突如として旧ロシア領に現れた巨大な異形。
其れに対して旧ロシア領を分け合った周辺国は先ずは通常のIS部隊を討伐に向かわせたのだが、其の結果は悲劇的と言うのも生温いモノだった――巨大な異形に通常のISの攻撃は全く通じず、逆に巨大な異形が放った全方位のビーム攻撃によって一瞬で全滅してしまったのだ。
其れだけでも凄まじい事なのだが、其れ以上に驚愕させられたのは、通常のIS部隊は全滅しただけでなくパイロット諸共消滅してしまったと言う事だろう。
絶対防御が発動する事もなくパイロットごと機体を消滅させたと言う事は、この巨大な異形の攻撃は一撃でISの絶対防御を貫通してパイロットと機体に即死級のダメージを与える事が出来ると言う事なのだ。
巨大な異形の力を計るために通常のIS部隊を派遣したのだが、其れはある意味では正しかった――此の巨大な異形には通常のISでは対応する事は出来ないと言う事は分かったのだから。
此の結果を受けてロシア領を分け合った各国は『地球防衛軍』を派遣し、地球防衛軍は激闘の末に巨大な異形を旧ロシア領から撤退させたのだが、倒し切る事は出来ず、撤退させただけだったのだ――現行兵器を遥かに上回っている通常のISでも相手にならなかった存在を撤退させる事が出来ただけでも充分な戦果と言えるだろうが。
だが、今回の一件は瞬く間に世界に発信され、巨大な異形は『新たな絶対天敵』と認識され、年末から続いた束の間の平穏は終わりを告げたのだった。
「冬休みはまだあったと思うんだが、三学期前に学園に行く事になるとはな……まぁ、絶対天敵が仕掛けて来たってんなら仕方ねぇんだが、マジで正月三が日が終わるまでは仕掛けて来なかったなアイツ等?
連中の親玉が人間辞めたDQNヒルデなら余裕で約束破りブチかましそうなモンだが……こりゃあマジでDQNヒルデの人格は無くなっちまってるのかもしれないな――良い事だ。」
「そうね、あんな不良品人格は存在していても世界の害にしかならないモノ――尤も、其の人格が消滅したとしても同じ位世界の害になる存在の親玉なのだから無視は出来ないのだけれどね。」
絶対天敵との前線基地となっているIS学園に『龍の騎士団』が招集されたのは当然の事だったのだが、一般生徒も冬休みを切り上げて学園に戻る事となっていた。
と言うのも世界のどの国が何時絶対天敵の襲撃を受けるか分からない状態では生徒の安全が確保出来ないと言う事で地下に避難シェルターがある学園に呼び戻したのである――一応日本国内には平時には地下の貯水タンクとして、有事の際には水を抜く事でシェルターとして機能する場所が幾つか存在してはいるのだが、いざと言う時には地下シェルターに避難しながらも一般生徒に裏方として働いて貰う必要性があったと言うのも大きいだろう。
学園に到着した夏月達『龍の騎士団』は学園長室ではなく、学園島の地下にある学園のコントロールルーム兼作戦会議室へとやって来ていた。
其の作戦会議室には学園長の轡木十蔵、教師部隊の隊長の真耶に亡国機業のスコール、オータム、ナツキが既に集まっており、更には束までもが其処にやって来ていた。
「姉さん、何故此処に!?」
「其れはだね箒ちゃん、敵さんの方も本気を出して来たみたいだから、束さんの方も本気を出そうと思ってね……此れまでの戦いは腹の探り合いな部分もあったけど、相手が通常のISじゃ勝てなくなったってんなら腹の探り合いはお終いさ。
寧ろ向こうの方から腹の探り合いをお終いにしてくれたんだから、其れには本気で応えねーと失礼っしょ?……まぁ、束さんを本気にさせた事は褒めてやるけど、私を本気にさせたってのは死亡フラグだって事を骨の髄にまで教えてやらないとだからね♪」
まさかの束の登場に夏月組+マドカ以外は驚いていたのだが、逆に言えば事態は束が直々に出張る状況――出張らざるを得ない状況である訳で、作戦会議室内の空気は一気に緊張感が高まっていた。
「其れでは全員集まったので、此れより会議を始めます。」
緊張感が高まる中、十蔵が会議の開始を宣言すると早速作戦会議室の大型液晶モニターには旧ロシア領に現れた巨大な異形――ISコアを得た事で急速に超進化した絶対天敵の姿が映し出された。
全身を金属の装甲で覆われた其の姿は『メカゴジラ』か『メタルグレイモン』か『ムゲンドラモン』かと言ったモノだったのだが、其の戦闘力は凄まじく通常のISを一瞬でパイロットごと蒸発させた全方位ビーム攻撃の破壊力は想像すら出来ないだろう。
其の絶対天敵が旧ロシア領を破壊して回る映像の後には、地球防衛軍が出撃して交戦する様子が映し出されたのだが、巨大な絶対天敵(以降怪獣型と表記)は巨体の利点を発揮して地球防衛軍を苦しめ、しかし装甲の隙間を狙った攻撃でダメージを受けて撤退したのだった。
装甲の隙間への攻撃が有効だったから怪獣型を撤退させる事が出来た訳だが、もしも装甲の隙間を狙う事が出来ていなかったら旧ロシア領に住んでいた人達はもれなく全員絶命していた事だろう――辛うじて撤退させた事で、旧ロシア領に住んでいる人々は壊滅的な被害は受けたモノの何とか生活する事が出来ていたのだ。
だがしかし、此の怪獣型が世界各国に現れたとなった其の時は流石に地球防衛軍だけで対処するのは難しいので龍の騎士団が出張る事になるだろう。
正月の三が日を終えて早々に世界は絶対天敵との本格的な戦闘に突入するのだった。
夏の月が進む世界 Episode79
『新たなる戦いの幕開け~New Open Combat~』
旧ロシア領に現れた怪獣型絶対天敵の圧倒的な戦闘力は束が現地に飛ばしていたステルス迷彩搭載のドローンカメラの映像を見た事で理解したが、逆に此の映像を見たからこそ龍の騎士団のメンバーは絶対天敵の急激な進化が謎だった。
「コイツ等、此の短期間になんだってここまでの進化をしたんだ?」
「此れまでの戦いの経験を糧に進化したにしては進化の仕方が極端と言うか、急速過ぎる気がする。」
「ポケモンでも此処まで極端に急激な進化はしない。デジモンでも極端な進化は珍しいし。」
『……此れは、若しかしたら絶対天敵はISコアを入手したのかもしれん。』
当然夏月達も其の進化に疑問を持ったのだが、其れに答えたのは羅雪だった。
「ISコアを入手したとして、其れが如何して急速な進化に繋がるんだ羅雪?」
『絶対天敵の親玉はアイツな訳だが、アイツの中には私と入れ替わりにあの身体に入った白騎士のコア人格も存在している。
そうであるのならばISコアを一つでも手に入れる事が出来れば其れを量産して絶対天敵全てにISの力を与える事も不可能ではないのではないか?原初のISである白騎士のコア人格であればISコアの複製如きは容易いだろうからな。
本来のISコアは隕石が原料であり、現在使われているISコアは複製品だが、束は隕石の成分をそのままコピーしてしまった事で現代科学では解析出来ていない隕石の未知の部分まで再現してしまっているのでな、使用するには問題ないので束も放置しているがISコアにはマダマダブラックボックスの部分も少なくないのだ……ならば其れが生物に驚異的な進化を促してもおかしくあるまい。』
「……言われてみりゃ確かにそうだな。」
絶対天敵の親玉であるキメラは織斑千冬の肉体に宇宙から飛来した生物が融合した存在であり、融合した際に『DQNヒルデ』の人格はほぼ宇宙生物の人格に上書きされたのだが、白騎士のコア人格は上書きされながらも『ISに関しての力の行使』の能力は残っていたので、アメリカから強奪した『ヘル・ハウンド』のISコアから其れを複製し、新たに生み出した絶対天敵に組み込むくらいは簡単な事だったのだ。
だが、絶対天敵側もISの力を得たとなったらこの先の戦いは簡単なモノではないだろう。
此れまでの戦いは地球側だけにISの力があった事で優位性を保っていたのだが、ISの力を得た絶対天敵は驚異的な進化をして通常のISでは凡そ敵わない存在となっただけでなく、強化された『ドラグーン』、『ワイバーン』、『ドレイク』であっても退けるのが精一杯と言う状況であり、そうなると龍の騎士団、特に『騎龍シリーズ』を使用している夏月組と秋五組の出撃回数が増えるのは間違いない。
束が開発した『ハイパーメディカルマシーン』があるので疲労の回復は問題なく出来るだろうが、絶対天敵が驚異的な強化をしたとなれば、『騎龍シリーズ』と言えども無傷で戦闘を終えるのは難しい……其れこそ、絶対天敵の親玉であるキメラが先に狙った『消耗戦』になってしまう可能性は低くない。
「ISの力を得たってのは厄介だね……僕の零落白夜が健在だったら其れでもなんとかなったのかも知れないけど、騎龍化した際に零落白夜はオミットされたからね。」
「そうなのか?
てか、そうなると今のお前の機体のワンオフってどうなってんの?」
「まだ使った事はないんだけど、明鏡止水って言うワンオフになってる……なんだか身体の反応速度が爆発的に上昇して、頭で考えるより先に身体が動くって事みたいだ。」
「……それ、なんて『身勝手の極意』?」
「うん、其れは僕も思った。
でも、其れは其れとして絶対天敵が此れまで攻撃の手を休めていたのは、ISコアを馴染ませる為で、同時に僕達を油断させる為だったんだ……正月の三が日が明けた一月四日は正月気分も抜け切ってない状態だから、絶対天敵側としては攻撃するには絶好の好機だったんだよ。」
「そんでもって其処で新型のお披露目って訳か……上等じゃねぇか?
改めて喧嘩を売って来てくれたんだ、だったら其れを出来る限りの高額で買い取ってやるのが礼儀ってモンだ……でもって、全面戦争をやった上で俺達が勝つ、其れだけだ。
序に、今度こそDQNヒルデをこの世から跡形もなく消し去ってやるぜ。」
「ふふ、そうですね……今度こそ消し去って差し上げましょう。」
だが、夏月組も秋五組も恐れはなく、強化された絶対天敵との戦いでも全力で己の成すべき事を成すだけと言うスタンスであった――特に夏月組は更識の仕事と学園に離反して亡国機業の一員として動いて事で、『裏社会』にも触れているだけでなく『殺し』も経験しているので、大概の事では恐れる事はなくなっていたのだ。
其れはある種の『取り返しのつかない強さ』でもあるのだが、底が見えない絶対天敵との戦いに於いては寧ろ頼りになるモノであると言えるだろう。
「うんうん、やる気があって大変によろしい!
そんな君達に朗報!束さんは新たに『ハイパーメディカルマシーン』を強化改造して『アルティメットメディカルマシーン』を開発しました~~!!
ハイパーメディカルマシーンの疲労回復効果は其のままに、新たに怪我の超回復機能を追加した優れモノ!」
「姉さん、其れを量産して各国の医療機関に配ったらノーベル賞は間違いありませんよ?」
「だろうけど、束さんはノーベル賞なんぞには全く興味がないから、受賞するとなっても受賞を辞退して宇宙の彼方のブラックホールに蹴り飛ばすよ♪
束さんはそんなちんけなモノの為に研究と開発をしてるんじゃないからね。」
「……ノーベル賞をちんけなモノと一蹴出来るのは世界広しと言えども姉さんだけでしょうね。」
加えて束が新たな回復マシーンを開発していたので、騎龍組が大怪我をしても即時回復が可能だろう――流石に身体の一部を失ってしまったらその限りではないのだろうが。
とは言え、更なる回復装置があるのであれば龍の騎士団も思い切り戦う事が出来るだろう。
更に此の回復マシーンだけでなく、束は『無人の騎龍』をも開発しており、龍の騎士団が出撃した際のIS学園の防衛もバッチリの状態となっていた――無人機であるが、搭載したAIには夏月と楯無の戦闘パターンが基礎戦術としてインプットされており、更にはAIの学習機能によって戦闘のたびに学習してアップデートされて行くのでIS学園の防衛としては問題ないだろう。
そんなこんなで会議は終了したのだが、会議終了後にアラートが鳴り響いて学園に救援要請が入った――其の救援要請を入れて来たのはアメリカとイギリス……欧米でも最大クラスの国からだった。
――――――
救援要請を受けて夏月組+スコール&オータム&フォルテは『チャンジャ軍艦』でアメリカに、秋五組+マドカ&ナツキは『マグロキムチ軍艦』でイギリスに出撃した。
先ず夏月組が向かったアメリカには、旧ロシア領を壊滅させた巨大な絶対天敵が三体も現れていた――其れも海や空からではなく、地下を掘り進んでアメリカ大陸でも内陸にあるテキサス州に現れたのだ。
首都であるワシントンDCに現れなかったのは不幸中の幸いと言えるのだが、テキサスはカウボーイの地として知られているように、現在でも牛や馬を多く飼育しており、輸出用の牛肉用の肉牛を飼育している牧場も多いのでテキサスが壊滅状態になるのはアメリカの輸出にとって可成りの痛手となるので、アメリカ政府は其れに対して自国の、『地球防衛軍』を出撃させただけでなく、通常のIS部隊と空軍も出撃させたのだが、通常のISと戦闘機は瞬く間に全て撃墜され、更に通常のISと戦闘機のパイロットは機体ごと絶対天敵に吸収されて、更に絶対天敵を強化する事になってしまったのだ。
戦闘中でも倒した相手を吸収して強化される絶対天敵には地球防衛軍も苦戦していたのだが……
「ハイドーモ絶対天敵さん!一夜夏月DEATH!」
「圧倒的な力の差をもってしての蹂躙劇と言うのは往々にして成功しないモノさ……あらゆる演劇で其れは証明されているからね。」
「すこ~し、オイタが過ぎたようね?」
此処で夏月組が割って入った。
巨大な絶対天敵が放った超極太ビームを夏月が斬り飛ばし、ロランが打ち下ろし、楯無が水のヴェールで完全防御したのである――ビーム攻撃を物理的直接攻撃で防いだ夏月とロランの近接戦闘能力の高さには改めて驚くばかりだろう。
「テメェ等……オレの祖国に上等かますとは良い度胸じゃねぇか……全員纏めて丸焼きにするだけじゃ足りねぇ、焼死体すら残らねぇレベルで消滅させてやんぜ!!」
「此れはまた随分と派手にやったモノね?
自国の地が戦場になった事のないステイツには可成りの痛手でしょうね……災害復興の為の州予算と国の予算だけで間に合うのかしら――まぁ、取り敢えずやられた分はやり返させて頂くわ。」
夏月組の中でもアメリカ出身のダリルの怒りは凄まじく、怒りで炎の温度が上昇して通常の紅い炎ではなくより高温である蒼い炎へと変貌していた。
ダリルの叔母であるスコールもアメリカ人ではあるのだが、ダリルほど怒りを感じていないように見えるのはアメリカ人ではあるモノの幼少期から父親が更識のエージェントとして働いていた事で日本で暮らしており、自身も十五歳から二十歳まで更識のエージェントとして働き、其の後は亡国機業に身を置いて実働部隊である『モノクロームアバター』の隊長として各国を転々とする日々を送っていたのでダリルほど怒りは感じていない様子だ。
其れでも、平和に暮らしている人々を害したと言う事に関しては怒っているのだが。
「ダリル先輩、なんか俺が思った以上にガチギレしてません?」
「ガチギレすんに決まってんだろ夏月!
此処テキサスはオレが生まれ育った土地だ……生まれ故郷を滅茶苦茶にされて怒らねぇ奴は居ねぇだろ……!今のオレは過去一ブチキレてるぜ?其れこそ『今の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!』ってな位にな!」
「簪、ダリル先輩に『ガンダム00』のDVD貸した?」
「ファーストシーズン、セカンドシーズン、そして劇場版にドラマCDも貸した。序に00の機体が登場するガンダムのゲームも多数貸した……そしてダリル先輩をガンダム沼に沈めた。
そして其処から発展してオタ沼に沈める計画。現在格ゲー沼に引き摺りこみ中。」
「ある意味で貴女は絶対天敵より怖いわ簪ちゃん。」(汗)
ともあれ夏月組が戦闘に参加した事で改めてオープンコンバットとなったのだが、そんな中で絶対天敵の鋼鉄の尻尾の一撃がアメリカの地球防衛軍の一人に掠ったのだが、掠っただけなのに機体のエネルギーはゼロになって機体が解除されたのだ。
機体が解除された隊員は他の隊員がキャッチした事で無事だったのだが、掠っただけで機体エネルギーがゼロになったと言うのにはその場に居た全員が驚くには充分な事だった。
「掠っただけで機体エネルギーがゼロになるとは……此れは、まさかとは思うが絶対天敵はISにとって天敵とも言える『零落白夜』の力を得たのかな?
味方ならば頼もしい一撃必殺が敵となったとしたら其れはなんとも有り難くない事だが……此の戦いは中々のハードモードみたいだね……!」
「零落白夜……白騎士のコア人格が敵さんの親玉に存在してるなら有り得ない話じゃないか。
当たれば一撃必殺の零落白夜だが、逆に言えば当たらなければどうって事はない……デカい相手は其れだけ攻撃範囲も広くなる訳だが、機動力はこっちの方が圧倒的に上なんだからスピード重視で戦えば良いだけの事だからな。
もっと言うなら俺に零落白夜は通じねぇからな……恐れる事はマッタクないんだよ!」
絶対天敵は親玉であるキメラに白騎士のコア人格が存在していた事で、白騎士の能力であり暮桜のワン・オフ・アビリティでもあった『零落白夜』の力を有しており、ISにとって最大の天敵とも言うべき力を有するに至っていたのだ。
其れもISコアを入手する事が出来たからなのだが、たった一つのISコアから此処までの驚異的な進化を遂げたと言うのは恐るべき事だろう――だが、其れでもアメリカに現れた絶対天敵は相手が悪かった。
夏月の羅雪には零落白夜は無力であり、夏月組の連携は非の打ちどころのないパーフェクトなモノであり、状況に応じて陣形を柔軟に変える事が出来ていたので超進化した絶対天敵に対しても有利に戦闘を行えていた。
「おぉぉぉ……燃え尽きろぉぉぉぉぉぉ!!」
中でもダリルの活躍は一入だった。
怒りの感情で限界突破したダリルの炎は鋼鉄をも余裕で融解させるレベルに達しており、其の高温の炎で焼かれた絶対天敵の表面装甲は溶け落ち、中身が剥き出しになったところに夏月組の鋭い攻撃が入って二体の絶対天敵が撃破されたのだった。
だが、残る一体の絶対天敵の表面装甲はダリルの炎を喰らってもビクともせず、それどころかカウンターの『灼熱のブレス』を放って来たのだった。
其れだけなら未だしも、夏月組とスコール&オータムと言う最強クラスの戦力が波状攻撃を行ってもビクともせず、最後の攻撃に合わせる形でカウンターのブレス攻撃を行って来たのだ。
其のブレス攻撃には零落白夜の効果はなかったようで、掠った程度ならば問題なかったのだが、逆に決定打が与えられないと言うのは良くない状況と言えるだろう。
「皆、一分だけ攻撃を止めよう。」
此処で夏月が広域通信で『一分だけ攻撃を止めよう』と言って来たのだが、此れは伊達や酔狂ではなく、夏月が戦局を分析した結果だった。
最後に残った絶対天敵は他の二体以上に堅く、ドレだけ攻撃しても倒れないどころか、カウンターのブレスを放って来たのだが、夏月はカウンターのブレス攻撃以外の攻撃はしてこない事に気付いたのだ。
だからこそ、『此の絶対天敵は自分からは攻撃せずに攻撃されたらカウンターを行うのではないか』と夏月は考えて一分の攻撃停止を行ったのだ――そして其の攻撃停止は意味があった。
此の一分間、絶対天敵は自ら攻撃をしなかったのだ。
「俺達からの攻撃待ちのカウンター型か……デカブツ二体を倒すまでは混戦状態だから気付かなかったけどよ。
なら、攻略法が見えたぜ……フォルテ、奴に可能な限りの冷たい攻撃を放て!そんでもってダリル先輩は其の攻撃に灼熱のカウンターをブチかましてください!」
「へ?意味分かんねぇっすけど、其れがコイツの攻略に繋がるんすね!?」
「カウンターか……OK、やってやるぜ!」
其の絶対天敵の特製を見破った夏月はフォルテとダリルに指示を出す。
其の指示に従ってフォルテが絶対零度レベルの氷の攻撃を絶対天敵に喰らわすと、其れを喰らった絶対天敵は同レベルの氷のブレスでカウンターを返して来たのだが、其処にダリルが灼熱のダブルカウンターを叩き込むと、絶対天敵はダメージを受けてもがき苦しんで見せた。
此の絶対天敵は自分からは攻撃しないカウンター型であると同時に、属性攻撃を受けた場合には其の属性と同じ属性になって同属性のブレス攻撃でカウンターを行う完全カウンター型の個体だったのだ。
属性カウンターが決まれば大ダメージを与える事が出来るが、其れは逆に言えば、異なる属性攻撃、しかも相克属性が存在しなければ絶対に倒す事が出来ない相手であり、絶対天敵の親玉であるキメラも其れを見越して此の個体を作ったのだろう。
だが、夏月組には水属性の楯無、炎属性のダリル、氷属性のフォルテが存在していたので、フォルテとダリルの『属性カウンター』が見事に決まった事で絶対天敵を追い詰め、最後はダリルの炎のカウンターで大ダメージを負った絶対天敵に楯無がナノマシンを通常の十倍散布してからの『クリアパッション』を喰らわせてターンエンド。
だが、アメリカでの戦いは此れで終わらず、此のテキサスを皮切りに、アメリカ各地に強化された絶対天敵が現れ、夏月達はアメリカ全土を飛び回る事になリ、各地の戦いは此れまでよりも苛烈なモノとなり、夏月達もノーダメージで勝つ事は出来なくなっていたが、全員が機体の『競技用リミッター』を解除していたのでロランの銀雷のワン・オフ・アビリティーである『アークフェニックス』の発動回数も制限がなくなったので、戦闘でシールドエネルギーが減少しても回復が容易だった事と、『アルティメットメディカルマシーン』による疲労の回復と怪我の治療も行われていたので連戦でも全く問題はなかった。
そうしてアリゾナ、アラバマ、オクラホマ等を転戦した後に、遂に大都市ニューヨークで絶対天敵と戦う時が来た。
ニューヨークに現れた絶対天敵は大型は一体だが、サイボーグ化したカマキリ型、クワガタ型、トンボ型、ヤシガニ型と言った此れまで幾度となく現れた個体の強化個体も現れていた。
大型個体も此れまで戦って来た個体よりもより機械的な外見となっており、生身の生物が鎧を纏っていると言うよりは『ロボット怪獣』のような外見となっており、紅く発光する目と重厚なガンメタルの外装甲が迫力満点だった。
また、強化された通常個体も空戦タイプのトンボ型、地上戦型のヤシガニ型、空陸両用のカマキリ型とクワガタ型とオールラウンドで戦える様になっているので普通ならば苦戦は必至だろう。
「オールラウンドで戦えるってんなら、動ける範囲を制限してやれば良いだけの事よ!
アタシのワン・オフ・アビリティ、『龍の結界』は結界を形作ってるチェーンに触れれば其の瞬間に『龍砲』が発射されるだけじゃなく、タバ姐さんの強化でプラズマ弾も発射出来るようになってる……プラズマ弾は触れただけで蒸発するから気を付けなさい!」
だが、どんな状況にも対応出来るのであれば其の利点を潰してやれば良いだけの事であり、鈴が自機のワン・オフ・アビリティである『龍の結界』を展開して絶対天敵達の動きを制限する。
圧縮空気弾である衝撃砲ならば絶対天敵に対して決定打にはならないのだが、より空気を圧縮したプラズマ弾であれば絶対天敵に対しても有効――と言うよりもプラズマ弾は当たれば対象を蒸発させてしまうと言う恐るべき兵器なので、絶対天敵と言えども喰らったら即死なのだ。
絶対天敵達も数体が結界から放たれたプラズマ弾によって即死した事で、チェーンに触れるのは危険と理解したらしく、其れによって動きが鈍くなってしまったので、そうなれば夏月達の敵ではなく、通常の強化個体は各個撃破され、大型は外装甲が『形状記憶合金』――つまりは硬化と軟化を一瞬で行える『液体金属』で構成されていたため攻撃を喰らっても、攻撃を喰らう瞬間に軟化して攻撃を受け流し、そして即座に修復する上に、身体の形状を変化させて腕を巨大な刀に変化させて攻撃してきたりと中々に厄介だったのだが、液体金属の弱点は超低温と超高温である事は、大ヒットハリウッド映画の『ターミネーター2』で明らかになっているので、外装甲が液体金属である事が分かった後は、簪とナギがグレネードランチャーに『氷結弾』を装填して其れを大型に喰らわせて凍り付かせると、楯無とダリルが最強の対消滅攻撃を放つ。
「喰らえや、最強無敵の対消滅攻撃!此れがオレ達の最強攻撃!『メドローア』!!」
「Hasta la vista, baby!(地獄で会おうぜベイビー!)」
水或いは氷と炎の合成によって放たれる対消滅攻撃は、巨大な氷像と化した絶対天敵を完全に消滅させたのだった――此の対消滅攻撃がある限り、夏月組が負ける事はまず無いと言えるだろう。
逆に、絶対天敵側が此の対消滅攻撃に対しての防御の術を身に付けたら、其れはある意味でISの力を得た以上に脅威であると言えるのだが。
ともあれニューヨークでの戦闘も勝利で終え、次いでアメリカの首都であるワシントンDCでの戦闘では大型は現れずに強化通常個体の大軍がやって来たのだが、其の程度では夏月達の敵ではなく、各個撃破した後にクマ型の個体に夏月とヴィシュヌが挟み撃ちからのボディブロー→アッパーカット→回し蹴り→ジャンピングアッパーのコンボを喰らわせて撃滅すると、残るゴリラ型に夏月が『キン肉ドライバー』を、ライオン型に楯無が『変形キン肉バスター』を極めて、上空で夏月の肩に楯無が肩車する形で乗っかり、そのまま地面に一気に突き刺さる!
「「マッスルドッキング!!」」
漫画『キン肉マン』における最強と言われているツープラトンを決めて絶対天敵を撃滅!
そして、首都のワシントンDCを守護した事で絶対天敵はアメリカ侵攻を此処で止めてアメリカ大陸から全面撤退したのだった――次の襲撃がないとは言えないが、其れでも絶対天敵を退ける事が出来たと言うのは喜ぶべき事だろう。
無論、絶対天敵が現れた州の被害は小さくはなかったのだが、其れでも『大型のハリケーンが上陸した』と思えば復興可能なモノであり、州の復興予算で充分に賄える程度だった。
とは言え、夏月達はアメリカの危機を救った英雄なので、夏月達はアメリカ大統領からホワイトハウスに招かれてアメリカ式の晩餐会を堪能した――其の晩餐会で、グリフィンがステーキ十枚をペロリと平らげ、更にローストビーフを丸ごと食べ尽くし、丸鳥のローストチキンを見事に平らげて見せた。
「夏月君、グリフィンの食べっぷりには一種の未来を感じてしまうのは私だけかしら?」
「楯無さん……其れは俺も感じたぜ。あの食欲はある意味で人類の進化の一つだろ。」
此れには晩餐会に参加した夏月達以外のメンバーは度肝を抜かれたのだが、米国大統領はその豪快さに逆に感動して盛大な拍手を送っていた。
――――――
一方で、イギリスに向かった秋五達は二体の大型と、数えるのも面倒になるくらいの通常個体の強化型が現れていた。
其れは数の暴力と言うモノだったのだが、秋五達には数の差は脅威ではなかった――イギリスにやって来た秋五達のチームにはセシリア、マドカ、ナツキと言った『一体多数』を得意とした者が居たからだ。
セシリア、マドカ、ナツキはマルチロックオンで多数の絶対天敵をロックオンすると、自機に搭載された火器を全開にして絶対天敵を撃滅し、大型に関しても絶妙な連携で特に苦戦する事もなく大型二体を含めた絶対天敵を撃滅したのだが……
『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
ほぼ全ての敵を撃滅したと思ったところで新たな大型の絶対天敵が現れた。
其れは先に撃滅した二体の大型よりも遥かに巨大な存在であり、全高は200mを優に超えていた――其れだけの巨体であるのならば、地上では自重で潰れてしまうのだが、ISの力を得ているのならば其の限りではなく、『リアルゴジラ』の如くイギリスの首都であるロンドンに、其の巨躯を現したのだ。
「コイツは……此れまでの敵とは違う!気を引き締めて行こう!」
「そうね……此れ以上イギリスの地を荒らさせはしないわ!」
当然、秋五達は其の個体を排除する為に行動を開始たのだが――
『ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
その巨大な絶対天敵は身を屈めたかと思った次の瞬間に全身からビームを放って、イギリスの首都であるロンドンを一瞬で廃墟と化してしまった――ロンドン市民は絶対天敵の襲撃と同時に地下シェルターに避難していたので市民に被害はなかったが、ロンドンの街並みは見る影もなく壊滅してしまった。
「く……掠っただけで此れほどとは……!!」
「思った以上に強化されているようだなコイツ等は……!」
更に其の全方位攻撃を躱し切る事が出来なかった秋五達は掠った程度の攻撃を喰らってしまい、其の結果としてシールドエネルギーをゴッソリと持って行かれてしまったのだった――そして其れは秋五達にかつてない危機的状況が訪れたと言う事を意味していたのであった……!
To Be Continued 
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