其れは突如として現れた。
今日も今日とて平和な世界が送られていたのだが、そんな中で中国の空には多数の黒い影が迫っていた。
軍用レーダーが其の黒い影を補足した時、最初は最新レーダーの感度が高く、移動する渡り鳥の群れを補足したのかとも思ったが、同空域を偵察中のドローンから送られて来た映像を見て基地内の人々は言葉を失った……レーダーが捉えたのは渡り鳥の群れなどではなくISを纏った人間ほどの大きさのカマキリの群れだったのだから。
しかも群れの中には化け物のようなカマキリ以外にも、太古の翼竜の如き大きさの猛禽類、そしてファンタジーの世界に出てきそうなワイバーンのような姿をしたモノまで存在していた。
突如現れた未知の存在、其れが自国に向かっていると言う事を知った中国軍は中国政府に連絡を入れ、其れを聞いた政府のトップである『集金平糖』はすぐさま迎撃態勢を取るように指示し、中国軍は陸に戦車、空に戦闘機、海にはイージス艦と空母を展開して謎の存在への迎撃態勢を整える。
中国の軍隊は規模だけならば世界有数であり、保有兵器も非常に多いので其の防衛線がそう簡単に突破される事はないだろう。(其れでもシミュレートするとアメリカと戦った場合は三日で、日本と戦った場合は一週間で負けるのだが。)


『『『『『『『『『『ギシャァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』』』』』


しかし中国に飛来したカマキリと猛禽とワイバーン型の存在――そう、キメラの子供達は戦車や戦闘機からの攻撃などモノともせずに中国本土に上陸して破壊行為と殺戮行為を開始した。
更に空からだけでなく海にはダイオウイカをも凌駕する巨大なイカとタコ、クルーザーほどの大きさのロブスターの姿をしたキメラが現れてイージス艦と空母を破壊し、地上では地下からモグラ型のキメラとワーム型のキメラが現れて手当たり次第に破壊と殺戮を行っていた。
戦車や戦闘機の攻撃が効かないのであれば、当然歩兵が持っている自動小銃などは無力であり、『人が生身で持てる最強兵器トップ3』である『ロケットランチャー』、『グレネードランチャー』、『ガトリングキャノン』ですら全くダメージを与える事は出来ていなかった――グレネードランチャーは特殊弾薬の『火炎弾』、『氷結弾』、『硫酸弾』まで使ったのに一切ノーダメージだったのだ。


「此のままでは……仕方ない、IS部隊を出せ!!」


此のままでは国が亡びると判断した軍の上層部は遂に切り札であるIS部隊の投入に踏み切った。
ISの軍事転用はアラスカ条約によって禁止されているのだが、現在は条約其の物が形骸化しておりほぼ全ての国が軍部にIS部隊を作っている状態なのだが今回は其れが功を奏した。
通常兵器では全くダメージを与える事が出来なかったキメラに対して、ISの攻撃は有効だったのだ。
加えて中国は第三世代機である『甲龍』の量産化を成功させていたので、その高いISの性能によってキメラの集団と戦う事が出来ていた――とは言っても数の差が余りに大きい上に、『攻撃が効く』だけでISがキメラの攻撃に対して無敵と言う事ではないのでIS部隊も少なからず被害は出たのだが。


「くっそぉ……なんなんだよお前等!!」

『キシャァァァァァァァァ!!!』


キメラの集団が中国に上陸してから二時間後、首都の北京と大都市上海と香港がほぼ壊滅状態になり、IS部隊も半数が戦闘不能になったところでキメラ達は中国から撤退して行った。
絶命したキメラの亡骸を生きているキメラが吸収した事に関しては言いようのない気持ちの悪さがあったが、取り敢えず中国は国の崩壊はギリギリで免れた――だが、中国からキメラ達が撤退すると同時に、ロシアと北朝鮮、そして韓国にもキメラの軍勢が押し寄せて中国同様に首都と主要都市を壊滅状態にしたのだった。
被害が中国だけであったのならば、中国得意の『揉み消し』で今回の一件を外部に漏らさないように出来たかも知れないが、中国の他にロシアに北朝鮮、そして韓国が同じ状況になったとなれば隠し通す事は不可能だ。
特に韓国は日本とアメリカと同盟関係にあるので此の事実を公表しないと言う事は出来なかった。

キメラに襲われた国としては真っ先に韓国が会見を行ってキメラの存在を世界に明らかにし、キメラにはISの攻撃しか効果が無いと言う事も公表した。
その韓国の発表を受けて、国連と国際IS委員会は緊急の会合を開いてキメラ達を『絶対天敵』と命名し、絶対天敵を殲滅する為に各国の団結を求め、絶対天敵と戦う為に各国保有のISを集結させた部隊を結成し、其の前線基地に、ある意味では最強の戦力を保有している『IS学園』を指定したのだった。


「ISの攻撃しか効かないとか、本気でナニモノだこいつ等?
 いや、あの屑が黒幕なら有り得ない事じゃないか……アイツは白騎士のコア人格も有してる訳だから、配下の絶対天敵がISでしかダメージを与える事が出来ないってのも分からない話じゃない。
 だけど、タッチの差で私の方が対応が早かったね?……騎龍化の因子は全て覚醒して、守護龍達は出揃った。
 龍は最も神に近い存在だ……其れを越えられるって言うなら越えてみろ屑と融合した愚女が……悪いけど、束さんは道を誤った不良娘には一切の容赦はしねーからね♪」


束はその様子をラボのモニターで観覧しつつ、しかし夏月達が負けるとは微塵も思っていなかった。
と同時に、映像データから束は絶対天敵の弱点を明らかにすべくモニターと睨めっこして目にも留まらぬ速さでコンソールをタッチしてた――そして此の日から束は三連徹をブチかまして絶対天敵の特徴を解析して、現状で解析出来た特徴をIS学園と各国に送り付け……そしてベッドにダイブしたのだった。









夏の月が進む世界  Episode73
『現れし新たな敵~Absolute natural enemy~』










絶対天敵との戦いの前線基地となったIS学園だったが、だからと言って学園の生徒達の日常が変わる事はなかった。
専用機持ち達は何時でも出撃出来るようにとは言われていたのだが、一般生徒は其の限りではなく、今日も今日とて平和な学園生活を満喫していたのだった……絶対天敵の報道も、今現在は『対岸の火事』でしかないから此れは仕方ないだろう。
加えて前線基地に指定されたIS学園ではあったが、学園側としてもイキナリそんな事を言われたからと言って『はいそうですか』とは行かず、IS部隊の受け入れ準備や生徒達の安全も確保しなくてはならないので、現状では学園が前線基地として機能していないのも大きいだろう。


「「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」」


そんなこんなで午前中の授業を終えてのランチタイム。
夏月は嫁ズとランチタイムで、今日もまた美味しそうな弁当が作られていたのだが、本日の夏月組の弁当のメニューは『三食そぼろ丼(鳥そぼろ、炒り卵、鮭フレーク)』、『豚バラ肉の塩釜焼』、『無限キャベツ(千切りキャベツと塩昆布とゴマ油の和え物)』、『金平ゴボウ』と言うラインナップで、其れに加えて魔法瓶に『木耳と春雨の中華スープ』も仕込んでいると言うモノだった。


「にしても、絶対天敵か……束さんが解析した結果によると、『絶対天敵は地球の生物ではなく、宇宙から飛来した宇宙生物である。』、『外見は地球の生物を模している、或いは地球生物と同化して同化した生物の姿に自由に変わる事が出来る。』、『IS以外ではダメージが与えられず、通常兵器の攻撃は更なる進化を促す刺激になる可能性がある。』、『仲間の死骸を吸収して更なる進化をする可能性がある。』とまぁ、此れでもまだ解析出来たホンの一部に過ぎねぇってんだからドンだけの能力を持ってるのかって話だぜ。」

「其れに加えて、学園と各国に送られた解析結果には記されていないけれど、絶対天敵の親玉は織斑千冬の姿をしたアレなのよね……其れはつまり、アレも絶対天敵と融合したと言う事でもあるわ。
 最強の人間のプロトタイプの肉体に原初のISのコア人格と絶対天敵が融合した存在って、色んな意味で最悪である事この上ないわ……」

「マッタクもって最悪な存在であると言う事に関しては私も諸手を挙げて賛成だよタテナシ。
 血濡れのブリュンヒルデが宇宙から飛来した存在と融合して、更に大量の配下を従えていると言うのは其れだけで此の世界の危機と言っても良いモノだが……状況は悪くはない。
 ISでの攻撃が有効であるのならば戦う事は出来るし、騎龍であれば絶対天敵に対しても有利に戦う事が出来るのだから――そして、その騎龍が現状では二十三機存在している。
 決して多い数ではないが、其れでも有利に戦える存在と言うのは大きいモノだからね……だが、其れは其れとして中国が半壊状態になってしまった事は残念だったね鈴。」

「あ~~……うん、其れは大丈夫よロラン。
 アタシは確かに中国人だけど、日本で数年暮らした事で中国ってのがドンだけ常識がない国だったのかって痛感して、ぶっちゃけ中国に対しての愛国心とかゼロになってんのよ。
 お母さんの事は心配だったけど、無事なのを確認して日本への航空券をネットで買って送ったから大丈夫だと思うし。」


ランチタイムでの話題は絶対天敵に関してだったが、共通認識としては『千冬(偽)が絶対天敵化したとか最悪過ぎる』とのモノだった――倫理観や常識なんてモノが存在していない千冬(偽)が絶対天敵と同化して力を得た結果が中国、北朝鮮、韓国、ロシアが半壊したと言う事なのだから。
IS学園もIS部隊の受け入れ態勢や、生徒の安全確保が整えば『対絶対天敵の前線基地』として運用される事になり、そうなれば専用機持ちである生徒が戦場に駆り出されるのは必然となるのだが、夏月組も、そして食堂でランチタイムの秋五組も戦場に出る事に対しての恐れは無かった。
夏月組は全員が亡国機業のメンバーとして活動していた時期に『殺し』を経験した事で『命の遣り取り』を行う覚悟を決めており、秋五組は殺しの経験こそないが先の束による『強制騎龍覚醒イベント』にて、『命懸けの戦い』を経験した事で夏月組ほどではないにしろ本物の戦場で戦う事が出来るレベルの覚悟は決まっていたのだ。


「何れにしても、絶対天敵は殲滅すべき存在であり、殲滅出来なかったら地球は滅んでしまいます……ならば、絶対天敵との戦いにはなにがなんでも勝利しなくてはですね。」

「あぁ、絶対に勝たないとだぜヴィシュヌ……そして今度こそ俺はアイツを殺す……アイツは此の世に存在してちゃいけない奴だからな。」

「へっ、言うじゃねぇか此のエロガキが……なら、必ずお前が奴に引導を渡せよ!」

「パンチラどころかブラチラ全開のアンタにだけはエロガキとは言われたくないぜダリル先輩……だけど、アイツは必ず俺が討つ、其れは約束するぜ?
 まぁ、其れはつまるところお前の器をぶっ壊す事でもあるんだけど、良いよな羅雪?」

『構わん、完膚なきまでに破壊しろ。私も、今更あの身体に戻る気はないのでな。』


加えて夏月はキメラの親玉は己の手で討つと決めており、羅雪も『完全に破壊しろ』と其れを後押していた。
そんな感じでランチタイムを過ごし、午後は一組は五時限目が『IS理論』で六時限目は『美術』だったのだが、IS理論では箒が束譲りの知識を此れでもかと言う位に披露して担当教師に白旗を挙げさせ、美術では『ペアになって相手の似顔絵を描く』と言う課題でペアとなった夏月とロラン、秋五とシャルロットが実に見事な似顔絵を完成させていた――シャルロットが描いた秋五の似顔絵が何処か『ダークヒーロー』のテイストを感じたのはシャルロットの腹黒さがあればこそだろうが。

そして授業が終わった後の放課後は先ずは部活動。
『e-スポーツ部』では月一で行われているゲーム大会の日であり、今回の大会のゲームは『遊戯王』で、部員全員が魂を込めたデッキを構築してきて手に汗握るデュエルが展開された先に決勝戦では夏月とヴィシュヌが激突する事になった。
夏月のデッキは高攻撃力で相手を圧倒する『青眼デッキ』で、ヴィシュヌのデッキはモンスター効果、魔法、罠を駆使して戦うブラック・マジシャンを軸にしたコントロール型デッキで一進一退の攻防となったのだが、デュエル終盤で『青眼の究極竜』を融合召喚して『メテオ・レイン』を発動し、更に『アルティメット・バースト』のカードを発動して勝負を決めに来た夏月に対し、ヴィシュヌは『アルティメット・バースト』にチェーンして『和睦の使者』を発動してこのターンのバトルを回避すると、返しのターンで『超魔導剣士-ブラック・パラディン』を融合召喚し、効果によって攻撃力が一万まで上昇したブラック・パラディンで究極竜を攻撃。
誰もが此れで決まったと思ったのだが、此処で夏月が手札から『オネスト』の効果を発動し、攻撃力が一万四千五百となった究極竜がブラック・パラディンを迎撃――かと思ったのだがヴィシュヌが手札から速攻魔法『決戦融合-バトル・フュージョン』を発動して究極竜の攻撃力をブラック・パラディンに上乗せして、攻撃力二万四千五百となったブラック・パラディンが青眼の究極竜を戦闘破壊し、夏月に一万のダメージが入ってデュエルエンドとなり、今回の大会はヴィシュヌが制したのだった。(チェーンの逆順処理は無視しておりますので悪しからず。)

そして其れから三日後、学園も各国のIS部隊の受け入れ態勢と、生徒の安全確保が整ったと言う事を国連と国際IS委員会に報告し、IS学園は本格的に絶対天敵に対しての前線基地となったのだった。
平和な日常が送られている裏では、確りと此の先の展開に対する準備がなされていたのである。








――――――








IS学園が絶対天敵との戦いにおける前線基地となった頃、絶対天敵は今度は南米の砂漠地帯に其の姿を現していてた。
砂漠地帯ならば人は住んでいないので被害はゼロと思うだろうが、砂漠には危険な生物も多数存在しており、その危険な生物を取り込むために絶対天敵は砂漠地帯に現れたのだ。
並の毒はIS搭乗者には無力であるが、最強クラスの毒を独自に昇華する事が出来ればIS搭乗者に対しても有効だと考えて、フグには劣るが致死レベルの毒を有するサソリや毒蜘蛛、ドクトカゲを見付けては吸収し、人々の与り知らないところで絶対天敵は進化していたのだった。



さて、IS学園が絶対天敵との戦いの前線基地となり、各国はIS部隊を『IS学園派遣部隊』と『自国防衛部隊』の二つを組織する事で大まかな話が進んでいたのだが、各国が協力体制を構築して行く中、ロシアと北朝鮮は此の枠組みに入る事を拒否して自国のみで独自の対応を取る道を選んでいた。
元々他国との足並みを揃える事はせずに独自路線を貫いてきたロシアと北朝鮮だったが、自国が半壊状態になってもなお其の姿勢を崩さなかったのである……だが、アメリカをはじめとした他国は其れを非難するでもなく『どうぞお好きに』と言ったスタンスだった。
ロシアも北朝鮮も、言うなれば『国際社会の鼻つまみモノ』であり、各国とも『こいつ等如何したモンだろうか?』と考えていた事もあり、ロシアと北朝鮮が独自路線を行くと言うのであれば其れはマッタクもって構わない事でもあったのだ。
此れまでの戦争や紛争は人と人の戦いだったが、今度の相手は人間ではない未知の存在であり、更にはIS以外では対応不可能な相手なのだが、そんな状況であっても他国との協力関係を拒むと言うのならば引き留める理由は無く、寧ろ絶対天敵によって国が壊滅してしまうのならば其れもアリだとすら考えていた――ロシアが崩壊したら北方領土は日本の領土に戻り、ロシア本土はウクライナをはじめとした周辺国で分け合う事になり、北朝鮮が崩壊したら其れは其のまま韓国の領土になるだけなのだ。

そうしてロシアと北朝鮮が独自路線を選択した中で、意外にも中国は此の国際社会の枠組みに参加していた。
此れまでならロシア、北朝鮮と共に国際社会とは足並みを揃えて来なかった中国だが、今回はアメリカ側の国際社会に付いた形だった――中国がこの決断をした理由は言わずもがな自国の国家代表となっている鈴の存在が、もっと言えばその鈴と婚約関係にある夏月の存在が大きかった。
ロシアと北朝鮮は確かに中国の同盟国ではあるが、その同盟関係と世界に二人しか存在しない男性IS操縦者の一人とのパイプを天秤に掛けた結果、後者の方が中国にとっては大きかったのだ。
男性IS操縦者とのパイプがあると言うだけでも他国に対して大きなアドバンテージになるだけでなく、同じく夏月の婚約者が居る日本、オランダ、台湾、ブラジル、タイ、カナダ、アメリカとの関係も改善出来るのではないかとの思惑もあった――ISが世に現れてから、ISの生みの親である束の出身国である日本の国際社会での力は大きくなっており、遂には国連の常任理事国入りまで果たしてしまった事で、中国は以前のような『反日活動』が出来なくなり、其れに比例するように国民からの不満を抑え付ける事が出来なくなり、政治の方針転換を迫られていたと言うのも大きいだろう。
今回の一件を機に、中国はロシアと北朝鮮とは手を切って欧米側と連携する道を選んだ訳だ――尚、韓国も離脱するだろうと思った人もいたのだが、現在の韓国の大統領は所謂『親日家』で、欧米とも友好的な関係を築こうとしている人物なので問題なしだ。

そんな訳で最終的に国際IS委員会が『国際IS連合国』と名付けた枠組みには日本、アメリカ、中国、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、カナダ、台湾、タイ、ブラジルと男性操縦者の婚約者が居る国の他に、イタリア、ウクライナ、インド、オーストラリアなどの国――要するにISを保有していない後進国と、独自路線を選択したロシアと北朝鮮以外の全ての国が参加する事になった。

更にそれらの国には嬉しい誤算として束から新たに『絶対天敵との戦闘にのみ使用する事』を条件に百個のISコアと、束が独自に解析した事で得た『絶対天敵に有効と思われる武装』の設計図が送られていた。
武装に関しては一般のIS開発者にも作れるように束が全力で作った武装と比べるとスペック的には相当に劣化しているのだが、其れでも絶対天敵に対して有効であるのは間違いないので各国は新型機の開発と新武装の開発を急ピッチで進めると共に、自国の国家代表と代表候補生を招集してIS部隊を編成するのだった。

そうして各国は新機体を製造し、其れ等を国家代表と代表候補生、そして軍の『IS部隊』に配備し、国家代表と代表候補生からなる二十名をIS学園に送り込み、其れ以外は自国の防衛に当たらせると言う形で落ち着いた。

前線基地に二十名と言うのは少ないと感じるかもしれないが、IS学園のキャパシティを考えると其れが妥当な数であり、そして一国に付き二十名ならば総数は百名を超えるので前線基地に配備する戦力としては充分なのである――ましてIS学園には『ミニ国連軍』と言っても過言ではない戦力が集まっているので、各国の軍と比べると数では劣るが戦闘力はぶっちぎっているので無問題だ。

こうして絶対天敵に対しての防衛線が敷かれて行く中で、再び絶対天敵が現れたのはロシアと北朝鮮だった。
先の攻撃で現れたカマキリ型、猛禽型、ワイバーン型、モグラ型、ワーム型だけでなく、新たに蛾型、爬虫類型、蠍型が追加され、蛾型はISをはじめとした機械の機能を低下させる『鱗粉』を撒き散らしながら、複眼の両目からビームを放って都市を破壊し、爬虫類型は最初はアンギラスのような四つ足型だったのが、戦いの中で進化して二足歩行となり、最終的には日本が世界に誇る大怪獣『ゴジラ』のような容姿となって、口から『滅びの爆裂疾風弾』、『サンダー・フォース』をも凌駕する勢いの超極太光線を放ってロシアの首都モスクワと北朝鮮の首都平壌を一瞬で灰燼に帰した。

ロシアも北朝鮮もすぐさま自国のIS部隊を出撃させたのだが、如何にISの攻撃ならば有効であっても保有ISには限りがある上に、絶対天敵との数には圧倒的な差があるので、ロシアと北朝鮮のIS部隊は絶対天敵を其れなりに倒す事は出来たモノの自国を蹂躙する相手を倒しきる事は出来ずに逆にシールドエネルギーが枯渇してしまったところに猛攻を受けて事実上IS部隊は全滅し、パイロットは壊れた機体諸共爬虫類型の極太熱線ビームで欠片も残さずに消滅する事となった。
結果としてロシアと北朝鮮は独自路線を選んだ事で絶対天敵に完全敗北を喫する事になったのだ。
IS部隊が壊滅した事で絶対天敵の侵攻を止める手段は完全に無くなり、絶望的な蹂躙劇によってロシアと北朝鮮は壊滅的な被害を受け、更にロシア大統領の『ウラジミール・プッチーン』と北朝鮮の最高指導者である『キム・ジョーウンメイ』が絶命した事で、国は瓦解し、ロシアは所謂『北方四島』が日本に返還され、ロシア本土はウクライナ等の周辺国が領土を分け合い、北朝鮮は韓国に併合される事になったであった。








――――――








ロシアと北朝鮮が国として壊滅したと言うニュースが世界を駆け巡った頃、夏月組と秋五組には束から新たな武装が届けられていた。
夏月には新たに脇差型のISブレード、楯無には『ランスのグリップに搭載して双刃式のランスに出来る』追加ユニット、簪には『マルチロックオンの数を倍にするデータ』、ロランには『脚部ビームエッジ展開ユニット』、鈴と乱には『龍砲のプラズマ弾形成時間短縮ユニット』、ヴィシュヌとグリフィンには『格闘攻撃+50%ユニット』、ファニールには『ビーム攻撃+50%』ユニットが組み込まれる事になった。

尚先の戦いで騎龍化した静寐達の機体は楯無達と同様の騎龍シリーズの外見となったのだが、当然の如く武装は異なっている。
静寐の機体は『騎龍・鋼雷』となり、メイン武装は両腕に装備される『トンファーブレード』で、此れは『トンファー実体刀とビームエッジの双方を融合させた』と言う汎用性に富んだ装備で、オールラウンダーである静寐にはピッタリの武装であるだけでなく、前腕部に固定式のビームアサルトライフル、両肩に可変式の小型電磁レールガンと射撃武器も搭載されているため『近距離よりの万能機』と言う機体となっていた。
神楽の機体は『騎龍・銅雷』となり近接重視の『ビーム薙刀』をメイン武装とした機体なのだが、此のビーム薙刀は和弓型の武器に変形可能で、その形態ではビームの矢を放つ射撃武器として機能するようになっている。
ナギの機体は『騎龍・雹雷』となり、近距離型のオールラウンダーな静寐と神楽とは異なり、右腕に固定装備の『ビームガトリング』、左腕に固定装備の『二連装リニアランチャー』、左右の腰部に『大口径ガンランチャー』、右肩に『六連装マイクロミサイルポッド』、左肩に『連射型グレネードランチャー』を搭載するバリバリの射撃砲撃型となっていた。
簪と異なり一切の近接武装は搭載されていない完全な砲撃支援型なのだが、夏月組には後方支援機は簪の青雷のみだった事を考えると此の武装構成は全然アリだろう。
ダリルの機体の『騎龍・焔雷』は可成り特殊な外見となっており、両肩に搭載されているサブアームの先端に頭部装甲とほぼ同型のユニットが存在しており、此のユニットは牙のようにビームエッジを展開する事と先端にビームガンが搭載された遠近両用の複合攻撃ユニットとなっていた。
更にユニットを搭載しているサブアームは伸縮自在で自由に動かせるフレキシブルアームとなっている事で『四本腕』のようなトリッキーな近接戦闘が行えるだけでなく、他の武装として近接武装の『ビームアックス』、より近い間合いでの戦闘用兼投擲武器にもなる『ビームトマホーク』、射撃武器の『ビームマグナム』が搭載され、ダリル本人が持っている『炎を操る能力』も強化されていた。

一方の秋五組。
清香の機体は『騎龍・閃雷』となり、ビームライフルとビームサーベルを搭載した『中距離高機動型』の機体で特出した能力はない代わりに取り立てて弱点もない汎用性に富んだ万能機となっていた。
癒子の機体は『騎龍・光雷』となり、両腕部に固定装備のビームサーベルを搭載し、射撃武器として『ビームガン』と『ショットガン』、『ヒートボウガン』を搭載している。
ヒートボウガンが射出する矢は実体なのだが、矢先が対象にヒットすると同時に炸裂する『グレネード矢頭』となっており、掠っただけでも大ダメージを与えらえるようになっていた。
さやかの機体は『騎龍・輝雷』で、ビームブレードと十機のビット兵装を搭載しているのだが、ビット兵装はビームブレードをプラットフォームにして合体する事が可能で、ビットと合体したビームブレードは実体ブレードとビームブレードの両方を備えた身の丈以上の大剣となって近接戦闘に於いて圧倒的な力を発揮する武装となっていた。


「にしても、ロシアと北朝鮮が滅んじまうとはな……北朝鮮は兎も角として、ロシアは大国で軍事力も充実してると思ってたから少し意外だった感じだな?
 最悪の場合は核を使うと思ってたから余計にな。……てか、なんでロシアも北朝鮮も核を使わなかったんだ?」

「使わなかったんじゃなくて使えなかったのよ夏月君。
 束博士の解析結果で絶対天敵にはISの攻撃のみが有効である事が明らかになっているでしょう?だとすると、最終兵器ではあってもISの攻撃ではない核攻撃で絶対天敵を倒せると言う確信が無かったのよ……確実に倒せるから核は最終兵器になりえたのだけど、核の力をもってしても倒せないかもしれない相手にはその切り札を切る事は出来ないわ。」

「だが、其れが結果として国を亡ぼす結果となった――いいや、核が使用出来なかった以前に国際社会と足並みを揃えなかった時点でロシアと北朝鮮は滅びの運命しか残っていなかったのだろうね。
 国際部隊に参加していたら束博士から新たなISコアと絶対天敵に対して有効な武装の設計図を手に入れる事が出来たのだからね……その意味では中国は賢明な判断をしたと言えるだろうね。」

「そうね……どうやらアタシの国は其処まで馬鹿じゃなかったみたいだわ……尤も、ロシアと北朝鮮と同じ判断をしてたら、アタシは其の瞬間に日本に帰化して日本人になってたけどね。」


少しメタいが、キャラクター設定(PIXIVとハーメルンでは機体設定)に詳細が載っていない機体を解説して来たが、其れは其れとして夏月達の話題は矢張りと言うかなんと言うか絶対天敵の攻撃にとってロシアと北朝鮮が崩壊したと言う事についてだった。
此の戦いに関してはロシアと北朝鮮に援軍を送らなかった国際部隊に一定数の非難が寄せられたのだが、国際部隊は『自ら国際部隊に加わる事を拒否した国を助ける義理も義務もない』と言うこの上ない正論でバッサリと斬り捨てた――とは言っても、ISを有しない後進国は其の限りではないので、其の旨もしっかりと伝えていたのだが。

だが、絶対天敵の親玉の正体を知っている夏月組と秋五組は、絶対天敵はISが配備されていない国を襲う事はないと考えていた――絶対天敵の親玉が織斑千冬の身体をベースにしたキメラであり、其の人格は織斑計画で生み出されたモノと白騎士のコア人格に絶対天敵の思考が混じったモノである以上は自身にとって脅威となるISを優先的に攻撃対象にするだろうと予測していたからだ。


「まぁ、ロシアと北朝鮮は滅んだが……逆に言えば此処からが本番って事だから気合を入れてバッチリ行こうぜ!
 ……で、今更なんだけど何で普通に入って来てんだよお前等は!!」

「あら、将来的には夫婦になるんだから一緒にお風呂に入るくらいは普通でしょ?……其れに、やる事やってるんだから、今更一緒にお風呂位は何ともないでしょうに。」

「其れはそうかもしれないけど、俺だって偶には一人風呂を楽しみたい時だってあるんですけどねぇ?……弾の奴が聞いたら『羨ましい悩みを垂れ流してんじゃねぇ、殺すぞ(怒)』って言うかもしれないけど!」

「五反田君、虚さんと付き合ってるんじゃなかったっけか?」

「そうなんだけど、弾は『彼女が居る事とハーレムの夢』は別みたいでな……弾自身は純愛でもハーレム野郎に対しては嫉妬するって言うこの上ない面倒な性格をしてるみたいなんだわ。」


尚、夏月は現在入浴中であり、其処に嫁ズが突撃して来て『混浴』となっていた。
『暖簾に腕押し』である事は分かっていたのだが夏月は取り敢えず突っ込み、嫁ズは其れをサラッと流した上で大浴場でのお風呂タイムとなり、楯無は湯面に浮かべた盆に乗ったちょうしを持つと、夏月が手にした杯に中身を注ぎ、注がれたモノを夏月は一気に飲み干す――ちょうしの中身は『ノンアルコールの日本酒』なので問題なしだ。


「だが、其れは其れとして絶対天敵は必ず殲滅するぜ。
 宇宙から地球にやって来たのは偶然かも知れないけど、其れがあのクソッタレと融合して世界に牙を剥いたってんなら殲滅以外の選択肢は存在しないからな……必ずぶち殺してやるから覚悟しやがれ、絶対天敵さんよ!」

『うむ、確実にぶち殺せ。』


そして其処で夏月は獰猛な笑みを浮かべて『絶対天敵殲滅』を宣言し、夏月の嫁ズも其れを見て闘気に火が点き、そしてバスタイム後は『夜のISバトルタイム』となったのだが、夏月の嫁ズは全員が夏月と交わった事で更に其の力を増していた。

だけでなく同様の事は秋五組でも起きており、期せずして絶対天敵との前線基地となったIS学園の戦力は強化されたのだった。



そして其れから数日後、絶対天敵は人間社会に牙を剥いて攻撃を開始し、其の攻撃の対象となったのは『ISを所有していない国』では最大の大きさであるアフリカだった。
アフリカは国土が大きいだけでなく、数多くの絶滅危惧種が存在している国でもあるので、其処が絶対天敵に攻撃されたとなったら、IS学園の部隊が出撃する理由は充分であり、夏月組と秋五組は束が新たにIS学園に配備した高速空中戦艦『ネギトロの軍艦』に乗り込んで一路アフリカに向かうのだった。
此れは少し予想が外れる結果だったのだが、だとしても出撃しない理由は存在してないのだ。


「ふぅん、次はアフリカか……裏を突いた心算なんだろうけど、そうはさせねーよ?
 アフリカの野生動物を喰わせちまったら、お前等は冗談じゃない進化をしちまうだろうから、その進化は絶対に阻止する……私が地球人類の味方である以上はお前達絶対天敵に勝利は存在しない、其れを知りな……其れも言うだけ無駄かもだけどね。お前、もう死ねよ愚女と織斑千冬擬きの成れの果て。
 お前達が存在してるって言う事自体が許し難いからね私はさ。」


自分のラボでその様子をモニターしていた束は仄暗い笑みを浮かべた後に傍らにあったウィスキーの瓶を一気に飲み干し、そして改めてモニターを見ると仄暗い笑みに愉悦の笑みが混ざった表情を浮かべると、『八神庵の三段笑を凌駕する高笑い』を披露した後に、ラボの奥に消えて行った――其れは、此れからの戦いで夏月達の勝利を確信しているからこそのモノであり、其れは最終的には現実となるのだが、此の時の夏月達は絶対天敵との初めての戦いに向け闘気を高めると共に、激戦になるであろうと考えて緊張感を高めているのだった。

そしてIS学園から出撃して数時間後、アフリカの大地は戦場へと姿を変える事になる――











 To Be Continued