アフリカでの戦いを皮切りに始まった絶対天敵との戦いは、アフリカ戦線のみならず各国の戦いでも絶対天敵を退ける事に成功していた――そして、其の後も絶対天敵の襲撃は行われたのだが、其れは各国の防衛部隊で対処可能な攻撃だった。
逆に言えば地球防衛軍に参加した国が共同開発した『ワイバーン』、『ドレイク』、『ドラグーン』は、束が直々に開発した機体であり、戦いの中で覚醒した『騎龍シリーズ』には劣るとは言え現行の第三世代ISを大きく上回る性能を有していたので絶対天敵に対しても有利に戦う事が出来ていたのだ。


「もっと苦戦するかと思ってたんだが、其れだけに難なく迎撃出来てるってのは逆に不気味な感じがするぜ。お前はどう思う秋五?」

「確かに不気味ではあるね……此方の戦力がドレほどが調べてるのかもしれないけど、其れ以上に多くの戦いを経験する事で力を付ける目的があるんじゃないのかって、そう思うんだ。」

「お前もそう思うか……でもってタダ不気味ってだけじゃなくらしくねぇんだぶっちゃけて言うと。
 束さんは絶対天敵の親玉はDQNヒルデだって言ってただろ?束さんが断定したなら間違いはねぇと思うんだけど、あのDQNヒルデが相手の戦力調べたり何度も戦わせて強化するなんて堅実だけどまどろっこしい手段使うとは到底思えねぇんだわ。
 アイツなら前よりも強い力を手に入れたら其の力を振りかざして一気に攻めて来るんじゃねぇのか?このやり方には少し……否、可成り違和感があるぜ。ともすりゃ違和感しかねぇよ。」

「……確かにらしくないと言えばらしくないかな?
 だけど束さんは『アイツは人間じゃなくなってる』とも言ってただろ?そして絶対天敵は地球上の生物の姿を模してはいるけど其の正体は宇宙から飛来した宇宙生物だ……となるとアレも其の宇宙生物と融合してる可能性がとっても高い。100%と言っても良い。
 そうだとしたらアレの人格は宇宙生物の意識と混じって全く別のモノに変わっているとも言い切れない……そう仮定した場合、アレの人格と融合した宇宙生物の意識は融合した人格の記憶も得た訳で、其処から『ただ攻めるだけではダメだ』と学習してより効果のある戦い方を学んだのかもしれないよ。」

「つまりDQNヒルデの人格はもう存在してないかもしれない訳か……まぁ、あんな不良品人格この世に存在してない方が良いんだけどよ――だが、逆に言えば此の戦いは長引くと連中の方が有利になってくって訳か……出来るだけ早く親玉討たないとだぜ。」

「確かにそうだね……っと、僕は此処で『サンダー・ボルト』を発動して君のフィールド上の青眼の白龍三体を全て破壊する。」

「甘いわ。カウンタートラップ『王者の看破』!俺のフィールド上にレベル7以上の通常モンスターが存在する場合に発動できる此のカードは、魔法・罠の効果を無効、或いはモンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚を無効にする。
 此れでお前のサンダー・ボルトは無効だ。」

「なら僕は『神の宣告』で王者の看破を無効にする。」

「だったら俺も『神の宣告』を発動してお前の神の宣告を無効にする。」


そんな訳で世界は概ね平和なのだが、『織斑千冬(偽)』を知る者達からしたら、キメラとなって絶対天敵の親玉となった彼女が指揮していると思われる絶対天敵の襲撃の仕方には違和感があった。
千冬(偽)ならば、こんな攻め方はせずに一気に相手を滅ぼす勢いで戦力を投入し、更には自分も前線に出て来る筈なのだが、そうではなく『威力偵察』とも思える攻撃をして来る事に関し、秋五は自分の考えを口にしたのだが、其れはあながち間違いでもなかった。

千冬(偽)に喰われた宇宙生物は、その意識が千冬(偽)の人格と混じり、高圧的で傲慢な性格は其のままでありながらも戦いに関しては慎重でより勝率が高くなる方法を選ぶと言う堅実な方法を選ぶ事が出来るモノとなっていたのだ。
故に『威力偵察』とも言える攻撃を繰り返して絶対天敵に戦闘経験を積ませると同時に、相手の戦力が如何程かも探っていたのだが、現状ではまだ『龍の騎士団』や『地球防衛軍』の方が戦力として上回っており、同時に絶対天敵の進化は鈍足だったので脅威にはなりえなかったのだが、其れでも長い目で見た場合は其の限りではないので、絶対天敵の親玉であるキメラの討伐がドレだけ早く行われるか、其れが此の戦いを左右すると言えるだろう。


「此れでお前のサンダー・ボルトは無効となった!此れで終わりだ秋五!青眼の白龍で混沌の黒魔術師に攻撃!滅びのバーストストリィィィム!!」

「其れは通さない!トラップ発動、『聖なるバリア-ミラー・フォース』!!」

「ミラー・フォースだとぉぉぉぉぉぉぉ!?……と言うかと思ったか!此処で二枚目の『神の宣告』を発動してミラー・フォースを無効にするぜ!」


とは言え、今現在が平和であるのならば、其の平和は存分に謳歌すべきモノだろう。
平和な世界を謳歌しつつも自己の鍛錬を怠らずに何時でも戦えるように準備をしておけば、其れこそ突然何があっても対応する事は可能なのだ――そんな訳で、絶対天敵の襲撃は各地で起きつつも、世界は大きな混乱に陥る事なく、『日常時々絶対天敵』な時間を過ごしていたのだった。









夏の月が進む世界  Episode75
『新たな戦火の地~geevolueerde vijand~』










しかし、概ね平和な世界の裏では絶対天敵の親玉であるキメラが次の一手を考えていた。
相手方の戦力は大体把握し、絶対天敵も戦闘を行うたびに進化して強化されるのは分かったのだが、其の進化スピードは地球の生物を吸収した際の進化と比べると鈍足であり、此のままでは地球側の戦力を上回るには年単位の時間が必要になる上に、其の間にも束は『龍の機体』に更なる強化を施して絶対天敵に対しての絶対兵器としてしまうのは間違いない――そうなったら此の戦いに勝ち目はなくなる上に、自分の居場所が割れてしまったら、其れこそ真っ先に倒しに来るのは火を見るよりも明らかなのだから。

無論負ける心算は毛頭ないのだが、勝率を上げたいと考えるのは当然の事と言えるだろう。


「戦闘を繰り返す事での進化では遅いか……しかし、地球の生物は哺乳類、鳥類、虫類、魚類、甲殻類で最強クラスの生物を吸収しているから、此れ以上の吸収進化も望めない。
 ……いや、此れまでは生物に限って吸収していたが、無機物も吸収したら更なる進化が望めるのではないだろうか……吸収した相手の情報は共有できるので、上手く行けば大幅に強化する事が出来るかもしれん。」


しかし此処でキメラは『生物だけでなく無機物も吸収したらどうなるのか』と言う事に思い至り、其れを実行に移すべく絶対天敵達に吸収した地球生物の擬態能力を使って景色やら周囲の物体に溶け込みながら世界各国にある『軍事工場』に入り込んで其処にある兵器や武器を吸収するように命じた。
絶対天敵は他の存在を吸収する事で進化、強化を行う事が出来るのだが、その際には吸収した存在の利点のみを受け継ぐ事が可能であり、例えばカマキリを吸収した場合、その圧倒的なパワーと死角のない視界、脳震盪を起こさない頭部は受け継ぎつつも、骨がないので関節を攻撃されると脆いと言う弱点はオミットされ、言うなれば『関節部は内部骨格接続になっているカマキリ』になるのだ。
更に絶対天敵は変身能力も有しているので戦局に応じて最も適した動物に変身する事も可能なのだが、唯一の弱点として『キメラ状態は三種類以下の生物でしか行えない』と言うモノがあった――利点のみを利用するには三種類までが限界であり、其れ以上は弱点の克服が出来ないのだった。

だからこそ武器や兵器を吸収すると言うのはキメラ状態の強化にも繋がるモノがあった。
特に兵器にはデジタル機器も搭載されており、其のデジタル機器の容量は大きいモノなので其の容量を利点として取り込む事が出来れば絶対天敵のキャパシティも底上げされ、キメラ状態で同時使用出来る存在が増えるのだ。


こうして人々の与り知らぬところで絶対天敵の進化計画が進行し、世界各国に散った絶対天敵は擬態能力を駆使して各地の軍事工場に入り込み、『出荷待ち』の兵器や武器が保管されている倉庫に潜り込み、戦車や戦闘機と言った兵器の他、ハンドガンやアサルトライフル、グレネードランチャー、某サバイバルホラーでは最強の武器として知られる『ロケットランチャー』をも吸収して凄まじい進化を遂げるのだった――尤もその結果として『リボルバー・ドラゴン』や『ガトリング・ドラゴン』、『迷宮の魔戦車』のような姿を手に入れた絶対天敵も存在していたのだが。


「……何を吸収したらそうなる?」

『ガァァァァァァァァァァァァァァ!!』


中には『メカゴジラ』や『キメラテック・オーバー・ドラゴン』、『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』のような姿になったモノも存在しており、果たして何を吸収したのかが非常に気になるのだが、吸収した兵器と爬虫類でキメラ化したと言う事なのだろう多分。
何れにしても此れで絶対天敵は大幅に強化されたのは間違いないが、キメラは此処で一つの大きな失敗をしていた……絶対天敵が吸収したのは通常兵器だったと言う事だ。
通常兵器を吸収したところで、其れはISに対しては優位性を得る事が出来ないので、『龍の騎士団』や『地球防衛軍』に対しては其処まで脅威の進化、強化ではなかった……其れでも龍の機体ではないISでは少しばかり苦戦するかもしれないが。


「今は此れで良い……次は、襲撃の間隔を此れまでよりも短くしてやるか。
 騎龍や其の亜種とも言うべき機体が休まざるを得ない状況に持って行ってやれば必ず其処に隙が生まれるからな……その隙を突いて、通常のISを取り込んでやる。
 ISを取り込む事が出来れば、少なくとも奴等が絶対的に優位と言う状況を覆す事が出来るからな。」


キメラは不気味な笑みを浮かべると兵器や武器を吸収した絶対天敵と同化し、そして新たに大量の卵塊を産み落とし、其処から機械と融合した絶対天敵が次々と誕生し、絶対天敵は其の戦力を底上げしていたのだった。








――――――








「絶対天敵が進化してるって、如何言う事だ束さん?」


其れから数日後、IS学園の生徒会室には夏月組と秋五組、そして龍の騎士団のメンバーが招集されて、束から『絶対天敵が進化している』と言う事を聞かされていた――束は絶対天敵との戦いが始まってからは、自分のラボには戻らずにIS学園に滞在していたのである。
絶対天敵との戦いの前線基地になっているIS学園にISの生みの親が駐屯していると言うのは心強い事この上なく、『龍の騎士団』の機体整備は当然として、其れと並行して絶対天敵の情報を収集して各国に其れを流し、更に戦闘データからより絶対天敵に有効な武器や防具を開発してくれているのだから有難い事この上ない……束としては毎日の夏月からの食事の差し入れや箒と戯れる事が出来ると言うのも学園に身を寄せた理由ではあるのだが。


「言葉のまんまだよカッ君。
 絶対天敵は進化をしてる――最近ニュースになってる『軍事基地から兵器がなくなってる』ってのも、此れは間違いなく絶対天敵がやった事なんだよね。
 どうやらあいつ等、生物の吸収だけでは限界があるって考えたみたいで、兵器や武器を吸収するって強硬策に出たみたいなんだよ此れが……尤も、吸収してるのは現行の通常兵器だけでISは吸収してないからカッ君達が負ける事はないんだけど、こいつ等がISを吸収したら其の限りじゃないよね?」


束も絶対天敵の進化は察知しており、其れでも現行兵器の吸収だけならば『龍の騎士団』と『地球防衛軍』が負ける事はないと考えていたのだが、『龍の機体』でないとは言え、ISを吸収されてしまったら簡単な相手ではなくなるだろう。


「そうかも知れないけど、だからと言って俺達が負けると思ってる訳じゃないだろ束さん?」

「うん、マッタクもってそんな事は思ってないのだよカッ君!
 奴らがISを吸収したらトンデモない進化と強化がされるのは間違いないんだけど、其れでも龍に勝てるかって言えば其れは否だ……爬虫類が恐竜に進化して、更にメカの要素を取り込んだとしても龍に勝つ事は出来ねーんだよ。
 恐竜族最強のモンスターがドラゴン族最強のモンスターに勝つ事が出来ないのと同じだよ。」

「恐竜族最強は攻撃力4000だが、ドラゴン族最強は攻撃力5000だからな。」


だが、通常のISと『龍の機体』では機体性能差が大きく、『騎龍シリーズ』ではない『龍の機体』ですら現行の第三世代ISを遥かに上回っているので、『簡単に勝つ事は出来なくなる』程度の事なのでさして問題ではないだろう……そして束の例え話は説得力がありまくりであった。



――ビー!ビー!!



そんな中、IS学園には突如として緊急アラートが鳴り響いた。
此のアラートが鳴ると言うのはつまり、『龍の騎士団』に出撃要請が来たと言う事であり、其れは『疑似騎龍では絶対天敵を抑えきれなかった』と言う事でもあったのだが、今回は其の要請をして来た国がある意味では問題だった。

今回『龍の騎士団』に出撃要請をして来たのはオランダ……夏月の嫁の一人であるロランの出身国だったのだから。








――――――








要請を受けた『龍の騎士団』は、『マグロユッケ軍艦』でオランダに向かったのだが、到着したオランダは絶望の光景が広がっていた。
オランダの防衛部隊は戦闘を続けていたモノの新たに兵器や武器と同化した絶対天敵の侵攻を完全に止める事は出来ず、都市部に入り込んだ絶対天敵の攻撃によって首都のアムステルダムは壊滅し、他の主要都市も壊滅状態に陥ってしまっていたのだ。
絶対天敵達が吸収した兵器の中には極秘裏に開発されていた『レール砲』や『リニアキャノン』、『プラズマビームキャノン』と言った超兵器も存在していたので、其れだけの超兵器を搭載し、更には戦車や戦艦の装甲と同等の防御力を得た事で、騎龍ではない龍の機体では圧倒するのが難しくなってしまったのである。
其れでも、オランダに駐屯する『地球防衛軍』の隊員は誰一人として撃墜されていないのだから龍の機体の性能の高さとパイロットの技量の高さが逆に分かるとも言えるのだが。


「そんな…………父さんと母さんは無事なのか!?」


その惨状を目にしたロランはすぐさまISの通信機能を使って父親に連絡を入れる。


『おぉ、ロランツィーネ……!』

「父さん!無事なのかい?今どこに!」

『今日は個展の日でね、美術館だよ……母さんは何とか逃がす事が出来たんだが、母さんや個展に来てくれていた人達の避難誘導をしていたんだが、其の結果として私自身は逃げ遅れてしまったよ……瓦礫に囲まれてしまってね、もう逃げ場はない……』

「そんな……弱気な事を言わないでくれ!私も今オランダに到着したんだ!今助けに行くから!」

『其れはダメだロランツィーネ。
 お前は此の国を絶対天敵に滅ぼさせないためにやって来たんだろう?……なら、私の命よりも自分の使命を果たせ……どの道私はもう助からん。美術館の瓦礫に両足を挟まれてしまって身動きが取れないからな……最後にお前と話せてよか……』


――ドドーン!!


――……ツー、ツー……



「父さん?返事をしてくれ父さん!父さーん!!」


通信は繋がり、ロランの母親のミーネは何とか避難する事が出来たとの事だったが父親のジョセフは逃げ遅れ、崩れた美術館の中に閉じ込められ、更には瓦礫に両足を挟まれてしまったと言う絶望的な状況であった。
其れでもロランは父親を助けようと思ったのだが、父親に其れを諫められ、そして通信中に爆音が紛れ込み、そして通信は途絶えてしまった……其れは其の爆音は絶対天敵の攻撃によるモノであり、ジョセフは其れに巻き込まれてスマートフォンが通信不能になってしまった事を意味していた。
ジョセフの生死は不明ではあるが、此の状況での爆音の後に通信が途絶えたと言うのは如何しても最悪の結果が頭をよぎるのは致し方ない――市内ではレスキュー隊が救助活動を行っているので、スマホだけが壊れたのであれば救助されている可能性もあるとは言えだ。


「おい、如何したロラン?親父さんは大丈夫だったのか?」

「夏月……通話中に爆音が聞こえて、そして通話が途絶えてしまった……母さんは避難したみたいだが、父さんはもしかしたら死んでしまったのかもしれない……あの人がそう簡単に死ぬとは思えないが……父さんが置かれていた状況を考えると生存は絶望的と言わざるを得ないと言うのが正直な話だよ。」

「そんな……ロランちゃん……その、悪い方向に考えてはダメよ!可能性がゼロでないのならばお父様の生存を諦めていけないわ!」

「其れは分かっているさタテナシ……だが、其れは分かっていてももしも父さんが死んでしまったのではないかと思うと、私は自分自身の怒りを制御する事が出来そうにない!」


ジョセフは偏屈な芸術家であるが故に、ロランは幼少期には決して平穏とは言えない家庭環境で過ごす事になったのだが、数年後には父の作品は世間での評価を得るようになり、結果としてロランの一家はオランダでも中の上の階級に属する事になったのだ。
だからこそロランも自分が好きになった演劇の世界に入り込む事が出来たのであり、所属劇団でのトップスターになれたのもジョセフが『オランダを代表する新鋭の芸術家』としてロランを金銭面で支援してたのも大きい――ロラン自身の演技力は劇団内でも抜きん出ていたのは事実だが、親が金銭面で劇団を支援してたからこそ不動のトップスターとなれたのだ。
嫌な話になるが、舞台劇を中心に行っている劇団では演技力だけではトップになるのは難しく、劇団員の親族からの献金の多さが出世に影響しているのは間違いなかった――ロランの場合は、ロランの演技力が抜群であり、献金の多さもトップ3だったので劇団の運営団体も誰もロランがトップになるのに異を唱える事はなかったのだが。

だが、其の裏事情を人伝に噂で聞いていたロランは自分がトップになれたのは両親の存在があっての事だと言う事も理解していたので両親には、特にジョセフには此の上ないほどの感謝を感じていたので、其のジョセフが絶対天敵の攻撃によって生死不明となり、最悪の場合は死亡したとなれば、何時もの飄々としたキャラクターが崩壊して純粋な『殺意』に呑まれても致し方ないと言えるだろう。

そんなロランの怒りを受けた『騎龍・銀雷』は其れに呼応するかのようにロランの怒りをエネルギーに変換して機体エネルギーをチャージし、チャージし切れなかったエネルギーは余剰エネルギーとして『稲妻のようなオーラ』として放出される。
同時に此の時のロランはヘッドパーツで隠されていて分からなかったが、限界を超えた怒りによってロランは目の色が反転していた……そして反転した黒目は真っ赤に染まっていたのだから其処に籠った怒りは相当なモノだろう。


「殺す……お前達は滅殺だ……覚悟しろ、今の私は阿修羅を……否、ダイヤモンド・ドレイクすら凌駕する存在だ!!」

「……絶対に倒せない隠しボス超えちゃった。」

「ブチ切れてもブレない部分はあるみてぇだな。」


怒り爆発状態となったロランは銀龍のメイン武装であるビームハルバート『轟龍』を使用した近接戦で絶対天敵達を次々に撃滅して行く……兵器を吸収した事で大幅に強化された絶対天敵ではあるが、束が兵器として開発した『騎龍シリーズ』は各国が開発した『龍の機体』とは一線を画した性能となっている上に、騎龍シリーズを纏ったパイロットは全員が夏月と秋五と其の嫁ズであり、嫁ズは全員が夏月、或いは秋五と一線を越えた事で『織斑計画』で生まれた夏月と秋五が持っている『仲間を強化する因子』をダイレクトに受けており、其の結果として全員が国家代表を十回りほど強化した力を得ているので強化絶対天敵でも苦戦する事はなかった。


「父さんの事もあるが、其れだけでなく私の故郷をこれほどまで壊してくれたお前達にかけてやる情けはミジンコほどもない……砕け散れぇぇぇぇぇ!!」


ロランは轟龍で絶対天敵を斬り捨て、突き殺し、叩き潰すだけでなく、ビームトマホーク『断龍』をブーメランのように投擲して絶対天敵を斬り裂き、挙句の果てには手で絶対天敵の頭部を鷲掴みにすると、ISのパワーアシストで超強化された握力で其れを握り潰す。
其れによって銀龍の手の装甲には絶対天敵の血が付着したのだが、ロランは其れを舐め取ると、次の瞬間には吐き捨てた。


「化け物の血は活力剤になるかと思ったが、とても飲む事が出来ない位に不味い……マムシやスッポンの血は中々に美味だと聞いていたのだが、下手物の極みである絶対天敵の血はとても飲む事は出来ない代物だったか。」

「其れを舐め取ったお前に驚きだがな……にしてもこいつ等、兵器を吸収しただけで『地球防衛軍』じゃ抑えきれない力を得たってのは脅威だな?こいつ等がISを吸収したら、負けずとも可成りの苦戦を強いられちまうのかも知れないぜ。」

「其れは如何でしょうか?
 仮に絶対天敵がISを吸収したとしても、束博士ならば其の可能性も視野に入れた対抗策も用意しているのではないかと思います……実妹である箒は如何思いますか?」

「此処で私に振るのか?
 まぁ、確かにあの人はプロ棋士が驚くレベルで百手以上先を読んでいるような人だから、此の戦いもリアルタイムで観戦しながら最終的に勝利する為の最善のルートを考えている筈だ。
 一時攻め込まれる事はあるかもしれないが、最後に勝つのは私達であるのは間違いない……この星は、私達地球生物のモノなのだから、宇宙からやって来た相手にくれてやる道理はないと言う事だ。」


そのロランの行動に龍の騎士団のメンバーは若干引いたモノの、其れでも圧倒的な力の差をもってして絶対天敵達を次から次へと撃破し、市街地に侵攻した絶対天敵も撃滅した事でレスキュー隊の救助活動も円滑になり、瓦礫の下敷きになった人々もスムーズに救助されていた。


「此れで終わらせる……準備OKよ楯姐さん!」

「ナイスアシストよ鈴ちゃん……此れで爆ぜなさいな!」


ロランが散々無双した挙句、龍の騎士団の攻撃によって一か所に集められた絶対天敵達は鈴の赤龍のワン・オフ・アビリティの『龍の結界』で動きを制限されたところに楯無の『クリアパッション』を喰らわされて粉砕!玉砕!!大喝采!!!
一部の個体はモグラ型に変身して地面に潜って逃げ遂せたのだが、其れでもオランダを襲撃した絶対天敵の八割が此の攻撃によって滅されたのだ。

此れによってオランダでの戦闘は一時的に終わり、同時にロランは遺体安置所に向かったのだが、其処ではジョセフの存在を確認出来なかったので、次に国立病院に向かうと、其処には満身創痍ではあるが何とか生き永らえたジョセフの姿があった。
絶対天敵の攻撃によって更に崩れた美術館の瓦礫でスマートフォンが押し潰されてしまい、ジョセフにも新たな瓦礫が降って来たのだが、不幸中の幸いと言うのか、その瓦礫は上半身には落ちて来ないで、足を挟んでいた瓦礫の上に振って来たのだ。
尤も、其れによってジョセフの両足は完全に瓦礫に潰されてしまい、救助の際には『救助の為に両足の切断』を余儀なくされて、ジョセフは両足を切断する事になったのだった……両足と命、其れは重い天秤だったが、レスキュー隊は命を取ったと言う事なのだった。


「父さん……生きていて良かったよ。」

「ロランツィーネ……もうダメだと諦めていたんだが、自分では諦めてしまっても人生ってのは中々終わらんモノだと実感させられた……自力で歩く事は出来なくなってしまったが、この身が健在であるのならば芸術活動を続ける事は出来るから、私は此れからも己の芸術の世界を追求していくとするよ。」

「そうしておくれ……でも、本当に生きていてくれて良かった。」


病院でジョセフと再会したロランは抱擁を交わし、そして生きていてくれた事を喜んでいた。
両足を失ったとなればこの先の人生は車椅子生活となるので相当に不便になるのは間違いないのだが、其れでも生きていれば不便であっても『不便なりの生きる方法』を考えるモノなので案外生活できるモノだったりするのである。


「ローちゃんパパ専用の機械義肢も作らないとだね此れは。」


加えて束がジョセフ用の機械義肢の開発を考えているので、退院後の生活は其れほど不便なモノにはならないのかもしれない――機械義肢を装着した状態でのリハビリは必要になるだろうが、其のリハビリが終われば健常者と其れほど差がない生活を行う事が出来る事だろう。
こうしてオランダでの戦いは多大な被害を出したモノの地球人類の勝利となったのだった――そしてその夜、IS学園に戻る『マグロユッケ軍艦』では……


「アタシの歌を聞けぇぇぇ!!」

「デカルチャー!」


盛大な宴会が執り行われた後にカラオケ大会が開催され、夫々が抜群の美声を惜しむ事なく発揮して全国ランキングの上位を更新しまくって人気曲の上位三名が夏月と秋五と其の嫁ズが占める結果となったのだった。
だがしかし、IS学園に戻った彼等に休む事は許されなかった――IS学園に帰還するのと時同じくして、今度は中国と台湾が絶対天敵の襲撃を受け、IS学園に救援要請がやって来ていたのだから。

親玉であるキメラが健在である限りは絶対天敵は滅びる事はない……だからこそ、数の暴力を実現する事が出来るのだ。
其の数の暴力が、いよいよ其の本領を発揮した、そう言うべきモノでもあったのだ此の中国と台湾への攻撃は――!








 To Be Continued