ロシアと北朝鮮を壊滅させた絶対天敵の次の攻撃対象となったのはアフリカだった。
言い方は悪いかも知れないが、アフリカは国際社会では後進国でありISも配備されていないので、絶対天敵の攻撃対象にはならないだろうと、そう思われていたのだが、絶対天敵は自己進化の為に新たな地球生物を取り込む為にアフリカにやって来たのだ。
現状でも絶対天敵は多数の哺乳類に虫類、爬虫類を取り込んで其の力を高めているのだが、アフリカには世界最強クラスの動物が多数存在しているので其れを吸収しないと言う選択肢はそもそも有り得ないのだ。
なので、アフリカに上陸した絶対天敵達は『百獣の王』であるライオンや、『地上最大の生物』であるアフリカゾウを取り込もうとしたのだが――
「悪いがそうはさせないぜ……こいつ等を吸収したいなら俺達を倒してからにしな。」
「此処から先には行かせない……絶対にね。」
其処に夏月達『対絶対天敵IS部隊』、部隊名『龍の騎士団』が現れて絶対天敵を攻撃し、現地生物吸収を阻止した。
アフリカの地上にはサソリ型、ムカデ型、爬虫類型、地下を掘り進んで来たモグラ型等の地上型の個体が多数現れ、上空には鳥型、蛾型、コウモリ型、翼竜型と言った空中型の個体が多数現れていた。
一方の迎撃部隊は『龍の騎士団』だけではなく、亡国機業の実働部隊『モノクロームアバター』から隊長のスコールと部隊でも指折りの実力者であるオータムとナツキをはじめとした精鋭達が戦線に加わってくれていた。
「義母さん、其れに秋姉、来てくれた事に感謝するよ。」
「うふふ、可愛い息子にだけ命懸けの戦いをさせる事は出来ないわ……特に私の場合は、自ら戦う力を持っている訳だし、こう見えて害虫駆除は得意なのよ私は。
地球を滅ぼしかねない害虫の駆除、俄然やる気が出るわね。」
「ゴミクズ共が……此のオータム様が直々に狩ってやるぜ!感謝するんだな!」
絶対天敵の見た目は吸収した地球生物の其れを模しているのだが、大きさがマッタク異なっており、全ての個体が最低でも人間の成人男性ほどの大きさがあり、中にはもっと巨大な個体も存在している。
哺乳類や鳥類を模した個体ならば其処まででもなく、爬虫類型も怪獣映画に出て来る怪獣と思えば未だ良いのだが、其れが虫となると話は別だ……カマキリやカブトムシと言った人気のある昆虫ならば未だしも、クモやムカデにゲジ、そして人類の永遠の天敵にして人類が滅んだら地球の支配者となる言われている『黒光りするG』を模した絶対天敵の生理的嫌悪感は半端なモノではなく、一般人が見たら卒倒するか嘔吐するかの二択だろう。
迎撃部隊も夏月と秋五以外は女性なので普通ならば嫌悪感を示すところだが、彼女達は今更馬鹿でかい虫を見た程度で怯むような柔な精神をしていないので問題なしだ。
「先ずは先制。派手にぶちかます……皆、準備は良い?」
「問題ないよ簪!」
「準備OKよ。」
「広域殲滅なら私の出番ね!」
「一発派手にやってやる!」
「弟の前だから張り切ってるなお前……」
数では劣る迎撃部隊だが、簪、ナギ、セシリア、ナターシャ、マドカ、ナツキが前に出るとナターシャ以外は自機に搭載された遠距離武装を展開した上でマルチロックオンを起動して複数の絶対天敵をロックオンすると遠距離武器を一斉に放つフルバーストを発動し、ナターシャは広域殲滅攻撃『シルバー・ベル』を放って少なくない数の絶対天敵を葬って見せた。
マルチロックオンによるフルバーストは数の差を埋めるには有効な攻撃であり、其れが合計五機から放たれたとなれば、少なく見積もっても百体近い絶対天敵を殲滅した事になるだろう。其処に広域殲滅攻撃が加わったら尚の事だ――だが、其れでも絶対天敵は全滅していないので、其の絶対数がドレだけ存在するのかは想像も出来ないだろう。
と言うよりも絶対天敵の親玉であるキメラを処理しない限り絶対天敵はドレだけ倒そうとも其の数が減る事はないのだが。
「来いよやられ専門の雑魚共。
獣や鳥、虫程度じゃ龍には勝てないって事を其の身をもって知るが良いぜ。」
「ロシアと北朝鮮を壊滅させてくれた事に礼は言うが、君達の役目は其処で終わりさ……そして此れから始まるのは地球規模で行われる人類存続を懸けた戦いなのだが、其の戦いの結果は既に決まっている。
最終的に勝利しているのは私達地球人類だ……無粋な侵略者は滅びると相場が決まっているんだよ。少なくとも演劇の世界ではね。」
「いや、其れは演劇の世界に限った事ではないわよロランちゃん……現実でも、無粋な侵略者は最終的に滅びる運命にあるのよ……!!」
だからと言って怯む夏月達ではなく、寧ろ此のフルバーストでの迎撃は戦闘開始の派手な花火となり、此処から迎撃部隊は絶対天敵との本格的な戦闘を開始すると同時に、此れが後に『地球防衛戦』と呼ばれる事になる戦いの始まりでもあったのだった。
夏の月が進む世界 Episode74
『現われし脅威!~その名は絶対天敵~』
アフリカの地に於ける絶対天敵との戦い、先手を取ったのは迎撃部隊の方だったが、絶対天敵は数にモノを言わせた物量作戦を行って来た――数の暴力を用いての攻撃は有効であり、すり潰せる戦力が有れば有るほどその効果は大きいと言える。
絶対天敵は親玉であるキメラが生きている限りは幾らでも其の数を増やす事が出来るので、正に物量作戦を行うには理想的な存在と言えるだろう。
「全ての生物の大きさが同じだったら最強は虫だって話を聞いた事があるけど、如何やら其れは机上の空論って訳でもなさそうだな?特にカマキリは。
死角が存在しない複眼、脳の容積が小さ過ぎて脳震盪を起こさない頭、人間の握力に換算すると500㎏を超えるカマで挟む力、加えて飛行能力まであるとなれば確かに最強だし、其処に他の生き物にも変身可能な能力が備わってると来たら相当な難敵だ……だが、だからと言って倒せねぇって訳でもないんだけどよ!」
「無敵では倒しようもありませんが、難敵ならば倒す方法は存在しますからね。」
親玉であるキメラは束が白騎士のコア反応をキャッチすれば直ぐに判明するのだが、束が何度キメラの足取りを最後まで追跡しようとしても白騎士のコア反応は毎回必ず途中で消えてしまっており、現状ではキメラが何処に潜んでいるのか不明だった。
とは言え、其れで諦める束ではなく、『白騎士のコア反応が追えなくなるのは、アレがコア反応を遮断する空間に居るからだ』と推測し、其処から『ISコアの反応を遮断する物質とは何か?』の研究を始めて現在も其れは続いている――と言うのも既に数百種の物質で『ISコアの反応遮断実験』を行っているのだが『ISコアの反応を100%遮断する物質』には未だヒットしていなかったのだ。
故に現状では現れた絶対天敵を殲滅し、『此れ以上戦うのは旗色が悪い』と判断させて撤退させるのが最善策なのだ――既に束によってキメラが健在である限り絶対天敵は幾らでも数を増やせる事が判明しているので絶対天敵を全滅させるのは現状では不可能なのだから。
束の実験によってISコアの反応を100%遮断する物質が発見され、其れが存在するのは地球の何処であるのかが判明するのが先か、其れとも絶対天敵による侵攻が思うように行かず、キメラが痺れを切らして現れるのが先か、或いは抵抗虚しく地球人類が滅びるのが先か、此の何れかが此の戦いの末に待っている未来なのだが、地球人類の滅亡は無くはないかも知れないが、其れでも確率は限りなくゼロに近いと言っていいだろう。
「絶対天敵だか、全体点滴だか知らないが、テメェ等如きが地球を侵攻出来ると思うなよ?
ロシアと北朝鮮は馬鹿な判断をしたからやられちまっただけで、其れ以外の国はテメェ等をぶちのめす為に手を取り合ってんだ……そう言う意味では少しだけ感謝してやっても良いぜ?テメェ等が現れてくれた事で世界は一つになる事が出来たんだからな!」
「共通の敵が現れた事で世界は一つになる事が出来た……其れはとても良い事なのだが、だからこそ私達が負ける事は有り得ない――故に、君達に捧げるレクイエムを受け取っておくれ!」
『龍の騎士団』は『騎龍シリーズ』だけでなく、束が国際連合軍に加盟した国に新たに譲渡した百個のISコアと絶対天敵に有効である武装の資料を元に開発された『対絶対天敵用IS』を開発しており、絶対天敵に対して有利な戦闘が行えるようになっていた。
『疑似騎龍シリーズ』とも言える各国の新型機が絶対天敵に有効な武装を備えているのは勿論なのだが、其の中でも矢張り生粋の『騎龍』で構成されている夏月組と秋五組の活躍は目を見張るものがあった。
夏月は『心月』と追加装備の脇差型の近接ブレード『三日月』の二刀流で絶対天敵を次々と切り捨てて行く――心月は順手だが三日月は逆手に持った変則の二刀流は攻撃の起動が読み辛く、逆手に持った三日月は心月での攻撃後の隙を完全にフォロー出来るので夏月の剣は正に死角がなくなっていた。
其れだけでなく近距離戦能力が強化されたヴィシュヌとグリフィンが夫々ムエタイとブラジリアン柔術で絶対天敵にダメージを与えるだけではなく――
「むぅ~だ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
グリフィンはISのサポートがあるからこそ可能である『無呼吸連打(言葉は発してても此の間も無呼吸である。)』とダイヤモンドブロウを使って、『ジョジョの奇妙な冒険』の『空条承太郎』や『DIO様』もビックリな超高速の連続パンチで絶対天敵を粉砕!玉砕!!大喝采!!!
勿論それだけでは終わらず、ロランは追加装備の脚部ビームブレードを用いた近距離戦で絶対天敵を次々と切り捨て、ヴィシュヌはクラスターボウでのマルチ攻撃を行いながらも近距離の間合いに入って来た絶対天敵にムエタイの攻撃を叩き込んだ後に鋭い蹴りで首を刈り取って絶命させ、鈴と乱は『プラズマ龍砲』で絶対天敵を殲滅していた――ISの攻撃でなければ効かない絶対天敵だが、逆に言えばISの攻撃ならばどんなモノでも有効となるので、格闘だろうと砲撃だろうと、『龍の騎士団』の攻撃は絶対天敵にとっては有効打だったのだ。
「ダリルちゃん、合わせて!」
「派手にぶちかますぜ楯無!」
其の中でも強烈極まりなかったのが楯無とダリルの連携攻撃だった。
ダリルは元々フォルテとの連携を得意としており、其れは氷と炎の相反する属性による二重攻撃があればこそだったのだが、ダリルの機体が騎龍と化した事でフォルテの専用機との性能差が大きくなってしまい其の二重攻撃が出来なくなってしまった事で現在は一時的にフォルテとのコンビは休止状態となっていた。
そんな時にダリルのフォルテとの新たな連携攻撃を開発するまでの間のダリルの一時的なパートナーとして名乗りを上げたのが楯無だった。
楯無の専用機の『騎龍・蒼雷』ナノマシンの精製機能が備わっており、其れによって『ナノマシンを使った水分身』、『水蒸気爆発』と言ったトンデモ戦術を可能にしているのだが、ナノマシンで水を作れるのであれば、氷を作る事も可能なので、楯無とダリルは先の『夏月と秋五のプロデビュー戦』の後から研鑽を積んで遂に氷と炎を同じ強さで融合する合体技の完成に漕ぎつけていたのだった。(ダリルはフォルテと同様の攻撃を行っていたのだが、騎龍化した事で火力が上がっていたので其の調整が必要だった。)
「此れが私達の全力の一撃……『メドローア』って言えば分かる人には分かるのかもしれないけど、対消滅によって発生する破壊のエネルギーは凄まじいモノがあるから、其れを堪能すると良いわ。」
「真面に喰らえば完全消滅、掠っただけでも其の部分が抉り取られたみたいになっちまって、余波を受けただけも戦闘不能は確実ってトンデモ合体攻撃だからなコイツはよ。
騎龍になる前ですら此の合体攻撃は相当強力だった訳だが、そいつを騎龍のパワーで放ったらドンだけの破壊力になるんだろうな!」
タダでさえ強力な氷と炎の対消滅攻撃が騎龍のパワーで繰り出されたら、其れは最早核爆弾に匹敵する破壊力であり、此の攻撃により相当数の絶対天敵が屍も残す事なく文字通り『消滅』してしまったのだが、其れでもマダマダ絶対天敵は湧いてくるので若しかしたらキメラはリアルタイムで絶対天敵を新たに生み出しているのかもしれない。
加えて新たに追加された絶対天敵は蛾型が多く、其の鱗粉で龍の騎士団の機体性能を低下させる心算なのは間違いないだろう――だが、龍の騎士団と各国の防衛部隊の機体には既に束が開発した『蛾型の鱗粉のフィルター』が搭載されており機体性能が低下させられる事はなくなっていた。
「うげ……あれってもしかして台所に出るアレじゃない?」
「古生代や中生代には50㎝のアレが居たってのは知ってるんだけど、其れ超えてるよねアレは?と言うか私の見間違いじゃなければ二足歩行してるよねアレって?」
「二足歩行するG……テラフォーマーのアレを思い出した。」
更に追加戦力の中には最初に現れたのとは異なる形をした『人類の永遠の敵』である『黒光りするG』の姿や、其のGやムカデを捕食してくれる益虫でありながら見た目で風評被害を受けている『ゲジ』の姿をしたモノも存在しており、しかも元の生物と異なり地面を這い回るのではなく『直立歩行』をしているのだから、最早ホラーを通り越した恐怖と言えるだろう。
だが、前述したように此の場に集まった女性達は此れで怯むような柔な精神はしていないので問題なく戦闘を行っており、寧ろ『G型』は正しく絶対天敵なので容赦なく殲滅して行った。
「若しかしたらこれ効果あるかも……喰らえ!!」
「簪ちゃん、今の何?」
「ネタで搭載されてる対B・O・Wガス弾。」
此処で簪がネタで搭載されているグレネードランチャーの特殊弾『対B・O・Wガス弾』を放ったのだが、此れがなんと絶対天敵には効果があった。
大人気サバイバルホラーゲーム『バイオハザード』に登場する『対B・O・Wガス弾』はグレネードランチャー専用弾であり、その効果は『T-ウィルスの影響を受けている存在のHPを半減させる』モノであり、主にボスキャラのタイラント戦で使う事になるのだが、そのネタ弾丸が絶対天敵に対しては『無脊椎の外骨格生物型』の外骨格を溶解させ、虫型の複眼を一時的に機能不全に陥らせ、哺乳類型、鳥型は呼吸困難に陥り、爬虫類型は体温が極端に低下して動く事が出来なくなってしまったのだ――ネタで搭載していた特殊弾丸がまさかの効果を発揮してくれた訳だが、この好機を逃す手はない。
「まさかのネタ武器が有効とは嬉しい誤算ってやつだな……そして射撃・砲撃型の機体にはグレネードランチャーと対B・O・Wガス弾が此の戦いでは標準装備になる事が確定した訳か。
此の戦い、束さんは見てるだろうからな。」
「姉さん、見ていますか?私はとっても頑張っていますよ。」
攻撃を行う前に箒は適当にどこかにあるであろう束が此の戦場に寄越したドローンカメラに向かってウィンクしてVサインを送っていたが、箒の予測はバッチリ当たっており、ラボの束のモニターにはウィンクしてVサインをする箒の姿が映っており、其れを見た束は鼻から愛を噴出して悶絶し、その影響でエプロンドレスが真っ赤に染まる事になったのだが、束ならば大して問題ではないだろう。
其れは其れとして、簪の攻撃によって戦闘力が大幅にダウンした絶対天敵に対して夏月は羅雪のワン・オフ・アビリティの『空烈斬』を発動し、『見えない空間斬撃』で絶対天敵を斬り裂いて行ったのだが、斬られた絶対天敵は斬られた直後に身体が膨らんで爆発したのである。
此れにはその場に居た全員が驚いたのだが、此れは空烈斬に羅雪のコア人格となった千冬が『対零落白夜』として作った『無上極夜』の効果を上乗せした事が原因だった。
『触れたISのシールドエネルギーをゼロにする零落白夜』を無効に出来る『無上極夜』がどんなカラクリであるのかと言えば、『零落白夜の力を上回るシールドエネルギーの超回復と一時的なシールドエネルギーの増大』であり、『一撃でゼロになる前に回復してエネルギー量を増やす』と言うモノなのだ。
機能としては単純なのだが、此れは攻撃に使うとある意味では零落白夜以上の破壊力を有していた――シールドエネルギーを強制的にゼロにする零落白夜とは逆に無上極夜は強制的にシールドエネルギーの回復とエネルギーを増大させるモノであり、其れを喰らった機体はシールドエネルギーが飽和状態となってオーバーフローを起こして機能不全に陥り行動不能になるのだ。
分かり易く言えば『食べ過ぎて動けなくなってしまった』と言う状態に近いだろう。
そして其の攻撃を受けた絶対天敵は身体が許容出来るエネルギー量を越えてしまい、其の結果として身体が膨らんだ後に爆発四散すると言う『世紀末救世主伝説』のような状態になってしまったと言う訳だ。
『若しかしたら効果があるのではないのかと思ってやってみたのだが、思った以上に効果があったようだな……レッドラムの連続パンチに此れを使っていたらリアル北斗百裂拳になったのかもしれんな。』
「やるならやるって事前に行ってくれよ羅雪……斬った相手がイキナリ爆発とか、流石の俺もビビるからな?だけど、此れで取り敢えずはアフリカに侵攻して来た奴等は全滅させられたかな?」
この夏月の攻撃と他のメンバーの総攻撃によってアフリカに現れた絶対天敵は追加戦力を含めてほぼ99%が殲滅され、残った1%は撤退を余儀なくされていた――本来ならば撤退を行う絶対天敵も倒すべきなのだろうが、戦いはまだ始まったばかりなので、現れた絶対天敵を完全殲滅するよりも撤退を始めたのならば深追いしない方がベターなのだ。
完全に殲滅してしまったら次の戦いの時には全て新型となった絶対天敵と戦う事になり、新型の情報もないので其れがディスアドバンテージになってしまう事もあるだろうが、生き残りが巣に戻れば其れをベースに強化と回収が行われるであろうから、完全な新型ではなくある程度は知っている相手になると言う訳なので深追いはしなかったのである。
こうしてアフリカに於ける戦いは龍の騎士団の勝利に終わり、戦闘終了後に龍の騎士団の面々は現地民からの歓迎を受ける事になり、盛大な宴が開かれ、祝の酒が振る舞われた。
龍の騎士団のメンバーには未成年も多いので飲酒は本来ならばNGなのだが、龍の騎士団の総司令官を務める真耶が『祝いのお酒は治外法権ですね♪』と言った事でメンバーは祝の酒を飲みほして宴がスタートした。
宴にはアフリカの御馳走も所狭しと並び、珍しい『バオバブの実』は『酸味のある麩菓子』の様な味わいで中々の人気となっていたのだが、其れよりも一行を驚かせたのはまさかの『キリンの丸焼き』だった。
グリフィンの故郷であるブラジルでは客人をもてなす為に『豚の丸焼き』、或いは『ヒツジの丸焼き』を振る舞う事はあるのだが、其れを上回る『キリンの丸焼き』には度肝を抜かれた――焼き上がるのに五時間かかると言う事は、絶対天敵との戦闘が始まる前から仕込んでいたと言う事であり、其れは逆に言えば龍の騎士団の勝利を確信していたからこそと言えるだろう。
「キリンの丸焼きには驚いたけど、アンタはその足をガッツリ行く訳かグリ先輩。何だよ其の特大の原始肉……」
「ばび?(なに?)」
「なんでもないっす……沢山食べる君が好きです。もうこうなったらいっその事キリン一頭喰い尽くしちゃって下さい。」
其のキリンの丸焼きは、グリフィンが安定の食欲を発揮してキリンの足の肉に豪快にかぶり付いていた……所謂『漫画の肉』を凌駕するキリンの足の肉を美味しそうに食べるグリフィンに彼是言うのは無粋と言うモノなのだろう。
勝利の宴は日が沈むまで続き、宴が終わった後は龍の騎士団の面々は『ネギトロ軍艦』に乗り込んで就寝すると同時にネギトロ軍艦はIS学園へと帰還するのだった。
――――――
しかし、アフリカに絶対天敵の大軍が押し寄せた直後に、世界中で絶対天敵による侵攻が発生していた。
とは言えそれはアフリカに現れた大軍と比べれば遥かに小規模であり、各国の『対絶対天敵防衛部隊』で対処する事が出来ていた――絶対天敵に対抗するための国際国連軍、正式名称『地球防衛軍』に参加した国には束から新たに百個のISコアが供与され、更に『騎龍シリーズ』の基本データと『絶対天敵に有効な武装』のデータと設計図も送られていたので其れを元に騎龍シリーズには大きく劣るが、其れでも現行の第三世代ISを凌駕する性能を持った『対絶対天敵用IS』を開発したのは前述したが、其れ等の機体は近接型の『ドレイクシリーズ』、遠距離型の『ワイバーンシリーズ』、中距離高機動型の『ドラグーンシリーズ』となっており、特化型二種とバランス型一種と言う形でどんな敵にも対応出来る布陣を整える事が可能となっており、これ等の機体を開発出来ていた事で絶対天敵の侵攻に屈する事はなかった。
「HAHAHA!この程度でユナイテッドステイツを落とせると思ってんのかい?寝言は寝て言え、戯言はラリッてから言え、妄言はエレクトしてから言いやがれってなモンなんだよ!!」
アメリカではナターシャと双璧を成していた実力者であるアメリカ軍の現役軍人にしてアメリカの国家代表であり『イーリス・コーリング』が近距離型のドレイクを纏ってアメリカ本土に現れた絶対天敵を殴って、切って、アメリカプロレス最強の必殺技の『ラストライド』で滅殺する――ラストライドはパワーボムの体制から更に相手の身体を頭上に持ち上げて一気にマットに叩き付ける技なのだが、イーリスは持ち上げた状態からイグニッションブーストで成層圏付近まで上昇してから再度イグニッションブーストを発動して落差数1000mのラストライドをブチかまし、其れを喰らった絶対天敵は外骨格生物型だった事もあって頭から罅が入って粉々に砕け散ってしまっていた。
「来たか……私に続け、ドイツの黒兎たちよ!」
「「「「「「「「「Ja!!」」」」」」」」
ドイツではラウラが隊長を務める『黒兎隊』が其のまま絶対天敵の相手をする事になったのだが、隊員の機体は全て改修されて『劣化騎龍』となっていたので絶対天敵とも互角以上に戦えていた。
そして其の中でも特に目を引いたのが黒兎隊の副隊長の『クラリッサ・ハルフォーフ』だった。
黒兎隊の副隊長を務めているクラリッサだが、ドイツが秘密裏に行っていた『強化人間計画』による初めての成功例であり、其の能力はラウラを凌駕しているのだ――量産にはコストが大きいと言う理由でラウラ以降はラウラ基準で作られている訳なのだが。
そしてそのクラリッサは遠距離型の『ワイバーン』を使って絶対天敵を滅殺していた……ドイツの黒兎は中々に獰猛であったのだ。
「私は猫は好きだけど、アンタみたいな化け猫はゴメンさネ!」
イタリアでは第二回モンドグロッソにて千冬(偽)と優勝を争った『アリーシャ・ジョセフスター』が中距離高機動型の『ドラグーン』に乗って絶対天敵を圧倒していた。
特化型のドレイクやワイバーンと比べると大きな特徴はないドラグーンなのだが、逆に汎用性に富んでおりパイロットを選ばない機体であり、其れは『パイロットの腕がストレートに出る』機体でもあった。
そんなドラグーンを使って絶対天敵を圧倒しているアリーシャの実力は千冬(偽)を超えており、第二回モンドグロッソで彼女が千冬に敗北したのは実力差ではなく、試合の中でアリーシャが『コイツとは本気で戦う価値がない』と判断して態と負けたからだった――つくづく、千冬(偽)の『ブリュンヒルデ』の称号はマッタクもって何の価値もないモノだったのである。
「絶対天敵とは随分と大層な名を付けてくれたけど、此れでは少々名前負けな感じは否めないんだが……何だろう、少しばかり胸がざわつくヨ。
……私の杞憂であればいいんだけど、今回の攻撃はもしかしたら私達の戦力が如何程かを図るモノだった可能性があるネ……もしもそうだとしたら、次の攻撃は今回よりも苛烈なモノになるのかも知れないヨ……!」
だが、絶対天敵の歯応えの無さにアリーシャは違和感を覚えており、今回の攻撃は『自分達の戦力を図るモノではなかったのか?』との疑問に至っていたのだが、其れに思い至ってももう遅いだろう――各国に現れた絶対天敵は地球防衛軍によって手痛い反撃を受けて撤退してしまったのだから。
ともあれ此の戦いのファーストコンタクトは地球人類側が勝利を収めたのだった。
――――――
此度の地球侵攻は失敗に終わった絶対天敵だが、その親玉であるキメラは『カマキリの上半身が人間の女性になった』姿で新たな卵塊を生みつつ、今回の侵攻の成果に満足していた。
結果としては負け戦だったのだが、其れでも騎龍シリーズの戦闘力と各国が保有している戦力は大体把握出来た――特に警戒すべき相手はアメリカとドイツとイタリアと、そしてISの生みの親である日本と、そしてIS学園だった事も確認出来たのは大きな成果だろう。
「ククク……いいぞ、最高だ。
貴様等が抵抗すればするだけ私の子供達も強くなる……無駄な足掻きを繰り返し、そしてその果てに滅びの道を歩むがいいさ――私の思い通りにならない世界など存在する価値もないのだからな!!」
そう言いながらキメラは新たな卵塊を多数生み出し、その卵塊からはすぐさま新たな絶対天敵が誕生していたのだった――此度の襲撃から帰還した絶対天敵を喰らったキメラによって弱点部分を補うだけの力を持った新たな絶対天敵が。
「IS学園を狙うのはまだ早いか……ならば次に攻撃すべき場所は……」
新たな絶対天敵を生み出したキメラは次なる攻撃対象を何処にするのかを決めかねていた……のだが、地球に対しての危機は未だ去ってはおらず、寧ろ此れからが本番であり、此度のアフリカに端を発する戦いは、まだ前座試合に過ぎなかったのであった。
To Be Continued 
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