夏月と秋五のプロデビュー戦は夏月と秋五のタッグ、『モノクローム・モザイカ』が圧勝したのだが、其の直後に無粋な乱入者が現れた事で試合会場は騒然となっていた。
マッタク予想していなかった事態に客席は軽くパニックになり掛けたのだが、其処は試合を観戦しに来ていた夏月と秋五の嫁ズとマドカが的確な避難誘導を行った事で観客全員、無事に会場から避難を完了していたのだった。
「観客の避難は完了したみたいだな?……にしても観客が会場から避難するまで攻撃してこないとか、何がしたいんだかなぁコイツはよぉ?」
「逆に言うと何時動き出すか分からないから、僕達も迂闊に動く事は出来ないんだけどね……そして貴女達は避難してくれますかエリカさん、シホさん。
機体エネルギーはゼロになっても身体は動くでしょう?……奴は僕と夏月が相手をしますから貴女達は避難して下さい。」
「ちょ、そんな事出来る訳……!」
「いいえ、行くわよエリカ。私達が此処に居ても彼等の足手纏いにしかならないわ……今すぐ撤退するわよ!」
「物分かりが良くて助かるぜ西住さん。」
エリカは此の場から避難する事に対し、『自分達だけ逃げるだなんて出来ない』と感じたのだが、シホは自分も同じ思いがなくはなかったが現在の状況を的確に判断し、『自分達は此処に残っても足手纏いでしかない』と考えてエリカを説き伏せてアリーナから避難をするのだった。
『守りながらの戦い』と言うのは中々に難しいモノがあり、守る側は全力で戦う事が出来ない場合が多い――守る事に重点を置くために後の先を取る戦い方になり、後の先のカウンターも守る事を重視している場合は相手を深くまで誘い込む事が難しいので浅くなってしまい、決定打にならないが少なくないのである。
故に戦えない者は早急に戦場から離脱するのが一番であり、其れこそが戦える者達に対しての一種の礼儀であるとも言えるのだ。
「二人は避難したか……なら、此れでアイツが如何来ても全力が出せるな。」
「そうだね……と言いたいところだけど、どうやらそう簡単な事でもないみたいだよ今回の一件は。」
観客の避難が完了し、エリカとシホも避難した事で夏月と秋五は乱入者が如何動こうとも全力で対応する事が出来るようになったのだが、此度の一件はそう簡単に終わるモノではないようだった。
と言うのも、アリーナの上空には乱入して来たのと同じ機体が軽く見積もっても三十機は集まっていたからだ。
「団体さんいらっしゃーいってか?
女権団は事実上消滅しちまったってのに一体何処の誰がこんな事しやがったのかねぇ……まぁ、狙いは間違いなく俺達なんだろうけど、やる気で来たんなら相手が誰であろうと関係ねぇ。無粋な乱入者には相応の報いを受けて貰うだけだからな。
テメェの嫁達の手を煩わせるまでもねぇ、俺達で片付けるぞ秋五。」
「気が合うね?僕も同じ事を考えてたよ夏月!こう見えても、デビュー戦勝利の余韻にすら浸らせてくれなかった事に心底腹を立てているんだ……!」
数の上では圧倒的に不利なのだが、夏月と秋五の実力は国家代表をも上回るレベルであり、使用して居る機体も既存のISを遥かに凌駕し、夏月の『羅雪』は第十四世代、秋五の『雪桜』でも第八世代と言う、漸く第三世代機が形になって来た各国のIS開発者涙目の打っ飛んだ性能を誇る『騎龍』なので数の差などは問題ではないだろう。
但し、相手が束が作った夏月と秋五の戦闘パターンに対するあらゆる最適解がインストールされているAIが搭載された『人間では不可能な動き』も可能となっている無人機でなければ、だが。
夏の月が進む世界 Episode72
『今こそ覚醒の時~Erwachender Ritterdrache~』
夏月と秋五のタッグと無数の異形の機体との戦いは、夏月と秋五共に初撃で一機ずつ撃破したモノの、其処からは可成りキツイ戦いを強いられていた。
数の差は勿論なのだが、此の異形の機体は夏月と秋五の戦い方に完璧に対応しており、夏月も秋五も何時もなら必殺となる攻撃を悉く防がれてしまっていたのだ――特に己の最速の剣である『居合』に対処された夏月は秋五以上に厳しいだろう。
最強最速の剣が通じないとなったら、他の如何なる攻撃も通じないと言う事になってしまうのだから。
「最初の二機は直前で互いのターゲットを変更したから不意を突く事が出来たが……こいつ等、俺達の戦い方に対して常に最善の行動を取って来やがるだと?やり辛い事此の上ねぇぞ……!」
「其れに全ての腕が関節が逆に曲がるだなんて、こいつ等は全部無人機……しかも完全に僕達用に調整されたAIが搭載されてるって事かな此れは……マッタクもって面倒な相手みたいだね……!!」
完全に自分達に対しての『アンチ機体』とも言うべき異形の機体(以降『異形』と表記)を、其れも最低でも三十機を相手にして夏月と秋五は苦戦しながらも異形からのクリーンヒットは貰っていなかった。
逆にクリーンヒットを与える事も出来ていなかったが、相性が最悪の相手を複数相手にしてクリーンヒットを許していないと言うのは其れだけ夏月と秋五の実力が高いとも言えるのは当然として、夏月と秋五はアリーナの壁を背負って地上戦を行っていたのだ。
壁を背負うと言う事は退路を自ら断つ行為でもあるのだが、圧倒的な戦力差の相手と戦う場合には有効な一手でもある――壁を背負えば退路が無くなる代わりに相手から攻撃される方向は正面側からのみに限定出来る上、一度に掛かってくる数を制限する事も可能になるのだ。
素手での戦いならば最大で四体程度を相手にする事になるのだが、武器戦闘ならば一度に相手をする数は減り、使っている武器が大きく多くなるだけ其の傾向は大きくなり、全ての手に刀剣の類を搭載し、其の腕が六本もある異形は一度に掛かれる数が一人に付き二体が限界となっていた。
『『『『…………』』』』
だが異形は只の無人機ではなく搭載されているAIはリアルタイムで学習するので、此の状況に於ける最適解を導き出して行き、攻撃に参加していなかった数機が頭部からビームを発射して夏月と秋五の背後の壁を吹き飛ばす。
其の攻撃による爆風で夏月と秋五、そして其の二人と戦っていた異形複数が巻き込まれたが、夏月と秋五はもとより、異形複数も爆風の勢いに逆らわずに自ら飛んでダメージを最小限に留める事が出来たが、此れは夏月と秋五にとっては有り難くない……アリーナの壁は未だ無事な場所の方が多いとは言え、もう二度と同じ戦法は通じないと言えるのだ此の状況は。
「コイツは大ピンチってか?
アニメとか漫画だと絶体絶命の状況で新たな力が覚醒して状況を逆転するんだが……俺もお前も機体が進化してそんなに時間経ってないから新たな力ってのは期待出来ねぇよなぁ。」
「ホントだよ……僕の方なんて雪桜になってから一カ月も経ってないから余計にだよ……だけど、もう一つの王道展開、『ピンチに援軍』はあるみたいだ。」
「だな……しかも最高で最強の援軍だぜ。……嫁の手を煩わせねぇとか言った手前、カッコ付かねぇけど。」
状況は正に最悪と言うべき状態だったが、異形達が夏月と秋五に向かおうとしたところに無数のミサイルとビーム、レーザー、プラズマの矢が異形達に炸裂した――異形達は回避は不可能と判断して、エネルギーシールドで其れを防いだが、異形達からしたら此のタイミングでの援軍は予想外と言えた。
此の攻撃を行ったのは言わずもがな夏月と秋五の嫁達とマドカであり、観客全員をアリーナから避難させ、更に安全な場所まで誘導すると全員が専用機を展開してアリーナに全速力で戻って来たのである。
「あらあらあら、私達の大切で最愛の旦那様に刃を向けるとは命知らずも良いところねぇ?……無人機相手に命知らずってのは少しオカシイかもしれないけれど、まぁ言葉の綾ってやつよ。」
「更識会長、間違いでもないと思うのですが……奴らは此れからスクラップになる。スクラップになると言うのは機械にとっては『死』其の物と言えると思いますので。」
「ふむ、確かに一理あるね箒?
だが何れにしても我等の愛する人のプロとしての初陣を穢し、あまつさえ痛め付けようとは言語道断の許し難き所業だ……仮に天が、神が、悪魔までもが君達を許そうとも私達は決して君達を許しはしないし逃しもしない。
故に此れより開幕するのは無粋な乱入者による剣士への襲撃ではなく、剣士の許に集いし戦乙女達による無粋な乱入者の蹂躙劇さ!嗚呼、愛する者の為に戦う事が出来るとは、私達は何と言う幸運な者達であるのか……此れほどの幸運、神に感謝してもし切れるモノではない!」
「こんな状況でもブレないわねアンタって?此れも一種の職業病なのかしら?……ある意味で味方だとめっちゃ頼もしい事此の上ないわ。」
夏月の嫁ズと秋五の嫁ズにマドカを加えれば其の数は二十一人となり、夏月と秋五も加えれば二十三人となり異形との数の差は大きく縮まり、更にセシリアのブルー・ティアーズとマドカのサイレント・ゼフィルスには『一対多数』を想定した『BT兵装』が、ナターシャの銀の福音には『広域殲滅兵装・シルバーベル』が搭載されているので、数の差は完全になくなったと言っても良いだろう――セシリアとマドカのBT兵装は合計で十基となる上に、セシリアは未だ本体とBT兵装の同時操作は出来ないモノの、十字砲の陣形を整えた後であれば本体操作と十字砲陣形の同時操作は可能となっており、マドカほどではないが偏向射撃も会得しているのでBT兵装は『射撃専門の機体』として機能するのである。セシリア以上のBT兵装操縦技術を持っているマドカは更にだろう。
広域殲滅攻撃が可能なナターシャは言わずもがなだ。
更には更識姉妹、ロラン、ヴィシュヌ、鈴と乱の機体は夏月と秋五と同じ『騎龍』であり、箒の専用機は束が直々に作り出した『第四世代』の紅椿と言う事もあって異形相手に互角以上の戦いが出来ていた。
「く……こいつ等、思った以上に強い……ダリル、こいつ等纏めて燃やせない?」
「燃やせるならとっくの昔に燃やして灰にしてるぜグリフィン……ミューゼルの炎は大概のモノを燃やす――其れこそ鋼鉄ですら一瞬で溶解させちまうってのにこいつ等は其の炎を喰らってもビクともしねぇ。
こいつ等の装甲、一体なにで出来てやがんだコンチクショウが!」
だが騎龍となっていない機体ではそう簡単な戦いではなかった。
グリフィン、ファニール、ダリル、静寐、神楽、ナギ、セシリア、ラウラ、シャルロット、オニール、清香、癒子、さやか、ナターシャの機体は騎龍ではないので異形に対して圧倒する事は出来ず、『負けない戦い』をするので精一杯だった。
静寐、神楽、ナギ、清香、癒子、さやかの専用機は束が直々に開発したモノであり、グリフィンとダリル、セシリア、ラウラ、シャルロット、ナターシャの専用機も束によってテコ入れが入り、コメット姉妹の専用機も束によって改造されているにも関わらずだ。
だがしかし、此の異形は束が『現行のIS以上、騎龍以下』として開発した無人機なので、騎龍化していない機体では如何に高性能であっても少しばかり不利が付くのは致し方ないと言えるのだが、彼女達は『機体性能で負けている』と言う事で不利な状況に陥っていると言う事で納得出来る者達ではなく、寧ろ『機体性能で負けているのであれば機体性能を引き上げればいい』とすら考えているのである。
加えて数で勝る異形達が執拗に夏月と秋五を狙い、騎龍を纏っている者達だけでは其の全てに対応する事が難しく、援軍としてやって来たにも拘らず夏月と秋五の窮地を救いきれていないのだから尚更だ――更に夏月と秋五がクリーンヒットこそ許さなかったとは言え連戦の疲労と微々たるダメージが『塵も積もれば山となる』の如く蓄積した事で二人の動きが少しずつだが確実に精彩を欠いているのも大きいだろう。
「テンカラット・ダイヤモンド……私に力を……カゲ君を守れるだけの力を頂戴!」
「コズミック・メテオ……夏月と一緒に戦うための力を、アタシに寄越しなさい!」
「ヘルハウンド……お前とは長い付き合いだが、必要な時に必要な力が出せないんじゃ意味はねぇ……お前の力の真髄、オレに寄越しやがれぇぇ!!」
「今のままじゃ夏月君を守る事が出来ない……だから力を貸して……弱い私でも夏月君を守る事が出来るだけの力を!」
「足りないと言うのであれば私の命を捧げましょう……私の命を燃やしてでも、其の力を発揮して下さい……其れが、夏月と歩む事を決めた私の覚悟と本当の気持ちです!」
「夏月君はやらせない……絶対に!!」
此の状況で先ずは機体が騎龍化していない夏月の嫁ズが叫ぶと、夫々の機体が光を放つ――其れは言わば『進化の光』であり、其の光が収まった時には夏月の嫁ズの機体が進化しているのは間違いないが、だからと言って秋五の嫁ズとて負けてはいない。
「紅椿、お前の本当の力は此の程度ではないだろう?
……私はどんな事があっても秋五と同じ道を歩む覚悟は既に決めている――ならば、其れに相応しい力を私に寄越せ!今の私では足りないと言うのであれば此の身体とてくれてやる!」
「秋五の危機に、今こそ其の力を開放しなさいブルー・ティアーズ!」
「シュバルツェア・レーゲン……今こそが覚醒する時だ……その真の力を解き放てぇぇぇぇ!!」
「僕も進化の時が来たか……だけど、機体は進化しても僕は変わらないから、機体の進化は僕の『腹黒戦術』をより強烈にしてくれるかもだ……此れはもう、『暗黒王子』を名乗っても良いかな?」
「其れは、シャルロットの好きにすればいいと思うよ、うん……其れは其れとして、目覚めてシューティング・メテオ!」
「此れまで積み重ねた努力、今こそ花開くときじゃない!」
「七月のサマーデビルを甘く見ないでよ~!!」
「秋五君の嫁ズだってやる時にはやるんだから!」
「福音……今こそ彼にあの時のお礼をする時じゃないかしら?」
秋五の嫁ズの専用機も『進化の光』を放ち、そして其の光が弾けて収まると、其処には騎龍と化した新たな専用機を纏ったグリフィン、ファニール、ダリル、静寐、神楽、ナギと秋五の嫁ズの姿があった。
全員が全身装甲となり、ダリル以外は『機械仕掛けの竜人』と言った外見であり、ダリルも基本的なデザインは同じなのだが頭部装甲が純粋な『龍』ではなく『龍』に『狼』のイメージを織り交ぜた独特のモノとなっていた。
機体色はグリフィンが空色、ファニールがオレンジ、ダリルがガンメタル、静寐が濃紺、神楽がダークグレー、ナギがシルバーリーフ、箒が紅色、セシリアが蒼海色、ラウラが黒、シャルロットが紫、清香がライトカッパー、癒子がダークブルー、さやかがライトグレー、ナターシャが白銀だった。
そして騎龍化した事で夫々の機体の武装も強化されたのだが、中でもダリルの機体は異様だった。
龍の翼を思わせる高機動用のウィングが追加されているのは他の機体と同じなのだが、そのバックパックからは頭部装甲とほぼ同じデザインのユニットがフレキシブルアームに接続された状態で存在しており、ダリルの機体は『三本首』のような外見になっていたのだ。
「力が漲るぜ……随分と好き勝手やってくれたみたいだが、その代償として大人しく燃やされやがれ!オレの炎は過去一燃え盛ってるからな!!」
「此れは……此れなら行ける!カゲ君と一緒に戦える!」
「此の土壇場で進化するとか、胸熱展開じゃない?……なら、思い切り暴れてやろうじゃないの!」
「鎧空竜が進化した……此れが騎龍!鎧空竜よりも身体に馴染む感じが……」
「鎧空竜には自己進化プログラムが組み込まれているとの事でしたので、騎龍となった事でより私達に適した機体となったと言う事なのでしょう。」
「うん、なんか今ならどんな相手にも勝てる気がする!」
「紅椿……いや、紅雷か……応えてくれたのだな、私の思いに!!」
「海雷……アナタとならば私は更なる高みに登れるわ。秋五と共に!!」
「ククク、此れが騎龍!秋五と共に歩み、そして秋五を守る為の力!」
「進化したのは喜ぶべき事なんだろうけど、なんで闇雷?闇って、僕ってそんなに闇深い!?」
「嘗ての腹黒王子が原因のような気もするかなぁ?」
「でもまぁ、強くなったんなら問題ない!」
「七月のサマーデビル、此処からが本領発揮だからね!」
「癒子の機体は『騎龍・夏魔』でも機体名は良かったんじゃないかと思う。」
「騎龍・祝雷……今こそ福音を彼等に届けましょう!」
まさかまさかの騎龍化していない機体が全機一気に騎龍化した訳だが、其れは同時に異形に対して圧倒的アドバンテージを得た事を意味している。
異形は束が開発した無人機であり、夏月と秋五に対してのアンチ機体であると同時に機体性能は現行IS以上騎龍以下となっているので、騎龍ならば性能面で大きくアドバンテージを得る事になり、数の差は意味を成さなくなるのだ。
「行くよ~~!!
オ~~~~……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
先ずは皮切りにグリフィンが『騎龍・空雷』の浮遊ユニットであり、テンカラット・ダイヤモンドの『ダイヤナックル』から進化した『ダイヤモンドブロウ』と本体の拳による凄まじいパンチのラッシュで異形を一体あっと言う間にスクラップにして見せた。
ダイヤモンドブロウはダイヤナックルよりも小型化したとは言え、其の分攻撃スピードが上昇し、更に数も二つから六つに増えた事で近接戦闘に於いては圧倒的なラッシュ力を誇り、加えてダイヤモンドブロウ自体にビームサーベルやビームライフルの機能も搭載されているので、近~中距離ではBT兵装よりも多彩な攻めが可能となっていたのだ――尤もBT兵装と異なり、本体から離れる事が出来る範囲は半径2m以内なのでBT兵装のような遠距離での多角的攻撃は出来ないのだが、其れでも此のラッシュ力は脅威だろう。
そして其れだけでなく、ファニールは騎龍化によって強化された武装で得意の近接戦闘メインの戦いで次々と異形を行動不能にして行き、ダリルはまるで三本首であるかのような機体からトリッキーな近接戦闘で異形を翻弄した末に強烈な炎を喰らわせて爆発四散させる。
静寐は双刃式の槍を、神楽はビーム薙刀を、ナギは連射型のグレネードランチャーで異形を攻撃し、秋五の嫁ズも夫々の得意な武装で異形を圧倒し、追い詰めて行く。
「土壇場での援軍の王道をかましただけじゃなく、進化までしちまったよ俺等の嫁達は……マッタクもって頼りになる事この上ないってモンだぜマッタク!」
「本当にその通りだね!」
嫁ズの機体が全て騎龍となった事で僅かばかりの不利がなくなり、そうなれば夏月と秋五も自らに対する『アンチ能力』を持っている相手であっても最早脅威とはなりえない――いかにアンチ能力を持っていたとしても、其れはあくまでも夏月と秋五に対してのみであるので、騎龍を纏った嫁ズに対してのアンチ能力は有していないからだ。
「そんじゃまぁ、嫁に後れを取る訳にも行かねぇから、俺達も此の波に乗るとしますかねぇ!!」
「あぁ、此処からは僕達のデビュー戦の延長戦、其のファイナルラウンドだ!」
夏月は心月と鞘の疑似二刀流、秋五は晩秋を正眼に構えると異形に向かって切り掛かるが、異形は此れまでのように最適な防御と回避は行う事が出来なかった――夏月と秋五の攻撃に対する最適解は選択しても、其の最適解の行動は嫁ズの攻撃によって阻害されてしまう。
騎龍の数が少ないのならば未だしも、相手全てが騎龍と化した今では僅かばかりの数の差などは最早無いも同然であり、異形の行動は完全に封殺された状態となっていた。
そもそもにして異形は夏月と秋五をメインターゲットに設定していたのだが、其れだけに其の二人以外の存在に対しては必要最低限の排除行動しか行わない、と言うよりも行えないようにプログラミングされているので、AIが学習しても予めプログラミングされていた行動を変える事は出来ず、嫁ズに対しては必要最低限の対処しか出来なかった事で、そして其れが致命的な隙を生み出す事になってしまった。
「夏月、やれ!」
「ロラン、ナイスアシストだぜ!」
「秋五、お前の力を見せてやれ!」
「箒……此れは最高のパスだね!」
そんな中でロランは轟龍で表面装甲を破壊した異形を夏月に叩き飛ばし、箒は頭部ユニットを半壊させた異形を秋五に投げ飛ばすと、夏月はロランからパスされた異形を逆手の連続居合で切り刻み、秋五は箒からパスされた異形にゼロ距離からの強烈な突きを喰らわせると、其処から連続突きで蜂の巣にする。
そして最後は夏月も秋五も横一文字に一閃すると納刀し、納刀すると同時に異形は其の機能を停止して崩れ落ちた――のだが、異形はマダマダ数が存在しているので未だ戦闘は終わりではないのだが――
「はい、此れでお終いね♪」
「貴様等の動きは完全に止めさせてもらうぞ!」
此処で刀奈が『沈む床』を、ラウラが騎龍化した事で強化されたAICを発動して残った異形の動きを完全に止める事に成功していた――戦場では『確実に一秒動きが止まれば殺す事が出来る』と言われているので、戦場に於いて完全に動きを止めると言うのは正に致命傷と言えるのである。
「お前らの残骸、くず鉄回収業者は幾らで引き取ってくれるかねぇ!」
動きが完全に止まった異形達に対し、夏月がイグニッションブーストからの空烈斬のコンボを叩き込んで異形達の装甲を削る――此の攻撃で異形達を完全破壊する事は勿論可能だったのだが、夏月が敢えて一撃で終わらせなかったのには理由がある。
其れは勿論、自分と秋五の嫁達が攻撃する分も残しておくためだ。
夏月の嫁ズも秋五の嫁ズも当然のようにそれぞれ婚約関係にある相手の事を心の底から愛しており、ともすれば『夏月(秋五)と世界』を天秤に掛けた場合は迷わず夏月、或いは秋五を選ぶレベルなのである。
そんな彼女達が夏月と秋五に対して上等かましてくれた異形達を黙って沈黙させる筈がない……自らの手でキッチリと落とし前を付けさせねば気が済まないのである。
其れを示すように夏月の空烈斬の後には嫁ズが次々と波状攻撃を繰り出して異形達のシールドエネルギーをガリガリと削って行く……異形達のシールドエネルギーがゼロになり掛けると箒が紅雷のワン・オフ・アビリティの『絢爛武闘・静』でシールドエネルギーを回復させて更にボコると言う相手が無人機でなかったら拷問レベルの攻撃が行われていた。
「あは♪簡単に死ぬ事が出来ないって言うのはどんな気持ち?
是非とも教えて欲しいモノだけど、言葉を話せない無人機には聞いても無駄だったね……でもね、僕は秋五を傷付けられてとっても怒ってるんだよね?
だからこれ全部喰らっといてね♪」
「ムエタイは数ある格闘技の中で、唯一膝と肘と言う身体の最も尖った部分での打撃が許されている格闘技です……人体で最も硬くて鋭い場所での攻撃がISで強化されたら果たしてどれだけの破壊力があるのか試させて頂きます。」
そんな中でシャルロットはお得意のラピッドスイッチで次々と武装を換装しては異形達にシールドエネルギーが尽きないギリギリで叩き込むと言う『腹黒』を全開にした攻撃を行い、ヴィシュヌはムエタイでも『凶器』と言われている肘と膝の攻撃を叩き込む――特に母のガーネットが現役時代のフィニッシュ技として使っていた左右の連続エルボーから飛び膝蹴りに繋いでジャンピング踵落としを喰らわせる連続攻撃『タイガー・バリー・アサルト』は強烈で、其れを喰らった異形はシールドエネルギーがゼロになっただけでなく機体其の物が修復不能なまでにバラバラになってしまっていたのだった。
「さてと、それじゃあ此れでフィニッシュと行きましょうか簪ちゃん?どうせなら思い切り派手に……好きでしょ、派手なのって?」
「フィニッシュは派手に、其れは基本。
超必殺技でフィニッシュした際に背景が派手にフラッシュする『あけぼのフィニッシュ』を考えたカプコンは偉大――であると同時に、KOFにて必殺技でフィニッシュした際にあけぼのフィニッシュほどの派手さはなくとも画面フラッシュ演出を取り入れたSNKもまた偉大だね。
因みに私が好きなのはカプコンではケンで、SNKでは八神庵……ライバルキャラは奥が深い。」
「格ゲーの主人公にはライバルキャラが居てこそだから其れは分かる気がするわ……」
其の攻撃の最後を飾ったのは更識姉妹の連携攻撃だった。
沈む床とAICと言う二重の拘束で動けなくなっている異形達に対して楯無は一撃必殺となる水蒸気爆発『クリアパッション』を発動し、簪も六連装ミサイルポッド『滅』を始めとした騎龍・青雷に搭載された火器を全開にした『相手を絶対に殺す弾幕』を展開し、其の一切の情けも何もない攻撃を喰らった異形は遂にシールドエネルギーがゼロになり、機体其の物も胴体と四肢がさようならしている状態となっていたので如何足掻いても戦闘不能であるのは間違いないだろう。
「此れで終わったか……ったく、試合後に乱入者とか、トンだプロデビュー戦だったぜ……まぁ、此れも良い経験になったって言えなくもないけどよ……つっても同じ事は二度と勘弁だけどな。」
「それには同意だね。」
此れにて此度の戦闘はお終いとなったのだが、だからと言って其の裏にあるモノまで終わった訳ではない。
「……居るのは分かっています。出て来たら如何ですか姉さん?」
「……気配は完全に消してた筈なんだけど、其れでも私の気配に気付くとは中々やるね箒ちゃん?」
「えぇ、貴女の気配は完全に消えていましたが、だからこそ不自然だったんです。
気配は消えていたのに戦闘を観察している視線を感じていましたから……私だから気が付けたとも言えますが、視線を向けながら気配は完全に消す等と言う器用な事が出来るのは姉さん以外に居ないでしょうし。」
「箒ちゃんだから気付いちゃたって訳か~~……愛だね♪」
箒がアリーナの通用路に向かって声を掛けると、現れたのは『ムーンラビットインダストリーの社長の東雲珠音』の姿になった束だった。
普段ならば自分のラボにて超小型ドローンで撮影した映像を見ているのだが、今回の一件は『騎龍化の因子』が覚醒するかと言う重要なモノだった事もあって自ら現場に来ていたのだ。
「愛ですか……姉妹愛と言うのであれば間違いではないと思いますが……姉さん、此度の一件は貴女の仕業ですね?」
「ふむ、如何してそう思うのかな箒ちゃん?」
「あの無人機の性能が答えですよ姉さん。
一夜と秋五、其の二人に対しての完全アンチ性能を備えた無人機など姉さん以外には開発出来ないでしょう?姉さんならば一夜と秋五の最新のパーソナルデータを持っていてもおかしくありませんからね。」
「あ~~……成程、そう言う事か。
私が思っていた以上に鋭いね箒ちゃん……うん、確かに今回の事は私が黒幕だよ。」
更に箒は異形達が夏月と秋五に対してのアンチ性能を備えていた事から束が今回の一件の黒幕だと考え、其れを告げれば束はアッサリと其れを認めたのだが、其れを聞いた嫁ズは一斉に束に詰め寄った。
其れは当然と言えば当然だろう……己の愛する人が危険に晒されたのだから。
特に楯無は『飄々とした生徒会長』の仮面を脱ぎ捨て、日本の暗部である更識の長の『第十七代更識楯無』の顔となり冷酷無比な殺気の籠った視線を向けていたのだ――束の返答次第では『更識家地下の拷問室』にレッツゴーもあり得るだろう。
「うん、皆が怒るのも当然なのは束さんも理解してるけど、必要な事だったんだよ、騎龍でない機体が騎龍に覚醒する事が――だから、私はかっ君としゅー君を追い込んで、箒ちゃん達の機体が騎龍に覚醒する、覚醒せざるを得ない状況を作ったんだ。」
「それは何故です?何故私達の機体が騎龍化する事が必要だったのですか?」
「……アイツが、織斑千冬の姿をした奴が生きてるからだよ。
其れも、多分だけどアイツは人間を辞めて生き永らえてる……白騎士のコア人格の反応が分裂と集束を繰り返してるのを見るに、アイツは自分の分身を作る能力を会得してる。
其れだけなら未だしも、アイツは死んだ筈の女性権利団体のメンバーを引き連れて行動してた……なんでそうなったのかは分からないけど、アイツは束さんでも分からない人知を超えた力を身に付けてる可能性が高いんだよ。
今は大人しくしてるけど、そう遠くない未来にアイツは間違いなく世界に対して牙を剥く……そしてそうなった時、人知を超えた存在に対して対抗出来るのはISであり、アドバンテージを得られるのは騎龍だけなのさ――だから、少し強引だけど箒ちゃん達の機体を騎龍化する必要があったんだよ。」
だが、束から返って来た答えは衝撃的なモノだった。
『織斑千冬の姿を姿をした何者』が生きていたと言うだけでも驚くべきモノなのだが、其れが人間を辞めて人外の存在となって生き永らえており、更には人知を超えた力を有していると言うのだから。
加えて対抗出来る戦力は現行のISでアドバンテージを得られるのが騎龍であるのならば、確かに騎龍の数が多いに越した事はないので、束の判断は間違いではなかったのだろう。
とは言え、夏月と秋五が危険に晒されたのは覆す事は出来ない事実なので、楯無と箒が夫々の嫁代表として束に『シャイニングクロス(シャイニングウィザードとシャイニングケンカキックのツープラトン)』をブチかまして一応の制裁を完了していた。
――――――
「子供達も良い感じに育って来た……そろそろ仕掛けるとするか。」
その頃、海底洞窟ではキメラが充分に育った子供達を見て次の一手を考えていた――戦力が充分に整った其の時には人間世界に戦いを仕掛ける事は決めていたので、其の時が満ちたのだろう。
「日本は一番最後だ……先ずは――無駄に人口が多い国に滅んでもらうとしよう。」
電機店から盗んだタブレット端末を操作しながら、キメラは最初のターゲットに中国を選んでいた――そして数時間後、地球人類は阿鼻叫喚の地獄絵図を其の身で体感する事になるのだった。
To Be Continued 
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