ISコアを手に入れた絶対天敵はキメラがコアの力を分散して絶対天敵に与え、キメラもISコアの力を宿した子供達を大量に生み出し、絶対天敵は種としての力を底上げしたのだが、ISの力を手にしたのと同時に其の攻撃は散発的なモノとなり、更には各国の部隊で其れに対処する事が出来ていた事もあってIS学園に駐屯している『龍の騎士団』が出撃する機会は激減し、IS学園は通常の学園運営となっていた。
絶対天敵の出現によって開催が危ぶまれていた『キャノンボールファスト』も無事に執り行われ、当然の如く各学年とも専用機持ち同士が激熱のデッドヒートを展開してくれたのだが、一番の盛り上がりを見せていたのは一年生の部だった。

今年の一年生はIS学園始まって以来の粒揃いとなっており、専用機持ちの人数も過去最多となっている事と夏月と秋五、二人の男性操縦者の存在もあって注目度も高く、悪乗りした新聞部が『競馬新聞』の如き特別号を刷り上げたくらいなのである。
一応一般生徒が使う訓練機との性能差を考えて、専用機持ちは『一周回遅れ』の状態から、更に『騎龍シリーズ』を使用しているパイロットは『二周回遅れ』の状態からスタートとなるのだが、其れでも騎龍シリーズの性能は凄まじく、単純なスピード勝負でもあっと言う間に二周回差を埋めてしまい、更にはキャノンボールファストはタダのレースではなく自機に搭載された武装を使っての攻撃もルールで認められている『リアルマリオカート』な一面もあるので、純粋なスピード勝負ではなくバトルレースとなったレースに於いても騎龍シリーズは圧倒的な性能をもってしてレースを制しており、唯一マドカだけが騎龍シリーズを使わずに準決勝までコマを進める展開となった。

そして一年の部の決勝戦は夏月と秋五、そしてマドカの『織斑計画組』が全員出場する事になり、此の三人以外にはヴィシュヌと鈴が決勝にコマを進めていた。
ヴィシュヌは騎龍シリーズの中でも極端に装甲が少ない事で機体重量が軽いので騎龍シリーズ屈指のスピードを誇り、鈴は其の体型故に空気抵抗が他と比べて小さかった事が有利に――


「ぶっ殺すわよ、天の声?」


……なった訳ではなく、身に付けた中国拳法の身の熟しはレースでも有利に働いた様だった。
ともあれ決勝戦が始まり、マドカ以外はマドカから一周遅れの状態でのスタートとなったのだが、其処は直ぐに同周回に追い付き、其処から互いに退かないバッチバチのデッドヒートが展開され、更にはマドカがビットを展開して攻撃した事で決勝戦はバトルレースへと変貌した。
マドカ以外は基本的に近接型の機体なので、ビット兵装を有するマドカが有利になるかと思いきや、ヴィシュヌがクラスター・ボウを拡散撃ちしてビット兵装を全て破壊してサイレント・ゼフィルスの優位性を奪うと、鈴が突撃して近距離でのプラズマ砲を喰らわせてマドカを行動不能にし、其処に秋五が斬り込んで鈴を行動不能にしたのだが……


「此れで終いだ……カイザーァァァ、ジェノサイド!!」

「母直伝……タイガー・バリー・アサルト!」


其処に夏月がムエタイの帝王直伝の膝蹴りから二連続のアッパーカットのコンボを、ヴィシュヌが母のガーネットから直伝された奥義である二連続のハイキックから飛び蹴りに繋ぐ連続技を決めて秋五を行動不能にして夏月とヴィシュヌが見事なワンツーフィニッシュを決めたのだった。
其の後行われた三位決定戦では、マドカが『姉の意地』を見せて秋五と鈴を抑えて表彰台を勝ち取っていた――とは言え、『弟達に良いところを見せたかった』マドカとしては、決勝戦で最初に行動不能になってしまったと言う結果は不本意極まりなかったのだが。


「何が何でも優勝したかった……弟であるお前達に、お姉ちゃんとして凄いところを見せたかったのに……悔しい!あまりにも悔し過ぎて、エヴァの初号機か暴走庵の如く暴走してしまいそうだぞ私は!」

「OK、落ち着け姉。」


其の結果に納得できなかったマドカは危うく暴走し掛けたのだが、其処は夏月が『更識の裏の仕事』で身に付けた『俺じゃなかったら見逃しちゃうね』と言うレベルの手刀をマドカの延髄に喰らわせてマドカの意識を刈り取り、暴走を喰い止めたのだった。

こうしてキャノンボールファストは一年生の部は一位が夏月、二位がヴィシュヌ、三位がマドカと言う結果となり、二年生の部は楯無が制し、二位にグリフィン、三位にダリルと言う結果となった。
三年生の部は、イギリスのサラが制し、二位にベルベットが収まる形となり、三位に虚が流れ込むと言う結果になったのだった。

そんな感じでIS学園は二学期最後の大型イベントを無事に終え、残るは学園の生徒達にとって冬休み前の最後の敵である『二学期末試験』が近づいており、生徒達は単位を落とさないように必死に勉学に勤しむのであった。









夏の月が進む世界  Episode77
『冬期休暇と裏の仕事と誕生日と~The Nice Day~』










冬休み前の最大の敵である『二学期末試験』は二日に渡って行われ、試験三日後には掲示板に学年別の成績が貼り出されたのだが、一年の成績は一位から十八位までが夏月と秋五、そして其の嫁ズが総合点で同率で並ぶと言う異例の事態となっていた。
科目別で多少の差異はあるモノの、総合点で同率になると言うのは珍しい事であり、更にそれが十八人もの人数で起こったとなれば其れは最早天文学とも言える確率なのだが、実際に起きてしまったのであれば文句の言いようもないだろう。
加えて驚くべき事は飛び級組である乱とコメット姉妹が此の十八人の中に入っていると言う事なのだが、飛び級でIS学園に入学したと言うのは単純にISの操縦技術が高いだけでなく、学力に関しても並の高校生以上の成績を誇ると言う事でもあり、そうであるのならば勉学に関してもスタートラインは他の生徒とほぼ同じなので、其処で努力を積み重ねればトップ集団に名を連ねるのは当然の結果であったのかもしれない。
二年生では楯無がトップで、三年生では虚がトップだったのは言うまでもない事なのだが、一年生のまさかの奇跡とも言うべき『十八人同率首位』と言う結果に新聞部は号外を刷る事になったのだった。

とは言っても其れは問題となる事でもなかったので期末試験後の日々を平和に過ごした後に、二学期終業式を迎えて学園の生徒達は冬休みに突入したのだった。

夏休みと比べればその期間は短いのだが、其れでも二週間以上の長期休暇となり、クリスマスに大晦日に正月と、ある意味では夏休みよりも短期間にイベントが集中するので濃密な長期休暇になるとも言えるだろう。
因みに二学期の通信簿は、夏月組も秋五組も『平均評価4.5』と言う優秀さだった。



そんな感じで冬休みとなったのだが――


「貴方の両親を理不尽に殺した奴が法の裁きを受けずにのうのうと暮らしているか……アハ、此れは更識が動かない理由は無いわね♪」


夏月組には『更識の仕事』が舞い込んで来ていた。
『法の裁きを受けない外道を外法で裁く』のも日本の暗部である更識の仕事であり、其れ故に理不尽な理由で家族や大切な人を喪った人々が、故人の無念を晴らす為に訪れる事も少なくないのだ。
そして今回の依頼者は、『逆恨みの犯行で両親を喪った少女』であり、更に其の少女は『未来の撫子ジャパン』を目指しているサッカー少女で、今年のインターハイの優勝校のエースストライカーでもあった。
そんな彼女の父親はJリーグでも通用するレベルのアマチュアリーグの選手であり、引退後は後進の育成に精を出しており、現在はある社会人チームの監督を務めており、そのチームは今年の社会人リーグで優勝をしたのだが、優勝を決めた数日後、両親が揃って外出した際に何者かに攫われ少女と連絡が取れなくなってしまい、不審に思った少女が警察に捜索願を出したところ、数日後に郊外にある廃倉庫で変わり果てた姿の両親が発見されたのだ。
警察は殺人事件として捜査を開始したモノの目撃情報が殆どなく、廃倉庫付近には防犯カメラも設置されていなかった事もあり捜査は難航――だが、少女の友人には親がジャーナリストとして働いている者が居たので、少女は友人に頼み込んでジャーナリストの親に調べて貰ったところ、なんと容疑者が発覚したのだ。
両親を殺したのはとある半グレ組織なのだが、其の半グレ組織のリーダーが父親が監督を務めていたチームとリーグ最終節まで競ったチームの監督だったのだ――其処まで競っていたのはチームとしての実力が拮抗していたからであり、最終節の直接対決で勝った方が優勝と言う状況だったのだが、相手チームの監督を務めていた容疑者の男は、あろう事か少女の父親に所謂『八百長』を持ちかけて来たのだ。
と言うのも、此の男は所属チームのオーナーから『今季優勝したら特別ボーナスとして百万出す』と言われており、其のボーナスを手にするために八百長を持ちかけて来たのだが少女の父は其れを断り、結局最終節での直接対決では純粋にチームを勝利に導こうとする姿勢とボーナスに目が眩んだ姿勢で差が出てしまい終わってみれば少女の父が監督を務めているチームが3-0で圧勝したのだ。
だが、相手チームの監督は負けて優勝を逃した事でボーナスの話がなくなり、更には最後の最後で無様な負けを喫した事で監督を解雇されてしまい、結果として少女の父を逆恨みし、配下の半グレ組織を使って父親だけでなく其の妻諸共誘拐した後に、遺体を発見した警官ですら目を覆いたくなる程の惨たらしい暴行を加えて殺害したのだ。
更に男には警察内部の上層部に知り合いが居り、其の相手に金を握らせて自分に捜査の手が及ばないように画策し、人を二人も殺しておきながら法の裁きを受けずにのうのうと暮らしているのだ。
此れだけの事をしていると言うのであれば更識が動かない理由は存在しないのだが、何よりも涙ながらに『両親の敵を討ってほしい』と懇願する少女の慟哭を無視する事など出来なかった。


「外道に生きる資格は存在しない……今夜、ターゲットを狩るわ。簪ちゃん、ターゲットが何者か分かるかしら?」

「勿論。
 今回のターゲットは社会人チームの監督って言う表の顔の他に元暴力団で半グレ組織のリーダーと言う裏の顔を持っている。
 自分と同じ暴力団崩れのチンピラを集めて作り上げた半グレ集団『未糸総素(ミートソース)』の……ハッキリ言って最悪のお山の大将。
 因みに今日は金曜日だから顔見知りの警察関係者と一緒にキャバクラに行く可能性が高い……そしてそのキャバクラは更識と繋がってる極道の資金源だから、ターゲットの確保はしやすいと思う。」

「流石簪ちゃん、欲しかった情報を全て持って来てくれたわね♪
 ……なら、今夜は其の店を外道達の貸し切りにしてあげましょう――地獄を見る前の最後のお楽しみってね♪ウフフ、久しぶりの裏の仕事だから腕が鳴るわぁ♪」


久しぶりの裏の仕事と言う事で夏月組は気合が入っており、日が暮れる前から簪が絞った『ターゲットがやって来るであろうキャバクラ三選』の店の前で三チームに分かれて張り込みを行っていた。
因みに『更識と繋がりのある極道』とは『日本の暗部』と通じていると言う事であり、其れはつまりは『日本国公認の極道』と言う事でもあるので正式な『法人』として存在し、警察では目の届かない『裏社会の番人』として存在しているのだ。

そんなこんなで張り込みから数時間後に夏月と楯無のチームが張り込んでいた店にターゲットが入店した事を確認すると、他の店を張り込んでいたメンバーを招集し、全員が揃ったところでいざカチコミ開始。


「腐れ外道共が、最後の晩餐は楽しんだか!?」


先ずは夏月がキャバクラの扉を蹴り開けると、続いて楯無達がキャバクラ内に雪崩れ込む――と同時に、事前に連絡を受けていた店側はホステスがあっと言う間に避難して夏月達が思い切り戦える場を整えると言う見事な対応をして見せた。
イキナリの事態に驚いたターゲットと其の知人と、半グレ組織のメンバー達だったが、やって来たのが高校生くらいの未成年であるのを見ると、途端に『此処は子供の来るところじゃないから大人しく帰んな』と、実に分かり易い小者的なセリフを吐き、更には下っ端に楯無達を襲わせ、あわよくば性的暴行をとも考えていたのだが、相手が悪かった。


「臭い息を吐き掛けないで貰えるかな?
 生憎と私の身体は君のような下衆で外道な存在が触れられるようには出来ていないのでね……私の身体に触れる事が出来る男性は此の世で夏月タダ一人だけだ。
 彼以外の男性に触れられるなどと言うのは絶対に拒否したいモノだよ。」

「オレとやりたいってんなら別に構わねぇんだが、テメェみたいなフニャチンのポークビッツじゃ満足出来ねぇから却下だぜ?夏月のマグナムと比べたら大抵の野郎は負けるだろうがなぁ!」


未成年であっても夏月組は全員が『殺し』を経験している暗部の一員であり生身の戦闘力もプロレスラーとタメ張れるレベルであったため、取り巻きのチンピラはあっと言う間に全員が物言わぬ躯となって制圧完了。
ターゲットと其の知人に関しても、ターゲットに夏月が、其の知人に楯無が背後から手加減なしのチョークスリーパーを極めて意識を刈り取り、彼等の身柄は更識の屋敷内の地下にある『拷問部屋』へと移送されていた。
移送された二人は身包みを剥がされ、腰巻一枚の状態で両手足を鎖で拘束されて十字架に縛り付けられていた。


「完全に意識を落としたとは言え、此の状況でも目を覚まさないと言うのは呆れた図太さね……夏月君、起こしてあげなさい。」

「オーライ、マム!……外道が、何時まで寝腐れとんじゃボケェ!!目覚まし代わりの揚げ油!!唐揚げになっとけぇ!!」


其処に夏月が煮え滾った油をぶっかけて外道達の意識を強制的に覚醒させる――冷水や熱湯よりも煮え滾った油は強制的に意識を覚醒させるには効果的なモノなのだ。
水よりも粘度のある油は肌に長く纏わり付くので、超高温による苦痛は熱湯よりも長く続き、結果として意識のない相手を強制的に覚醒させる手段としてはとても優秀なのである……高温の油を浴びせられた皮膚は瞬く間にこんがりと揚がってしまい、此れが鶏肉だったらパリパリになった皮が良い感じの酒の肴になった事だろう。
だが、人間の皮膚は酒の肴にならないので肉が焼ける匂いが拷問室に蔓延し、ターゲットの苦悶の声が鳴り響いたのだが、楯無はメリケンサックを装備した拳をターゲット二人の口に叩き込んで歯を全て叩き折って強制的に悲鳴を中断させる。
少しばかりやり過ぎとも思うかもしれないが、『法の裁きを逃れてのうのうと生きている外道』と、『それを隠蔽した存在』に対して更識はマッタク一切の慈悲はないので此の程度の事は未だ優しい部類と言えるのだ。


「こんにちわ外道さん。
 貴方は逆恨みで一人の少女から両親を奪い、もう一人の貴方は権力を使って其れを無かった事にした……一人の少女から両親を奪った事に関して少しでも申し訳ないと思う気持ちはあるのかしら?」

「アハハ……あの試合に勝てば俺はボーナスを手にして来季も監督として契約出来たのにアイツが八百長を拒んだ事でこんな事になっちまった。ボーナスもフイになって監督も解雇された……おかげさまで俺の人生はお先真っ暗になっちまったんだ。その原因となったアイツは死んで当然だ!」

「権力とはこういった時に使うモノだろう?私は何も悪い事はしていない!」


そして楯無はターゲット達に『罪の意識はあるのか?』を聞いたのだが、ターゲット達に罪の意識はまるでなく、それどころか『自分は何も悪い事はしていない』との唾棄すべき答えが返って来たので、其の瞬間に楯無の瞳から光が消えた……だけでなく、限界を超えた怒りを理性で無理矢理抑え込んだ事で、楯無の目の色は反転して『赤い瞳に黒い白目』と言うべきモノとなっていた。


「そう、其れを聞いて安心したわ……そこまでの外道なら、私もとことん非情になれると言うモノですからね。」


其処から行われたのは拷問と言うのが生温いモノであった。
ターゲット達の煮え滾った油を浴びせられた事で焼け爛れた皮膚には塩が塗り込まれ、其れだけでも地獄の苦痛なのだが、地下の拷問室が地上にせり上がった事でオープンワールドとなり、煮え滾った油を浴びせられた事で良い感じに揚がった皮膚は肉食獣の食欲を刺激したらしく、其の匂いにつられて冬眠前の腹を空かせたクマがやって来ただけでなく、上空には多数の大型の猛禽類が集まっていた。


「下手物が……精々美食家の捕食者の胃袋に収まると良いわ。」


――【弱肉強食】


楯無が手にした扇子にそんな文字を浮かべた直後、集まっていた捕食者達はターゲット達に突撃して其の身を喰らうのだった――生きながらに身体を喰われると言うのはある意味で最高の苦痛であり、ターゲット達は生きながらに身体を喰われる恐怖を其の身で感じながら最後には頭を噛み砕かれて絶命し、残った骨も更識が『死体処理班』として飼っているハイエナが残らず平らげた事で正に骨すら残らない状態となっていた。
勿論これで終わりではなく、楯無は今回の事件の真相を各マスコミにリークし、事件の真相を知ったマスコミは事件の真相と容疑者が死亡したと言う事をこぞって報道し、其れは依頼者である少女にも伝わる事となり、少女は両親の敵が討たれた事を知って漸く前に進む事が出来るのだった。


「楯無さん、依頼者の学校に行って来たけど、依頼者の女の子、吹っ切れたみたいで部活に勤しんでた――こんな事言ったらアレかもだけど、両親の死を乗り越えたあの子の動きはインターハイの時よりも洗練されてた。
 コイツは冗談抜きで高校卒業後はプロからのスカウトが来て、撫子ジャパンのメンバーになるかもだぜ?」

「そう……なら良かったわ。
 法の裁きを逃れた相手に外法の裁きを与えるのもまた更識の仕事ではあるけれど、其れも突き詰めれば人殺しである事に変わりはない――でも、私達が手を血で汚す事で救われる人が居るのなら、私達の存在意義があるからね。
 更識楯無、其の名が背負う業は深いわね。」

「でもそれを知っていて其の名を継いだんだろ?
 前にも言ったけどさ、俺も、俺達も其の業を一緒に背負うよ楯無さん……俺達と貴女は一蓮托生だ。」

「夏月君……ありがとう。そう言ってもらえるだけでも少し心が軽くなったわ。」


仕事を終えた楯無は屋敷の庭で月を見上げていたのだが其処に夏月がやって来て『更識楯無』の業を共に背負うと言う事を楯無に言うと、楯無は柔らかい笑みを浮かべて感謝の意を述べると夏月の胸に飛び込み、暫し抱き合うと、何方ともなく顔を上げ、そして月明かりの下で唇を重ねた。
ホンの数秒、触れ合うだけのキスだったが、其れでも互いに思いは伝わり、夏月と楯無は月光の下で改めてハグを交わすのだった。


因みに此の間も絶対天敵の襲撃は各国で発生していたのだが、各国とも強化改修された『ワイバーン』、『ドラグーン』、『ドレイク』を駆使して襲撃して来た絶対天敵を倒し、或いは撤退させる事に成功していた。
そんな中で不思議な事が起きていた――複数のサイボーグ型の個体が合体すると巨大なモニターとなり、其のモニターに日本語、英語、中国語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、オランダ語等の複数の言語で『十二月二十五日、十二月三十一日、一月一日から一月三日、以上の日時については襲撃を行わないので御了承下さい。尚、このメッセージが真実である事を証明する為に、此のモニターは此のメッセージ表示から五分後に粒子分解されます』とのメッセージが表示されたのだ。
無論各国は『此のメッセージは絶対天敵が心理戦を仕掛けて来たのではないか?』と考えたのだが、予告通り巨大モニターはメッセージ表示から五分後に光の粒となって消え去り、更に此のメッセージから数回、絶対天敵側から襲撃場所の予告が行われ、実際に予告通りに襲撃が行われた事で、此のメッセージは嘘ではないと言う事を信じざるを得なかった――だとしても其の日時も警戒態勢が解除される事はないのだが。
尚、キリスト教ではない国からは十二月二十五日が襲撃されない事に不満が出るかと思われたのだが、クリスマスは今や宗教を超越した一大イベントとなっているので特に問題にはならなかった。
序にフィンランドの国公認のサンタクロースを務めている男性は、『今年は絶対天敵のせいでフィンランド国外に行くのは無理か』と思っていたのだが、今年も無事に外国を訪問出来る事にホッとしていた――子供達がサンタクロースを楽しみにしているように、サンタクロースもまた各国の子供達と会うのを楽しみにしているのだった。








――――――








そんな殺伐とした更識の仕事とは別に時は進んで十二月二十五日。
今宵はクリスマスであると同時にセシリアの誕生日でもあったので、秋五と其の嫁ズが滞在している『織斑家』では『クリスマスパーティ』と『セシリアのバースデイパーティ』の準備に追われていた。
バースデイパーティだけならばIS学園でも行っていたのだが、クリスマスパーティと同時開催となると準備が凄まじく手間が大きくなる――バースデーパーティの主役であるセシリアはオニールとラウラが連れ出してくれているのでネタバレにはならないのだが、連れ出している数時間でダブルパーティをセッティングすると言うのは中々の難易度だろう、普通ならば。


「織斑君、ケーキ持って来たわよ!」

「丸鳥の塩釜焼、焼けばいいようにして来たぜ!」

「会長さん、夏月、助かったよ。」


だが、秋五は事前に夏月にヘルプを入れており、その甲斐もあってクリスマスパーティ兼セシリアのバースデイパーティにはロラン作の見事なチョコレートのバースデイケーキと夏月作のパーティのメインディッシュである『鶏の塩釜焼』の『あとは焼くだけ』となったモノが夏月と楯無によって届けられていたのだった。(他の夏月組は更識邸でクリスマスの準備。)
ロラン作のバースデーケーキは三段のチョコレートケーキなのだが、一段目にはミルクチョコクリーム、二段目にはスウィートチョコクリーム、三段目にはビターチョコクリームを使って味の違いを出しただけでなく、メレンゲで作った秋五と嫁ズを模したメレンゲ菓子がデコレーションされてケーキの華やかさを増していた。
メレンゲ菓子の人形のデコレーション其の物は珍しいモノではないが、父親が芸術家であるロランは父譲りの芸術性を発揮してデフォルメしても特徴を捉えたメレンゲ菓子人形を作り上げたのだった。


「「「「「「「「「Merry Christmas&Happy Birthday Cecilia!!」」」」」」」」」


そうしてセシリアのバースデーパーティ兼クリスマスパーティが執り行われ、クリスマスプレゼントと別にセシリアにはバースデープレゼントが贈られた。
秋五からは『シャネルの香水』、ラウラからは『チェーンネックレス』、シャルロットからは『グリップ力を高める指空きグローブ』、オニールからは『クラシック名演集』のCD、清香からは『ワニ革のブレスレット』、癒子からは『万年筆』、さやかからは『パールピンクのマニキュア』が贈られた。


「料理の腕前は人並みになったから、今度はレパートリーを増やして行こうな。」

「箒……そうね、料理のレパートリーは多いに越した事はないわ。
 夏月並、とは行かずとも取り敢えずIS学園の学食の定番メニュー位のレパートリーは取り揃えたいところよね……和、洋、中の基本はおさえる事は出来たから、今度は発展形の習得ね♪」

「そうだ。
 そして今度その料理をお前の専属メイドに振る舞って驚かせてやれ……料理の腕前が壊滅的だったお前が、一年にも満たない期間で料理の腕を上げたとなれば驚く事間違いないだろうからな。」

「ふふ、チェルシーを驚かせるのも悪くないわね。」


そして箒からは数冊の『料理のレシピ本』がプレゼントされた。
箒の指導で料理の腕前が人並みになったセシリアだったが、其れでも漸く基本が固まったところであり、箒は次のステップとして料理のレパートリーを増やす為にレシピ本をプレゼントしたのだ――とは言っても此のレシピ本に掲載されている料理は其処まで難しいモノはなく、料理の基本が出来ていれば誰でも作れるモノばかりだったので、セシリアもさほど苦戦せずに会得出来るだろう。


「材料を混ぜて型に入れて焼くだけ……此れならば私でも出来そうだわ。」

「私が知る限り、バスク風チーズケーキは最も簡単な洋菓子だと思うぞ。」


尚、パーティのメインディッシュの『鶏の塩釜焼』とデザートのケーキは夏月組のヘルプがあったモノの、其れ以外は秋五達が頑張って用意し、テーブルには『サーモンとキンメダイのカルパッチョ』、『フライドポテト三種(塩、明太シーズニング、カレー粉と粉チーズ)』、『味噌焼きおにぎり』、『ピザ三種(マルゲリータ、クァトロチーズ、ペパロニ&アンチョビ)』、『シュー皮に盛り込まれた野菜サラダ』と言ったメニューが並んで何とも賑やかなモノとなってた。
何れも大好評だったのだが、意外な事にメインディッシュ以外で一番人気だったのは箒作の『味噌焼きおにぎり』だった。
この味噌焼きおにぎりはトースターではなく七輪で焼かれており、炭火で焼かれた味噌の香ばしさ、そして炭火で焼く事で出来た『お焦げ』の何とも言えない美味しさに海外組はすっかり虜になってしまったのである。
更に箒はおにぎりの中にチーズを入れており、良い感じに溶けたチーズが香ばしい味噌と相性抜群だった――味噌もチーズも発酵食品であり、発酵食品と発酵食品の組み合わせは美味と相場が決まっているので、そう言う意味では箒の味噌焼きおにぎりが好評だったのは当然と言えるだろう。


「味噌焼きおにぎり、懐かしいな。子供の頃、剣道の訓練の休憩の時に、小母さんが振る舞ってくれよね――だから、僕の中では焼きおにぎりは味噌味なんだよね……冷凍の醤油味の焼きおにぎりに少し違和感があるんだ。
 美味しいんだけど、焼きおにぎりとして此れじゃない感が強い。」

「うむ、其れは私もだぞ秋五……幼少の頃の印象深い味覚の記憶と言うのは中々に大きなモノであるのかも知れないな。」

「ラウラ、貴女お焦げ盗ったわね!?」

「盗ったとは心外だなセシリア。たまたまくっついて来てしまっただけだ。」

「そう……ならば返しなさい、味噌焼きおにぎりの最も美味な部分を!たまたまくっついてしまったのであれば所有権は私にあるわ!即刻お焦げを寄越しなさい!寄越さないのであればドイツ軍に抗議文を送るわよ!」

「なんだその世界一下らない抗議文は……だが断る!!」

「そう……なら、パーティ後のゲーム大会ではフルボッコにしてあげるわ!」


……セシリアとラウラの間で可成り低次元な争いが勃発したのだが、其れは其れとしてパーティは進み、パーティのラストでケーキにセシリアの年齢と同じ数の十六本のロウソクが灯され、誕生日のお馴染みの『Happy Birthday To You』が合唱される中でセシリアはロウソクの火を吹き消し、其れと同時に割れんばかりの拍手が鳴り響き、ケーキをカットしてデザートタイムに。
そしてデザートタイムの後はパーティの二次会であるゲーム大会と相成ったのだが……


「レベル10、シューティング・スター・ドラゴンに、レベル1救世竜セイヴァー・ドラゴンをチューニング!シンクロ召喚『シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン』!
 此のモンスターは通常の攻撃に加えて、墓地の『スターダスト・ドラゴン』と、『スターダスト・ドラゴン』の名が記されたシンクロモンスターの数だけ攻撃する事が出来る――私の墓地に対象となるモンスターは四体!よってシューティング・セイバー・スターは五回の攻撃が可能となるわ!
 アサルト・シューティング・ミラージュ!!」

「私のマシンナーズ軍団が全滅だとぉ!?」


遊戯王の大会ではセシリアが『スターダスト』特化のシンクロデッキで無双し、ラウラに対してはスターダスト系最強との呼び声も高い『シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン』をシンクロ召喚し、圧巻の五回攻撃でラウラのマシンナーズ軍団を全滅させていた。
そしてゲーム大会の後はカラオケ大会となったのだが、此れはソロではオニールが圧勝し、デュエットでも秋五とオニールが最高得点をマークする事となり、オニールは現役アイドルの面目躍如を果たしたのだった。








――――――








地球人類がクリスマスを謳歌している最中、絶対天敵は人知れず進化していた。
アメリカ軍の軍人に擬態した絶対天敵がアメリカの量産機である『ヘル・ハウンド』のISコアを持ち帰って来たので、絶対天敵の親玉であるキメラはISコアを絶対天敵に馴染ませる為に、複数の絶対天敵を繭で包み、其処にISコアのデータを流し込んでいたのだった。


「……そろそろか。」


キメラがそう呟いた次の瞬間に繭は破れ、中からは形容し難い姿の絶対天敵が現れた――哺乳類と鳥類と虫類、そして爬虫類の利点のみを集めた絶対天敵の表面は強固な装甲に覆われていたのだが、同時にISにのみ搭載されている武装も搭載されていた。


「ククク……欲を言えば龍の機体のコアが欲しかったが、普通のISのコアでも想像以上の進化をする事が出来た――だが、コイツ等を実戦投入するのは年が明けてからにするか。
 正月が終わり浮かれているところにこいつ等を向かわせたら、私が思っている以上の戦果を挙げてくれるかもしれないからな。」


今は未だ出撃はしないようだが、其れでも絶対天敵は人類にとって脅威となる存在を誕生させていた――誕生させてしまったのだった……!!










 To Be Continued