修学旅行期間中であっても夏月の早朝トレーニングが行われないと言う事はなく、夏月は何時も通りの早朝トレーニングを行い、トレーニング後の汗を流す為に早朝の露天風呂にやって来ていた――だけでなく、其処には秋五の姿もあった。
先の戦いで己の未熟さを知った秋五は、夏月達が復学した後は自分も夏月と同じトレーニングメニューを行うようになっていたのだ――始めたばかりの頃は、其のハードさに途中でリタイアする事が多かったのだが、最近では最後まで付いてくる事が出来るようになっていたのだ。
「このハードトレーニングにこの僅かな期間で付いてくるようになるとは、流石は天才と言うべきか?」
「いや、幾ら天才でも此のトレーニングに付いて行けるようになるのは並大抵じゃないよ夏月……僕が織斑計画で生み出された強化人間だからこそじゃないかな此れも?
僕もトレーニングは行ってたけど、君のトレーニングと比べたらまるで遊びだ……これじゃあ僕と君の差は縮まらない筈だよ――僕が時速100㎞で走ってたんだとしたら、君は時速500㎞で走ってた訳だからね。」
「時速500㎞?馬鹿言うな、お前が時速100㎞なら俺は時速3300㎞だ。」
「アクセルシンクロ!?」
其れでもトレーニングを終えた後、秋五は完全にバテてしまっており、まだまだ余裕がある夏月との差はまだまだあるようだった――織斑計画のイリーガル体である夏月は、『大器晩成型』の特性を遺憾なく発揮して『早期熟成型』の秋五の事を完全に追い抜いてしまっていたのだった。
加えてトレーニングの質に大きな差があった事で、今や夏月は完全に秋五の事を置いてけぼりにしていたのだ……特に、学園から離脱していた期間に裏の仕事を多数熟した事でその差は更に大きくなっていたのだ。
とは言っても秋五の実力も余裕で国家代表を圧倒出来るレベルなので強者の域ではあるのだが、其れを超えるレベルで夏月と夏月の嫁ズのレベルがぶっ飛んでいるのである。
――ガラガラガラ……
そんなトレーニング後の朝風呂を満喫していると露天温泉の脱衣所の扉が開く音がした。
此の旅館は修学旅行期間中はIS学園が借り切っているので一般の宿泊客が入ってくる事はないので、夏月も秋五も『旅館の男性スタッフが入りに来たのか?』と思ったのだが、なんと入って来たのはマドカだった。
「マドカ、お前何でこっちに来てんだよ!こっちは男湯だぞ!」
「確かにこっちは男湯だが、此処の露天風呂は二十四時間入れるようになっているだけでなく、午前一時から午前六時三十分までは混浴となるのだ!
なので私がこっちに入っても今の時間帯ならばマッタクもって問題はないし、家族水入らずの裸の付き合いと言うのも悪くあるまい?……其れとも、姉のバスタオル姿に照れたか?」
「いや、其れはないわ。
鈴以上のまな板ボディに照れるとか今更ないから。」
「僕も嫁さんがラウラを除いて揃いも揃ってダイナマイトボディだから其れはないかな?」
「織斑計画の研究者達よ、何故私を『成長促進機』に入れて成長させなかった!其れで成長していれば私の身体は十九歳となリ、姉さんに負けず劣らずのダイナマイトボディになっていた筈なのに!!」
『こう言っては何だが、お前は私のスペア兼ドナーとして生み出された存在だからな……スペア兼ドナーは成長させるよりも若い方が良いと判断されたのかもしれん。
計画が凍結されて関わっていた者達も行方知れずになってしまった今では真相は闇の中だがな。』
「奴らめ……見つけ出したら絶対に滅殺してやる。」
此の旅館は時間限定で露天風呂は混浴になるらしく、マドカは夏月と秋五が入ったのを確認してやって来たのだった――少しばかり夏月と秋五を揶揄ってみたが、逆に手痛いカウンターを喰らう事になったのだが、其れでも最終的には和やかな朝風呂タイムを楽しむ事になった。
其の最中、羅雪のコア人格が等身大で半実体化して参加して来たのだが、其れもマッタクもって無問題だった――こうして此の日初めて、織斑家は『家族のお風呂タイム』を楽しむ事になったのである。
そして、入浴後の牛乳は基本であり、夏月はノーマルの牛乳、秋五はコーヒー牛乳、マドカはフルーツ牛乳を購入して一気に飲み干し、其の後に朝食の時間となり、修学旅行の二日目がスタートしたのだった。
夏の月が進む世界 Episode69
『修学旅行PartⅡ~京都はミステリーゾーンだぜ~』
修学旅行二日目の朝食メニューは旅館では定番の『ご飯と味噌汁』、『焼き魚』、『納豆』だったのだが、味噌汁は出汁を利かせた白味噌仕立てで、焼き魚は『鱧の塩焼き』、納豆には刻みネギと鰹節と卵黄がトッピングされ、味付けは京都で主流の『白醤油』でされており、関東は異なる味付けに舌鼓を打っていた。
其の朝食が終わった後の修学旅行二日目はクラス別行動となっており、夫々自クラスのバスに乗って目的地へと向かって行った。
其のクラス別行動で一組が最初にやって来たのは京都でも屈指の観光名所である『三十三間堂』だ。
百体を超える千手観音像がある事で有名な三十三間堂だが、其の千手観音像は全て手彫りである事から『同じ顔は一つとしてなく、自分と同じ顔の千手観音像が存在している』とも言われているのだ。
「これが日本の仏像と言うモノか……オランダにも遥か昔に貿易で日本から持ち帰られたモノが存在してはいるのだが、オランダの博物館で見るのと本場で見るのでは違うモノだね?
この独特な建物、お堂と言うのだったかな?その内部の雰囲気と仏像が見事に調和しているからね……父が芸術家故に、幼い頃から芸術作品に触れる機会は多かったが、これほどまでに細かい手彫りの木像と言うモノは初めて見たよ。」
「加えて、此処にある千手観音像が彫られた頃はまだ日本にはヤスリってモノが存在してないから表面の滑らかさもノミだけで出してるってんだから驚きだよなぁ……日本人の手先の器用さは世界一だぜマジで。」
「其れは確かにそうかもしれないな。
時に、私は未だに寺と神社の違いが良く分からないのだが、如何違うんだい?」
「では、其れに付いては僭越ながら私、四十院神楽がさせて頂きます。
寺と神社は、先ず中にいる人間が異なります。寺の場合は僧や尼ですが神社の場合は神官と巫女になります。
続いて寺では仏教の仏を祀っているのに対し、神社は主に元々日本に居た神を祀っている場合が多いですが、中には東郷神社や乃木神社、靖国神社のように英霊と呼ばれる存在を祀っている場合もあります。
基本的に仏教が寺、神道が神社と覚えていれば問題ないかと思います。因みに地方にある小さな神社の多くは土地神やお稲荷様を祀っている場合が殆どですね。」
「因みに、仏教と日本の神道は他の宗教の神様も認めて内部に取り込むって言う特徴があるんだよ。
だから外国から入って来た仏教を受け入れたし、仏教も仏の位である『如来』、『菩薩』、『明王』、『天』の中で明王と天は他の宗教の神様が仏教に取り入れられて仏になったモノだから。
他の神を認めないキリスト教やイスラム教徒は其処が違うところだよね。」
其の無数の千手観音像の見事な造形に驚きながらも仏師の業に感激し、少しばかり寺と神社の違いなんかを話しながら三十三間堂を満喫し、ラウラは『此れだけ腕があると自分でどの腕を動かしているか分からなくなりそうだが、支配神経は如何なっているのだ?』と若干的外れな疑問を抱いていた。
続いて一組が訪れたのは老舗の刀鍛冶の工房だった。
室町時代から続いている鍛冶屋なのだが、最近では刀だけでなく包丁も作っており、其の包丁は名のある料理人が態々特注するだけの名品であったりするのだ。
刀と同じ製法で鍛えられて生み出された包丁は大量生産で生み出された包丁とは切れ味も、其の切れ味の持続性も全く異なり、食材の細胞を潰さずに切る事が出来るので料理の味に雲泥の差が生まれるのだ。
特に生魚を扱う寿司職人からの注文が多いと言うのは鍛冶本の話だった。
「因みに包丁と特注でオーダーするとどれ位の値段になるんです?」
「モノによるが、最低でも一本十万はするもんだ。
鈍を渡す事は出来ねぇから、材料には最高級の玉鋼を使うし、こっちも持てる刀鍛冶の業を全投入するからなぁ……俺としても、自分が作ったモノを大切に使ってもらえるなら嬉しいってモンだ。」
「最低十万か……因みに決済は現金のみですか?カードや電子マネーは対応してない感じで?」
「現金のみだ――と言いたいところだが、今のご時世カードや電子マネー決済にも対応してないとやって行けないからカードも電子マネーも大丈夫だ。」
「そうですか……其れじゃあ包丁五本特注で注文しても良いですか?
刺身包丁と出刃包丁、其れから万能包丁を大、中、小一本ずつで――俺は料理人じゃないけど料理が趣味で、旨い料理を作る事に手間も時間も惜しまないんだけど、量販店で買った包丁じゃちょっと満足出来なかったんで。
支払いは電子マネーで。貯金の半分は電子マネー化してるから金額は充分にあるからな。」
此処で夏月がまさかの包丁を特注オーダーしていた。
料理が趣味の夏月だが、量販店で買った包丁では満足出来ていなかったので、此の機会に自分の手にあった特注の包丁をオーダーしたのだ――誕生日に楯無から包丁をプレゼントされており、其れもこの工房で作られた包丁に負けず劣らずの業物だったのだが、楯無からのプレゼントと言う事でなんとなく『使うのが勿体ない』と思ってしまい、使わずに永久保存状態になっていたのだ。
なので此処でオーダーをしたのだが、鍛冶本も夏月の目の奥にある一流の料理人のみが宿す『料理への拘り』を見抜いて特注オーダーを受け付けて、最高の業物をIS学園に届けると約束してくれた。
「では、私も此れの打ち直しをお願い出来るだろうか?」
続いて箒が紅椿の拡張領域に収めていた真剣の日本刀を持ち出して『打ち直し』を依頼していた。
拡張領域に収めていたとは言え、真剣の日本刀を持ち歩いていると言うのは銃刀法に抵触しそうなモノだが、箒と言うか篠ノ之家は日本政府に対して『真剣所持許可』を申請して、其の申請が認められていたので篠ノ之家の人間は誰であっても真剣を所持する事が出来るので問題はなかった。
「ふむ……此れは、此の刀は!
江戸時代初期に江戸幕府初代将軍の徳川家康公が城下町の剣道場として栄えていた『篠ノ之剣道場』の師範の教えに感激して送ったとされた幻の名刀『花鳥風月』では!?
よもや此処で幻の名刀と出会えるとは……あい分かった、此の刀、私の技の全てをもってして打ち直させて貰おう!」
其の刀は江戸時代初期に篠ノ之家の先祖が江戸幕府の初代将軍である『徳川家康』から下賜されたモノなのだが、歴史的記録が殆ど残っていないが故に『幻の名刀』と言われるモノであったらしく、その打ち直しを依頼された鍛冶本は刀鍛冶として己の持てる業の全てを持ってして打ち直すと気合が入りまくりだった。尚、刀は夏月が注文した包丁同様、学園宛に届けてくれるとの事であった。
序に此の工房では鍛冶技術で作った鉄製の小物も販売しており、一組の生徒達は自分の守り本尊が打ち込まれた刀型のお守りを購入していた。
そうして鍛冶工房を出たところでお昼時となり、一組が昼食の為にやって来たのは『京風牛鍋』の店だった。
『牛鍋』其のモノは明治時代に日本に入って来た牛肉食文化が日本国内で独自に発展したモノであり、牛鍋は関東に伝わった後に、やがて『すき焼き』に形を変えて日本全国に伝わって行ったのだが、厳密に言えば『牛鍋』と『すき焼き』は似てはいるが、マッタクの別物なのだ――牛鍋は割り下を使うが、すき焼きは焼いた牛肉に醤油と砂糖をダイレクトアタックするモノなのである。
最近ではすき焼きにも割り下を使うのでその境界線はほぼ無くなっているのだが。
「此の出し汁はカツオ節だけじゃなく、煮干しと昆布、サバ節とアゴ出汁を合わせて牛肉のコクに負けないように作られてるな?……此れなら、本場の牛鍋も期待出来るってモンだぜ!」
「使われてる出汁が何であるか分かるとか、君は本気で料理人を目指しても良いんじゃないか夏月?一夏も料理が得意だったけど、君の腕前は一夏すら超えてるように思うからね。」
「ISバトルの競技者と料理人の二足の草鞋……いや、最近だと二刀流って言うべきか?
モンドグロッソ制覇したら、『ISバトルの世界王者が経営する店』って事でメッチャ繁盛しそうだよなぁ……勿論、店を出すなら料理の味も超一流を目指すけどよ。
……なんとなくだけど、チャレンジメニューとして『グリフィン・レッドラム専用定食』を作っても良いかもな。」
「因みに其れはどんなメニューになるの?」
「ご飯はラーメン丼に山盛り。大体八人前。其れに極厚のロースとんかつ三枚、鶏の唐揚げ三十個、牛ハラミステーキ1kg、コロッケ二十個だな。
まぁ、グリ先輩が本気を出してリミッター解除したら三十分と掛からずに完食した上で更におかわりするだろうけどな……ぶっちゃけグリ先輩なら定食屋のメニュー全制覇出来ると思ってる。」
「本当に、本当に今更かもしれないけどさ、レッドラム先輩の胃袋ってどうなってるの?」
「知らん。
と言うかグリ先輩の脅威の脅威の大食いっぷりは束さんが調べてもどうなってるんだか解析不能なんだから俺達が分かる筈が無かろうて……」
「束さんでも解析不能なモノがこの世に存在してる事に驚きだよ……」
「レッドラム先輩の食欲は最早怪奇現象の類と言う訳か……姉さん、なんとか解析して下さい。」
夏月が牛鍋の割り下使われている出汁を見事に言い当てて、其れを皮切りに始まった秋五との会話は予想外の地点への着地をする事になったのだが、其れは其れとして一組の生徒は京風の牛鍋を心行くまで堪能した。
京風の牛鍋は白醤油を使い、出汁を効かせた割り下が特徴だったのだが、其の割り下は牛肉のどっしりとしたコクのある味に負けないほどの旨味が凝縮されたモノだったので牛鍋全体の味わいをより深いモノにさせていた。
鍋の〆は雑炊かうどんなのだが、此処は満場一致でうどんとなり、牛肉の出汁も染み出した鍋汁で煮込まれたうどんもまた格別だった。
昼食後の午後の部、一組がやって来たのは『能』が行われる舞台だった。
日本の伝統芸能の一つである『能』だが、其れを生で見る機会は中々無いので、此れも貴重な経験と言えるだろう――尤もクラスの人数が人数なので一年一組の生徒達が観劇する回は事実上の『IS学園の貸し切り』となるのだが。
ほぼ全ての生徒が能は初体験であり、特に海外組のロラン、セシリア、ラウラ、シャルロットは興味津々と言った感じだったのだが、公演が始まると独特な雰囲気に一瞬で魅了されてしまった。
今、此の現実で行われている筈なのに、この世のモノではないのではないかと錯覚してしまうような奇妙な感覚――能の持つ独特な『幽玄』の世界に一瞬で取り込まれてしまったのである。
能の舞は、歌舞伎や白拍子にはない『妖しさ』が存在しており、其れがまた観客を魅了して取り込むモノなのだ――そして観劇後、ロラン達海外組は見事に幽玄の世界の妖しい魅力にやられていた。
「これが能か……話には聞いていたが実際に見ると、なんとも言えない独特な雰囲気に呑まれてしまったよ――普通の舞台劇とは違う『何か』を感じたよ。
其れが何かを説明するのは難しいのだが、此の世のモノとは思えない不思議な美しさを感じた……そして演者が被っていた面も不思議な感じがした。」
「これが幽玄ってモノなんだろうな。
演者が被ってた面は『能面』て言ってな、能面は見る角度によって『喜怒哀楽』の全てが表現出来るように作られてるらしい――尤も、其れを完全に表現するには一流の能面職人と能の演者が必要になるけどな。
因みに、今回使用されたのは一般的な能面だけだったけど、能面は他にも翁と媼、姥、樒ってのが存在するらしい。でもって樒の面は『化け物』を表現する際に使われるんだが、『しかめっ面』の語源になったとも言われているんだ。」
「しかめっ面の語源になったとは、樒の面はきっと凄い顔をしているのだろうね。」
何とも言えない幽玄の世界を堪能した一組の一行は、その余韻を残したまま本日最後の目的地である八坂神社にやって来ていた――その道中のバスの中ではバス移動の定番であるカラオケ大会が初日同様に行われて、今回は秋五とセシリアがデュエットしたHigh
and Myty Collarの『遠雷』が夏月と静寐がデュエットした同じくHigh and Myty Collarの『Pride』を超える高得点を叩き出して見事に優勝していた。
セシリアの歌唱力も見事だったが、秋五が男性パートのラップ部分を完璧に歌い上げたのも大きいだろう――夏月&静寐も同じ状態だったのだが、夏月が男性のラップパートで本家を再現し過ぎたのが逆にマイナスになってしまっていた。カラオケで高得点を出すには、似たように歌うのではなく歌詞を正確に歌うのが大事なのであろう。
そんな感じで到着した八坂神社は、『縁結びの神社』としても有名なのだが、学園に二人の男子である夏月と秋五には既に厳しい選定の末に選ばれた多数の『嫁』が存在しており、今からその二人の何方かの嫁となるのは可成りのムリゲーなので、嫁ズ以外の生徒は『良縁がありますように』との願いを持ってして参拝していた――既に国家代表クラスが嫁ズになっているところに、自らも日本の国家代表候補生となって飛び込んで行った静寐、神楽、ナギ、清香、癒子、さやかの方がぶっ飛んでいると言っても過言ではないのだ。
参拝後は運試しでおみくじを引いたのだが――
「吉ですか、此れは悪くありませんが……恋愛運は『良縁なし。特に縁談は避けるべし。』って、此れはどう考えても吉の運勢じゃないですよね!?私に良い人は中々現れないって言う事ですか!?」
担任である真耶は『吉』だったのだが、細かい運勢の中で『恋愛運』に関しては中々に微妙な結果だった事で少しばかり荒れていた――真耶もソロソロ恋人の一人くらいは欲しいお年頃なので此の結果に対しての此の反応は致し方ないとも言えるのかもしれない。
誤解がないように言っておくと真耶は決してモテない訳ではなく、代表候補生時代は男性ファンも多数存在しており、『近接戦闘型ではない』と言う至極下らない理由で国家代表になれなかった際にはファンの男性達が国際IS委員会の日本支部のホームページに抗議の書き込みを多数行い、更には其の中に存在していたハッカーによってホームページがクラッキングされると言うちょっとしたサイバーテロまで起きていたのだ……事態を重く見た日本支部は、真耶を国家代表にはしなかったモノの国家代表にアクシデントが発生して試合に出場出来なくなった際のピンチヒッター、いうなれば『国家代表補欠』とも言うべき扱いにして一応の鎮静化をしたと言う事があったのだ。
事件の発生理由があまりにもアレなので事件が公にされる事はなく、この話は都市伝説化しているのだが、其れほどまでに真耶の人気は高いので引く手数多とも思えるのだが、逆に真耶に交際を申し込むのは男性側が委縮してしまっていたのだ。
IS操縦者としての確かな実力があり、童顔な眼鏡美人でありながら凶悪なほどの胸部装甲を搭載していると言う其のギャップ、其のギャップがまた真耶の魅力を引き出しており、結果として男性は『俺って此の人に相応しいのだろうか?』と思ってしまい、場合によっては声を掛ける事すら出来なかったのだ。
加えて真耶自身があまり自分から仕事以外で男性と関わる事はしないと言うのも原因と言えるだろう。
「山田先生、恋愛運に関しては中々厳しいみたいっすけど大丈夫だと思いますよ?
もしも本当に彼是全部ダメになったとしても、最後の手段として……『秋五の嫁になる』って言う最終手段にして最後の切り札が残されてますから!だから悲観しないで下さい!」
「ふえぇぇ!?い、一夜君!?織斑君は、その生徒なんですが!?」
「そうだよ夏月、何言ってるんだい君は!?」
「何を言っているだと?
既にナターシャ先生が嫁になってるお前が言うか秋五!俺の嫁は全員IS学園の生徒だが、お前の嫁は生徒どころか教師もいるだろうが!だからこの際山田先生が増えたところで問題ねぇだろうが!
つか、俺の方はもう定員が一杯なんだよ!ダリル先輩の嫁も居るモンでな!!」
「言われてみればナターシャ先生は織斑君の婚約者になっていましたね……ならば確かに私が立候補しても問題はないのでしょうか?此れは少し真剣に考えてみる必要があるかもしれません……」
「考えなくていいですよ山田先生!?」
「むぅ、秋五の嫁が増える事に関しては秋五が認めるのであれば異を唱える気はないが、山田先生が加入するとなると少しばかり考えてしまうな?山田先生が加入したら、私の最大の優位性が失われかねんからな。」
「山田先生、秋五は胸が大きな女性が好きなんで大丈夫です!」
「待って夏月、勝手に人の性癖捏造しないで!?いや、勿論嫌いじゃないけどだからって特別好きって訳でもないからね!?」
其処から夏月の悪乗りによるちょっとしたドタバタコントが展開されたのだが、其れは最終的には真耶が秋五に『本当に良縁に恵まれなかった時にはお願いします』と言って頭を下げ、秋五もそこまで言われたのを無碍には出来ないので、『その時は、はい』と答えていた。
尤も秋五自身も真耶には『尊敬出来る先生だ』との感情を持っていたので、真耶が嫁ズに加入しても特に問題はないだろう。
「ねぇ秋五、僕もう泣いても良いかな?」
「シャル……逆に此処まで来ると強運なんじゃないかな?」
そんな八坂神社にて、シャルロットは初日の奈良公園のおみくじに続いてまたしても『大凶十連続ドロー』と言う結果になっていた――大凶なだけに細かい運も中々に最悪だったのだが、恋愛運に関してだけは良い結果だったので其処は秋五の嫁である事がプラスになったのだろう。
因みにシャルロット以外の秋五の嫁ズとは全員が中吉以上と言う良運であり秋五自身は中吉で、夏月と嫁ズは全員が『大吉』と言う結果で、夏月に至っては『一万本に一本』と言われている『プラチナム大吉』を引き当てていたのだった。
此のアルティメットレア級のくじ結果を写真に撮ってSNSにアップした結果、滅茶苦茶バズって夏月のフォロワーも激増する結果となったのだが、其れ以上にバズったのがヴィシュヌのSNSだ。
京都の名所でクスハと共に撮った写真は『褐色肌の美女と白いキツネと京都の風景がジャストマッチ』、『美少女と動物の組み合わせは最強』等のコメントと共に『一万いいね』を達成してたのだった。
八坂神社を後にした一行は旅館に戻ると、夕食までの自由時間を楽しんだ。
夏月の部屋には他の嫁ズも集まってSwitchを使ってのスマブラでの対戦やトランプの色んなゲームを堪能した――其の際、鈴が持って来ていた『ツイスターゲーム』では当然の如くヴィシュヌがヨガで会得した身体の柔軟性を如何なく発揮して無双していた。
指示的に、『足が背中を越えて肩越しにならないと無理』なポーズであってもヴィシュヌは難なく熟していた――此れは身体の柔軟性だけでなく、『身体の半分以上が足』と言う、ヴィシュヌの脅威の足の長さがってこその事であるのだが。
因みにトランプの『ババ抜き』では鈴が驚きの十連敗と言う結果だった――鈴は感情表現が豊かである反面、思った事が顔に出やすいので、ジョーカーを引いてしまった事が一目で分かるだけでなく、ジョーカーに手をかけた際にも顔に出てしまう事から、ジョーカーを握ったが最後、誰にもジョーカーを渡す事が出来ずに十連敗となってしまったのだった。
ISバトルでは好機と不利が顔には出ないのだが、ゲームではそうは行かないようであった。
そして夕食の時間となったのだが、本日の夕食は『鱧尽くし』だった。
鱧の刺身、鱧の照り焼き、鱧の蒲焼を混ぜ込んだ『鱧のひつまぶし』、鱧の真薯の吸い物と、鱧の美味しさを堪能出来るモノとなっていた――高級食材である鱧がふんだんに振る舞われているのを見ると、IS学園は此の修学旅行に可成りの出費をしたのだろうが、其れでも学園運営には支障がないのだからIS学園の資金力は相当に高いと言っても問題はないだろう。
食事の後は少しばかりの自由時間を経て入浴時間となり、昨日に続いて露天の温泉を楽しんだ――のだが、本日の一番風呂は二組だったので、塀の向こうからは鈴の『巨乳に対する呪詛』が此れでもかと言う位に聞こえて来ただけでなく、『その胸少し寄越せ!』と言う無茶振りも聞こえて来ていた。
「鈴、なんかめっちゃ荒れてない?」
「夏休みの間に、其れまで自分よりも下だったコメット姉妹が急成長してバストサイズを抜かされた事が大分ショックなんだろうな……俺は巨乳も貧乳もどっちもイケる口なんだが、女性にとって胸の大きさってのは相当に大事なモンなのかね?男の俺には分からんが。」
「大事なんじゃないかな?良く分からないけどね。」
取り敢えず『胸の大きさで女性を評価するのは良くない事ですよー!』と言うのは間違いないだろう。
そして入浴タイムが終われば後は就寝するだけなのだが、夏月の部屋と秋五の部屋には他のクラスの嫁がやって来て、就寝時間を越えてもゲーム其の他で大いに楽しみ、そして其のまま同じ部屋で寝る事になったのだった。
――――――
同じ頃、何処にあるかも分からない海底洞窟では――
「ククク……生まれたか!お前達が生まれるのを心の底から待っていたぞ。」
千冬(偽)が生んだ卵塊から次々と子供が誕生していた。
其の姿はカマキリ、モグラ、クワガタ、トカゲと統一感は無かったが、其れは逆に言えば宇宙から飛来した存在は其れだけの地球の生物を取り込んでいると言う事で持った。
更に卵塊から一体だけが生まれてくると言うのは普通ならばあり得ない事だ――カマキリの卵塊からは百匹近い小カマキリが生まれてくるのだから。
ならばなぜ此処の卵塊からは一匹しか生まれなかったのか?――答えは簡単、卵塊の中で生まれた子供達は卵塊の中で殺し合いをして、最後に生き残った一匹のみが生まれて来たからだ。
『より強いモノのみが生きる権利を得る』と言う狂った生存競争を生き抜いて誕生した此の生物達は生半可な強さではないだろう。
「先ずは其の力をもっともっと高めるとしよう……ククク……もっと子供達を増やして其の力を高めねばなるまい……私の子供達が百体を超え、夫々が凄まじい力を得た其の時が終焉の時だ。
私達の侵攻が始まったら、精々足掻いて見せろ……その足掻きは無駄になるだろうがな。」
卵塊から新たな存在が誕生した事を確認した千冬(偽)は、新たに洞窟にいたるところに卵塊を生み出して、己の子供達を量産して行った……束ですら感知出来ない、探知不可能な地球の奥底で、地球にとって脅威となる存在は着々と其の力を増しているのだった。
「私も姿を変えるか……此方の方が人間の世界では動き易いだろうからな。」
更に千冬(偽)は其の容姿を変化させて『織斑千冬』とは全くの別人になって人間社会に溶け込んで人間社会の情勢を掴む心算なのだ――千冬とは似ても似つかない身体となった千冬(偽)――否、『織斑千冬であったモノの慣れの果て』は最悪の暴走を選択したのだった。
To Be Continued 
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