オランダでの戦いに勝利しIS学園に戻って来た夏月達だったが、休む間もなく今度は中国と台湾からIS学園に対して救援要請が来ており、学園としても其れを無視する事は出来ないので、夏月達『龍の騎士団』は中国と台湾に向かう事になった。
中国には夏月組、台湾には秋五組が向かう事になり、各国から派遣されているメンバーは夫々の戦力を考えて振り分けられる事になったのだが、本来は夏月組である乱は今回は秋五組の方に回されていた――言うまでもない事だが、台湾は乱の出身国なので、夏月が其れを考えて乱を台湾部隊に加えたのである。

そうして夏月組は『サーモンイクラ軍艦』で中国に、秋五組は『マグロ納豆軍艦』で台湾に向かい、中国には亡国機業のメンバーも向かいほぼ同時に現着したのだが、中国も台湾も絶対天敵の攻撃によって決して小さくない被害を被っていた。
共に首都はほぼ壊滅し、主要都市も甚大な被害を受けていた――特に高層マンションをはじめとした巨大ビルに手抜き工事が日常レベルで行われていた中国の被害は凄まじく、都会部の高層ビルやマンションは絶対天敵の攻撃を受けただけで『ビルの爆破解体』かと誤解してしまうほどの派手な倒壊をしてしまったのである。

こんな事が起きれば普通ならば建物の内部に居た人間の生存は絶望的なのだが、其処は中国四千年――瓦礫に呑み込まれた者達は、太極拳や中国拳法を駆使して生き延びていたのだった。


「此の惨劇で死者ゼロとか、中国人は不死身かよ!中国は国民全員がジャッキー・チェンやブルース・リーレベルだとでも言うのかオイ!」

「まぁ、否定は出来ないわね。
 だけど中国以上に国民が不死身なのはインドよ?なんてったってインドでは交通事故で歩行者が車に撥ねられても、撥ねられた歩行者が普通に立ち上がって車のドライバーに『貴方今私を跳ねたわね?』って詰め寄ったって話があるらしいから。」

「インド人ハンパねぇな!?」


中国人の生命力の高さには驚きだが、中国に現れた絶対天敵は『メカカマキリ』、『メカカブトムシ』、『メカクワガタ』等の『機械+昆虫』の姿をしており、虫にとって最大の弱点である『炎』に対しての耐性を得ている様だった。
火に強い虫とは其れだけでも脅威となり得るのだが、その他に空には機械と融合した猛禽類のような姿をした絶対天敵が現れ、地上には虫型だけでなく『地上最大の動物』である象をサイボーグ化したような絶対天敵も現れ、その他にも地球生物と機械を融合した姿の多種多様な絶対天敵が中国を侵攻していたのだった。


「だがまぁ、其れは其れとして先ずはコイツらを一匹残らずぶち殺すとするか……相手の方が数は多いが、数に負けるほど俺達は柔じゃねぇってな!
 と言う訳で、簪、マドカ……殺れ。」

「任せて夏月。」

「可愛い弟の頼みとあれば聞かないと言う選択肢はないな!」

「フルバーストならばアタシも参加させて貰う。」


其の絶対天敵に対して夏月組は先ずは簪とマドカ、ナツキの弾幕フルバーストで絶対天敵を多数葬ると、其処からは各々が得意な間合いで戦いながら、しかし互いに仲間のサポートを熟すと言う見事なチームワークをもってして戦いを有利に進めて行く。
中でも見事だったのが夏月とロランと楯無のコンビネーションだ。

夏月はバリバリの近接型で、ロランと楯無も近接寄りの機体なのだが、其れだけに近接戦闘に於いての連携の強さは群を抜いており、ロランと楯無が刀の間合いの外に居る敵を牽制して隙を作ると、其処にすかさず夏月がイグニッションブーストからの居合を叩き込んで絶対天敵を斬り捨てていたのだ。


「お前達にはレクイエムすら必要ない……大人しく地獄に堕ちろ。」


そして其れだけでなく、夏月はワン・オフ・アビリティの『空裂断』を発動すると居合→納刀を行い……納刀した瞬間に300メートル四方の空間が縦横無尽に斬り裂かれ、其の範囲に居た絶対天敵は元に戻ろうとする空間に吸い込まれるか、空間と共に斬り裂かれて絶命するかの何方かの運命を辿る事になったのだった。
更にその後現れた絶対天敵も次々と葬り、中国は絶対天敵の侵略からギリギリのところで助かり――此の絶対天敵の襲撃以降中国は日本に対して強硬的な姿勢を執る事が出来なくなってしまった。
世界立とは言っているモノのIS学園の実質的な経営国は日本であり、『龍の騎士団』は『対絶対天敵』の前線基地となっているIS学園に駐屯する『最強のIS部隊』なので、其の『龍の騎士団』によって国を救われた中国は、既に保証が済んでいる過去のあれこれをネタに日本を攻める事は出来なくなり、逆に日本に歩み寄って同盟を結ぶに至ったのだった……絶対天敵の侵攻は、期せずしてアジアの力を大きく底上げしていたのだった。









夏の月が進む世界  Episode76
『押しも押されぬ激戦~Ein Krieg der totalen Zerstorung~』










中国は夏月達が圧倒的に勝利していたが、台湾の方でもそれほど苦戦はしていなかった。
台湾にも中国に現れた絶対天敵とほぼ同じ形の個体が現れていたのだが、機械と融合し、更には『融合した生物の利点のみを受け継いだ』と言う絶体天敵であっても無敵ではない。
『利点のみを受け継いだ』と言うのは、一見すれば『弱点は斬り捨てた』と言えるのかもしれないが、生物である以上は弱点を完全に斬り捨てる事は出来ない。


「乱、今だ!」

「稀代の天才が開発したプロレスの大技を喰らえ!一撃必殺、シャイニングウィザード!」

「相手の顔面に膝を叩き込む、シンプルながらも破壊力抜群の大技だな。」


秋五がカマキリ型の絶対天敵を肩車すると、其処に乱が箒の肩を踏み台にしてシャイニングウィザードを叩き込む。
膝蹴りを相手の顔面に叩き込むシャイニングウィザードを喰らったら普通ならば昏倒するモノなのだが、カマキリはそもそも脳震盪を起こさないので其処まで効果はないと感じるだろう。
確かにカマキリは脳震盪を起こさないが、逆に骨がないので関節部に強い衝撃を受けたら簡単に其の部分が千切れ落ちてしまう致命的な弱点も抱えているのだ――実際に乱のシャイニングウィザードを喰らったカマキリ型の絶対天敵は頭がモノの見事に吹き飛んでしまったのだから。
外骨格生物のフレキシブルな関節は内部骨格を持っている生物では有する事が出来ず、様々な地球生命体を吸収している絶対天敵とは言え、生物として不可能な身体の構造を構築する事は出来ないのである。
吸収した兵器に関しては『外装』や或いは『サイボーグ』のような姿になる事でクリアしているが、流石に『陸上で動けるクジラ』、『海を泳ぐナメクジ』等の矛盾した存在には姿を変える事は不可能だ――逆に言えば『ペガサス』、『グリフォン』、『ケンタウロス』と言ったキメラ生物には姿を変えるは可能である訳なのだが。

だとしても秋五組+乱のチームは台湾に現れた絶対天敵を順調に駆逐していた。
秋五組で目を引いたのは箒とセシリアのコンビだ。
完全近接型の箒と、銃剣術は使えるモノの基本的にはバリバリの遠距離型のセシリアのコンビは基本的かつ王道的な『前衛後衛コンビ』なのだが、基本で王道だからこそ其の安定感は見事なモノであり、セシリアは『BT兵装十字砲』の陣形を作り上げると二丁のレーザーライフルで絶対天敵を十字砲の布陣内に誘導し、十字砲の布陣内では箒が十字砲撃を避けた絶対天敵を容赦なく斬り裂き、十字砲の布陣の外に絶対天敵を出さないようにしていた。
驚くべき事は箒とセシリアはプライベートチャンネルでの通信すら行わずに此れだけの連携をしていると言う事だろう――互いにIS学園における最初の友人と言う事で其の友情は相当に深まっており、タッグトーナメントでもタッグを組んだ経験から言葉にしなくとも互いに如何動くべきであるかを分かっていると言う感じだった。

しかし此処で絶対天敵の方に動きがあった。
台湾に現れた絶対天敵も中国に現れた個体とほぼ同じだったのだが、此処で変身して甲殻類のような姿に変身すると、其れが一か所に集まり、そして其れが融合して一つの巨大な個体となったのだった。


『ギョワァァァァァァァァァァァァ!!』


そうして現れたのは、極端に太くなった蜘蛛の足の上に空想上の生物である『麒麟』を外骨格生物にしたかのようなモノが乗っかり、巨大なハサミを持った二本の腕が生えている怪物だった。
其れだけでも相当に奇異な外見なのだが、其の身体には『外装』とも言うべき形で『レールキャノン』、『ミサイルランチャー』、『戦車砲』等の兵器が搭載されており、外骨格は戦車や戦艦の装甲を思わせる重厚な金属光沢を放っていた。


『グガァァァァァァッァァッァァ!!!』


「口から光線って……!」

「怪獣の王道攻撃ではあるが、此の破壊力は流石に凄まじ過ぎると言わざるを得ないぞ……!!」


更に其の口から放たれた光線は、世界的に有名で『怪獣王』の名を欲しいままにした『ゴジラ』の必殺技である『放射熱線』を遥かに上回る威力を有しており、此の一撃の射線上にあった台湾の都市が消滅しただけではなく、その先にあった中国の都市にも壊滅的なダメージを与え、其処から空を越えて宇宙に飛び出しても其の威力は健在で、地球周辺の宇宙ゴミを消滅させ、アステロイド帯の小惑星を粉砕し、地球に向かっていた彗星を爆殺し、土星の輪の一部を破壊した後に天王星を掠めて海王星に到達する寸前で消滅した……海王星軌道まで来て漸く消滅した此の攻撃は脅威であると言わざるを得ないだろう。


「く……デカい図体のクセに速い……!デカくて速くて強い事、其れが揃えば負けはないってのは真理だったみたいだね……!」

「此の図体でスピードもあるとか流石に反則だろう……!」


加えて此の巨大な絶対天敵はスピードも有しているのだから厄介だった。
デカくて強いだけならばなんとかなるのだが、其処に『速さ』が加わったら途轍もない難敵と化すのは間違いないのだ――そう言う意味では台湾に現れた絶対天敵は最上の選択をしたと言えるだろう。


「デカくて速くて強ければ其れは確かに最強かもしれないが……だがしかし、其れでも動きを止められてしまったらその限りではないだろう?
 ザ・ワールド!時よ止まれ!」


だが此処でラウラが『AIC』を発動して絶対天敵の動きを止める。
AICは『対象の動きを完全に停止させる』と言う反則的な能力なのだが、複数の相手には使う事が出来ず、数で攻めて来る絶対天敵に対してはほぼ無力だったのだが、相手が合体して巨大な一体となったのならば話は別だ。
高層ビル並みに巨大な相手であっても其れが一体であるのならばAICで拘束する事は可能であり、ラウラは全神経を集中して合体絶対天敵の動きを封じたのである。


『『『『『『ギギャァァァァァァッァァァァァッァァ!!』』』』』

「まぁ、此の状況だとラウラを狙うよね?……だけどそれ無理。って言うか此処で其のまま死んで♪」

「笑顔で言う事がえぐいな……お前を暗黒王子と言う輩が居ると言うのも納得出来ると言えば出来るな。」


巨大融合体とならなかった絶対天敵はラウラを狙って来たのだが、其の個体はシャルロットと箒をはじめとした秋五組が迎撃し、其の後はラウラのAICによって動きを止められた巨大な個体に全戦力を次ぎ込んで連続攻撃を行い、其の攻撃によって生じた外骨格の割れ目に乱がプラズマ弾を撃ち込み内側から破壊する事で巨大絶対天敵を爆発四散させてターンエンド。
こうして台湾も絶対天敵の侵攻を退け、乱は中国に向かって夏月組と合流して共に『あん肝軍艦』に乗り、秋五組は『アボカドマグロ軍艦』に乗りIS学園に帰投しようとしたのだが、いざ出発と言うところで今度はイギリスとブラジルから救援要請が入り、龍の騎士団は碌に休む事も出来ずに次の戦場に向かうのだった。








――――――








結果だけを言うのであればイギリスもブラジルも絶対天敵の侵攻を退ける事が出来たのだが、其の二か所での戦いが終わった直後にドイツとタイ、次いでフランスとアメリカ、更にはカナダから……つまるところ日本以外の夏月組と秋五組の嫁ズの故郷からの救援要請が立て続けに発生し、龍の騎士団はすぐさま其の場に赴いて絶対天敵を退けていたのだが、ほぼ休みなしで戦っている状態であるにも関わらず、龍の騎士団のメンバーの動きには疲労の色が見えず、パフォーマンスの低下も見られなかった。
秋五組はカナダ以外はヨーロッパ圏内なので移動時間も短く、時差ボケも殆ど無いのだが、夏月組は中国からブラジル→タイ→アメリカ→カナダと、アメリカ~カナダ間を除いては移動時間が長い上に時差も発生しやすい状況であり、移動中に休む事が出来たとは言っても時差の大きな移動をした直後に戦闘行為を行うのは可成りの負担になるにも拘らず『時差ボケ、何それ美味しいの?』と言わんばかりの見事な動きで各国の絶対天敵を退けたのだった。

夏月と秋五、そしてマドカに関しては『織斑計画』で生み出された『最強の人間』なので、疲労の回復に関しても通常の人間と比べれば遥かに高い回復能力を持って居ると言う事で説明が出来るのだが、嫁ズや他の龍の騎士団のメンバーがマッタク疲労していないのは説明が付かないだろう。


「ふわ~~……よっく寝たぁ!束さん、此の装置の開発、マジでGJだったぜ!」

「わっはっは、幾らでも褒めてくれていいのだよカッ君!束さんは褒められれば褒められるほどやる気が出て、其のやる気をエネルギーに変えてパフォーマンスを向上する事が出来るって言う、『褒めれば伸びる』の究極系だからね♪」

「成程……なら、こんな素晴らしい装置を発明してくれた束さんにはご褒美として俺の特製『栗とサツマイモのモンブラン』を作ってやらないとだな。」

「カッ君お手製のモンブランだって!?……30㎝のホールケーキでお願いして良いかな?」

「ホールケーキか……ならトッピングには栗のブランデーシロップ漬けだけじゃなく、同じ秋の味覚の柿のコンポートもトッピングするか。」

「其れもう最高過ぎる~~!!」


龍の騎士団のメンバーが連戦でも疲労していなかったのは、ひとえに束が開発した『超回復ハイパーメディカルマシーン』のおかげだった。
束が開発した此の装置は、一見すると『お一人様用のドームベッド』なのだが、其の装置内と外部では時間の流れが異なっており、装置内では『装置内の人間に必要な睡眠時間』が装置外の時間の流れとは別に経過するようになっており、更に『時差ボケの自動修正』の機能も搭載されていた事で、龍の騎士団は疲労も時差ボケも関係なく最高のパフォーマンスを発揮する事が出来たのだ。

では、何故束は此の装置を開発したのか?

其れは端的に言えば絶対天敵の次の一手を読んでいたからと言う事に尽きる。
絶対天敵の親玉であるキメラは、無限とも言える増殖能力をもってして、『数による暴力』で各国を襲撃し、其れを短い間隔で行う事で龍の騎士団を疲弊させて隙を生じさせる心算だったのだが、その考えを束は完全に看破していたのだ。
キメラは宇宙生物と融合しているとは言え、其処には白騎士のコア人格も存在しており、キメラの思考には少なからず白騎士のコア人格の考えも混じってしまうのだが、だからこそ束は絶対天敵の次の一手を看破する事が出来た――白騎士は原初のISだが、その白騎士を作ったのは束なのだ。
人間が神に対して反抗出来ないのと同様に、全てのISは束に対して反抗する事は出来ない――白騎士は唯一束に反抗したISであるのだが、反抗は所詮反抗に過ぎず、造物主を打ち倒して超えるには至らなかったのだから。
故に束はキメラの思考を読み切って、龍の騎士団を完全回復させる為の装置を開発したのだった。


「にしても、束さんならこんな装置作らなくても別の対抗手段を思い付いたと思うんだけど、なんだってある意味で絶対天敵と真っ向から遣り合う道を選んだんだ?」

「確かに束さんならもっと良い手段を考える事は出来たんだけど、此処は真っ向から遣り合うべきだと思ったんだよね。
 幾らでも増殖出来るからこその『数の暴力』ではあるんだけど、実は生物には単細胞、多細胞問わず『分裂限界』と『生殖限界』ってモノが存在するのさ。
 単細胞生物は分裂増殖するけど、其の分裂には限界があるし、多細胞生物は生殖の限界ってモノが存在してるのさ――例えば多くの魚類は一度に多くの卵を産むけど、産卵後に死んでしまう種族の方が多い。虫もほぼ同じだね。
 哺乳類と鳥類、爬虫類は複数年に渡って出産や産卵を行う種族の方が多いけど、其れでも其れが行える期間は決まってる……つまり、こっちがアイツ等の攻撃を逐一潰して行けば、先にガス欠になるのは向こうの方なんだよ。
 限界が来たら増やす事は出来なくなるから一時的でも絶対天敵からの攻撃はストップする……そうなれば、其の期間に機体を強化回収する事も出来るってモノだからね――絶対天敵m9(^Д^)プギャーってなモンさ!」

「うわぁお、めっちゃ納得した此れ!」


更に束はキメラの『生殖限界』をも考えていたのだから驚きだろう。
そして其処からも龍の騎士団は世界各国を回る事になったのだが、行く先々で絶対天敵をモノの見事に撃滅し、世界にその存在感を示す事になったのだった。

無論其れだけでなく、束は全ての戦闘データをチェックして『戦闘に於ける絶対天敵の強化率』、『使用率の高い兵器』、『使用率の高い姿』、『危険度の高い攻撃』等々の絶対天敵のデータを纏めると、其処から『地球防衛軍』に配備されている『ドラグーン』、『ワイバーン』、『ドレイク』用の新型武装を作り、サンプルを各国に送り、新型武装のサンプルを受け取った各国は即座に量産体制に入って、結果として『地球連合軍』は兵器を吸収した事で強化された絶対天敵とも互角以上に戦う力を手に入れるに至り、更に各国に『ハイパーメディカルマシーン』も相当数が提供され、結果として龍の騎士団の出撃回数は大幅に減少するのであった。









――――――








「オノレ……オノれぇぇ!!
 何故こうも簡単に迎撃される……数の暴力と波状攻撃をもって休む暇も与えないほどに攻撃の手を加えてやれば、疲労から必ず何処かで綻びが生じて隙が出来ると思っていたのだが、疲れるどころか常に全力で戦い続けられるとは一体どんなカラクリだ?
 織斑計画で生まれた連中は兎も角として其れ以外は普通の人間の筈だ……束、奴が何かをしたのか?」


絶対天敵の本拠地である地球の何処かにあるISのコア人格の反応を遮断する物質で構成された洞窟内にて、キメラは自分の思い描いた展開にならなかった事に対して苛立ちを見せていた。
キメラは絶対天敵と視界を共有する能力を有しているので世界中の戦闘状況も把握出来ていたのだが、中国と台湾を皮切りに始まった絶対天敵による連続攻撃は人類側に小さくない被害を与えてはいたモノの、地球防衛軍には押し気味に戦えていても龍の騎士団が参戦すれば難なく撃退されると言う事態が続いていたのだ。

無論龍の騎士団には未だ勝てない事は分かっていたので、其れを弱体化させる為に様々な国に連続で襲撃を行い、其処に龍の騎士団を向かわせる事で疲弊させ、戦う事が出来なくなるくらいまで追い込んだところで一気に数で磨り潰そうと考えていたのだが、其れは束が開発した『ハイパーメディカルマシーン』によって破綻してしまったのである。

マッタク疲弊していない龍の騎士団を見たキメラは、其処に束の関与を認めざるを得なかった――現在のキメラの人格はほぼ宇宙生物が嘗ての『千冬(偽)』の人格を取り込んで進化したモノなのだが、『千冬(偽)』の記憶から、『篠ノ之束』と言う存在が地球人類にて最も警戒すべき人物であると言う事を理解していたのだ。


「私の考えを読んで対策をしたのか……?
 だが、私の子供達は幾らでも増やせる事が出来るし、私の子供達も更に子供を増やす事も可能だ……此方の戦力は尽きる事はないのだが、此のままでは埒が明かんのも事実か。
 ふむ、此処は一時攻撃の手を緩めるのも良いかも知れんな?
 攻撃を散発的にする事で逆に『何時襲撃されるか分からない』と思わせる事が出来れば、精神的にダメージを与える事が出来るかもしれんからな。
 だが、そうなるとだ……十二月二十五日と十二月三十一日、そして一月一日からの三日間は襲撃は止めておくか……クリスマスと大晦日、元旦と正月三が日は大事だろうからな。」


此処でキメラは数にモノを言わせた波状攻撃から、散発的な攻撃へと襲撃方法を変える事にした。
数にモノを言わせた波状攻撃は確かに有効ではあるが、其れは次の攻撃に備えているところに攻撃を行う事でもあるので、迎え撃つ側も『戦う準備と戦う気持ち』が十分な状態であるのだが、散発的で何時攻撃されるか分からない状況となると常に襲撃に警戒しなければならないにもかかわらず、警戒していたのに襲撃がなかった空振りもあるので、空振りだった場合の精神的疲労は可成り大きいのだ。
加えて『準備をしていたのに、其れは徒労になった』と言うのは虚脱感も大きく、其れが続くと『やる気』が削がれてしまうモノであり、だからこそ其処に奇襲を仕掛けてると言うのは効果抜群なのである。
其れでもクリスマスと大晦日と正月を襲撃する日から外すところに『千冬(偽)』の――地球人類の思考を少しばかり間違って理解した部分があるのは否定出来ないだろう。


『…………』

「お前は……戻って来たのか。
 ご苦労だったが其れは……!」


そんな中、人間女性に姿を変えた絶対天敵が洞窟に戻って来たのだが、其の絶対天敵が持って来たモノを見てキメラは驚くと同時に此の上ない笑みを浮かべていた。
女性に擬態した絶対天敵が持ち帰って来たモノはISコアだったのだから。
此の絶対天敵はモグラの姿で地下を掘り進んでアメリカ軍施設に到達すると、其処で擬態能力をフル活用して軍内部に侵入し、其処で見つけた一人の女性兵士を捕らえると吸収してその女性兵士に為りきってまんまとISのハンガーに入り込み、其処でアメリカの量産型である『ヘル・ハウンド』のコアを一つ盗んで戻って来たのだった。


「龍の機体のコアならば最高だったのだが、そうでなくともISコアが手に入ったのは僥倖だな……白騎士の力を使えば此のコアを強化する事は可能なだけでなく、強化したコアを私が取り込んで子供を産めば、強化コアの力を得た子供達が誕生する事になる。
 ISの力を得た私の子供達に対して、お前はどう出る束?」


此れにより絶対天敵はISの力を得た、得てしまった。
せめてもの救いは龍の機体のコアが奪われなかった事なのだが、キメラは白騎士のコア人格も有しているので、ISコアを強化する事は朝飯前であり、結果として絶対天敵は通常のIS以上、龍の機体以下のIS性能を手に入れるに至ったのだった――龍の機体以下のIS性能であっても、其処に絶対天敵の凄まじい能力が加わったら其れはほぼ龍の機体と互角の性能を持って居ると言えるだろう。

そして其れだけでなく、強化ISコアの力を得た絶対天敵達は龍の騎士団のメンバーに姿を変える事も可能となっており、視覚的な面でも揺さぶりを掛ける事が出来るようになっていた――誰だって、『自分と同じ姿をした相手』と相対したら少なからず驚くモノなので、此れは悪くない一手となるだろう。








――――――








束が裏方として彼是動いてくれた事で龍の騎士団は一週間ぶりにIS学園に戻って来た。
『ハイパーメディカルマシーン』で疲労は完全回復されて時差ボケもなかったのだが、移動中の各種軍艦には『シャワールーム』は完備されていたが、風呂はなかったので、龍の騎士団のメンバーは一週間ぶりとなる風呂を堪能していた。


「何度見てもムカつくわね……箒、ヴィシュヌ、アンタ等夫々その胸を10%ずつアタシに寄越しなさい!!」

「其れは流石に無理だ鈴。」

「其れに胸が大きいと言うのは良い事だけではないのですよ……重くて肩が凝りますし、格闘では邪魔ですので。」

ぶち殺すぞ即席ホルスタイン!


「お姉ちゃん、背中洗ってあげる。」

「あら、ありがとう簪ちゃん♪
 お礼に簪ちゃんの背中洗ってあげるわね♪」


女子風呂では鈴が箒とヴィシュヌに対して嫉妬心を全開にしている一方で、更識姉妹は平和な姉妹のお風呂タイムを楽しんでいた――美人姉妹が互いの背中を流しあうと言うのは其れだけでも微笑ましいモノがあるだろう。

そして入浴後はディナータイムなのだが、今宵のメニューは夏月と秋五が腕によりをかけて作った定食で、小鉢に『メンマとチャーシューと白髪ネギのラー油和え』と『ザーサイと蒸し鶏の胡麻和え』、メインに『中華風鶏モモ肉の唐揚げ』、スープに『青梗菜とキクラゲの春雨スープ』、『十六穀米』と言うラインナップでとても満足出来るモノだった。

夕食後に改めて一風呂浴びた夏月は自室に戻ったのだが……


「「「「「「「「「「「「私にします?私にします?それとも、私?」」」」」」」」」」」」

「選択肢がねぇっての……でも、そう言う事なら有り難く頂きます。」


其処では嫁ズ全員が所謂『裸エプロン』で出迎えてくれたので、夏月は遠慮なくそれを残す事なく美味しく頂いたのだが、夏月との性交渉は嫁ズの強化に直結するので、夏月の嫁ズはある意味で最高にして最大の選択をしたと言えるだろう。
戦力が底上げされると言う事は、絶対天敵との戦いに於いて何よりも優先される事なのだから――!









 To Be Continued