セシリアの誕生日とクリスマスを無事に祝った六日後、時は十二月三十一日、つまりは大晦日。
クリスマスから大晦日の六日間にも絶対天敵の襲撃はあったのだが、其れは各国の『地球防衛軍』が対処出来ていたので大きな問題ではなく、世界は新たな一年を迎えようとしていた。
「此れはまた、最近では稀に見る大規模な麻薬の売買ねぇ?
南米を拠点に活動している巨大麻薬カルテル『マッド・マックス・クレイジー・ドラッガー』がアジアでの販路を拡大してるって事は知っていたけど、まさか日本で此処までの大規模な取引を行うとは思わなかったわ。しかも年の瀬も年の瀬、大晦日の此の日に。更に真昼間からとは大胆だわ。
各地のカウントダウンイベントの警備に警察が人員を割いてるから狙い目だとでも思ったのかしら?」
「其の可能性は極めて高いだろうが、だとしたら彼等は少し浅はかであったと評価せざるを得ないね?
確かに警察はイベントの警備に人員を割いているが故に捜査や警邏の手が薄くなり、此の手の犯罪を未然に防ぐのは難しいのだが、そんな時に警察に代わって動くのもサラシキの仕事であり、同時にサラシキと繋がっているジャパニーズマフィアの仕事でもあるのだからね。」
そんな大晦日でも更識の仕事に休みはない。
本日は関東の神奈川県のとある埠頭にて南米を拠点にする巨大麻薬カルテル『マッド・マックス・クレイジー・ドラッガー』が大規模な麻薬の売買を行うとの情報を得たので、其の売買に係わる全ての人間を捕らえるためにこうして現場にやって来たのだ。
此の手の麻薬の売買は通常は人が少ない夜中に行われるモノであり、警察の麻薬捜査官も夜中に張り込むのだが、其の裏を掻いた真昼の取引とは大胆極まりない上にダミーの取引情報も幾つか流していた事で神奈川県警は捜査が難航し、更に今日は大晦日と言う事で各地のイベントの警備に人員を割いている為に此の麻薬取引に対応する事が出来なかった――のだが、更識では其の取引の正確な情報を簪と束が掴んでおりこうしてカチコミを仕掛ける事になったのだ。
そして此のカチコミを行うのは更識の実働部隊となっている『夏月組』だけでなく……
「ま、そう言う事ね……だから、頼りにしているわよ『鬼頭組』の皆さん?」
「任せて下さい更識の長のお嬢さん……俺達のシマでヤクをばら撒こうとしたクソッタレ共はキッチリとカタに嵌めてやりますんで。」
「おやっさんは何よりもヤクが大嫌いなのに、俺達のシマでヤクをばら撒こうとかこいつ等は自殺願望者なのか~?全員俺が現役時代のアルシンドにしてやるから覚悟しろ~~♪」
この一帯をシマとしている更識と繋がりのある極道も参加していた。
極道にとって自分達のシマを護るのは当然の事であり、シマにある店から『守代』を貰う代わりに其の店の用心棒も務めているだけでなく、シマ内に於ける警察でも対応し切れない事態に対処するのも仕事なのだ。
それ故に『シマ荒らし』に対しては相応の制裁を与えるのだが、『麻薬の売買』はシマを護る極道にとって、『武器の密売』と並ぶ最悪の『シマ荒らし』であるのでこうして更識と共に此の場所にやって来たのだ。
因みに此のカチコミにファニールは参加していないのだが、其れはアイドルとして大晦日の特番に多数出演+大晦日ライブ、紅白歌合戦出場と言う仕事があるからだ。
ヴィシュヌとグリフィンも大晦日のあるイベント参加が決まっているのだが、ファニールと違い一つだけなので準備運動としてカチコミには参加している。
「そんじゃ、行きますか……ジャンキーの生みの親共、地獄の獄卒よりもおっかない奴がやって来たぜぇ?」
「南米でも悪名高い麻薬カルテルがまさか日本にまで毒牙を向けて来るとはね……本体は何れぶっ潰すけど、先ずは日本に来たお前達を潰すから!」
「麻薬の取引……タイだったら貴方達は全員が最低でも十年は塀の中でしょう――尤も、其れでは済まないかもしれませんが。」
その一言と共に夏月が倉庫のシャッターを『元祖ケンカキック』で蹴り破ると同時に更識と鬼頭組のメンバーが倉庫内に雪崩れ込み、麻薬の売買を行っていたメンバーを次々と無力化して行った。
マッド・マックス・クレイジー・ドラッガーと、其れと取引を行おうとしていた半グレ組織も武闘派の構成員を連れて来ていたのだが、更識と真の極道の武闘派と比較したら其の戦闘力は月とスッポン、太陽とBB弾、漫画版万丈目と千丈目位の差があるのでマッタクもって相手ではなかった。
「マッスルスパーク・地+ビックベンエッジ!」
「これぞ最強のツープラトン!」
「「マッスル・キングダム!!」」
あっと言う間にその場に居た者達を無力化すると、麻薬カルテルの日本の最高責任者と半グレ組織のリーダーに対して夏月と楯無が『キン肉マン史上最高のツープラトン』との呼び声も高い『マッスル・キングダム』を極めて完全KO!
此れにて大規模な麻薬の売買は阻止されたのだが、其れに係わった人物は更識では処分せず、その処分は其のシマの極道の仕事だった――先にも述べたようにシマ内での麻薬の取引は最悪のシマ荒らしなので、同じ事が二度と起こらないように、極道は見せしめの意味を込めて関係者を可能な限り惨たらしく殺し、其の上で中堅幹部以上の存在を半生半死の状態にした上で所属組織に送り返し『俺達のシマを荒らしたらどうなるか』と言う事を示していたのだ――無論此れは普通に暴行と殺人なのだが、警察組織と極道は戦前から深い繋がりがあり、表では対処し切れない裏世界の秩序維持を任されたのが極道なので、極道のヤキ入れに関しては警察も黙認状態なのである。
「お嬢さん、俺達は此れで。此のクソッタレ共を型に嵌める仕事が残ってますんで。」
「お疲れ様。精々キッツいヤキを入れて上げてちょうだいな♪」
「言われずともと其の心算です……俺達のシマでヤクをばら撒こうとしたって事を骨の髄にまで後悔させてやりますよ――俺は数年前から鰹節と外道が区別出来なくなっちまってるんで、鉋で削ってやります。」
「外道の削り節……凡そ出汁にはなりそうにはないわね。」
ともあれ、この大規模な麻薬の売買は事前に阻止され、其れに係わったメンバーはシマを護る極道によって、『法の裁きを逃れた外道』に与えられる更識の拷問をも超える極道の拷問によって凄まじい苦痛を与えられた末に一人を除いて絶命し、東京湾の外洋に錘付きで沈められ腹を空かせた肉食の魚達の養分となるのだった。
そして此処で押収された麻薬は更識が接収した後に、鈴と乱の専用機のプラズマ砲で跡形もなく消滅させられた――末端価格は1gで五桁になる麻薬だったのだが、麻薬は百害あって一利なしの典型なので処分一択だったのである。
取り敢えず、新年を迎える前にこの巨大犯罪を阻止出来たので、更識は午後は平和な大晦日を過ごす事が出来るだろう。
夏の月が進む世界 Episode78
『大晦日と正月と新たな戦い~Die schlimmste Entwicklung~』
大晦日と言えば定番の大晦日のテレビ番組があるだろう。
NHKの『紅白歌合戦』は鉄板として、民放各社の『年末格闘技大会』、『笑ってはいけない○○』等々様々なのだが、更識家に於いてはNHKの『紅白歌合戦』と民放フジの年末格闘技イベント『Dynamite』が注目されていた。
と言うのも、『紅白歌合戦』にはコメット姉妹の『メテオ・シスターズ』が出場しており、『Dynamite』にはヴィシュヌとグリフィンが出場するからだ。
コメット姉妹の『メテオ・シスターズ』はカナダ国内だけでなく国外でも高い人気を博しており、日本でも新作アルバムが軒並みミリオンセラーを記録した事で押しも押されぬトップアイドルとなっていたので紅白歌合戦に出場するのは当然だったと言えるだろう。
一方で『Dynamite』に出場するヴィシュヌとグリフィンは、アマチュアながらもヴィシュヌはタイ国内での『未成年チャンピオン』になっており、グリフィンも南米の『総合格闘技大会』で優勝している上に、『世界初の男性IS操縦者の婚約者』と言う肩書もあり、そんな彼女達がリングに上がれば視聴率も上がると考えたテレビスタッフによって半ば事後承諾のような形で参戦が決まったのだった――其れに対して夏月はブチ切れかけたのだが、ヴィシュヌは『母の道場経営が良くなる』という理由で、グリフィンが『ママ先生の孤児院の運営資金が得られるかな?』との理由があったので、夏月はギリギリで理性を保ったのだった。
尤も其れでも『ヴィシュヌとグリフィンに二流以下の相手を当てがってお茶を濁すなよ?』と夏月が番組プロデューサーに圧力をかけた事でヴィシュヌとグリフィンの相手が二流以下になる事はないだろう。
そうして始まった年末特番の二大巨頭。
先ず紅白歌合戦では紅組のトップでコメット姉妹の『メテオ・シスターズ』がリリースされたばかりの新曲を披露して会場を大きく盛り上げたのだが、コメット姉妹が新曲を歌い上げた後で、伝説的アイドルの『安室〇美恵』が会場に現れてコメット姉妹と共に自身のヒット曲とメテオ・シスターズのヒット曲のミックスメドレーを歌い上げると言うサプライズをやってくれた。
コメット姉妹にとっても安室〇美恵はアイドルとして憧れの存在だったので、其の憧れの存在とステージを共に出来たと言うのは此の上ない『アイドル冥利に尽きる』モノだっただろう。
テレビ局側は引退した安室〇美恵を再びメディアに登場させるのに相当な交渉を繰り返しており、最終的には安室の方が何れ自分を超えるトップアイドルになるであろうと感じたメテオ・シスターズとの共演を条件にOKを出したと言う裏側があったりする。
同時に安室との共演はファニール姉妹にとっても良い刺激になっていた――と言うのも齢四十を超えてなお現役の自分達と遜色ないキレのあるダンスを披露してくれた事で、『自分達はマダマダアイドルとしては本当の意味でトップになっていない』と感じ、此の共演が後にコメット姉妹のアイドルとしての能力を大きく伸ばす事になるのだった。
こうしてコメット姉妹にとってはサプライズだった紅白歌合戦での出番が終わり、コメット姉妹の大晦日の仕事も此れで終了と相成った。
コメット姉妹は大晦日の本日、午前中に民放の情報番組の大晦日拡大版に出演して前日のレコード大賞で大賞を獲得した楽曲を披露した後に、昼の特番では民放各局を転々としながら様々なクイズやゲームを行い、十五時からは両国国技館で三時間の大晦日ライブを行い、ライブ後には三十分のサイン会を行った後にNHKホールに移動して紅白に出場すると言う中々のハードスケジュールであり、紅白出場を終えた後ファニールは更識邸に、オニールは織斑家に向かうのだった。
「まさか伝説的アイドルが登場するとは思わなかったが、其れに喰われずにほぼ対等にステージを熟したファニールとオニールはやっぱりスゲェよ……今更だけど俺と秋五、全世界のメテオ・シスターズのファンから恨まれてるんじゃね?」
「恨まれるよりも羨望の方が大きいと思う。
恨んで夏月と織斑君を害する事の方がファンとしてはコメット姉妹を悲しませる事になるって分かってるから……其れを理解しないで恨みつらみをぶつけて来るのは所詮『にわか』に過ぎないから大丈夫。」
「にわかファンと言う存在は、真のファンにとっては迷惑極まりない存在でしかない……表面だけ見て、中身をまるで理解していない訳だからね。」
コメット姉妹の見事な紅白のステージの後はチャンネルを変えてDynamiteのテレビ観戦だ。
チャンネルを変えると丁度グリフィンの試合が始まるところであり、グリフィンと対戦相手の女性格闘家の経歴が映像付きで紹介され、試合前のインタビュー映像も公開されていた。
そして映像はライブに切り替わり、リングアナウンサーのコールによって先ずは対戦相手の女性格闘家が入場し、続いてグリフィンが『2D格闘ゲームの伝説的タイトル』と言われている『CAPCOMvsSNK2』でも屈指の名曲と言われている真のラスボスの一人である『ゴッド・ルガール』のステージBGMの『Load
Of God』で入場して会場を沸かせ、リングイン後には入場時に着ていたTシャツを破り捨てると言う豪快なパフォーマンスを見せて更に会場を盛り上げていたのだった。
そんなグリフィンの出で立ちは、赤いハイネックタンクトップと赤いボクサーブリーフタイプのスパッツに赤いオープンフィンガーグローブと言うモノで、褐色の肌と目の覚めるような空色の髪と燃えるような赤がジャストマッチしていた。
試合形式はバーリトゥードルールで、目潰し以外は何でもありで、一ラウンド五分で判定なしの無制限ラウンドと言う完全決着型の試合形式だ。
判定がないと言う事はポイントになる攻撃は意味がなく、確実に相手を倒す事が出来る攻撃をする必要があり、必然的に激しい試合で攻め合う展開となるので、『完全決着』を好む日本人には燃える試合展開となるのは間違いないだろう。
そして始まった試合、グリフィンは一ラウンド目から仕掛けた。
試合開始直後にまさかのドロップキックで奇襲すると、まさかの奇襲でガードをした相手を着地と同時に掴むと強引に持ち上げてアルゼンチンバックブリーカーで締め上げてダメージを与えると、其のままデスバレーボムでリングに突き刺してから一度間合いを離すと、立ち上がろうとして片膝を付いたところにステップで近付くと、電光石火のシャイニングウィザードを一閃!
見事に側頭部をジャストミートされた相手は再びダウンし、其処にグリフィンがこれまた電光石火でマウントを取ってマウントパンチを繰り出す!
しかし相手も流石はプロであり、巧みなガードでクリーンヒットを許さず、一瞬の隙を突いて下からの三角締めを極めて逆にグリフィンを攻める。
下からの三角締めを極められた場合は腕を抜くよりも身体を押し込むようにして首が締まらないようにするのがセオリーなのだが、此処でグリフィンはなんと三角締めを極められたまま相手を持ち上げ、其のまま自分の膝に背中を落としてダメージを与えて強引に三角締めを振りほどくと、此の反撃によってダウンした相手に逆エビ固めを極めて締め上げる。
ガッチリと腰を落とした上で反りを利かせた逆エビ固めから逃れるのは困難な上に、試合開始直後のアルゼンチンバックブリーカーと三角締めへのカウンターの背骨折り攻撃で背中を痛め付けられていた相手は此の攻撃を耐える事は出来ずにタップアウトし、グリフィンはプロを相手にして一ラウンドでタップアウト勝利を収めて見せたのだった。
其れに続き今度はヴィシュヌの試合だ。
此の試合もまたヴィシュヌの方が後から入場し、入場BGMは『空の軌跡シリーズ』の名曲と言われている『Fateful Confrontation』のアレンジ版の『Maybe
it was fated −Instrumental Ver.−』であり、其れだけでも会場は大盛り上がりだったのだが、リングインしたヴィシュヌが入場の際に纏っていたフード付きのガウンを脱ぐと会場は更に盛り上がった。
ヴィシュヌの出で立ちは先のグリフィンとほぼ同じモノだったのだが、タンクトップとボクサーブリーフタイプのスパッツは純白であり、其れが褐色の肌と『光属性モンスターとオネスト』並みの抜群の相性の良さを演出していたと同時に、純白のタンクトップに包まれた胸部装甲も影響しているだろう――先のグリフィンも中々に見事だったのだが、ヴィシュヌの胸部装甲は90㎝を越えているので野郎の観客の視線は否応なしに其処に向かってしまうのだった。
それはさて置き、ヴィシュヌの試合はグリフィンの時とは異なり、立ち技の打撃オンリーのルールで一ラウンド五分の判定なしの無限ラウンドと言うグリフィンよりも厳しいモノだった。
勝つにはKOかTKOしかないと言うのは、ある意味で最上級のデスマッチと言えるのだが、そんなデスマッチでもヴィシュヌは怯む事はなかった。
試合開始と同時に一足飛びで間合いを詰めるとムエタイの特徴である拳脚一体の激しい攻撃で攻め立てて相手を防戦一方にする――其れだけなら立ち技オンリーの試合では珍しい事ではないのだが、ヴィシュヌはムエタイの特徴とも言える肘の攻撃を行って相手を攻め立てる。
日本の『立ち技の打撃オンリー』となると拳と蹴りがメインとなるのだが、ムエタイでは肘と膝の攻撃もOKであり、此の試合での反則は『目潰し』と『組み技』だったのでヴィシュヌは遠慮せずに肘での攻撃を行ったのだ。
肘での攻撃はリーチは短いが、拳打の後に叩き込む事も可能な上に、膝と並んで人体で最も鋭くて硬い部分での攻撃でもあるので、真面入ったら戦闘不能は不可避なのだ。
「ちぃ、ギリギリ回避!」
ヴィシュヌの対戦相手も直撃は回避したモノの、バッチリとヴィシュヌの肘で右目の上を切られてしまった――とは言え傷は浅いので出血はそれほど多くなかったのだが、目の上を怪我した事で視界が悪くなって防御の比率が大きくなってしまった。
だが、防御を固めた事でヴィシュヌからクリーンヒットを貰う事なく其のまま第一ラウンドが終了。
インターバルの間に相手は切れた目の上に止血剤を塗り込んで出血を止めると、其処を紙テープで固定して強引に視界を確保すると気合を入れ直してから第二ラウンドがスタート。
第二ラウンドは初めから互いに近距離での激しい打ち合いとなったのだが、互いにクリーンヒットは許していなかった。
ヴィシュヌは更識の仕事をするようになってから夏月から空手を、楯無から柔術を習っており、其れが拳脚一体のムエタイと融合した結果ヴィシュヌのバトルスタイルは攻防一体のモノとなっており鋭い攻撃と堅牢な防御が同時に行われていたのだが、対する相手も第一ラウンドで防御に徹した事でヴィシュヌの攻撃をほぼ全て経験していたのでヴィシュヌと比べるとやや攻め手に欠けるモノのクリーンヒットは許さなかった。
判定ありの試合ならばヴィシュヌが絶対的に有利なのだが、判定なしの試合ならば攻め手に欠いても問題ではない――要は最終的に勝つ事が出来れば良いのだから。
激しい打ち合いの果てに第二ラウンドも終了したのだが、続く第三ラウンドも初っ端から打ち合いとなり此のままでは似たような展開の泥仕合が展開されるかと誰もが思った時に其れは起きた。
「ハッ!」
「!?」
近距離での打ち合いを行っていたヴィシュヌが突如としてバック転を行ったのだ。
否、其れはタダのバック転ではなくバック転と同時に蹴りを放つ格闘ゲームでお馴染みの『サマーソルトキック』であり、相手はギリギリで其れを回避したモノの、近距離での突如の蹴り上げに一瞬動きが止まってしまった。
そして其の一瞬の隙は戦いでは致命傷となる。
「行きます!」
ヴィシュヌは一足飛びで間合いを詰めると拳打と蹴りの超ラッシュを叩き込むと最後に変則的な二段飛び蹴りをブチかまし、此れを喰らった相手はダウンし、レフェリーが様子を確認するとラッシュ攻撃のフィニッシュブローである変則二段飛び蹴りに一発目が側頭部、二発目が下あごにヒットしてた事で目を剥いて失神しており、レフェリーはダウンカウントを取らずに腕を頭上で交差してから降ろす動作を二~三回ほど繰り返し、其の後に試合終了を告げるゴングが鳴り響きヴィシュヌのTKO勝ちとなったのだった。
尚、グリフィンもヴィシュヌも『試合後のインタビュー』には当たり障りのない対応をしてから会場から更識邸へ戻って行った。
そして二十時にはファニール、ヴィシュヌ、グリフィンが更識邸に戻って来たので、此処で改めて更識邸の忘年会がスタートした。
尤も既に大人達は忘年会が始まっており、良い感じに酒が入って忘年会特有の『無礼講』の空気が出来上がっている訳なのだが――其れとは別に夏月組の忘年会は始まった。
大晦日の宴と言う事もあって夏月も気合が入り、忘年会のメニューは『サーモンとホタテのカルパッチョ』、『レンコン、ズッキーニ、ナスのグリル』、『フライドポテト三種(のリ塩、カレーチーズ、明太バター)』、『ローストビーフ』、『ローストチキン』、『ローストポーク』、『根菜のクリームシチュー』、『冬野菜のシーフードカレー』、『三種のキノコ入りのビーフシチュー』等のごちそうが並んだだけでなく、グリフィンが『大晦日のお祝いならこれは外せない!』と言って何処から持って来たのか丸々一頭の羊も急遽作った土釜の中で丸焼きにされて提供されていた。
其の忘年会はビュッフェ形式だったので各々が自分で料理を取る形だったのだが……
「うん、こうなるだろうなとは思ってたけど凄いっすねグリ先輩。」
「何度も取りに行くの面倒だから♪」
グリフィンが両手に持った皿には見事なまでの『料理のタワー』が出来上がっていた。
しかも其の料理のタワーは夫々が1メートルを超えると言う凄まじいモノだったのだが、グリフィンは席に着くと同時に其の料理のタワーを物凄い勢いで食べてタワーを低くして行き、モノの十分後には料理のタワーは二棟ともなくなったのだが、其れで止まるグリフィンではなく二周目も同じ料理タワーを平らげた挙句に羊の丸焼きの両足までをも骨しか残らない完食をしてのけ、忘年会に参加していた者達を驚かせた……だけでなく、其処から更に『プリンアラモード』、『生クリームのゼリー、イチゴムーストッピング』、『桃のチーズケーキ』、『季節のフルーツのゼリーよせ』、『マロンケーキのぎゅうひ包み』、『紅玉のアップルパイ』、『ガトーショコラ』のデザートもフルコンプリートして見せたのだった。
大人組は酒も入っている事で忘年会は盛り上がっているのだが夏月組の方はデザート後はカラオケ大会やゲーム大会が行われて盛り上がっていた。
カラオケ大会では簪がアニソンで高得点を叩き出して無双するかと思いきや、ロランがまさかの演歌で高得点を叩き出して簪と競り合い、最後は0.1点差でロランが勝利した。
ゲーム部門では格闘ゲームと遊戯王では夏月が他を寄せ付けない強さを発揮して無双していた。
ストリートファイターではザンギエフを、KOFⅩⅤではクラーク、シェルミー、オロチ社の『投げキャラチーム』で圧倒的に勝ち、遊戯王では『青眼デッキ』を使って連勝していた――遊戯王に於いては全ての『HERO』を詰め込んだ簪の『超HEROデッキ』が奇跡的なデッキ回転を見せて夏月に次ぐ二位となっていたのも注目すべきところだろう。
そうしてゲーム大会も終わったところで良い時間になったので年越し蕎麦の時間だ。
ゲーム大会では格闘ゲームや遊戯王だけでなくツイスターのような身体を動かすゲームも多数行われていたので良い感じに腹も空いているので年越し蕎麦を食すには良い感じの腹具合なのである。
其の年越し蕎麦は勿論ただの年越し蕎麦ではない夏月特製のモノであり、汁は最高級の鰹節の枯節と北海道の日高産の昆布を此れでもかと言う位にふんだんに使って出汁を取ったところに、京都産の白醤油を小さじ一杯だけ加えた上品なモノとなっており、蕎麦は長野県産の蕎麦粉を使ったのど越しの良い二八蕎麦で、トッピングには半熟卵の天婦羅、鮭のすり身の揚げカマボコ、旬の牡蠣を炭火で焼いた焼き牡蠣が乗った超豪華版の年越し蕎麦だった。
「此れだけの具材を乗せると普通は汁が濁ってしまうモノなのだけれど、汁は澄んでる上に具材の味に負けてないし蕎麦の風味も感じる事が出来るのだから此れは尋常ならざる手腕と言う他はないわよね。」
「半熟卵の天婦羅と鮭の揚げカマボコは二番絞りのオリーブオイルを使って揚げてるからサラダ油で揚げるよりもしつこくないから蕎麦の汁の味を濁し難いんだ。
蕎麦の汁自体も出汁を濃く取ってるから少しばかりの油や具材の味で濁る事はないめっちゃ強い出汁になってるからな。」
「生七味唐辛子で味変すると更に美味しさが広がりますね。」
その最高の年越し蕎麦を堪能した後には、更識邸内にある露天風呂・家族用(家族用は混浴)でゆったりと温まってから除夜の鐘を聞きながら就寝。
そして其れから凡そ五時間後、夏月組の面々は目を覚まして夜明け前の街に繰り出して東京湾を臨む埠頭にやって来ていた。
目的は初日の出を拝むためだ。
元旦には富士山や高尾山と言った山の頂上で御来光を拝む人も多いのだが、山の山頂よりも海岸の方がより早く初日の出を拝む事が出来るので、海辺に集まる人も少なくなかった。
「お前達も来てたのか秋五。」
「初日の出を拝まないと新年って気がしないからね。」
埠頭には秋五組の面々も訪れており、夏月組と共に初日の出を拝み、そして初日の出をバックに記念撮影を行って初日の出観覧は終わり、一度夫々の家に戻ると、今度は女子組は振袖に着替えてから初詣に。
夏月は袴姿ではなく、スラックスに長袖のシャツに革ジャンと言うラフなファッションだったが、女子組が振袖で動き辛いので何かあった時の為に動き易さを重視したと言ったところだろう。
振袖美少女の集団は当然のように注目されていたのだが、中でも注目を集めていたのはヴィシュヌとグリフィンだった――褐色肌のエキゾチックな美少女と振袖の組み合わせの攻撃力はエクゾディアレベルで道行く人が思わずスマートフォンで撮影していたのである。
最もヴィシュヌもグリフィンもそんな事は全く気にせず、夏月と共に本殿で新年のお参りをしていたのだが。
因みに夏月組は全員がお賽銭に500円玉硬貨を投げると言う中々の大盤振る舞いをしていたのだった。
お参りを終えた後はサービスとして振る舞われている甘酒で暖を取ってからおみくじを引いたのだが、夏月組は全員が中吉以上と言う中々に良い結果となったのだが、少し時間が遅れてから初詣に訪れた秋五組ではシャルロットが『正月は抜いている』とまで言われいる『凶』の、其れも『大凶』を引き当てると言うある意味では凄まじいレベルの強運ならぬ凶運を発揮していた。
初詣後は新年会となり、更識邸では夏月お手製の豪華な御節料理が振る舞われて来客をもてなし、夏月達も別室にて御節料理を堪能した後に正月特有の遊びに興じていた。
特に盛り上がったのは羽根つきで、負けた方が顔に墨で落書きされると言う事もあって白熱した羽根つきバトルが展開され、各々勝ったり負けたりだったので全員が見事に顔に落書きされていたのだった。
「で、なんで俺はグレートムタになってんだ?」
「作者の趣味ね♪」
「身も蓋もねぇなオイ。」
そんなこんなで元旦を目一杯楽しみ、午後には餅つきが行われて、つき立ての餅を堪能し、そして夜には夏月の嫁ズが夏月に迫って姫初めと相成ったのであった――そして其れは秋五の方も同じだった。
――――――
新たな年が明け、新年からの三が日は平穏な時が過ぎて行ったのだが、一月四日に其れは突如として現れた。
『ギギャァァァァァァァァァァァァァァ!……グガァァァァァァァァァァァァ!!』
其れが現れたのは今はウクライナをはじめとした周辺国が領土を分け合った旧ロシア国内。
現れた存在はゴジラ並みの巨躯だったのだが其の表面は生物の皮膚ではない金属製の装甲版で覆われていた――この巨大な異形の出現に旧ロシアを分割統治している国々は即座に自国のIS部隊を送った。(地球防衛軍の部隊員を送るのはまだ早いと判断した。)
だがしかし、其のIS部隊は巨大な異形が放った『デストロイ・ギガ・レイズ』級の全方位殲滅攻撃によって全滅してしまった――ISの力を得た絶対天敵が本格的に地球侵攻を開始したのだ。
そして其れは、地球人類と絶対天敵の戦いが本格化して何方も絶対に退く事のない全面戦争に突入すると言う事を意味しているのだった……
To Be Continued 
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