな?
今この時も私は現在進行形で進化を続けているのだ……神をも超えた存在、『超神』とも言うべき存在にまで進化するのもソロソロかもしれんぞ?」
「強がりも此処まで来ると感心するが、此のままじゃ進化する前にぶっ倒されてお終いだぜ?喰らえ、帝王直伝、カイザーニークラァァッシュ!!」
「ぐ……六本腕のガードをもこじ開ける膝蹴りとは……!」
其れは夏月が圧倒していた。
無論夏月もノーダメージではなくシールドエネルギーは僅かばかり減少しているのだが、其れに比べるとキメラの方は相当に攻撃を喰らっていた――ダメージを受けても即座に回復出来るキメラなのだが、何度もダメージを受けて即時回復を行い続けた結果、六本の腕は人間の腕から表面を鱗が覆った爬虫類のような腕に変わり、六枚の翼は純白の天使の翼からコウモリや昆虫の羽に変わり、身体の彼方此方に巨大な目玉や蟲や軟体生物の足が生えており、其の姿は現れた時のような神のようなモノではなく、醜悪で邪悪な存在に成り下がっていた。
進化を遂げたキメラは決して弱くなく、各国の『地球防衛軍』では対応し切れないレベルの戦闘力を有しているのだが、夏月が相手だったのが運の尽きだったと言えるだろう。
夏月は『織斑計画のイリーガル』である『大器晩成型』なのだが、更識の家にやって来てから凄まじいレベルアップを遂げ、現在では楯無以外には負けない程の実力を有しており、更に夏月の専用機である『騎龍・羅雪』には『本物の織斑千冬の人格』が存在している事がキメラを圧倒できた要因だった。
キメラの人格は織斑千冬の代替人格と融合した白騎士のコア人格に宇宙生物の意志が融合したモノなのだが、宇宙生物の意思以外の二つの人格を知っている羅雪にとってはキメラの攻撃と防御、回避の特徴を把握する事は容易であり、常に最適解を示し続けた事で夏月は最小限の被弾で最大のダメージをキメラに与える事が出来ていたのだ――夏月一人でも負けはしなかっただろうが、羅雪のサポートのおかげでより良い状態での戦闘が行えたとも言えるだろう。
「時によぉ、今は俺とこうしてバチバチにバトってる訳なんだが、お前の相手は別に俺一人だって決まってる訳じゃないってのは理解してるか?」
「お前だけではない?
お前の仲間達は私の子供達と戦っているから此方に来る余裕はない筈だ……なんだ、どこかに伏兵でも配置していたか?それとも私を惑わす為のブラフか?……一体何処にお前以外に私の相手が居ると言うんだ!!」
「……此処に居るよ。
僕の事を、実の弟の存在を忘れてしまうだなんて少しばかり薄情過ぎないかな姉さん?」
「!!?」
更に此処で秋五が参戦し、キメラを背後から強襲して六枚の翼を切り落とす……其れも即座に再生されてしまったのだが。
絶対天敵との戦いを箒達に任せた秋五はキメラと戦う為に此処にやって来たのだが、キメラに対して『姉さん』と呼びかけると言うのはなんとも皮肉が効いていると言えるだろう……嘗て姉であった存在は、今や人間ではなくなって地球人類の共通の敵となっており、秋五自身も『千冬・偽』を姉とは思っていなかったのだから。
「待ってたぜ秋五。
俺一人でぶっ倒しちまっても良かったんだけど、やっぱこいつにはお前も一発ぶちかましておくべきだと思って、お前が来るまでトドメ刺さないようにしてたんだわ……だけど此れでやっとぶっ倒せるぜ。」
「そんなこと気にせずに倒しちゃっても良かったんだけど……僕の為に取っておいてくれたって言うのなら其れは有り難く受け取らせて貰うよ。」
そして此の秋五の参戦はキメラにとっては絶望的な状況だった。
夏月一人でも苦戦を強いられていたところに、夏月には劣るとは言え実力的には『現役時代の織斑千冬』を超えている秋五が加わると言うのは旗色が悪いどころの話ではないのだ。
秋五の剣は正統的な剣術による剣技であり、良くも悪くも正統派なので太刀筋を見切る事は難しくないのだが、徹底的に鍛えられた正統派の剣技は見切る事は出来ても対処する事が出来るかと言われれば其れは否――鍛え抜かれた正統派の剣技は太刀筋を見切られても対処し切れるモノではないのである。
見切れても対処し切れない秋五の正統派の剣に対し、夏月が使うのは『実戦の中で鍛え抜かれた剣』であり、型の無い実戦剣技は正に『何でもアリ』なので見切れない上に対処も難しい――正統派の秋五と、実戦派の夏月、マッタク異なる二人の剣のコンビネーションにキメラは防戦一方となってしまった。
夏月の逆手の連続居合による神速の斬撃と、秋五の両手持ちの剣技による力の斬撃の連携にはカウンターを行う事も出来ず、防御に徹するしかなかったのだが、其の防御すら夏月と秋五は越えて来た。
「夏月!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夏月と秋五はキメラを挟み撃ちにすると、右ストレート→左ボディブロー→右アッパー→右百裂脚→蹴り上げ→袈裟切り→払い切り→逆袈裟二連斬の連続技を喰らわせると、夏月は逆手の連続居合、秋五は連続突きを繰り出す。
普通の生物なら細切れになって絶命している攻撃だが、キメラには圧倒的な再生能力がある為に絶命せずにすぐさま再生しているのだが、再生する度に再生した場所は醜悪でグロテスクな見た目となり、其れはまるで『神の如き姿』と言う鍍金が夏月と秋五によって剥がされているかのようだった。
「ぐ……調子に乗るなよ貴様等ぁぁぁぁ!!!」
其れに対してキメラは再生した場所から生えた蟲の足やイカの触腕を伸ばして攻撃して来たのだが、夏月は其れを鞘で叩き返し、秋五は自機のワンオフアビリティである『明鏡止水』を発動して完璧に回避する――まだ明鏡止水を完全には使う事が出来ない秋五だが、其処は雪桜のコア人格がサポートをして略パーフェクトな状態で使う事が出来るようになっていたのだ。
「悪足掻きは見苦しいぜ?
悪の親玉なら悪の親玉らしくやられる時は覚悟を決めて大人しく往生しやがれ!此れで、終わりだぁぁぁぁ!!」
「精々地獄で一夏に詫びると良いよ……或いは地獄の鬼と喧嘩を繰り返した果てに獄卒になった一夏から地獄の責め苦を受けるのもアリかもね。」
キメラの反撃に対処した夏月と秋五はキメラに肉薄すると其のままイグニッションブーストを発動して超高速の飛び蹴りを叩き込んでキメラを吹き飛ばす。
交通事故級の飛び蹴りも、キメラには決定打にはならないのだが、夏月と秋五の狙いは別にあった――そう、キメラが蹴り飛ばされた先は究極の対消滅攻撃の射線上だったのだ。
「まさか、此処まで狙いだったのか……!」
回避は不可能と判断したキメラは零落白夜のシールドを展開して対消滅攻撃を防御しようとするも、対消滅攻撃のエネルギーは、『エネルギーを強制的にゼロにする零落白夜』の力をもってしてもゼロには出来ず、しかも今回の対消滅攻撃は極限まで威力を高めているのでそもそもにして零落白夜のシールドでも受け切れるモノではなかった。
「うぐ……こんな……こんなバカな……だが、此のままでは終わらんぞ……!!」
究極の対消滅攻撃はキメラをも呑み込み、其のまま成層圏を突破して宇宙に放たれ、射線上に存在していた小惑星群や宇宙ゴミを消し去り、序に地球に迫っていた隕石も消滅させたのだった。
ともあれ、此の攻撃でキメラは消滅してしまったのだが――
「此れで終わった……のかな?」
「いや……未だ終わりじゃないみたいだぜ?」
此の最終決戦の海域には世界各国に現れていた絶対天敵達が集って来ていたと同時に、其れはキメラが完全に消滅した訳ではないと言う事を示していた――絶対天敵の親玉であるキメラが完全に消滅してしまったら、そもそも絶対天敵は活動する事が出来なくなってしまうのだから。
絶対天敵がこうして活動していると言う事は、キメラは完全消滅せずに生き残り、生き残った欠片は海に落ち、其の欠片が世界中の絶対天敵を此の場に集めたのだろう。
そして集まった絶対天敵は其の全てが海に飛び込んで行ったのだった――
To Be Continued 
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