夏月達がIS学園に復学した際に変わった事として、其れまでムーンラビットインダストリー本社で過ごしていたゴールデンウィーク中に夏月とヴィシュヌが高尾山で保護した狐の『クスハ』がIS学園に居ると言う事だろう。
此れまでは『寮や教室にクスハが居たらDQNヒルデが何を言ってくるか分からない』と言う理由からムーンラビットインダストリーで過ごしていたクスハだったが、其のDQNヒルデがIS学園から居なくなった事で学園島に送られ、『夏月パパ』と『ヴィシュヌママ』と共に暮らす事になり、日替わりで一組と三組に居る事になっていたのだった。
そしてゴールデンウィークの時は子狐だったクスハも今では立派な『大人の狐』の身体になっており、突然変異であると思われる二股の尻尾も成長と共に数が増えて今では伝説の妖狐である『玉藻の前』と同じ『九尾』となっていた。


「うぅ~む、雪のような純白の毛並みに九本の尻尾……伝説の妖狐そのものではないか!この尻尾でもふりたい……存分にモフモフを堪能したい!
 夏月よ、お前とヴィシュヌのキツネ……とてもモフモフしているな。」

「ボーデヴィッヒ、お前は何時から天狐の事になるとポンコツと化す忍者になったんだ?」

「いや、ラウラは戦闘時以外は割と普段からポンコツで天然だろう?故に我がクラスに於けるマスコット的存在になっている訳であるし……いや、可愛い動物が好きだったと言うのは確かに意外ではあるが。」

「ウサギってのはキツネに捕食される側であってキツネをモフるモンじゃないと思うんだがなぁ……」


学園にやって来たクスハは、其の愛らしい容姿と束が作った『人語発声装置』を使ったコミュニケーションで学園の生徒のみならず教師の間でも大人気となっており、各種SNSにおけるIS学園の公式アカウントのアイコンも『漫画研究会』のメンバーが書いた『クスハのイラスト』に正式に差し替えられてしまった位なのである。


其れは其れとして、亡国機業が二度目の学園襲撃を行った際に千冬(偽)の受け渡しを妨害した『ブリュンヒルデの信奉者の生徒』と、戦闘に参加した『女性権利団体の残党メンバー』に関して少し触れておくとしよう。
受け渡しを妨害した生徒は、千冬(偽)を暮桜が封印されている区画まで案内し、千冬(偽)が暮桜で出撃した直後にやって来た教師部隊のメンバーによって捕縛され、其の後数日間学園の地下独房で過ごした後に『退学処分』となり学園島から追放された――だけでなく、日本全国の公立私立全ての高校にIS学園での蛮行が通達されていたので一般の高校に編入する事も最早叶わず、最終学歴が『中学卒業』と言う、現代では就職するにしても厳しいモノとなってしまったのだった。自業自得と言えば其れまでかも知れないが。
一方で女性権利団体の残党に関しては束が匿名で送った機体に乗って戦闘に参加した末に全員が学園の教師部隊によって鎮圧されたのだが、『パイロットの生命力をエネルギーとする機体』……端的に言えば『乗ったら最悪死ぬ機体』に乗った事でパイロット達は其の殆どが老婆と化しており、中には絶命してミイラ化した者まで存在してたのだった。
辛うじて老婆化で済んだ連中も、軒並み生命力を限界まで使い切ってしまった事で数日の内に全員が『二十~四十代で老衰で死亡する』と言う、普通ならば有り得ない最期を迎える事になったのである。

また、学園の教師として赴任したスコールと、学園の警備員として着任したオータムに関しては、此れは束が学園に働きかけただけでなく、スコールとオータムが自身を学園に売り込んだと言うのも大きかった。
亡国機業は謎の多い組織ではあるが、兵力、財力、権力等々有している力は大きいので、IS学園としても亡国機業との繋がりが出来るのはメリットの方が大きいと考えてスコールとオータムを雇う事にしたと言う背景があるのだ――束としては、自分が予測した『騎龍が必要になる世界』になってしまった場合、IS学園が前線基地になる可能性が高いので、オータムとスコールを配置しておいた方が良いと言う思惑があったのだが。


「夏月、クスハが覚えている技はなんだ?『かえんほうしゃ』、『だましうち』、『あやしいひかり』、『おにび』か!」

「いや、ポケモンのキュウコンじゃねぇから!
 仮に束さんが何らかの方法でポケモン的な技を覚えさせたとしたら、公式で覚えられる技設定とかガン無視して『せいなるほのお』、『なみのり』、『10まんボルト』、『あやしいひかり』または『ほろびのうた』って構成になるから。」

「その技構成は炎タイプの弱点を補える見事な技構成だな!」


取り敢えず現在のIS学園は平穏無事其の物であった。
尚、千冬(偽)に関しては学園での戦闘終了後に束が『白騎士事件の真相』と三年前の第二回モンド・グロッソに於ける『織斑一夏誘拐事件』の真相をネットや各種メディアに暴露した事で『ブリュンヒルデ』の幻想は完全に崩れ去り、一転して千冬(偽)に対しての非難が殺到する事になり、『ブリュンヒルデの伝説』は幻想の産物として葬られ、逆に千冬(偽)には『日本が恥ずべき稀代の犯罪者』との烙印が捺される事になったのだった。










夏の月が進む世界  Episode68
『修学旅行PartⅠ~古都を存分に楽しめ~』










亡国機業の襲撃があったので体育祭は中止となったのだが、体育祭の後のイベントである一年生の修学旅行は予定通りに行われる事となり、IS学園の一年生達はモノレールで本土に移動した後にバスで東京駅まで移動し、其処から新幹線で奈良に向かっていた。
バスでの移動ならば車内でカラオケ大会と言う事も出来たのだが、新幹線では其れは出来ないので生徒達は奈良の到着するまで座席に座っている以外の選択肢は無かったのだが――


「なんか動きが悪いな?若しかして手札事故やっちまったのか?だとしたらご愁傷様としか言えないんだが……」

「『好きなカードでデッキを組む』と言う縛りを入れてみたが、おかげで個性的なコンボが見れて楽しいモノだね……結束で起動砦のギア・ゴーレムの守備力を一万まで上昇させた上で攻守を逆転してからのリミッター解除、そしてダイレクトアタックのコンボには少し胆を冷やされたさ。」


一年一組の生徒が乗る車両では、『e-スポーツ部』所属の夏月とロラン、顧問の真耶によってスマートフォンゲームの『マスターデュエル』を使ったデュエル大会が開催されて移動中の退屈を解消していた。
『女子高生が遊戯王?』と思うだろうが、IS学園の生徒は『e-スポーツ部』の各種大会での活躍を見てゲームを始めるモノも少なくなく、通じて遊戯王を始めた生徒も割かし多く、学園の売店でも遊戯王カードの取り扱いを始めたくらいなのである。なので大会は可成り盛り上がっていた。
デュエル大会は三ブロックに分かれたトーナメントで、トーナメントの優勝者は夫々のブロックのボスである夏月、ロラン、真耶に挑む権利を得て、ブロックボスに勝利する事が出来れば見事『マスターデュエリスト』の称号を得て、賞品である『ホログラフィックレア仕様の初期版イラストの青眼の白龍』、『シークレット仕様の初期版イラストのブラック・マジシャン』、『シークレットレア仕様の初期版イラストの真紅眼の黒竜』の『初代御三家超レアセット』+『学食スウィーツ無料券十枚組』を手に入れる事が出来るのだが、既に大会は三巡して居るにも関わらず、未だにブロックボスを突破する者は存在していなかった。

夏月のデッキは『攻撃振りの青眼デッキ』、ロランのデッキは『満足しかないハンドレスデッキ』、真耶は『直焼き上等真紅眼デッキ』となっており、何れのデッキも手札によっては一ターン目で詰みとなるだけでなく、真耶のデッキは先攻での焼き殺しすら可能なデッキだったのだ――故に、此のボスの牙城は中々崩す事は出来ず、結局奈良到着までにブロックボスを撃破する生徒は現れなかったのだった。
其れでも三巡した大会で最も成績の良かった上位三名に『敢闘賞』として成績一位の生徒に『青眼の白龍のカードと学食スウィーツ無料券四枚』、二位の生徒に『ブラック・マジシャンと学食スウィーツ無料券三枚』、三位の生徒に『真紅眼の黒竜と学食スウィーツ無料券三枚』が送られていた。
因みにクスハは『夏月パパとヴィシュヌママと一緒に行きたい』と言って聞かなかったので、伝説の呪文『ぬいぐるみ』を使った上でヴィシュヌが連れて行く事になった――男性が大きなぬいぐるみを抱えていると言うのは中々に不気味なのでヴィシュヌが連れて行く事になったのは妥当と言えるだろう。
尤も『ぬいぐるみ』は車内限定なので其れ以外の場所では普通に動けるのだが。


奈良到着後、先ずは団体行動となるのでやって来たのは修学旅行定番の『奈良公園』だった。
数多くの鹿が観光の目玉となっている奈良公園だが、此の時期の雄の鹿は角を切り落とされている状態だった――五月頃ならば『袋角』、『パイプ角』と呼ばれる角が成長途中の状態なので雄は角付きなのだが、夏が過ぎて秋に入ると角が育って研ぎ始めて鋭くなって危険なので切り落とされるのだ。
だが奈良公園の雄鹿は最早『角の立派さでは雌の気を引く事は出来ない』と悟っており、角なしの頭での頭突き合戦で雌雄を決する事になっており、『角の立派さで決まる鹿』よりも可成り原始的な力勝負での雌の獲得を行う事になっていたのだ。


「鹿せんべい……夏月、此れは人間も食べる事が出来るのかい?」

「材料は人間が食っても害がないモノだから食べても大丈夫だが食べても多分旨くはないぜ?味はないし、普通のせんべいと比べると食感もボソボソだろうからな。」

「ふむ……鹿せんべいの材料は何なのかな?」

「ふすま。分かり易く言うなら米ぬかをメインにした穀物の殻だな。」

「うむ、其れは確かに美味しくはないだろうね。
 で、何故に君と織斑君には雌の鹿が群がっているのかな?」

「其れは俺と秋五が聞きてぇっての……オイ秋五、天才なら何でこんな事になってるのか分析して説明しろ。俺にはマッタクもって意味が分からん。」

「え~っと……多分だけど、君と僕は『織斑計画』で誕生した『最強の人間の量産型』で、其れはある意味で『最強の生物』とも言えるから、『種の保存の為により優秀な遺伝子を求める野生動物』からしたら魅力的な存在なのかな?」

「なんじゃそりゃ……」


其の一方で夏月と秋五は雌の鹿に囲まれていたのだが、其れには夫々の嫁ズが『私の旦那に何してんの?』と言わんばかりの殺気をぶつけて雌鹿達を退散させていた……臨海学校の時も夏月は雌のイルカに囲まれていたので秋五の仮説はあながち間違いとは言えないのかもしれない。
奈良公園は鹿だけでなく、見るべき歴史的建物も少なくないので、其れを見学しながら、途中にある社務所で破魔矢を買ったりおみくじを引いたりして奈良公園を目一杯楽しんだ。
夏月組と秋五組も社務所でおみくじを引いていた。


「お姉ちゃん吉か。私も吉だね。」

「おぉ、大吉だ。」

「僕も大吉だね。」


其の結果は夏月と秋五、簪と箒が『大吉』、ロラン、ヴィシュヌ、セシリア、ラウラ、静寐が『中吉』、鈴、乱、神楽、ナギ、清香、癒子が『吉』、コメット姉妹、さやか、夏月の嫁の嫁であるフォルテが『小吉』と言う結果に。


「シャルは如何だったの?」

「秋五……僕はねぇ……なんと大凶だったよ。」


他の面々は中々に良い結果だったのだが、シャルロットはまさかの『大凶』を引き当ててしまっていた――『凶』ですら中々引く事が出来ない事を考えると、『大凶』を引いたシャルロットはある意味では凄まじい『強運』の持ち主と言えなくもないのだが、『大凶』を引き当ててしまったと言うのは気分的は決して良いとは言えないだろう。


「あ~……その、なんだ……流石にアレだからもう一回引いてみちゃどうだデュノア?」

「うん、僕もそう思う。この結果が後々尾を引いてもいけないと思うからね。」

「うん、僕もそう思って引き直してみたんだ……でもそれも大凶で、その次も大凶で、引き続けた結果十連続で大凶をドローしちゃったんだよねぇ……其れだけでも大分絶望的なのに細かい運勢では十枚全てで無くし物が『見つかりません』、『出ないでしょう』、『諦めるが吉』って如何言う事さ!?
 僕って此処までの凶運の持ち主だったの!?」

「シャル、其れは……」

「極度の腹黒が原因かもな……まぁ、日本には『災い転じて福となす』って言葉もあるから、十連続で『大凶』だったからって悲観する事もないだろ?逆に言えば十連続で大凶を引いちまったって事は最悪は使い尽くしたとも言える訳だから此処からは浮上してくだけって考える事も出来る。
 物事は前向きに捉えた方が上手く行くモンだぜ。」

「アハハ……確かにそうかもしれないね……」


加えてシャルロットは十回も『引き直し』を行っていたにもかかわらず『十回連続で大凶を引き当てる』と言う、ギネスに申請したらギネス記録に認定されるのではないかと言うレベルの『凶運』を発揮していた。『狂運』と言っても良いかも知れないだろう。
此れには流石のシャルロットも気分が沈んだのだが、夏月の『最悪は使い果たしだろうから此処からは浮上して行くだけだ』との言葉を聞いて気分的に持ち直して奈良公園を楽しんだのだった。

奈良公園を後にした一行は観光バスで京都まで移動する事になり、移動中のバス内では全てのクラスで『カラオケ大会』が開催され、特に一組のバス内では白熱したカラオケバトルが展開されていた。
夏月と夏月の嫁ズのデュエットと、秋五と秋五の嫁ズによるデュエットが高得点を叩き出していたのが主な要因であり、今もまた秋五と箒が『楽園』をデュエットして本日の最高得点となる『九十八点』をマークしていた。
そして続いては夏月とロランのデュエットなのだが、夏月とロランがチョイスしたのは『桑〇佳祐&Mr.children』による名曲『奇跡の地球』で、桑〇パートを夏月が、Mr.childrenのボーカルである〇井パートをロランが担当し、その見事なデュエットはバス内に響き渡り、終わってみるとまさかの百点満点を記録して完全勝利をマークしていた。
尚、二組では鈴と乱のデュエットが無双してぶっちぎりの一位を獲得し、三組ではコメット姉妹が現役アイドルの力を遺憾なく発揮して無双しただけでなくヴィシュヌが日本の名曲をタイ語で歌い上げると言う凄技を披露し、四組では簪がアニソンをメインに高得点を叩き出して無双していた。


そんなこんなで一行は京都の『平等院鳳凰堂』にやって来ていた。
十円硬貨にも刻まれているので名前は知らずとも其の見た目は日本国民には『十円玉硬貨のデザイン』として広く認知されており、現地にやって来た生徒の多くは財布から十円玉を取り出して本物と見比べていた。
夏月も御多分に漏れず財布から十円玉を出していたのだが……


「夏月、其の十円玉すっごくピカピカだけど、若しかして新しい十円玉?」

「そう思うだろうが違うぜ静寐。
 聞いて驚け、此の十円玉はなぁ……昭和六十四年の十円玉だ!」

「「「「!!!」」」」


其の十円玉はピカピカの状態であり、見た目は今年発行されたばかりの十円玉其の物なのだが、なんと此の十円玉は昭和六十四年発行の十円玉だったのだ。
昭和六十四年は僅か七日間しかなかった年号であり、その期間に発行された硬貨は其れだけでも貴重と言えるのだが、其れが新品同然の状態で存在しているとなれば驚くなと言うのが無理な話だ。


「何処で手に入れたんだい?」

「いや、普通に買い物したお釣りで貰ったんだけど、妙にピカピカしてるから新しいのかなと思って年号見たら昭和六十四年だったから俺も驚いた――で少し光沢が鈍りかけてたからクリームクレンザーで磨き上げたら見事な光沢が復活したって訳だ。
 そんでもって錆びさせるのは勿体ないから定期的に磨いて光沢が失われないようにしてんだよ。」

「つまり物凄いレアな十円玉と言う事ですね。」


まさかの夏月のレア十円玉のお披露目となったが、平等院鳳凰堂の見事なシンメトリの造りは実に美しく、学園の生徒達は暫し歴史の偉大な建造物を心行くまで楽しみ、最後は平等院鳳凰堂をバックに集合写真を撮ってターンエンド――夫々が自由にポーズを決めていい集合写真ではあったのだが、何を思ったのか夏月と一組の夏月の嫁ズは『ギニュー特戦隊』のポーズをとって、其れに対抗心を燃やしたラウラの提案で秋五組は『黒蠍団招集』のポーズを決めると言う中々にシュールでカオスな集合写真となっていた。
其れを咎める事なく、自身も『私立ジャスティス学園』の『鏡恭介』の勝利ポーズである『馬鹿の一つ覚えってやつだな』をやっていた真耶はノリが良く、しかし〆る時はキッチリ〆るメリハリがあり親しみやすさもあるので修学旅行に於ける生徒の多少の嵌め外しには寛容なのだろう――ノリが良いが、〆る時は〆る、決して怒らないが正しく叱ってくれる真耶は教師の鑑と言えるだろう。


平等院鳳凰堂を後にした一行は京都の商業施設にて昼食を済ませた後に修学旅行中お世話になる旅館に到着した。
京都でも老舗である其の旅館は『和』の情緒が散りばめられており、客室は全室畳張りの和室となっているだけでなく、大浴場は男女は別れているとは言え露天であり、その露天風呂も『和』の情緒を大切にしたモノだったのだ――尤も遊戯コーナーだけは『和』の情緒だけでは構築出来なかったので、筐体型のゲームも多数存在しているのだが、其れは致し方ないだろう。

旅館に到着したのは夕方であり、夕食までは自由時間となったので先ずは班別に割り当てられた部屋に向かって行った――部屋割りは同クラスであり同班のメンバーなので、夏月は一組の嫁ズ(ロラン、静寐、神楽、ナギ)と同室だったのだが、秋五は嫁ズがオニール以外は全員一組と言う状態だったので揉めに揉めた末に平和的にじゃんけんで班を決める事になり、其の結果として秋五と同じ班になったのは箒、セシリア、ラウラ、清香、癒子であった。
因みにじゃんけんバトルは箒が剣道で鍛えた動体視力を武器にして相手の出す手を拳の握り方から予想すると言う方法で連続あいこの末に勝利を収めると言うトンデモナイ事をやってくれていたのだった。


「畳張りの純和風の部屋か、悪くないな。」

「畳に布団、私にとっては憧れのモノだね。」


部屋にはお湯の入ったポットと『抹茶のティーパック』、そして個包装の生八つ橋が『もてなし』として置かれていたので、夏月達は先ずは其れで一息吐いてから夕食時間までスマホゲームのオンライン対戦や遊戯コーナーでのゲーム対戦を楽しんだ。


「うぅむ……私は『九』の牌を捨ててリーチだ!」

「此処でリーチを掛けて来たかロラン……だが其れはロンだ!
 そして俺が作り上げたのは、『一生に一度見る事が出来る事が出来るか』、『此れが揃ったらロンでもツモでも相手は死ぬ』と言われている麻雀に於ける最強の手牌、発生率0.0005%の『九蓮宝燈』だぁぁぁ!!」

「な、なんだってぇ!?」


その遊戯コーナーの雀卓では夏月、ロラン、静寐、神楽が麻雀対決を行っていたのだが、三連敗していた夏月が四戦目で土壇場の『九蓮宝燈』をロン上がりで決めて他者を一気に滅殺していた――九蓮宝燈ーと言う最強の手牌をロンで揃えた夏月の得点は凄まじいので、此れにて夏月がトップになっただけでなく、他者のポイントも根こそぎゼロにして夏月は文字通りの完全勝者となったのだった。


「負けてしまったか……麻雀で負けた時は服を脱がねばならないのだったかな?確か麻雀ゲームで勝った時には負けた相手が服を脱いでいたと記憶していたのだが?」

「いや、其れはゲームの中だけだからな!?つーか誰だよ部室に脱マーのソフト持って来やがったのは……少なくとも学校でやるモンじゃねぇだろうが。」

「そう言えば前にネットで見た事があるのですが、今から二十年以上前のゲームセンターにはその手のゲームが普通に置かれていて誰でもプレイ可能だったそうですよ?」

「倫理観仕事しろぉ!
 思春期の男子には悪影響しかねぇわ!!」

「尤もその頃は格闘ゲームが全盛期であり、ストリートファイターシリーズやKOFシリーズの対戦台が盛り上がっていた時期なので、其の手のゲームをプレイしていたのは格闘ゲームが下手な大人達だったようですが。」

「リュウと草薙京が思春期男子への悪影響を防いでたのか……」


其の後、他クラスの夏月の嫁ズも遊戯コーナーにやって来て夏月達とゲームを楽しみ、更に其処に真耶も加わって改めて麻雀が行われたのだが、何と真耶が此処で『哲也-雀聖と呼ばれた男-』の主人公である『阿佐田哲也』もビックリの麻雀テクニックを披露して夏月の嫁ズのみならず夏月にも痛烈なハコ(点棒枯渇の意)を喰らわせていた。
強上がり役を揃えるのは当然として、ダブル役満、トリプル役満を決めた挙句に九蓮宝燈をも超える出現率0.0003%の『輪廻転生しても拝む事が出来るかどうか分からない』と言われている麻雀に於ける幻の役である『天和(自分が親の時、配牌時の14枚で既にアガりの形=和了形が完成している場合に成立)』を決めた際には夏月が五百円玉を投げて柏手を打ったくらいだったのだ。


「真耶先生……いっそプロ雀士になっては如何でしょうか?ぶっちゃけ此れだけの腕があればギャンブル漫画の主人公にも勝てるんじゃねぇかって思ってる俺が居るんですわ。」

「夏月君、麻雀は遊びの範囲で楽しむから良いんですよ……プロ雀士になったらISの代表候補生時代に培った動体視力其の他諸々を用いて相手の手牌とか高速イカサマも可能ですからね。
 やろうと思えば多分ツバメ返し位なら余裕で出来ると思います。」

「房州さんの奥義を余裕で……やっぱり真耶先生は最強だわ。」


真耶の雀士としての腕が凄まじい事は証明されたところで夕食となり、クラスごとに『大広間』にて夕食となったのだが、其の夕食のメニューが中々に凄かった。
白米と澄まし汁は兎も角として、其れに『天婦羅の盛り合わせ』、『生湯葉の刺身』、『落とし鱧の梅肉和え』が加わった超豪華な膳となっていたのだ。
特に天婦羅は山海の珍味を盛り込んでおり、『ボタンエビ』、『天然モノのマイタケ』と言った高級食材がふんだんに使われていたのだが、中でも驚かされたのは『フグの肝の天婦羅』だった。
フグの毒がある部分は『肝』なので其処は絶対に食べる事が出来ないとされていたのだが、フグの毒は『毒を持つ餌を食べる事で体内に蓄積するモノ』なので、完全養殖で毒のない餌で育ったフグはマッタクもって毒はなく、『フグ毒』の在処である『肝』も無毒なので食す事が可能になっていたのだ。


「フグの肝……なんと美味な。
 此れは世界三大珍味と言われているフォアグラをも超える美味ではないのではないかと思うのだが君はどう思う夏月?是非とも、料理が得意な君の意見を聞かせて欲しい。」

「うん、普通にフォアグラ越えてんな此れ。
 もっと言うならフォアグラよりも濃厚なら上って言われてるあん肝も超えてるだろ此れ?養殖数が少ないからまだまだ貴重品だが、養殖が広がればフグの肝は『幻の珍味』から『大衆向けの珍味』になるかもだな。」


その夕食に舌鼓を打った後は一時間の食休みを挟んだ後にクラス別の『お風呂タイム』となり、初日は一組からだったので、一組の生徒は露天風呂の一番風呂を貰う事になり、夏月と秋五は臨海学校以来となる二人きりのお風呂タイムと相成ったのだった。


「君と一緒にお風呂って言うのは臨海学校以来だね。
 まぁ、其れは別に悪くはないんだけど……夏月、君は織斑千冬――いや、姉さんの身体を乗っ取った奴が此の前の戦いで完全に消滅したと思うか?最後の一撃を放っておいて言うのもなんだけど、僕はアレでアイツが消滅したとは思えないんだ。」

「まぁ、多分だけどアイツはまだ生きてるだろうな。流石に今は生きてたとしても戦闘不能状態だとは思うが。」


其処で秋五は『千冬(偽)』が生存している可能性を夏月に言及したが、夏月はアッサリと『千冬(偽)』は生きているだろうと言って来た――夏月は羅雪から千冬(偽)の人格の詳細も聞いていたので、『千冬(偽)が死にそうになったその時はどんな手段を使ってでも生き延びるかもしれない』と言う事を聞いており、其れを踏まえて『千冬(偽)』はまだ死んでいないと考えたのだった。


「アイツはまだ生きてる可能性が高いか……だとしたら――」

「今度アイツが俺達の前に姿を現したしたその時は、今度こそ欠片も残らないレベルで滅殺してやるだけの事だぜ――あんな災厄でしかない存在は此の世から永遠になくなってしまった方が世の為人の為なんだからな。」

「それは……確かにその通りだね。」


千冬(偽)が生きていて何かをして来た其の時はその都度対処するしかないのだが、夏月だけでなく秋五もまた次に千冬(偽)と対峙した其の時は一切の容赦無く斬り捨てる覚悟を決めていたのだった。

そうしてお風呂タイムが終わって部屋に戻った夏月と秋五だったのだが、其処では夫々の同室の嫁ズが『浴衣をはだけさせて上気した顔で誘って来た』ので『据え膳食わぬは男の恥』とは思ったモノの、修学旅行先の旅館ではとギリギリ思い留まり彼女達を説得して普通に寝る事に成功した夏月と秋五であったのだった。








――――――








夏月達が修学旅行を楽しんでいた頃、マリアナ海溝の更に深い場所にある海底洞窟から入った地下のドーム空間では宇宙から飛来した宇宙生物と融合した千冬(偽)が産卵を行い、『カマキリの卵塊』に似たモノを複数生み出していた。


「ククク……この卵が孵り、子供達が育った其の時が貴様等の終焉の時だ……暫し、束の間の平和を謳歌するが良い――其の平和の先に待っているのは地獄以外のナニモノでもないのだからな!!」


其処で千冬(偽)は人でなくなった姿で勝利を確信していた――卵塊から生まれたばかりの子供達は非力で無力だが、其れでも半月もあればIS学園と遣り合う事が出来るだけの力を身に付けるだろうと考えていたので、卵が孵り無数の子供達が生まれればその望みは叶うのかもしれない。


「さて、此処に来るまでに可成りの種類の生き物を吸収した訳だが、果たしてどんな姿の子供達が生まれて来るのか……楽しみだ。」


こうして千冬(偽)の悪意は誰に知られる事もなく卵塊と言う形で増えて行き、少しずつ、しかし確実に増殖・増幅して其の力を蓄えているのだった――








 To Be Continued