修学旅行三日目の朝、夏月は何時ものように早朝トレーニングを行うために目を覚ましたのだが、其処には何とも微笑ましい光景があった。
昨日は遅くまで楯無とダリルを除く嫁ズが同じ部屋に集まって遅くまでゲームを楽しんだ末に同じ部屋で寝る事になったのだが、夏月が目を覚ました直後に見たのは『鈴を抱き枕にしているヴィシュヌ』だったのだ。
同じ部屋での雑魚寝状態だったので、寝ぼけたヴィシュヌが偶々手に触れた鈴を抱き枕として抱き寄せてしまったのだろうが、褐色肌の美少女が健康的な肌色の美少女を抱き枕にしていると言うのは其れだけでも絵になるモノと言えるだろう。


「此れは起こすのは無粋だな。」


なので夏月も起こさないように朝トレーニングに向かおうとしたのだが――



――ムギュ……



此処でヴィシュヌが鈴を抱き直して、其の豊満な胸に顔を完全に埋める結果となった――ヴィシュヌの胸部装甲は夏月の嫁ズの中でも最強であり、そんな最強の胸に顔を埋める事になったらどうなるか?
答えは簡単、鼻と口を塞がれて窒息状態になる一択である。
なのでヴィシュヌの胸に顔を埋められた鈴は僅か数秒で窒息して手足をばたつかせる事になるのだった――普通なら此れで抱き抱えている側が目を覚ましそうなモノだが、ムエタイの一流選手でもあるヴィシュヌに、中国拳法を修めているとは言え実戦経験は皆無の鈴のバタつきは体格差もあって『熟睡中に猫の尻尾が身体に触れた』程度でしかなかったらしくヴィシュヌが目を覚ます事はなかった。

『中国産貧乳ガール』が、『タイランド産爆乳ガール』の胸に顔を埋めての窒息死と言うのは流石に笑えないだろう。


「デカい胸に顔が埋まって窒息とか漫画やアニメの世界だけかと思ったが本当にあるんだなこんな事……つか、デカい胸に埋まって窒息死なんてのは鈴にとってはこの上ない屈辱的な死因だろうなぁ。
 取り敢えず此のままってのは拙いから……よっこいせっと。」


此処で夏月はヴィシュヌも鈴も起こさないように細心の注意を払いながら鈴の身体をヴィシュヌから引っこ抜く。
確り抱きしめられてはいたモノの、女性の胸の膨らみはほぼ脂肪細胞で構築されている上に骨は存在していないので弾力と柔軟性を併せ持っているだけなので意外とスルッと鈴を引き抜く事が出来たのである。
救出された事で呼吸が出来るようになった鈴は、少しの間呼吸が荒かったモノの、直ぐに落ち着いて静かな寝息を立てていた……此の状況になっても目を覚まさないと言うのは少し危ない気もするのだが、身体がまだ目を覚まさなくても大丈夫と判断したのだろう。


「二次被害を防ぐために……此れ抱き枕にしとけ。」


鈴を失ったヴィシュヌは両腕を広げたのだが、また他の誰かに触れて抱き枕にしたら同じことが起きるのではないかと考えた夏月は、ヴィシュヌの右腕に自分が使っていた枕を乗せてやり、枕に触れたヴィシュヌは其のまま枕を抱き枕にしたのだった。
其れを確認した夏月は改めて日課の早朝トレーニングに繰り出して、朝霧の立ち込める古都の空気を楽しみながら鍛錬を行い、トレーニング後は露天風呂で汗を流した後に、トレーニング後のお約束とも言えるモンスターエナジーでエネルギーチャージを決めていた。

其れから朝食タイムとなり、『白米』、『手まり麩と京地鶏の澄まし汁』、『鰆の西京味噌漬け焼き』、『生湯葉の刺身』と言うメニューの朝食を堪能し、修学旅行の三日目がスタートしたのだった。










夏の月が進む世界  Episode70
『修学旅行PartⅢ&FINAL~古都を心から堪能しろ~』










修学旅行の三日目は最も自由に行動出来る『班別行動』の日なのだが、班によって此の日の動きは異なると言えるだろう。
予め班内で決めていたルートを回る班もあれば、ルートは特に決めずに自由気侭に京都を回る班もあるので、正に『班別の自由行動』となる訳である。
とは言え『班別行動』なので、クラス内で決められた班での行動になるのだが、夏月と秋五に関しては其の限りではなく、夏月も秋五も三日目は夫々の嫁ズとの行動になっていた。
秋五の方は一組以外の生徒は三組のオニールだけなので兎も角として、夏月の方は三組のヴィシュヌとファニール、四組の簪がプラスされるので他のクラスにも大きな影響を与えるのだが、他のクラスの生徒も夏月と秋五の嫁ズに関しては『三日目くらいは一緒に』と考えていたので、班員が抜ける事は予め了承していたのだった。


「ナターシャ先生、如何して一緒に居るんですか?」

「あら、私も秋五君の婚約者なのだから一緒に居てもオカシクは無いでしょう?私だけ仲間外れは寂しいし悲しいわよ?」

「教員としての仕事は良いんですか!?」

「その事をマヤに言ったら『それほどやる事は多くないので織斑君と一緒に楽しんで来て下さい。私は未だ織斑君の婚約者にはなっていないので一緒に行く事は出来ませんから、私の分まで楽しんで来て下さい』と言われたのよ♪」


他クラスの生徒がオニールだけの秋五組には教師であるナターシャが加わっていると言う『班別行動』ではありえない光景が展開されていたが、此れもまた『教師である女性を婚約者にした』からこその事なのだろう。
教師の仕事をぶん投げて一緒に京都巡りを行うナターシャも如何なモノかとは秋五も思ったのだが、其れを深く追求したらまた面倒な事になりそうだと思ってあまり深くは聞かず、其れは箒達も同じだった――唯一ラウラだけは軍人と言う職業柄か追及しそうになったのだが、其れはシャルロットが音速で口を手で塞いで阻止し、『ラウラ此れ以上は聞いちゃだめ』と言っていた。

そんな訳で始まった修学旅行三日目の班別行動。
夏月組は特にルートは決めてはおらず、適当に京都をぶらつきながら行きたいところを見付けたら其処に行くと言うスタイルで行動を開始し、先ずは簪の提案で京都観光をするなら外せない観光名所である『清水寺』に向かう事になった。

清水寺は京都の観光名所の一つだが、清水寺に向かう表参道も坂道に八つ橋や工芸品展等々様々な店が軒を連ねており、其れもまた一種の観光の目玉となっているのだ。


「ん?彼女達は舞子と言うのだったかな夏月?」

「あぁ、彼女達は舞子さんだな?芸子さんも一緒みたいだが。因みに、バッチリ化粧してるのが舞子さんな。」

「京都の舞子、話には聞いていたけれど、実際にこうして見てみると……中々に怖いな?
 私も舞台女優だけに観客席から見て丁度良く見えるが近くで見ると厚化粧に驚くと言う舞台メイクを経験しているのだが、其れと比較しても此れは少しやり過ぎではないかな?顔面白塗り&唇に鮮やかな紅はコントラストはハッキリしてるが、近くで見ると少し怖いぞ!?」

「まぁ、其れが舞子さんだからな。慣れるまでってやつだな此れは。
 因みに舞子さんになるには可成り厳しい修行をするらしくてさ、早い人だと俺達よりも下の年齢から修業を始める人もいるらしいぜ?」

「マジで?
 其れってお座敷の作法とかも叩き込まれんでしょ?アタシじゃ絶対に耐えられずに夜逃げ……いや、ストレス爆発で暴れまくった挙句に破門されるわ。」

「お姉ちゃん、意外と自己診断出来てるね。」


そして其処にはこれまた京都の名物とも言える『舞子』や『芸子』も多く訪れているので、其れがまた観光客には人気となっていて記念撮影をお願いする観光客も、主に外国人観光客をメインにして多いのである。
かく言う夏月達も、『折角なので』と言う事で舞子さんに声を掛けて清水寺をバックに一緒に記念撮影を行って貰ったのだった。

そうして辿り着いた清水寺の舞台からの眺めは最高で、正に京都の街が一望出来ると言うモノだった。
其の絶景をバックに記念撮影を行った夏月組だったのだが、清水寺から移動しようとしたところで、同行しているクスハが舞子さんと芸子さんに捕まってしまった。


「雪のような白い毛並み、キレイおすなぁ?どこから来はったん?」

「美人さんのお狐様やねぇ?尻尾も九本あるし、若しかして神様のお使いなんやろうかねぇ?」

「スイマセン、其の子俺達の子です!俺達のクスハです!」

「お騒がせしました!」


其れも夏月とヴィシュヌが直ぐに対処した事で大事にはならなかった――舞子さんと芸子さんは少しばかりクスハと別れるのが名残惜しかったみたいだったが、クスハは狐の中でもかなり特殊な存在であると言えるので夏月とヴィシュヌの判断は正しいと言えるだろう。
もしもクスハが夏月とヴィシュヌの手から離れて何処かに行ってしまっただけなら未だしも、其の特異性に目を付けたマッドサイエンティストの類に捕まってしまったら実験動物にされてしまう未来しかないのだから、クスハはイチカとヴィシュヌが確りと護らねばならないだろう。

そんなこんなで清水寺を後にした夏月組が次にやって来たのは、これまた京都の観光名所として外す事の出来ない『金閣寺』だった。
金閣寺をリクエストしたのは意外にもヴィシュヌだったのだが、ヴィシュヌの出身国であるタイに存在している世界遺産の『アンコールワット寺院』は『嘗ては金色だった』と言う事もあり、現存している『黄金の寺院』を見ておきたかったのだろう。
幸運な事に此の日は晴天だったので、金閣寺は太陽の光を目一杯受けて金メッキ仕上げのガンプラである『百式』や『アカツキ』も驚きの『金ぴか光沢』を放ち、ド派手な『金色』をこの上ないほどに主張していたのだった。


「物凄い金色……此れだけど派手な金色だと若しかしたらビームを反射する事が出来るかもしれないから試してみても良い夏月?」

「やめい簪、其れやった瞬間に『重要文化財破壊』で逮捕されるから。多分更識の力をもってしても誤魔化せないからな?
 なんぼ金色でもアカツキのビーム反射装甲『ヤタノカガミ』を搭載してる訳じゃねぇんだから。」

「其れは残念。
 因みにガンプラのイエローのパーツはゴールドで塗装してから鏨でスジボリを追加したり元々彫られてた溝を掘り直してから墨入れペンのブラウンでスミ入れするとぐっとパーツのグレード感がアップする。」

「其の知識、今此処で必要だったかしらね?」

「100%必要ありませんよファニール。」

「ですが、本当に見事な金色です。
 絢爛豪華とはまさに此の事であるのだと思います……天気にも恵まれて、金閣寺の魅力と豪華さを堪能出来ました。」

「なら良かったが、冬にはまた違った姿も見れるんだぜ?
 屋根に雪を積もらせた金閣寺ってのも中々に味がある……でもって、其の雪が積もった金閣寺が今日みたいな晴天に照らされると金閣寺の光沢に雪の反射光が加わって今日以上の物凄い光沢を放つらしいんだ。」

「其れはまたなんとも凄そうですが、其処まで来るとサングラスを掛けないと真面に見る事が出来ないかもしれませんね?」


金閣寺を眺めながら雑談をした後に、今度は金閣寺をバックに記念撮影。
記念撮影の後は駐車場にある茶屋にて抹茶と、生八つ橋をはじめとした京都スウィーツを堪能すると、今度は特に目的地もなく京都をぶらりと散策する事にしたのだが、適当にぶらつくだけでも京都の街並は東京とは異なっており、特に碁盤の目に区画されている路地は東京の路地と違って複雑ではなく、仮に間違った道に入ってしまったとしても右回り、或いは左回りオンリーで戻れば元居た場所に簡単に戻る事が出来ると言うのは可成り大きな利点と言えるだろう。

そうして適当に散策しながらウィンドウショッピングを行い、時には土産物屋に入って店内を見て回り、気に入ったモノがあったら購入すると言う事をして楽しんでいた――簪が『修学旅行のお土産と言えば木刀』と言って木刀を購入しようとした際には、静寐に『最近は木刀を購入すると旅館に戻ってから先生に刀狩りされるらしいよ?』と言われて購入を止めていた。
拡張領域に入れて隠すと言う裏技も存在するのだが、IS学園に於いては専用機持ちは『拡張領域に問題になりそうな物を隠していないか』とチェックもされるので其の裏技も使えないだろう――そこまで調べるのはやり過ぎと思うかもしれないが、其れほど徹底しなければ専用機持ちの拡張領域を使って酒やタバコ、最悪の場合は違法薬物の持ち込みも行えるので、こうした厳しいチェックは絶対に必要になるのである。


「ねぇ夏月、此れ可愛くない?お土産に買って行こう。学園に残ったタテナシとグリフィンとダリルの分も。」

「こいつは干支守りか?
 リアルな造形じゃなくてカジュアルでポップな造形は確かに可愛いから買うか。つか、此れはトラじゃなくてネコじゃねぇのか?」

「トラはデフォルメするとネコになる、此れは常識。」


何件目かで訪れた土産物屋でファニールがマスコット的なデザインの『干支守り』を見付けて、其れを見た夏月は購入する事を決め、全員が自分の干支と同じお守りを購入し、学年が違うので学園に残る事になった楯無、グリフィン、ダリルの干支のお守りも購入したのだった。
因みに乱とファニール以外は全員が二千六年生まれだったので『戌』の干支守りだったのだが、一つ下の乱は『亥』の干支守りを購入し、三つ下のファニールは『丑』の干支守りを購入し、逆に一つ上の楯無とグリフィンとダリルには『酉』の干支守りを夏月が購入してプレゼントする事になったのだった。

そんな感じで京都を適当に散策しているウチに昼食時となったので夏月組もランチタイムとなったのだが、『何処で何を食べるか?』となった際に『京都グルメは旅館で堪能出来るから、逆に京都グルメじゃないモノにしよう』と言う事になり、夏月組一行がやって来たのは京都グルメとは最も遠い存在と言っても過言ではない『ハンバーガーレストラン』だった。

だがしかし此の店はハンバーガーのフランチャイズ店として全国展開している『マ〇ドナルド』や『〇スバーガー』とは異なり、『敢えて古都京都に出店した個人経営の店』であるので、逆に期待出来ると言うモノだろう。
夏月達は入店して人数を告げると、二階の『パーティルーム』に案内され、其処でメニューと暫し睨めっこする事になった。
メニューには全国展開しているハンバーガーのフランチャイズ店ではまずお目に掛る事のない珍しいハンバーガーが名を連ねていたのだから其れも致し方ないと言えるだろう。
定番のビーフパテを使ったハンバーガーだけでも十種類を超えていると言うのに、其処に『フライドチキン』、『フィッシュ』、『エビカツ』が同じ位のバリエーションで存在しているのならば、其れは迷うなと言うのが無理と言うモノだ。

そうして迷う事十分弱、全員のオーダーが決まった事を確認した夏月はインターホンを押して定員を呼び出すと、注文を出した。


「俺は此の『究極のベーコンレタスダブルチーズバーガー』をポテトとドリンクのセットで。其れから単品で『ダブルエビカツバーガー』を。
 ポテトとドリンクはLサイズで、ドリンクはコーラで。」

「私は『ハワイアンバーガー』をポテトとドリンクのセットで。ドリンクはジンジャーエールでお願いしようかな。」

「私は『究極のてりやきバーガー』をポテトとドリンクのセットで。ドリンクはリンゴジュース。」

「アタシは『フィッシュエビバーガー』をポテトとドリンクのセットで!ドリンクは烏龍茶で宜しく!」

「アタシは『タルタルフィッシュバーガー』をポテトとドリンクのセットで。飲み物はコーラで♪」

「私は『旨辛照り焼きチキンバーガー』をポテトとドリンクのセットで。ポテトとドリンクはLサイズで、ドリンクはレモンスカッシュでお願いします。」

「え~っと、私はねぇ……『スパイシーサーモンバーガー』をドリンクとポテトのセットで。ドリンクは強炭酸のサイダーで。」

「私は『ダブルチーズバーガー』をポテトとドリンクのセットで。ポテトはLサイズで、ドリンクはコーラでお願いします。」

「私は……此の『濃厚バーベキューバーガー』をポテトとドリンクのセットで。ポテトは明太子フレーバーで、ドリンクはノンアルコールのビールを。」

「かなり迷ったけど、私は『限界突破フィッシュバーガー』をドリンクとポテトのセットで。飲み物はハンバーガーの大親友のコーラで♪」


夫々異なるオーダーだったのだが、オーダーしてから約十分後には注文したメニューが提供されていた。


「此れは、メニューに掲載されていた写真以上だな?」


其のメニューは実に見事なモノであり、断面を香ばしく焼かれたバンズが具材を見事に挟み込んでいたのだが、挟まれている具材の厚さがマ〇ドナルドは勿論として、具材はケチケチしないと言われている〇スバーガーをも上回っており、特に夏月がオーダーした『究極のベーコンレタスダブルバーガー』はビーフパテとこんがり焼かれたベーコンが二枚であるだけでなく、レタスもふんだんに使われていて、其の厚みは余裕で15㎝を越えていたのだ。


「そんじゃまぁ、いただきます!!」

「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」


だがしかし夏月は其の極厚バーガーを『口に合うサイズ』に潰すと一気に齧り付くと言う豪快でワイルド極まりない食べ方をして、嫁ズも其れに倣って一気に巨大なバーガーに齧り付いた。
下品とは言うなかれ。巨大なハンバーガーは自分の口に合うサイズに潰した上で、口の周りと手を思い切り汚して食べるのが最高に美味しい食べ方なのであるのだから。


「いやぁ、此れは思った以上の味だね?
 ビーフパテにハムステーキ、輪切りのパイナップルと言う組み合わせが斬新だったのでハワイアンバーガーにしたのだが、パイナップルの甘みと酸味が想像していた以上に肉とよく合うので驚いたよ。」

「パイナップルって意外と肉料理と相性良いのよね。
 アタシの得意料理である酢豚に入れる事もあるし、唐揚げなんかの下味をつける段階で刻んだパイナップルを一緒に漬け込むと肉が柔らかくなるし。」

「この旨辛照り焼きチキンバーガーは『旨辛』の名の通り、旨味と辛さが絶妙ですね?
 照り焼きソースには赤唐辛子だけでなく青唐辛子も使っている上に、赤唐辛子は粉末と生の荒刻み、青唐辛子は焙煎とパウダーを使って唐辛子の辛さと旨さを見事に引き出していると思います。」

「此のスパイシーサーモンバーガーのスパイスって何かしらね?
 一種類じゃなくて沢山使われてるような気がするわ……多分だけど最低五種類位は。」

「若しかして五香粉(ウーシャンフェン)が使われてるのかも。
 アジア料理に使われるスパイスだと思ってたけど、成程ハンバーガーのスパイスとしても使える訳か……そしてその可能性が夏月君の主夫魂に火を点けた可能性が。」

「おうよ、火が点いたぜ静寐……パストラミ系の肉料理作るとき、ペッパー系だけじゃなく五香紛も一緒にまぶしたらまた違った美味しさになるだろうし、ムニエルの衣に混ぜても良いかもだぜ。」

「神楽、ポテトに明太って合うの?」

「合いますよナギ。明太タラモサラダと言う料理も存在しますし……食べてみますか?」


手に付いたソースを舐め取りながら口の周りをお絞りで拭って大きなハンバーガーを心行くまで雑談をしながら堪能し、セットメニューのポテトのサクサクカリカリ感にも満足したランチタイムとなっていた。
値段は全国展開しているフランチャイズ店と比べると少しばかり割高なセットメニューで千円オーバーだったのだが、『此の味なら高くない』と全員が思っていたのだった。


こうして最高のランチタイムを終えた午後の部、夏月達がやって来たのは『京都シネマ村』だった。
『映画のテーマパーク』である京都シネマ村は、映画の歴史や邦画、洋画、アニメ作品を問わずに映画の世界を体験する事が可能で、ある場所には時代劇風の街並みが再現されているかと思えば、ある場所にはSFの世界観が再現され、またある場所には『赤いコートを着たデビルハーフのオッサン』が大暴れやらかしそうな世界観が再現されていた。
施設内には幾つものミニシアターも存在しており、名画と言われている映画だけでなく、シネマ村オリジナルの映画も上映されているので、其れも楽しみの一つなのだが、此のシネマ村の最大の魅力は、『貸衣装で映画の登場人物に変身出来る』……もっと分かり易く言えば『映画の登場人物のコスプレ』が出来る事だろう。
貸衣装は一律千円と言うリーズナブルさも魅力と言えよう――スタジオでの写真撮影で衣装を借りたら、最低でも五桁を超える事を考えたら、非常に良心的な値段設定と言えるのは間違いなさそうだ。

なので夏月達も貸衣装に着替え、全員が映画の登場人物に変身していた。
夏月は映像作品である『FINAL FANTASYⅦ ADVENT CHILDREN』の主人公の『クラウド・ストライフ』、ロランは『映画版バイオ・ハザード2』の『ジル・バレンタイン』、簪は『アナと雪の女王』の『エルザ』、鈴は『劇場版ポケットモンスター~結晶塔の帝王 エンテイ~』の『リン』、乱は『劇場版ガールズ&パンツァー』の『山郷あゆみ(パンツァージャケットVer)』、ヴィシュヌは『スター・ウォーズシリーズ』の『レイア姫』、ファニールはハリウッド版『StreetFighter』の『チュンリー・ザン』、静寐は『ターミネーター1&2』の『サラ・コナー』、神楽は『バック・トゥ・ザ・フューチャーⅢ』の『クララ・クレイトン』、ナギは『風の谷のナウシカ』の『ナウシカ(王蟲の血で蒼く染まったペジテ衣装Ver)』と言うチョイスに。
此の衣装チェンジは意外なほどに静寐がハマっていた――原作同様にショートヘアーと言うのも大きいだろうが、静寐の身体もまた他の夏月の嫁ズと同様に鍛え上げられており、劇中の『サラ・コナー』に負けず劣らずの肉体を手に入れていたのだ。
女性的な曲線を保ちながら、腹筋がシックスパックになっていると言うのは見事であると言えるだろう――ロランやヴィシュヌもまた同様の状態であるのだが、夏休みの期間だけで此処まで己を鍛え上げた静寐は見事と言えるだろう……静寐と比べると少しばかり劣るとは言っても、神楽とナギも夏休み期間中に日本の代表候補生になったのだから此れは誇るべき事だと言えるだろう。
楯無と簪ですら、代表候補生になるまでには年単位を要したのだから。
尤も、楯無も簪も、代表候補生から国家代表になるまでには一年と掛かっていないのだから矢張り凄まじい訳なのだが。

其れは其れとして、貸衣装に着替えた一行はシネマ村に繰り出し、各所にある展示物やミニシアターでの映像作品などを楽しみながらやって来たのは『江戸の街並み』が再現された場所だった。
時代劇の撮影にも使われると言う事もあって、江戸時代の街並みは可成り高いレベルで再現されており、夏月達も其れを楽しんでいたのだが――


「へっへっへ、追い詰めたぜぇお嬢さん……大人しくこっちにそいつを渡せば、痛い目を見ないで済むぜ?」

「お嬢さん……此処はあっしが引き受けますんで逃げてくだせぇ……某は目が見えずとも、敵は心眼にて見えまするので御心配なさらずに――俺の命を繋いでくれた握り飯の礼、此処で果たさせていただきやす!」


其処で突如始まったミニ劇。
如何やら賊に追われる姫が絶体絶命の状況に陥り、其処で姫の施しで一命を取り留め、その礼として護衛に参加していた盲目の剣士『座頭市』が賊に立ち向かい、見事な居合をもってしてバッタバッタと賊を切り倒していくと言う実に爽快感があるモノだった。
そして残りは賊の頭領一人となったところで、傘を目深に被った『謎のサムライ』が現れて賊の頭領を一閃して絶命させると、座頭市と向き合う。
目は見えずとも相手の雰囲気から自分と戦う心算であると察した座頭市は刀を鞘に納め、必殺の居合を放てるようにすると謎のサムライと向き合い、一瞬の静寂の後に座頭市の逆手居合と謎のサムライの袈裟切りが交錯し、そして互いに相手を背にする形に。
一見すると互角だったのだが、座頭市の刀は真ん中からポッキリと折れてしまっていた。
だが座頭市の居合は謎のサムライの傘を真っ二つに斬り裂き、その下からは包帯が巻かれた頭が現れた。


「コイツは刀が折られた?刀ってのはそう簡単に折れるモンじゃないんだが其れをこうも簡単に折るとは……お前さん、人間じゃあないね?」


刀が折られた事を理解した座頭市は、謎のサムライにこう問いかけると、謎の頭に巻かれた包帯を取り去って行き、包帯の下から現れたのは――


『キシャァァァァァァ!!』

「傘の下の素顔はどんなモンかと思ったら、まさかの人じゃなくてプレデターかよ!」

「うん、この発想はなかった。」


『宇宙のハンター』であるプレデターだった。
このミニ劇は『YouTube』上にアップされていた『PVZ』が元ネタとなっており、一時期洋画界で流行っていた『VSシリーズ』の流れを汲んだ『ジョーク動画』だったのだが、再生数は中々に多く、シネマ村では其れをミニ劇で再現したのだ。
因みにプレデターは基本的に地球人類を『狩りの獲物』と考えており、光学迷彩ステルスを使って景色に溶け込み、ターゲットに気付かれる事なく人間狩りを行うのだが、一転して己が認めた『戦士』に対しては姿を見せて戦うので、座頭市はプレデターに『狩り』ではなく対等の『戦士』と認められたと言う事であり、江戸時代の日本の盲目の剣客の実力は相当なモノであったと言えるだろう。

刀を折られた座頭市は一気に窮地に陥ったのだが、此処で姫が賊達から渡せと言われていたモノを座頭市に投げ渡す。
目が見えずとも聴覚が発達している座頭市は姫の声とモノが飛ぶ風切り音を頼りに投げられたモノを見事に掴み取る――其れは一見すると刃の付いていない刀の柄なのだが、座頭市が手にした瞬間にライトセイバーかビームサーベルのようにエネルギーの刃が発生し、座頭市は其れを使ってプレデターと戦い、最終的には座頭市に深手を負わされたプレデターが『勝てない』と判断して自爆をしようとしたところで座頭市がプレデターの自決を察して自爆装置を突き刺して破壊し、『お前さん、其の力を人の為に使ってみちゃどうだい?』と言われ、己を敗北させた戦士によって命を救われたプレデターは『謎のサムライ』として日本全国を回る事になったのだった――尚、姫が持っていたビームサーベルは遥か太古の時代に日本に飛来したプレデターが持っていたモノであり、当時の日本人が圧倒的な力を持つプレデターを神として崇め、其のプレデターが持っていた武器を神聖なモノとして姫の家で代々受け継いでいたモノと言う事だった。


「座頭市vsプレデター……流石に此の発想はなかった。マーベルvsカプコンもビックリだろこれは?」

「此れがアリなら、私は『Devil May Cryvsプレデター』を推したい……ダンテとプレデターの戦いはきっと凄いアクションになるのは間違いないと思うから。」

「其れは確かに凄まじいアクションが繰り広げられそうではあるが、其の戦いは下手をしたら一都市が完全崩壊してしまうのではないだろうか?」

「一都市が完全崩壊だなんて馬鹿言わないでロラン……ダンテとプレデターがガチで戦ったら一都市どころかアメリカ大陸が壊滅して最悪の場合は地球そのものが壊滅的な大ダメージを受けるから。」

「うん、余計に悪いな其れは!?」


まさかのクロスオーバーのミニ劇だったが、その意外性が逆にウケたらしく、観客からは惜しみない拍手が送られ、夏月達も拍手を送っていた。
このミニ劇を観劇した後は、日本が世界に誇る映画ジャンルである『怪獣映画』の歴史が分かる展示館にやって来て、其処に展示されている歴代の『ゴジラ』の『怪獣スーツ』を観覧して其の細かな違いに驚いていた。


「ゴジラvsデストロイヤーのバーニングゴジラのゴジラスーツは内部から燃えてる感じを再現する為に百個以上の電球をスーツ内部に仕込んでて、総重量は100kgを超えるって、此れは撮影が普通に拷問だろ此れ?」

「暑くて重くて狭いに加えて視界も限られるのだから演者は正に地獄だろうね……此れでもしもNGが出てしまったら絶望しかないのではないかな?」

「絶望なんてレベルじゃねぇだろそれは……」

「シン・ゴジラの第五形態……此れってエヴァンゲリオン?」

「あぁ、其れはアタシも思ったわ簪。」


日本が世界に誇る怪獣王のスーツの多さに驚きながらも、他の怪獣の衣装の細かさやギミックにも驚きながら此の展示館を楽しみ、其の後はシネマ村をぶらつきながら、時には『客参加型』のミニ劇にも参戦し、其処では夏月が身の丈以上の大剣である『フェンリル』を抜くとクラウドの究極リミット技『超究武神覇斬』を繰り出して敵を蹴散らしていた。
其れから良い時間になったところでシネマ村内のミュージアムショップにて夫々が土産物を購入していた――其処で簪が『シネマ村限定カラーのHGCEフリーダムガンダム』を購入したのはある意味では当然と言えるだろう。
アニオタでゲーオタの簪が『限定カラーのガンプラ』を購入しないと言う事はあり得ないのだから。

こんな感じで三日目の班別行動を夏月組は目一杯楽しんだ後に旅館に戻った――同じく嫁ズと行動していた秋五組もまた京都の名所を回って目一杯楽しんでいたのだった。

旅館に戻った後は直ぐに入浴時間となり、三日目は女子は三組が最初となった事でヴィシュヌの究極クラスのプロポーションや、夏休み明けに急成長したコメット姉妹に関しての話題が男風呂の夏月と秋五に届いていた。


「ヴィシュヌは元からダイナマイトボディだったが、ファニールとオニールが急成長したのって、若しかしなくても俺達のせいか?
 学園から離脱してた時に義母さんから聞いたんだが、俺とお前には『仲間を急成長させる因子』が組み込まれてるらしくて、其れは相手が女性の場合は性交渉によって最大の効果を発揮するって事なんだが……」

「そうなると、確実に僕達が原因だよね……織斑計画、何で僕達にそんな機能を付けたのさ……」

「最強の人間を簡単に量産するためだろ?」

「倫理観とか完全にぶっ飛んでるね其れは。」


取り敢えずコメット姉妹の急成長は織斑計画の産物だったのだが、高い潜在能力を秘めていたコメット姉妹が急成長した事で大人の身体を手に入れたと言うのはIS学園にとっても悪い事ではないだろう。
ISの操縦能力は子供の身体と大人の身体では大きな差が出てしまうのだから――逆に言えば大人の身体になった事でコメット姉妹は其の力を存分に発揮出来る訳なのだが。

そしてお風呂タイムの後は夕食となり、此の日の夕食は『京風散らし寿司』と『ハマグリのお吸い物』だった。
『京風散らし寿司』は酢飯の上に錦糸卵を敷き詰めた上に、切った煮アナゴを散らし、其処に鯛、鰆の刺身、湯引きした鱧、エビを乗せた見た目にも豪華なモノであるだけでなく、味も抜群だったので実に満足出来るモノだった。

夕食後は自由時間となり、三日目も夏月の部屋と秋五の部屋には夫々の嫁ズが集まって就寝時間を過ぎてもゲームで盛り上がり、日付が変わった頃にやっと眠りについたのだった。

そして修学旅行最終日。
此の日も夏月は早朝トレーニングを行い、其れから朝食タイムとなり、朝食後には旅館を出発して京都駅に移動し、其処から新幹線で東京に戻り、東京駅からIS学園島へのモノレールが出ているモノレール駅に向かう事になっていた。

旅館に礼を述べた一行はクラスごとにバスに乗って京都駅まで移動し、其処からは新幹線で二時間ちょっとの鉄道の旅だ。
修学旅行を思い切り楽しんだが故に多くの生徒は新幹線では寝ていたのだが、夏月はSwitchにて『スーパーマリオメイカー2』でダウンロードした『トロールコース』に挑戦していた。


「二分の一か……なら正解はこっちだ!
 と思ったら隠しブロックからのパックンフラワーか!このクチビル植物が~~!!!」

「クチビル植物、言い得て妙だね。」


其の鬼畜難易度に夏月が発狂し掛けていたのだが、最終的にはクリア出来たので良かったと言う事にしておくべきだろう――こうして、IS学園の修学旅行は恙無く終わったのだった。








――――――








時は少し巻き戻り、束は自身のラボにてある人物をカメラで捉えていた。


「ISのコア人格には特定の波長があるから、其れを追えば愚娘の生死も分かるんじゃないかと思ったんだけど、どうやらビンゴだったみたいだね?」


其のカメラが捉えた映像はモニターに映し出されるのだが、其のモニターに映し出されたのは一人の女性で、其れこそ『何処にでもいるOL』と言った感じだったのだが、束は此の女性から『ISコアの波長』を感知した事で注目する事になったのだった。


「白騎士……君の目的がなんであるのかは分からないけど、其の目的が多くの人を不幸にするモノであるのなら私は其れを認める事は出来ない――ドンな手を使ってでも、止めて見せる。
 其れが、白騎士事件を止める事が出来なかった私に出来るせめてもの贖罪だからね。」


そうして感知した『ISコアの波長』が『白騎士』のモノである事を確認した束は、いかなる手段を持ってしても白騎士の暴走を止めると言う覚悟を決めていたのだった――その手段の選択肢には、束の命をもコストにするモノもあったのだが、逆に言えば束は千冬(偽)との決戦には文字通りの『命懸け』で挑むと言う覚悟であったのだ。


「カッ君とシュー君の嫁ズの機体が全て騎龍となればお前達にも負けない…だけど何時攻めて来るか、何処で何が起きるか分からない以上は騎龍化を悠長に待ってる事も出来ないから……此処は一つ、サクッと強制覚醒イベントと行きますか♪」


だがしかし、束は焦る事なく、夏月組と秋五組の機体が『騎龍』として覚醒するための手段を考えるのだった。









 To Be Continued