地球人類と絶対天敵との戦いはいよいよ本格化し、絶対天敵の攻撃も苛烈になって来たのだが、其れに対して地球人類も束が開発した絶対天敵用の武装を駆使して対抗していた。
各国の地球防衛軍は絶対天敵と互角の戦いを展開し、其の中で出撃要請を受けた『龍の騎士団』は出撃先で見事な戦果を挙げていた――此れまで、圧倒的な戦果を挙げていた夏月組だけでなく、秋五組、その他も大きな戦果を挙げていたのが大きいだろう。

秋五組が夏月組に鍛えられただけでなく、各国から出向して龍の騎士団の一員となったメンバーも夏月組の『地獄の訓練』を受ける事を志願した事で『龍の騎士団』の実力が底上げされただけでなく、団員のメンタル面も大きく鍛えられていた。
数えたくなくなるだけの地獄を経験した夏月組以外の龍の騎士団のメンバーは、『此の地獄を生き抜いた事を思えばどんな事でも出来る』と言う鋼の精神力を得ると同時に一種の悟りに達していたのである。

そして其の経験があるからこそ、以前ロンドンで戦った巨大な絶対天敵(以下怪獣型と表記)と同一の個体を前にしても怯む事はなかった――己に向けられた夏月達の『本気の殺気』、相対しているだけで否が応でも感じざるを得なかった『逃れられない死の恐怖』と比べれば、闘争本能の、破壊衝動の赴くままに暴れる絶対天敵は恐怖の対象足りえないのだ。


「ゼラアァァァァァァァァァァァ!!」


夏月組との地獄の訓練の効果が最も顕著に表れているのが攻撃だ。
怪獣型の絶対天敵の装甲を、ロンドンで戦った時には貫く事が出来なかった秋五組の面々だが、特訓後は怪獣型の装甲を斬り裂き、撃ち抜く事が可能となっていた。
無論此れは束による武装の出力強化も大きいのだが、近接戦闘に関しては特訓前よりも洗練され、鋭さが増していた。


「必要な力をインパクトの瞬間にだけ込める事で攻撃は最大の破壊力を発揮する事が出来るか……確かにその通りだね?」

「父上が剣を振る上で大切な事として、『剣とは腕の力で斬るモノに非ず、剣は肚で斬るモノだ』と言っていたが、一夜達との訓練で漸く其の意味が理解出来た……剣を振る其の瞬間にだけ最大の力を込めれば、後は惰力の勢いで力を使わずに斬る事が出来る。
 そして無駄な力が入っていないと言う事は、攻撃が相手に当たる際に不必要な力が飛び散ってしまう事もなく、必要な力のみが攻撃箇所に伝わる、故に鋼鉄ですら両断する事が可能になるのだな。」


秋五組と他のメンバーが夏月組との特訓で習得したモノが『脱力』と『一瞬の全力』だ。
攻撃に於いても防御に於いても脱力と言うモノは大きな要素であり、例えば超一流の野球選手の打者はバットを振る直前までは完全に脱力し、ボールを捉える其の瞬間に最大の力でバットを振り抜く事で140mを超える打球を放つ事が可能な訳で、超一流のボクサーは相手のパンチを喰らう時でも目を瞑らない……目を瞑ると言う行為自体が無意識に力を入れている状態であり、敢えて其れをしない事で脱力してパンチの衝撃を受け流しているのである。

とは言っても全く無駄な力を使わないようにすると言うのは簡単な事ではないのだが、短期間で秋五達が其れを身に付ける事が出来たのは、夏月や楯無の他に実は鈴の存在が大きかった。
鈴が身に付けている中国拳法は演舞の『功夫』がメインであり、実戦的な拳法は基本的なモノしか体得して居ないのだが、鈴の類稀な身体能力は師の目に留まり、密かに中国拳法の奥義とも言える『消力(シャオリー)』の基本を教えられていたのだ。
消力は攻防に於ける脱力と一瞬の力の発揮を突き詰めたモノであり、極めれば非力な女性や老人であってもコンクリートの壁を粉砕可能な攻撃を行う事が出来るのだ――鈴は其の基本を教わっただけであり、ISバトルでは使う事はなかったのだが、絶対天敵のとの戦いの中で無意識に消力を使い、結果として多少自己流ではあるが消力を完成させていたのだ。
流石に無意識で完成させただけに口で伝えるのは難しかったが、其処は模擬戦の中で実際に鈴が消力を使って見せる事で秋五達に実戦で習得させたと言う訳だ――秋五組だけでなく、他の龍の騎士のメンバーも実戦派だったらしく、模擬戦の回数が三十回を超えた辺りで全員が消力を略会得したのだ。
因みにだが夏月と楯無は更識の暗殺術として、ヴィシュヌはムエタイファイターとしての技術として同様のモノを会得しており、ロラン達は裏社会に身を置くようになってから其れを身に付けたのだった。

此れだけでも絶対天敵との戦いは怪獣型が出て来ても被害は最小限に留める事が出来るのだが、秋五組にはロンドンでの戦いで開眼した切り札が存在していた。


「此れで決める!箒!」

「私の力、全て持って行け秋五!!」

「オォォォォォォ……此れで消え去れ!消魔鳳凰斬!!」


其れが箒の紅雷から秋五の雪桜へ絢爛舞踏のシールドエネルギー回復効果を利用したエネルギー譲渡を行い、秋五が其のエネルギーを全て日本刀型の近接ブレード『晩秋』に集中させて巨大なエネルギーブレードを生成し、其れで相手を一刀両断にする『消魔鳳凰斬』だ。
夏月組との特訓とは別に、この技の特訓を行った結果、箒から譲渡されたエネルギーは巨大なエネルギーブレードを生成するだけでなく、イグニッションブーストで突撃する秋五に追従する火の鳥……フェニックスをも顕現させ、相手には秋五の斬撃とフェニックスの灼熱の突撃が炸裂する事になったのだ。


『グギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

「僕達の……勝ちだ!」


身体を唐竹に真っ二つに両断された怪獣型は更に其れをフェニックスの炎で焼かれ、断末魔の悲鳴を上げながら消滅した――しかし、絶対天敵の攻撃は世界中で起こっており、ISが配備されていない『後進国』は『龍の騎士団』が間に合わなかった事もあって陥落した場所も少なくなく、陥落した国に存在していた者達は絶対天敵に吸収されて絶対天敵を進化させることになってしまったのだった。
進化の果てが存在しない絶対天敵との戦いは長引くほど不利になるのだが、地球人類側にも其の進化に対応したISの強化を行う事が出来る束が存在しているので、此の戦いは地球人類が絶対天敵の親玉であるキメラを討つか、或いは絶対天敵が束を討つか、その何方かが達成されない限りは終わる事はないのかも知れない。










夏の月が進む世界  Episode81
『本格化したガチバトル~More Battle Real~』










そして世界中に絶対天敵が現れ、日々苛烈な戦闘が行われている中、日本には絶対天敵が現れてはおらず、日本国民は平和な日々を享受しており、本日は秋葉原でコスプレイベントが行われており、秋葉原には多くのコスプレイヤー達が集まっていた。
其のレイヤーのレベルは非常に高く、『ネクロとイリヤを表現しながら稼働する翼を搭載したギルティギアのディズィー』、『グローブを加工して、炎を掌に宿せるようになったKOF草薙京』、気合が入りまくってコスプレで無かったらポリスメン案件になり兼ねないストリートファイターシリーズの『ザンギエフ』、『エドモンド本田』、『サガット』が秋葉原の街を練り歩き、コスプレイヤー目当てのオタクカメラマンの要望にも応えてポーズを決めており、ディープなオタクワールドが展開されていたのだが……



――ドスゥゥゥゥゥゥ!!



其処で突如、一人のコスプレイヤーが背後から別のコスプレイヤーに胸を貫かれ鮮血が周囲に飛び散ったのだ。
コスプレイベントの会場で突然の惨劇なのだが、あまりにも突然の事で周囲のコスプレイヤーやカメラマンも理解が追い付かず、『此れもイベントの一環か?』とすら思ったのだが、胸を貫かれたコスプレイヤーが口から血を垂れ流して力なく項垂れてしまった事と、コスプレイヤーを貫いたのが刃物ではなく金属質な虫の足を思わせるモノであった事を確認すると、此れが演技ではない傷害殺人であり、其れを行ったのは普通の人間ではないのだと理解し、平和で楽しいコスプレイベントの会場は一転して阿鼻叫喚の地獄と化した。
目の前で人が殺されたと言う事だけでも衝撃なのだが、其れを行ったコスプレイヤーは右腕が金属質なカマキリの大鎌と化しており、其れだけでなくコスプレイヤーの姿が変化して全身を金属質の装甲で覆われた巨大なカマキリになったのだ。


『キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


此のコスプレイヤーの正体は言わずもがな人間に擬態した絶対天敵だったのだ。
此れまで日本は絶対天敵の攻撃を受けた事が無かったので油断していたのは否めないが、其れでもこんな形で現れるとは予想していなかった――絶対天敵は此れまでは地下や空、海からの侵攻を行っており、日本に対しても同様に仕掛けて来ると思っていたのだ。

だが其の予想に反して、絶対天敵は人間に擬態した状態で日本に入り込み、多くの人が集まるイベント会場で奇襲を仕掛けて来たのである。
全く予想していなかった絶対天敵の奇襲にイベント会場は混乱状態となり、我先にと逃げようとしたのだが、イベント会場に入り込んでいた絶対天敵はカマキリ型一体だけではなく、他にもクモ型、セミ型、蛾型等が出現して其の場に居た人々を襲い始めた。

更にコスプレイベントの会場のみならず秋葉原の街其の物にも人間に擬態した絶対天敵が多数存在しており、コスプレイベント会場での襲撃が合図であったかの如く正体をあらわにして人々を襲い始めたのだ。

此の事態にコスプレイベントの会場警備の為に出撃していた警察の機動隊が対応し、人々の避難誘導をしながら絶対天敵を攻撃したのだが、通常兵器では自衛隊に支給されている実戦武器でもダメージを与える事が出来ない絶対天敵に対し、警察官が携帯している拳銃ではエアガンほどのダメージを与える事すら出来ていなかった。
機動隊からの攻撃は全く意に介さずに絶対天敵達は手当たり次第に人々を襲い、そして狩って行く。
絶対天敵にとって地球人類は狩りの対象である得物であり餌である……よって絶対天敵に狩られた人々は其の場で絶対天敵によって捕食される事になった――クモやセミのように養分を吸い取るタイプならば狩った人間から養分を吸い上げてミイラにするだけなのだが、カマキリ型やアリ型のように獲物の肉を直接喰らうタイプに狩られた人間は最悪だった。
養分を吸い取られるのならば初撃で即死しなかったとしても後はドンドン意識が薄れて行って眠るように死ぬので苦痛は感じないのだが、直接食べられる場合は初撃で即死しなかった場合は意識と痛覚が僅かでも残っている状態で身体を食い千切られるので其の苦痛は想像を絶するだろう。

勿論此の惨劇は直ぐに首相官邸に伝わり、時の首相は即座に自衛隊の『地球防衛軍』に出撃を命じたのだが、秋葉原での惨劇が起きたのと時を同じくして日本各地の自衛隊の駐屯地に絶対天敵が現れ、日本の地球防衛軍は其れの対処に追われてしまい秋葉原に部隊を派遣する事が出来なくなっていたのだった。

日本の首都である東京を襲撃し、更には自衛隊の地球防衛軍も駐屯地から動けないようにすると言う絶対天敵の……その親玉であるキメラの見事な作戦は完璧に決まった形となった。
否、決まろうとしていた。


「日本到着!
 随分と好き勝手やってくれてんじゃねぇの……更識簪一佐、砲撃を許可するぜ。思い切りブチかませ!!」

「了解……吹き飛べ!!」


阿鼻叫喚の地獄と化した秋葉原の上空に、龍の騎士団の移動手段の一つである『イカ明太軍艦』が現れ、其処から龍の騎士団の夏月組+スコール&オータム&フォルテが出撃し、先ずは簪がグレネードから火炎弾を撃ち出し、其れにぶつける形で氷結弾を放って楯無とダリルのコンビ攻撃と比べたら大きく劣るモノの其れでも充分な威力を持った対消滅攻撃を行って絶対天敵数体を消滅させると、其れを皮切りに夏月達による一方的な絶対天敵の虐殺が始まった。

『裏の住人』である夏月達の面々の攻撃は全てが『一撃で相手の命を刈り取る事が出来る』モノであり、其れは絶対天敵が相手でも例外ではなく、夏月達の攻撃は骨のない虫の最大の弱点である関節を狙っており、其の攻撃は絶対天敵の戦闘能力を奪っていた。


「外装甲は強固だが関節部は脆いか……関節の脆さは、生物が生物でいる限りは克服する事が出来ない絶対的な弱点であるのかも知れないね?
 尤も弱点が存在しない存在を、果たして生物と定義して良いのか迷うけれどね……どんな形であれ、少なからず何らかの弱点が存在していからこそ、生物は生物足りえると私は考えているからね。
 もしも絶対天敵が一切の弱点の無い存在に進化しようとしているのであれば厄介だがこの上なく倒し易い存在になるのかも知れないけれど。」

「其れは何故ですロラン?」

「簡単な答えだよヴィシュヌ。
 私はね、進化と言うモノは少しでも種の命を長らえようとする、言ってしまえば『死への抗い』だと考えているんだ――だがしかし、ドレだけ進化したところで生まれた其の瞬間から運命付けられている死から逃れる事は出来ない。
 だからこそ少しでも己を命を長らえさせようと、或いは命は短くなろうとも次世代に命を繋ぐ事が出来るように地球生物は進化して来たのだが、其れでも弱点を完全に消し去る事は出来なかった――否、より正確に言うのであれば弱点を消さなかった。
 弱点があるからこそ必死に生きる事が出来るとも言えるからね――そして、その必死さが次の世代に確実に命を繋ぐ為の大切なファクターでもある。
 故に、弱点を完全克服しようとしている絶対天敵は、生き物としては弱いのさ!」

「成程、言われてみれば納得出来る部分も多いですね……ですが、其れは其れとして此れだけの事をしてくれたのですから、此処は滅殺一択ですよね夏月?」

「当然だ……一匹残らずぶっ殺す、其れだけだ。」


其処からは夏月達と絶対天敵の戦闘が展開されたのだが、一時はIS学園から離反して裏の仕事を行っていた夏月組とフォルテ、亡国機業のエージェントであるスコールとオータムにとって絶対天敵は所詮、『少しばかり厄介だが倒せない敵じゃない』相手であり、夏月達は秋葉原に現れた絶対天敵を瞬く間に一掃して見せたのだ。
其れは正に鎧袖一触と言うべきモノであり、そして其れだけでなく夏月達は二人一組のタッグ(ダリル組はフォルテも追加なので三人)を組むと、夫々が日本各地の自衛隊の駐屯地に向かい、其処に現れた絶対天敵を次々と駆逐して行ったのだ。



『グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



だが、事態は其れだけで終わらず、東京湾には怪獣型の絶対天敵が現れた。
大まかな姿はロンドンに現れた個体と同じなのだが、其の身体はロンドンに現れた個体よりも更に巨大で、全身を覆う装甲もロンドンに現れた怪獣型よりも分厚くなっていた。
此のボス級の相手に、日本各地の自衛隊駐屯地に現れた絶対天敵を現地部隊と協力して制圧した夏月達は東京湾に集まり、怪獣型と戦う事に。


「デカブツが……独活の大木よりは役に立つんだろうなぁ!?」

「大きいだけじゃ私達の相手ではないわ。」


普通に考えれば難敵極まりないのだが、夏月達に限っては難敵足りえなかった。
怪獣型の絶対天敵は『デカくて速くて強くて堅い』を備えており、圧倒的な攻撃力と防御力を備え、更にはスピードも兼ね備えているのだが、圧倒的な巨躯がスピードとはミスマッチだった。
人間であれば、其れこそ『世界の大巨人』と謡われた『アンドレ・ザ・ジャイアント』に俊敏さが備わっていたら最強で無敵だったのかも知れないが、其れはあくまでもサイズの差はあれど人間大であればこその事だ。
怪獣型の絶対天敵はリアルゴジラ級の巨躯であり、其れが素早く動けると言うのは脅威ではあるのだが、そのスピードは人間大の相手に対しては、『見てから余裕で回避出来る』モノであり、怪獣型の攻撃が夏月達を捉える事はなかったのである。


「此れで終わりにするわ……合わせてダリルちゃん!」

「オレ達の最強攻撃を受け取れ夏月!」

「楯無さん、ダリル先輩……貰うぜ其の力!!」


怪獣型に攻撃を加える中、楯無とダリルが『メドローア』を完成させたのだが、其れを直接放つ事はしないで夏月に向かって対消滅のエネルギーを投げ渡して、夏月は其のエネルギーを日本刀型の近接ブレード『心月』で受け止め、刀身に対消滅の力を宿す。
普通ならば対消滅の力で心月が消え去るのだが、夏月は心月の刀身にビームを纏わせる事で刀身に対しての物理干渉を阻害し、更に羅雪がビームのエネルギー操作を行い、刀身に纏わせたビームに対消滅の力を付与したのだ。
そして其のまま羅雪のワン・オフ・アビリティである『空烈断』を発動し、対消滅の力を宿した空間斬撃を行い、怪獣型を跡形もなく消滅させた……予想もしていなかった奇襲で少なくない犠牲は出てしまったのだが、其れでも夏月達は日本に現れた絶対天敵を退けたのだ。
少なからず犠牲者は出てしまったモノの、秋葉原の街は壊滅状態にならず、各地の自衛隊の基地も無事であった事を考えれば成果はパーフェクトではなくとも上々の及第点と言えるだろう。


だが、被害は最小限に留まったとは言っても被害が出てしまった事は事実であり、其の被害状況に誰より先に飛びついたのはマスコミ各社だった。
被害の状況とその場に居合わせた一般人へのインタビューは良いとして、各社マスコミは『龍の騎士団』及び自衛隊の『地球防衛軍』の対応の遅れが被害を出したのではないかと言う的外れ極まりない報道を行っていた。
秋葉原で絶対天敵が暴れ始めたころ、秋五組は日本の裏側であるアルゼンチンに遠征していたので即時日本に帰還するのはそもそも不可能であり、夏月組は比較的日本から近い台湾に出向していたのだが、其れでも束が製造した戦艦を使っても最低一時間は掛かってしまうので、遅れたのは致し方ない事であるのだが、マスコミ各社は其れを考慮せずに悪意ある報道を行ったのだ――地球の為に戦っている龍の騎士団や地球防衛軍の今回の対応が、まるで『悪』であるとも言うかのようにだ。


「胸糞悪い報道しやがるなぁマスコミって奴は……だ~からマスゴミって言われんだろ。
 コメンテーターの中には真面な事を言ってる奴も居るみてぇだが、番組全体としてはオレ達の対応が遅れた事が被害拡大に繋がったってスタンスじゃねぇか……命張ってねぇ奴等が好き勝手言ってくれるぜ。」


IS学園に戻り、学食で生ハムとトマトを挟んだバゲットを豪快に噛み千切っていたオータムは学食内のモニターの一つに映し出されてたワイドショーの報道に対して不快感を全開にしていたのだが、其れはIS学園の生徒と教師全員の総意とも言えるだろう。
IS学園の生徒も教師も、『龍の騎士団』のメンバーが命懸けで絶対天敵との戦いを行っている事を知っており、戦う事が出来ないメンバーは其のサポートを全力で行っていたからこそ、秋葉原の一件で被害者が出たのは龍の騎士団の対応が遅れた事が原因だとする報道には怒りを覚えていた。
国営放送のNHKは真実を伝えていたのだが、民放各社は視聴率狙いでゴシップ的報道を行っていたのだ――学食には複数のモニターが存在しており民放とNHKの両方を視聴可能なのだが、だからこそ民放の偏向放送が目立つ結果となっていた。
各報道番組のコメンテーター、特に芸能人コメンテーターは『龍の騎士団や地球防衛軍の対応が遅れてしまったのは汲むべき事情があるのだから、犠牲者が出てしまった事は残念な事だが其の責任を彼等に負わせるのはお門違い』との意見であり、知識人のコメンテーターも半分は同意見なのだが、残る半分の知識人のコメンテーターは『どのような事態が起きても迅速に対応出来なければ意味がない』との意見を口にし、番組メインキャスターも電話が繋がっている自衛隊の自衛官になんとか『今回の事態は自分達の対応の遅さが原因だった』と言わせようとしているが見え見えの最悪の番組構成だった。

此の偏向報道だけでも性質が悪いのだが、更に性質が悪かったのは各種SNSだ。
犠牲者の遺族が無念の思いを投稿するのは良いとして、秋葉原の件とは一切関係ない第三者が偏向放送を見た上で見当違いな正義感を振り翳して『龍の騎士団』に対して批判にもなっていない罵詈雑言を浴びせ、中には『俺だったらもっと的確にやって見せたぜ!』等と言う勘違いも甚だしい投稿までされる事態となっていたのである。
無論IS学園は此れ等の事に対して抗議を入れたのだが、民放各社は其の抗議すら『自分達の対応の遅れをひた隠しにしようとする行為』と報道したのだが、其れをやった直後民放各社の画面は砂嵐になり、其の直後、画面には『笑顔だが青筋を浮かべた表情の束』が現れていた。


『やぁやぁ、ハローハロー、コンニチワのくんにちわ!皆大好き、世界のアイドル、正義のマッドサイエンティストの束さんだよ!
 オイこら民放のマスコミもといマスゴミ共、テメェ等命張って絶対天敵と戦ってるカッ君達の事を随分と悪く言ってくれてっけど、其れって此の束さんと敵対する意思があるって事で良いのかい?
 カッ君達はさぁ、此の束さんのお気に入りであり、束さんが全力でサポートしてる存在なんだよねぇ……其れに対して悪意を向けるとか、一遍死んでみるかお前等?』



普段の軽いノリは成りを潜めた束は『正義のマッドサイエンティスト』の二つ名の通りに、冷徹で冷酷な目をしており、並の人間ならば其の視線に晒されただけで意識を失ってしまうだろう。
まさかの束の電波ジャックに民放各社は驚かされただけでなく、更に束からのメールで『ゴシップ週刊誌各社にお前等のヤバい取材と報道の彼是の証拠を送ってやったから』と届いた事で恐慌状態陥り、秋葉原の一件を報道するどころではなくなってしまった。


『真実を報道しない報道機関に存在価値はないって知るんだね。
 NHKも偏向報道をしてないとは言えないけど民放と比べれはまだマシだし、今回は正しい報道をしてたから見逃すけど、決して束さんが認可したとは思わねー事だよ。
 束さんは冗談は言うけど、嘘がこの世で何よりも嫌いなモノなんだ……其れを努々忘れない事だね。』



画面から束の姿が消えると、民放各社――日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビは『しばらくお待ちください』の画面になってしまった……テレビ東京は報道番組よりもアニメ番組や海外ドラマがメインコンテンツだったので束の電波ジャックを受けずに通常放送を続けていたが。
だがテレビ東京以外の民放は逆ゴシップの火消しに回る事なり、放送が再開されたのはワイドショー放送から数時間後の十八時であり、此の放送停止時間は後に世界最長の放送停止時間としてギネス記録に認定されるのだった。
其れは其れとして、束が民放各社の『黒い噂』をゴシップ誌各社に流したところ、各社のゴシップ誌は見事に其れに食い付き、こぞって其の『黒い噂』を強調した見だしで表紙とトップ記事を飾り、皮肉にも偏向報道を行った民放各社には其の報いとも言えるゴシップ報道が火を噴いたのだった。
その影響もあり、夕方の報道番組では日本テレビのそらジロー、TBSのブーなちゃん、フジテレビのガチャピンが局外の天気コーナーで天気予報士と共にもみくちゃにされると言うハプニングが発生してしまったのが、其れはある意味で自業自得と言えるだろう。


「当事者のお前等が特別反応してなかったのが不思議だったんだが、若しかしてこうなる事予想してのか?」

「まぁ予想はしてたぜ秋姉。
 束さんは味方には厚情で何かと頼りになる人なんだが、其れだけに仲間を傷付けたり、悪意のある情報を流す相手には容赦しねぇからな……日本に絶対天敵が現れたってのはマスコミからしたら良いネタなのは間違いないが、其の絶対天敵を世界に二人しか存在してない男性IS操縦者が所属してる龍の騎士団が多少の犠牲を出しながらも倒しました、見事な働きでしたじゃ面白くねぇんだろ。
 炎上商法じゃないが、ネガティブな部分を煽った方が人が食い付く部分があるのは否めねぇし、女性権利団体は崩壊したとは言え、極少量とは言え女尊男卑の思考の持ち主もいるだろうからな……そんな奴が番組プロデューサーだったら俺達に否定的な報道になるのもある意味納得は出来るからな。」

「まぁ、テレビ局は此れで済んで幸運だったと思いますよ?
 SNSで好き勝手言っていた連中は姉さんによって顔と本名と住所が特定されてネット上に晒されて更に削除不可能なレベルで拡散されているでしょうからね……恐らくネットでも現実でも平穏な暮らしを送る事は二度と出来ないでしょう。
 ……義務教育中の生徒ならば兎も角、高校生以上の存在ならば生徒や学生は停学からの退学、社会人ならば解雇か雇止め待ったなしですからね?
 姉さんを敵に回したら破滅するだけですよ……ですが、其れは今回の事で誰もが良く分かったでしょうから、今後は二度と同じ事は起きないでしょう。」

「マジかぁ……ガチでトンデモねぇな束の奴は……改めてアイツとだけは絶対に敵対しちゃいけねぇって実感したぜ。」


更にSNSで好き勝手な事を言っていた連中はプライバシーが丸裸にされてネットと現実の両方に束によって晒される事になり、見事に人生終了状態となってしまっていた……軽いノリでマスコミの報道に乗っかってアンチ投稿をした事で人生が破綻してしまったと言うのは笑えない結末だが、此れはマスコミ各社以上に自業自得で因果応報の結果としか言いようがないだろう。


「だけどそんな事よりも問題なのは、遂に絶対天敵が日本に現れたって事だ。
 今まで世界の色んな国に絶対天敵は現れてたんだが、日本だけは不自然なまでに絶対天敵の攻撃を受けて来なかった……其れだけ絶対天敵にとっても日本は重要な場所だったって事なんだろうが、その重要な場所である日本を攻撃して来たって事は、絶対天敵は本気で侵攻を始めたって事だって言えるからな?――多分だが、此れから先の戦いは日本、或いは此のIS学園島が主戦場になるのかも知れないぜ。」

「其の可能性は高いでしょうね……だから、束博士に頼んで更識のエージェントと更識と繋がってる極道組織に『ISを使わなくても絶対天敵に有効な武器』の開発を依頼したわ。
 其れがあれば生身でも絶対天敵と戦う事が出来るし、裏の戦力が絶対天敵に対処出来れば表の戦力は市民の避難誘導に集中する事が出来るから結果として被害を抑える事が出来るでしょうからね。」

「GJだぜ楯無さん。」


其れは其れとして、日本に絶対天敵が現れたと言う事は、絶対天敵の侵攻が本格化した事を意味しており、此れから先の戦いは日本及びIS学園島が主戦場となる可能性が高いのだが、楯無は其れを見越して束に更識のエージェントと更識と繋がりのある極道組織が生身でも使う事の出来る『対絶対天敵用の武装』を依頼していた――其れもまた絶対天敵以外には玩具程度の力しかないのだが、絶対天敵に対しては有効であるのならば問題はない。
更識のエージェント用に開発された武器が拳銃と刀だったのに対し、極道用に開発されたのが拳銃と刀だけでなくナイフや匕首、果てはスレッジハンマーや金砕棒、メリケンサックにアイスピックと多岐に渡っていたのは、極道の獲物は更識のエージェントよりもずっと多岐に渡っていたと言う事なのだろう。


「それにしても、相変わらずレッドラム先輩の食欲は凄いね?……どんな消化能力してるんだ?」

「まぁ、グリ先輩はアレがデフォだからな……逆にグリ先輩の食欲がなくなったら冗談抜きで地球規模の異変が起きるんじゃないかって思っちまうぜ俺は。
 つまり、グリ先輩が美味しそうに飯食ってる間は少なくとも地球は大丈夫だと思うぜ。」

「なんなの其れって言いたいけど、其れは妙な説得力があるね。」


そして本日のグリフィンの夕食のメニューは、『ローストビーフ丼チョモランマ盛り』、『サーロインステーキ500g(レア)』、『鶏の唐揚げ爆盛り』、『アボカド入り野菜サラダ特盛』と品目は少ないながらも盛りが多いメニューとなっていたのだが、グリフィンは其れ等をペロリと平らげて、おかわりとして『牛豚ダブルカルビ丼チョモランマ盛り』、『牛ハラミステーキ1kg』、『超ビッグトンカツ』をオーダーして、其れすらも残さずに平らげると言う凄まじい健啖家っぷりを披露してくれていた……グリフィンとギャル曽根が大食い対決をしたら収集が付かなくなるのかも知れない。


グリフィンが健啖家っぷりが健在な事を示した夕食後は入浴タイムとなり、夏月と秋五は『男子の時間』で学園の温泉を堪能していた。


「……絶対天敵との戦いが始まってから、お互い身体に傷跡が増えたな。メディカルマシーンで回復しちゃいるが、少し深めの切り傷は流石にな。」

「絶対天敵がISの力を得てからは特にだね。
 ISの絶対防御は通常兵器に対しては無敵だけどISが相手の場合は無敵じゃないからね……装甲の上から攻撃されたとしても、絶対防御で相殺し切れなかった分は身体に及んでしまうから仕方ないよ。」


そんな夏月と秋五の身体には、決して少なくない傷跡が刻まれていた。
ISの力を得た絶対天敵はISの絶対防御でも相殺し切れないレベルの攻撃を行う事が可能になっており、夏月と秋五は其の攻撃から嫁ズを庇う事も少なくなかったので、其の攻撃による傷跡が身体に刻まれていたのだ。
尤も、夏月も秋五も此の傷跡は『大切な人を守る事が出来た証』であり、ともすれば『名誉の負傷』であるので特に気にしてはいなかったのだが。


「まぁ、其れはそうだけどな……其れは兎も角として、此れからの戦いは此れまで以上に激化するのは間違いねぇ……途中でスタミナ切れ起こすなよ?」

「其れは要らない心配だね……僕達が君達との特訓でドレだけの地獄を見たと思ってるのさ……奇麗な川を挟んで見た事もないお爺さんやお婆さんと会話した回数は数えるのも面倒になってるんだから。」

「だろうな。
 んで、何回目で数えるの止めた?」

「多分だけど百回を超えた超えた辺りかな?」

「百回か……自慢じゃないが俺は、お前が会ったと思われるお爺ちゃんとお婆ちゃんに最低でも三百回ずつ会ってるぜ……自分で言うのもアレだけど、よく生きてるよな俺。」

「君はもしかしたら不死身なのかもしれないな。」


夏月も秋五も地獄の特訓を経験した事で凄まじいレベルアップを遂げており、だからこそ絶対天敵に対して互角以上の戦いが出来ていると言えるだろう。
そんな入浴タイムで夏月と秋五は風呂に浸かりながら拳を合わせて共に戦い抜く事を誓ったのだが……此の二人の入浴タイムが其れで済む筈がないと言うのは当然であると同時にIS学園における一種の恒例行事となっているのだ。


「ヤッホー!一緒にお風呂入りましょ夏月君♪」

「秋五、背中を流してやる。」


其処にやって来たのは夏月組と秋五組の嫁ズ……だけでなくマドカも居た。
IS学園の大浴場は男子と女子の使用時間が決められているのだが、夏月と秋五の嫁ズに関しては其の使用時間を無視しても問題ない特例措置が取られており、其の結果として混浴状態になる事は多かったのだ――尤も夏月も秋五もすっかり慣れているのと全員が身体にタオルを巻いていたので動揺する事も驚く事もなかったが。


「夏月、秋五、お姉ちゃんと一緒の風呂は少し照れるか?と言うか照れろ!今すぐに!!」

「いや、其れは無い。鈴以上のツルペタな上に身内のお前に欲情するか……お前に欲情するとか無いわマジで。てかどんな要求だ其れ?」

「アハハ……僕も流石に無いかな……」

「……織斑千冬、貴様の身体を寄越せーーー!!」

『私の身体は既に乗っ取られているので無理だ。』


取り敢えず、本日の入浴タイムも概ね平和だったと言えるだろう。
夏月組も秋五組も仲良く背中の洗いっこをした後に湯船に浸かって充分に温まった後は脱衣所でドライヤーで髪を乾かしてから定番の牛乳を飲み干して入浴タイムはターンエンド。
そしてその後は夫々の部屋に戻ったのだが、夏月の部屋にはロラン以外の嫁ズも集まってゲーム大会が開催されて日付が変わるまでゲーム大会を楽しみ、大会後は夏月の部屋で雑魚寝状態となるのだった。








――――――








「人間に擬態して人間社会に紛れ込ませると言うのは有効な手段だったみたいだな……此方から正体を現さない限りは気付かれる事もないのだからな。
 此れは私達にとって有益な情報だ……精々有効活用させて貰うさ――ククク、地球人類が滅びの時を迎えるのはそう遠くないのかもしれんな。」


秋葉原の一件にて絶対天敵の親玉であるキメラは『人間に擬態して人間社会に紛れ込ませる』と言う方法の有用性を実感しており、今後は其れをメインに侵攻を進める事を決めていた。
とは言え、其の方法は使ってしまった事で束による解析が行われ、『人間に擬態した絶対天敵を見破る方法』も開発中であるので人間への擬態も何れは見破られてしまうのだろうが、其れでも現状に於いて人間に擬態して人間社会に溶け込むと言うのは最上にして最悪の戦術だと言えるだろう。

龍の騎士団が健在ならば戦火の拡大は喰い止められるだろうが、戦火の暴走を喰い止めるのは難しい――キメラは、此の局面で戦火の暴走を起こそうとしていたのだった……!










 To Be Continued