リアルタイムで人間に擬態した絶対天敵を見破れる事が出来るようになったと言う事で日本だけでなく世界各国で絶対天敵の一斉排除が様々な場所で行われていた。
其のメインとなったのは大型のイベント会場であり、突然の武力の介入に会場は騒然となったのだが、其処は『この中に絶対天敵が紛れ込んでいる』と言う事を明らかにする事で逆に混乱を巻き起こす事なく絶対天敵の駆除を行っていった。
各国とも小型カメラ搭載の眼鏡型モニターを開発する事に成功しており、其のモニターを使って絶対天敵の存在を見抜くと、イベント会場に入った車輛を移動して絶対天敵を隔離した上で一般人を避難させ、其処で『地球防衛軍』の兵士が絶対天敵を的確に処理していた。
其れは世界各国で行われていた事であり、日本でも四十七都道府県で同じ事が行われていたのだが、茨城県の大洗町では更に凄い事になっていた。
「絶対天敵、纏めてやっつけます!」
「了解であります!」
其処で絶対天敵を攻撃していたのは地球防衛軍の『ドラグーン』、『ワイバーン』、『ドレイク』だけではなくなんと戦車だった。
此の大洗町は『戦車と女の子が登場するアニメ』の舞台となっており、町もアニメのブームで所謂『聖地巡礼者』が多く訪れるなど、『アニメで町興し』に成功した場所なのだが、関連イベントには必ずと言って良いほどレプリカの戦車が登場していた。
だがしかし、本日に限っては自衛隊が本物の戦車を持って来ており、絶対天敵相手に『リアル戦車道』を展開していたのだ――無論、普通の戦車では絶対天敵に効果は無いのだが、此の戦車を操っているのは地球防衛軍とは異なる自衛隊のIS部隊の女性自衛官であり、自身が使っているIS『ラファールリヴァイブ』を部分展開して戦車と接続する事で、疑似的に戦車をISの武装としていたのだ。
通常兵器では効果がなくともISの武装であれば絶対天敵に有効となるので戦車砲の破壊力は頼もしいモノであり、ISと接続している事で戦車もシールドエネルギーで護られており元々の分厚い装甲と相まって凄まじい防御力を発揮していた――擬態を解いてカマキリの姿になった絶対天敵の大鎌の一撃にすら耐えたのだから。
「こんな怪物を相手にした場合、戦車はやられ兵器って言われてますけど、此の戦場で其の汚名を返上して陸上自衛隊最新の一〇式戦車の性能を見せつけてやりましょう!」
「やりましょう、西住殿!」
「誰が西住殿か!」
「すみません、ついノリで♪」
まさかの戦車をISの装備とすると言うぶっ飛んだ方法だったが、此れが意外にも有効であった事から、航空自衛隊ではブルーインパルスをISと無線接続する事で空戦型の絶対天敵との交戦を可能にしており、海上自衛隊はイージス艦をISと接続する事で海に現れた絶対天敵を処理していた。
とは言え、自衛隊が保有するISは地球防衛軍の機体を含めても絶対数に限りがあるので日本全国全てをカバーするのは不可能なのは明白なのだが、自衛隊の手が届かない部分に関しては『更識と繋がっている極道』が出張ってくれていた。
関東は『羽毛組』、『狂獄組』、『虎王組』が夫々協力して事に当たっていたのだが、更識と繋がっている極道組織は実は全国に存在しており、関西地方は『天功侍組』、『京和組』、『神山組』が、九州・四国・沖縄地方は『西角組』、『朝生組』、『八生組』が、東北地方は『我妻組』、『阿室組』、『遠野組』が、北海道は『真応組』、『風吹組』、『白銀組』があり、夫々の地で絶対天敵の対応に当たっていたのだった。
「どうも絶対天敵の皆さん、天功侍組の十束淳弥と言います……せめて名前だけでも覚えて地獄に行って下さい。」
「アニキ、此の化け物相手に人間の言葉は通じへんと思いますよ!?」
「んな事は分かっとる……せやけど、相手が人間だろうと化け物だろうと初対面の相手に自分の名を名乗らないのは失礼極まりないやろ?相手が人間やないからって礼儀を欠いたらアカンで?
何よりも、此れから殺す相手に名を名乗るっちゅーのは、殺す相手への最大の礼儀であり敬意を払うって事や……名前も知らん相手に殺されたっちゅーのは殺された相手にとっても悔しいもんやからな……殺す相手には必ず名乗れ、此れは絶対やで?覚えとき。」
「アニキ……深い言葉、おおきに!」
こうして人間に擬態した絶対天敵は世界規模で駆逐されて行ったのだが、其れに合わせるように通常の絶対天敵も戦場に現れた事で、世界各国で絶対天敵との正面衝突が起こったのだが、其処に現れた絶対天敵は『地球防衛軍』+αで対応出来るモノだったので、『龍の騎士団』には出撃要請は出ていなかったのだが、現状で絶対天敵に対しての最強の対抗力である龍の騎士団は、IS学園の地下にある作戦司令室に集められていた。
其処には学園長である轡木十蔵と龍の騎士団の司令官である真耶だけでなく、束の姿もあった――十蔵と真耶だけならば単純に『新たな任務』なのかと思ったのだが、其処に束の姿があれば其の限りではないだろう。
故に龍の騎士団の面々は緊張した面持ちだったのだが、其処で束が投下したのは地球人類と絶対天敵との戦いの結末を左右する重大なモノだったのである――其れこそ、其れは此の地球規模の戦いに終止符を打つ事が出来ると言って間違いないモノだった。
夏の月が進む世界 Episode84
『絶対天敵との最終決戦の準備運動だ!』
先ず束が開示したのは、『白騎士のコア反応を遮断していたのは天然の水晶だった』と言う情報であり、次いで『現在の地球で天然の水晶が存在している場所』が提示され、更には『キメラの反応が途絶えた場所』も示されていた。
これ等の情報を統合して考えた末に、絶対天敵の親玉であるキメラが存在する絶対天敵の本拠地は、『太平洋の深海洞窟から続いた地下空間』であると言う事も明らかになっていた。
「束さん、此処にアイツが居るのか?」
「ほぼ間違いなく此処にアイツは居る。
そして絶対天敵の親玉はアイツだから、アイツを討てば絶対天敵は沈黙するのは間違いないんだけど……問題は其処に行けるのは『騎龍』だけだって事なんだよね。
絶対天敵の本拠地は明らかになったんだけど、その入り口は10000mの深海にあるんだよ……其れほどの深海の水圧となると通常のISや束さんが作った『軍艦』でも耐える事は出来なくて、計算上で耐えらえるのは『騎龍』だけなんだ。」
絶対天敵の本拠地が明らかにはなったのだが、其処には騎龍でなければ到達出来ないと言う事も明らかになっていた。
単騎で成層圏突破と成層圏突入能力を持つISだが、深海の水圧は大気圏突破&大気圏突入時に掛かるGを遥かに上回っており、深海5000mの水圧で鉄球がぺしゃんこになってしまうのだ……通常のISでは其の水圧に耐える為にシールドエネルギーを消費し続けてしまうため、絶対天敵の本拠地の入り口に辿り着けず、束お手製の『軍艦シリーズ』でも水圧に耐える事は出来ないと来ていた。
唯一其処に辿り着く事が出来るのは束が最初から『兵器』として開発した『ISを超えるIS』である『騎龍シリーズ』のみとなれば、必然的に其処に向かうのは夏月組か秋五組の何方かになるのは明白だ。
「そう言う事なら、僕達が行くよ束さん。」
此処で絶対天敵の本拠地に向かう事に志願したのは秋五だった。
夏月組同様、秋五組も全員が『騎龍』を己の専用機として所持しているので絶対天敵の本拠地の入り口である深海洞窟まで到達する事は可能であり、夏月組と比べれは実力が劣るとは言え、秋五組の実力は騎龍の性能と相まって『表の力』では最強クラスなので絶対天敵の本拠地に突入する部隊としては充分なモノであった。
「しゅー君、なんでかな?」
「簡単な事だよ束さん。
僕達は自分の力に自信は持ってるけど、だけど夏月達と比べれば圧倒的に弱いと言わざるを得ない……でも、だからこそ僕達は絶対天敵の本拠地に向かうべきなんだ。
僕達が絶対天敵の本拠地に向かって夏月達には地上で待機してもらう……僕達よりも強い夏月達が地上に残る事で、僕達が絶対天敵の親玉を討ち損じてしまった場合に対処する事が出来るからね。
勿論、僕達だってむざむざやられる心算はないけど、敵の親玉と遣り合うなら確実に勝つためには万が一を考えて二段構えで事に当たった方が良いと思うんだ……僕達で討てればそれでよし。僕達でダメだったら夏月達が居る……より強力な戦力は最後まで取っておくべきだと思うんだ。」
自分達と夏月達の実力差を考えた末に秋五は本拠地の突入に志願したのだ――そして其れは秋五だけでなく秋五の嫁ズも同様だった。
夏月組が亡国機業の一員として学園を襲撃した際にロランから『秋五の為に其の手を血に染める事が出来るか?』と聞かれた時には即答出来なかったが、夏月組との訓練で地獄を見た今では其の覚悟も決まっており、同時に『秋五と運命を共にする覚悟』も決めていたのである――其の瞳に宿る光は強く真っ直ぐだ。
「お前の言う事は正論だがな秋五、其れなら俺達が乗り込んでDQNヒルデの成れの果てをブチ殺しに行った方が早くないか?
こう言っちゃなんだがな、『対象を殺す事』に関してはお前達よりも俺達の方が圧倒的に慣れてるし経験も豊富だ……其れを踏まえると、俺達が乗り込んだ方が確実なんじゃないか?」
「うん、君の言う事も一理あるよ夏月。
だけど、騎龍シリーズは深海の水圧に耐える事は出来るけど、だけど耐える事が出来ると言うのは万全の状態で其処に辿り着けるって言う意味じゃないんだ。
恐らくだけど、騎龍シリーズは深海の水圧に耐える事は出来るけど、其れは通常のISではシールドエネルギーが枯渇してしまうけれど騎龍シリーズならシールドエネルギーを残した状態で辿り着く事が出来るって事だと思う……そうじゃないかな束さん?だからこそ、僕達が行くべきなんだ。」
「ん~~……まぁ、当たらずとも遠からずかな?
確かに騎龍シリーズは深海の水圧を受けても通常のISよりもシールドエネルギーの消費が五十分の一だから、騎龍シリーズなら入り口に到達した時点でもシールドエネルギーは半分以上残ってるんだけどね……だけど、しゅー君の方には箒ちゃんが居るから消費したシールドエネルギーを全快出来るからアイツとも万全の状態で戦う事が出来る――まぁ、理に適ってはいるね。」
秋五組が突入するメリットは、箒の『赤雷』の『絢爛武闘・静』によるISバトルでは反則ギリギリの回復能力があった――シールドエネルギーの回復だけならば夏月組もロランが行えるが、ロランの『銀雷』のワン・オフ・アビリティ『アークフェニックス』が『シールドエネルギーの最大値の50%を回復する』のに対して『絢爛武闘・静』はシールドエネルギーを全回復した上で機体の破損をも修復してしまうと言う『整備士涙目』の効果であるので、絶対天敵の本拠地に突入するまでにシールドエネルギーを消費してしまう事を考えると、此の絶対回復能力を持っている箒が居る秋五組が本拠地に突入するのが最もベターであると言えるだろう。
「篠ノ之の回復を頼りに戦って、其れでもダメだった場合は俺達にって事か……だが秋五、絶対天敵の親玉は中身は変わっちまったとは言えガワはお前の姉だった存在だ――其れを斬れるか?
俺達が学園を襲撃した時は、お前もブチ切れてアイツに刃を向けたが、平常心を保った状態でアイツに刃を向ける事が出来るか?」
「其れは愚問だよ夏月……姉さんの本当の人格は君の機体のコア人格となっていて、姉さんだったモノは今や地球人類にとって己の平穏を脅かす存在でしかないからね、そんな存在を斬る事に躊躇いはないさ。」
「そうかい、其れを聞いて安心したぜ秋五……なら、アイツと相対した其の時は遠慮はいらねぇ、その首を斬り落としてやれ――お前に首を刎ねられるならアイツも本望だろうからな。」
「無論其の心算さ……だけど僕達がダメだったその時は頼んだよ夏月……!」
「そうなった時は任せとけ……アイツの事は細胞の欠片も残さずにぶち殺してやるからよ――まぁ、お前達が失敗した其の時は、俺達がケツを拭いてやるから後悔しないように思い切りやって来い!
其れこそ、全力全壊でな!」
「うん、了解だ!」
秋五の思いを聞いた夏月は『思い切りやって来い』とだけ言うと右腕を掲げ、其処に秋五がハイタッチをし、続いて左手でハイタッチを交わし、左右の拳を合わせた後に互いにサムズアップした状態で拳を合わせて頭上に掲げてから一気に振り下ろす。
傍から見れば意味不明な行動に見えるが、此れだけの事で夏月は『生きて帰ってこい』と言う意思を伝え、秋五も『失敗しても死ぬ気は無い』と言う意思を伝えていたのだ――そして、其れで充分だった。
「死ぬんじゃないわよオニール……私はソロ活動する気はサラサラ無いんだから。」
「うん、分かってるよファニール。必ず生きて帰って来るから。」
コメット姉妹も抱擁を交わしており、そして其れが済んだ後に秋五組は学園島から絶対天敵の本拠地に向かう――と言う事はなく、絶対天敵の本拠地の地下洞窟への入り口のある海域まで『アボカドマグロユッケ軍艦』でやって来ると騎龍を展開して一気に海へと飛び込んで行った。
10000mの深海となると有人の潜水艦が訪れた事はなく、無人の潜水艦が訪れただけなので、秋五組が人類で初めて10000mの深海に有人潜水を行った事になる訳で、秋五達は目的地に辿り着くまでに見た事も無い海洋生物と遭遇しており、其の姿をカメラに収めていたので、其のカメラが記録した画像には新種の生物が写り込んでいる可能性も否定は出来ないだろう。
「此処か……」
其れは其れとして、海に突入してから約三十分後、秋五組は絶対天敵の本拠地への入り口である海底洞窟の入り口にやって来ていた。
入り口から中に入ると、10mほど浮上したところで海水は無くなって地下洞窟となっていた……海から上がったところで箒の『絢爛武闘・静』でシールドエネルギーを全回復してから此の地下洞窟を秋五組は進んで行った。
其の途中で絶対天敵の迎撃を受けはしたが、夏月組との地獄の特訓を生き延びた秋五組は其れに完璧に対処して迎撃部隊を逆に返り討ちにしてしまっていたのだった。
そうして遂に本拠地の心臓部に辿り着いたのだが……
「此れは……繭?」
其処に存在していたのは巨大な『繭』だった。
此の繭は元々は絶対天敵の躯から作られたモノだったのだが、キメラを中に取り込んでからは其の防御力を大幅に増強し、秋五達が此の場に辿り着いた時には『鋼鉄の繭』とも言うべき状態になっていた。
表面は金属質な光沢を放ちながらも一定の間隔で脈を打っている様は異様であり、同時に此の繭が絶対天敵にとって重要なモノであるとも直感的に理解していた――何故ならば其の繭を護る様に『サイボーグカマキリ型』の絶対天敵と『サイボーグ蜘蛛人間型』の絶対天敵が存在してたからだ。
「コイツ等は、あの繭らしき存在を護る衛兵か?……今の私達ならば負ける事はない相手だが、其れよりも絶対天敵の親玉は何処に居る?
此の場所が絶対天敵の本拠地であると言うのならば其の姿がある筈なのだが……よもや、此の衛兵に擬態して紛れ込んでいると言う事もあるまい?」
「絶対天敵の親玉、キメラは多分だけどあの繭の中に居る。
だからコイツ等は繭を護ろうとしてるんだ……そして此れは僕の予想だけど多分合ってる……キメラはあの繭の中で自己強化の為に進化してるんじゃないかと思うよ箒。」
「成程……と言う事はつまりアレは『進化の繭』と言う事だな!ならば進化が完了する前に繭を破壊しなければならないぞ秋五!……其れでも『人類を滅ぼすには充分なパワーを持ったキメラ』が誕生してしまうかもしれないが。」
「ラウラ……そう言えば最近電子コミックで遊戯王読み漁ってたっけ。」
更に此の場にキメラが存在していない事から、秋五はキメラが繭の中で強化進化を行っていると推測し、其れを聞いた秋五組のメンバーは夫々が武器を構えて繭を護る衛兵達と対峙する。
と同時にセシリアがスターライトmkIⅦから最大出力のレーザーを放ち、其れが合図となってオープンコンバット!
数で言えば絶対天敵の衛兵の方が上であり、戦力差は大体1:3.5と言ったところなのだが、秋五組にとって数の差は不利になり得なかった――其れは偏にセシリアの存在が大きいだろう。
騎龍化した事でセシリアの機体のBT兵装は十機にまで増えているだけでなく、二機のミサイルビットは四基のミサイル射出ビットとなっていた事で、ビームとミサイルによる複合的な『十字砲』が展開可能になっており、此の十字砲の陣形は敵の死角からの攻撃を基本としているので相手の数が多ければ多いほど死角が増えるので其の威力を増すのである。
此の十字砲を操作している間、セシリア自身は移動したり飛行したりする事は出来ないのだが、『ライフルを撃つ』事は出来るので、セシリアは『十字砲を操作する固定砲台』とて秋五組における重要な役割を担っているのだ。
其のセシリアのサポートを最大限生かしているのが箒だ。
秋五の嫁ズの中でも箒とセシリアは相性が抜群に良く、コンビネーションの質は最高クラスであり、箒はセシリアを狙う敵を一刀のもとに切り伏せ、セシリアは箒を背後から襲おうとしている敵をビット或いはライフルで撃ち抜いていた……日英親友コンビはモンド・グロッソのタッグ部門を制覇出来るだけの力を有していたのだ。
「昆虫には死角がないとの事だったが、其れが逆に仇となると知れ!必殺『プラズマネコだまし』!!」
そんな中でラウラは両手にプラズマ手刀を展開すると、其れを絶対天敵の目の前でぶつけて強烈な閃光を発生させて視界を奪う――ラウラは攻撃の瞬間に目を瞑り、他のメンバーもラウラのセリフを聞いて目を閉じたり、ラウラに背を向けた事で視界を奪われる事はなかったのだが、絶対天敵の衛兵達は其れを真面に喰らった事で一時的に視界を失ってしまった。
カマキリ型も蜘蛛人間型も視界を塞ぐための『瞼』を有していなかった上に複眼で死角のない視界だった事で閃光を防ぐ術がなく、此の目潰しを真面に喰らってしまったのだ――そして視界を失ったと言う事は敵を認識する事出来なくなった訳であり、衛兵達は秋五達の姿を見失って其の存在を探るかのように攻撃を繰り出していたのだが、勿論秋五達が其れを喰らう事はなく、『当たらない攻撃』を繰り返している衛兵達の首を斬り落として、或いは心臓を撃ち抜いて絶命させていく。
「此れで終わりだ……Go to Hell!!」
最後に残ったサイボーグカマキリ型には、ラウラがプラズマ手刀を突き刺し、突き刺したプラズマ手刀のプラズマの固定化を解いてプラズマ爆発を引き起こして大ダメージを与え、表面装甲が剥がれた所に改めて出力を全開にしたプラズマ手刀を叩き込んで其の首を斬り落としたのだった……その際に『ベルリンの赤い雨』と言っていたのはご愛嬌と言ったところだが。
ともあれ残るは巨大な繭だ。
秋五の予想通り、此の繭の中でキメラが強化進化をしていると言うのであれば、逆に言えば此の繭を破壊して其の進化を強制中断させればキメラの目論見は崩れると言う事なのである。
「衛兵達は片付けた……残るは此の繭だ!」
其の繭に対して秋五組は攻撃を開始したのだが、表面を金属化した繭は硬く、秋五達の近接武器を跳ね返しただけでなく、実弾攻撃やビーム系攻撃でもビクともせず、表面には傷一つ付かなかったのだ。
「普通の攻撃じゃ効かないなら此れでどうかな?
溶解力を通常の三倍にした束博士特製の『硫酸弾』だよ!酸じゃ溶解しない銅も溶かす此の硫酸弾を喰らっても平気でいられるかな?」
此処でシャルロットがラピッドスイッチで武装をライフルからグレネードランチャーに換装すると、束特製の『硫酸弾』をお見舞いする。
酸では溶解しない銅をも溶かす束特製の硫酸弾を喰らったら絶対天敵の繭と言えども無事では済まないだろう――実際に硫酸弾を喰らった繭は其の場所が一瞬で溶解したのだから。
――ギュルリ……
だが、繭には硫酸による溶解を上回る再生能力が存在していたようで、溶解した場所があっと言う間に再生して元通りなっただけでなく、再生前よりも強固で頑丈な見た目となっていた。
ならばとシャルロットはもう一度硫酸弾を再生した場所に喰らわせるも、今度は溶解する事は無かった――飛び散った硫酸は繭の他の場所に掛かって其の場所を溶解させたが、其の場所も同じように再生して強化されてしまったのだ。
物理攻撃でもエネルギー攻撃でも突破出来ない防御力を有しているだけでなく、傷付いたら傷付いたで即座に強化再生してしまう繭は正に難攻不落で鉄壁の要塞と言えるだろう。
此の繭を破壊するには、繭の防御力と再生能力を圧倒的に上回る破壊力を込めた攻撃で、しかも一撃で完全に破壊する以外に方法はない――繭の破壊と同時に内部で強化進化中のキメラも倒す事が出来れば最高なのだが、倒せずとも繭を破壊してしまえば強化進化を途中で止める事が出来るので結果としては悪くないだろう。
「箒、絢爛武闘で僕にシールドエネルギーを……巨大な絶対天敵を倒した時の攻撃で、此の繭の破壊を試みるから。」
「其れは構わんが、破壊出来なかった場合は如何する?」
「其の時は僕達ではお手上げだ……此の場から退いて地上の夏月達に状況を報告して最悪の事態に備えるしかない……ISのコア反応を遮断してしまう此の場所じゃ通信も繋がらないしね。」
「ならばせめて破壊確率が上がる様に、以前の五倍のシールドエネルギーをお前に渡す!其の全てを剣に込めてアレを斬れ!」
「勿論その心算だ……!」
此処で秋五が箒から絢爛武闘・静によるシールドエネルギー譲渡を受け、其のエネルギーを近接ブレード『晩秋』に送り込んで刀身にエネルギーの刃を形成していく。
中国で怪獣型の絶対天敵を倒した際にはエネルギーの刃は巨大化していたのだが、今回は晩秋の刀身の倍の長さにした程度で止め、刃を巨大化させる代わりにエネルギーを其の大きさに圧縮して攻撃力を高める。
前回の五倍のエネルギーを使いながらも、エネルギーの刃の大きさは前回の半分程度に凝縮されている事を考えると、此のエネルギーの刃の破壊力は怪獣型の絶対天敵を倒した時の十倍以上と言えるだろう。
「Uwooooo……Year!」
更にオニールが自機のワン・オフ・アビリティである『ソング・オブ・ウラヌス』を使い、其の歌声で味方の攻撃力を上昇させる――だけでなく、オニールの後ろからラウラがプラズマ手刀を展開して其の両手でオニールの口元に壁を作る。
プラズマとは極限の圧縮空気であり、其の圧縮空気に挟まれたオニールの歌声は洞窟内に拡散する事なく指向性を得て秋五に向かい、味方全ての攻撃力を上昇する効果が秋五一人に集中し、攻撃力を更に五倍にし、此れによりエネルギーの刃の破壊力は怪獣型の絶対天敵を倒した時の五十倍以上となったのだ。
「此れで決める……決めて見せる!」
破壊力抜群の剣が完成したところで秋五はイグニッションブーストで繭に接近すると、其のまま切らずにイグニッションブーストを使ってジャンプする。
助走を付けて斬るよりも助走付きのジャンプからの攻撃の方が破壊力は増すのだが、秋五は其れだけでは終わらず、洞窟の天井までジャンプすると逆さまになって天井を蹴って更なる加速をする。
イグニッションブースト、大ジャンプ、天井キックの三段式加速に秋五の全体重を乗せた一撃は正に一撃必殺の破壊力があると言えるだろう。
――シュゥゥゥン……
だが其の一撃は繭に触れた瞬間にエネルギーの刃が霧散し、晩秋の実体ブレードが繭の表面を軽く傷つけるだけに終わってしまった。
「エネルギーの刃が霧散した?
まさか……此の繭は繭の防御力を上回るエネルギー攻撃を受けた場合は零落白夜の力を纏うのか!……攻撃に使えば一撃必殺の零落白夜は防御に使うとエネルギー攻撃に対する絶対防御になるって事か……!」
「零落白夜の盾とは、流石に反則だろう其れは……!」
繭には『繭自体の防御力を超えるエネルギー攻撃』を受けた際には自動的に表面を『零落白夜』が覆い、エネルギー攻撃を一切シャットダウンすると言うエネルギー攻撃に対してはチートレベルの防御力を有していた。
そうなると圧倒的破壊力の物理攻撃で突破するしかないのだが、ISに搭載できる物理兵器としては最強クラスのグレネードやミサイルビットでもダメージを与える事が出来なかった事を考えると物理攻撃で突破するのは不可能だろう。
「まさか此処までとは思わなかったけど、如何やら僕達が此処で出来るのは此れまでみたいだ……戻って状況を夏月達に伝える!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
繭の破壊は不可能だと判断した秋五達は海底洞窟から即刻離脱して深海から海上へと浮上して行った――一応夏月組ならば楯無とダリルによる氷と炎の対消滅攻撃、羅雪による零落白夜無効能力があるので此の繭を突破する事は可能なのだが、秋五は『一度戻って夏月達を連れて来る前に繭が孵化する可能性がある』と考えて現状を伝える事を最優先にしたのだ。
深海から帰還する際は、少しずつ時間を掛けて帰還しないと水圧の変化に内臓が耐えられないのだが、騎龍を纏った状態ならば其の限りではないので最速で海上まで浮上し、そして海から飛び出して『アボカドマグロユッケ軍艦』に帰還したのだった。
「戻って来たか秋五。首尾は如何よ?」
「……ある意味で最悪だ。
洞窟にキメラの姿はなかったけど、そのかわりに巨大な繭があった……そして其れを護る様に絶対天敵が存在していたんだ――ほぼ間違いなく、あの繭の中ではキメラが進化をしていると思う。
だから繭の破壊を試みたんだけど、どうやっても破壊する事が出来なかった……繭は可成り強く脈打ってたから、キメラが進化を終えるのはそう時間は掛からないと思う……僕は、其れを止められなかったよ……」
「繭にくるまって進化するとか、昆虫型のポケモンかよ……だけどお前達はやるだけやったんだろ?其の上で壊せなかったってんなら仕方ねぇよ……だったら其の進化したクソッタレをぶっ倒せば良いだけの事だ。
繭は無敵だったかもしれないが、進化したクソッタレが無敵とは限らないからな。」
秋五は絶対天敵の本拠地での出来事を全て話し、キメラが進化しようとしていると言う事も伝えたのだが、其れを聞いた夏月の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
秋五達がキメラを倒す事が出来れば其れで良いと考えていたのは事実だが、夏月は心の奥底ではキメラは自分の手で討ちたいと思っており、秋五達が繭を破壊出来なかった事で其の機会が訪れた事に無意識に歓喜していたのだ。
今更『織斑』だった頃の過去をあれこれ言う心算はないが、キメラの人格の一部となっているのは本来の姉の人格に蓋をし、更に其の身体を乗っ取った白騎士のコア人格が融合したモノであり、織斑計画の負の遺産と束の負の遺産が融合した存在は己の手で消し去りたいと、そう思っていたのだ。
「進化、進化ねぇ……今の自分じゃ勝てないと考えて進化の道を選んだのかも知れないけど、お前が進化するのと同じくらいにカッ君達は成長してるから果たして進化しても勝てるかどうか分からないんだよなぁ。
しゅー君の話を聞く限りだと、其の繭の防御力は相当だから束さんとしては地球が寿命を迎える其の時まで其の繭に引き籠ってる事を全力全壊で推奨なんだけどそうは行かないんだろうね。」
「束さん、『ぜんりょくぜんかい』の字がおかしくね?」
「カッ君、其れは突っ込んじゃダメだよ……中の人的には何も間違ってないから。
序に言うと、劇場版の『ガンダムSEED』にも束さんの中の人が出演してるんだよねぇ……『IS×ガンダムSEED』やってる作者的にはタイムリーかな?」
「いや、もう何の話してるのか分からねぇから。」
「HAHAHA、ちょっとした妄言なのだよカッ君!」
そしてブリッジでそんな雑談をしている最中、『アボカドマグロユッケ軍艦』のレーダーが海底からのISコアとは異なる高エネルギー反応をキャッチした。
其のエネルギーの発生源は絶対天敵の本拠地である海底洞窟であり、キャッチした高エネルギーは其処から一気に上昇して海面まで迫っていたのだ。
「来るか……最終決戦の開幕だな!」
「地球人類の存続を左右する戦いの最終決戦……其れは言うなれば人の未来を決める聖戦――其の聖戦に参加出来ると言う事に、私は神に感謝してもし切れないな……私の持てる力の全てを此の戦いにつぎ込もうじゃないか!」
「学園最強の生徒会長として、そして暗部の長である『更識楯無』として私に敗北は許されないわ。
ドレだけの強化進化をしたのかは分からないけれど、其れでも私達に勝つ事は出来ないと断言するわ……ドレだけの力を得ようとも所詮貴女は偽物に過ぎず、本物の千冬さんはこっちに居るのだからね。」
夏月組はアボカドマグロユッケ軍艦の甲板に出て自機を展開すると、其の直後に海面から巨大な光の柱が突き上がり、大量の海水を押し上げた後に『海水の雨』を降らした。
其の海水の雨は楯無がアボカドマグロユッケ軍艦全体を水のヴェールで覆った事でノーダメージだったが、光の柱と共に現れた存在は絶大なインパクトを放っていた。
「……ふ、此の力があれば地球だけでなく宇宙全てを支配する事も可能かもしれんな。」
光の柱の中から現れたのは強化進化を完了したキメラだ。
其の姿は『織斑千冬』をベースにしているのだが、頭髪と眉毛と瞳は銀色になり、背には三対六枚の白銀の翼が生え、腕は六本になり、黒いレディースのスーツは純白の天使装束に変わっていた。
絶対天敵の親玉であるキメラは繭の中での強化進化を完了し、神の如き姿と力をもってして夏月達の前に其の姿を現した――但し、其れは人類に、地球に厄災を齎す凶つ神、『邪神』がその本質なのだが。
「神気取りかよ……流石は元ブリュンヒルデ、今度は神様か――まぁ良い、アンタを倒せばそれで終わりって事に変わりはないんだからな……さっさとやられてくれよな、ミス神様?」
「まぁ、光栄だと思うべきなのだろうね私達は……神様と戦う機会など、中々無いのだから……この幸運に感謝を、そして邪悪なる神に死の鉄槌をだね。」
神(邪神)vs人間(超人)の戦いは、此処からが本番であり、そして最終章であり、其の最終章の幕が上がったのであった――!
To Be Continued 
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